読書メモ 整理版(第1〜44話)・1/3
※42話「運命論」まで反映。暗君に元ネタが見つかったら随時追記。
” こうして”物語”が始まった。
ちょっと気弱なぼくとちょっと電波な彼女の不思議な物語が。(1)”
” ——これほどに不可思議なことがあるでしょうか。でも、それを言うならばわたしの存在自体が不可思議の極みなのです。(2)”
”「社長、よろしくないことを考えていらっしゃいますね?」(3)”
ちょっと気弱なぼくとちょっと電波な彼女の不思議な物語が。(1)”
” ——これほどに不可思議なことがあるでしょうか。でも、それを言うならばわたしの存在自体が不可思議の極みなのです。(2)”
”「社長、よろしくないことを考えていらっしゃいますね?」(3)”
あらすじ/第1〜44話
第1話『労基かな?』(ぼく)
造園会社社長のぼくは内心憎からず思っていた自分付秘書、三沢青佳の退職を知る。ショックのあまり承諾したお見合いに青佳が登場するが、どこか様子がおかしい。
”「まぁ、緊張なさっていらっしゃいますの? この会は少々肩肘張っておりますかしら。——陛下」。”
”「まぁ、緊張なさっていらっしゃいますの? この会は少々肩肘張っておりますかしら。——陛下」。”
第2話『現実と妄想の境界線』(青佳)
地元の造園会社に勤める生真面目な新入社員三沢青佳はある日前世を思い出す。王妃ブラウネとしての彼女の意識は社長(ぼく)を、かつての夫グロワス13世と見定めた。
”——これまでご不便でございましたね、グロワス様。でも今後はお任せ下さいませ。青佳(ブラウネ)が”お世話”いたしますので。”
”——これまでご不便でございましたね、グロワス様。でも今後はお任せ下さいませ。青佳(ブラウネ)が”お世話”いたしますので。”
第3話『パパ活かな?』(ぼく)
見合い中のぼくは青佳とのやり取りの違和感のなさに驚くが、若く美しい彼女の狙いはぼくの社会的立場であろうと感じ消沈する。誘いを断り切れず夕食を共にするぼくの携帯に、従妹の茉莉からの連絡が入る。
”「ああ、これは遠い親戚の子からだ」”
”「子?」”
”「子」”
”「ああ、これは遠い親戚の子からだ」”
”「子?」”
”「子」”
第4話『ライバルかな?』(青佳)
社内にいては社長との関係進展は望めないと判断し、速やかに退職した青佳。両親の縁故を利用してあっさりぼくとの見合いにこぎつけた。勝利を確信する彼女だが、茉莉の連絡により暗雲が立ちはじめる。
”「マリさん。——覚えておきますね」”
”「マリさん。——覚えておきますね」”
第5話『兵は拙速を尊ぶ』(ぼく)
土曜の夜いきなり現れた年下の親戚、茉莉。ぼくの部屋を細かくチェックした後、「友人」の転職相談を持ち掛ける。「結婚を視野に入れた人生設計のための転職」という話に中小企業社長として渋い顔をするぼくだが、茉莉はニッコリと返答した。
”「大丈夫です、兄さん。まだその子彼氏いませんから。これからです」”
”「大丈夫です、兄さん。まだその子彼氏いませんから。これからです」”
第6話『ケーキ』(ぼく)
三沢さんがちょっと大きなケーキを作ってしまったため、パーティ的なイベントが発生。ぼくの部屋に集合した青佳と茉莉が互いをけん制している以外なごやかに会は進む。ぼくは美味しいケーキに舌鼓を打ち、「ひとりじめしたい」と思う。そんな時、旧知の時計師から来日の知らせが届いた。
”「茉莉さんもお料理されるんですか? ……あっ、お仕事お忙しいでしょうから、なかなかお時間とれませんよね」”
”「料理下手同士、一緒に練習しましょう、兄さん」”
”「茉莉さんもお料理されるんですか? ……あっ、お仕事お忙しいでしょうから、なかなかお時間とれませんよね」”
”「料理下手同士、一緒に練習しましょう、兄さん」”
第7話『享楽的であること』(ぼく)
うっかり時計のイベント情報をこぼしたぼくは、やけに相づちのうまい青佳と茉莉を伴って夜の銀座に繰り出すことに。会場で旧知の時計師に再開したぼくは、彼の娘アナリースを紹介された。
”「エストブールのCMO(最高マーケティング責任者)をしております、アナリース・エストブールです。以降よしなにお願いいたしますね」”
”「エストブールのCMO(最高マーケティング責任者)をしております、アナリース・エストブールです。以降よしなにお願いいたしますね」”
第8話『ブランド』(ぼく)
アナリースは自分を呼び捨てにするよう要求し、ぼくの手を掴んで自作の小さな時計を預けた。時計の名は小グロワス。
”「あなたに差し上げます。——彼を愛してくださった方に」”
”「あなたに差し上げます。——彼を愛してくださった方に」”
第9話『片割れ』(ぼく)
初対面のアナリースから腕時計(4桁万円)を貰える理由がわからず、恐怖するぼく。金銭での対価を拒否した彼女は、かわりにルー・サントルへ連れて行って欲しいと要望。親友のチカコも誘うという。聞いていた青佳、茉莉も参加することになった。
”「では、今度わたしを連れて行ってください」”
”「いいえ。——ルー・サントルの、あなたの行きつけのお店へ」”
”「では、今度わたしを連れて行ってください」”
”「いいえ。——ルー・サントルの、あなたの行きつけのお店へ」”
第10話『この人を見よ 1』(青佳)/(ぼく)
かつて愛した男と比べ、ぼくの平凡さを好ましく思うブラウネ。ここが亡き主人が望んだ世界に近いこと、その実現に努めた男たちの労力と偉大さを痛感する。” ——でも、なんと素晴らしいことでしょう! この世界ではもう、彼がそれを為す必要はないのですから。”。ぼくは茉莉との出会いを思い返していた。不登校で学力の落ちた中三女子生徒の家庭教師として、気の乗らないまま訪れた彼女の家で起きた不思議な出来事について。
”「いなくならないでください。私のところにいてください。——先生」”
”「いなくならないでください。私のところにいてください。——先生」”
第11話『この人を見よ 2』(ぼく)
若気の過ちで知り合った年下の友人、大人気俳優の美男子レスパンから次作の出演について相談を受けたぼく。例のマンガ原作小説「この人を見よ」の実写ドラマ主演とのこと。君ならできるよと気軽に力づけるぼくに対し、レスパンは驚くべき発言をする。
”俺が書いたんです。あの話。——『この人を見よ』を”
”俺が書いたんです。あの話。——『この人を見よ』を”
第12話『この人を見よ3』(ぼく)
ベストセラー作家の正体が友人であったことを知ったぼく。失意と嫉妬にさいなまれて青佳をデートに誘い、高価なワンピースを贈る。「地位もお金も持っているが自分自身には何もない」。自己嫌悪に陥ったぼくがひとり自室でアルパカをラッパ飲みした頃、チャイムが鳴った。
”つまりこれがぼくと三沢さんの関係ということになる。ぼくはお金で好意を買ったんだ。他に差し出せる物がないから。素晴らしいね。”
”つまりこれがぼくと三沢さんの関係ということになる。ぼくはお金で好意を買ったんだ。他に差し出せる物がないから。素晴らしいね。”
第13話『日はまた昇る1』(ぼく)
日曜夜10時に突然押しかけて来た加賀の叔父さん。アルパカのボトルを見て管を巻く。面白がった叔父さんのかけた電話で茉莉にぼくのお見合いがばれてしまう。押しかけてきたまま泊まり込み、朝からシャワーを使った茉莉。彼女の声は、ぼくが青佳と電話している最中のリビングに響き渡った。
”「兄さん。お風呂ありがとうございました」”
”「は?」”
”「兄さん。お風呂ありがとうございました」”
”「は?」”
第14話『日はまた昇る2』(ぼく)
叔父と茉莉の散らかした部屋を片付けながら、かつての自分と今の自分は同じ人物なのか考えるぼく。父が死の間際に発した言葉「おれの本当の息子はどこだ」が彼を苛む。自らの恵まれた環境は不正であると感じ、終わりにしなければならないと結論したぼくは、自宅に訪れた青佳に見合いの解消を告げる。
”ぼくは惨めだ。”
”ぼくは惨めだ。”
第15話『人間的な』(青佳)→(第三者?)
重責に押しつぶされる王を見殺しにしたこと、そして王と共に死ななかったことを後悔しているブラウネ。今生ではそのような恐れはない。ゆえに社長が社長でなくなろうとも、彼が何と言おうとも、彼女の決意は揺るがない。
”「ところで、ちょっとお腹が空いてきましたね。 本屋さんに行って、それからお食事をしましょう。——あなた」”
”「ところで、ちょっとお腹が空いてきましたね。 本屋さんに行って、それからお食事をしましょう。——あなた」”
第16話『幸せな女1』(アナリース)
サンテネリ正妃アナリゼは国と夫と息子を失い、一人寂しく死んだ。9歳から突然勉学の才能を発揮したアナリースは、中学校最終学年で異国の小説に「グロワス13世」の名前があることを知る。その後飛び級を繰り返して大学を卒業。在学中の交換留学で異国日本を訪れ、島津知子と運命の出会いをする。
”当然のことだ。彼女はよく知っていた。幸せな女とは、どのようなものであるかを。”
”「なぜって。そうですね! お名前がとても素敵だったから。アナリース・ヴォー・エストビルグさん」”
”当然のことだ。彼女はよく知っていた。幸せな女とは、どのようなものであるかを。”
”「なぜって。そうですね! お名前がとても素敵だったから。アナリース・ヴォー・エストビルグさん」”
第17話『幸せな女2』(知子)
日本有数の名家の娘、島津知子は憂鬱だった。高校生の頃に突然彼女の中に滑り込んできた別の自分には、親友アナリースが引き合わせてくれるという、彼女が最近ご執心の男の正体に心当たりがあったから。憂さ晴らしに入った書店で、彼女はその男と偶然出会う。どうしようもなく彼に強く惹かれる知子は、彼について「よく知らなければならない」と考える。
”——殿方を知るには、それはそれは長い時間がかかるものですから!”
”——殿方を知るには、それはそれは長い時間がかかるものですから!”
第18話『仕事1』(ぼく)
アナリースからの理由不明で過大な好意に震えるぼくだったが、日本での水先案内を求められているのだろう、つまりビジネスだと納得する。いずれ劣らぬ美貌の女性たちを行きつけのブティックに案内したぼくは、彼女らが豪華な内装に動じないことに驚きながら、はりきって”ビジネス”を始める。
”アザラシとシャチ、海に生きるお友達同士。皆で遊んでるのかな?”
”アザラシとシャチ、海に生きるお友達同士。皆で遊んでるのかな?”
第19話『仕事2』(ぼく)
ブティックにて。家が建つほどの価格の時計を見せてもらう一同。ぼくのまわりで諍いを始める青佳たちを尻目に、トゥールビヨンモデルをじっと見つめるアナリース。ぼくは由理をエストブールのアンバサダーにするという名案を思い付き、さっそく面通しの準備を進める。
”なんて素晴らしいことだろう! 皆喜ぶはずだ。”
”なんて素晴らしいことだろう! 皆喜ぶはずだ。”
第20話『友』(由理)
由理はフランス人の父と日本人の母の間に生まれる。小学校入学直前に父が失踪したため、母と二人、生活面で困難な幼年期を過ごす。6年生の夏休みに突如学業に目覚め、以後別格の成績を発揮。東京の有名私大に在学中、モデルのアルバイトを通して「ぼく」に出会う。由理にとっては待ち続けた男との再会であった。
”こうして青年は出会った。友と。”
”こうして青年は出会った。友と。”
第21話『友達』(ぼく)
皆のプライバシーを守るため、苦手を我慢してフレンチを会場に設定したぼく。由理の謎のセンシティブ発言をなんとか挽回、和やかに語り合う面々を眺めるぼくは、まるで王侯の会食に給仕する従僕のような幸せな気分に浸る。宴もたけなわ、ぼくは由理に「小グロワス」作者アナリースを紹介し、返す刀で由理の素性を紹介した。
”「なにせ彼こそが原作者なんだから。——『この人を見よ』の」”
”「なにせ彼こそが原作者なんだから。——『この人を見よ』の」”
第22話『あの人達』(ぼく)
「だからあんなに薄っぺらいんですね!」 突然の知子の暴言で、平穏に見えた会食は別世界に変わる。由理に食って掛かる知子と青佳をなだめようとする努力も実を結ばず、アナリースも由理に全く興味を示さない。自身に「グロワス13世」を重ねている”あの人達”にうんざりし、一人、葉巻を肺まで吸い込んで窒息しそうになったぼく。現れた茉莉に介抱され、入社の世話を頼まれる。「兄さんがやりたいことを助けることができる」。彼女だけは”友達”のままだと安心するぼくに、彼女は言った。
”すでに2度お助けしていますから。3度目もきっと私が必要になるはずです。——陛下”
”すでに2度お助けしていますから。3度目もきっと私が必要になるはずです。——陛下”
第23話『死と変容』(茉莉)
茉莉に異変が訪れたのは中学2年、14歳の頃。交じり合った二つの精神のバランスをなんとか取り戻した彼女の家庭教師として呼ばれたのは、当時大学生のぼく。茉莉は即座に彼に興味を持ち、メアリは愛を感じた。高校進学後も付き合いは続き、ぼくが処女作の不振で落ち込んだとき、また父親を亡くして消沈したとき、茉莉がかけた言葉はぼくを救った。少なくとも物理的に殺さなかった。
”こうしては彼女は2度救った。男の子どもと、男の存在を。つまり男を。”
”こうしては彼女は2度救った。男の子どもと、男の存在を。つまり男を。”
第24話『この良き日の終わりには1』(ぼく)
私用電話には茉莉からの着信が大量に入っていた。会食での出来事に静かな怒りを感じながら身辺整理をするぼく。残り少ない私物の中に自著を見つけ、まったく売れなかったその本、『リチャードと羊』と茉莉との思い出を回想する。がらんとした部屋に現れた茉莉は、ぼくに左手を出すように指示し、自分の右手とそれを手錠でつないだ。
”「少し思うところがあって、手を繋ぐことにしました。——兄さん」”
”「少し思うところがあって、手を繋ぐことにしました。——兄さん」”
第25話『この良き日の終わりには2』(ぼく)
手錠の理由を「明日の朝まで、ここに居るために」という茉莉に、手錠があろうがなかろうがここに居ると嘘つくぼく。「昨日の食事、辛かったですか?」。核心をついてくる茉莉から逃げることが叶わないぼくは、ついに激昂し、ぶちまける。自分が唯一欲しかったもの、唯一創りたかったものは手に入らず、なのに、それに似ていると言われて辛かったと。
”「ねえ兄さん。だから私は来ました。あなたを助けるために」”
”「ねえ兄さん。だから私は来ました。あなたを助けるために」”
第26話『善の凡庸さについて』(ぼく)
翌朝。茉莉の手筈によって加賀の叔父にゴルフに連れ出されたぼく。「お前は特別ではない、凡庸な存在である。我々が残すのは箱だ」。諭されたぼくは解き放たれた気持ちになり、凡庸な人間として書き残すことを決意した。善良で無能な男が、偉大ではなくとも、何か善きものを残そうとするお話を。
”凡庸であることこそ素晴らしい。打ち損なっても恥ずかしがらなくて済むからな。堂々とやれ」”
”凡庸であることこそ素晴らしい。打ち損なっても恥ずかしがらなくて済むからな。堂々とやれ」”
第27話『彼自身を知れ』(青佳)
会食の破綻をうけ集まった4人の元王妃たち。旧交を温めたのち現状を整理する。自身の経験を通してグロワス13世の心境を想像したブラウネは、かつての自らの言葉を悔やむ。「王が彼なのではなく、彼が王である」との茉莉の声に「彼についてよく知る必要がある」との結論に達した一同。互いに抜け駆けをけん制する彼女らに、茉莉は手錠のあとを見せつけた。
”は?”
