「ああ、そうだよ。俺はもう警察を辞めた。だからこの機に転職をしようと思うんだ」
「……転職、だと?」
初めに
恋人との“幸福”な未来を失い、“正義”の執行者としての自らの理想を追求した結果、その資格を喪失した完。
自らを気遣うかつての同僚や家族との“縁”さえ、無価値なものにしか思えなくなった彼が、
“呪いを行使する者”という新たな『生きる道』を示してくれた男に告げたセリフ。
呪術師――
文鳴啾蔵が起こしたであろう“呪殺”に関連する報道を知り、久方ぶりに心が動く感覚を覚え……
もはや自らの人生にとって、“呪い”は切り離せぬものであり、自分もその引力に呑まれた人間の一人である、と。
“愛”も“使命”も失い、完全に覇気を失っていたはずの
吐月完は実感する。
そこからの完の行動は素早く、警察官時代に
文鳴啾蔵に関する執拗な調査の中で得ていた情報をもとに、
彼が拠点としている土地―
申仏島を訪れることを決めたのだった。
そして、遂に島の港で完は因縁の男・
文鳴啾蔵と再会する。
当然、十数年も自らを追いかけまわし、警察官の職を離れても
申仏島にまで姿を見せた男を前に驚きと、次いで不審の眼差しを向ける啾蔵だったのだが。
「よう、久しぶりだな」
その冷たい視線を受け止める吐月完の態度からは、負の念が欠片も感じられず。
「おまえと同じ道に入りたいんだよ。呪いのな。呪術師……っていうのか?」
それどころか、散々憎みその罪科を暴こうとしていたはずの“呪い”を操る悪人の道に『転職』したいなどと、正気を疑うような言葉がその口から出て来たのだ。
ここまでの変わり様、裏に何の思惑もないとは信じられないと啾蔵は完を問い詰めようとするが……
「俺はな……元々警察官になったことに大した理由なんざなかったんだ。
ただ、一緒に生きていたかった相手と幸せになれれば仕事なんてなんでもよかった」
「その幸せが突然壊れちまった。仕事に逃げるしかなかったところに、現れたのがおまえだ……文鳴。皮肉な話だが、あんたが俺に刑事として生きる目標をくれたんだ」
苦い過去の挫折を語っているはずのその口調は、しかし、不気味なほどに淡々としていた。
「俺は正義の味方であればいいんだって安心したんだな。だが“正義”はないとなった。現実に存在する“悪”を裁けなかったんだからな」
そうして、とても自由で清々しい心持ちのままで――
「で、思ったんだ。じゃあそっちに行けばいいんじゃないかってな。つまり“悪”だよ。なんせ、そっちの方が俺に取っては現実にあるんだって思えるからな」
第二の人生を始めるために申仏島にやってきたんだ、と告げた。
「とにかく俺はもう、疲れちまったんだ。“幸福”だとか“正義”だとか……
あるかないかわからん不確かなものに振り回されるのはね。確かなものに寄っかかって生きてたいんだよ」
この心の空虚を埋められるのは、最後に残った“呪い”という繋がりだけだと。
- 謎の宣言を聞く羽目になった啾蔵に悲しい過去 -- 名無しさん (2024-06-11 22:47:19)
- これで短期間で呪術師として成長して『あいつなら俺を殺してもおかしくないかもしれん』とベテランの文鳴さんに僅かでも思わせるカンちゃんは凄えよ(ドン引き -- 名無しさん (2024-06-11 22:52:21)
- カンちゃんはキャリア警察受けるだけあって頑張り屋だからな…… -- 名無しさん (2024-06-11 23:06:33)
- 方向性ィ! -- 名無しさん (2024-06-15 15:42:00)
- 頭おかしいのか?ってひたすら正論しか言わない文鳴 -- 名無しさん (2024-06-15 16:14:29)
- トシローさんをぶつけてみたい… -- 名無しさん (2024-06-15 21:13:34)
- トシローさんからしたら侍なんて意味ないよな!時代は吸血鬼だぜ!みたいな感じでしょこれ -- 名無しさん (2024-06-15 22:34:49)
- トシローへの尊厳破壊かよ -- 名無しさん (2024-06-16 10:59:51)
- トシローさんは、直接、復讐できた(相討ちだけど)けど、カンちゃんは、復讐する機会も得られなかったしな -- 名無しさん (2024-06-17 06:49:26)
- 正義が上手くいかなかったから悪に走るって典型的な理想化からの脱価値化なんだが極端且つ中途半端なのは昏式主人公らしい -- 名無しさん (2024-06-19 02:12:44)
- 基本貫けなかったらバッドエンド、貫けたなら不幸であってもバッドエンドではないな昏式作品だと最後の最後まで貫けないタイプのカンちゃんは希少(結局偲自体は守れずに死んでるし) -- 名無しさん (2024-06-19 02:36:15)
最終更新:2024年11月03日 21:08