読書メモ 整理版(第1〜44話)・3/3
場所と装い/衣装・外見
お見合いでの青佳の服(1)
落ち着いた濃紺のワンピース。アクセサリーなし。女性の柔らかさと気品を強く印象づける佇まい。
ケーキ会のときの青佳の服(6)
軽やかに編んだ黒地に小花柄のワンピースの上に結構ヴィヴィッドな赤い薄手のカーディガン。”柔らかい曲線がありつつも程よくメリハリの利いたシルエットと色合わせだ。ガーリー寄りではあるけど幼くもない。(6)”
手料理を振る舞う青佳の服(35)
ポニーテールでエプロン。若妻かな?
”髪をポニーテールに纏めているのがまた、ね。 女の人は本当にすごいね。髪型一つで雰囲気がガラッと変わる。 彼女はエプロンを外し、ぼくの対面に腰掛けた。 ニコニコと、いつもの柔らかい笑みをたたえて。”
”髪をポニーテールに纏めているのがまた、ね。 女の人は本当にすごいね。髪型一つで雰囲気がガラッと変わる。 彼女はエプロンを外し、ぼくの対面に腰掛けた。 ニコニコと、いつもの柔らかい笑みをたたえて。”
表参道デートの際の青佳の服(12)
”幾重にも極薄のシースルーレースを重ねたグレージュのスカートは上品なボリューム感。トップスはブルーのボールドストライプシャツ。”ふわっと”と”キリッと”の対比が面白い。全体的にきれいなAラインを描いたシルエットは彼女の清楚な、でもちょっと大人っぽい雰囲気をこれでもかと際立たせていた。”
” みんなこの人を見てほしい! この人がぼくの彼女だぞ!”
” みんなこの人を見てほしい! この人がぼくの彼女だぞ!”
赤いワンピースを着た青佳(12)
”普段の大ぶりな三つ編みではなくて、ちょっと高貴な感じにまとめたハーフアップ。新鮮な髪型に、まさにイタリアマジックといってもいい色使いの赤いワンピース。Iラインのシルエットは適度にフェミニン。ただし品格がある。”
”「ああ、その、とても良いと思うよ。本当に」「お気に召していただけました?」”
”「素晴らしいね。語彙が乏しくて申し訳ないけど、なんというかな、どこかのお姫様みたいだ」”
”「ああ、その、とても良いと思うよ。本当に」「お気に召していただけました?」”
”「素晴らしいね。語彙が乏しくて申し訳ないけど、なんというかな、どこかのお姫様みたいだ」”
青佳の目の描写(35)
大きな少し垂れた瞳が猛禽のように細められる。
”ぼくは彼女の大きな、少し垂れた瞳を見つめながら真心を込めて答えた。”
”瞬間錯覚した。 青佳さんの瞳が驚くほどに鋭く細められていると。本当はそんなことはないのに。何と表現すればいいんだろうか。こう、猛禽類が獲物を見つけたときみたいな感じ。 気のせいなのに妙にリアル。”
”青佳さんは答えなかった。 また鷹の瞳だ。あるいは鷲の。”
”ぼくは彼女の大きな、少し垂れた瞳を見つめながら真心を込めて答えた。”
”瞬間錯覚した。 青佳さんの瞳が驚くほどに鋭く細められていると。本当はそんなことはないのに。何と表現すればいいんだろうか。こう、猛禽類が獲物を見つけたときみたいな感じ。 気のせいなのに妙にリアル。”
”青佳さんは答えなかった。 また鷹の瞳だ。あるいは鷲の。”
ケーキ会のときの茉莉の服(6)
シルエットと布の贅沢な使い方、質感からどこかのハイブランドと思われる。”目の覚めるような濃紺のビッグシルエットシャツ。赤みがかった濃茶のスカートにも見えるワイドパンツ。シャツインでウェストをぎゅっと絞っているのが、十分フェミニンでありながらどこかマスキュリンな迫力さえ見る者に印象づける装い。(6)”
茉莉のファッション(5)
”土曜なのに黒のビジネススーツ。(中略)彼女は中分けにした長めのボブを軽く耳にかけ、勝手知ったるリビングに歩いて行く。(5)”
ローンチパーティの際のアナリースの服(7)
深い青のカジュアルドレス。
上野デートでのアナリースの衣装(42)
”大きめの花柄を抜くように編まれたレースと木綿を組み合わせたノースリーブのトップスに共布のスカート。全て柔らかい白の。”
”花柄の空隙からは下に着たインナーシャツのピンクが薄ら覗く。そして、驚くほどに硬質の白い肌が、柔和な白布から顔を出す。白のグラデーション。”
小グロワスを返しにいったときのアナリースの服(31)
”ビジネスモードのアナリースさんはライトグレーのセットアップ。典型的なビジネススタイルなのに彼女が着るとそれだけでお洒落に感じられる。”
”アナリースさんは形の良い眉の端を微かに落としてぼくを見た。なんというか、特に何もしてないのに謎の罪悪感があるな。”
”鳶色の大きな瞳は高貴な猫のそれを思わせる。ちょうど今日の彼女はライトグレーの服を着ているから、イメージとしてはロシアンブルーみたいな感じだろうか。”
”アナリースさんは形の良い眉の端を微かに落としてぼくを見た。なんというか、特に何もしてないのに謎の罪悪感があるな。”
”鳶色の大きな瞳は高貴な猫のそれを思わせる。ちょうど今日の彼女はライトグレーの服を着ているから、イメージとしてはロシアンブルーみたいな感じだろうか。”
自室でのアナリース(43)
髪を後ろで纏め眼鏡をかけている。
ドライブでの知子のファッション(38)
スクールスタイルあるいはプレッピー風のいでたち。ごく自然に後部座席のドアに手をかけてから、思い直して助手席に座った。
”真っ白な、恐らく綿のブラウス——というよりもメンズのオックスフォードシャツに近い——を肘下まで軽く腕まくりして、ほとんど黒に近いネイビーのニットタイを締めている。そして薄いグレーのフレアスカート。足下は少し踵の高い、レースが足首まで覆う黒のヒール。
” 前回会ったときの彼女は良家のお嬢様だったけど、今日はスクールスタイルというかプレッピーというか、そういう方向に振っている模様。
ただ、スカート生地の柔らかな質感と、豪華な艶が一目で分かるフェミニンな黒いハンドバッグゆえに、全体的に見てちょっと大人な雰囲気を醸し出していた。”
” バッグの事なんて全く知らないぼくでも知子さんの持っているそれ、見たことあるよ。ちょっとキルトっぽい幾何学模様の縫い目が入ったヤツ。”
”「大丈夫です! 家族にも今日はちょっと遅くなるって言ってきましたから」”
”「夜ご飯食べますよね! 私、色々調べてきました」”
”「なるほど。……ああ、念の為に1つ聞いておきたいんだけど、今日のこと、ご家族にはなんて伝えたのかな」
「? お友達とちょっと遠い美術館に行ってくる、って」
「お友達」
「はい。お友達です」
「そのお友達が私であることは?」
「言っていませんけど、……でも分かっていると思います!」”
”そして今、コーンの部分をちょこんと両手で持って舐めてる。
本人には言えないけど、小柄な体と深い茶色の髪が相まって、その姿はリスみたいでちょっと可愛い。本人には言えないけど。”
”真っ白な、恐らく綿のブラウス——というよりもメンズのオックスフォードシャツに近い——を肘下まで軽く腕まくりして、ほとんど黒に近いネイビーのニットタイを締めている。そして薄いグレーのフレアスカート。足下は少し踵の高い、レースが足首まで覆う黒のヒール。
” 前回会ったときの彼女は良家のお嬢様だったけど、今日はスクールスタイルというかプレッピーというか、そういう方向に振っている模様。
ただ、スカート生地の柔らかな質感と、豪華な艶が一目で分かるフェミニンな黒いハンドバッグゆえに、全体的に見てちょっと大人な雰囲気を醸し出していた。”
” バッグの事なんて全く知らないぼくでも知子さんの持っているそれ、見たことあるよ。ちょっとキルトっぽい幾何学模様の縫い目が入ったヤツ。”
”「大丈夫です! 家族にも今日はちょっと遅くなるって言ってきましたから」”
”「夜ご飯食べますよね! 私、色々調べてきました」”
”「なるほど。……ああ、念の為に1つ聞いておきたいんだけど、今日のこと、ご家族にはなんて伝えたのかな」
「? お友達とちょっと遠い美術館に行ってくる、って」
「お友達」
「はい。お友達です」
「そのお友達が私であることは?」
「言っていませんけど、……でも分かっていると思います!」”
”そして今、コーンの部分をちょこんと両手で持って舐めてる。
本人には言えないけど、小柄な体と深い茶色の髪が相まって、その姿はリスみたいでちょっと可愛い。本人には言えないけど。”
フレンチレストランでの知子の外見(22)
”サイドから編み込んだ髪型がよく似合う、まだ少女と形容して問題ない年頃”
レストランでの知子の服(29)
淡いクリーム色の、首元に繊細なレースがあしらわれたブラウスの上に濃紺の上質なジャケット。ぼくへの謝罪の誠意を示すために知子が頑張って考えた。良家のお嬢様のよそ行き姿。
”しかし今日、淡いクリーム色の、首元に繊細なレースがあしらわれたブラウスの上に濃紺の上質なジャケットを身につけた彼女は、再び彼の見慣れた存在へと転化した。”
”社会人女性のスーツとも違う、しかし折り目正しい装い。落ち着いた仕草と丁寧な口調。大学生とも社会人とも言いがたいその様は、あえて形容するならば「良家のお嬢様のよそ行き姿」とでも評するところだろう。”
”しかし今日、淡いクリーム色の、首元に繊細なレースがあしらわれたブラウスの上に濃紺の上質なジャケットを身につけた彼女は、再び彼の見慣れた存在へと転化した。”
”社会人女性のスーツとも違う、しかし折り目正しい装い。落ち着いた仕草と丁寧な口調。大学生とも社会人とも言いがたいその様は、あえて形容するならば「良家のお嬢様のよそ行き姿」とでも評するところだろう。”
知子の謝罪の服(30)
ぼくからの視点。上品で上質な服を着なれている彼女に、背後のしかるべきおうちの存在を感じて怯えるぼく。
”2週間ぶりに出会った島津さんは驚くほどに「良家のお嬢様」だった。 前回がギャルソンとかJWアンダーソンとか好きそうなアート系少女って感じだったから、そのギャップにまず驚いた。次に、適度に上品で上質な服装があまりにも見事にはまっていることに衝撃を受けた。それはつまり、そういうものを着慣れてるってことだからね。”
”ぼくの危険センサーが激しく反応している。 彼女は良家のお嬢様っぽいんじゃなくて、正真正銘「良家のお嬢様」である可能性が高い。つまり、後ろにはしかるべき「お家」がある。”
”さぁ、考えてみよう。 大切に育てた娘が得体の知れない30代半ばのおじさんと知り合いになったというこの状況。親御さんはどう思うかな。”
”服もバッグも靴も、ブランドの名前はどこにも書かれていないながら全てがかなり上質な物であることはすぐに分かる。その上、彼女は全部「身につけ慣れている」。”
”2週間ぶりに出会った島津さんは驚くほどに「良家のお嬢様」だった。 前回がギャルソンとかJWアンダーソンとか好きそうなアート系少女って感じだったから、そのギャップにまず驚いた。次に、適度に上品で上質な服装があまりにも見事にはまっていることに衝撃を受けた。それはつまり、そういうものを着慣れてるってことだからね。”
”ぼくの危険センサーが激しく反応している。 彼女は良家のお嬢様っぽいんじゃなくて、正真正銘「良家のお嬢様」である可能性が高い。つまり、後ろにはしかるべき「お家」がある。”
”さぁ、考えてみよう。 大切に育てた娘が得体の知れない30代半ばのおじさんと知り合いになったというこの状況。親御さんはどう思うかな。”
”服もバッグも靴も、ブランドの名前はどこにも書かれていないながら全てがかなり上質な物であることはすぐに分かる。その上、彼女は全部「身につけ慣れている」。”
フレンチレストランでの由理の服(21)
絵になる。
”で、彼は入口付近の席に腰掛けてぼうっと中空を眺めてた。長い金髪を後ろに流し一本に縛って、シアサッカーのジャケットを着て、金縁の眼鏡をかけてる。ファッション誌の撮影かな?”
”で、彼は入口付近の席に腰掛けてぼうっと中空を眺めてた。長い金髪を後ろに流し一本に縛って、シアサッカーのジャケットを着て、金縁の眼鏡をかけてる。ファッション誌の撮影かな?”