”は?”
第28話『物語』(ぼく)5話まで執筆
物語を書き始めたぼく。自己満足なリアル路線でいくか、読者を喜ばせる展開にするか。うつし身である主人公が読者に愛されてほしいという思いから、ぼくは後者の路線をとることに決めた。投稿の翌朝、8件のビュー数を確認したぼくは、久しぶりに涙を実感した。
”一銭にもならない手慰みの物語をネットの片隅にあげて、それが1,2人の見知らぬ人に読まれた。そのことに対して、明確に、ぼくは泣いている。”
”一銭にもならない手慰みの物語をネットの片隅にあげて、それが1,2人の見知らぬ人に読まれた。そのことに対して、明確に、ぼくは泣いている。”
第29話『彼我』(知子)
皮肉にも会食でのぼくの振る舞いに知子は彼への好意を強め、彼との関係性を変えようと決心した。謝罪のための食事の席で、知子はぼくとの会話がとても楽しいことを実感する。受け入れて貰えたことを確信した瞬間、知子はみごとに距離を詰め、彼との関係を変更した。
”「普通、先輩は後輩に敬語を使いません。——そうですよね、せんぱい!」”
”「普通、先輩は後輩に敬語を使いません。——そうですよね、せんぱい!」”
第30話『上機嫌』(ぼく)
酔っぱらいながらリュテスの物語を書くぼく。PVは少し伸び、日平均20程。知子から謝罪したいとの連絡を受けて銀座に出かけたぼくは、なりゆきで入ったブティックにて知子ともどもパパ活疑いをかけられる。冷ややかな店員の対応に憤慨する知子を慰めるため、「行き違いがあったがまた今度は…」と口を滑らせたぼくは、見事に言質を取られた。
”「よかった! 次もお出かけできますね! ——せんぱいに誘ってもらえましたから!」”
”「よかった! 次もお出かけできますね! ——せんぱいに誘ってもらえましたから!」”
第31話『意志の勝利』(ぼく)
知子とのデートでの一件に着想を得て、ぼくの物語は序盤の山場の「王暗殺未遂事件」を迎える。同じく茉莉との出来事からの「添い寝シーン」の出来に満足し、「これは200PV行ける」と自信を持つ。ぼくはエストブールを訪れ、なぜ時計をくれるのかとアナリースに尋ねる。「父からあなたのことを聞いたから」との返答に、それは幻想だとして時計を返すぼく。アナリースは猫科の大型獣の気配を漂わせ、フランス語で応じた。
”『では、これから時間をかけて、本当のあなたを教えてください。私に教えて? ——そして答え合わせをしましょう』”
”『では、これから時間をかけて、本当のあなたを教えてください。私に教えて? ——そして答え合わせをしましょう』”
第32話『真贋1』(ぼく)
暗殺未遂事件を機に徐々に読者が増えるぼくの物語。王に負い目を持つジャスミナ、打算で王に近づくブリューベル。一見メロドラマだが、よく見るとグロテスク。華麗な軍記『この人を見よ』とは異なり、どろどろとした人間関係の劇が繰り広げられていく。知子に着想を得た3人目のヒロイン、サジェシアを投入したところでPVが爆発。由理のSNSにURLのみ貼り付けられていた。
”本当にひねくれたヤツだ。こういうタイプのやつは本当によくない。近くにいたら絶対に友達になりたくないね。”
”本当にひねくれたヤツだ。こういうタイプのやつは本当によくない。近くにいたら絶対に友達になりたくないね。”
第33話『真贋2』(由理)
由理は憤怒と混乱と恐怖のただ中にいた。自作『この人を見よ』のパクリと聞いてクリックした作品は露骨に先輩の手によるものだったが、展開されているのはレスパンの記憶にある王の意思とも、自分に書き方を教えてくれたぼくのそれとも異なる文章。ただ状態だけがある。語るものを持たない記録。骨のない肉。偉大さの欠如。彼は恐怖し、URLをSNSにポストした。
”——おれが書いたグロワス13世は一体何者なのか。……おれは、誰を書いたんだ!”
”——おれが書いたグロワス13世は一体何者なのか。……おれは、誰を書いたんだ!”
第34話『真贋3』(ぼく)
アルパカ過剰摂取と由理による『地に落ちて死なば』への直接言及で震えが止まらないぼくの腕とスマホ。「偉大な意図のない物語は物語ではない」と述べる彼に、ぼくは「存在すること自体を書く。それがグロテスクに見られようとも」と返答。一種清々しい気持ちのぼくのTLに流れてきたのは、アナリースの新作発表ポストだった。
” @annalise_estbourg_jpn
「突然ですが新作を発表します。これは私が大好きな小説の主人公、リュテス王アントワン3世のファンアートとして作りました。彼の愛用時計をイメージしています。もちろんエストブール(アナリース)のハンドメイド。さぁ皆さん、ご覧下さい!」”
” @annalise_estbourg_jpn
「突然ですが新作を発表します。これは私が大好きな小説の主人公、リュテス王アントワン3世のファンアートとして作りました。彼の愛用時計をイメージしています。もちろんエストブール(アナリース)のハンドメイド。さぁ皆さん、ご覧下さい!」”
第35話『日々の泡1』(ぼく)
家事代行を解約したぼくの食生活は荒れに荒れ、三食コンビニを通り越して三食アルパカの域に達する。痩せこけたぼくは青佳による家事代行サービスを断り切れず、彼女と家事代行契約を結ぶ。独身男性が在宅中の家にあがるのは不安であろうと不在予定を知らせようとするぼくに対し、在宅中に行くと言って譲らない青佳。結局、彼女の合理的説得と可愛さに言いくるめられる。
”「では何の問題もありませんね、対面で」”
”「では何の問題もありませんね、対面で」”
第36話『日々の泡2』(青佳)
家事代行のためにぼくの部屋を訪れた青佳は、生活感のなさを強く危惧する。もう時間がない。「この男がいなくなること」の阻止を第一目標に定め、慎重にぼくとの距離を詰める青佳。観察による彼の好みの把握が図に当たり、供食の許可を得た青佳は、彼を今生に縛るなわを増やすべく「お友達」を巻き込むことを決意した。
”独り占めするのはそのあとでいい。縫い付けた後で。 かつて同じ事をした経験は彼女の記憶にしっかりと刻まれている。 二度目はもっとうまくやる。”
”独り占めするのはそのあとでいい。縫い付けた後で。 かつて同じ事をした経験は彼女の記憶にしっかりと刻まれている。 二度目はもっとうまくやる。”
第37話『日々の泡 3』(ぼく)
茉莉に『地に落ちて死なば』を知っているかと問われて狼狽するぼく。有名税で感想欄は大荒れ、目にする気にならない。人に嫌われたくない気持ちは自分のことしか考えていないことの裏返し、こんな自分は恋愛やその先にあるものを手にする権利はないのだと悩みながらも、ぼくは4人目の妃を得るための行幸にアントワン王を向かわせる。知子とのドライブに着想を得て。
”楽しいね。ドライブ。”
”楽しいね。ドライブ。”
第38話『青、黒、灰褐色のコンポジション1』(ぼく)
愛車のSUVを駆り、最寄りの駅で知子をひろったぼく。彼女の何気ないしぐさに本物のお嬢様を見て危機感(身の危険の意)を高める。郊外を走って美術館を目指す道中、会話の流れから「せんぱいの理想の世界は決定論」だと言われたぼくは、それでも意思を手放したくないと答える。知子はぼくの左手に右手を重ねて言った。
”「せんぱい。これからは知子ちかこって呼んでくださいね? ちゃんと」”
”「せんぱい。これからは知子ちかこって呼んでくださいね? ちゃんと」”
第39話『青、黒、灰褐色のコンポジション 2』(知子)
生まれつきブランドである点でゾフィと知子はよく溶け合った。結婚相手としてのぼくを採点する知子。恋愛、結婚、出産、子育て。知子の想像はゾフィの記憶のグロワスの死を境に解像度と彩度を落とす。夫を失うことで知った狂おしい想い。知子はぼくの腕を取り、展示の解説を続ける。抽象表現主義の一角。「意味をはぎ取られた存在」という説明に対し、ぼくは吐き捨てるように言った。
”「そんなものに価値があるか。——ただ、生きていることに」”
”「そんなものに価値があるか。——ただ、生きていることに」”
第40話『『青、黒、灰褐色のコンポジション 3』(ぼく)
振る舞いを恥じるぼく。昔の飼い犬の話を通し「生きていることに価値がある」という知子。ぼくは口先で同意するが、否定されて本心をさらけ出してしまう。「ぼくの生は無意味だ」。あなたの生は私たちにとって意味があると言う知子に、人のために生きたなら、辛いときはその人のせいにするだろうと答えるぼく。しなければいいと答える知子。反論の時間を与えず、知子はとどめの言葉を放った。
”「さぁ、せんぱい! 助けてください! 手を引いて!」”
”「さぁ、せんぱい! 助けてください! 手を引いて!」”
第41話『決定論』(ぼく)
ストレス展開で人気急落中の『地に落ちて死なば』。登場人物たちが自分の意に反してアントワン3世に好意を寄せていくことに腹を立てているぼく。アナリースに乞われた上野の案内はすぐに手繋ぎデートと化した。お揃いの時計を欲しがるアナリース。ぼくは彼女に代わって代金を支払い、アナリースは即座に「お友達」に自慢した。
”「はい。お友達に。——”彼からプレゼントをもらいました。お揃い(^^)”って。自慢しました」”
”「はい。お友達に。——”彼からプレゼントをもらいました。お揃い(^^)”って。自慢しました」”
第42話『運命論』(ぼく)
失恋の思い出の残る上野の地をアナリースと手をつなぎながら歩くぼく。あまりに出来すぎた成り行き。この運命に感謝しているというぼくに対し、「運命ではない。私がそうすると決めた」と答えるアナリース。「運命論はあきらめである」という彼女の信念にぼくは好感を抱く。少し早い夕食の最中、アナリースは自身の手掛ける新ブランドのイメージキャラとしてアントワンを使いたいという。ぼくは作者であることをしらばっくれながら反対を続けるが、カマをかけられてあえなく自爆する。
”『私は運命論に与しません。つまり、決して諦めません』”
第43話『全ては許されている』(アナリース)
借り上げたコンドミニアムで『地に落ちて死なば』を読みながら思いを馳せるアナリース。心の平穏のために”物語”を受け入れたサンテネリ時代の自身と、そうしなかった夫。地味に淡々と時を刻む三針時計のような偉大さ。光の大回廊で冗談交じりに彼を追い詰めたささやかな幸せの思い出。上野の洋食屋でぼくを白状させた記憶。今の彼女は何はばからずにそれができる。
”「物語」はもうない。全ては許されている。”
第44話『敵1』(ぼく)
人付き合いの不器用さから恋愛を諦めていたのに、自身を取り巻く女性陣の好意を痛感して困惑するぼく。状況は『地に落ちて死なば』のアントワン3世にも反映され、彼を破滅させるはずだったヒロインたちが妙に彼に好意的になってしまう。慌てたぼくは主人公に引導を渡すべく新キャラ「ユニウス」を投入。まもなく、モデル由理の公式アカウントが「地に落ちて死なば」ファンを公言。殺意高めの感想文が複数届く。
”怖いね。”
人物/ぼく・グロワス13世
| 項目 | 話数 |
|---|---|
| 「ぼくは幸せな男だ」(12) | 12 |
| ぼく(1) | 1 |
| ぼくが昨晩確信を抱いた事実への嫌な傍証(25) | 25 |
| ぼくが期待したコメント(32) | 32 |
| ぼくとぼくの違い(31) | 31 |
| ぼくのできる範囲のこと(36) | 36 |
| ぼくの人生の解像度(14) | 14 |
| ぼくの包丁(31) | 31 |
| ぼくの危険センサー(30) | 30 |
| ぼくの心の中の小鬼(26) | 26 |
| ぼくの思惑(32) | 32 |
| ぼくの新規開拓(11) | 11 |
| ぼくの明言(36) | 36 |
| ぼくの矛盾(40) | 40 |
| ぼくは出前が苦手(35) | 35 |
| グロワス13世(2) | 2 |
| グロワス13世の享年(39) | 39 |
| グロワス13世の危機(36) | 36 |
| グロワス13世の幸福(36) | 36 |
| 夢の中のぼく(1) | 1 |
| 恥ずかしがるぼく(31) | 31 |
| 楽しくなってきたぼく(32) | 32 |
| アイデンティティクライシス(14) | 14 |
| 何はともあれ、彼は悩む(36) | 36 |
| 残すべきは箱(26) | 26 |
| 犬(10) | 10 |
| 自分を特別と思ったわけ(26) | 26 |
| 金色の毛並みのミニチュアダックスフンド(40) | 40 |
「ぼくは幸せな男だ」(12)
青佳を伴いデート中、レスパンへの嫉妬に狂いそうなぼくの独白。
” 客観的に見てぼくはとても幸せな男だ。 食うに困る心配は無い。仕事は楽しくはないが楽・だ。好きなものを買えるし好きなものを食べられる。4桁の時計だって(無理をすれば)買えるよ。 その上、今、隣には、時折ぼくを見上げて微笑む可愛らしい女性もいる。 なんて素晴らしいことだろう。なんて幸福なことだろう。 これ以上望むものなんてないよ。”
※この後も「幸せな」という表現は頻出。反対の意味を暗示か。
” 客観的に見てぼくはとても幸せな男だ。 食うに困る心配は無い。仕事は楽しくはないが楽・だ。好きなものを買えるし好きなものを食べられる。4桁の時計だって(無理をすれば)買えるよ。 その上、今、隣には、時折ぼくを見上げて微笑む可愛らしい女性もいる。 なんて素晴らしいことだろう。なんて幸福なことだろう。 これ以上望むものなんてないよ。”
※この後も「幸せな」という表現は頻出。反対の意味を暗示か。
ぼく(1)
34歳(12)。祖父の代から続く偉大なる職人技を誇る、地場の造園会社社長。独身(1)。痩せ型の男。黒髪を後ろに流して固めた髪型(2)。大学時代は小説家志望だったが断念、小さな広告代理店(ネット広告)(11)に就職しテレアポ職人の技量を磨いた(5)。K大学出身(9)。ゼミ以外は授業に出ずふらふらしていた大学3年の頃中学3年生の茉莉の家庭教師をする(10)。哲学書を何となく眺めることと、頭の中に湧き出してくるつまらない妄想物語を綴ることが得意。(10)
”男は適度にだらしない。机は整理されず、ごく稀に予定を忘れる。活力に溢れているようには見えないが、一方で、権力を希求する野心的な男性にありがちな粗暴もない。(2)”
” 翻って三沢青佳ブラウネが見るこ・の・男・には何もない。覇気も決意も自己犠牲も、責任感も、雄弁も、何も。”(10)
” つまり、ぼくは全てを持ってる。 ただし、それは全部与えられたものだ。 偶然にも地方の会社の跡取り息子として生まれたことによって、自動的に与えられたギ・フト。
言葉をかえれば、ぼくはマネキンみたいなものだね。綺麗な洋服を纏わせるマネキン。外からは洋服を着ているようにみえるけど、実態はただの土台に過ぎない。マネキンには価値がない。洋服に価値があるだけだ。
人生とはそういうものだと納得して、気にしないことに決めたはずなのに、結局ぶり返してしまった。
ぼくは何者かになりたかった。 周囲の素晴らしい友人達が、ぼく本体を「素晴らしい友人」と評してくれるような何者かに。”(12)
”男は適度にだらしない。机は整理されず、ごく稀に予定を忘れる。活力に溢れているようには見えないが、一方で、権力を希求する野心的な男性にありがちな粗暴もない。(2)”
” 翻って三沢青佳ブラウネが見るこ・の・男・には何もない。覇気も決意も自己犠牲も、責任感も、雄弁も、何も。”(10)
” つまり、ぼくは全てを持ってる。 ただし、それは全部与えられたものだ。 偶然にも地方の会社の跡取り息子として生まれたことによって、自動的に与えられたギ・フト。
言葉をかえれば、ぼくはマネキンみたいなものだね。綺麗な洋服を纏わせるマネキン。外からは洋服を着ているようにみえるけど、実態はただの土台に過ぎない。マネキンには価値がない。洋服に価値があるだけだ。
人生とはそういうものだと納得して、気にしないことに決めたはずなのに、結局ぶり返してしまった。
