もくせいとリードがマンプックの店に到着する少し前、違う場所
コーラと雪山は、街外れにある、スラム街とは言わないまでも、低所得者層が集まる住宅街に向かった
その一郭、人気がほとんどないところに、ぽつんと平屋の木造住宅が佇 んで いる
どうやらこの家が、依頼人シラガの家らしい
「はぁ、お腹空いてきたなぁ・・・昨日からろく に何も食ってな いし」
コーラから腹の虫の声が聞こえる
「なんだか本当に幽霊がいそうなところですねー」
雪山は知ってか知らずかのんびりしている
「すいません〜宿で 依頼を紹介されたものなのですが〜」
雪山が戸を叩いてしばらくしてから、疲れ切った表情の老人が顔を見せた
目の下にクマがあり、ここ何日も満足に寝ていないのだろうことが容易にわかる
「ああ・・・あんたらが・・・さ、入りなさい」
老人はどんよりとした雰囲気を漂わせ、二人を案内した

「失礼します〜」
「失礼させていただきます」
雪山とコーラは恐る恐る中へ入っていく
「だいたいの話は知っているだろうと思うが・・・
最近になって、出るんだよ 、これが・・・」
依頼人のシラガは両手を胸の前でぷらぷらさせて、うらめしや、のポーズを取った
「おかげでこの有様。寝不足だよ。気になって気になって・・・
もう、どうにかなってしまいそうだ」
彼はだいぶ落ち込んでいるらしい
「お化けですか〜。出るようになった理由に心当たりとかはないですか 〜?」
その様子が心配になったのか、雪山が先に言葉を繋ぐ
しかし老人は重い口調で更に続けた
「わたしゃね、この六十五年、誰からも恨まれない生き方をしてきた。
こどもたちも独り立ちして、女房と死に別れて久しい。
こうやって、騒が しい 世間からちょいと離れたところで静かに暮らしたかっただけなんだ・・・
心当たりなんてないよ。
それがどうだい。夜になると・・・聞こえるんだ。
かすかに、声がな・・・まるで耳元で囁かれているみたいだ」
「もしかしたら、いや・・・」
コーラは会話にヒントを得たのか、 何か考え始める
「わたしゃ、ある夜・・・その声が 聞 こえてきた時にな、家の中をひっくり返すようにして、誰かが潜んでやしないかと調べた。
何もなかったよ」
そして、ピンときた。
「この家の裏には古井戸があるんだが、そこに、きっと・・・
あああ恐ろしい! 」
シラガは顔を手で覆ってしまった
「何か物的現象とかは・・・全くないんですか?」
コーラはそう聞いた
「他にも、この辺りで大きな事件、たとえば殺人事件が起きた事はありませんか ?
あなた自身に恨みがあるのではない事もありますので〜」
そして雪山はコーラに言葉を重ねてみる
シラガは、しばらくすると二人に向き直った
「わからん。姿を見たわけでもない。た だ 、聞こえるようになったんだ。
何を言っているのかまでははっきりしないが・・・あれは間違いなく人の声だ
事件はない、そんなものはないない。
わたしゃ、この物件を決める時 、そう いう曰くつきの土地だけはやめてくれと、仲介人に厳しく依頼したんだ」

「以前、貴方の奥様は何か・・・心残りを残 したとかありませんか?」
コーラはもう一度、シラガに聞いてみる
「さあ・・・幸せだったと言って安らか に 逝ったが・・・
おぉ、わしのマイスイートハニー・・・」
「仲の良いご夫婦 だったんですね 〜」
話が逸れてしまいそうなので、雪山はコーラの手を引いた
「そのように愛されて、奥様も幸せだったと思います。
失礼な事を聞いて申し訳ありません」
コーラは家を出る前にそう言って頭を下げる
意気消沈するシラガの案内で、二人は家の裏手へと回った

何事もなく、二人は家の裏の古井戸に到着した
家が陽の光を遮って、井戸の周りはやたら暗い
今はもう誰も使う事のなくなった井戸は、意味 もな く縦に掘られた穴とも呼べる
シラガは、この井戸だ、この井戸の中にアレがきっと・・・とかぶつぶつ言ってるが・・・
コーラは構わず井戸を覗き込むが、中は暗くて底がよく見えない
そこで彼は叫んでみた
更に周りを見渡したが、可哀想な目でコーラを見つめるシラガと目が合っただけだった
「しかし幽霊ってのは、どうして夜に出るんだろうなあ・・・昼間には、あの声はちっとも聞こえん」
気まずくなったのか、目を逸らしてシラガはぼやいていたが、決心したかのように向き直った
「なあお二人さん。私のカンなんだが、また今夜当たり、あの不気味な声が聞こえる気がするんだ・・・
頼むよ、この老体を哀れに思う気があるのなら 、私の家で夜を待って、幽霊が出てきたら退治してくれないか!」
コーラはその勢いに困ったように雪山を見つめる
「出直しましょ。無理に入る事はないですよ〜」
彼女はそう耳打ちした

雪山の意見に従って、二人は一旦酒場へ戻った。
シラガは「最近の若いもんは年寄りを大事にしないで・・・」とぶつぶつ言っていたが、まあ仕方ない
二人は井戸の中にもぐる為の機材を用意することにした

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最終更新:2008年05月08日 23:20