「俺は、ラグナ・スカイフィールド。
新西暦を生きていく一人の“人間”なんだから」
「もう決して、九条榛士なんかじゃない。
─────九条榛士じゃないんだよ」
刹那、神祖達の魂を揺るがす絶叫がほとばしる。
ラグナとミサキが滅びていないことではなく、その行動の真実を見抜いたからこそ、新宇宙の創造主は今までと別次元の衝撃に心が打ちのめされていた。
その宣託は、紛れもなく神祖の積み重ねた千年を凌駕した、前代未聞の空前絶後、本当にただの一度も彼らが経験出来などしない未曾有の選択を紡ぎ出す。
真実はとても簡単で、絶対にやってはいけないこと。
それは、神殺しの右腕に搭載された新たなる動力源。
第二太陽の中核たる男女の遺骸――葬想月華が発掘した九条兄妹を抜き出し、神殺しの弾丸として放つという、狂気の行いに他ならなかった。
ラグナとミサキが決着の一撃で死ななかったのは即ち、それが太源であるから。
川の傍流が如何に氾濫しても源流に影響がないように、同じものであるという自覚がある限り、大前提の抹消は仕組み的にそうであるから絶対に不可能である。
神として至った可能性が当時の己と決別できない以上、それは存在の根幹を成す原理として抗えない秩序と化しているからこそ、それを可能とするのは、彼とは違う他人だけである。
――しかし、これはラグナとミサキにとって、当然大きな問題点を前提に挟んでいる。
即ち、同一起源から派生した彼らの別御霊である以上、その大前提を兵器として使い捨てれば、必然的に不可逆の自分殺しの矛盾を生んでしまうということ。
誕生の因果の対消滅の結果、起きるのは、ラグナとミサキが最初からいなかったことになるという、勝利を台無しにする逆襲劇どころか、地獄を超える虚無である。
故に絶対神だけは、対抗しようにも同じ手段を選べない。
過去の足跡、頭をよぎる宝物のすべてを喪失する恐怖を味わいながらも、己が起源を己自身で破壊し、人間として決別するという覚悟。
今まで当然、一度たりとも味わったことなどないからこその必殺だった。
「よって震えろ、大神素戔王とその片割れよ。そして同時に認めてやるさ。」
「神々の最終戦争、勝利したのはおまえ達だ」
「竜人素戔嗚尊と葬想月華は、あんた達の誓いと覚悟に完全敗北して滅び去った。」
「だから今、人間としてその宿命から解き放たれるの」
愛する人々へ託された希望を返し、黄昏の過ぎ去った美しい新西暦を返すんだ。
そのためならば、恐れはしても迷いはしない。
俺とミサキは絆を胸に、誰も知らない神殺しの一撃となろう。
そう、この最後の最後に……ほんの僅かな一瞬だけ、俺達は当たり前の只人となってみせる、と。
掲げた悲壮な宣誓に対し、今度こそグレンファルトはあらゆる言葉を奪われる。
半身共々、魂を抜かれたように今まで同じだった筈の自分を呆然と眺めている。
すべてを見てきたであろう永劫の旅人と交差する視線。誰そ彼時のその瞬間、初対面の知らない相手に、神奏者達は初めて答えを求めて問いかけた。
「「おまえ達は、いったい誰だ?」」
決まっている。何度だって答えよう。
「「 皆と何も変わらない、誰かを愛する“人間”だ! 」」
そして、どこにでもいる人奏者の一撃は、ついに彼らを穿ち抜くのだった。
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