ぼくは何者かになりたかった。 周囲の素晴らしい友人達が、ぼく本体を「素晴らしい友人」と評してくれるような何者かに。”(12)
ぼくが昨晩確信を抱いた事実への嫌な傍証(25)
22話で「近似値を探る」それが「人に興味を持つということ」、24話で「特大の見当はずれはしていない」と言っていたぼくだが、茉莉がこんなことをする人間だとは思っていなかった。
” 茉莉さんはこういうことをする人だったっけ。 やっぱり人は分からない。いくら外から見ても本当の姿は決して。ぼくが昨晩確信を抱いた事実に、これほどまでに嫌な傍証を突きつけられるとは。”(25)
”つまりこれがぼくという「他者が見る下川茉莉」だ。本当の彼女とはかけ離れている可能性も十分ある。でも、案外良い線行っているんじゃないかと思うよ。 少なくともぼくが昨日まで友達だと思っていた人たちがぼくにしたような特大の見当外れはしていないと自信を持って言える。”(24)
”人が他人の内心を知ることは不可能だ。人は他人をその外見と行動を以て知るほかない。ぼくは見事に装ってきた。結構年季の入った擬態なんだ。”(25)
”自分から言い出しておいてこれだ。こういう理不尽な態度は茉莉さんにしてはとても珍しい。彼女はずっと昔から理性的で折り目正しい。ぼくがそうだったように。外からはそう見えたように。”(25)
” 茉莉さんはこういうことをする人だったっけ。 やっぱり人は分からない。いくら外から見ても本当の姿は決して。ぼくが昨晩確信を抱いた事実に、これほどまでに嫌な傍証を突きつけられるとは。”(25)
”つまりこれがぼくという「他者が見る下川茉莉」だ。本当の彼女とはかけ離れている可能性も十分ある。でも、案外良い線行っているんじゃないかと思うよ。 少なくともぼくが昨日まで友達だと思っていた人たちがぼくにしたような特大の見当外れはしていないと自信を持って言える。”(24)
”人が他人の内心を知ることは不可能だ。人は他人をその外見と行動を以て知るほかない。ぼくは見事に装ってきた。結構年季の入った擬態なんだ。”(25)
”自分から言い出しておいてこれだ。こういう理不尽な態度は茉莉さんにしてはとても珍しい。彼女はずっと昔から理性的で折り目正しい。ぼくがそうだったように。外からはそう見えたように。”(25)
ぼくが期待したコメント(32)
来なかった。
”「サジェシア姫、超かわいいです!」みたいなコメント”
”ちなみにぼくが求める「ブリューベルさん気品ある!」「ジャスミナさんカッコいい!」「サジェシアさんかわいい!」みたいなキャラ評価コメントは一切来ない。”
”「サジェシア姫、超かわいいです!」みたいなコメント”
”ちなみにぼくが求める「ブリューベルさん気品ある!」「ジャスミナさんカッコいい!」「サジェシアさんかわいい!」みたいなキャラ評価コメントは一切来ない。”
ぼくとぼくの違い(31)
現実のぼくは死を経験していないが、物語のぼくは経験済み。そして物語のぼくは納得して自殺したが、暗殺については死を納得していないため畏れるであろうと判断する。
”ほぼ同一の存在と言っていい二人だけど、現実のぼくと物語の”ぼく”には一つだけ違いがある。分かるかな。
ぼくは死を未経験で彼ぼくは経験済み。 死を経験した人間が、再び死に臨んで何を思うのか。”
”創造主であるはずのぼくは彼ぼくの心内を完全にシミュレートすることができない。ただ、未だ纏まりを欠きながらもうっすらとした輪郭は把握している。多分彼ぼくは恐れるだろう。死を。”
”最初の死、つまり転生の切っ掛けになった自殺は彼ぼくが選択したものだけど、今回彼に突き出された刃は自身が納得の末に選んだものではないからだ。”
”「納得」というのは死に際して重要な要素なんじゃないかとぼくは考えている。 前にも話したとおり、ぼくは自死を否定しない。むしろ人に与えられた究極の権利であると認識している。ただし、納得の末になされたならば、という条件付きで。 行動自体は衝動的にならざるをえないだろう。”
”ほぼ同一の存在と言っていい二人だけど、現実のぼくと物語の”ぼく”には一つだけ違いがある。分かるかな。
ぼくは死を未経験で彼ぼくは経験済み。 死を経験した人間が、再び死に臨んで何を思うのか。”
”創造主であるはずのぼくは彼ぼくの心内を完全にシミュレートすることができない。ただ、未だ纏まりを欠きながらもうっすらとした輪郭は把握している。多分彼ぼくは恐れるだろう。死を。”
”最初の死、つまり転生の切っ掛けになった自殺は彼ぼくが選択したものだけど、今回彼に突き出された刃は自身が納得の末に選んだものではないからだ。”
”「納得」というのは死に際して重要な要素なんじゃないかとぼくは考えている。 前にも話したとおり、ぼくは自死を否定しない。むしろ人に与えられた究極の権利であると認識している。ただし、納得の末になされたならば、という条件付きで。 行動自体は衝動的にならざるをえないだろう。”
ぼくのできる範囲のこと(36)
サンテネリでは「できる範囲」で頑張り、心と体を壊して死んだ。
”彼女は慎重になった。踏み込むには時宜がある。失すれば惨事が起こる。”
” 今回「何でもする」との言質を得てなお、自身が欲することを言わなかった。できる範囲のことであれば彼は為そうとするだろう。無理をしてでも。 たとえば国家と彼女たちを生かすために、自分を殺すことも。”
”「まぁ! では考えておきますね。社長にしていただきたいことを」「ああ、それは怖いな。ぼくは不器用だから。複雑なことはできないよ」”
”——不器用だから。 その台詞はあまりにも正確な自己認識であろうと彼女には思われた。”
”彼女は慎重になった。踏み込むには時宜がある。失すれば惨事が起こる。”
” 今回「何でもする」との言質を得てなお、自身が欲することを言わなかった。できる範囲のことであれば彼は為そうとするだろう。無理をしてでも。 たとえば国家と彼女たちを生かすために、自分を殺すことも。”
”「まぁ! では考えておきますね。社長にしていただきたいことを」「ああ、それは怖いな。ぼくは不器用だから。複雑なことはできないよ」”
”——不器用だから。 その台詞はあまりにも正確な自己認識であろうと彼女には思われた。”
ぼくの人生の解像度(14)
コンポジションとの対比かな?
”ぼくの人生にとって会社は書割の背景と同じようなものだ。遠目には何が描かれているか分かるんだけど、近寄ってみると細部は適当。つまり解像度が低い。”(14)
”罪悪感が凄かった。人々の先頭に立ち、責任を背負い、生存と繁栄を目指して頑張らなければならない立場の人間が、実はその集団に興味を持てないことに。”(14)
”ぼくの人生——主観的なそれにおいて、仕事が占める割合はかなり低い。
それでも会社は回る。平然と。そしてぼくの口座には毎月「報酬」が振り込まれてくる。それで問題が無いのだからそのままにしておけばいい。”(14)
”いずれにしても我が社は上手く回っている。今のところは。”(14)
”ぼくの人生にとって会社は書割の背景と同じようなものだ。遠目には何が描かれているか分かるんだけど、近寄ってみると細部は適当。つまり解像度が低い。”(14)
”罪悪感が凄かった。人々の先頭に立ち、責任を背負い、生存と繁栄を目指して頑張らなければならない立場の人間が、実はその集団に興味を持てないことに。”(14)
”ぼくの人生——主観的なそれにおいて、仕事が占める割合はかなり低い。
それでも会社は回る。平然と。そしてぼくの口座には毎月「報酬」が振り込まれてくる。それで問題が無いのだからそのままにしておけばいい。”(14)
”いずれにしても我が社は上手く回っている。今のところは。”(14)
ぼくの包丁(31)
刃のステンレス素材が持ち手まで続いているタイプの安包丁。小説の一シーンを書くためにキッチンから持ってきた。ほとんど未使用。
”ぼくの机の上での赤ワインの瓶と包丁とキーボードの出会い。 とても詩的でとても絵になる光景だね。シュルレアリスムな感じだ。”
”ぼくの机の上での赤ワインの瓶と包丁とキーボードの出会い。 とても詩的でとても絵になる光景だね。シュルレアリスムな感じだ。”
ぼくの危険センサー(30)
高性能。しかし有効に活用するのが苦手。
”ぐいぐい来る……。 何となく危険な雰囲気があるな。”
”兎とか馬とか、草食動物の目って顔の両側に離れてついてるでしょ。あれは捕食者の肉食動物の存在を探知するためらしい。”
”ぐいぐい来る……。 何となく危険な雰囲気があるな。”
”兎とか馬とか、草食動物の目って顔の両側に離れてついてるでしょ。あれは捕食者の肉食動物の存在を探知するためらしい。”
ぼくの心の中の小鬼(26)
叔父さんに自身の凡庸さを説かれたぼくは、自分の中の自尊心にとどめを刺すことを決意する。
”ぼくの心の中、心の暗がり、闇の中、そこに隠れた小鬼のような存在は、常にぼくに囁いていなかっただろうか。”
”「おまえは凄いことができる」「おまえは凄い物を作れる」「おまえには凄い能力がある」「おまえは主役だ」”
” だからぼくは凄いことができずに落ち込み、凄い物が作れず自分を蔑み、凄い能力がないことを自覚して傷つき、主役でないことを思い知らされて絶望した。 いい歳した大人のぼくが。”
” ああ、なるほど。 その通りだ。 もういい加減、この小鬼を絞め殺さなければならないね。 いよいよ。”
”ぼくの心の中、心の暗がり、闇の中、そこに隠れた小鬼のような存在は、常にぼくに囁いていなかっただろうか。”
”「おまえは凄いことができる」「おまえは凄い物を作れる」「おまえには凄い能力がある」「おまえは主役だ」”
” だからぼくは凄いことができずに落ち込み、凄い物が作れず自分を蔑み、凄い能力がないことを自覚して傷つき、主役でないことを思い知らされて絶望した。 いい歳した大人のぼくが。”
” ああ、なるほど。 その通りだ。 もういい加減、この小鬼を絞め殺さなければならないね。 いよいよ。”
ぼくの思惑(32)
”ぼく彼もまた、変にひねくれた思考は意識の下に潜む「責任から逃れたい」という卑怯な心象に端を発するものなんだ。この後ろ暗い部分を直視できないまでも感じるがゆえに、ブリューベルさんの「憐れみ」に救いを感じる。”
ぼくの新規開拓(11)
まだ気合の入っていた頃のぼくが手掛けた新規事業。レスパンが出演したCMを撮影したが話題にならなかった。
” 造園業のベースを生かして、自然との共生とかエコとか盆栽とかそういうのを全部ぶち込んで、お洒落カフェとかも展開して、って謎ムーブに出た。「世界を変える。木々と暮らす世界へと」みたいなキャッチフレーズで。 もう一度言う。ぼくがやった。戦犯です。”(11)
” IT系、今はどうかしらないけど、当時はまだふわっとしたところがあってね。知り合いの知り合いを辿るととんでもないイケイケの大会社とか旭日の勢い目映いベンチャーとか、そういう辺りと繋がることができた。 で、そんな「人脈モドキ」と家業をどうにかジョイントできないか、足りない頭で色々考えて謎プロジェクトが出来上がった。 こう、渋谷で飲むわけです。そういうお洒落IT界隈とか広告界隈の人たちと。趣味はスケボーで、古いレンジローバー乗ってる(ゴールデンレトリバーとかと一緒に)感じのアレな人たち。お酒も入ってノリノリで広告打とうってなった。事業戦略もなにもないくせに。”(11)
”主張したいことがはっきりしない我が社のイメージ映像と自然派カフェの宣伝だからね。某家電メーカーが野原に屹立する巨大な木を延々写すだけのCMとかあるでしょ。あれ。社名を覚えてもらうためだけに流すやつ。”(11)
”言い訳させて貰うとその方が新卒集まるから。将来の採用難を見越しての一手なんだ。後付けだけど。”(11)
” CMは撮った。ラフな白シャツとジーンズの彼が裸足で芝生を歩くシーン。うちが手がけた庭のね。 手にはこれまたうちがプロデュースする予定の抹茶ラテをマグカップで。”(11)
”その時撮ったCMが大スター幻のお宝映像みたいになってる。で、バラエティ番組のゲストとして彼が出演すると「過去の面白映像コーナー」とかで昔の映像が流れたりするでしょ。そこであの時撮ったうちのCMを流してくれるんだ。わざとらしいくらいにうちの社名まで連呼してくれるよ。 つまり彼はいいヤツだ。”(11)
” 造園業のベースを生かして、自然との共生とかエコとか盆栽とかそういうのを全部ぶち込んで、お洒落カフェとかも展開して、って謎ムーブに出た。「世界を変える。木々と暮らす世界へと」みたいなキャッチフレーズで。 もう一度言う。ぼくがやった。戦犯です。”(11)
” IT系、今はどうかしらないけど、当時はまだふわっとしたところがあってね。知り合いの知り合いを辿るととんでもないイケイケの大会社とか旭日の勢い目映いベンチャーとか、そういう辺りと繋がることができた。 で、そんな「人脈モドキ」と家業をどうにかジョイントできないか、足りない頭で色々考えて謎プロジェクトが出来上がった。 こう、渋谷で飲むわけです。そういうお洒落IT界隈とか広告界隈の人たちと。趣味はスケボーで、古いレンジローバー乗ってる(ゴールデンレトリバーとかと一緒に)感じのアレな人たち。お酒も入ってノリノリで広告打とうってなった。事業戦略もなにもないくせに。”(11)
”主張したいことがはっきりしない我が社のイメージ映像と自然派カフェの宣伝だからね。某家電メーカーが野原に屹立する巨大な木を延々写すだけのCMとかあるでしょ。あれ。社名を覚えてもらうためだけに流すやつ。”(11)
”言い訳させて貰うとその方が新卒集まるから。将来の採用難を見越しての一手なんだ。後付けだけど。”(11)
” CMは撮った。ラフな白シャツとジーンズの彼が裸足で芝生を歩くシーン。うちが手がけた庭のね。 手にはこれまたうちがプロデュースする予定の抹茶ラテをマグカップで。”(11)
”その時撮ったCMが大スター幻のお宝映像みたいになってる。で、バラエティ番組のゲストとして彼が出演すると「過去の面白映像コーナー」とかで昔の映像が流れたりするでしょ。そこであの時撮ったうちのCMを流してくれるんだ。わざとらしいくらいにうちの社名まで連呼してくれるよ。 つまり彼はいいヤツだ。”(11)
ぼくの明言(36)
”「ああ、三沢さんの助けになることなら、できることならぼくは何でもする。ここまでぼくに心を砕いてくれるあなたのためなら」”
” 男の一人称が「私」から「ぼく」に変わっていく様を、青佳は無上の快感と共に受け入れた。そしてまた、男が自身の意図をある程度理解しているであろうことも。 彼は決して鈍感ではない。そう見えるときは、そう思わせようと装っているに過ぎない。そして、察していることを示そうとするときははっきりと示す。 今回彼は明言した。”
” 男の一人称が「私」から「ぼく」に変わっていく様を、青佳は無上の快感と共に受け入れた。そしてまた、男が自身の意図をある程度理解しているであろうことも。 彼は決して鈍感ではない。そう見えるときは、そう思わせようと装っているに過ぎない。そして、察していることを示そうとするときははっきりと示す。 今回彼は明言した。”
ぼくの矛盾(40)
書き残すことに価値があると信じて『地に落ちて死なば』を書き始めたぼくだが、書き残すことそのもののポロックの作品に価値を感じなかった。
”ぼくは怖い。
この世から居なくなることが怖い。
でも居なくならなければならない。居るべきではないからだ。
でも居なくなるのは怖いんだ。”
”ああ、要するにね。ぼくは死にたいけど死にたくない。死にたくないけど死にたい。”
”ぼくは怖い。
この世から居なくなることが怖い。
でも居なくならなければならない。居るべきではないからだ。
でも居なくなるのは怖いんだ。”
”ああ、要するにね。ぼくは死にたいけど死にたくない。死にたくないけど死にたい。”
ぼくは出前が苦手(35)
わざわざ食事を持ってきてもらうことが贅沢に感じるらしい。
”宅配! 言語道断。贅沢の極み。それはまさに犯罪に近い行為にすら感じられる。食事をわざわざ持ってきてもらうなんて!”
