二巻参ノ章、
精鋭揃いの刺客の刃を前に窮地に陥った沖田は、再び手にした
村正の刃を以て生還を果たす。
しかし、妖刀を運んできた
万次郎と言葉を交わす間もなく、沖田を狙う次なる刺客――藤堂平助が現れる……。
裏切者である
柾隼人を追討する任務を放棄し、それどころか手助けさえ行ったという罪を追求する藤堂の姿に、
沖田は自分が
伊東の掌の上で踊らされていた事、
彼の意に添わぬと判断された者は、新選組の邪魔者として堂々と排除するつもりだったのだと確信する。
本当の裏切者を見極めるべく行動しようとしたと語る沖田に対し、藤堂は隼人を斬らなかったという事実へ深く落胆する。
そして藤堂は、『悪者』がどちらなのか、そんな誰にも判定できない『正しさ』を追求する事に意味はないと告げ……
伊東が創ろうとする“新たな新選組”が掲げる理想のために、今の己は仲間“だった”沖田総司を斬ってみせると、抹殺を宣言する。
試衛館時代から腕を競い合い、京の都では肩を並べ共に死線を潜ってきた戦友へ、沖田は最後の確認の問いを投げるも―――
藤堂平助は揺らぐことなく、怒りと羨望と理想とが複雑に入り混じった殺意を乗せて、最大の憧れに向けて抜刀するのだった。
本編より
「――誰にも揚げ足を取られない正しさなんか、あらかじめ選べはしないんだ。
そんなものは、終わった後の結果があってこそ言えるものです。
まだ結果に至っていない僕たちにできるのは、せいぜい自分の思いの丈を信じるぐらいのことでしょう。
だから今、正義だの悪だのを論じたところで意味はないんですよ。
残った結果が全てを決める───ただそれだけです」
藤堂が刀の鯉口を切る。その音はごく密やかなはずだったが、沖田の耳には雷鳴のように大きく響いた。
―――藤堂と共に歩んだこの五年の月日を、微塵に砕く破滅の音に。
もはやどんな言葉も、自分と藤堂の間にうがたれた溝を埋めることは不可能だった。
「では平助、最後に訊こう。どうしても私を斬るのか?いや……おまえに斬れるのか?」
「ええ、斬れますよ。むしろ、やっと斬る気になれた」
沖田の言葉を受けた藤堂の瞳に、初めて感情の焔が微かに浮かび上がる。
「新選組から沖田総司を奪った、柾隼人を心から憎いと……妬ましいと思いました。
だから、憎いあいつをこの手で殺すために、あなたをここで斬ります」
藤堂の語る理屈は支離滅裂で、矛盾の塊でしかなかった。
けれど、それを本気で言っているということだけは沖田に余さず伝わってもいた。
どんな狂念や愚想だろうと、全ては貫くことで真実になるのだと。
逆を言えば、意思を真実にするためには、何より貫き通さねば始まらないということを。
- ヴェンデッタのチトセ√を思い出すな。マゴベもそうだしある意味レスバの否定 -- 名無しさん (2021-12-13 15:01:08)
最終更新:2021年12月13日 15:01