ぼくのショッピングモールでのファッション(17)
どこか浮世離れして、知子が知らないタイプ。
” 中背中肉の男。薄手の深いカーキセットアップ。”
”見たところ40までは行かない。20代後半から30代半ば。”
”その落ち着いた、少々意地悪い表現をすれば「毒気を抜かれた」姿はどこか浮世離れした空気を纏っていた。”
”知子ちかこが見知った年上の男達は皆、どんな外面を持ちこそすれ、その体内に強烈な活力を秘めていた。翻って目の前で困ったように薄い笑みを浮かべる男にはそれがない。”
” 中背中肉の男。薄手の深いカーキセットアップ。”
”見たところ40までは行かない。20代後半から30代半ば。”
”その落ち着いた、少々意地悪い表現をすれば「毒気を抜かれた」姿はどこか浮世離れした空気を纏っていた。”
”知子ちかこが見知った年上の男達は皆、どんな外面を持ちこそすれ、その体内に強烈な活力を秘めていた。翻って目の前で困ったように薄い笑みを浮かべる男にはそれがない。”
ぼくのレストランでの服(29)
ペンシルストライプのスーツに身を包み、薄いブルーのシャツにより鮮やかな青のモノトーンペイズリータイ。フォーマルすぎず、ラフ過ぎずな装い。知子の謝罪をきちんと受け止める姿勢が感じられる。
”一方で、彼が知子の謝罪を相応の礼をもって受け入れようと望んだことはその装いから理解することができる。”
”男はペンシルストライプのスーツに身を包み、薄いブルーのシャツにより鮮やかな青のモノトーンペイズリータイを合わせていた。フォーマルに行きすぎれば相手を萎縮させ、ラフに過ぎれば相手を侮ることになる。ゆえにその中間をうまく縫って構築された装い。”
”一方で、彼が知子の謝罪を相応の礼をもって受け入れようと望んだことはその装いから理解することができる。”
”男はペンシルストライプのスーツに身を包み、薄いブルーのシャツにより鮮やかな青のモノトーンペイズリータイを合わせていた。フォーマルに行きすぎれば相手を萎縮させ、ラフに過ぎれば相手を侮ることになる。ゆえにその中間をうまく縫って構築された装い。”
ブティックのショーウィンドウのマネキンの服(30)
ジュイ布のワンピース。中古の軽自動車が買えそうな品。
”マネキンが纏うのは白と紺の入り交じった色のワンピース。素材の感じからいって秋冬物か。地は白だけど、青色で転写された細密な絵柄の密度が濃いために一見紺にも思われる。 ジュイ布だね。”
”マネキンが纏うのは白と紺の入り交じった色のワンピース。素材の感じからいって秋冬物か。地は白だけど、青色で転写された細密な絵柄の密度が濃いために一見紺にも思われる。 ジュイ布だね。”
大ぶりなスカーフ(12)
赤いワンピースを気に入ったとみえるぼくに店員が追加したスカーフ。ヘビの意匠あり。
” 大ぶりなスカーフ。このブランドのロゴで構成されたモノグラムの上に、黒い大きな蛇のシルエットが描かれている。ベテラン店員さんはそれを軽く折って三沢さんの肩にかけた。”
”名人芸をぼんやり眺めるぼくと対称的に、三沢さんはさっきまでのほんわかした表情を消して、真剣な眼差しでじっと鏡を凝視している。 その横顔は驚くほどに研ぎ澄まされた、高貴さの結晶のように思われた。”
” 大ぶりなスカーフ。このブランドのロゴで構成されたモノグラムの上に、黒い大きな蛇のシルエットが描かれている。ベテラン店員さんはそれを軽く折って三沢さんの肩にかけた。”
”名人芸をぼんやり眺めるぼくと対称的に、三沢さんはさっきまでのほんわかした表情を消して、真剣な眼差しでじっと鏡を凝視している。 その横顔は驚くほどに研ぎ澄まされた、高貴さの結晶のように思われた。”
宝石のような鳶色の瞳(42)
アントワンのイメージキャラ抜擢に反対姿勢を貫くぼくをじっと見つめたアナリースの瞳。ぼくは視線を外した途端に襲いかかってくる猛獣を幻視した。
”『私は運命論に与しません。つまり、決して諦めません』”
深い赤のワンピース(12)
青佳とのデート中、ふらっと入ったイタリアブランド店でぼくの目を引いた服。3桁近い。胸元に蛇の繊細なレース飾りがある。大ぶりのスカーフとあわせてぼくが購入。
”ワインレッドよりもほんのちょっと明るい。だけど朱色ともまた違う絶妙の中間色。滑らかな超高番手のウール(たぶん)の上、胸元に同色の繊細なレース飾りが縫い付けられている。 面白いのが、よくよく見るとレース編みの模様が小さな蛇のモチーフになってるんだ。”
”そんな派手な感じではなくて、遠目には無地に見える同色の控えめなものだった。”
”「ああ、これは蛇なのか」「イタリアでは蛇は幸運の象徴なんですよ。私どもの大切なモチーフで、毎シーズン必ず出るアイテムですけど、こちらは秋冬の新作で……」 すると意外なことに三沢さんが食いついてきた。「たしかに、よく見ると蛇の模様ですね。かわいい」「三沢さんは蛇が大丈夫なタイプなんだね」「はい。蛇は好きです。……親しみを感じるんです。とても身近に感じます」”
” つまりこれがぼくと三沢さんの関係ということになる。 ぼくはお金で好意を買ったんだ。他に差し出せる物がないから。 素晴らしいね。”
” 夕食時、服を贈ったぼくに三沢さんは感謝してくれた。喜んでくれた。 でも、少し、ちょっとだけ不服そうだった。
「こんなことをしていただかなくても、わたしはお側を離れません」
お金を払わなくてもぼくの側に居るといったんだ。このぼくの側に。 ぼくは偶然、運命によって与えられたお金以外何も持ってない。なのに、そんなぼくに他の何かを寄越せと言う。他に差し出せるものがないか頑張って探したけど、残念ながら見つからなかった。 残酷な言葉だ。
ちょっと手が震えてワインを零してしまった。 白いテーブルクロスに散った飛沫は一瞬でどす黒く変色した。 ぼくは照れたように苦笑した。
「ああ……私はどう頑張っても、いつも何かを零してしまう」「ええ。前もよくお菓子を食べ零されていました。でもこれからは私がちゃんとお世話しますから。——陛下」 ぼくの失態をうやむやにしてくれる彼女なりの冗談は、ときに、本当に鋭く臓腑を抉る。”
” 彼女はいい人だ。 ぼくのことを思ってくれる。優しい人だね。”
”ワインレッドよりもほんのちょっと明るい。だけど朱色ともまた違う絶妙の中間色。滑らかな超高番手のウール(たぶん)の上、胸元に同色の繊細なレース飾りが縫い付けられている。 面白いのが、よくよく見るとレース編みの模様が小さな蛇のモチーフになってるんだ。”
”そんな派手な感じではなくて、遠目には無地に見える同色の控えめなものだった。”
”「ああ、これは蛇なのか」「イタリアでは蛇は幸運の象徴なんですよ。私どもの大切なモチーフで、毎シーズン必ず出るアイテムですけど、こちらは秋冬の新作で……」 すると意外なことに三沢さんが食いついてきた。「たしかに、よく見ると蛇の模様ですね。かわいい」「三沢さんは蛇が大丈夫なタイプなんだね」「はい。蛇は好きです。……親しみを感じるんです。とても身近に感じます」”
” つまりこれがぼくと三沢さんの関係ということになる。 ぼくはお金で好意を買ったんだ。他に差し出せる物がないから。 素晴らしいね。”
” 夕食時、服を贈ったぼくに三沢さんは感謝してくれた。喜んでくれた。 でも、少し、ちょっとだけ不服そうだった。
「こんなことをしていただかなくても、わたしはお側を離れません」
お金を払わなくてもぼくの側に居るといったんだ。このぼくの側に。 ぼくは偶然、運命によって与えられたお金以外何も持ってない。なのに、そんなぼくに他の何かを寄越せと言う。他に差し出せるものがないか頑張って探したけど、残念ながら見つからなかった。 残酷な言葉だ。
ちょっと手が震えてワインを零してしまった。 白いテーブルクロスに散った飛沫は一瞬でどす黒く変色した。 ぼくは照れたように苦笑した。
「ああ……私はどう頑張っても、いつも何かを零してしまう」「ええ。前もよくお菓子を食べ零されていました。でもこれからは私がちゃんとお世話しますから。——陛下」 ぼくの失態をうやむやにしてくれる彼女なりの冗談は、ときに、本当に鋭く臓腑を抉る。”
” 彼女はいい人だ。 ぼくのことを思ってくれる。優しい人だね。”
食と趣味/食事・料理・飲酒
| 項目 | 話数 |
|---|---|
| 青佳さんはアルパカを良く思っていない(37) | 37 |
| ぼくが買ったお菓子(36) | 36 |
| ぼくの好きなお酒(21) | 21 |
| かなり大きめのチョコレートケーキ(6) | 6 |
| フランス料理(21) | 21 |
| 六本木の某老舗イタリア料理屋(11) | 11 |
| たらこソースシシリー風スパゲティ(21) | 21 |
| ほうれんそうや黒豆(21) | 21 |
| ほうれん草さん(44) | 44 |
| アルパカ(12) | 12 |
| アルパカの単位(18) | 18 |
| タイあら(28) | 28 |
| タバコ(22) | 22 |
| 二人でワインを飲む(25) | 25 |
| 大好きなシチュー屋(3) | 3 |
| 子羊のグリル(11) | 11 |
| 朝からアルパカはよくない(34) | 34 |
| 牛乳瓶の蓋(18) | 18 |
| 親友アルパカ(28) | 28 |
| 赤い液体(35) | 35 |
| 飛び散ったシャンパン(25) | 25 |
| 食い尽くしおじ(6) | 6 |
青佳さんはアルパカを良く思っていない(37)
”最近ぼくが雇った家事サービスのスタッフさん——青佳さんは、ぼくが南米原産のもふもふした生き物と戯れることをあまりよく思っていない。”
”昔、お酒をほとんど飲まなかった頃は、度数の強いワインなんてその匂いだけでくらっときたな。容易に飲み込めず、口内に溜めてちびちび飲み下した。
今はね、喉に直接流し込めるようになった。
人間には不可能はない。訓練は何事も可能にする。ぼくはワインを水のように、喉を鳴らして飲めるようになった。これは凄いことだよ。
さて、こういう下らない、結論の見えない思考は皆殺しにして、続きを書こう。”
”昔、お酒をほとんど飲まなかった頃は、度数の強いワインなんてその匂いだけでくらっときたな。容易に飲み込めず、口内に溜めてちびちび飲み下した。
今はね、喉に直接流し込めるようになった。
人間には不可能はない。訓練は何事も可能にする。ぼくはワインを水のように、喉を鳴らして飲めるようになった。これは凄いことだよ。
さて、こういう下らない、結論の見えない思考は皆殺しにして、続きを書こう。”
ぼくが買ったお菓子(36)
ポテチとチョコパイ。こどもかな?
”彼が差し出してきたのはチョコレートで包まれたパイが個包装でいくつか入った箱。
「あ! これ、私も好きです」
「三沢さんもか。ぼくは子どもの頃よく食べた。本当に久しぶりだから妙に心が躍るね」”
”彼が差し出してきたのはチョコレートで包まれたパイが個包装でいくつか入った箱。
「あ! これ、私も好きです」
「三沢さんもか。ぼくは子どもの頃よく食べた。本当に久しぶりだから妙に心が躍るね」”
ぼくの好きなお酒(21)
シャンパンとアルパカ。
”同様の理由からぼくはシャンパンをこよなく愛し、アルパカをこよなく愛する。シャンパンは泡が破壊してくれる。複雑さを。アルパカには複雑さがない。”
”あ、ぼくは一番安いシャンパンをエンドレスで飲むよ。断固。味を消してくれるからね。複雑な肉の。”
”同様の理由からぼくはシャンパンをこよなく愛し、アルパカをこよなく愛する。シャンパンは泡が破壊してくれる。複雑さを。アルパカには複雑さがない。”
”あ、ぼくは一番安いシャンパンをエンドレスで飲むよ。断固。味を消してくれるからね。複雑な肉の。”
かなり大きめのチョコレートケーキ(6)
青佳がうっかり作ってしまった、ちょっと大きなケーキ。とてもおいしい。相伴を誘われたぼくは青佳との現在の関係性をかんがみ、茉莉を巻き込むことにした。
フランス料理(21)
ぼくの好物。単純に量が少なくて、すぐに食べ終えることができるため。高い料理やお酒の持つ複雑な味は、ぼくに文化的に禁忌とされる”複雑な肉”を連想させて嫌い。
”行儀作法を考えなければ一口でいける。目を瞑って二、三回嚙んで飲み込めばそれで済む。素晴らしいね。”
”ぼくは食にも酒にも興味が薄い。これははっきりと自覚している。食べる理由は生存に必要だから。それ以上でも以下でもない。
” 高い料理やお酒に関しては、さらに一歩踏み込んで、明確に「嫌い」と言える。高いお店の高級な料理やお酒って”複雑”でしょ。色々なフレーバーや味覚が混ざり合って口の中で見事なハーモニーを奏でるあの感じ。あれが駄目なんだ。”
” 複雑なものを食べるとね、どうしても変な連想をしてしまう。食べ物よりも身近な物、文化的な禁忌として定められた例の複雑な肉を食べている気分になる。”
”複雑な料理はその変容した「物」を「生き物」へと復元してしまう。すると、自分が認識できる最も複雑で最も気持ち悪いもの、自身の肉体、自分の肉を想起させることになる。 こんなことは誰にも言えない。明らかに「何とかフォビア」とか病名が付くやつだ。”
”行儀作法を考えなければ一口でいける。目を瞑って二、三回嚙んで飲み込めばそれで済む。素晴らしいね。”
”ぼくは食にも酒にも興味が薄い。これははっきりと自覚している。食べる理由は生存に必要だから。それ以上でも以下でもない。
” 高い料理やお酒に関しては、さらに一歩踏み込んで、明確に「嫌い」と言える。高いお店の高級な料理やお酒って”複雑”でしょ。色々なフレーバーや味覚が混ざり合って口の中で見事なハーモニーを奏でるあの感じ。あれが駄目なんだ。”
” 複雑なものを食べるとね、どうしても変な連想をしてしまう。食べ物よりも身近な物、文化的な禁忌として定められた例の複雑な肉を食べている気分になる。”
”複雑な料理はその変容した「物」を「生き物」へと復元してしまう。すると、自分が認識できる最も複雑で最も気持ち悪いもの、自身の肉体、自分の肉を想起させることになる。 こんなことは誰にも言えない。明らかに「何とかフォビア」とか病名が付くやつだ。”
六本木の某老舗イタリア料理屋(11)
ぼくがレスパンから「この人を見よ」への出演について相談を受けた。
”「女性人気……。信じられませんね。あの話、ヒロインなんてそれこそ皆舞台装置みたいなものなのに」「いや、そうでもない。私の知人の女性も何人かハマってるから。その子はヒロインが自分に似てるって嬉しそうにしていた」”
”「上手くやれるよ。きみなら。グロワス13世はそんなに複雑なキャラクターじゃない。果敢な行動をカッコよく演じられれば及第点。胸に秘めた懊悩と激情をどう表現するかがポイントだけど、それはまぁプロのきみの方が詳しいだろうから」”
”「女性人気……。信じられませんね。あの話、ヒロインなんてそれこそ皆舞台装置みたいなものなのに」「いや、そうでもない。私の知人の女性も何人かハマってるから。その子はヒロインが自分に似てるって嬉しそうにしていた」”
”「上手くやれるよ。きみなら。グロワス13世はそんなに複雑なキャラクターじゃない。果敢な行動をカッコよく演じられれば及第点。胸に秘めた懊悩と激情をどう表現するかがポイントだけど、それはまぁプロのきみの方が詳しいだろうから」”
たらこソースシシリー風スパゲティ(21)
5年前、ぼくと由理が深夜のファミレスでむさぼる姿が週刊誌に撮影された。のちに由理のマネージャーが菓子折持参で謝罪に来た。
”ぼくの家でまったり飲んでたのに、突如彼が日本文学の私小説的伝統はけしからん、みたいに切れだして、議論になって、気がつけばファミレス。深夜の。そこを写真週刊誌に撮られた。”
