君が欲しかったものをあげよう。命令だ───眼前で敵対行動を取る者を全力を以て排除せよ。さあ、これでいいかな?



『あなたの兵士としての自覚を疑っているだけよ。命令は絶対。不測の事態は火急に解決。
ええそうね、苦しませたくはなかったわ。手間取るのは好きじゃないの。
こういうことは、早く終わらせるに限るでしょう』

『はッ、“兵士”……ねェ。俺は誰かさん(・・・・)とは違うんだぜ、リーザ。
そんな決め打ちの鋳型に自分(てめえ)を押し込めなきゃ、満足に息も出来ねえような軟じゃねえんだよ。
誰を生かすも殺すも、剥き出しの自分(てめえ)自身で向き合ってんだ。だったら俺の流儀で好きにやらせてもらわア』

『あれだ、それが生きてくってもんだろう?』

『イヴァン……!』

『噛みつく相手が違うんじゃねえのか? 正しい兵士(・・・・・)さんよ?』



マレーネルート、ネイムレスという真の正体を現した代行者をけしかけ、刻鋼人機同士の無差別の殺し合いを望むオルフィレウス
機兵を巻き込みジャガーノートを自爆させた乱丸を除いたギアーズのメンバーは、爆発を逃れ陸地へと降り立っていた。
何時如何なる時も、一個の戦闘機械として立ち返る、その行動規範に従い
混乱する状況に、直接の指揮官に指示を求めるエリザベータだったが……

『命令? ならば既に与えられているはずだ。……違うかね? エリザベータ・イシュトヴァーン』

アポルオンを介して流れる諧謔に満ちた声――先の唐突過ぎる真相暴露を行った男
オルフィレウスは、世界運行の管理者たる機構の意思とは、この場に立つ自分独りの意思発露と全く同義であることを宣言してみせ――

『故にこの状況に、一切の矛盾は存在していない。さあ、遅滞なく遺漏なく命令を実行したまえ。軍人(きみたち)はそれが身上なのだろう?』

呑み込みの悪い生徒を、忍耐強く導く教師……そんな風情で、鉄仮面は教唆する。
その言葉に対する反応は三者とも異なっており。
不動を貫くアレクサンドル。不機嫌を飼い慣らすイヴァン。そしてエリザベータは……ただ頼りなげに佇んでいるしかなかった。

『なんと不安定なのだ、君は……エリザベータ』

『単純に弱いというのではない。あの少年(・・・・)……特異点とは対称的に、不安定に過ぎる。
強く外部からの指向性が与えられねば、こうまで無力であるとは。よろしい。ならばまずは、私に懸かってきたまえ』

鉄仮面から告げられる宣戦布告そのものの言葉。
それでも、今のエリザベータは動けない。
兵士としての顔の彼女の思考は、命令体系の至上に存在する者を撃つべき用意を持ってはいないから。
出来の悪い生徒に、アポルオンはさらに言葉を重ねる―――

『君が欲しかったものをあげよう。命令だ(・・・)───眼前で敵対行動を取る者を全力を以て排除せよ。さあ、これでいいかな?』


この上なく屈辱的な物言いに、ついに女戦士も迎撃の体勢に移行せんとするも……
既に不可視の重力の枷に嵌められていたエリザベータには、その槍を向けることも叶わず


『一時とはいえ、共に闘った誼。再起の機会は与えよう───地の底から這い上がってきたまえ』


洗礼の一撃により、殲機は砕かれ、戦場から弾き飛ばされ―――夜の昏い海へと彼女は言葉通りに墜とされたのだった



余談

またアポルオンは別のルート上においてではあるが、在り方の近しい美汐に対しても以下のような発言を残し『期待外れ』であるという意思を明確に示している。


「ああ、それにだ。実のところ、君には然程大した期待はしていないのだよ、お嬢さん」

「まずはその厚化粧(ペルソナ)を引き剥がしてから来るといい。出来ぬというなら手伝っても構わんぞ

「なに。顔の皮ごと削ぎ落せば、(にく)(ほね)も隠せぬだろうさ────」




  • 基本的に碌な大人のいない敵組織の中で、時計機構はアレクサンドルさんとイヴァンさんがそれぞれ凄い出来物だからなぁ。エリザベータは割を食ってる気もする。まあそういう未熟さが重要なキャラなんだけど。 -- 名無しさん (2020-02-24 01:20:50)
  • リーザは日常とかギャグパートで弄り倒されるのが一番輝く気がする -- 名無しさん (2020-02-24 09:49:00)
  • お膳立てしたぞさあ戦え!・・・えーまだ上には逆らえないとか思ってるの?メンドくせーはっきり命令しなきゃ動けんの?兵士ボケしてるな~補習決定! -- 名無しさん (2020-02-24 13:15:09)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2020年07月05日 10:07