あるときふと、あれだけ怖かったターフの上を走ることがちっとも怖くないことに気づいた。
ダートより硬く、それだけ反発と衝撃が強い感覚。何年ぶりかはさっぱり思い出せなかったけれど。
とにかく感動した僕は、トレーナーのところに行ってそれを伝えた。僕はもう硬いバ場も怖くないんだって。
トレーナーはまるで我が事のように喜んで、じゃあ芝のレースに行ってみるか、と言った。そんな気がする。
ダートより硬く、それだけ反発と衝撃が強い感覚。何年ぶりかはさっぱり思い出せなかったけれど。
とにかく感動した僕は、トレーナーのところに行ってそれを伝えた。僕はもう硬いバ場も怖くないんだって。
トレーナーはまるで我が事のように喜んで、じゃあ芝のレースに行ってみるか、と言った。そんな気がする。
それから、芝に慣れるためにたくさん練習をした。ジョグ、ペースキープ、ビルドアップ、いつもの坂路。
併走も今までより色々な相手とできた。ゴルシちゃんとか、マックイーンちゃんとか。あとは……誰だっけ。
まあ、僕はヒトの顔や名前を覚えるのが苦手だし。とにかく色々だ。おかげで実力はぐんぐん伸びた。我ながらこんなに伸びしろがあったとは思わなかったけれど。
併走も今までより色々な相手とできた。ゴルシちゃんとか、マックイーンちゃんとか。あとは……誰だっけ。
まあ、僕はヒトの顔や名前を覚えるのが苦手だし。とにかく色々だ。おかげで実力はぐんぐん伸びた。我ながらこんなに伸びしろがあったとは思わなかったけれど。
何週間も、何ヶ月も練習をして。気がついたらG1レースに出ることになっていた。
天皇賞・春。最長距離のG1レース。なるほどスタミナが一番の取り柄である僕にはもってこいのレースだろう。
あれよあれよと言う間にゲートに入る。あれ? パドックはどうしてたっけ。まあ良いか。多分18番人気とかだろう、ダートウマ娘だったのだし。
とにかく、ゲートが開くのを今か今かと待ち構える。意識が漂白されるような、集中で時間が引き伸ばされるような感覚。
天皇賞・春。最長距離のG1レース。なるほどスタミナが一番の取り柄である僕にはもってこいのレースだろう。
あれよあれよと言う間にゲートに入る。あれ? パドックはどうしてたっけ。まあ良いか。多分18番人気とかだろう、ダートウマ娘だったのだし。
とにかく、ゲートが開くのを今か今かと待ち構える。意識が漂白されるような、集中で時間が引き伸ばされるような感覚。
ゲートが開く。ぼやけた視界に光が射した瞬間に、するりと走り出す。僕は加速が苦手なんだから、スタートの間隙は最短に。最高の駆け出しだ。
さあ全力で逃げ出そう。あれ? ファル子ちゃんが居ない。ああそうだ、あの子はダートだっけ。なんだか調子が狂うから、前を逃げる子……誰だっけ。その子の後ろで先行策に切り替える。
意識が白む。前を走る子と僕だけが居る。ああ違う、後ろにもいっぱい居るんだった。うん。でも、後ろに意識を向けると集中力が切れる。とにかく前を見て、ペースを保って走ろう。
さあ全力で逃げ出そう。あれ? ファル子ちゃんが居ない。ああそうだ、あの子はダートだっけ。なんだか調子が狂うから、前を逃げる子……誰だっけ。その子の後ろで先行策に切り替える。
意識が白む。前を走る子と僕だけが居る。ああ違う、後ろにもいっぱい居るんだった。うん。でも、後ろに意識を向けると集中力が切れる。とにかく前を見て、ペースを保って走ろう。
……あ、あと1,000メートル。そろそろスパートをかけないと。芝だしもうちょっと長くても良かったかもしれない。身体を前に傾けて、重心より後ろに足をつく。
蹄鉄が硬い芝を打つ。ブーツのヒールがそれに続いて、一瞬の着地のあとに飛び上がる。そのまま身体全体を跳ね飛ばせて前進する。勝負服も相まって兎みたいだとか、トレーナーは言ってたっけ。
蹄鉄が硬い芝を打つ。ブーツのヒールがそれに続いて、一瞬の着地のあとに飛び上がる。そのまま身体全体を跳ね飛ばせて前進する。勝負服も相まって兎みたいだとか、トレーナーは言ってたっけ。
跳ねる、跳ねる。そのたびに前の子との距離が縮まる。2バ身、1バ身と半分、1バ身。
ついにはアタマ、クビ、ハナ差になって僕が先頭。誰もいない世界。今僕はこのレース場で一番自由に走ってる。
凄く良い気分だけど、それも長くは続かない。何せレースはもう残り2ハロンも残ってない。ゴール板が見えている。残念だけど仕方がない。間違っても負けないように、更に更に飛ばないと。
蹄鉄が芝を抉る。ますます体勢を下げ、重心を前に、前に。もっと速く、もっと強く。さあ、もうゴールは目の前だ。
ついにはアタマ、クビ、ハナ差になって僕が先頭。誰もいない世界。今僕はこのレース場で一番自由に走ってる。
凄く良い気分だけど、それも長くは続かない。何せレースはもう残り2ハロンも残ってない。ゴール板が見えている。残念だけど仕方がない。間違っても負けないように、更に更に飛ばないと。
蹄鉄が芝を抉る。ますます体勢を下げ、重心を前に、前に。もっと速く、もっと強く。さあ、もうゴールは目の前だ。
その瞬間、小枝を折るような甲高い音が聞こえた。
僕は突如バランスを崩して、頭からターフに突っ込んだ。赤と黒と緑の入り交じる視界が、ぐるぐると回る。
ついに止まったそれは、ターフで横向きになっている。痛くはない、けれど動かない。
俄に恐慌状態になった僕のもとに、血相を変えたトレーナーが駆け寄ってくる。
どうしようトレーナー。身体が動かないんだ。助けてよ、泣いてないでさ。
トレーナー? ねえ、どうしたの? はやく助けてってば……あれ? なんか、暗い? 視界が?
ついに止まったそれは、ターフで横向きになっている。痛くはない、けれど動かない。
俄に恐慌状態になった僕のもとに、血相を変えたトレーナーが駆け寄ってくる。
どうしようトレーナー。身体が動かないんだ。助けてよ、泣いてないでさ。
トレーナー? ねえ、どうしたの? はやく助けてってば……あれ? なんか、暗い? 視界が?
(競走中止)
『もう少しのところで勝利を逃してしまいましたが、次につながる良いレースでしたね』
[⏰コンティニュー] [あきらめる]
👆 TAP!
『もう少しのところで勝利を逃してしまいましたが、次につながる良いレースでしたね』
[⏰コンティニュー] [あきらめる]
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コンティニューはあと0回可能です
「…………」
目が覚めた。朝日も射さない暗闇。ちらりと机のデジタル時計を見れば、深夜と言って差し支えない時間。
「夢か……あー……クソだわ」
明日のことを考えたら寝直さなきゃいけない。でももう眠気もクソもねえよバ鹿。
最悪な気分で再び目を閉じた。
最悪な気分で再び目を閉じた。
「まあ案の定眠れなくて些か寝不足でして」
「とっとと保健室に行ってセラピー受けてこい。俺もついてってやるから」
「とっとと保健室に行ってセラピー受けてこい。俺もついてってやるから」
体力が30回復した
やる気が下がった
「夜ふかし気味」になってしまった ▼
やる気が下がった
「夜ふかし気味」になってしまった ▼