”「確かに! 先輩の方がくっきり写ってましたからね。あれはきっと編集部で誰かつるし上げられてますよ。タイトルも『世界に羽ばたくモデル由理の、意外にも庶民的な深夜の姿』だったかな」”
”ぼくの家でまったり飲んでたのに、突如彼が日本文学の私小説的伝統はけしからん、みたいに切れだして、議論になって、気がつけばファミレス。深夜の。そこを写真週刊誌に撮られた。”
”「確かに! 先輩の方がくっきり写ってましたからね。あれはきっと編集部で誰かつるし上げられてますよ。タイトルも『世界に羽ばたくモデル由理の、意外にも庶民的な深夜の姿』だったかな」”
ほうれんそうや黒豆(21)
ぼくが苦手な食べ物。目を瞑ってぎゅっと飲み下す模様。
ほうれん草さん(44)
ぼくが「人であれ動物であれ物であれ、とにかく相手に心地よくなってほしい」と考えていることを見抜いたぼくの母が、ぼくに苦手なほうれん草を食べさせるために(?)使用した言葉。
”ぼくは「ほうれん草さん」を悲しませたことが申し訳なくて情けなくて、いつも泣きそうになったよ。そして食べた。あの生臭い葉っぱを。ぼくの舌が覚える苦しみなんて、彼あるいは彼女の悲嘆に比べれば何ほどのものでもないからね。”
アルパカ(12)
青佳とのデート後にぼくが買ったワイン。かわいいアルパカの書かれたラベルで有名。
” 三沢さんと駅で別れた後、ぼくはコンビニでワインを買った。 ラベルがかわいいのでお気に入りのやつだ。アルパカが描かれてる。実際のところはウィスキーでも焼酎でもウォッカでもなんでもいいんだけど、かわいさ勝負でアルパカ。彼、あるいは彼女は立派に仕事をしてる。広告塔として役立ってる。 つまみは買わなかった。不・純・物・が入ると酔いが薄まるから。”
”グラスに注ぐのももどかしく、ぼくはワインの瓶に直接口を付ける。カッコいい仕草。かわいいアルパカを飲み干してやる。”
” 頭の中を赤い液体が駆け回る。 目の裏がちかちかする。
「こいつ、早く死んだ方が王朝のためになったんじゃない?」
さっき、世界史の授業のことを考えていたからだろう、そんなぼんくらな王様がいっぱい居たことを、十数年ぶりくらいに思い出した。
「グロワス王とは大違いだ。でも、ああいう王様は現実にはいないよ。だからこそ尊い」
独り言をしっかり口に出して、空になった瓶をテーブルに置く。”
” 三沢さんと駅で別れた後、ぼくはコンビニでワインを買った。 ラベルがかわいいのでお気に入りのやつだ。アルパカが描かれてる。実際のところはウィスキーでも焼酎でもウォッカでもなんでもいいんだけど、かわいさ勝負でアルパカ。彼、あるいは彼女は立派に仕事をしてる。広告塔として役立ってる。 つまみは買わなかった。不・純・物・が入ると酔いが薄まるから。”
”グラスに注ぐのももどかしく、ぼくはワインの瓶に直接口を付ける。カッコいい仕草。かわいいアルパカを飲み干してやる。”
” 頭の中を赤い液体が駆け回る。 目の裏がちかちかする。
「こいつ、早く死んだ方が王朝のためになったんじゃない?」
さっき、世界史の授業のことを考えていたからだろう、そんなぼんくらな王様がいっぱい居たことを、十数年ぶりくらいに思い出した。
「グロワス王とは大違いだ。でも、ああいう王様は現実にはいないよ。だからこそ尊い」
独り言をしっかり口に出して、空になった瓶をテーブルに置く。”
アルパカの単位(18)
一本、二本ではなく一匹、二匹と数える。
”一匹目のアルパカを腹に収めたあたりでぼくの蒙は開かれた。”
”あ、アルパカ1匹は寂しいからね。もう1匹行こう。”
”一匹目のアルパカを腹に収めたあたりでぼくの蒙は開かれた。”
”あ、アルパカ1匹は寂しいからね。もう1匹行こう。”
タイあら(28)
そのままあらすじになっているタイトル。なろうのはやり。
”最近覚えた言葉に「タイあら」というのがあるよ。これはタイトル・あらすじの略らしい。インターネットの小説サイトって凄く巨大で作品がたくさん掲載されてる。そんな中で自分のお話を読んでもらうためには、とにもかくにも読者の目を惹かなければいけない。 だからぼくも頑張って、読んでもらえるようなあらすじを考えた。”
”最近覚えた言葉に「タイあら」というのがあるよ。これはタイトル・あらすじの略らしい。インターネットの小説サイトって凄く巨大で作品がたくさん掲載されてる。そんな中で自分のお話を読んでもらうためには、とにもかくにも読者の目を惹かなければいけない。 だからぼくも頑張って、読んでもらえるようなあらすじを考えた。”
タバコ(22)
ぼくはもう何年も吸っていなかった。描写からは葉巻も経験していることが読み取れる。
”知っているかな。紙巻きタバコと違ってパイプや葉巻は煙を肺まで入れない。口内で転がしながら、微かに漏れ出るものを啜るように楽しむんだ。 なぜって、強すぎるからね。”
”そしてぼくは勢いよく、葉巻を吸い込んだ。 肺の奥まで。”
”急激に強い煙草を吸ったときにそれは起こる。強烈な息苦しさと目眩が。これこそがぼくが望むものだ 余計な思考の息の根をしっかりと止めてくれるもの。 ぼくの息の根を、しっかりと止めてくれ。”
”知っているかな。紙巻きタバコと違ってパイプや葉巻は煙を肺まで入れない。口内で転がしながら、微かに漏れ出るものを啜るように楽しむんだ。 なぜって、強すぎるからね。”
”そしてぼくは勢いよく、葉巻を吸い込んだ。 肺の奥まで。”
”急激に強い煙草を吸ったときにそれは起こる。強烈な息苦しさと目眩が。これこそがぼくが望むものだ 余計な思考の息の根をしっかりと止めてくれるもの。 ぼくの息の根を、しっかりと止めてくれ。”
二人でワインを飲む(25)
”その後ぼくたちはワインを空けた。1本の瓶を分け合ってね。 グラスに注ぐのも面倒だから、直接飲んだよ。”
”トイレに行くときは当然外してくれたけど、ぼくが居残る場合はご丁寧にリビングのスチールラックの柱に片方を括り付けていく。すごいね。”
”彼女お酒弱いからね。 ちょっと飲むとすぐうとうとして、そこからちょっと深い眠りに入る。30分かそこら。 そして起き出してくる。起きるというより半覚醒かな。 そしてぼくの胸とか腕とかに顔をこすりつけて、また眠る。おかげでぼくのTシャツは凄いことになってる。彼女の化粧で。 ぼくはそんな彼女を適当にあやしながらワインを飲み続ける。”
”この良き日の終わりには。”
”トイレに行くときは当然外してくれたけど、ぼくが居残る場合はご丁寧にリビングのスチールラックの柱に片方を括り付けていく。すごいね。”
”彼女お酒弱いからね。 ちょっと飲むとすぐうとうとして、そこからちょっと深い眠りに入る。30分かそこら。 そして起き出してくる。起きるというより半覚醒かな。 そしてぼくの胸とか腕とかに顔をこすりつけて、また眠る。おかげでぼくのTシャツは凄いことになってる。彼女の化粧で。 ぼくはそんな彼女を適当にあやしながらワインを飲み続ける。”
”この良き日の終わりには。”
大好きなシチュー屋(3)
ぼくが見合いに青佳をエスコートした。食前酒! はシャンパンでおしゃれ。東京っぽい。”歌舞伎座の脇を抜けて路地を入ったところにあるこぢんまりとした店。ここのシチューは和風でね。お茶碗に盛られたご飯。お新香。そして絶品のシチュー。小さな土鍋に入ってる。”
子羊のグリル(11)
六本木の某有名イタリア料理店でぼくとレスパンが食べた。上等な赤ワインをあわせて。
”昔はぼくが奢ったものだけど、そろそろぼくの方が彼に集っても良い頃合いではなかろうか。彼も売れっ子だ。なのにぼくと食事するとき、由理くんはいつもぼくにごちそうしてほしがる。”
※ラケディア・・・!
”昔はぼくが奢ったものだけど、そろそろぼくの方が彼に集っても良い頃合いではなかろうか。彼も売れっ子だ。なのにぼくと食事するとき、由理くんはいつもぼくにごちそうしてほしがる。”
※ラケディア・・・!
朝からアルパカはよくない(34)
PV10000におびえ批判コメにへこんだぼくは、朝からアルパカを飲み、夜20時まで寝た。ヒロインたちから心配のメール多数。ぼくはお子様見守りサービスに例えた。
”朝から飲むのはよくないね。 半ば無職のような生活をしているからできることだけど、それでもあまりの背徳感に目眩がする。 親愛なるアルパカ氏が1匹息絶えて、ぼくの意識も途絶えた。 起きたら20時。”
”皆文章がうまい。どうでもいい話を装いつつ、ぼくが必ず返事をしなければならない形式の内容になってるからね。”
”これはひょっとすると高齢者の方用の突然死見守りサービスに近いのかもしれない。”
”冗談抜きで、みんなにいらぬ心配をかけるのは申し訳ない。 ぼくが大丈夫であることの外観をしっかり見せていく必要があるな。”
”朝から飲むのはよくないね。 半ば無職のような生活をしているからできることだけど、それでもあまりの背徳感に目眩がする。 親愛なるアルパカ氏が1匹息絶えて、ぼくの意識も途絶えた。 起きたら20時。”
”皆文章がうまい。どうでもいい話を装いつつ、ぼくが必ず返事をしなければならない形式の内容になってるからね。”
”これはひょっとすると高齢者の方用の突然死見守りサービスに近いのかもしれない。”
”冗談抜きで、みんなにいらぬ心配をかけるのは申し訳ない。 ぼくが大丈夫であることの外観をしっかり見せていく必要があるな。”
牛乳瓶の蓋(18)
アナリースからの時計のプレゼントに対してぼくが返せる見返りのたとえ。
”ぼくの子どもの頃は給食の牛乳は瓶で出たんだ。その蓋を集めるのが一時流行った。男子は常に何かを集めたがる生き物だ——でいいと言われたら、その言葉を素直に受け止められるかな。それができる人は大物になるよ。”
”ぼくの子どもの頃は給食の牛乳は瓶で出たんだ。その蓋を集めるのが一時流行った。男子は常に何かを集めたがる生き物だ——でいいと言われたら、その言葉を素直に受け止められるかな。それができる人は大物になるよ。”
親友アルパカ(28)
ぼくがラッパ飲みする。
赤い液体(35)
最近のぼくの栄養源。栄養になると同時にごちゃごちゃ考えずにすむようにしてくれる。さすがにちょっとヤバいかなと感じ始めた。
”さて、この充実した食生活も、そろそろ破綻を来そうとしている。 最近ちょっと食べなすぎた。 ここだけの話、すぐそこのコンビニに行くのも面倒なんだ。”
”最近、もっぱら栄養は液体から摂取している。果物から作った赤い液体ね。あれはいい。身体を生かしてくれると同時に精神——この小うるさい塊——を殺してくれるから。”
”赤い液体は頼りになるけど、そろそろ本格的に危険な感じがある。”
”さて、この充実した食生活も、そろそろ破綻を来そうとしている。 最近ちょっと食べなすぎた。 ここだけの話、すぐそこのコンビニに行くのも面倒なんだ。”
”最近、もっぱら栄養は液体から摂取している。果物から作った赤い液体ね。あれはいい。身体を生かしてくれると同時に精神——この小うるさい塊——を殺してくれるから。”
”赤い液体は頼りになるけど、そろそろ本格的に危険な感じがある。”
飛び散ったシャンパン(25)
「あの人達」の会食中、ぼくは動転するあまり、グラスをテーブルに激しく置いた?
”「分かりました。とすると、あのときシャンパンが派手に飛び散ったのは喜びのためですね」「ああ、気づかなかったな。だから妙に量が少なかったのか、飲み干したとき。それはもったいないことをした。あそこのシャンパンは美味しいからね」”
”「分かりました。とすると、あのときシャンパンが派手に飛び散ったのは喜びのためですね」「ああ、気づかなかったな。だから妙に量が少なかったのか、飲み干したとき。それはもったいないことをした。あそこのシャンパンは美味しいからね」”
食い尽くしおじ(6)
食い意地が張ったおじさん。NSに晒し上げられ、2万RTされる危険がある。
食と趣味/美術・音楽・読書・趣味
| 項目 | 話数 |
|---|---|
| ぼくが捨てた本やCD(23) | 23 |
| ぼくの趣味(4) | 4 |
| ぼくの趣味(28) | 28 |
| 子供の頃のぼくの趣味(7) | 7 |
| 子供の頃のぼくの趣味(38) | 38 |
| 愛の死(24) | 24 |
| 美術館併設のレストラン(39) | 39 |
| ポロックの作品(39) | 39 |
| ロスコ・ルーム(39) | 39 |
| 無料の美術館(12) | 12 |
| 西洋絵画の進化について(39) | 39 |
| still life(17) | 17 |
| 『リチャードと羊』(24) | 24 |
| いざとなれば処分できる趣味の品(15) | 15 |
| かわいい白鳥(39) | 39 |
| ゴルフ(26) | 26 |
| ゴルフ場での会話(26) | 26 |
| 抽象表現主義(39) | 39 |
| 残っている哲学書(37) | 37 |
| 母校の野球応援歌(13) | 13 |
| 玄宗皇帝(12) | 12 |
| 衒学的(24) | 24 |
| 青、黒、灰褐色のコンポジション(38) | 38 |
ぼくが捨てた本やCD(23)
”『ニーベルングの指輪』『トリスタンとイゾルデ』『タンホイザー』『パルジファル』。彼が好きだと言った作曲家のCDが無造作に積上げられている。
『精神現象学』『歴史哲学講義』『存在と無』『実存主義とは何か』『文学と何か』『シチュアシオン』『幸福な死』。 哲学書と小説もまた。”
”空隙があった。 隣家の壁が邪魔をして日当たりの悪い部屋の中に、この時間奇跡的に入り込んだ陽光は、漂う埃すらも高貴な雪の結晶のごとく浮かび上がらせる。 結晶はふわりと、自然の法則に従って落下する。 女の瞳はそれを追った。 ”ゴミ置き場”の一角にそれは落ちた。 正確には一冊の本とその上に無造作に置かれた一枚のCDの上に。 そこには「彼の子ども」がいた。——決して長くは生きず、育たなかった、彼の幼子が。”
『精神現象学』『歴史哲学講義』『存在と無』『実存主義とは何か』『文学と何か』『シチュアシオン』『幸福な死』。 哲学書と小説もまた。”
”空隙があった。 隣家の壁が邪魔をして日当たりの悪い部屋の中に、この時間奇跡的に入り込んだ陽光は、漂う埃すらも高貴な雪の結晶のごとく浮かび上がらせる。 結晶はふわりと、自然の法則に従って落下する。 女の瞳はそれを追った。 ”ゴミ置き場”の一角にそれは落ちた。 正確には一冊の本とその上に無造作に置かれた一枚のCDの上に。 そこには「彼の子ども」がいた。——決して長くは生きず、育たなかった、彼の幼子が。”
ぼくの趣味(4)
時計のコレクション。毎日別の時計をつけているほど。ブラウネはコレクションの全貌と総額を調査し、結婚後は控えてもらう決意をした。
” ——殿方の趣味は本当によく分かりません。腕は二本しかないのに、なぜあれほどに多くの時計を持つのでしょうか。これはいけませんね。婚姻の後は少し控・え・て・いただかなくては。この世界では子どもの教育にそれはお金がかかりますから。(4)”
” ——殿方の趣味は本当によく分かりません。腕は二本しかないのに、なぜあれほどに多くの時計を持つのでしょうか。これはいけませんね。婚姻の後は少し控・え・て・いただかなくては。この世界では子どもの教育にそれはお金がかかりますから。(4)”
ぼくの趣味(28)
一週間続けた執筆を称した。結果がどうあれ完結までは生きているつもり。
”ぼくは今、1つの物語を書いている。どうやって? ワインの力を借りてね。”
”脳の細胞が死んでいく感覚がある。 ぼくは今、脳と引き換えに何かを遺している。”
