四人の冒険者がミノタウロスたちを縛り上げると、グレートミノタウロスは口を開いた
「・・・オウ!アンタら、今までに俺たちが貯め込んだ財宝・・・欲しくないか?」
「欲しいと言うか欲しくないと言うか。
お前達が奪った宝物は民衆に戻さねば」
ヴィクトは悪びれもせずそう答える
「むしろ、貴様の女をよこせ」
レイスはミノタウロスレディースに興味があるらしい
「人から奪ったもんは返さなきゃならないっすよー」
「欲しいカモ」
「ごしゅじーん!?」
「嘘」
石山と霊山は相談しているようだ
「俺たち以外には開けられない宝箱に入れている。こちらの要求を飲んでくれるなら宝を渡そう。どうだ?」
グレートミノタウロスは話しを続けた
一行は肩を組んで相談する
「皆、どうする?常識的に考えて罠だとは思うが、この状況でなにを出来るとも思えん。
私は、行ってみるのもありだと思う。ただし、その場合、ミノタウロスの一人を人質・・・いや、牛質とし、
首筋に剣を当てた状態にしておくべきだな」
とレイス
「報酬が増えるのは構わない、まず一匹を逃がして取りに行かせてはどうか」
こちらはアースだ
「行かせるなら女性の方ですわね」
霊山は違った方向から意見を述べる
「アタシら二人以外の三人を逃がしてやってくれないかい?山賊退治したという証拠が必要ならアタシらだけでも十分だろう?
それに、俺らがいなきゃコイツらはもう悪さしないだろう。」
だから・・・頼む!」
「何と言う男気!」
ヴィクトはミノタウロスレディースの言葉に感動した後で
「そうだな、宝物を牛娘に取りに行かせてから考えよう」
と付け加えた
「・・・オウ!わかった。ではコイツの縄を解いてやってくれないか」
それを聞いたグレートミノタウロスは大声で言う
だが一行は肩を組んだままだ
「・・・奴等は犯罪者だ、騙したとしても、なにも言われんよ。
頷き、解放するフリをし、縛りなおす。
財宝を手に入れたら、全員まとめてしょっぴけばいい」
レイスは言うが、ヴィクトは頭を振る
「そう言うわけにはいかん!我々が卑怯に堕しては奴ら以下。赤い蛇が見ていらっしゃるのだぞ」
「・・・だが、また暴れれば残党処理の仕事が生まれる。逃がすべきだ」
アースも小声で否定する
「すでに居なかった説」
「流石に無理があると思うっす」
霊山の提案は石山に却下された
「・・・分かったよ」
レイスはアースには素直に頷き、ヴィクには「お人よしだな」といった感じの苦笑を向けた
「牛頭ども、リーダーに感謝するんだな」
「さぁ、確認しとくれ。」
ミノタウロスレディースは宝箱を開いて地面に置き、中を見せた
宝箱の中には宝石や貴金属がザクザクと入っている
どうやら、宝物は全て本物のようだ
相当な額があるだろう
「さあ、コイツら三人を解放してくれ。」
彼女は言い放った
「・・・いいな?」
襲い掛かられないように剣を向けながら、レイスは全員に確認する
「さっさとたちさるがいい おまえたちにもおやきょうだいはいるだろう」
ヴィクトはそうカタコトで答える
アースは、ミノタウロスレディースに近寄って回復魔法をかけた
霊山はそれを確認し、ミノタウロスたちの縄を解く
「あ、兄貴、姐御・・・」
「何、心配すんな!」
ミノタウロス三人は震えていたが、それを聞いて振り返らず走り去っていった
「財宝は平等に分けるか」
アースは真っ先に口を開いた
「いや、被害にあった方にまず返してからな・・・」
ヴィクトはあくまで被害者に返したいらしい
「いや、今は分けずに鑑定に出そう。その値段で割り振るんだ」
レイスは妥当な意見を口にする
そこで、二人はヴィクトが残ったミノタウロスたちをも解放したいようであることに気づく
「・・・お人よしも大概にしておけ。私たちは仕事を請け負った。仕事を請け負うという事は責任を負う、という事だ。
下っ端を逃がすのは賛同できたが、それはリーダー格を引き渡すからこそ、だ」
レイスは釘を刺すというより、むしろ怒ってそう言う
「あの3人が放逐されたら、結局自暴自棄になってまた犯罪を犯すかもしれない。親分は必要だ、悪にも」
だが、ヴィクトも譲らない
「言い分はどうでもいい。逃がすつもりなら相手をしよう」
アースはそう言ってクロスボウを持ち上げた
「・・・頼む」
ヴィクトは頭を垂れた
「・・・やれやれ。なら、女だけだ。これは私の趣味ではないぞ?
正真正銘のリーダーまで逃がすのは、やはり危険だ。それに、どういう形であれ請け負った
仕事は最後まで遣り通すべきだ。
金だって、装備、食事、宿代と色々と必要だ。現実を見ろヴィクトリー」
諦めた様子でレイスが打開策を出した
だが、アースは眉を潜め、ヴィクトに武器を向けたまま言い放つ
「・・・お前ら、『残りは殺しました』じゃ隠せないことを理解しているのか?
