仲間とは、敵になり得る諸刃の剣だ
ここはとある町
その近郊にはびこる山賊を退治する依頼を引き受けに集まったのは四人の冒険者たちだ
依頼者である魔法協会員はこほんと咳払いして彼らを見渡し、詳細を説明し始めた
「この近くの砦に山賊が巣くってしまいましてね。
近くを通った旅人が襲われたり、時にはこの町が襲われる事もありました。
早急に手を打たねばという事で討伐体を組むことになったのですが、
その山賊というのがどうやら【ミノタウロス】の一団のようなのです。
ウシのパワーに人間並の知能という厄介な相手ですね。
なので、君たち腕の立つ冒険者達に仕事が回ってきた、という事です。
依頼する仕事は砦にいる山賊の退治。よろしくお願いします」
「ミノタウロスは美味しいのでしょうか」
端正な顔立ちをしたエルフの女性、霊山はそう問いかける
「聞くのは美味いかどうかからかよ」
筋肉が程よくついた人間の男性であるヴィクトは、不自然な疑問にそうつっこんだ
「四人か・・・」
その様子を見て口を開いたのは、ヴィクトと同じ人間の男のアースだ
僧侶のような出で立ちをしているものの、まるで彼が山賊のようにも見える
「ミノタウロス?こんな場所にか?」
訝しげに見つめるのはレイスだ
彼もまた人間の男性である
「ミノタウロスは食用に適してはいませんね。雑食な上に油が乗っていませんから。
そしてそのミノタウロスというのは魔法実験に適した生き物なのですが、
最近『亜人にも人権をー!』という動きが強く、
罪人ミノタウロスでもなければ魔法に用いることができない世情です。
今回の山賊退治は確保に最高の機会ですので、できれば生け捕りにして連れてきて下さい。
その場合、報酬を増額いたします。
地図はこちらに。迷うような地形でもないのですぐに辿り付けましょう。
ではいってらっしゃいませ」
魔法協会員はそう一通り説明し終えるとヴィクトに地図を手渡した
「地図ってのは大事な情報だからな、山賊に奪われないように取り扱いに注意すべきだ」
彼はそう言って他の三人に見せたあと、ぽっけにないないした
それを見たアースは地図を書き写して霊山とレイスに渡す
「悪いな、アース」
くつくつと笑っていたレイスはそう言って礼を言い、地図をしまった
「そうね、食べるよりなめし皮にでもした方がいいですわね」
霊山が地図を受け取るのを確認すると、四人は席を立った
「お気をつけて。成功を祈ってますよ」
背中に声がかけられるが、誰一人振り返らずに歩き出した
果たして、これから彼らにどんな試練が待ち受けているのであろうか
道中に何の障害もなく、一行はミノタウロスが占拠しているであろう砦に辿り着いた
「あー。なんだ。あれだ・・・奥から酒の匂いがしているな、酒盛りしているんじゃないか?」
ヴィクトは呆れたようにそう言う
「静かだな・・・気配らしい気配も感じん。
霊山嬢、虎穴に入らねば虎子は得られん。突入するのも一つの手だが、
どうする?」
レイスはそれを罠だと感じているのか、霊山にそう訊いた
「ビール牛は高級牛・・・シルフに遠くで音を立ててもらうとか出来る」
だが彼女は話を聞いていないようだ
「勘づかれる前に叩くべきだな」
と、それを知ってか知らずかアースは言った
四人が勇気を出して正面に行ってみると、入り口には何やら妙な文様の扉が立ち塞がっていた
取っ手がどこにも無く、押してもびくともしない
さて、どうしたものか
ゆっくり考えてはみたものの誰も解決策が思い浮かばず、ましてや帰ろうなどとも思わなかった
仕方ないので物理的にぶち壊そうというのが総意だ
霊山のマジックスタッフが唸りを上げる
バキッ!ボコッ!
ガッシ!ボカッ!