”身体は消え去る。完全に。 でも概念は残るだろう。少なくともぼくの身体を構成した物質の燃え滓が散逸してなお。 残ればいいね。”
”そんな感じで書き始めた物語は案の定大傑作だ。もちろんぼくの主観においてはの話だけど。”
”簡潔に言えば最近大流行りの異世界転生ものだよ。 地方のちょっと大きめの中小企業を引き継いだ世襲社長がフランスっぽい異世界に転生する。”
”結果がどうあれ完結まではちゃんと書くよ。それまでは居るよ。楽しくやろう。”
”ぼくは今、1つの物語を書いている。どうやって? ワインの力を借りてね。”
”脳の細胞が死んでいく感覚がある。 ぼくは今、脳と引き換えに何かを遺している。”
”身体は消え去る。完全に。 でも概念は残るだろう。少なくともぼくの身体を構成した物質の燃え滓が散逸してなお。 残ればいいね。”
”そんな感じで書き始めた物語は案の定大傑作だ。もちろんぼくの主観においてはの話だけど。”
”簡潔に言えば最近大流行りの異世界転生ものだよ。 地方のちょっと大きめの中小企業を引き継いだ世襲社長がフランスっぽい異世界に転生する。”
”結果がどうあれ完結まではちゃんと書くよ。それまでは居るよ。楽しくやろう。”
子供の頃のぼくの趣味(7)
公園のベンチの下の石をひっくり返してダンゴムシをびっくりさせること。
子供の頃のぼくの趣味(38)
地図を描くこと。最初は県や日本全体のものを写していたが、そのうち架空の世界を自作し、地理のみならず風土についても詳しく設定するようになる。中学に入るころには終わった。実家のどこかには小学生のぼくが創造した世界の地図が眠っている。なおその地図は『この人を見よ』のものと似ている。
”友達は部活やゲームに夢中で、ぼくも自然とそうなった。つまり、他者の存在が自身に与える影響が格段に大きくなってしまった。 言葉を替えようか。 ぼくは成長したんだ。”
”友達は部活やゲームに夢中で、ぼくも自然とそうなった。つまり、他者の存在が自身に与える影響が格段に大きくなってしまった。 言葉を替えようか。 ぼくは成長したんだ。”
愛の死(24)
最後まで捨てられなかったcdの一つ。部屋を片付け終わったぼくが聴いた。
”『愛の死』。 リヒャルト・ワーグナー作曲『トリスタンとイゾルデ』の最後を飾る絶唱。”
”タワーマンションって上階になるほど建物の重さを軽減するために壁が薄くなるんだ。だから普段は近所迷惑を考えてあまり音量を上げられない。 でも、今日くらいは良いだろう。この良き日の終わりには。”
”『愛の死』。 リヒャルト・ワーグナー作曲『トリスタンとイゾルデ』の最後を飾る絶唱。”
”タワーマンションって上階になるほど建物の重さを軽減するために壁が薄くなるんだ。だから普段は近所迷惑を考えてあまり音量を上げられない。 でも、今日くらいは良いだろう。この良き日の終わりには。”
美術館併設のレストラン(39)
田舎の風情を存分に漂わせ、東京の10年遅れで波及する類いのフレンチともイタリアンともいえぬ創作料理が提供される。
ポロックの作品(39)
ロスコと同じ抽象表現主義の画家。これはキャンバスを地面に置いて、上から振りかけるようにつくられた無秩序な絵の具の飛沫はポロックの手の動きそのものを表す。アクション・ペインティング。描く行為自体が作品。
”それはもはや絵画ではない。 先ほどの黒い「物」に比すれば随分と小柄な、しかし1mは越える横幅を持つ長方形のキャンバスに、何色かの絵の具が文字通り無秩序にぶちまけられている。
緑、黒、白、灰、そして黄褐色の。”
”「ああ……なるほど。——対象が移ったのか。書かれる物から書く者に」
「はい。描かれた対象じゃなくて、描く行為自体が作品になります。だから描かれた物に意味はありません。その行為に意味があるんです」
「書く行為に?」”
”「そんなものに価値があるか。——ただ、生きていることに」”
”それはもはや絵画ではない。 先ほどの黒い「物」に比すれば随分と小柄な、しかし1mは越える横幅を持つ長方形のキャンバスに、何色かの絵の具が文字通り無秩序にぶちまけられている。
緑、黒、白、灰、そして黄褐色の。”
”「ああ……なるほど。——対象が移ったのか。書かれる物から書く者に」
「はい。描かれた対象じゃなくて、描く行為自体が作品になります。だから描かれた物に意味はありません。その行為に意味があるんです」
「書く行為に?」”
”「そんなものに価値があるか。——ただ、生きていることに」”
ロスコ・ルーム(39)
美術館の展示室。アメリカの画家ロスコの大作ばかりを集めた一室。赤錆色の地に茶とも黒ともつかぬ太い線が浮かび上がる巨大な抽象画が壁面全てを埋める「場」。この美術館の売り。ソファがある。
無料の美術館(12)
表参道に立ち並ぶ某海外ブランドのビルの最上階に立地。青佳とのデートでぼくが訪れた。
”昔担当さんに教えて貰ったのを思い出して、時間つぶしにちょうどいいと行ってみた。 そこでは新進気鋭の映像作家のインスタレーションが展開されてた。70年代くらいのニュース映像をコラージュしたフィルムやら超巨大な謎オブジェやら。”
”昔担当さんに教えて貰ったのを思い出して、時間つぶしにちょうどいいと行ってみた。 そこでは新進気鋭の映像作家のインスタレーションが展開されてた。70年代くらいのニュース映像をコラージュしたフィルムやら超巨大な謎オブジェやら。”
西洋絵画の進化について(39)
現実世界を精密に写し取って、そこに寓意を織り込むことで意味を付与する形式として進化してきたのに、その頂点に至るところで、今度は自分の存在意義を取り壊していこうとした。さらに進んで、描かれた『対象』に意味を持たせることを拒否するところまで行った。。
”「西洋絵画って面白いんです! 現実世界を精密に写し取って、そこに寓意を織り込むことで意味を付与する形式として進化してきたのに、その頂点に至るところで、今度は自分の存在意義を取り壊していこうとしたんですから。ここにある作品、たとえばあの一面真っ黒のやつ、フランク・ステラって作家のものですけど、あれなんかはストレートに、絵画から『意味』や『象徴性』を剥ぎ取ろうとする試みとして作られたものですよ」”
”「それもそうですし、さらに進んで、描かれた『対象』に意味を持たせることを拒否するところまで行きました。たとえばせんぱいを描いた絵は、どこまでそれを抽象的に描いてもそこには『せんぱい』という意味がありますね。でも、それすらも無くそうとしたんです」”
”「ああ、それは辛いね。意味がなくなればそこには物自体しか残らない。それを人工的に作ろうとしたのかな。物自体を」”
”「西洋絵画って面白いんです! 現実世界を精密に写し取って、そこに寓意を織り込むことで意味を付与する形式として進化してきたのに、その頂点に至るところで、今度は自分の存在意義を取り壊していこうとしたんですから。ここにある作品、たとえばあの一面真っ黒のやつ、フランク・ステラって作家のものですけど、あれなんかはストレートに、絵画から『意味』や『象徴性』を剥ぎ取ろうとする試みとして作られたものですよ」”
”「それもそうですし、さらに進んで、描かれた『対象』に意味を持たせることを拒否するところまで行きました。たとえばせんぱいを描いた絵は、どこまでそれを抽象的に描いてもそこには『せんぱい』という意味がありますね。でも、それすらも無くそうとしたんです」”
”「ああ、それは辛いね。意味がなくなればそこには物自体しか残らない。それを人工的に作ろうとしたのかな。物自体を」”
still life(17)
静物の意。ぼくが”まだ生きてる”と勘違いしたことで、知子は普段の彼女らしくない行動をとる。
”「あの! still life は”静物”って意味なんです。花瓶とかお花を描いた……」”
”「なるほど。面白いですね。不思議な感じだ。花瓶は生きていないのに Life とは」
「still には"まだ”の他に”動かない”って意味もありますから。海外だと”動かない命”は”物”扱いなんです。今は美術の専門用語ですけど」
「そういうことか。デカルト的感覚なのかな。——ありがとうございます。教えていただいて」”
”「あの! still life は”静物”って意味なんです。花瓶とかお花を描いた……」”
”「なるほど。面白いですね。不思議な感じだ。花瓶は生きていないのに Life とは」
「still には"まだ”の他に”動かない”って意味もありますから。海外だと”動かない命”は”物”扱いなんです。今は美術の専門用語ですけど」
「そういうことか。デカルト的感覚なのかな。——ありがとうございます。教えていただいて」”
『リチャードと羊』(24)
ぼくの人生最初の書籍。リチャードという少年が子羊と不思議な国を旅する話。編集者にはいろいろ手を入れられたが、内容についてはほとんど忘れてしまった。茉莉からの「羊がかわいかった」という感想に、ぼくは複雑な感情を持っている。”整理”でも捨てることができなかった一冊。
”覚えているのは『羊がかわいかった』って茉莉さんの一言だけだ。 あれは読んでないな、きっと。読書感想文の後書き・帯メソッドかな。 高校生にもなってまったく、酷いやつだ。”
”でもね。やっぱり嬉しかった。 ぼくが書きたかったのはリチャードという少年の成長と羊のかわいさだったんだから。残念なことにリチャードは幼くして亡くなってしまった。ぼくは彼を生かしてやれなかった。だって続刊が出なかったからね。 でも羊だけはちゃんとかわいく書けた。これは凄いことだ。少なくとも一人の女子高生に「かわいい」と言わせたんだから。ぼくは彼女の脳内に痕跡を残すことが出来た。何も遺せなかったぼくが。 ……ちゃんと読んでくれていたらね。頼むぞ?”
”覚えているのは『羊がかわいかった』って茉莉さんの一言だけだ。 あれは読んでないな、きっと。読書感想文の後書き・帯メソッドかな。 高校生にもなってまったく、酷いやつだ。”
”でもね。やっぱり嬉しかった。 ぼくが書きたかったのはリチャードという少年の成長と羊のかわいさだったんだから。残念なことにリチャードは幼くして亡くなってしまった。ぼくは彼を生かしてやれなかった。だって続刊が出なかったからね。 でも羊だけはちゃんとかわいく書けた。これは凄いことだ。少なくとも一人の女子高生に「かわいい」と言わせたんだから。ぼくは彼女の脳内に痕跡を残すことが出来た。何も遺せなかったぼくが。 ……ちゃんと読んでくれていたらね。頼むぞ?”
いざとなれば処分できる趣味の品(15)
どんな貧乏にも耐えられると考えたブラウネが無意識下でそろばんをはじいていた社長の時計コレクション。
”株も家も、本人は嫌がるかもしれないが、いざとなれば処分できる趣味の品も。慎ましく暮らせば普通の生活は十分可能であろう。その事実をブラウネは意識すらしなかった。ごく当たり前の「前提」なのだから。”
”株も家も、本人は嫌がるかもしれないが、いざとなれば処分できる趣味の品も。慎ましく暮らせば普通の生活は十分可能であろう。その事実をブラウネは意識すらしなかった。ごく当たり前の「前提」なのだから。”
かわいい白鳥(39)
美術館の池にいることもある。今回の訪問は夏の盛りだったので当然いない。
”「ああ、こういうよく分からない絵を見続けてると目が回るね!……展示も終わりだし、そろそろ出ようか。ここの美術館は庭も凄いんだ! 結構立派な散歩コースがある。今はいるか分からないけど、運がいいと池にかわいい白鳥も居るよ」”
”ロシアの寒さを逃れるために温暖な日本に飛来する白鳥は、春頃には再び地元に戻ってしまう。今度は日本の暑さから逃れるために。
だから夏も盛りの今、いないのは当たり前のこと。少し考えれば分かりそうなことをぼくは意味も分からず口走ったんだ。”
”「ああ、こういうよく分からない絵を見続けてると目が回るね!……展示も終わりだし、そろそろ出ようか。ここの美術館は庭も凄いんだ! 結構立派な散歩コースがある。今はいるか分からないけど、運がいいと池にかわいい白鳥も居るよ」”
”ロシアの寒さを逃れるために温暖な日本に飛来する白鳥は、春頃には再び地元に戻ってしまう。今度は日本の暑さから逃れるために。
だから夏も盛りの今、いないのは当たり前のこと。少し考えれば分かりそうなことをぼくは意味も分からず口走ったんだ。”
ゴルフ(26)
ぼくは何度かやったことがあるが、楽しさがわからない。打ちっぱなしでも惰性で打ち続け、体がもたなくなってやめる。ベンチに座ったぼくは、平和な社会のすばらしさに思いをはせた。
”このゴルフというスポーツ、何が面白いのか全然分からない。 昔付き合いで何度かやったことがあるけどすぐに止めてしまった。元々身体を動かすことが得意な方ではないのに加えて、競技自体がやたら難しいから。”
”打ち始めたころはせっかく来たんだから真面目にやろうと、つまり真っ直ぐ飛ばそうと意識して丁寧にやるんだけど、どう工夫しても上手くいかないから、気がつけば無心になってる。 嫌々の体で始めた割には、もう30発以上打ってるからね。 惰性で。”
”何かに似ているね。この様は。 ぼくの日常によく似ている。あるいは全ての人の。 最初は真面目に、意識的に何かに取り組んでいるんだけど、上手くいかないことばっかりで、いつしか惰性になる。惰性と気づいても止めはしない。なぜなら、止めることもまたしんどいからだ。心理的コストが結構高い。それはつまり、これまで積上げてきたものを無にする行為だから。 じゃあどうすれば止められるのか。簡単だよ。身体が保たなくなったとき。”
”今ぼく達はネットで周囲と区切られた広大な空き地にボールを打ってる。昔の人たちは、それを建物、あるいは人の頭上にやったわけだ。 これは素晴らしいことだよ。ぼくたちは今、人に向けてボールを打たなくてもいい社会に生きてる。 明らかに凶器になり得る金属の棒を、ただ趣味のために振り回してる。人を害するためではなく。”
”そんなことを考えながらちょっと呆然としていた。どれくらい時間が経ったのか分からない。ぼくは時計を着けていないからね。 だからこの切れ目のない、いつまでも眼前を流れる巨大な塊——時間の束——を切り分けたのは、一汗掻いて満足げに隣の休憩席に腰を下ろした叔父さんの存在だった。”
”このゴルフというスポーツ、何が面白いのか全然分からない。 昔付き合いで何度かやったことがあるけどすぐに止めてしまった。元々身体を動かすことが得意な方ではないのに加えて、競技自体がやたら難しいから。”
”打ち始めたころはせっかく来たんだから真面目にやろうと、つまり真っ直ぐ飛ばそうと意識して丁寧にやるんだけど、どう工夫しても上手くいかないから、気がつけば無心になってる。 嫌々の体で始めた割には、もう30発以上打ってるからね。 惰性で。”
”何かに似ているね。この様は。 ぼくの日常によく似ている。あるいは全ての人の。 最初は真面目に、意識的に何かに取り組んでいるんだけど、上手くいかないことばっかりで、いつしか惰性になる。惰性と気づいても止めはしない。なぜなら、止めることもまたしんどいからだ。心理的コストが結構高い。それはつまり、これまで積上げてきたものを無にする行為だから。 じゃあどうすれば止められるのか。簡単だよ。身体が保たなくなったとき。”
”今ぼく達はネットで周囲と区切られた広大な空き地にボールを打ってる。昔の人たちは、それを建物、あるいは人の頭上にやったわけだ。 これは素晴らしいことだよ。ぼくたちは今、人に向けてボールを打たなくてもいい社会に生きてる。 明らかに凶器になり得る金属の棒を、ただ趣味のために振り回してる。人を害するためではなく。”
