罪なき咎人の墓標

エリ・エリ・レマ・サバクタニ


これ(・・)は、その柩を模して造った偽物ではあるが、そこにある肉体(・・・・・・・)よりも遥かに《柩》なるものの本質を体現している。その意味ではむしろ、そちらの方が偽りだと言えるだろう」

「《柩》とはその名の通り、死せる器を納めた器に過ぎぬ。
ならば、器自体の思いや言葉など不要であろう。それが道理だ」



最凶の同族殺し、クリストヴァン・フェレイラが自ら用いる、《葬鬼刀》の一振り。
普段はと瓜二つの少女の姿をとっているが、使用者であるフェレイラの意思に呼応して外装(血肉)は紅い霧となり、骨格へと吸収――そのまま鋼鉄の十字架状の剣に変化する。
この剣は対吸血鬼用の武器として用いる上では十分過ぎる破壊力を備えており、加えてフェレイラ自身も、あのベルリッヒンゲン以上の途方もない歳月を重ねた吸血種であり、向上した身体能力と合わさって容易く血族の骨や臓物を押し潰し、その命を瞬時に引き裂く事が可能である。

……だが、この《罪なき咎人の墓標》は他の、人類が吸血種を斃す為の殲滅兵装である《葬鬼刀》とは存在理由を異にしている。
それは、フェレイラ……否、かつて太古の時代、《真祖》殺しの汚名を着せられたまま滅ぼされながら、
苛烈極まる一念で死から再生する異能(エピタフ)を獲得した、ユダ・イスカリオテの血と魂を蔵する本体(・・)としての役割であり、
同時に彼の悲願である「全血族の抹殺」を、“自死”の命令権によって実現可能な唯一の魂……すなわち柩の中に今も眠る《真祖》を降臨させる器としての役割である。

真の不死者と化したユダの血と魂は、鋼の《葬鬼刀》の裡にあってもその個我を失うことなく、自らの血を魂無き骸に宿らせる事で自在に操ることができるようになっている
彼は《本体》である十字架を操る為の肉人形()を、敵対者に対しての擬装工作に用いる事ができ、
さらに完全な不意打ちだったとはいえ、龍馬の策略で暴発させられた《真祖》の力の影響を、急所となる心臓を持たぬ鋼鉄の器の中で無視する事も可能であった。

そして隼人の遺体を奪い、本人が生きていると見せかけたユダは、龍馬達の手の及ばない蝦夷の地に柩を誘い込み、血族絶滅の為の最後の仕上げを実行せんとする。




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最終更新:2021年12月15日 23:17