ワッフルとロベルトは、依頼人であるジキレイが務める代書屋へと向かった
そこはオッキーナの銀行や郵便局(のようなもの)が集中する、いわばオフィス街
多くの人々が行き交う中、二人は代書屋の扉をくぐった

「ごめんください。ポチョムキンから来ました。ジキレイ氏はご在宅ですかー?」
「いらっしゃいますかー ?」
ロベルトとワッフルは陽気な声で叫ぶと、事務所の奥からもやしのような白くて細い男性がすっとんできた
「ちちちょっとあなた!私の依頼内容を知っているんなら、何もそんな大きな声で私を呼び出さなくても!」
とロベルトの耳元で、小さな声で叫んでいる
代書屋の同僚たちは、彼が何を冒険者に依頼したのかと興味津々だ
ジキレイは、そんな同僚たちに苦しい愛想笑いを浮かべ、ワッフルロベルトを手近な応接に案内する

「申し訳ありません。配慮が足りませんでしたね」
ロベルトの爽やかな笑みは、ワッフルの心の奥に灯火をもたらした
絶妙な角度の口元。細めた目。そして、揺れるヒゲ・・・
バリトンのような甘く、そして重たい声は、彼女の胸の動悸を速くする
ワッフルの頬にかすかな朱が差した
また、それは依頼主も同様であった
「あなたをドワーフの中のドワーフと見込んでお願いがあります。
この手紙を、僕の意中の人に届けて下さい。届け終わったら食事でもどうですか? いらない?そうですか・・・
ええと、彼女の名前はシナナ。
これこれこういう場所に住んでいて、家まで はつきとめたんですが、こっそり物陰から彼女の生活を覗くのが精一杯で、手紙を届ける勇気がありません」
ジキレイはロベルトに必要以上に近付きながら話している
そこにずいっとワッフルが間を割って入ってきた
「ええ 、場所さえ判明すれば後は大丈夫なんですよ。
ここはそのシナナさんに会って渡してくれば大丈夫なんですよねぇ?
さすれば依頼完遂・・・とお見受けしますが、いかがでしょうかねぇ」
しかし構わずジキレイはロベルトに、厳重に封をした手紙を渡す
「いいですか、必ず僕からだと言って 、手渡して下さい。
郵便受けに投函したんじゃ意味がない。ダイレクトメールだと勘違いしてゴミバコに捨てられてしまったらああもう!
でもその時はあなたの素敵な肉体で泣かせて下さいハァハァ
い、いいですね 、ちゃ んと渡して下さいよ?お願いしましたよ?」
ロベルトの手やら腕やら触りながら、彼はワッフルを見て付け加えた
「僕は・・・君を・ ・・許さない・・・」

「ああ、この手紙に貴方の連絡先は書いてますか?
私は貴方の仕事場は知ってますが、家は知りません。
もし書いてないのなら、 彼女はここに来ますけどいいですか?あと、何か狭いんですけど気のせいですか?」
ロベルトは身の窮屈さを感じるが、依頼の話を続ける
「ああ!なんて気が付く人なんだあなたは・・・僕は・・・僕はもう・・・
もし、僕がここに書いた内容を彼女が受け入れてくれるのであれば 、返信を寄こしてくれるようにと書きました。
あなたたちは、手紙さえ渡してきてくれれば、後の事は考えなくてもいいようにしたつもりです」
それを見たワッフルは心の奥に火を灯しながら手を引く
「つまり渡しさえすれば大丈夫、後はそちらがなん とかしてくれるということなんですよねぇ?
ならばそれこそ善は急げといった感じなのですよ。
さ 、早速行きましょ?ロベルトさん」
「ちょ・・・ワッフルさん、引っ張りすぎです! こけます!こけちゃいます!
ちょ・・・引きずらないで! お願い!だから・・・
何?!何この状況!?私 には理解できない!」
二人はオフィス街を後にした

ワッフルとロベルトはジキレイから教えられた通りの住所へ向かう
そこは一軒の集合住宅で、平たく言えばアパートだった
シナナの家は、一階の102号室にあるらしい
「○×△□ アパートの・・・102号室・・・ここで合ってるか?」
「えっと 、たぶん合ってるみたいだね。間違いないかな」
こんこん
ワッフルは軽く扉を叩き、しばらく待つ
しかし誰も出てこない
何度か叩いてみたが、結果は同じだった
「留守・・・?仕事先とかも聞いておけばよかったかなぁ
ところで・・・これ、どうやって渡すのだろう?ふ、普通に渡せばいいの?」
ロベルトは顔を青くしてワッフルに聞く
「え?こういうのは『ジキレイさんからのお手紙です』ってやれば大丈夫なんだよ。
今の私らは単なる郵便屋。別に介入する必要と かはこれっぽっちも無いからねぇ。
しっかし、留守なのかな?ちょっと参ったねぇ」
二人が当惑していると、ちょうど隣の部屋の扉が開いた。
中から、見るからに水商売ふうの女が出てくる
訝るような視線を投げて・・・
「シナナならいないよ。もう何日も帰ってない」
そう言った

ロベルトは彼女を見ると丁寧に頭を下げる
「何日も帰ってない?どこへ行ったかとか何かわかりませんか?
ああ、自己紹介が遅れまして失礼。私はロベルト・カーロンと申します」
女は訝しげに視線を移し、口を開いた
「ああ、ご丁寧にどうも。
どこへ行ったかなんて知らないねえ。元々、そんなに親しいわけでもなかったし。
でも確か・・・何日前だったかな、朝 、会 ったんだよ。
その時は妙に嬉しそうで・・・金持ちの家で奉公する事が決まったとか?
地元に仕送りができるとか。
それっきりだけどさ」
ロベルトの斜め後ろのワッフルも言う
「私はワッフル=ワッフルといいますのですよ。
えっと、奉行というと、どこの家に仕える 事になったかご存知なんでしょうかねぇ?渡さなければいけない物があるんですよ」
女は再び口を開いた
「さあ・・・知らないね。家の中を家捜しすれば、何か分かるんじゃないの?
犯罪だけどさ。あはは・・・」
乾いた笑いを残し、彼女はらふらと出かけてしまった。
辺りはしんと静まり返り、他に人の気配を感じる事はできない
二人は顔を見合わせた

「さあ困った。鍵を開けようとも私達はそんな技術は持ってない・・・打ち破る?」
ロベルトはナイフを抜いてそう提案する
しかしワッフルは
「いやいやいや、中には入 りたいけどもドア破るのはちょっと、だよ。
もう少し調べてからにしたい所ではあるんだよ」
そう言って様子を見る
「むぅ・・・調べる場所・・・調べる場所・・・」
ロベルトは小さめの体を停止させ考えを巡らせた
「入る場所・・・ドア以外に・・・トイレ、キッチン?」
そしてこの場所からは大きめの両開きの出窓が見えることに、ワッフルは気づく
「それに限らず、中の様 子が見えそうなところだよ。
カレンダ ーとかが見えればいつから居なくなったのかわかっちゃうんだよ」
彼女の発案で 、二人はアパートの裏手へ回った
アパート自体がひっそりとしていたせいか、抜き足差し足で進む君達を見とが める 者はいない
無事102号室の裏側、つまりシナナの部屋の出窓へたどり着く事ができた
「なるほど 。さすが頭いいな!」
意気揚々とドワーフの男はワッフルの後から付いてくるのだった

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年05月08日 23:26