”そんなことを考えながらちょっと呆然としていた。どれくらい時間が経ったのか分からない。ぼくは時計を着けていないからね。 だからこの切れ目のない、いつまでも眼前を流れる巨大な塊——時間の束——を切り分けたのは、一汗掻いて満足げに隣の休憩席に腰を下ろした叔父さんの存在だった。”
ゴルフ場での会話(26)
善良な叔父さんが人生に悩む甥を諭そうとしているのだと気づくぼく。結果が出る出ないじゃない。失敗してもいい。楽しむことが重要だと、たくさんの本に載っていたと独白する。
”「どうだ。なかなかいいもんだろう」”
”「そうですね。久しぶりに身体を動かしました」”
”「楽しいか?」”
”「あまり。——全然うまくやれないから」”
”「少し見てたが、初心者にしては筋がいいと思うけどなぁ」”
”「ああ、それはよくある台詞だ。初心者をおだてるヤツですね」”
”「賢しげな事をおっしゃる! なんとまぁ。逆に聞くがね、おまえのうまくやるはどういうものだ?」
「それは当然、真っ直ぐ飛ばすことじゃないんですか。詳しくは知らないですけど、一発目が真っ直ぐ飛べば二打目が打ちやすくなって、それが上手くいけば次も。それがゴルフでしょう」
「まさに。その通り。で、おまえは要するにこう思ってるわけだ。自分はうまくやれると」”
”「そうは思いません。でも、それを目指すべきだ。だって1000円か2000円かお金を払ってるんだから、結果を出さなきゃいけない」”
”「なるほどなるほど。つまりおまえがいうのはこういうことだ。うまくやれはしないが、うまくやることを目指すべきだ、と」
「もちろんそうです」
「じゃあ、目指しても結果が出なかったらどうする。それはつまらんか?」
「……」”
”「おまえは賢いな。おれが言いたいことをすぐ先回りする」
「まさか。そんなことは」”
”「よし! じゃあ、おまえが想像もしてないことを言ってやろう」
「なんです?」
「おまえはな、自分がうまくやれる前提で生きてる。ああ! なんと素晴らしい姿勢だ。おれもよく若いのに言ってる。飽きるほどな。『やれると思わなきゃ何事もなせん』と。分かるな。要するに、おれが言わなきゃならんほどに、誰も自分がうまくやれると思ってないってことだ」”
”「じゃあ、私の姿勢は正しいってことですね」「いいや! いいや! 全く違う。いいかね、うまくやれるのは特別なやつだけだ。——そして、おまえは特別なやつじゃない。凡人だ。凡庸な存在だよ」”
”「そうですね。久しぶりに身体を動かしました」”
”「楽しいか?」”
”「あまり。——全然うまくやれないから」”
”「少し見てたが、初心者にしては筋がいいと思うけどなぁ」”
”「ああ、それはよくある台詞だ。初心者をおだてるヤツですね」”
”「賢しげな事をおっしゃる! なんとまぁ。逆に聞くがね、おまえのうまくやるはどういうものだ?」
「それは当然、真っ直ぐ飛ばすことじゃないんですか。詳しくは知らないですけど、一発目が真っ直ぐ飛べば二打目が打ちやすくなって、それが上手くいけば次も。それがゴルフでしょう」
「まさに。その通り。で、おまえは要するにこう思ってるわけだ。自分はうまくやれると」”
”「そうは思いません。でも、それを目指すべきだ。だって1000円か2000円かお金を払ってるんだから、結果を出さなきゃいけない」”
”「なるほどなるほど。つまりおまえがいうのはこういうことだ。うまくやれはしないが、うまくやることを目指すべきだ、と」
「もちろんそうです」
「じゃあ、目指しても結果が出なかったらどうする。それはつまらんか?」
「……」”
”「おまえは賢いな。おれが言いたいことをすぐ先回りする」
「まさか。そんなことは」”
”「よし! じゃあ、おまえが想像もしてないことを言ってやろう」
「なんです?」
「おまえはな、自分がうまくやれる前提で生きてる。ああ! なんと素晴らしい姿勢だ。おれもよく若いのに言ってる。飽きるほどな。『やれると思わなきゃ何事もなせん』と。分かるな。要するに、おれが言わなきゃならんほどに、誰も自分がうまくやれると思ってないってことだ」”
”「じゃあ、私の姿勢は正しいってことですね」「いいや! いいや! 全く違う。いいかね、うまくやれるのは特別なやつだけだ。——そして、おまえは特別なやつじゃない。凡人だ。凡庸な存在だよ」”
抽象表現主義(39)
第2次大戦終了後、1940年代後半からアメリカで勃興した芸術のムーブメント。政治や経済と同様、美術界の最先端もまたヨーロッパからアメリカに移行したことを示す象徴的な動きであり、現代美術の源泉の一つ。
残っている哲学書(37)
ぼくがほとんど処分した私物のなかで残っている哲学書。エピクテトスやプラトンの本。
”最近は専らエピクテトスやプラトンの著作を眺めてる。特にエピクテトスは勇気が湧くね。後は聖書。これもいい。ああ、信仰があるわけではないので、何というか、人類の知恵の結晶として読んでる。”
”最近は専らエピクテトスやプラトンの著作を眺めてる。特にエピクテトスは勇気が湧くね。後は聖書。これもいい。ああ、信仰があるわけではないので、何というか、人類の知恵の結晶として読んでる。”
母校の野球応援歌(13)
日曜夜10時に叔父さんとぼくが肩を組んで歌った。正確には叔父さんが歌った。阿鼻叫喚。
”若く血に滾る若者がなんやかんやあって陸の王者になる的な歌詞”
”若く血に滾る若者がなんやかんやあって陸の王者になる的な歌詞”
玄宗皇帝(12)
”最初は頑張って政治をやってたのに、途中から楊貴妃に入れあげて、どんどん国がおかしくなっていく”
”今にして思えば、過去の王様達もまた何者かになりたかったのかもしれない。
血筋ゆえに至高の玉座を占め、美姫を侍らせながら悩んだんだろう。自分には何もない、って。”
”今にして思えば、過去の王様達もまた何者かになりたかったのかもしれない。
血筋ゆえに至高の玉座を占め、美姫を侍らせながら悩んだんだろう。自分には何もない、って。”
衒学的(24)
”そもそも悪いことかな? 衒学的であるって。 哲学にしても文学にしてもそうだ。何をお高くとまって、と思われるかもしれないけど、「お高くとまること」と「お高くとまらないこと」の間には上下はない。”
”叔父さんの言葉じゃないけど、この地表には目眩がするほどに人間がひしめいてるんだ。だから、少しくらい常道を外れたヤツがいてもよかっただろう。そう思う。”
”叔父さんの言葉じゃないけど、この地表には目眩がするほどに人間がひしめいてるんだ。だから、少しくらい常道を外れたヤツがいてもよかっただろう。そう思う。”
青、黒、灰褐色のコンポジション(38)
”「とてもいいね。今日の格好とよく似合っていると思う」
本心からの言葉。
白とネイビー、明るいグレー。黒。この抑えた色彩の中に彼女の時計は見事にはまっている。”
本心からの言葉。
白とネイビー、明るいグレー。黒。この抑えた色彩の中に彼女の時計は見事にはまっている。”
思想と表現/物語・運命・自由意志
| 項目 | 話数 |
|---|---|
| アナリゼと信仰(43) | 43 |
| アナリースと信仰(43) | 43 |
| ぼくの「理想の世界」(32) | 32 |
| ぼくの「理想の世界」(32) | 32 |
| ぼくの理想の世界(38) | 38 |
| ”物語”(3) | 3 |
| 意志の勝利(31) | 31 |
| 物語の神(27) | 27 |
| 自己満足か物語か(28) | 28 |
| 運命論(42) | 42 |
| 「やっぱりあなたがやるべきだ。——王を」(11) | 11 |
| すべては定められている(42) | 42 |
| デカルト的感覚(17) | 17 |
| 何に耐えるのか。それが問題だ。(43) | 43 |
| 信条(42) | 42 |
| 全ては許されている(43) | 43 |
| 現象学的な意識(22) | 22 |
アナリゼと信仰(43)
最期まで正教の物語がその根幹にあったと考えられる。
” その教義と真逆の姿勢を貫いた夫と暮らし、強く影響を受けてなお、彼女の存在の根本には正教の教義が根付いていた。あるいはその教えは本来、彼女のような境遇に陥った人間を慰めるためにこそ在ったのかもしれない。息子を亡くした母の心を慰撫するために。
アナリースと信仰(43)
サンテネリのアナリゼと異なり、物語を受け入れない。
”しかし、地球に生きる女、アナリース・エストブールは違う。 彼女はアナリゼでありながらアナリースである。 かつてサンテネリを現実に生き、今「現実」を現実に生きる1人の女性である。 よって彼女は「物語」を受け入れない。 この心境こそが、かつて夫が心に秘め、子ども達に伝えようとした最も気高いものであることに、この世界に生まれて初めて彼女は気づいた。”
ぼくの「理想の世界」(32)
”物語の中で、ぼくは、登場人物の行動は当然のこと、自然環境の変化のような巨視的な動きでさえも「理由」を完璧に把握することができる。より正確には創り出すことができる。ぼくが書いているんだから当然だ。”
”ぼくの世界には不条理が存在しない。物語内の人物にとってはそうであっても作者であるぼくにとっては違う。「不条理」を消し去った、ぼくの「理想の世界」。
”ぼくの世界には不条理が存在しない。物語内の人物にとってはそうであっても作者であるぼくにとっては違う。「不条理」を消し去った、ぼくの「理想の世界」。
ぼくの「理想の世界」(32)
”ぼくのお話はぼくが創り出した”理想の世界”だ。現実に侵食されたくはない。”
” ぼくは自分のお話を多くの人に読んで欲しい。そして多くの人の心をどんな形であれ動かしたい。でも、ぼくがそれを為したいわけじゃない。作品がそれを為してほしいんだ。 消える者と残る物がある。 それでいいし、そうありたい。”
” ぼくは自分のお話を多くの人に読んで欲しい。そして多くの人の心をどんな形であれ動かしたい。でも、ぼくがそれを為したいわけじゃない。作品がそれを為してほしいんだ。 消える者と残る物がある。 それでいいし、そうありたい。”
ぼくの理想の世界(38)
世界にある本当の偶然は恐いので、管理された理性の世界で生きたい。ただ意思の介在の余地はほしい。わがまま。
”「じゃあ、せんぱいの理想の世界は決定論ですね」
「多分ね。全部決まっていたらいいと心から思うよ。それを前もって教えてくれていたら、なおありがたい」
「——本当に、それがいいですか?」
「うん。……と、言いたいところだけど未練があるな。未練というか、手放したくないものがある」
「それは何ですか?」
「分かってるだろうに。——意思だよ。私は選択したい」
「私も」
「せんぱい。これからは知子(ちかこ)って呼んでくださいね? ちゃんと」”
”「じゃあ、せんぱいの理想の世界は決定論ですね」
「多分ね。全部決まっていたらいいと心から思うよ。それを前もって教えてくれていたら、なおありがたい」
「——本当に、それがいいですか?」
「うん。……と、言いたいところだけど未練があるな。未練というか、手放したくないものがある」
「それは何ですか?」
「分かってるだろうに。——意思だよ。私は選択したい」
「私も」
「せんぱい。これからは知子(ちかこ)って呼んでくださいね? ちゃんと」”
”物語”(3)
青佳が連呼する。
※暗君を参照する限り、神の描いた物語、「運命」の意か。
※暗君を参照する限り、神の描いた物語、「運命」の意か。
意志の勝利(31)
納得して勢いで自殺するのは意志の勝利。なの?
”人は死を直視できない。太陽と同じく。ラ・ロシュフーコー曰く。 だから行為には勢いがいる。お酒とかの力を借りてね。 でも、死に向かう意思は考え抜かれた上のものであるべきだ。理性の極限において「そうあるべき」という納得をしたい。そこにおいて初めて自死は完結する。 意思の勝利が訪れる。”
”人は死を直視できない。太陽と同じく。ラ・ロシュフーコー曰く。 だから行為には勢いがいる。お酒とかの力を借りてね。 でも、死に向かう意思は考え抜かれた上のものであるべきだ。理性の極限において「そうあるべき」という納得をしたい。そこにおいて初めて自死は完結する。 意思の勝利が訪れる。”
物語の神(27)
サンテネリで信じられている神。正教の神。世界全ての運命は神の書いた物語の中に記されているとされる。
”「物語」の神に祈りながら男の震える手を握りしめた日々を思い出すが故に。”
”「物語」の神に祈りながら男の震える手を握りしめた日々を思い出すが故に。”
自己満足か物語か(28)
自己満足のリアル路線か、読者が喜ぶ展開にするか。ぼくは迷ったが、後者をとった。
”徹底的にリアル路線で行くか、あるいは”物語”にするか。リアル路線だとこの先には悲惨な末路が待ってる。本心を言えばそのまま精密に”ぼく”が見放され、破滅していく様を描いてみたい。”
”それは完全な自己満足だ。 ぼくはいい。それで気持ちよくなれるんだから。チラシの裏に書き散らすならそれでいい。でも、ぼくはこのお話をインターネットに公開するんだ。ということは読者の存在を意識しなければならない。絶対に。”
”ここが分かれ道だ。 ぼくは「閉じる」のか、あるいは「開く」のか。”
”ぼくは凡人のお話を書きたかった。でもただの凡人の物語ではない。凡人がなにか「善いこと」を為しうると示す物語を書きたかったんだ。”
”ただ、生きて、やり過ごし、全てを何とか誤魔化していく。 つまり——うまくやる。 そうして凡庸な行為を積み重ねながら、彼ぼくは最後には何かを遺して死ぬ。 そんな非現実的でご都合主義的な話を書きたい。”
”本音を言おう。 現実のぼくが他者の関心を浅ましくも欲するように、ぼくが創る”ぼく”のこともまた、読者の人たちに愛してほしいんだ。”
”だから作者たるぼくは後者の選択肢を採る。 ぼくは「開く」。ぼくは「招く」。 そして願わくば1人でも、たった1人でもいいから、読者の人に楽しんでほしい。 愛してほしい。彼を。”
”徹底的にリアル路線で行くか、あるいは”物語”にするか。リアル路線だとこの先には悲惨な末路が待ってる。本心を言えばそのまま精密に”ぼく”が見放され、破滅していく様を描いてみたい。”
”それは完全な自己満足だ。 ぼくはいい。それで気持ちよくなれるんだから。チラシの裏に書き散らすならそれでいい。でも、ぼくはこのお話をインターネットに公開するんだ。ということは読者の存在を意識しなければならない。絶対に。”
”ここが分かれ道だ。 ぼくは「閉じる」のか、あるいは「開く」のか。”
”ぼくは凡人のお話を書きたかった。でもただの凡人の物語ではない。凡人がなにか「善いこと」を為しうると示す物語を書きたかったんだ。”
”ただ、生きて、やり過ごし、全てを何とか誤魔化していく。 つまり——うまくやる。 そうして凡庸な行為を積み重ねながら、彼ぼくは最後には何かを遺して死ぬ。 そんな非現実的でご都合主義的な話を書きたい。”
”本音を言おう。 現実のぼくが他者の関心を浅ましくも欲するように、ぼくが創る”ぼく”のこともまた、読者の人たちに愛してほしいんだ。”
”だから作者たるぼくは後者の選択肢を採る。 ぼくは「開く」。ぼくは「招く」。 そして願わくば1人でも、たった1人でもいいから、読者の人に楽しんでほしい。 愛してほしい。彼を。”
運命論(42)
Fatalisme。思想用語としての「運命論」と、日用語としての「あきらめ」のダブルミーニング。
この瞬間は運命ではなく自分が決めた結果であり、もう待たない、自分で人生をつかみ取ると宣言するアナリース。その待たずに行動するということ自体が「定められたもの」のように感じるというぼく。アナリースはそれが運命論であり、運命論とはある種のあきらめであると断言した。
