あれから一年と八ヶ月、私は結局何一つ運命を変えられなかったし、一つたりとも勝ち星をあげられなかった。
そりゃあそうだよなぁ。同室とはいえ殆ど話してない相手に突然怪我の心配されても気にするはずがない。挙句面識もない高等部の先輩に何かできるはずもなかった。
そりゃあそうだよなぁ。同室とはいえ殆ど話してない相手に突然怪我の心配されても気にするはずがない。挙句面識もない高等部の先輩に何かできるはずもなかった。
先週の有馬記念をもって、私はデビュー戦とG1一勝、そしてそれ以外の全てのレースで2着を獲ったことで、シルバーコレクターとしてとして最初の3年間を終えた。
ただ、その殆どのレースで私もレコードを更新してることでつけられた「銀の弾丸」って二つ名は、ちょっとカッコよくっていいな、と思った。
かといって引退するというわけでもない。年明けの次のレースに向けて作戦を練らなければ…
ただ、その殆どのレースで私もレコードを更新してることでつけられた「銀の弾丸」って二つ名は、ちょっとカッコよくっていいな、と思った。
かといって引退するというわけでもない。年明けの次のレースに向けて作戦を練らなければ…
…いや。
校舎に行かなければ。
なんでかよくわかんないけど死ぬほど本校舎に行きたい。
事前に外出届け出してないからバレたら完全にアウトってことはわかってる。でも耐え難い。校舎に行きたくて仕方がない。なんか行かなきゃいけない気がする。
事前に外出届け出してないからバレたら完全にアウトってことはわかってる。でも耐え難い。校舎に行きたくて仕方がない。なんか行かなきゃいけない気がする。
「…行くか!」
ここで悩んでても特に何も変わらないし、どっちにしろ行きたすぎて何も考えられないから一回バレて怒られたらいっか!
「やばいやばいやばいやばい(小声)」
夜勤の守衛に見つかった。今全力で逃げてる。
あぁぁぁぁどうしよう。覚悟してたとはいえいざバレると焦る。今からでも逃げるのやめて謝れば許してくれるかな?
ってかどうして校舎の上の階に向かって逃げてるんだ?地上で見つかったんだから寮に帰るとかあるだろうが。普通に追い詰められて終わりじゃねえか何考えてんだ私。
あーあ、もう最上階だよ。終わったな。
あぁぁぁぁどうしよう。覚悟してたとはいえいざバレると焦る。今からでも逃げるのやめて謝れば許してくれるかな?
ってかどうして校舎の上の階に向かって逃げてるんだ?地上で見つかったんだから寮に帰るとかあるだろうが。普通に追い詰められて終わりじゃねえか何考えてんだ私。
あーあ、もう最上階だよ。終わったな。
…まだだ。まだ諦めるには早い。
流石に守衛もウマ娘だけど現役じゃない。ここに辿り着くまであと大体10秒。
どこか、どこか隠れられるような、かつ誰も寄りつかないような場所は…
流石に守衛もウマ娘だけど現役じゃない。ここに辿り着くまであと大体10秒。
どこか、どこか隠れられるような、かつ誰も寄りつかないような場所は…
『…綺麗に掃除されてるなぁ』
そうだ大時計!あの夢で見た通りかは置いといて、少なくともウマ娘一人入れる空間くらいはあるはず!
確かこの辺の梯子から…あった!
確かこの辺の梯子から…あった!
階段を駆け上がる足音が聞こえる。急いで登って入り口を閉めた。
………
「そこのウマ娘!両手を上げてゆっくりとこちらを向け!」
……………
「…そこに居るのはわかっている!大人しく出てこい!」
………
「………………あれぇ?おっかしいなぁ…」
「そこのウマ娘!両手を上げてゆっくりとこちらを向け!」
……………
「…そこに居るのはわかっている!大人しく出てこい!」
………
「………………あれぇ?おっかしいなぁ…」
……危機は去った。時計内部へのアクセスを知らなかったようだ。
改めて大時計の内部を見回す。
…気持ち悪いくらいに夢の中と同じだ。
…気持ち悪いくらいに夢の中と同じだ。
「…綺麗に掃除されてる」
床板の隙間にも埃一つ無い。警備員ですら入らないなら本当に誰の為に掃除されてるんだ?
床板の隙間にも埃一つ無い。警備員ですら入らないなら本当に誰の為に掃除されてるんだ?