”宅配! 言語道断。贅沢の極み。それはまさに犯罪に近い行為にすら感じられる。食事をわざわざ持ってきてもらうなんて!”
グロワス13世(2)
ブラウネの夫。サンテネリ国王。ブラウネに先立つ。ブラウネとの間に息子ロベル、娘フローリアをもうけた。宰相フロイスブル侯爵、後の枢密院首相バルデルといった、中央大陸随一の大国を差配した閣僚たちの尊敬を集めながら、暴君としてではなく一人の政治家として君臨した。
グロワス13世の享年(39)
43歳。ゾフィは30代で夫を失った。
グロワス13世の危機(36)
正教新暦1715年から16年にかけて、グロワス13世は国内外の重大事を処理して威信を高めたが、精神に大きな傷を負う。過度の飲酒で手のみならず全身が震えた。
”彼女ブラウネが26の年、正教新暦1715年から16年にかけて、夫グロワスは深刻な危機の最中にあった。”
” 念願の枢密院体制は貴族会による前代未聞の勅令承認拒否によって頓挫した。同盟国たる帝国との駆け引き、明白な敵国たるアングランからの干渉。ガイユール公領の不安定な状況。騒擾の気配が漂う首都。 その中で、彼は帝国の中心国家たるエストビルグ王国と領土を巡って対立するプロザン王国の国王フライシュ3世と単身会見し、両国を和解に導いた。サンテネリは調停者として国際社会において大きな威信を得た。”
” そして王は明らかに失調した。”
”当時感じた焦燥を彼女は今でも鮮明に覚えている。王の異常は明白だった。手と、時折そこから波及する全身の震えは隠しきれぬほどに大きくなっていた。 毎夜の深酒は度を超して、もはや自傷に近いものとなっていた。”
”彼女は十分に理解できた。 男が背負った重責がどれほどのものであったかを。”
” 10数年に渡るエストビルグ・プロザンの係争を収め、中央大陸に例を見ない政治改革を無血で実行した若き王。4人の王妃を娶り、子に恵まれた王。 その外観が何一つ保証しないことを。幸福を。”
”彼女ブラウネが26の年、正教新暦1715年から16年にかけて、夫グロワスは深刻な危機の最中にあった。”
” 念願の枢密院体制は貴族会による前代未聞の勅令承認拒否によって頓挫した。同盟国たる帝国との駆け引き、明白な敵国たるアングランからの干渉。ガイユール公領の不安定な状況。騒擾の気配が漂う首都。 その中で、彼は帝国の中心国家たるエストビルグ王国と領土を巡って対立するプロザン王国の国王フライシュ3世と単身会見し、両国を和解に導いた。サンテネリは調停者として国際社会において大きな威信を得た。”
” そして王は明らかに失調した。”
”当時感じた焦燥を彼女は今でも鮮明に覚えている。王の異常は明白だった。手と、時折そこから波及する全身の震えは隠しきれぬほどに大きくなっていた。 毎夜の深酒は度を超して、もはや自傷に近いものとなっていた。”
”彼女は十分に理解できた。 男が背負った重責がどれほどのものであったかを。”
” 10数年に渡るエストビルグ・プロザンの係争を収め、中央大陸に例を見ない政治改革を無血で実行した若き王。4人の王妃を娶り、子に恵まれた王。 その外観が何一つ保証しないことを。幸福を。”
グロワス13世の幸福(36)
”彼女の夫もまた何不自由ない生活を送った。大国の王として。”
” 幸せだった可能性は十分にある。息子と娘を抱き上げ笑う姿も、家族で囲む内輪の食卓で見せた雄弁も、彼女ブラウネの胸の中に顔を埋め眠る一時も。全て幸せであったはずだ。”
” 幸せだった可能性は十分にある。息子と娘を抱き上げ笑う姿も、家族で囲む内輪の食卓で見せた雄弁も、彼女ブラウネの胸の中に顔を埋め眠る一時も。全て幸せであったはずだ。”
夢の中のぼく(1)
ヨーロッパっぽい架空世界の王様。
恥ずかしがるぼく(31)
知子と茉莉との間で起きた出来事が自分の創作のネタになったことを認め、でもばれたら恥ずかしいという。
”それにしても面白い。 ぼくの身の上に起こったしょうもない出来事が、こうやって架空の世界で新たな意味を獲得していくんだから。物語が完結したら後書きで知子さんと茉莉さんに謝意を捧げたいくらいだよ。しないけどね。 むしろ二人に読まれることだけは避けたい。本当に避けたい。恥ずかしすぎる。”
”自意識過剰なのは十分承知の上。理解している。でも本当にキツいからね、知られるの。 このテーブルの包丁が火を噴きかねないほどに。”
”それにしても面白い。 ぼくの身の上に起こったしょうもない出来事が、こうやって架空の世界で新たな意味を獲得していくんだから。物語が完結したら後書きで知子さんと茉莉さんに謝意を捧げたいくらいだよ。しないけどね。 むしろ二人に読まれることだけは避けたい。本当に避けたい。恥ずかしすぎる。”
”自意識過剰なのは十分承知の上。理解している。でも本当にキツいからね、知られるの。 このテーブルの包丁が火を噴きかねないほどに。”
楽しくなってきたぼく(32)
なんでもパクリパクリいわれて腹が立つやらおかしいやらで、逆に創作意欲を掻き立てられる。
”アントワン3世の3はグロワス13世からパクった。ジャスミナの髪型がショートなのがパクり。中にはヒロイン3人いるのがパクリというのもあった。『この人を見よ』のヒロインは4人では? ぼくは思ったね。これはいっそ4人目出してやろう!って。”
”アントワン3世の3はグロワス13世からパクった。ジャスミナの髪型がショートなのがパクり。中にはヒロイン3人いるのがパクリというのもあった。『この人を見よ』のヒロインは4人では? ぼくは思ったね。これはいっそ4人目出してやろう!って。”
アイデンティティクライシス(14)
人がその人間の根幹に関わる部分を大きく変容させる出来事に接したとき、かつての自分と現在の自分が同一の存在であるという確信を失ってしまうこと。
”あの頃のぼくと今のぼくは、同じぼくなのかって。”(14)
”さて、ぼくの「出来事」はなんだろうか。 アルパカの瓶を両手に装備して、未だ燦々と降り注ぐ夕日を浴びて、ぼくは自分探しの旅に出る。”(14)
”でも、心のどこかでちょっと思ったんだ。
これは証明する必要があるぞ、と。
祖父の興した小さな園芸店を中小企業の中でも大きい方にまで育て上げた経営者の父。その父の血を引いていることを証明する必要があるな、と。
結局の所ぼくは証明できなかった。
ということはつまり、ぼくは本当の息子じゃなかったことが証明された。逆に。
にもかかわらず、ぼくは偽りの生まれによって掠め取った利益を貪り食って生きてる。
こういう状況はもう終わりにしなければならない。ちゃんと手放さなければならない。”(14)
”あの頃のぼくと今のぼくは、同じぼくなのかって。”(14)
”さて、ぼくの「出来事」はなんだろうか。 アルパカの瓶を両手に装備して、未だ燦々と降り注ぐ夕日を浴びて、ぼくは自分探しの旅に出る。”(14)
”でも、心のどこかでちょっと思ったんだ。
これは証明する必要があるぞ、と。
祖父の興した小さな園芸店を中小企業の中でも大きい方にまで育て上げた経営者の父。その父の血を引いていることを証明する必要があるな、と。
結局の所ぼくは証明できなかった。
ということはつまり、ぼくは本当の息子じゃなかったことが証明された。逆に。
にもかかわらず、ぼくは偽りの生まれによって掠め取った利益を貪り食って生きてる。
こういう状況はもう終わりにしなければならない。ちゃんと手放さなければならない。”(14)
何はともあれ、彼は悩む(36)
”そして今、彼は幸福そうではない。明らかに。 何を悩むことがあるのか。 彼を苛むものは何もないはずだ。 だって彼は「社長王」なんだから。 だって彼は「特別な人」なんだから。”
”彼は、王になれば王の責務に悩み、社長になれば社長の責務に悩み、下男になれば下男の責務に悩むのだろう、と。 つまり立場がどうあれ彼は悩むのだ。そう在るように在るのだ、と。 それは存在の骨格そのものだ。 何はともあれ、彼は悩むのだ。”
”彼は、王になれば王の責務に悩み、社長になれば社長の責務に悩み、下男になれば下男の責務に悩むのだろう、と。 つまり立場がどうあれ彼は悩むのだ。そう在るように在るのだ、と。 それは存在の骨格そのものだ。 何はともあれ、彼は悩むのだ。”
残すべきは箱(26)
”「叔父さんはどう思いますか。——社長の器はありますか? この凡庸な私に」”
”「ないな!——全く、欠片もない」「自信満々だ。酷いな」”
”「おれはおまえの叔父だぞ。子どもの頃からおまえを見てきた。分かるに決まってるだろうが」「そうだ。確かに。叔父さんは私の父の弟。そうですね」”
”「突然どうした? ……熱中症か?」
「いいえ。元気ですよ。だから教えてください。この元気なぼくに。ぼくは叔父さんを叔父さんと呼べますか? ——ぼくは……父の子ですか?」”
”「おまえ、おまえ、写真を見たことがあるだろうに! なんなら兄貴の若い頃のやつを見せるか? その、なんだ、フォトショ? うちも最近よく使うやつだ。あれを使うと物件が綺麗に見えるからな。築年数25年も10年は若返らせられる。おまえも覚えとけ。——で、今のおまえを写真で撮って、そのフォトショとかで昔の背景と合成したら、それがおれの兄貴、つまりおまえの親父になる。それだけ似てるのをおまえ、”父の子ですか”って?」”
”「よし! 話が見えた。やっと見えた。つまり3代目、おまえはこう思ってるわけだな。爺さん兄貴と手渡されてきたバトンを、おまえも握りしめていなきゃならないと。その器にないおまえが。兄貴の子どもだから」
「お恥ずかしながら。ちなみに——叔父さんには、器はありますか?」
「分からんが、代わってほしいなら代わってやる。うちとおまえのところを合わせれば業態的にもシナジーを作れるだろう」”
”「ただし、その前に1つだけ言っておくことがある。おれが婿養子に入ったのは知ってるな? なぜか。義父おやじさんが自分の会社を残そうと考えたからだ。嫁はそういうの苦手だから、他所からおれを引っ張ってきた。つまりだ。いいか、おれたちは誰だっていい。——残すべきは箱だ」”
”「叔父さん。ゴルフはいいですね。好きになった」”
”「お、やる気になったな! そうだ。それでいい。凡庸であることこそ素晴らしい。打ち損なっても恥ずかしがらなくて済むからな。堂々とやれ」”
”「ないな!——全く、欠片もない」「自信満々だ。酷いな」”
”「おれはおまえの叔父だぞ。子どもの頃からおまえを見てきた。分かるに決まってるだろうが」「そうだ。確かに。叔父さんは私の父の弟。そうですね」”
”「突然どうした? ……熱中症か?」
「いいえ。元気ですよ。だから教えてください。この元気なぼくに。ぼくは叔父さんを叔父さんと呼べますか? ——ぼくは……父の子ですか?」”
”「おまえ、おまえ、写真を見たことがあるだろうに! なんなら兄貴の若い頃のやつを見せるか? その、なんだ、フォトショ? うちも最近よく使うやつだ。あれを使うと物件が綺麗に見えるからな。築年数25年も10年は若返らせられる。おまえも覚えとけ。——で、今のおまえを写真で撮って、そのフォトショとかで昔の背景と合成したら、それがおれの兄貴、つまりおまえの親父になる。それだけ似てるのをおまえ、”父の子ですか”って?」”
”「よし! 話が見えた。やっと見えた。つまり3代目、おまえはこう思ってるわけだな。爺さん兄貴と手渡されてきたバトンを、おまえも握りしめていなきゃならないと。その器にないおまえが。兄貴の子どもだから」
「お恥ずかしながら。ちなみに——叔父さんには、器はありますか?」
「分からんが、代わってほしいなら代わってやる。うちとおまえのところを合わせれば業態的にもシナジーを作れるだろう」”
”「ただし、その前に1つだけ言っておくことがある。おれが婿養子に入ったのは知ってるな? なぜか。義父おやじさんが自分の会社を残そうと考えたからだ。嫁はそういうの苦手だから、他所からおれを引っ張ってきた。つまりだ。いいか、おれたちは誰だっていい。——残すべきは箱だ」”
”「叔父さん。ゴルフはいいですね。好きになった」”
”「お、やる気になったな! そうだ。それでいい。凡庸であることこそ素晴らしい。打ち損なっても恥ずかしがらなくて済むからな。堂々とやれ」”
犬(10)
気力をなくした社長についての同僚の感想。かつての青佳も否定はしていなかった。
”例えるならば彼は、眠りたいときに眠り餌が出されれば貪り食う室内犬のようなもの。同僚の彼女達はその姿を見て言うだろう。”
”「あなた犬はいいね。お気楽で。私はこれから仕事なのに。人間って大変なんだよ?」 そして犬の頭を少々乱暴に撫でるだろう。”
”例えるならば彼は、眠りたいときに眠り餌が出されれば貪り食う室内犬のようなもの。同僚の彼女達はその姿を見て言うだろう。”
”「あなた犬はいいね。お気楽で。私はこれから仕事なのに。人間って大変なんだよ?」 そして犬の頭を少々乱暴に撫でるだろう。”
自分を特別と思ったわけ(26)
『リチャードと羊』のせいで勘違いが始まったと結論したぼく。
”死んでしまったリチャードと死んでしまった羊を、今、ぼくは弔おう。心から哀悼の意を表する。 ぼくがあのちっぽけな独断のまどろみを脱した今、彼らは死んだ。完全に葬られた。 ああ、認めよう。ぼくは特別な人間ではない!”
