三巻弐ノ章、
斎藤一の只管に速度を追求した
秘剣を前に、傷を重ねるばかりの沖田。
しかし、三段突きの通用しない相手に対し、
沖田の瞳は未だ戦意を失ってはおらず……彼女はこの一戦で何度も見せた、平正眼の構えを取る。
新選組最強格の武人、その更なる全力と対峙できる事に、子供のように目を輝かせる斎藤へ沖田は告げる――
「剣を窮める事にしか心を預けていないおまえと、今の私とは違う」
「己が背負っているもの――それは、戯れでおまえに斬り捨てられてしまった若夫婦への弔いの念と、そして」
「この手で斬った、藤堂平助の魂と誇りだ」
その言葉に、「死者を背負うなんて何の得があるのか」と困惑した表情を返す斎藤。
斎藤のそんな姿に、苦笑を浮かべたのは一瞬……沖田は口を閉ざし、迫り来る激突の瞬間へと集中する。
―――そして、両者の魔剣が放たれる。
共に迅さを武器とする技同士の衝突、その決着は瞬き一つの間についていた。
「予測より、ずっと速い……なんて……
や。まさかそんな、見誤っていた、とでも……?」
発動の『先』を制されたのは、ここまで優勢を保っていたはずの斎藤。
大量の血塊を吐き出し、右手に未だ抜き放たれていない刀の柄を握り、彼は混乱していた。
それに対し、沖田は「全力の三段突きでは、おまえの秘剣の剣速には及ばなかった」と告げた上で……
「だから、この場で自分自身の限界を超えるしかなかった
───私の心に鮮やかに刻まれている、あいつの残像だけを頼りにして」
「無明剣……四段突き……ッ」
亡き藤堂の編み出した絶技、その唯一無二の技を識っていたからこそ勝てたのだと、誇りと共に答えを明かした。
今以上の剣速に達しなければ死ぬ……追い詰められたこの状況下で、沖田が脳裏に思い描いたのは、
自分以上の速さを持った、戦友の魔剣の呼吸であった。
――斎藤一の敗因は、土壇場における沖田総司の勝負強さを見誤ったことか、いや。
「死んだ人間を背負っていくのも、決して悪くはないものだ」
限界突破の手本となり得るほどに、克明にその残像を思い描けたのは……
藤堂平助に対する、沖田総司の思いの深さなくしては成し遂げられなかったのもまた事実である。
- 沖田さん、どう見ても主人公より主人公なんだよなあ -- 名無しさん (2021-12-24 13:59:38)
- それでいてお姉さんポジションもできるんだから……すげえよ沖田さん -- 名無しさん (2021-12-24 14:22:46)
最終更新:2021年12月24日 14:22