裏返しの文字盤に近づく。何か大きな力で、吸い寄せられるように。
「………」
ーーやれる気がする。
右手から大槌を生成しようと、強く念じる。
何も起こらない。
出るはずだ、ともっと強く念じる。
何も起こらない。
気合いを込める。
何も起こらない。
体液から何から何まで、全てを右手に注ぎ込む勢いで力を込める。
何も起こらない。
出るはずだ、ともっと強く念じる。
何も起こらない。
気合いを込める。
何も起こらない。
体液から何から何まで、全てを右手に注ぎ込む勢いで力を込める。
…ピキリ
「ぐぅっ!?」
「ぐぅっ!?」
体力、あるいはもっと大切な何かを持っていかれるような感覚と共に、右手に硬い感触が現れる。
パキパキパキパキパキパキ…
「くあぁぁぁぁ…」
「くあぁぁぁぁ…」
手の隙間から青い炎が漏れ出す。
燃え盛る虹色の結晶は着々とその体積を増やしていき、同時にごっそりと気力を吸い取っていく。
燃え盛る虹色の結晶は着々とその体積を増やしていき、同時にごっそりと気力を吸い取っていく。
…そして遂に、夢で見た通りの大槌を形作った。
「っはぁ!ぜぇ、ぜぇ…」
クッッッッソ疲れた。もう二度とやれない気がする。
…なんで出来てるんだ?
…なんで出来てるんだ?
「……いやマジでなんでこんなこと出来てるんだ??」
私そんな能力持ってた覚えはないんですけど????
ちょっと待ってこの大槌どうなっておっっっっも!?
疲れてるのもあるんだろうけどウマ娘の膂力で微塵も持ち上がらない!なんだこの虹色の水晶!?ってかこんなもん置いてるのになんで床抜けねえの?
ちょっと待ってこの大槌どうなっておっっっっも!?
疲れてるのもあるんだろうけどウマ娘の膂力で微塵も持ち上がらない!なんだこの虹色の水晶!?ってかこんなもん置いてるのになんで床抜けねえの?
…考えてもしょうがないか。
「手早ク済マセヨウ」
今私なんて言った?
「ふゥ…ッ」
私は軽々と、槌の頭が自分の後ろに来るように大槌を動かす。
待ってくれ私は何をしようとしている?まさかガラス破ろうとしてんのか?
駄目だろこんな物壊したら確実に退学どころじゃ済まないだろ!トレセンがこの時計保存するのにいくらかけてると思ってんだ馬鹿か!?
さっさと手を離して、逃げ…手を………
さっさと手を離して、逃げ…手を………
…動かない。
体がピクリとも思った方向に動かない。
体がピクリとも思った方向に動かない。
腰だめに構え、それを叩きつける準備が整った。
本当に何がどうなってる!?まんまと誘導されて完全に乗っ取られてこれじゃ寄生されたカタツムリだ!
動け!動けよ私の身体、ってか止まってくれ!止まれぇぇぇぇ!!
動け!動けよ私の身体、ってか止まってくれ!止まれぇぇぇぇ!!
…抵抗虚しく、彼女の身体は大槌を振るう。
想像がつかないほどの運動エネルギーとその他諸々をもって弧を描く槌は、飴細工のように容易く文字盤を打ち砕く。
彼女の耳を甲高い破砕音が貫こうとした、その時ーー
想像がつかないほどの運動エネルギーとその他諸々をもって弧を描く槌は、飴細工のように容易く文字盤を打ち砕く。
彼女の耳を甲高い破砕音が貫こうとした、その時ーー
ーーー鳴り響く鐘の音に叩き起こされる。
「…夢、だよな?」
夢以外あり得ないよな?
気分が悪い。あんな夢を見たせいか汗が酷いし、シャワーでも浴びるか。
気分が悪い。あんな夢を見たせいか汗が酷いし、シャワーでも浴びるか。
………まさかな。
「……午前0時、LANE通知100件」
…流石にそれはないだろう。寝ぼけた頭によぎる馬鹿げたアイデアを振り払う。
0時ちょうどに鐘が鳴ったのはまだ納得ができる。2年前と同じように誤動作が起こったのだろう。
だがLANEに関しては本当に訳がわからない。何一つ心当たりがない。
レース関連でも最後に出走したのは有馬記念だし、寝る前にメッセージは一通り確認したはずなのだ、が…
0時ちょうどに鐘が鳴ったのはまだ納得ができる。2年前と同じように誤動作が起こったのだろう。
だがLANEに関しては本当に訳がわからない。何一つ心当たりがない。
レース関連でも最後に出走したのは有馬記念だし、寝る前にメッセージは一通り確認したはずなのだ、が…
呼吸すら忘れて視覚情報を処理する。
予想が確信に変わった。変わってしまった。
予想が確信に変わった。変わってしまった。
LANEには、あのホープフルステークスの翌日と全く同じ文言が…否、それ自体が未読として表示されていた。