”『運命じゃないわ。私がそうすることに決めたんですから』
『……決めた? この状況を?』
『ええ。私は待ちません。決して。私はつかみ取ります。——かつて私は待つだけの女でした。「物語」に流されるように生きるのが良いことだと思っていたんです。信じていました。すべてかく在るべくして在ったのだと。でも、それは違いました』
『ああ、うん。……「物語」?』
『ええ。人生は「物語」じゃない。そうしたいと思ったことは絶対にしなければ駄目』”
”『運命論Le fatalismeはある種の”あきらめUn fatalisme”です』”
「やっぱりあなたがやるべきだ。——王を」(11)
ぼくがふざけてグロワス13世の真似をした際のレスパンの感想。
”「ああ、いいね。素晴らしい。私もいよいよスクリーンデビューか。あの決め台詞を言う機会が来た。——”この剣を振り下ろす相手は何者だ! その卑劣漢の名を王に教えてくれ! 賢明なるシュトロワ市民諸君!”」”
” あ、これね。ゾフィ姫っていうヒロインの一人が悪いやつに陥れられて、民衆につるし上げられそうになるのを、王が危険を顧みず救出に向かう名シーンだよ。序盤の見せ場。”
” ぼくは笑いながらワイングラスを揺らす。 結構酔いが回ってきてるので匂いもなにもあったもんじゃない。お洒落仕草。”
”「ああ、いいね。素晴らしい。私もいよいよスクリーンデビューか。あの決め台詞を言う機会が来た。——”この剣を振り下ろす相手は何者だ! その卑劣漢の名を王に教えてくれ! 賢明なるシュトロワ市民諸君!”」”
” あ、これね。ゾフィ姫っていうヒロインの一人が悪いやつに陥れられて、民衆につるし上げられそうになるのを、王が危険を顧みず救出に向かう名シーンだよ。序盤の見せ場。”
” ぼくは笑いながらワイングラスを揺らす。 結構酔いが回ってきてるので匂いもなにもあったもんじゃない。お洒落仕草。”
すべては定められている(42)
”こんなことが起こりうるだろうか。偶然にしては行きすぎている。ここは、こう在るように整えられた世界なんじゃないかと錯覚する。”
デカルト的感覚(17)
知子にstill life の意味を教えられたぼくが発した感想。知子を虜にした。
何に耐えるのか。それが問題だ。(43)
『地に落ちて死なば』を読むアナリースの言葉。運命の過酷さのあまり物語に逃げた自身に対し、夫グロワスは最後まで物語を信じなかった。
”アントワン3世は、強いられてなお「物語」を受け入れなかった。
受け入れてしまえば楽になる。子を失おうと、家を失おうと、夫を失おうと、それが「運命」であると思えば平静(アタラクシア)を保つことができる。かつてアナリース(アナリゼ)がそうあったように。だが、彼は拒否する。 彼は耐える。”
信条(42)
credo。宗教的な信条と世俗的な信条のダブルミーニング。アナリースの運命論に対する姿勢が何らかのキリスト教由来のものかを探るためにぼくが使用した単語。アナリースは『いいえ。私の信念convictions personnellesです』と否定した。互いの選択の結果ここに居ることを喜ぶぼく。
”そこには自由な選択があった。意思があったんだ。 つまりぼくはアントワン3世ではない。行き先は定められていない。”
全ては許されている(43)
”かつて自身の身体を包み込んだ天蓋はもうない。豪奢な羅紗地の天蓋は。
ここは日本である。
彼女は何でもできる。意思したことを意思したように。
「物語」はもうない。
全ては許されている。”
現象学的な意識(22)
実態ではなく、何かを志向することそのもの。矢印。
”人の意識ってとてもやっかいなものなんだ。常にその対象を探してる。ああ、もう少し精密に、ちょっと古いけど現象学的に言うならば、意識は実体じゃない。何かを志向することそのもの。つまり矢印に過ぎない。矢印は意味を持たない。ただ何かを指し示すだけ。 ということは、指し示す内容が消えると意識も消える。”
”人の意識ってとてもやっかいなものなんだ。常にその対象を探してる。ああ、もう少し精密に、ちょっと古いけど現象学的に言うならば、意識は実体じゃない。何かを志向することそのもの。つまり矢印に過ぎない。矢印は意味を持たない。ただ何かを指し示すだけ。 ということは、指し示す内容が消えると意識も消える。”
思想と表現/生・死・価値・偉大さ
| 項目 | 話数 |
|---|---|
| ぼくの存在価値(40) | 40 |
| 『人はパンのみにて生きるにあらず』(12) | 12 |
| 一つの死(27) | 27 |
| 偉大さ(33) | 33 |
| 凡庸であってなお、人は何かを遺す。(26) | 26 |
| 凡庸な男(27) | 27 |
| 死と変容(23) | 23 |
| 死への納得(40) | 40 |
ぼくの存在価値(40)
他の人にとって、ぼくが生きていることには意味がある。生きることに価値を見つけられないというぼくに、知子が答えた。
”これはとても嬉しい言葉だ。
ぼくの存在は「他者にとって」価値——意味があるという。”
”これはとても嬉しい言葉だ。
ぼくの存在は「他者にとって」価値——意味があるという。”
『人はパンのみにて生きるにあらず』(12)
” ぼくが思うに、人の幸不幸には客観の視座がない。功利主義的に数値化することは不可能だ。ぼくの不幸が1で、明日の食事に事欠く人の不幸が100ということにはならない。
だって我々は、我々の精神が創り出した世界の中を生きてるんだから。
人は世界自体を体感することはできない。ぼくたちが生きる世界は五感のセンサーを通じて脳内に構築された——言い換えれば、ぼくたちの精神が創り出した似姿だ。
だから重要なのは、その人がどう思うかだ。精神的充足には意味がある。誰かが辛いと感じた時、それは確かに辛いんだ。比較不能な、その人だけの辛さがある。もちろん幸福もね。”
” さっきの言葉をちょっと改変してみよう。『人はパンのみにて死ぬにあらず』 人はパンがあっても死ぬんだよ。”
” さて、結論を出そう。 ぼくに好意を持ってくれる人々には感謝しかない。みな凄い人たち、いい人達だ。 だから、ぼくの存在が彼ら彼女らの好意に釣り合わないことが、ぼくには辛い。彼らを欺いているように感じるから。好意を盗み取っているように思われるから。”
だって我々は、我々の精神が創り出した世界の中を生きてるんだから。
人は世界自体を体感することはできない。ぼくたちが生きる世界は五感のセンサーを通じて脳内に構築された——言い換えれば、ぼくたちの精神が創り出した似姿だ。
だから重要なのは、その人がどう思うかだ。精神的充足には意味がある。誰かが辛いと感じた時、それは確かに辛いんだ。比較不能な、その人だけの辛さがある。もちろん幸福もね。”
” さっきの言葉をちょっと改変してみよう。『人はパンのみにて死ぬにあらず』 人はパンがあっても死ぬんだよ。”
” さて、結論を出そう。 ぼくに好意を持ってくれる人々には感謝しかない。みな凄い人たち、いい人達だ。 だから、ぼくの存在が彼ら彼女らの好意に釣り合わないことが、ぼくには辛い。彼らを欺いているように感じるから。好意を盗み取っているように思われるから。”
一つの死(27)
”『私は引け目を捨てる。私が王であることは揺るがない。私はあなたの家の下男ではない。これは変えようのない事実だ。だから、これからは私があなたを守ろう。あなたと、やがて生まれる我々の子を私は守る』”
”王が念願の枢密院を立ち上げた夜。あの大雪の夜、王は彼女にそう告げた。 それは一つの死である。 彼は諦めた。 サンテネリにおいて、善きことをなすために。”
”『ブラウネ妃ロワイユ・ブラウネ、王ロー・グロワスはその権能を以てあなたを庇護する。あなたが私を支えてくれるように、グロワス13世ロー・グロワス・トレージェンはあなたを守ろう』”
”王が念願の枢密院を立ち上げた夜。あの大雪の夜、王は彼女にそう告げた。 それは一つの死である。 彼は諦めた。 サンテネリにおいて、善きことをなすために。”
”『ブラウネ妃ロワイユ・ブラウネ、王ロー・グロワスはその権能を以てあなたを庇護する。あなたが私を支えてくれるように、グロワス13世ロー・グロワス・トレージェンはあなたを守ろう』”
偉大さ(33)
由理が今生で手に入れることができないであろう唯一のもの。その意思の力で世界をより良い方向に変えていく人の営み。由理が物語で書こうとしたもの。
” 何を書くべきか。そこに悩みはなかった。 彼が今生において持ち得ず、感じ得ないであろう唯一のもの——偉大さを書くべきだ。 偉大とはつまり、人がその意思によって世界をより良い方向に変えてゆく状況の総体である。 よって偉大さを書くことは人を書くことだ。”
” 何を書くべきか。そこに悩みはなかった。 彼が今生において持ち得ず、感じ得ないであろう唯一のもの——偉大さを書くべきだ。 偉大とはつまり、人がその意思によって世界をより良い方向に変えてゆく状況の総体である。 よって偉大さを書くことは人を書くことだ。”
凡庸であってなお、人は何かを遺す。(26)
一度は飛び降りる気だったベランダを後にしたぼく、書斎からノートパソコンを持ってきて、著述を始める。そのタイトルとは。
”それならば、ぼくにも遺せるものもあるはずだね。 偉大な『リチャードと羊』は死んでしまった。でも、ぼくはまだ、また何かを作ることができる。それがどう評価されようがもう関係ない。”
”一人の善良な、だが無能の男が絶望の末に死を選ぶ。そして異世界に転生するんだ。王として。彼はその凡庸さゆえ何もすることが出来ない。ただ生き延びるのに精一杯。ただし、彼は善良な凡愚であるがゆえに、失敗と挫折を繰り返しながらみっともなくのたうち回って何かを残そうとするだろう。”
”地味なお話だね。『この人を見よ』の主人公が備えた華麗な政略も戦略もない。周囲を惹きつけるカリスマ性もなければ度胸もない。でも、その善良で無能な男はとにかく何かを遺そうとする。偉大なものではなくても。何か善きものを。 悪が凡庸な存在から生まれ出ずるごとく、善もまた凡庸な存在から生じうるからだ。”
”偉大な人をぼくは書けない。だからきっと、偉大な作品をぼくは書けないだろう。 でも、凡人の姿ならば書けるはずだ。誰に感銘を与えることもなく誰を鼓舞することもない。そんな人間を。つまりぼくの「同胞」の姿を。”
” 初夏の夜。
眼前には地の明かりと空の明かり。
脇にはワインの空き瓶。
これほどに素晴らしい環境があるだろうか。何かを遺すのに。
キーボードを叩く、この震える指は、全てだ。
さぁ、堂々とやれ。もう一度書け。凡庸であるとはなにか、その全てを語れ。”
”『「陛下、おはようございます」
深いバリトンの声がする。侍従さんだ。
ちょっと前まではこの威厳マックスなおじさんにベッドサイド直近で起こされてたんだけど、余りにもキツいので最近は頑張って自分で起きてる。
この謎の異世界にやってきて、もう二ヶ月くらいになるかな。』”
”それならば、ぼくにも遺せるものもあるはずだね。 偉大な『リチャードと羊』は死んでしまった。でも、ぼくはまだ、また何かを作ることができる。それがどう評価されようがもう関係ない。”
”一人の善良な、だが無能の男が絶望の末に死を選ぶ。そして異世界に転生するんだ。王として。彼はその凡庸さゆえ何もすることが出来ない。ただ生き延びるのに精一杯。ただし、彼は善良な凡愚であるがゆえに、失敗と挫折を繰り返しながらみっともなくのたうち回って何かを残そうとするだろう。”
”地味なお話だね。『この人を見よ』の主人公が備えた華麗な政略も戦略もない。周囲を惹きつけるカリスマ性もなければ度胸もない。でも、その善良で無能な男はとにかく何かを遺そうとする。偉大なものではなくても。何か善きものを。 悪が凡庸な存在から生まれ出ずるごとく、善もまた凡庸な存在から生じうるからだ。”
”偉大な人をぼくは書けない。だからきっと、偉大な作品をぼくは書けないだろう。 でも、凡人の姿ならば書けるはずだ。誰に感銘を与えることもなく誰を鼓舞することもない。そんな人間を。つまりぼくの「同胞」の姿を。”
” 初夏の夜。
眼前には地の明かりと空の明かり。
脇にはワインの空き瓶。
これほどに素晴らしい環境があるだろうか。何かを遺すのに。
キーボードを叩く、この震える指は、全てだ。
さぁ、堂々とやれ。もう一度書け。凡庸であるとはなにか、その全てを語れ。”
”『「陛下、おはようございます」
深いバリトンの声がする。侍従さんだ。
ちょっと前まではこの威厳マックスなおじさんにベッドサイド直近で起こされてたんだけど、余りにもキツいので最近は頑張って自分で起きてる。
この謎の異世界にやってきて、もう二ヶ月くらいになるかな。』”
凡庸な男(27)
ぼくに対する茉莉の評価。
”彼は決して誰かを救おうとしなかった。意図しなかった。自身の存在価値に悩むメアリも、異なる意識の混濁の中で懊悩する茉莉も、彼は決して救わなかった。ただゆっくりと近づいて、ただそこに在った。”
”例の下らない物語の王が華麗に成し遂げる偉大な行動とは似ても似つかぬ振る舞い。 彼はおずおずと、不安げに、しかしそこに居てくれた。 1人の凡庸な男として。 そして彼女は救われたのだ。最終的に。偶然に。”
”彼は彼だ。サンテネリに行けば、彼はやがて偉大な王になるであろう。自分を殺すことによって。”
”「サンテネリに生きた私たちは何も知りませんでした。陛下を。グロワス様を。そんな何も知らぬ私たちの心を彼は奪いました。虜にしました。——では今、私たちはどうしましょうか。私たちにはできないでしょうか。何も知らぬ兄さんの心を奪うことが」
「陛下はアナリゼの中身を常に望まれました。ですから私はここで、彼自身を望みます。私が救われたように、彼を救います」
「それもいいでしょう。でもその前に、アナリースさんは彼を知っていますか?」”
”「私は兄さんを長く知っています。彼は偉大な人ではありません。理想家で、臆病で、そのくせ自惚れ屋で、そのくせ自虐的な、普通の人です。光輝あるサンテネリの王ではありません。大陸一の騎士でもありません。でも、それが彼です」”
”「ですから皆さん、この世界には兄さんよりももっと素晴らしい人が数多くいるはずです。どうでしょう。そちらを探されてはいかがですか?」”
”「ええ。知子さん。そうなさって……」
「ですから! 手始めに、まずは知らなければいけません。あの人を。グロワス様ではないあの人を。もう一度、初めから。もう一度!」”
”「茉莉さんもそう思いますよね! メアリ姉様エネ・メアリ。抜け駆けなんて……まさかしませんよね? あっ、そういえば私、OB訪問するんでした! 先輩にご連絡しなくちゃ」
「知子さん、就活の相談なら私がお助けしますよ?」
「えーっと、それはいいです。茉莉さんW大ですよね。W大の人とは仲良くするなって学則にあるんです。守らないと退学になっちゃいますから!」”
”「まぁ! でも、最近、社長はほとんど出社されませんよ?」”
”「あ、大丈夫です。新国立美術館で楽しそうな特別展がありますから、お誘いして、そこでOB訪問します」
「知子、知子。それはデートですよ? OB訪問では……」
「いいえ。OB訪問です! OBの方と特別展を訪問するので」”
”「秘書と社長のカップルは恋愛の定番ですね。私は彼を知って、彼は私を知る。なんて素晴らしいことでしょう!」”
”「そういえば、最近高級時計の重心は表参道方面に移っているらしいので、念のため表参道も案内してもらいましょう。念のためです。仕方ありません。これはお仕事ですから。……仕事相手と恋に落ちるのはよくあることです」”