”死んでしまったリチャードと死んでしまった羊を、今、ぼくは弔おう。心から哀悼の意を表する。 ぼくがあのちっぽけな独断のまどろみを脱した今、彼らは死んだ。完全に葬られた。 ああ、認めよう。ぼくは特別な人間ではない!”
金色の毛並みのミニチュアダックスフンド(40)
知子が昔飼っていた。小さいころから一緒に育ち、15歳の時に死んだ。
人物/青佳・ブラウネ
| 項目 | 話数 |
|---|---|
| 1か月ぶりの青佳の来訪(36) | 36 |
| 「私はブラウネ殿を手放さぬ! すぐに宮殿に出仕させよ」(5) | 5 |
| ブラウネによるグロワス13世評(22) | 22 |
| ブラウネのぼくへの評価(2) | 2 |
| ブラウネの後悔(15) | 15 |
| ブラウネの悔恨(27) | 27 |
| ブラウネの青佳への評価(4) | 4 |
| ブラウネ・エン・ルロワ(2) | 2 |
| ブラウネ(夢)(1) | 1 |
| 三沢青佳(みさわはるか)(1) | 1 |
| 三沢青佳(ブラウネ)(2) | 2 |
| 三沢青佳(ブラウネ)(2) | 2 |
| 上機嫌なブラウネの失敗(15) | 15 |
| 勝利を確信するブラウネ(4) | 4 |
| 家事代行サービスの後任就任にむけての青佳の動き(36) | 36 |
| 新聞記者へのブラウネの処罰(22) | 22 |
| 無職の青佳へのぼくの評価(35) | 35 |
| 見合い白紙提案に対する青佳の返答(15) | 15 |
| 青佳からの謝罪(35) | 35 |
| 青佳が見るぼくの客観的諸要素(36) | 36 |
| 青佳とのお茶会(35) | 35 |
| 青佳とのデート(30) | 30 |
| 青佳のお菓子作り(6) | 6 |
| 青佳の家事代行サービス(35) | 35 |
| 青佳の手料理(35) | 35 |
| 青佳の決断(27) | 27 |
| 青佳の記憶(36) | 36 |
| 青佳はマルチタスクが上手(35) | 35 |
| 青佳はマルチタスクが得意(36) | 36 |
| 三沢さんのケーキ会(6) | 6 |
| 「ああ、零してしまった……」(2) | 2 |
| あの本の価値(27) | 27 |
| そういうアレな営業(35) | 35 |
| では、自分はどうすればよいか(36) | 36 |
| 一つの勝利(36) | 36 |
| 三沢さんの母(1) | 1 |
| 三沢さんの父(1) | 1 |
| 思い出話(27) | 27 |
| 日本国憲法(10) | 10 |
| 暗君と似てて非なるシーン(15) | 15 |
| 現実の話(27) | 27 |
| 職場見学(36) | 36 |
| 花火大会(36) | 36 |
| 謝罪の昼食のあと(30) | 30 |
| 買い物(36) | 36 |
1か月ぶりの青佳の来訪(36)
ぼくの部屋を訪れるのは1か月ぶり。旅に出て、長く留守にした部屋に似た、少し埃っぽく、よどんだ雰囲気。アルパカの空き瓶だけが存在感を主張。
”ほぼ一ヶ月ぶりに男の家を訪ねた青佳はるかは、意外にも綺麗に整えられた室内に驚いた。 実際には綺麗との形容は少々不正確かもしれない。空の酒瓶だけは大量にあった。自然が常にそうであるように、一見無秩序に、ダイニングの食卓とリビングのローテーブルにそれは林立する。 枯死する森とでも名付ければちょうどよい、寂寞たる静けさがあった。”
”ほぼ一ヶ月ぶりに男の家を訪ねた青佳はるかは、意外にも綺麗に整えられた室内に驚いた。 実際には綺麗との形容は少々不正確かもしれない。空の酒瓶だけは大量にあった。自然が常にそうであるように、一見無秩序に、ダイニングの食卓とリビングのローテーブルにそれは林立する。 枯死する森とでも名付ければちょうどよい、寂寞たる静けさがあった。”
「私はブラウネ殿を手放さぬ! すぐに宮殿に出仕させよ」(5)
例のマンガの1シーン。小説の挿絵にもなっている名場面。微妙に史実(?)と異なる部分の一例。
ブラウネによるグロワス13世評(22)
王の偉大さは強靭な意思を持っていたことにあるのではなく、むしろその反対であったにもかかわらず偉大なことを成し遂げた点にある。
”何物にも屈せぬ強靱な意志。そんなものをグロワス様はお持ちではいらっしゃいませんでした。あの方は翼をもがれた鳥のようなもの。それが……飛んだのです。ゾフィさんがおっしゃるように、あなたは取り違えました。陛下は立派な翼を備えた大鷲などでは決してありません。翼を切り落とされた雀。そして、よいですか、レスパン殿。その方が、真に偉大なことを成し遂げられたのです。”
”何物にも屈せぬ強靱な意志。そんなものをグロワス様はお持ちではいらっしゃいませんでした。あの方は翼をもがれた鳥のようなもの。それが……飛んだのです。ゾフィさんがおっしゃるように、あなたは取り違えました。陛下は立派な翼を備えた大鷲などでは決してありません。翼を切り落とされた雀。そして、よいですか、レスパン殿。その方が、真に偉大なことを成し遂げられたのです。”
ブラウネのぼくへの評価(2)
”男は適度にだらしない。机は整理されず、ごく稀に予定を忘れる。活力に溢れているようには見えないが、一方で、権力を希求する野心的な男性にありがちな粗暴もない。(2)”
”「社長」の姿はともすると幼く映る。自身の骨を持たず、常にどこか腰が引けている。丁寧な物腰は不安から来るもの。臆病とすら感じられた。取るに足らぬ小娘——青佳に対してすら極微量の怯えがあった。(2)”
”ブラウネにとって事は明白である。彼女には自負がある。グロワスという一人の男を誰よりも間近に、誰よりも深く、誰よりも熱心に見てきた自信がある。彼の周囲に集った3人のお友達にさえ、決して劣ることはない。よって取り違えるなどありえない。最愛の夫を。”
” そして今生の夫は王ではない。誠に幸運なことに。
——今生の陛下はまさに伯爵家のご当主ですね。やはり陛下とブラウネほどに釣り合いの取れた夫婦はありません。そのうえこの世界においては、妻は一人。素晴らしいこと!(4)”
”「社長」の姿はともすると幼く映る。自身の骨を持たず、常にどこか腰が引けている。丁寧な物腰は不安から来るもの。臆病とすら感じられた。取るに足らぬ小娘——青佳に対してすら極微量の怯えがあった。(2)”
”ブラウネにとって事は明白である。彼女には自負がある。グロワスという一人の男を誰よりも間近に、誰よりも深く、誰よりも熱心に見てきた自信がある。彼の周囲に集った3人のお友達にさえ、決して劣ることはない。よって取り違えるなどありえない。最愛の夫を。”
” そして今生の夫は王ではない。誠に幸運なことに。
——今生の陛下はまさに伯爵家のご当主ですね。やはり陛下とブラウネほどに釣り合いの取れた夫婦はありません。そのうえこの世界においては、妻は一人。素晴らしいこと!(4)”
ブラウネの後悔(15)
ブラウネは22歳から4年をかけて夫を見殺しにしたと感じている。また、45歳で死に別れた際、ついていかなかったことを後悔している。そしてそれらのことについて同時にこの上ない喜びを感じている。
” 女はその長い生涯の中で数限りない後悔を経験してきたが、精神の最奥までも苛むものは2つしかない。1つは夫を殺したこと。そしてもう1つは、夫と共に死ななかったこと。”(15)
”女が26の年、夫は自らを殺した。そして王となった。 偉大なるルロワの主、大陸一の騎士、枢密院主催者、サンテネリ国王、サンテネリの男になった。”(15)
”彼女は夫の中で息絶えた何かに憐憫の情を抱いた。心を痛めた。だが、一方で、喜びがあった。サンテネリ女を愛し、庇護する偉大なサンテネリ男の誕生に対して。”(15)
”寝台の中で干からびた醜い肉体。錯乱の叫び。命乞いの哀願。全ては汚らわしく、偉大な王の最後には相応しくない、人間的な、あまりにも人間的な姿である。人でありながら人ではない、サンテネリ王国世界の中心の象徴たる夫の死に様は。”(15)
”彼女は自身の肉体の中に夫をかき抱き、恍惚の絶頂にあった。彼はもはや王ではなく1人の男——人間的な、あまりに人間的な存在に過ぎなかったからだ。彼女は一人の人間を独占した。”(15)
”——なぜ共に生を終えなかったのか。 答えは明白であった。女にはしなければならないことがあったのだ。”(15)
”人間にとって死は唯一の特権である。そこには他者が入り込む余地はない。それをともに貪ることは恐らく人生における最大の喜悦となるであろうことは彼女には分かっていた。夫を見殺しにした若かりし頃の喜びを遙かに凌ぐ、脳を焼き切る幸福になろうと。だが彼女は生き続けた。”(15)
” 女はその長い生涯の中で数限りない後悔を経験してきたが、精神の最奥までも苛むものは2つしかない。1つは夫を殺したこと。そしてもう1つは、夫と共に死ななかったこと。”(15)
”女が26の年、夫は自らを殺した。そして王となった。 偉大なるルロワの主、大陸一の騎士、枢密院主催者、サンテネリ国王、サンテネリの男になった。”(15)
”彼女は夫の中で息絶えた何かに憐憫の情を抱いた。心を痛めた。だが、一方で、喜びがあった。サンテネリ女を愛し、庇護する偉大なサンテネリ男の誕生に対して。”(15)
”寝台の中で干からびた醜い肉体。錯乱の叫び。命乞いの哀願。全ては汚らわしく、偉大な王の最後には相応しくない、人間的な、あまりにも人間的な姿である。人でありながら人ではない、サンテネリ王国世界の中心の象徴たる夫の死に様は。”(15)
”彼女は自身の肉体の中に夫をかき抱き、恍惚の絶頂にあった。彼はもはや王ではなく1人の男——人間的な、あまりに人間的な存在に過ぎなかったからだ。彼女は一人の人間を独占した。”(15)
”——なぜ共に生を終えなかったのか。 答えは明白であった。女にはしなければならないことがあったのだ。”(15)
”人間にとって死は唯一の特権である。そこには他者が入り込む余地はない。それをともに貪ることは恐らく人生における最大の喜悦となるであろうことは彼女には分かっていた。夫を見殺しにした若かりし頃の喜びを遙かに凌ぐ、脳を焼き切る幸福になろうと。だが彼女は生き続けた。”(15)
ブラウネの悔恨(27)
世界すべてを背負う重荷に苦しむグロワス13世にかけた言葉を後悔するブラウネ。
”『今ブラウネの目の前にいらっしゃる殿方は勇敢な方。ブラウネを必ず背負ってくださいます』”
”自分が発した言葉の本当の意味を理解するまでにそう時間はかからなかった。 女の瞳に柔らかい、悔悟の涙が溢れるまでには。”
”『これから、いつどんな場所でも、私を”あなた”と呼べるか? ブラウネ殿』
彼は女そのものを愛したいと望んだ。そして、彼そのものを愛して欲しかったのだ。侯爵家の娘ではない彼女に、王ではない彼を。”
”それは下民の卑しい心根だろうか? 異世界に突如放り込まれ、なし崩し的に世界を支えざるを得なかった彼が、本当の自分を知って欲しいと願うことが。”
”『今ブラウネの目の前にいらっしゃる殿方は勇敢な方。ブラウネを必ず背負ってくださいます』”
”自分が発した言葉の本当の意味を理解するまでにそう時間はかからなかった。 女の瞳に柔らかい、悔悟の涙が溢れるまでには。”
”『これから、いつどんな場所でも、私を”あなた”と呼べるか? ブラウネ殿』
彼は女そのものを愛したいと望んだ。そして、彼そのものを愛して欲しかったのだ。侯爵家の娘ではない彼女に、王ではない彼を。”
”それは下民の卑しい心根だろうか? 異世界に突如放り込まれ、なし崩し的に世界を支えざるを得なかった彼が、本当の自分を知って欲しいと願うことが。”
ブラウネの青佳への評価(4)
”恵まれた容姿を明確に認識していた。他者からの評価を聞く限り性格が悪いとは思われない。真面目で融通が利かないところ、杓子定規なところは欠点でありながら美点でもある。「お高くとまっている」「容姿を鼻にかけている」「媚びている」といったありがちな評価を避けることができた(4)”
””伴侶に相応しいタイプの女性”であるとブラウネは考えた。真面目なしっかりもので落ち着いている。浪費癖もない。学歴も突出してはいないが悪くもない。地方国立大学の法政経学部卒。父は地方公務員。母はIT企業の幹部。(4)”
” ——軍伯由来の子爵家ご令嬢といったところでしょうか。侍女として光の宮殿パール・ルミエに出仕し、伯爵家あたりのご当主と結ばれる。(4)”
””伴侶に相応しいタイプの女性”であるとブラウネは考えた。真面目なしっかりもので落ち着いている。浪費癖もない。学歴も突出してはいないが悪くもない。地方国立大学の法政経学部卒。父は地方公務員。母はIT企業の幹部。(4)”
” ——軍伯由来の子爵家ご令嬢といったところでしょうか。侍女として光の宮殿パール・ルミエに出仕し、伯爵家あたりのご当主と結ばれる。(4)”
ブラウネ・エン・ルロワ(2)
王妃ブラウネ。「正教の守護者たる地上唯一の王国」国王グロワス13世妃。サンテネリ王太后。息子ロベルはサンテネリ王、娘はアングラン王正妃、娘の息子はアングラン王。サンテネリ国母、アングラン国王の祖母。20年連れ添った夫の死後は再婚せず、光の宮殿にて年金により生活。「大改革」の最中は一時デルロワズ領に避難した。彼女の開く夜会は非公式ながら重要な政治交渉の場となる。息子ロベル3世の王権委譲によるサンテネリ共和国成立を期に光の宮殿(パール・ルミエ)を退き、実家フロイスブル屋敷に引退。息子ロベル、アングラン王太后フローリア、彼女が助けた人々、そして孫たちに囲まれフロイスブル屋敷で没。「お友達」の中で最後に世を去る。譜代諸侯首座フロイスブル侯爵家の姫、ブラウネ・エン・フロイスブル侯爵令嬢。(10)
”「母上、お加減は。今日は誠によい気候です。夏の盛りというのに過ごしやすい」”
”「まぁ……グロワス様」”
”「グロワスさま。御手が冷えて。でもいいのです。——ブラウネがおりますから。ブラウネがずっと……お世話を」”
”「正教の守護者たる地上唯一の王国」国王グロワス13世妃。サンテネリ王太后の生は、真夏の夜のシュトロワにおいて、静かに終わった。”
”「母上、お加減は。今日は誠によい気候です。夏の盛りというのに過ごしやすい」”
”「まぁ……グロワス様」”
”「グロワスさま。御手が冷えて。でもいいのです。——ブラウネがおりますから。ブラウネがずっと……お世話を」”
”「正教の守護者たる地上唯一の王国」国王グロワス13世妃。サンテネリ王太后の生は、真夏の夜のシュトロワにおいて、静かに終わった。”
ブラウネ(夢)(1)
ぼくが見る夢に登場する人物。三沢さんによく似た人。夢の中のぼくの妻。ブラウネは当地の言葉で「青」という意味。
三沢青佳(みさわはるか)(1)
入社三年目。ぼく付の秘書。大ぶりに編んだ髪、少し垂れた大きく優しげな瞳、ほんわかした笑顔のとびっきり美人の25歳。しっかりもので世話好きの性格で、秘書課の中では比較的ぼくに優しい。一か月前から様子がおかしかった。お父さんは県庁のかなり偉い人。秘書検定1級所持。物語冒頭で退職。地方国立大学の法政経学部卒。父は地方公務員。母はIT企業の幹部(4)。多分にコネ入社(4)。メッセージアプリのアイコンは例のマンガのブラウネのイラストで、HNは『はるか』(5)。標準身長、ぼくよりちょっと背が低い。明白にかわいい系統の最高峰(6)。
