俺にも、そんなつまらん男だった時代がある……糞じみた記憶を思い出させてくれた、おまえが憎らしくなっただけだ

発言者:ブライアン・マックール(蛆虫)
対象者:角鹿 彰護



何かと思えば……まさか女ごときのためとはな。
存外つまらん男だな、おまえも……

失望したか……?

いや……



“人”として終わっても、それでも(・・・・)止められない想いがある……
ブライアンと角鹿――全ての力を出し尽くし戦いを続け、倒れ込んだ二人の男を朝の光が照らしていた。
互いに致命傷を負っていたが、妖蛆の細胞の再生能力を持たない生身の角鹿の側は、これ以上の闘いは不可能であった。
しかしこのまま静かに死を迎える事を良しとせず、彼は“己の『道具』であるキャロルを、この手に取り戻す”
そのためだけに、最後まで足掻き続けるという選択を選ぼうとする。

その姿に、枯れたブライアンの瞳は何を思ったのか。
楽に死ねる道を閉ざし別のナニカに造り返られる事を躊躇わないのなら……
己の持つ妖蛆の細胞を体に埋め込めば、立ち上がり力を取り戻せると語る。
その提案に強く頷いた角鹿を前にして、ブライアンは―――
“仲間殺し”という禁忌を犯し、裏切りの犯罪者(テロリスト)として誰からも恨み蔑まれる“蛆虫”ではない……
大切な者の為に命を賭す事が出来た、そんな「つまらない男」であった日々を語り始めた。


北アイルランド……民族・階層・宗教―――古くから様々な要素が複雑に絡み合い、
過去からの憎悪と怨念、現在の貧富の隔たりが、人々を果てしない流血と暴力の環へと誘っていた土地。
その片田舎で妻と平凡に生きる事を望んでいた青年――ブライアンは、
村から孤立しないために、止む無く反政府活動の集会へと顔を出す日々が続いていた。

そんな彼は官憲から目を付けられ、仲間の過激派が企てた武器集合計画の自白を強要される。
一週間もの間……留置場で体も心も徹底的に拷問で痛めつけられても、
彼は故郷を愛する妻とこの先も生きる為に、仲間を売らず、決して口を割る事はしなかった


過酷な拷問を耐え抜き、最愛の妻が待つ我が家へと戻った青年は、しかし……


「そこで、仲間たちに犯され続ける女房の姿を俺は見た……
俺が警察に引っ張られた時点で裏切ると思ったんだろう。
争いごとが嫌いな俺は、仲間内で甘く見られているところがあったからな」

「いや……それを口実に、鬱憤ばらしの祭りをやったんだ。
裏切り者のレッテルを貼られた男の女房なら、何をしても許される。
狭い土地だ。人数と権力を傘に白も黒で通せるからな……」

その後。おまえはどうした(・・・・)のか
角鹿の問いに、ブライアンは何の感慨もなく、枯れ切った声で答えた───


「その夜のうちに、全員を殺したさ……一番最初に殺したのは、女房だった」

「あれほど守ると誓ったはずのな。俺は汚れた女房をもう愛することができないと思った。
そして、俺の愛と俺自身とを見限ったんだ」


それが、彼の人としての終焉の時。
そして、守るべき規範を失った蛆虫(・・)としての再誕であった。


―――その後、ブライアンは故郷を離れ……ベルファストにいたところをIRAの過激派に勧誘される。
官憲の拷問に耐え抜いた逸話から組織内では不屈の闘士として称揚され、北アフリカのキャンプで精鋭兵士となる為の訓練を積んでいった。
だが時が経ち、テロリストとして名を馳せるにつれブライアンが過去に行った事件の風評が仲間内に広まっていく。
いかなる悪党や無頼漢の間の間でさえ忌み嫌われる、“仲間殺し”。それは、テロリストの世界においても例外ではなかった。
その果てに、彼は落ちぶれ卑怯者として生きる事を愧じなくなり―――


「かくて組織を追われた“仲間殺し”の裏切者、誕生せりって訳だ………」


――救いようのない自らの末路を語る男の声は、やはり、どこまでも枯れ切ったものだった。




  • ここで妻を助けていたら蛆虫にはならずにすんだのか、あるいは穢れた女を愛することが出来ないから蛆虫になったのか・・・ -- 名無しさん (2020-03-26 01:42:46)
  • この後~「力を抜け、俺(の妖蛆の細胞)を喰らって新生しろ」 -- 名無しさん (2020-06-25 05:58:16)
  • 墜ちるとこまで墜ちた自分が最後に魅せられた相手が元官憲ってのが皮肉だな -- 名無しさん (2020-12-09 19:26:48)
  • 不倫ならまだしも夫のヘイトをおっ被されてボロボロにされた事を「汚れた」と表現するくらいには最初からカスだったって事でしょ。まさしく守らなきゃいけない状況で穢れたからイラネ全部殺すわって発想が出てくる程度には -- 名無しさん (2023-08-02 19:10:28)
  • ↑さぞや己に一点の非もない高潔な人生を送ってきた光のヒーロー様なんだろうな。その割に言葉使い汚いが。NTR属性でもない限り「汚れても愛し抜ける」なんて男は実際いるわけはないし世の中に処女厨独占厨がアホほど多いことからもわかる。せめて女が殺されたり自殺でもしててくれれば永遠の愛()を誓った悲劇の主人公にもなれたのにそれすらも許されないってことよ。悪いこと言わんからシルヴァリオとかだけやっとけ -- 名無しさん (2023-08-03 09:08:59)
  • 角鹿さんも官憲になった理由に歪さあったし元は善人の被害者だらけだった魔女に対して男たちは元からどこか狂ってたみたいなのは感じる -- 名無しさん (2023-08-03 14:51:35)
  • ↑↑皮肉するためとはいえ、その観点は良くない。ブライアンはただ当時の行いを今の自分の解釈を込みて話すだけ。つまり主人公のあの事件に対する思いと同じ。いきなりの惨状によるパニックかもしれない、最初に殺したの妻ではないかもしれない。当然本編にない話以上ただの妄想ですが、それでも処女厨とか独占厨とかの言葉ちょっと失礼だと思います。このキャラはこの物語で一生懸命生きてんだ。 -- 名無しさん (2023-08-05 07:35:10)
  • 自殺ほう助を「殺した」表現した、「生きてくれ」と言えなかった事を「愛せない」と評したのかもしれないしそこら辺は判らないんだよな……確実なのは守ろうとした仲間に裏切られて、それへの報復さえも「正しくない」事とされたっていう -- 名無しさん (2024-08-06 00:00:04)
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最終更新:2024年08月06日 00:00