私の望む結果は得られた。故にここで、今回の実験を締め括ろう

発言者:オルフィレウス
対象者:全刻鋼人機


秋月凌駕緋文字礼天然の超越者再起の生還者
限界を超えて全力を絞り出し、最後には両者共に爆炎の中に消えた史上初の真理到達者同士の闘い――
その顛末を観測していたオルフィレウスから発せられた言葉は、何の衒いもない称賛だった。

事前予測(シミュレート)の域を優に超えたな。よもや両者、共に真理へ到達するとは……!」

皮肉も澱みも、その声にはなく。彼ら二人にしか達し得ない境地(レベル)の戦いに対して、本心として褒め称えていた。
二つの真理(イノチ)が交錯した鮮烈な死闘に、個人として喝采しながらも――科学者としてのオルフィレウスは実に惜しんでいた。

「本命のみならず、彼までそこへ到達したこと。疑うことなき僥倖だが……
ああ全く、願うなら諸共我が手元へと確保(・・)したかったものだよ」

故に惜しい、見惚れていたが悔やんでしまう。
情報(データ)の観測こそ最大限行ってはいたが───彼らの肉体が此処にあれば、標本として確保できれば、
これまでとは比べ物にならない速度の収集も可能になっていたことだろうに。

「いくら長い年月を研究に費やしていても、肝心なところでのこの読み違い(・・・・)か───
いかんな、心を魅せられた。しかし……」

両者の戦闘記録は充分過ぎるほどに収集することは出来た。

心装永久機関という力の泉、それは埋め込まれた刻鋼人機の情報を逐一この支配者へと送信する楔でもある。


「それもよかろう。敬意を捨てた覚えはない」

何より、科学とは常に試行錯誤(トライアンドエラー)の連続。今日の失敗を礎に、明日の成功を積み重ねてきた。
ならば、これもまたその一つ。例外なく成功とは失敗の歴史。
煌びやかな外套(マント)を裏返してみれば、そこには数え切れない(マイナス)の歴史が刺繍で記してあるのだから。

欲張るのはよくなかろう。何度でも、何度でも繰り返してみせよう。なに、次がある。
無限の時の中で、探求者は人類の可能性(輝き)を信じている。
最も人の未来に思いを馳せる人種であるのは、論を俟たずして科学者であろうから……

――そして、実験には帰結が要る。幕引き(エンディング)に相応しい結末を、オルフィレウスは宣誓する。


「ご苦労だった、被検体の諸君。己が希求(エゴ)を追い求め、秘めた陰我(イド)と向き合い……
その先(・・・)へと到達した者が現れたこと。まずは此処に礼賛しよう。
真理へ至れなかった者、自己と向き合うことを放棄した者、自我を貫いた結果その命を落とした者らも……
悔やむことはない。君たちという礎あればこそ、僅かな成功例は成り立ったのだ」

「私の望む結果(もの)は得られた。故にここで、今回の実験を締め括ろう」


静かに告げ、衛星の心臓たる第零式永久機関(オリジナル・クロノ・サーキット)が起動する。
それは死の宣告であり、現存する心装永久機関の全てに活動停止の命令(オーダー)を伝える執行者へと変貌する。
実験(・・)は終わった。ならば、被検体(・・・)は速やかに処理しなければならない。

天使ならば慈悲があろう。死神でも粛々と静かに刈り取っていくに違いない。
たが、科学は違う。徹底した合理性と効率性は、敗者がただ死んでいくこと(・・・・・・・・・)許しはしない
魂の一片まで、情報として活用せんとするのみだった。

全ては演算、因果の解明。あらゆるデータを母機に吸い上げられ、地獄の苦しみを味わう
オルフィレウスは微笑みながらも、無機質な瞳で地上を俯瞰していた。




  • 次なんてない(ポチ -- 名無しさん (2021-12-28 18:42:18)
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最終更新:2021年12月29日 09:04