”「社長、そのお時計素敵ですね。とても上品」”
”「そうなんですか? でも、いつも違う時計なさってますよね。実は私、こっそり観察していたんですよ?」”
”「社長、そのお時計素敵ですね。とても上品」”
”「そうなんですか? でも、いつも違う時計なさってますよね。実は私、こっそり観察していたんですよ?」”
三沢青佳(ブラウネ)(2)
ある朝突如として前世?の記憶を取り戻した。秘書として仕える社長(ぼく)をかつての主人グロワス13世と見定め、積極的なアプローチを開始する。一か月に及ぶ職場での誘惑に見切りをつけると、あっさり退職してぼくとの間に見合いを設定する。
” 女は三沢青佳という名の一人の女であった。器用に”作業”を熟しながら、目的を得るには不器用な25歳の女。そして彼女はブラウネ・エン・ルロワであった。器用に”作業”を熟し、確実に目的のものを手に入れる女。(2)”
”「さて。私はこれからどうしましょうか。——社長グロワス様に見初めていただくために」(2)”
” 青佳の記憶を検索してみる限り、そもそも彼女の入社自体が多分に「人の縁」に基づくものであったことが分かる。 ——商会と政府の繋がりは太いに越したことはありませんもの。(4)”
”「日持ちしないお菓子をちょっと作りすぎてしまいました。明日、処理をお手伝いいただけませんか? 陛下」(5)”
”ブラウネは威勢がいいだけの小物の側に侍りたいとは思いません。真に勇敢な王の足下に侍りたいと願います”(10)
”この「日本」という国、青佳が自明のものとして受け入れ、生きるこの世界は、夫がそうあるべきと願ったものに限りなく近い。長らく連れ添った経験からブラウネは夫の願いの輪郭を漠然と感得していた。”(10)
” ——茉莉さん。アナリースさん。とても素晴らしいお友達になれそうですね。わたくしは彼女達と仲良くしたいと心から思います。いずれ彼に対して関心を失うであろう彼女達と。お友達として。”(10)
” ——茉莉メアリさんも、アナリースアナリゼさんも、この地できっと幸せを掴むことが叶いますね。お二方に相応しい殿方が必ずどこかにいらっしゃいますから。なんと素晴らしいこと!”(10)
” 最後には自分が残る。 残り物を漁るのではない。 自分しか見出すことができない、自分だけが見出した宝物を独り占めするのだ。 平凡ながら優しく、少し複雑で、少し理想家の男。 平凡ながら優しく、少し面倒くさくて、少し少女趣味の女には似合いの相手だ。 宝物とはつまり、平凡であること。 サンテネリ最後の国母として生きた女にとって、それこそが至上の価値であった。”(10)
” ——町娘がその亭主に英雄的な偉大さを望むことなどあるでしょうか? それ以外の全てを焼き尽くしてしまうほどの歴史的偉大さを、地方の庭師に。”(10)
” 男が平凡であることを女は愛した。 それは一種の特権であるように思われた。”(10)
” 女は三沢青佳という名の一人の女であった。器用に”作業”を熟しながら、目的を得るには不器用な25歳の女。そして彼女はブラウネ・エン・ルロワであった。器用に”作業”を熟し、確実に目的のものを手に入れる女。(2)”
”「さて。私はこれからどうしましょうか。——社長グロワス様に見初めていただくために」(2)”
” 青佳の記憶を検索してみる限り、そもそも彼女の入社自体が多分に「人の縁」に基づくものであったことが分かる。 ——商会と政府の繋がりは太いに越したことはありませんもの。(4)”
”「日持ちしないお菓子をちょっと作りすぎてしまいました。明日、処理をお手伝いいただけませんか? 陛下」(5)”
”ブラウネは威勢がいいだけの小物の側に侍りたいとは思いません。真に勇敢な王の足下に侍りたいと願います”(10)
”この「日本」という国、青佳が自明のものとして受け入れ、生きるこの世界は、夫がそうあるべきと願ったものに限りなく近い。長らく連れ添った経験からブラウネは夫の願いの輪郭を漠然と感得していた。”(10)
” ——茉莉さん。アナリースさん。とても素晴らしいお友達になれそうですね。わたくしは彼女達と仲良くしたいと心から思います。いずれ彼に対して関心を失うであろう彼女達と。お友達として。”(10)
” ——茉莉メアリさんも、アナリースアナリゼさんも、この地できっと幸せを掴むことが叶いますね。お二方に相応しい殿方が必ずどこかにいらっしゃいますから。なんと素晴らしいこと!”(10)
” 最後には自分が残る。 残り物を漁るのではない。 自分しか見出すことができない、自分だけが見出した宝物を独り占めするのだ。 平凡ながら優しく、少し複雑で、少し理想家の男。 平凡ながら優しく、少し面倒くさくて、少し少女趣味の女には似合いの相手だ。 宝物とはつまり、平凡であること。 サンテネリ最後の国母として生きた女にとって、それこそが至上の価値であった。”(10)
” ——町娘がその亭主に英雄的な偉大さを望むことなどあるでしょうか? それ以外の全てを焼き尽くしてしまうほどの歴史的偉大さを、地方の庭師に。”(10)
” 男が平凡であることを女は愛した。 それは一種の特権であるように思われた。”(10)
三沢青佳(ブラウネ)(2)
元々営業職を志しながら総務部に配属。タスク処理に優れる。二年目には秘書課のメンバーに抜擢され、社長付となる。突如ブラウネとしての前世の記憶を思い出し、ぼくのことを夫グロワス13世と信じる。
”彼女はブラウネ・エン・ルロワである。そして、三沢青佳であった。(2)”
”二人は同一人物なのだから、それは当然のこと。根拠は何もない。だが、女はそう信じた。(4)”
” ——私は地元の造園会社に勤めている。お仕事は、社長の秘書。ええ、分かります。商会の会頭を補佐するお仕事ですね。女の私が? ええ。でもそれは当たり前のこと。私は働いている! 女の私が!(2)”
”彼女は常ならぬ熱心さで、青佳という一人の日本人女性が撮り溜めた膨大な記憶のアルバムを一枚一枚捲っていく。取り憑かれたように。そして見つけた。(2)”
” ——これまでご不便でございましたね、グロワス様。でも今後はお任せ下さいませ。青佳ブラウネが”お世話”いたしますので。(2)”
”——ええ、ブラウネも上手くやりましょう。(4)”
”彼女はブラウネ・エン・ルロワである。そして、三沢青佳であった。(2)”
”二人は同一人物なのだから、それは当然のこと。根拠は何もない。だが、女はそう信じた。(4)”
” ——私は地元の造園会社に勤めている。お仕事は、社長の秘書。ええ、分かります。商会の会頭を補佐するお仕事ですね。女の私が? ええ。でもそれは当たり前のこと。私は働いている! 女の私が!(2)”
”彼女は常ならぬ熱心さで、青佳という一人の日本人女性が撮り溜めた膨大な記憶のアルバムを一枚一枚捲っていく。取り憑かれたように。そして見つけた。(2)”
” ——これまでご不便でございましたね、グロワス様。でも今後はお任せ下さいませ。青佳ブラウネが”お世話”いたしますので。(2)”
”——ええ、ブラウネも上手くやりましょう。(4)”
上機嫌なブラウネの失敗(15)
”「では、なんとお呼びしましょうか。——陛下、とか?」
名前をそのまま呼べば良いと分かりながら、女はあえて冗談を飛ばした。それほどに彼女は上機嫌だった。
男の心内を見通せぬほどに。
「三沢さん! ——その呼び方は冗談でも辛い。今のぼくには」”
” ——優秀で皆に好かれていて、とても綺麗な女。きっとあなたは好いてくださいますね。その女を。”
名前をそのまま呼べば良いと分かりながら、女はあえて冗談を飛ばした。それほどに彼女は上機嫌だった。
男の心内を見通せぬほどに。
「三沢さん! ——その呼び方は冗談でも辛い。今のぼくには」”
” ——優秀で皆に好かれていて、とても綺麗な女。きっとあなたは好いてくださいますね。その女を。”
勝利を確信するブラウネ(4)
父のコネを利用して前社長婦人との渡りをつけ、外堀を埋める作戦。見合い設定からデートまではうまくいったが、茉莉の登場により揺らぎ始める。
”父と未来の夫の両親——先代社長たる父は亡くなっているので母のみであるが——が知りあいとなれば話は早い。縁談の取っかかりになる。ブラウネは全く躊躇しなかった。サンテネリにおける結婚とはつまりそのようなものである。自由な恋愛の末に、両人の感情のみを元に結ばれるなど、明らかな”異常”である。(4)”
”「ねぇお父さん、——今度お会いする機会とかある?」彼女はさり気なく尋ねた。父はちょっと考え込んで答えた。所属したサークルの同窓会があるという。話は決した。「わたしも行っていい?」”
”かくして見合いの土台は築かれた。軍伯由来の家同士。しかも当主が同窓で仲は良好。仕事上の利害関係もある。ブラウネは心内勝利を確信した。(4)”
”父と未来の夫の両親——先代社長たる父は亡くなっているので母のみであるが——が知りあいとなれば話は早い。縁談の取っかかりになる。ブラウネは全く躊躇しなかった。サンテネリにおける結婚とはつまりそのようなものである。自由な恋愛の末に、両人の感情のみを元に結ばれるなど、明らかな”異常”である。(4)”
”「ねぇお父さん、——今度お会いする機会とかある?」彼女はさり気なく尋ねた。父はちょっと考え込んで答えた。所属したサークルの同窓会があるという。話は決した。「わたしも行っていい?」”
”かくして見合いの土台は築かれた。軍伯由来の家同士。しかも当主が同窓で仲は良好。仕事上の利害関係もある。ブラウネは心内勝利を確信した。(4)”
家事代行サービスの後任就任にむけての青佳の動き(36)
母の協力とネット検索による料理修行。レストランでの食事を通した社長の好みの把握。彼は単調なものが好みで定番を淡々と食べることを知る。
”男が家事代行サービスを解約したとの情報を「お友達」の茉莉から聞いたとき、彼女は即座に「後任」を狙うことを決めた。”
”掃除、洗濯と一通りの家事はできるし料理も作ることが出来る。だが、家族と同居していることもあり食事のレパートリーだけはどうしても「お洒落なよそ行きメニュー」に偏りがちだった。”
”母からのアドバイスとネットの動画、料理本を頼りに大体の定番料理を習得した。元々複雑な料理を作れる能力を素地として持つため、時間はそうかからなかった。”
”レストランで食事をして観察を重ねること数回。彼は食にあまり興味がないことを知った。企業の代表者として宴席に顔を出すことも多い彼のこと、舌もそれなりに肥えているだろうと想像していたが、推測は大きく外れた。 男は単調なものを好む。 好むというよりも、それが一番マシとでも考えている節がある。”
”手頃なファミリーレストランには2度足を運んだが、彼は2回とも同じメニューを頼んだ。ハンバーグとスパゲッティ。ちょっと捻ったエスカルゴやらムール貝には興味を示さない。 定番のものを淡々と食べる。”
”定番の名も無き家庭料理。肉野菜炒めとでも適当に名付けられる代物を作った。複雑な味付けは一切ない。塩、胡椒、ソース、さらに中華風味の素を加えて炒めただけ。”
”味噌汁も副菜も、簡潔に言えば「適当」。 それこそが青佳が男に提供したいものであった。 普通であること。適当であること。”
”男が家事代行サービスを解約したとの情報を「お友達」の茉莉から聞いたとき、彼女は即座に「後任」を狙うことを決めた。”
”掃除、洗濯と一通りの家事はできるし料理も作ることが出来る。だが、家族と同居していることもあり食事のレパートリーだけはどうしても「お洒落なよそ行きメニュー」に偏りがちだった。”
”母からのアドバイスとネットの動画、料理本を頼りに大体の定番料理を習得した。元々複雑な料理を作れる能力を素地として持つため、時間はそうかからなかった。”
”レストランで食事をして観察を重ねること数回。彼は食にあまり興味がないことを知った。企業の代表者として宴席に顔を出すことも多い彼のこと、舌もそれなりに肥えているだろうと想像していたが、推測は大きく外れた。 男は単調なものを好む。 好むというよりも、それが一番マシとでも考えている節がある。”
”手頃なファミリーレストランには2度足を運んだが、彼は2回とも同じメニューを頼んだ。ハンバーグとスパゲッティ。ちょっと捻ったエスカルゴやらムール貝には興味を示さない。 定番のものを淡々と食べる。”
”定番の名も無き家庭料理。肉野菜炒めとでも適当に名付けられる代物を作った。複雑な味付けは一切ない。塩、胡椒、ソース、さらに中華風味の素を加えて炒めただけ。”
”味噌汁も副菜も、簡潔に言えば「適当」。 それこそが青佳が男に提供したいものであった。 普通であること。適当であること。”
新聞記者へのブラウネの処罰(22)
グロワス13世をあざける内容の記事を書いた新聞記者たちにブラウネが厳しい報復をしたほのめかし。
”真実は正しく報じていただかなくては困ります。それをできぬのならば瞳は必要ありませんね。ものを正しく見ることができぬ瞳は。そして指もいりません。真実を描けぬならば”
”あれはあなたがお命じになったのか。それは愉快だ! あの後やつらは心底怯えていましたよ。まぁ無理もない。飼っていた文屋が目を抉られ指を全て切り落とされては”
”真実は正しく報じていただかなくては困ります。それをできぬのならば瞳は必要ありませんね。ものを正しく見ることができぬ瞳は。そして指もいりません。真実を描けぬならば”
”あれはあなたがお命じになったのか。それは愉快だ! あの後やつらは心底怯えていましたよ。まぁ無理もない。飼っていた文屋が目を抉られ指を全て切り落とされては”
無職の青佳へのぼくの評価(35)
学業優秀でコネが強くて美人なのになぜか就職が決まらない。
”青佳さん、なかなか次の就職先が決まらないらしい。 正直ありえないと思うんだ。”
” 県トップの国立大学法政経学部をストレートで出て、新卒でうちに入って3年は勤めてる。勤務態度は至って良好。秘書検定だかの資格も持ってる。止とどめにお父さんは県の上級職員だからね。つまりコネの宝箱みたいなポジションだ。”
”青佳さん、なかなか次の就職先が決まらないらしい。 正直ありえないと思うんだ。”
” 県トップの国立大学法政経学部をストレートで出て、新卒でうちに入って3年は勤めてる。勤務態度は至って良好。秘書検定だかの資格も持ってる。止とどめにお父さんは県の上級職員だからね。つまりコネの宝箱みたいなポジションだ。”
見合い白紙提案に対する青佳の返答(15)
ぜんぜん聞いてくれない。
”「まぁ! では慎ましく暮らさなければなりませんね。こう見えて私、家事は結構得意なんですよ? ——社長」”
”「ところで、ちょっとお腹が空いてきましたね。 本屋さんに行って、それからお食事をしましょう。——あなた」”
”「まぁ! では慎ましく暮らさなければなりませんね。こう見えて私、家事は結構得意なんですよ? ——社長」”
”「ところで、ちょっとお腹が空いてきましたね。 本屋さんに行って、それからお食事をしましょう。——あなた」”
青佳からの謝罪(35)
知子からの謝罪の1週間前、騒動の1週間後。青佳もまたレスパンとの言い合いを解釈違いと釈明していた?