”「ところで、その痣、どうされたんですか?」”
”「ああ、これですか? なんでもありません。ちょっと。……もう、兄さんったら」”
”「は?」”
”彼は決して誰かを救おうとしなかった。意図しなかった。自身の存在価値に悩むメアリも、異なる意識の混濁の中で懊悩する茉莉も、彼は決して救わなかった。ただゆっくりと近づいて、ただそこに在った。”
”例の下らない物語の王が華麗に成し遂げる偉大な行動とは似ても似つかぬ振る舞い。 彼はおずおずと、不安げに、しかしそこに居てくれた。 1人の凡庸な男として。 そして彼女は救われたのだ。最終的に。偶然に。”
”彼は彼だ。サンテネリに行けば、彼はやがて偉大な王になるであろう。自分を殺すことによって。”
”「サンテネリに生きた私たちは何も知りませんでした。陛下を。グロワス様を。そんな何も知らぬ私たちの心を彼は奪いました。虜にしました。——では今、私たちはどうしましょうか。私たちにはできないでしょうか。何も知らぬ兄さんの心を奪うことが」
「陛下はアナリゼの中身を常に望まれました。ですから私はここで、彼自身を望みます。私が救われたように、彼を救います」
「それもいいでしょう。でもその前に、アナリースさんは彼を知っていますか?」”
”「私は兄さんを長く知っています。彼は偉大な人ではありません。理想家で、臆病で、そのくせ自惚れ屋で、そのくせ自虐的な、普通の人です。光輝あるサンテネリの王ではありません。大陸一の騎士でもありません。でも、それが彼です」”
”「ですから皆さん、この世界には兄さんよりももっと素晴らしい人が数多くいるはずです。どうでしょう。そちらを探されてはいかがですか?」”
”「ええ。知子さん。そうなさって……」
「ですから! 手始めに、まずは知らなければいけません。あの人を。グロワス様ではないあの人を。もう一度、初めから。もう一度!」”
”「茉莉さんもそう思いますよね! メアリ姉様エネ・メアリ。抜け駆けなんて……まさかしませんよね? あっ、そういえば私、OB訪問するんでした! 先輩にご連絡しなくちゃ」
「知子さん、就活の相談なら私がお助けしますよ?」
「えーっと、それはいいです。茉莉さんW大ですよね。W大の人とは仲良くするなって学則にあるんです。守らないと退学になっちゃいますから!」”
”「まぁ! でも、最近、社長はほとんど出社されませんよ?」”
”「あ、大丈夫です。新国立美術館で楽しそうな特別展がありますから、お誘いして、そこでOB訪問します」
「知子、知子。それはデートですよ? OB訪問では……」
「いいえ。OB訪問です! OBの方と特別展を訪問するので」”
”「秘書と社長のカップルは恋愛の定番ですね。私は彼を知って、彼は私を知る。なんて素晴らしいことでしょう!」”
”「そういえば、最近高級時計の重心は表参道方面に移っているらしいので、念のため表参道も案内してもらいましょう。念のためです。仕方ありません。これはお仕事ですから。……仕事相手と恋に落ちるのはよくあることです」”
”「ところで、その痣、どうされたんですか?」”
”「ああ、これですか? なんでもありません。ちょっと。……もう、兄さんったら」”
”「は?」”
死と変容(23)
ぼくが捨てようとしていたcdの一枚。十字架にかけられたキリストが安らかな表情に変わったこと。
”そこには一枚のCDがあった。 彼は昔、例のかぶれた仕草で彼女にこのCDを勧めたことがある。「おれが理解する”存在する”とは、これなんだ。ここに全部詰まっている」 明るい黄色の縁取りの中『Tod und Verklärung死と変容』と黒いゴシック体で印字されたタイトル。”
”女は理解した。 自身が為すべき事を。 重荷を背負う男にかける言葉は無くとも、水を飲ませてやることはできる。 それこそが自分の役割であると彼女は考えた。 兄さん(陛下)に。陛下(兄さん)に。”
”「兄さん、これは捨てないで」 彼女は一冊の本と一枚のCDを拾い上げ、麦茶の瓶をひっさげて戻ってきた男に突きつけた。「ああ、それはもう……」「持っていてください。——わたしのために」”
”そこには一枚のCDがあった。 彼は昔、例のかぶれた仕草で彼女にこのCDを勧めたことがある。「おれが理解する”存在する”とは、これなんだ。ここに全部詰まっている」 明るい黄色の縁取りの中『Tod und Verklärung死と変容』と黒いゴシック体で印字されたタイトル。”
”女は理解した。 自身が為すべき事を。 重荷を背負う男にかける言葉は無くとも、水を飲ませてやることはできる。 それこそが自分の役割であると彼女は考えた。 兄さん(陛下)に。陛下(兄さん)に。”
”「兄さん、これは捨てないで」 彼女は一冊の本と一枚のCDを拾い上げ、麦茶の瓶をひっさげて戻ってきた男に突きつけた。「ああ、それはもう……」「持っていてください。——わたしのために」”
死への納得(40)
” 理性と感情の綱引きを延々続けている。
「納得」ができていないんだろうね。
それは当然のことかもしれない。マルクス・アウレリウスだかセネカだか忘れたけど、こういう言葉があるよ。「人の生涯は立派な死への準備である」って。
「納得」には長い時間がかかる。”
「納得」ができていないんだろうね。
それは当然のことかもしれない。マルクス・アウレリウスだかセネカだか忘れたけど、こういう言葉があるよ。「人の生涯は立派な死への準備である」って。
「納得」には長い時間がかかる。”
思想と表現/自己認識・人間関係・比喩
| 項目 | 話数 |
|---|---|
| ——ああ、分かりました! なるほど!(17) | 17 |
| 「は?」(27) | 27 |
| 「まぁ!」(12) | 12 |
| 「飢えた子どもを前にして、芸術は価値を持ちうるか」(11) | 11 |
| お祈り案件(9) | 9 |
| ちょっとしたうそ(21) | 21 |
| とびきりのホラー2(18) | 18 |
| にげられない(25) | 25 |
| ふざけやがって(25) | 25 |
| コメディ(15) | 15 |
| チョウチンアンコウ(30) | 30 |
| 不可思議な道具(38) | 38 |
| 主従の逆転(37) | 37 |
| 二つの意味で醜悪(40) | 40 |
| 仕上がる(18) | 18 |
| 他者からは2者と映る2つの意識(23) | 23 |
| 吊り上げられたチョウチンアンコウ(32) | 32 |
| 噂話のネタにされるという地獄(6) | 6 |
| 壊すには労力がいる(35) | 35 |
| 太陽は人を狂わせる(40) | 40 |
| 山奥の巣に籠もるドラゴン(30) | 30 |
| 滑稽さの条件(36) | 36 |
| 物事にはタイミングというものがある(24) | 24 |
| 細い金属の棒(26) | 26 |
| 葉っぱ(2) | 2 |
| 複雑な話は受けない(11) | 11 |
| 逃げなければならない(25) | 25 |
| 5(41) | 41 |
| \(^o^)/(42) | 42 |
——ああ、分かりました! なるほど!(17)
把握した知子の台詞。
”「兄さん、分かっていますね? 兄さん。社会人として。そうですね?」”
”「分かっていればいいんです。今の就職市場なら、K大学の学生は絶対に大手にいけますから。地方の中小には来てくれませんよ。絶対に。——夢を見ても無駄です」”
”「兄さん、分かっていますね? 兄さん。社会人として。そうですね?」”
”「分かっていればいいんです。今の就職市場なら、K大学の学生は絶対に大手にいけますから。地方の中小には来てくれませんよ。絶対に。——夢を見ても無駄です」”
「は?」(27)
2回目の登場。青佳、知子、アナリースによるものと思われる。手首のあざをぼくとの何かしらのアフェアの結果であるとにじませる茉莉に対して発せられた。
”「は?」 瞬間、3人の女声がぴたりと重なる。 かくして偉大なる王妃達ロワイユ・グローエの典雅な夕食会は閉店時まで続くこととなった。”
”「は?」 瞬間、3人の女声がぴたりと重なる。 かくして偉大なる王妃達ロワイユ・グローエの典雅な夕食会は閉店時まで続くこととなった。”
「まぁ!」(12)
青佳の口癖。
”三沢さんも現代美術は縁遠いらしく、なんとも珍奇な見世物を見るように、大きな瞳をさらに見開いてぽかんとしてた。「まぁ!」って言いながら。”
”茉莉さんの「まぁ!」なんて全く想像できない。彼女の場合「よく分かりませんね」とクールに呟くのが似合う。 ぼくはどうだろうか。ぽかんと口を開けて「ああ、うん」とでも呻くだろうか。”
”三沢さんも現代美術は縁遠いらしく、なんとも珍奇な見世物を見るように、大きな瞳をさらに見開いてぽかんとしてた。「まぁ!」って言いながら。”
”茉莉さんの「まぁ!」なんて全く想像できない。彼女の場合「よく分かりませんね」とクールに呟くのが似合う。 ぼくはどうだろうか。ぽかんと口を開けて「ああ、うん」とでも呻くだろうか。”
「飢えた子どもを前にして、芸術は価値を持ちうるか」(11)
ぼくとレスパンの最近の話題。芸術全般にとって最も重い問いの一つ。
”「この役で俺は何をもたらせるでしょうか。善いものを」って。もうこのシーン自体ドラマにすればいいと思うよ。ぼくの役はイケオジ俳優に変えて。"
”「確かに表面を演じることはできます。でも、先輩が言うとおり、難しいのは”秘めた部分”なんです。俺にはそれができない」「最悪、無くてもいいんじゃないかな。強大なリーダーシップで社会をより善い方向に変えていく。そのために必要なのは強靱な、揺るがない意思だ。それ以上の複雑さはテーマをぼかしてしまうかもしれない。ストレートにやればいい」”
”「この役で俺は何をもたらせるでしょうか。善いものを」って。もうこのシーン自体ドラマにすればいいと思うよ。ぼくの役はイケオジ俳優に変えて。"
”「確かに表面を演じることはできます。でも、先輩が言うとおり、難しいのは”秘めた部分”なんです。俺にはそれができない」「最悪、無くてもいいんじゃないかな。強大なリーダーシップで社会をより善い方向に変えていく。そのために必要なのは強靱な、揺るがない意思だ。それ以上の複雑さはテーマをぼかしてしまうかもしれない。ストレートにやればいい」”
お祈り案件(9)
小グロワスを購入して金欠になった場合、青佳に金銭的援助を頼もうかと考えたぼくの空想。
”SNSに長文ツイート連投される未来が見える。RT20000、いいね50000。令和の最低男No1としてトレンドに乗りかねない。”(9)
”SNSに長文ツイート連投される未来が見える。RT20000、いいね50000。令和の最低男No1としてトレンドに乗りかねない。”(9)
ちょっとしたうそ(21)
”「彼は記憶力が抜群なんだ。本当にすごいよ。天は二物を与える。その証左が彼だ。……私なんか昨日食べた夕食のメニューも思い出せないのに」”
”ちょっとうそをついた。昨日食べた夕食のメニューは覚えてる。アルパカ。ぼくはアルパカを食べた。ワインはカロリー高いからね。他には何もいらない。”
”ちょっとうそをついた。昨日食べた夕食のメニューは覚えてる。アルパカ。ぼくはアルパカを食べた。ワインはカロリー高いからね。他には何もいらない。”
とびきりのホラー2(18)
”さっき会ったばかりの知子ちかこさんは別として、青佳さんにも茉莉さんにもアナリースさんにも多分好意を持たれている。濃淡は違えど少なくとも嫌われてはいない。本当にうれしいよ。 ただね、理由が全く不明なんだ。 なんだこれ。”
にげられない(25)
”ぼくはこういう不意打ちを見事に乗り切らなければいけない。 一番柔らかいところを抉られたときこそ、うまくやることが重要だ。 こういうときはね、場の流れを断ち切るのが効果的だよ。たとえばキッチンに酒を取りに行くとか。”
”いかにも「しょうがないな」といった風情でこれ見よがしに溜息をつく。 そして立ち上がり……。 左手に衝撃を覚えた。 茉莉さんが発した小さな悲鳴とともに。可愛らしい、少女のような。”
”逃げなければならない。この状況から。これ以上は本当に危ない。ぼくがさらけ出されてしまう。 ぼくは勢いよく立ち上がり……そして再び阻まれた。手錠と、その先にある重荷に。「なにをそんなに慌ててるんですか? 兄さん。兄さんが好きなグロワス13世に似ているって言っただけなのに。芸能人に似ているのと変わりませんよ?」”
”いかにも「しょうがないな」といった風情でこれ見よがしに溜息をつく。 そして立ち上がり……。 左手に衝撃を覚えた。 茉莉さんが発した小さな悲鳴とともに。可愛らしい、少女のような。”
”逃げなければならない。この状況から。これ以上は本当に危ない。ぼくがさらけ出されてしまう。 ぼくは勢いよく立ち上がり……そして再び阻まれた。手錠と、その先にある重荷に。「なにをそんなに慌ててるんですか? 兄さん。兄さんが好きなグロワス13世に似ているって言っただけなのに。芸能人に似ているのと変わりませんよ?」”
ふざけやがって(25)
”「茉莉。もういい。……その話は止めろ」「怒ってるんですか?」「分からない。でも、もういいだろう。何が言いたいのかは分かる。おれに言わせたいのか? いいよ。言おう。おれはもう二度と”陛下”とは呼ばれたくない」「なぜです」 ぼくに分かることはただ一つ。彼女はぼくを引きずり出そうとしている。 では出て行ってやる。お望み通り。”
コメディ(15)
喜劇。ハッピーを意味するわけではない。
”一対の男女の、とりわけ愛を巡る深刻な姿は傍目には喜劇コメディと映るもの”
”一対の男女の、とりわけ愛を巡る深刻な姿は傍目には喜劇コメディと映るもの”
チョウチンアンコウ(30)
ぼくによるweb創作をする自身のたとえ。寄って来た同志を食べるつもりか。コワイ
”極言すれば、これはぼくの「同志」を探す旅だ。似たような感性を持った人を。チョウチンアンコウみたいなものだろうか。 深海で微かな光をぼんやり点して同類を待ってる。広大な海の底で。”
”極言すれば、これはぼくの「同志」を探す旅だ。似たような感性を持った人を。チョウチンアンコウみたいなものだろうか。 深海で微かな光をぼんやり点して同類を待ってる。広大な海の底で。”
不可思議な道具(38)
明確な目的を持ったツールのはずが、様々な外的・内的要因を経て謎の進化を遂げ、全くの別物になっているような道具。とても人間っぽいが、人間ではないのでぼくは好き。
”とても人間っぽい。でも人間に特有の不気味な、ぐにゃぐにゃした存在の感触がない。そういう乾いた独特さがぼくには合ってる。”
”とても人間っぽい。でも人間に特有の不気味な、ぐにゃぐにゃした存在の感触がない。そういう乾いた独特さがぼくには合ってる。”
主従の逆転(37)
人気が出たことで、自分が楽しめることではなく読者が楽しめることが目的になりそうで悩むぼく。
”多くの読者の人に楽しんでもらいたいという欲求は書き始めたときからあった。でもそれは結果であって目的ではない。ぼくはぼくが書きたいものを書く。その際にできる限り「独りよがり」にならないよう注意することで、結果他人も楽しめるものになる。それが理想だった。 今はどうかと言えば、この主従——目的と結果——の絶対性が揺らいでいる。”
”彼らに楽しんでほしい、彼らに見限られたくないと思う気持ちが生まれないなんて、それこそありえない。”
”会社でもそうだった。 従業員の皆さんに「ここで働いてよかった」「充実している」と思ってほしかった。彼らに見限られたくないと思った。ぼくが価値のある存在だと思われたかった。 ぼくはその気持ちをうまく操縦することができなかった。”