見事、扉を破壊することに成功した
その代償にマジックスタッフは草臥れてしまったが
そこから中に入り順調に砦の中を進む一行
特に罠などは無いようだ
いくつか小屋があったが、そこには誰もいなかった
更に進むとやや大きな小屋をが目に入る
小屋の中からは騒ぎ声が聞こえてきていた
どうやらここにミノタウロスたちはいるらしい
「く、少々情けなさすぎやしないか私・・・!」
扉のことを気にしているのか、レイスは座り込んで地面にのの字を書き始めてしまった
しかし、アースが無言のままそれを蹴散らす
レイスが、その足を引っ張って転ばせた
「やるか」
そう起き上がって言ったのはアースだった
「酒盛り、か。悠長なことで」
レイスも息を潜めながら中の様子を伺う
バスタードソードを抜いたヴィクトも一緒だ
小屋の中には三人、完全に宴に夢中で外の様子など気にしていないのがわかる
扉のほかに窓があるようだが、そこから入るとガラス片が散らばって危ない
「三人・・・か。まさかこいつら全員が山賊団じゃあるまい。
他の面子が戻ってくる前にこいつらをふんじばらないか?」
ヴィクトはそう提案した
「ああ」と短く言って頷くアース
「ミノタウロス四体以上はぞっとしませんわねぇ」
霊山も賛成のようだ
「窓から霊山嬢がシェイドを叩き込み、混乱に乗じて私たちがドアから・・・
とも考えられるが、ヤツラは今酔っている。正攻法で叩き潰しに行っても十分だろう」
レイスは頷いてブロードソードを取り出した
「どりゃああああああああ!」
まず扉を蹴破って先陣を切ったのはヴィクトだ
「さて、私も行くとするか」
レイスもそそくさとそれに続く
「ミノ・・・?」
「・・・し、侵入者ミノ!」
「人間が攻めてきた!迎え撃つミノ!!」
ミノタウロス達は、それぞれ得物を手にすると二人に躍りかかる
「レイス、俺が美味しいところを頂くぞ」
振り下ろされたメイスを受け止めてヴィクトは言う
「はっ!言ってろ馬・・・ぐぶっ!?」
言い返そうとしたレイスは酒瓶に足を引っかけてすっ転んだ
「アヂッ!ミノノノッ!」
その横のミノタウロスが焦げた匂いを巻き散らす
霊山の呪文が命中したのだ
「あと一匹」
次いでアースの放った矢がヴィクトの頬を擦め、一匹を倒した
「んんおおおおおおおおおおおおおお!」
ヴィクトの持った剣が薙ぎ払われ、斧を持った最後の一匹は力なく伏す
「霊山嬢も奴も、最初にこの勢いで攻められたら楽に終ったろうに・・・」
レイスはそう苦笑して自らの剣を収める
「これもって帰るんですわよね・・・重そう」
霊山は不安げに転がっているミノタウロスを見つめて呟いた
「霊山嬢は持たずともよいだろう。なにせ、男はちょうど三人いるわけだから・・・重いな」
レイスは霊山に笑いかけたが、持ち上げようとした瞬間に顔を顰めた
と、その時
「あ、兄貴っ!姐御っ!」
ミノタウロスが声を張り上げた
一行は出口に目を向ける
そこには筋骨隆々とした巨大なミノタウロスと、
大きさは人間程ながら胸の大きな女性・・・いや、女性のミノタウロスがいた
「オウ、大丈夫かお前ら!」
「だらしないねー、人間なんか相手にやられてんじゃないよ!」
どうやらこの山賊一味のリーダーらしい
「話にはもうちょっと多いものと聞いてたのに・・・誤情報ですわねてきとーな事いいやがったのですわねあの係員」
霊山は怒りを抑え切れない
「あれが親玉か」
アースはそう言ってクロスボウに弾を込めた
「これが俺達の仕事でな。おとなしく縄につけ!」
ヴィクトは再び剣を抜き、ミノタウロスに向ける
「ふむ、女の方は中々に・・・いい」
レイスはその口上を無視して女性のミノタウロスの胸を見つめている
「胸・・・」
霊山はひどく落ち込んでいるようだ
「オウ、お前ら!俺のいない間に好き勝手やってくれたようだな!」
「ただじゃおかないよ!覚悟しな!」
二匹のミノタウロスが襲いかかってくる
「いや、霊山嬢。そちらはそちらでそそるモノが・・・ごほんっ!
とりあえずヤツラの対処が先だな」
レイスはそこでやっと正気を取り戻したようだった
最終更新:2008年05月09日 08:33