”青佳さんと会ったのは、例の騒動があった1週間後。 知子さんのときに少し触れたのでここでは繰り返さないけど、彼女もまた真摯に謝罪してくれた。 解釈違いって怖いね。今のぼくにはよく分かるよ。ぼくも今ではいっぱしの創作者なので!”(35)
”何かを思い出すように遠い眼で屋外を眺める男の横顔を、知子は静かに観察する。やがて彼は重ねて問いを発した。”(29)
”青佳さんと会ったのは、例の騒動があった1週間後。 知子さんのときに少し触れたのでここでは繰り返さないけど、彼女もまた真摯に謝罪してくれた。 解釈違いって怖いね。今のぼくにはよく分かるよ。ぼくも今ではいっぱしの創作者なので!”(35)
”何かを思い出すように遠い眼で屋外を眺める男の横顔を、知子は静かに観察する。やがて彼は重ねて問いを発した。”(29)
青佳が見るぼくの客観的諸要素(36)
客観的に見たぼくはめぐまれた立場だが、ブラウネのかつての夫グロワス13世もまたそうであったように、それが本人の幸せを保証するとは限らない。
”客観的に見たとき、男の生は不幸なものとは言いがたい。”
”外から眺める彼は、人々が好ましいと感じる属性の多くを兼ね備えている。 そこそこの規模を持つ企業の代表者という社会的地位。生活に困らないだけの金銭。比較的優れた知性と学歴。容姿とて十人並みの域は出ないものの、特に見劣りするようなものとは思われない。彼女が知る限りにおいてでしかないが、性格も至って落ち着いている。結婚相談所にでも登録すれば相手が殺到することは間違いない。”
”しかし、整然とした豪華な外面が人の幸福を測る物差しになり得ないことを青佳はよく知っていた。青佳が、というよりも、その人格の一部でありながら全てでもある存在、ブラウネが。”
”客観的に見たとき、男の生は不幸なものとは言いがたい。”
”外から眺める彼は、人々が好ましいと感じる属性の多くを兼ね備えている。 そこそこの規模を持つ企業の代表者という社会的地位。生活に困らないだけの金銭。比較的優れた知性と学歴。容姿とて十人並みの域は出ないものの、特に見劣りするようなものとは思われない。彼女が知る限りにおいてでしかないが、性格も至って落ち着いている。結婚相談所にでも登録すれば相手が殺到することは間違いない。”
”しかし、整然とした豪華な外面が人の幸福を測る物差しになり得ないことを青佳はよく知っていた。青佳が、というよりも、その人格の一部でありながら全てでもある存在、ブラウネが。”
青佳とのお茶会(35)
謝罪をうけた後、1~2週に1回の割合で青佳とあっていた。当初は高級個人レストランを予約していたが、3回目から青佳の望みでファミレスに変更。サイゼリアで食事。名目は再就職の相談。
”ぼくは半無職。青佳さんは完全無職。平日の昼間にファミレスに集合しても特に問題ないメンバー。 初めは個人経営の高そうな店をネットで調べて予約してたけど、3回目から彼女の方がファミレスに行きたいと言い出してね。”
”我が地元が誇る世界的イタリア料理チェーン店に行くことになった。”
”週1か2週に1回くらいの割合で会ってた。 名目? 1つしかないよね。無職の悩みは。 つまり、再就職の相談。”
”ぼくは半無職。青佳さんは完全無職。平日の昼間にファミレスに集合しても特に問題ないメンバー。 初めは個人経営の高そうな店をネットで調べて予約してたけど、3回目から彼女の方がファミレスに行きたいと言い出してね。”
”我が地元が誇る世界的イタリア料理チェーン店に行くことになった。”
”週1か2週に1回くらいの割合で会ってた。 名目? 1つしかないよね。無職の悩みは。 つまり、再就職の相談。”
青佳とのデート(30)
表参道でのデート。知子の謝罪会食の一月足らず前。
※作者Twitterによると表参道のルイヴィトンとヴァレンティノブティックがモデルとのこと。
https://x.com/kentaro_honjo/status/1985347993617440914
※作者Twitterによると表参道のルイヴィトンとヴァレンティノブティックがモデルとのこと。
https://x.com/kentaro_honjo/status/1985347993617440914
青佳のお菓子作り(6)
”「本当においしかった。三沢さんは凄腕パティシエだね。お菓子作りは昔から?」
「まだ始めたばかりです。でも性に合っているのかもしれません。材料も簡単に手に入りますしレシピもたくさんあって、何でも作れてしまいそう。次はフィナンシェに挑戦するんです」(6)”
”「兄さんもやっぱり料理が上手い女性が好みですか?」(6)””好みかどうかという問いに正直に答えるならば……好みです!(6)”
”「なるほど。——分かりました」(6)””「ええ。私も分かりました。ご期待下さいね」(6)”
「まだ始めたばかりです。でも性に合っているのかもしれません。材料も簡単に手に入りますしレシピもたくさんあって、何でも作れてしまいそう。次はフィナンシェに挑戦するんです」(6)”
”「兄さんもやっぱり料理が上手い女性が好みですか?」(6)””好みかどうかという問いに正直に答えるならば……好みです!(6)”
”「なるほど。——分かりました」(6)””「ええ。私も分かりました。ご期待下さいね」(6)”
青佳の家事代行サービス(35)
ひどい食生活のせいで痩せこけてしまったぼくを見た青佳の提案。
”こうなった切っ掛けはね、ぼくがちょっとだけ痩せ始めたことに彼女が気づいたところかな。”
”「ところで私、今度アルバイトを始めようと思うんです」”
”「それはいいことだね。何をやるのかな?」”
”「家事代行サービスです」”
”「社長。わたし、アルバイトをしようと思うんです」
「え? うん。そうだね。さっき聞いた」
「家事代行サービスをしようと思います。でも、知らない男性のお家に一人で上がるのは、ちょっと怖いです」
「ああ。うん。ぼくもそれは良くないと思う。これは変な意味でとらないでほしいんだけど、三沢さんはその……一般的に見てとても魅力的な人だから、特に男性客はね。ちょっとこう、変な気を起こす人も出てくる可能性がある……」
「社長もですか?」
「ああ、私は違う。私は大丈夫だよ。あまりそうは見えないかもしれないけど、これでもちゃんとした大人で……」
「まぁ! よかった! それなら安心ですね。社長のお宅なら、私、安心してお仕事ができそう!」”
”「週に何回伺えばいいですか? 私としては最低週3がいいですね」
「週3。……うちはそれほど広くもないし、最近は片付いてるから週1で十分……」
「でも、それだと毎日のお食事を用意できません。冷凍しても1週間分は無理ですから」”
”「分かった。うん。私も三沢さんが来てくれるならこれ以上に安心なことはない」
「ええ! 私、こう見えて家事は得意なんです!」
「じゃあ週3にしようか。それならお給料もそこそこ出せる。今度鍵を渡すよ。あとは、ああ、私の予定も。——不在の時間をちゃんと伝えておかないといけないからね」”
”「は?」”
”「在宅の時間をお伝えくださいね」
「なぜ?」
「お仕事のためです」
「だから、不在のときに……」
「対面に決まっていますね? 当然です」”
”「でも、その、対面は不安だって……」
「社長はそういうことをされる方なんですか?」
「いや、もちろんそんなことはない」”
”「では何の問題もありませんね、対面で」”
”こうなった切っ掛けはね、ぼくがちょっとだけ痩せ始めたことに彼女が気づいたところかな。”
”「ところで私、今度アルバイトを始めようと思うんです」”
”「それはいいことだね。何をやるのかな?」”
”「家事代行サービスです」”
”「社長。わたし、アルバイトをしようと思うんです」
「え? うん。そうだね。さっき聞いた」
「家事代行サービスをしようと思います。でも、知らない男性のお家に一人で上がるのは、ちょっと怖いです」
「ああ。うん。ぼくもそれは良くないと思う。これは変な意味でとらないでほしいんだけど、三沢さんはその……一般的に見てとても魅力的な人だから、特に男性客はね。ちょっとこう、変な気を起こす人も出てくる可能性がある……」
「社長もですか?」
「ああ、私は違う。私は大丈夫だよ。あまりそうは見えないかもしれないけど、これでもちゃんとした大人で……」
「まぁ! よかった! それなら安心ですね。社長のお宅なら、私、安心してお仕事ができそう!」”
”「週に何回伺えばいいですか? 私としては最低週3がいいですね」
「週3。……うちはそれほど広くもないし、最近は片付いてるから週1で十分……」
「でも、それだと毎日のお食事を用意できません。冷凍しても1週間分は無理ですから」”
”「分かった。うん。私も三沢さんが来てくれるならこれ以上に安心なことはない」
「ええ! 私、こう見えて家事は得意なんです!」
「じゃあ週3にしようか。それならお給料もそこそこ出せる。今度鍵を渡すよ。あとは、ああ、私の予定も。——不在の時間をちゃんと伝えておかないといけないからね」”
”「は?」”
”「在宅の時間をお伝えくださいね」
「なぜ?」
「お仕事のためです」
「だから、不在のときに……」
「対面に決まっていますね? 当然です」”
”「でも、その、対面は不安だって……」
「社長はそういうことをされる方なんですか?」
「いや、もちろんそんなことはない」”
”「では何の問題もありませんね、対面で」”
青佳の手料理(35)
青佳が手料理を振る舞うことで、ぼくの部屋のテーブルは1か月ぶりに食卓としての役割を取り戻した。ソース味の野菜炒めみたいなのの大皿。味噌汁。冷ややっこ。お漬物。わりとシンプル。アルパカは取り上げられてビールのショート缶(缶コーヒーサイズのやつ?)が与えられた。ぼくはビールをコップに注ぐ際にこぼしたが、食事は三角食べで行儀が良い。
”ぼくの席の目の前に大皿が置かれていて、野菜炒めみたいなのが盛られている。ドンと。 多分豚肉とキャベツともやし。他にも何かキノコが入ってるけどよく分からない。ソース味っぽいのは匂いと色から分かる。 そしてわかめの味噌汁。冷や奴の小鉢。お新香を盛った小皿。 ご飯。 お箸。”
” ちなみに今日はアルパカくんはいない。彼は冷蔵庫に幽閉されてる。 代わりに缶ビール(ショート缶)が置いてある。空のグラスと共にね。”
”キャベツともやしの軽やかな破断感と、豚肉の何とも言えないぐにゃりとした弾力。ソースの味。ここには複雑なものは何もない。「生」は殺されきっている。全てが「物」であることにぼくはこの上ない安心を覚える。 ぼくは「物」を食べている。取り込んでいる。”
” 美味しいかどうかぼくには判断できない。ただ、好き嫌いを問われれば、明白にぼくはこれが好きだ。”
”再びぼくは料理に向かい合う。ごはん、野菜炒め、野菜炒め、お新香、ごはん、味噌汁、冷や奴……。延々と。”
”ぼくの席の目の前に大皿が置かれていて、野菜炒めみたいなのが盛られている。ドンと。 多分豚肉とキャベツともやし。他にも何かキノコが入ってるけどよく分からない。ソース味っぽいのは匂いと色から分かる。 そしてわかめの味噌汁。冷や奴の小鉢。お新香を盛った小皿。 ご飯。 お箸。”
” ちなみに今日はアルパカくんはいない。彼は冷蔵庫に幽閉されてる。 代わりに缶ビール(ショート缶)が置いてある。空のグラスと共にね。”
”キャベツともやしの軽やかな破断感と、豚肉の何とも言えないぐにゃりとした弾力。ソースの味。ここには複雑なものは何もない。「生」は殺されきっている。全てが「物」であることにぼくはこの上ない安心を覚える。 ぼくは「物」を食べている。取り込んでいる。”
” 美味しいかどうかぼくには判断できない。ただ、好き嫌いを問われれば、明白にぼくはこれが好きだ。”
”再びぼくは料理に向かい合う。ごはん、野菜炒め、野菜炒め、お新香、ごはん、味噌汁、冷や奴……。延々と。”
青佳の決断(27)
”——社長はグロワス様ではない。でも、それがどうしたというのでしょう。もう一度始めから。それほどに幸せなことがあるでしょうか。青佳と社長は日本で出会いました。ならばそこから始めましょう。そして歌い、踊って暮らしましょう。一人の男と、一人の女として。”
”「秘書と社長のカップルは恋愛の定番ですね。私は彼を知って、彼は私を知る。なんて素晴らしいことでしょう!」”
”「秘書と社長のカップルは恋愛の定番ですね。私は彼を知って、彼は私を知る。なんて素晴らしいことでしょう!」”
青佳の記憶(36)
”青佳はるかが感じるのはより矮小な、しかし地に足の付いた驚きであった。”
” 彼女が秘書として付いたとき、男はすでに「暇」を持て余しつつあった。 先輩達に聞くところ、昔の彼は毎日分単位の予定をこなす「精力的な若手経営者」を絵に描いたような存在であったという。各地の支社を頻繁に訪れ、多くの会議を主催し、他社や利害関係にある団体、あるいは政治家との会合に積極的に参加する。幹部のレイヤーに留まらず一般職員と面談することも多い。始業の時間から深夜に至るまで、平日休日の別なく、男のスケジュールは埋まっていた。”
