ものがたり’09冬:横浜高・涌井投手の元女房役、神奈川県立高で野球部長就任
◇愛情が人を動かす
横浜市緑区の住宅街に広がる神奈川県立霧が丘高校のグラウンド。この春、新任で野球部部長になった村田浩明教諭(23)が、ノックバットを手に選手を叱咤(しった)する。「同じミスを繰り返すな!」
5年前、04年夏の甲子園。名門・横浜高の捕手で主将だった村田教諭は、涌井秀章投手(現西武)とバッテリーを組んでベスト8に進出した。この夏優勝した駒大苫小牧に敗れた後のインタビューでは、涙をぬぐった後に目を輝かせ「指導者になって、この感激を次世代に伝えたい」と夢を語っていた。
日体大へ進学後も野球を続けたが、2年目に右肩を痛めて主力メンバーを外れ、ショックで一度は自分の生き方の目標を見失った。相談に乗った横浜高の渡辺元智監督(65)は「本気ならおれの所に勉強に来い」と一言。卒業まで1年間、大学では教員採用試験のための勉強、夕方からは母校のグラウンドで指導を手伝った。
選手からコーチに立場が変わり、恩師の偉大さを改めて知った。高度な戦術はもちろん選手の向上心をかき立てる接し方、しかり方に感激、夢中でノートに書き留めた。
神奈川県の体育教諭として採用が決まった今春。渡辺監督から一枚の色紙を授かった。直筆の言葉は「愛情が人を動かす」。赴任して半年が過ぎた今、その重みをかみしめている。「エラーに腹が立つ時もあるけど、選手は一生懸命。愛情のある厳しさなら、ついてきてくれる」
選手は地元の生徒が中心で、専用グラウンドも照明設備もない。強豪私学がひしめく神奈川では、1954年のセンバツ大会に湘南高校が出て以来、県立高の甲子園出場はない。それでも、ひたむきに夢を追う。
「いつか、いつか横浜高に勝って甲子園へ行きますよ」。全体練習を終えた午後7時。薄明かりの下、居残って素振りを続ける選手に目を細めた。