”多くの読者の人に楽しんでもらいたいという欲求は書き始めたときからあった。でもそれは結果であって目的ではない。ぼくはぼくが書きたいものを書く。その際にできる限り「独りよがり」にならないよう注意することで、結果他人も楽しめるものになる。それが理想だった。 今はどうかと言えば、この主従——目的と結果——の絶対性が揺らいでいる。”
”彼らに楽しんでほしい、彼らに見限られたくないと思う気持ちが生まれないなんて、それこそありえない。”
”会社でもそうだった。 従業員の皆さんに「ここで働いてよかった」「充実している」と思ってほしかった。彼らに見限られたくないと思った。ぼくが価値のある存在だと思われたかった。 ぼくはその気持ちをうまく操縦することができなかった。”
二つの意味で醜悪(40)
- 他者のために生きるということは自分の生の責任を他人に押し付けること
- 私のために生きてということは相手の生を自分の道具とみなすこと
人を助けられないし、人に頼れない。
”この台詞は2つの意味で醜悪だ。
まず、他者のために生きるということは、自身の存在理由を他者に求めること。つまり、自分の生の責任を他人に押しつけることに等しい。
「私のために生きて」を受け入れる以上、その後の生の責任はそれを要求した人に求められるだろう。
次に、「私のために」と要求することは、相手の生を道具と見做すに等しい。”私”が心地よくあるために使用する道具として。”
”「じゃあ私たちは皆、ずっと独りですね。困ったときに人に助けてもらうことはできません。協力して何かをすることもできないはずです」”
”この台詞は2つの意味で醜悪だ。
まず、他者のために生きるということは、自身の存在理由を他者に求めること。つまり、自分の生の責任を他人に押しつけることに等しい。
「私のために生きて」を受け入れる以上、その後の生の責任はそれを要求した人に求められるだろう。
次に、「私のために」と要求することは、相手の生を道具と見做すに等しい。”私”が心地よくあるために使用する道具として。”
”「じゃあ私たちは皆、ずっと独りですね。困ったときに人に助けてもらうことはできません。協力して何かをすることもできないはずです」”
仕上がる(18)
家を一軒プレゼントされて、お代は牛乳瓶のフタでいいと言われて納得できること。
”家を一軒プレゼントされて、お代は牛乳瓶の蓋”
”たとえばこの間乱入してきた叔父さんみたいなタイプはそれができる。嬉々として蓋を渡して家を貰って、上物壊して、周りの空地買収して、土地を合わせて売るね。仕上がるとはつまりそういうことだから。”
”家を一軒プレゼントされて、お代は牛乳瓶の蓋”
”たとえばこの間乱入してきた叔父さんみたいなタイプはそれができる。嬉々として蓋を渡して家を貰って、上物壊して、周りの空地買収して、土地を合わせて売るね。仕上がるとはつまりそういうことだから。”
他者からは2者と映る2つの意識(23)
彼女たちの、そして恐らく『暗君』でのぼくのおかれた状態。明白に二つの意識が存在するが、互いに境界が引けない。その矛盾を矛盾と認識しない。等分に交じり合い、同一であり、かつ分かたれている。
”手慣れた仕草で、迷うことなく、彼女は着替えを済ませた。そして再びベッドに腰掛けた。何か、あるいは誰かを待って。これこそが異常である。”
” 少女の中に存在する中学校2年生の少女の意識は自分で着替ることを選択した。同時に、彼女の中に明白に存在するもう一つの意識は侍女を待つことを選んだのである。やっかいな状況があるとすれば、他者からは2者と映るこの2つの意識は、互いを認識することができなかった。両者は別たれつつ一体である。ゆえに対話など不可能なのだ。 少女は侍女を待つことを「当然」と認識し、女は自身で支度をすることを「当然」と認識する。 ——ああ、今日は朝練だから早く動かなきゃ。服を着替えて……世話の者は今日は遅れているようですね。珍しいことです。”
”等分に混じり合うとはつまりかくの如きものである。 片方の意識が片方に対してほんの少しであっても優越を得られているのであれば——ある意識が主体でありもう片方が客体であるような——問題は解決する。主体となった意識は自身の置かれた世界を自身固有の認識において捉えながら、足りない部分、理解不可能な部分を客体意識から吸い上げる形で動けばいい。 だが、まことに不幸なことに、あるいは幸運なことに、この日本人の少女下川茉莉とサンテネリ女性メアリ・エン・ルロワは等分にあり、同一であり、かつ別たれていた。”
”手慣れた仕草で、迷うことなく、彼女は着替えを済ませた。そして再びベッドに腰掛けた。何か、あるいは誰かを待って。これこそが異常である。”
” 少女の中に存在する中学校2年生の少女の意識は自分で着替ることを選択した。同時に、彼女の中に明白に存在するもう一つの意識は侍女を待つことを選んだのである。やっかいな状況があるとすれば、他者からは2者と映るこの2つの意識は、互いを認識することができなかった。両者は別たれつつ一体である。ゆえに対話など不可能なのだ。 少女は侍女を待つことを「当然」と認識し、女は自身で支度をすることを「当然」と認識する。 ——ああ、今日は朝練だから早く動かなきゃ。服を着替えて……世話の者は今日は遅れているようですね。珍しいことです。”
”等分に混じり合うとはつまりかくの如きものである。 片方の意識が片方に対してほんの少しであっても優越を得られているのであれば——ある意識が主体でありもう片方が客体であるような——問題は解決する。主体となった意識は自身の置かれた世界を自身固有の認識において捉えながら、足りない部分、理解不可能な部分を客体意識から吸い上げる形で動けばいい。 だが、まことに不幸なことに、あるいは幸運なことに、この日本人の少女下川茉莉とサンテネリ女性メアリ・エン・ルロワは等分にあり、同一であり、かつ別たれていた。”
吊り上げられたチョウチンアンコウ(32)
開き直る反面、ショックも大きく、朝からアルパカを開ける羽目になったぼく。
”いずれにしても、ぼくはチョウチンアンコウではなくなってしまった。 釣り上げられて、船の上で嘲笑われている。 醜いと。 ただね、チョウチンアンコウはそういう姿をした生き物なんだ。 別に醜くない。それが彼なんだ。 ぼくはそう思う。”
”でも、醜いと思う人もたくさんいるみたいだ。本当にたくさん。 これは結構辛いね。 だから久しぶりに、本当に久しぶりに、ぼくは朝から助けを呼ぶことにした。 頼もしい、南米原産のもふもふした動物をね。ちょっとね。”
”いずれにしても、ぼくはチョウチンアンコウではなくなってしまった。 釣り上げられて、船の上で嘲笑われている。 醜いと。 ただね、チョウチンアンコウはそういう姿をした生き物なんだ。 別に醜くない。それが彼なんだ。 ぼくはそう思う。”
”でも、醜いと思う人もたくさんいるみたいだ。本当にたくさん。 これは結構辛いね。 だから久しぶりに、本当に久しぶりに、ぼくは朝から助けを呼ぶことにした。 頼もしい、南米原産のもふもふした動物をね。ちょっとね。”
噂話のネタにされるという地獄(6)
ぼくのトラウマか。女性の多い職場であれば最短一週間で体験できるらしい。
壊すには労力がいる(35)
三食コンビニ飯では体を壊すという青佳への返答。いろいろ深読みできる。
”「家の近くにコンビニがあるから、そこで買っているかな。最近のコンビニ飯は本当に美味しいよ。お弁当は大体制覇した」
「まぁ! それだとちょっと……身体に悪いかもしれませんね。病気になっちゃいます」”
”「大丈夫だよ。私はこう見えて意外と頑丈に出来てる。壊すには労力がいる」”
”「家の近くにコンビニがあるから、そこで買っているかな。最近のコンビニ飯は本当に美味しいよ。お弁当は大体制覇した」
「まぁ! それだとちょっと……身体に悪いかもしれませんね。病気になっちゃいます」”
”「大丈夫だよ。私はこう見えて意外と頑丈に出来てる。壊すには労力がいる」”
太陽は人を狂わせる(40)
うだるような暑さと、熱にうかされた脳。
”ぼく達の午後は奇妙な午後だ。
きっと太陽のせいだろう。彼女がこんな話を始めたのは。
それは人を狂わせる。”
”太陽は人を狂わせる。
たとえ木陰に隠れても、それはぼくを暴き出す。ぼくの本性を。
加えてここにはやっかいなアシスタントもいるからね。可愛らしい女の子の。”
”ぼく達の午後は奇妙な午後だ。
きっと太陽のせいだろう。彼女がこんな話を始めたのは。
それは人を狂わせる。”
”太陽は人を狂わせる。
たとえ木陰に隠れても、それはぼくを暴き出す。ぼくの本性を。
加えてここにはやっかいなアシスタントもいるからね。可愛らしい女の子の。”
山奥の巣に籠もるドラゴン(30)
ぼくが時計をため込む自身をたとえていった。
”山奥の巣に籠もるドラゴンよろしく溜め込んできたぼくの「財宝」の数々は、しかるべきところに売却すればそこそこの額になるはずだ。 次はもっといい人の手に渡り、愛用されてほしいな。”
”山奥の巣に籠もるドラゴンよろしく溜め込んできたぼくの「財宝」の数々は、しかるべきところに売却すればそこそこの額になるはずだ。 次はもっといい人の手に渡り、愛用されてほしいな。”
滑稽さの条件(36)
暗君、地に落ち自身についての言及でもあるように見える。
”滑稽であるためには生真面目でなければならない。 まるで大したことのない状況に対して、渦中の人間があまりにも深刻に向き合う。問題の矮小さと登場人物の苦しみの落差こそが笑いを生む。誠に残酷な、しかし真理である。”
”滑稽であるためには生真面目でなければならない。 まるで大したことのない状況に対して、渦中の人間があまりにも深刻に向き合う。問題の矮小さと登場人物の苦しみの落差こそが笑いを生む。誠に残酷な、しかし真理である。”
物事にはタイミングというものがある(24)
昨日の会食での皆の振る舞いに失望し、隠しきれない怒りを覚えるぼく。
”いつでもやれるけど、やるためには何かの動因が必要だ。 たとえば机の上にペンを立てたとしよう。後部が平らなヤツをね。それはいつでも倒れることができる。でも、誰かが指で押さなければ倒れない。あるいは地震とか。そういう外部からの要因がなければ。 ぼくにとっての一押しは昨日の食事だった。”
”ああ、自分で考えておきながら全然論理的じゃないね。自分では冷静なつもりなんだけど。どうも不思議な感覚だね。隠しきれないのかな。怒りを。”
”いつでもやれるけど、やるためには何かの動因が必要だ。 たとえば机の上にペンを立てたとしよう。後部が平らなヤツをね。それはいつでも倒れることができる。でも、誰かが指で押さなければ倒れない。あるいは地震とか。そういう外部からの要因がなければ。 ぼくにとっての一押しは昨日の食事だった。”
”ああ、自分で考えておきながら全然論理的じゃないね。自分では冷静なつもりなんだけど。どうも不思議な感覚だね。隠しきれないのかな。怒りを。”
細い金属の棒(26)
ゴルフクラブ。ぼくと加賀の叔父さんが男2人で振り回すために郊外の打ちっぱなしに行った。
”ぼくの家がある——そしてうちの会社の本社がある——あたりは地方は地方でもちょっとした規模の都市なので、男二人で細い金属の棒を振り回そうと思ったら車を少し郊外まで走らせなければならない。”
”会社はね、今日は休みをとった。とったというか所用で欠席すると連絡した。 残念ながら皆勤賞は途絶えてしまった。 色々なことが途絶えていく。そういうものだよ。”
”1時間ほど鉄の棒を振り回して、ファミレスで適当に食事をして、叔父さんに家まで送ってもらった。”
”会社はね、今日は休みをとった。とったというか所用で欠席すると連絡した。 残念ながら皆勤賞は途絶えてしまった。 色々なことが途絶えていく。そういうものだよ。”
”1時間ほど鉄の棒を振り回して、ファミレスで適当に食事をして、叔父さんに家まで送ってもらった。”
葉っぱ(2)
フュー。ブラウネが光の宮殿で手づから作っていた小麦色の菓子。コーヒーを飲むためのお茶請け。
※暗君世界では貴婦人の手料理ははしたない行為。
※暗君世界では貴婦人の手料理ははしたない行為。
複雑な話は受けない(11)
” 例のマンガが受けてるのだって誰にでも分かる勧善懲悪の図式あってこそだ。それは悪いことじゃないよ。分かりやすく楽しめる話は必然的に多くの人に届く。そして多くの人の心に「何か」を残すだろう。”
逃げなければならない(25)
”「兄さんはあのお話が好きですか?」
「もちろん。ちゃんと全巻買ったし夢中で読んだ。おれもああいうリーダーになりたかったよ。ああ、ついでにあんなかわいいヒロイン達に囲まれれば言うことなしだ」
「それは光栄です。指導者の在り様はさておき、あなたが私たちヒロイン達に囲まれることをそれほどに喜ばれていたなんて。本当に光栄です。——陛下」”
”「ああ、ああ、そうだね。……ごめん、今はちょっと上手い返しができないな。いい台詞が思い出せない。たぶんぴったりの台詞があるはずなんだけど。ああ、そうだ! 本を持ってこよう! それを見れば……」”
” 逃げなければならない。この状況から。これ以上は本当に危ない。ぼくがさらけ出されてしまう。”
”「なにをそんなに慌ててるんですか? 兄さん。兄さんが好きなグロワス13世に似ているって言っただけなのに。芸能人に似ているのと変わりませんよ?」
「分かってる。それは……それはうれしいな! ただね、ちっとも似てないのに似ているって言われると気恥ずかしくなる。おれもいい大人だから」
「いい大人なら軽く流せるはずですよ。——陛下」”
「もちろん。ちゃんと全巻買ったし夢中で読んだ。おれもああいうリーダーになりたかったよ。ああ、ついでにあんなかわいいヒロイン達に囲まれれば言うことなしだ」
「それは光栄です。指導者の在り様はさておき、あなたが私たちヒロイン達に囲まれることをそれほどに喜ばれていたなんて。本当に光栄です。——陛下」”
”「ああ、ああ、そうだね。……ごめん、今はちょっと上手い返しができないな。いい台詞が思い出せない。たぶんぴったりの台詞があるはずなんだけど。ああ、そうだ! 本を持ってこよう! それを見れば……」”
” 逃げなければならない。この状況から。これ以上は本当に危ない。ぼくがさらけ出されてしまう。”
”「なにをそんなに慌ててるんですか? 兄さん。兄さんが好きなグロワス13世に似ているって言っただけなのに。芸能人に似ているのと変わりませんよ?」
「分かってる。それは……それはうれしいな! ただね、ちっとも似てないのに似ているって言われると気恥ずかしくなる。おれもいい大人だから」
「いい大人なら軽く流せるはずですよ。——陛下」”
5(41)
日本を代表する時計会社のS社が海外向けに販売しているシリーズ。バリエーション豊か。エキゾチックな魅力があり安価かつタフな品質を誇る。工業製品の頂点とぼくは評価している。
”アナリースさんやお父さんのエストブール氏のような時計師が作る時計が「工芸品」の頂点だとすれば、この「5」は「工業製品」の頂点であると言える。 偉大なる凡庸。その最たるものだ。”
”アナリースさんやお父さんのエストブール氏のような時計師が作る時計が「工芸品」の頂点だとすれば、この「5」は「工業製品」の頂点であると言える。 偉大なる凡庸。その最たるものだ。”
\(^o^)/(42)
アナリースに『地に落ちて死なば』の話を振られたことを確信したぼくの心情を表す顔文字。
”「そういえば最近、とても面白いネット小説を見つけました」”