《呪い》に興味を抱いた幼き日の啾蔵に、槐が語って聞かせた……彼女が
『人を呪う』業に携わり続けた理由とも言える言葉。
槐が死んで数十年が経った現代においても、啾蔵にはその言葉の意味は判りかねていたが……
その言葉の裏には、
槐という女性が背負った運命、そして生まれながらに“呪い”を背負った啾蔵に対しての、彼女自身の思いが深く籠められていた。
本編より
『啾蔵。死ぬことは怖い?』
『わからない……』
――死というものについて、特に深く考えたことはない。
――ただ漠然と存在する終点としてしか、何も思うところはなかった。
『まだわからなくても、覚えておくといいよ』
『この世には、死ぬよりも恐ろしいことがある』
『それは、生きるということ。生きていたくなくとも生きていかねばならないということ』
――まだ幼い文鳴に取って、その言葉には実感がなかった。
――ただ、もし槐がいなくなってしまったら、と思うと全てが恐ろしくなった。
――この世からあらゆる光が消え失せ、暗闇に包まれてしまうかのように。
『そうやって生きていく上で、人は色々なものを奪われる。けれどどんなに空っぽにされ弱くなった人間でも、誰にも奪えないものが一つだけ最後に残る』
『それが、他人や運命を呪うということ。善も悪もなく、ただ最後に残されたその人間の拠り所に寄り添うこと……それが、私の仕事なんだ』
槐はあのとき、どんな気持ちで自分にそんなことを語ったのだろう。
その真実は、数十年が経った今でもまだ謎めいた薄暗い帳に覆われていた……
最終更新:2025年07月29日 16:41