一匹でも逃がすならお前が犠牲になれ。死体を見せれば、一匹でも大目に見てくれるだろう」
だがヴィクトは答える
「理解して、それでも・・・駄目だ。
レイスが死にかけて分かった。命は大事だ。仲間はもっと大事だ」
彼の意思は固いようだ
レイスは、口を開く
「その時は、私が足を引っ張ったと言ってやるさ。幸いに、私はヴィクに比べ剣術も半端、実際に手酷くやられている。
私が倒れたのを見て、アースがそれを介抱。ヴィクがなんとか親玉を取り押さえた・・・どうだ?
それにな、アース。ヴィクの剣は貴重だ。だから・・・」
その言葉の先は、必要なかった
「ご苦労様です、退治は成功したようですね」
協会委員は四人が帰ってくるのを見ると満足げに笑みを浮かべた
「捕らえたミノタウロスは・・・二人だけですか。
まぁいいでしょう。これが報酬です。
ありがとうございました。これでしばらくはこの辺りで山賊被害が起きることもないでしょう。
町の人たちがあちらで宴を開いているようです。参加しては如何ですか?」
報酬金を受け取り、断る理由もないので宴へと足を進める
「それじゃ、私は酒場の女の子たちと話してくるよ、朝にまた会おう!」
特にレイスは誰よりも早く走っていくと、一行は町民達に大いに感謝された
そして翌日、多くの人々に見送られながら冒険者達は新たな冒険へと旅立つのだった
ーENDー
after story(筆者:ID:swMDsi8w0)
「ご苦労さまです、退治に成功したようですね」
私たちを迎えた男は、しかしすぐさま顔を渋くした。
「捕らえたミノタウロスは……二人だけですか」
申し訳ない、と頭を下げるレイスに、男はいやいや、と首を左右に振った。
「まぁいいでしょう。「ありがとうございました。これでしばらくはこの辺りで山賊被害が起きることもないでしょう。」 これが報酬です。」
手渡された金貨は、最初に言われた額よりもいくばくか軽い。さすがに、二匹ではこれが限度というワケか。
「町の人たちがあちらで宴を開いているようです。参加しては如何ですか?」
◆
「ヴィクは?」
私の言葉に、アースは不機嫌そうに顔を歪めたまま答えた。
「まだへこんでいるようだ」
だろうな、と思う。
ヴィクトリー。彼は若い、こういった状況には慣れてはいないのだろう。
「……私もそんな時期があったかな?」
くい、とワインを呷る。ほのかな苦味と確かな旨み、たぶん、ヴィクにはこの味はわからんのだろうな。
ふう、と小さく溜息を吐き、宿屋に向かう。
喧騒から大きく外れたそこに、ヴィクは居た。
窓枠を両手でひしと握り、悔しさを押し込めるように歯を食いしばっている。
「……なんの用だよ」
「おっと、やっぱりバレるか。シーフじゃないし、当然かね?」
いつものようにおどけた調子で、ヴィクの隣に立つ。
――喧騒が、遠い。ここだけ世界から切り取られてしまったようだ
「体の調子はどうだ?」
霊山嬢はもう寝てるかもな、と思っていると、不意にヴィクが問うた。
「ん? ああ、アースの奴が治療してくれたよ。全く、こういう場合、美少女に介抱されるのがセオリーだろうに。
なぜ私はむさい男なんぞに解放されるかね」
そっか、とだけ言ってヴィクは空を見上げた。
何を見ているのか、なにを想っているのか。
若い情熱なんぞ、数年ほど前に棄ててしまった私には、分からなかった。
悔しいか、ヴィクトリー」
びくん、と体を震わせるヴィク。無言で震える彼の背中に、私はただただ言葉を投げつけた。
「その気持ちを忘れるな、その気持ちに飲まれるな。忘れた時、お前は夢を無くす。それに飲まれた時、
お前の心は折れる。お前は若い……けれど、強い。少なくとも、私なんぞより、ずっとな」
窓枠が軋む。ファイターとしての握力に、木は悲鳴を挙げていた。
そう、それは――ヴィクの心と同調するように。
――やれやれ。
若いっていうのは宝だが、面倒な重りでもあるんだな。
とうの昔にすす切れてしまった私には、縁遠いモノなのだが。
ふう、と溜息をつくと、ヴィクの肩を掴み、宿屋の外に引っ張り出した。
「ちょ、まっ! なにするんだよ!」
「ええい黙れ不能。こんな場所に居るから嫌な気分になるんだよ。
私たちはヒーローだぞ? そして、ヒーローに相応しいモノはなんだと思う?」
えーと、と。呆然としたまま、ヴィクは口を開いた。
「名誉、かな」
「馬鹿者が! 女に決まってるだろうが女!」
は……? と呆れたようにこちらを見てくるヴィクに対し、私は両手を掲げ、笑いかける。
「だから女だ女、ガール。今の私たちならば、寄ってくる女はそれこそ夜空の星の数ほどいるぞ?
お前の好きな貧乳から巨乳まで、選り取りみどりさ!」
いや、俺、貧乳が好きってわけじゃ――とぼやくヴィクを無視し、宴会場に引っ張りこむ。
「おねえさんがたー! こちらに我がパーティーのエースアタッカー、ヴィクトリーがいらっしゃいますよー♪」
「なっ!?」
瞬間、黄色い声が満たされた。
何人かの娘にもみくちゃにされるヴィクを尻目に、私は宴会場に舞い戻る。
「あれでは悔やんでる暇もないだろうよ」
くつくつと笑い、手近な女集団に手を振る。さて、義理は果たした。後はまあ、私も楽しもう。
最終更新:2008年05月09日 08:52