” 総務の先輩職員の1人は訳知り顔で、暇になった男の現状をこう評した。「色々やってみて、やっと分かったんでしょ」 悪性の感情はそこにはない。ただ何とも言えぬニュアンスがあった。子どもの失敗を苦笑交じりに眺める母親のような。”
”2年の時間を掛けて青佳は男と距離を縮めた。ほんの少し、歩幅にすれば一歩に満たないほどの接近。仕事の会話の隙間に時折現れるちょっとした軽口の類い。その蓄積。 彼女は人間としての彼を微かに知った。”
” ——この人は、意外と普通の人だ。 そう。彼はごく普通の男だった。自分と同じ、ごく普通の。”
” 彼女が秘書として付いたとき、男はすでに「暇」を持て余しつつあった。 先輩達に聞くところ、昔の彼は毎日分単位の予定をこなす「精力的な若手経営者」を絵に描いたような存在であったという。各地の支社を頻繁に訪れ、多くの会議を主催し、他社や利害関係にある団体、あるいは政治家との会合に積極的に参加する。幹部のレイヤーに留まらず一般職員と面談することも多い。始業の時間から深夜に至るまで、平日休日の別なく、男のスケジュールは埋まっていた。”
” 総務の先輩職員の1人は訳知り顔で、暇になった男の現状をこう評した。「色々やってみて、やっと分かったんでしょ」 悪性の感情はそこにはない。ただ何とも言えぬニュアンスがあった。子どもの失敗を苦笑交じりに眺める母親のような。”
”2年の時間を掛けて青佳は男と距離を縮めた。ほんの少し、歩幅にすれば一歩に満たないほどの接近。仕事の会話の隙間に時折現れるちょっとした軽口の類い。その蓄積。 彼女は人間としての彼を微かに知った。”
” ——この人は、意外と普通の人だ。 そう。彼はごく普通の男だった。自分と同じ、ごく普通の。”
青佳はマルチタスクが上手(35)
”彼女はマルチタスクがとてもうまいんだ。”
” ぼくみたいに一つのことを始めるとそれしか考えられなくなる——結果他のことを色々取りこぼす——タイプとは全く異なる。10も20もやることを覚えていて、優先順位を付けて確実に潰していく。何から始めればいいか、何と何を一緒にやれば効果的か、そんなことをごく自然に考えている。”
”彼女の些細はぼくの偉業なんだ。 それをうまく伝える術がぼくにはなかった。”
”「昔社長に褒めていただいたのを思い出したんです。『三沢さんは混沌とした状況を秩序立てる、抜群の能力があるね』って。おっしゃっていただきましたね?」”
” ぼくみたいに一つのことを始めるとそれしか考えられなくなる——結果他のことを色々取りこぼす——タイプとは全く異なる。10も20もやることを覚えていて、優先順位を付けて確実に潰していく。何から始めればいいか、何と何を一緒にやれば効果的か、そんなことをごく自然に考えている。”
”彼女の些細はぼくの偉業なんだ。 それをうまく伝える術がぼくにはなかった。”
”「昔社長に褒めていただいたのを思い出したんです。『三沢さんは混沌とした状況を秩序立てる、抜群の能力があるね』って。おっしゃっていただきましたね?」”
青佳はマルチタスクが得意(36)
二度目はもっとうまくやる。
”青佳は物事に優先順位を付けて的確に処理する能力に長けている。そう上司社長から褒められたこともある。 今この状況下において優先順位は明白であった。 まずは皆で囲み、縫い付けなければならない。 縄も錨も多い方がいい。 自分一人では少々心許ない。 独り占めするのはそのあとでいい。縫い付けた後で。”
” かつて同じ事をした経験は彼女の記憶にしっかりと刻まれている。 二度目はもっとうまくやる。”
”青佳は物事に優先順位を付けて的確に処理する能力に長けている。そう上司社長から褒められたこともある。 今この状況下において優先順位は明白であった。 まずは皆で囲み、縫い付けなければならない。 縄も錨も多い方がいい。 自分一人では少々心許ない。 独り占めするのはそのあとでいい。縫い付けた後で。”
” かつて同じ事をした経験は彼女の記憶にしっかりと刻まれている。 二度目はもっとうまくやる。”
三沢さんのケーキ会(6)
日曜15時おやつの時間、ぼくの部屋にて開催。青佳は訪問直後洗面所を確認。なごやかな雰囲気の中、二人とも超さり気なく相手の全身に隈なく視線を飛ばしていた。
「ああ、零してしまった……」(2)
青佳が持ってきたお茶請けを食べこぼしたぼくのセリフ。ブラウネがぼくを最愛の夫と確信させた。
”「このお菓子はとても美味しいんだけど、少し食べづらいね。私は不器用だから」(2)”
※暗君4話『暗君とブラウネ』参照
”「ああ、零してしまった…」 彼はそう呟いた。 ——零してしまった? ”あの”グロワス王が、「零してしまった?」”
”「このお菓子はとても美味しいんだけど、少し食べづらいね。私は不器用だから」(2)”
※暗君4話『暗君とブラウネ』参照
”「ああ、零してしまった…」 彼はそう呟いた。 ——零してしまった? ”あの”グロワス王が、「零してしまった?」”
あの本の価値(27)
ブラウネにとって自分の生きた世界を素材として展開された「別のお話」。中に記された固有名詞の符合のみが重要。
”彼女にとって、極言してしまえば「あの本」の価値は中に記された名前にしかない。「グロワス13世」「ブラウネ」「メアリ」「ゾフィ」「アナリゼ」「サンテネリ」「エストビルグ」。 これらの言葉。現代日本において全てが揃うことはありえない。よって本の存在は「同類」の存在そのものである。 その天啓に比べれば話の内容は些事である。”
”彼女にとって『この人を見よ』は、自分の生きた世界を素材として展開された「別のお話」に過ぎない。”
”彼女にとって、極言してしまえば「あの本」の価値は中に記された名前にしかない。「グロワス13世」「ブラウネ」「メアリ」「ゾフィ」「アナリゼ」「サンテネリ」「エストビルグ」。 これらの言葉。現代日本において全てが揃うことはありえない。よって本の存在は「同類」の存在そのものである。 その天啓に比べれば話の内容は些事である。”
”彼女にとって『この人を見よ』は、自分の生きた世界を素材として展開された「別のお話」に過ぎない。”
そういうアレな営業(35)
平日昼間から青佳とファミレスで会う自分を色恋営業にはまっている中年男性と表現。というか青佳に失礼。
”なんというか、色恋営業にハマった哀れな中年男性っぽい絵柄になってる気がする。 ほんのちょっとだけおめかしした青佳さんはシンプルに、どうみても可愛い。対するぼくはうらぶれた中年。これはもう大体ワンルームマンション押し込まれてる。あるいは保険。株はないな。なんだろう。とにかくそういうアレな営業だよ。”
”なんというか、色恋営業にハマった哀れな中年男性っぽい絵柄になってる気がする。 ほんのちょっとだけおめかしした青佳さんはシンプルに、どうみても可愛い。対するぼくはうらぶれた中年。これはもう大体ワンルームマンション押し込まれてる。あるいは保険。株はないな。なんだろう。とにかくそういうアレな営業だよ。”
では、自分はどうすればよいか(36)
”では、自分はどうすればよいか。 青佳ブラウネは考える。 単純な話である。 自分が関心を持つこの男がいなくなることを阻止しなければならない。 断固として。”
一つの勝利(36)
社長は青佳の作った適当家庭料理を嫌がらずに食べ、彼女にも相伴を進めた。彼のラインの把握に成功。
” 普通であること。適当であること。 それはまさに彼女が男に対して提供できる唯一のものであり、また彼が最も欲するものであろうと考えたからだ。
”果たして彼女の推測は当たった。彼は普段通りの薄い笑顔を絶やすことなく料理を完食した。ご飯をおかわりさえした。 もう一つの切実なメッセージとして出したビールを美味しそうに飲んだ。”
”一見彼は押しに弱い。そう見える。 しかし実際のところ操られるタイプの男とはほど遠い。男の中には「ここまでは押されても良い」というラインが明確に存在する。その線まではいくら押してもいい。彼は照れたような、困ったような顔をして退く。しかし、ラインを越えるものは拒絶する。婉曲に、しかし断固として。”
”今回青佳ブラウネがとった家事代行という見え透いたアプローチにしてもそうだ。それが受け入れられるということは、まだ十分に改善の余地はある。 囲い込んで、がんじがらめにして、縫い付けて、手放さぬ余地が。”
” 普通であること。適当であること。 それはまさに彼女が男に対して提供できる唯一のものであり、また彼が最も欲するものであろうと考えたからだ。
”果たして彼女の推測は当たった。彼は普段通りの薄い笑顔を絶やすことなく料理を完食した。ご飯をおかわりさえした。 もう一つの切実なメッセージとして出したビールを美味しそうに飲んだ。”
”一見彼は押しに弱い。そう見える。 しかし実際のところ操られるタイプの男とはほど遠い。男の中には「ここまでは押されても良い」というラインが明確に存在する。その線まではいくら押してもいい。彼は照れたような、困ったような顔をして退く。しかし、ラインを越えるものは拒絶する。婉曲に、しかし断固として。”
”今回青佳ブラウネがとった家事代行という見え透いたアプローチにしてもそうだ。それが受け入れられるということは、まだ十分に改善の余地はある。 囲い込んで、がんじがらめにして、縫い付けて、手放さぬ余地が。”
三沢さんの母(1)
JTCの管理職っぽい職業婦人。
※暗君でのフロイスブル伯爵夫人フェリシアがイメージ?
※暗君でのフロイスブル伯爵夫人フェリシアがイメージ?
三沢さんの父(1)
渋い感じのナイスミドル。やり手官僚の中でもかなりカッコいい部類。県の高級職員で、都市整備部署配属の際に接触した青佳の会社の先代社長夫妻とは大学の同窓(4)。
”先代の社長ご夫妻とは同窓でね。当時お会いしたときは仕事そっちのけで大学の話で盛り上がったよ。(4)”
※暗君でのフロイスブル伯爵マルセルがイメージ?
”先代の社長ご夫妻とは同窓でね。当時お会いしたときは仕事そっちのけで大学の話で盛り上がったよ。(4)”
※暗君でのフロイスブル伯爵マルセルがイメージ?
思い出話(27)
サンテネリ語による王妃たちの会話。
”「もしや、あのならず者まで呼ばれたのではないかと少し不安に思っていましたけれど、どうやら杞憂に終わりましたね」”
”「私は彼に感謝しています。彼の書いた例のお話がなければ、遠く離れた地に生きた私が皆さんとお会いすることは出来なかったでしょう。『こちらにいらしてくださいませ、一緒にお話しいたしましょう』と再び言うことも」”
”「本当ですね! また皆さんとお話し出来るなんて夢のようです。大学でアナリゼさんと初めてお会いしたときはもう、心臓が破裂しちゃいそうだったんですよ」”
”「確かにその点だけは認めなければなりませんね。わたくしも、あの本があってこそ陛下の存在に気づけたのですから」”
”「ブラウネ姉様エネ・ブラウネのおっしゃるとおりです。おかげで——グロワス様にお会いできました」”
”「もしや、あのならず者まで呼ばれたのではないかと少し不安に思っていましたけれど、どうやら杞憂に終わりましたね」”
”「私は彼に感謝しています。彼の書いた例のお話がなければ、遠く離れた地に生きた私が皆さんとお会いすることは出来なかったでしょう。『こちらにいらしてくださいませ、一緒にお話しいたしましょう』と再び言うことも」”
”「本当ですね! また皆さんとお話し出来るなんて夢のようです。大学でアナリゼさんと初めてお会いしたときはもう、心臓が破裂しちゃいそうだったんですよ」”
”「確かにその点だけは認めなければなりませんね。わたくしも、あの本があってこそ陛下の存在に気づけたのですから」”
”「ブラウネ姉様エネ・ブラウネのおっしゃるとおりです。おかげで——グロワス様にお会いできました」”
日本国憲法(10)
グロワス13世が望んだ世界を記述した文章。中学生で習う。
”彼はそう在ろうとして、そう在った。 しかし、そう在るために彼が払ったであろう犠牲を今の彼女は理解することができる。”(10)
” この「日本」という国、青佳が自明のものとして受け入れ、生きるこの世界は、夫がそうあるべきと願ったものに限りなく近い。長らく連れ添った経験からブラウネは夫の願いの輪郭を漠然と感得していた。”(10)
” 何よりも、それはブラウネが最も愛した男達——夫グロワスと息子ロベルが目指したものであったのだから。 夫が意図し、息子が為した。 光輝あるルロワの盾上蛇紋は光の宮殿から静かに降納された。 ”サンテネリ共和国憲法”がそれを為さしめたのだ。 夫が意図し、”改革主義者”たちが引き継ぎ、息子が完成させた法が。”(10)
” どれほどの労苦であろう。国家を創造するということは。 しかも、最小限の血を以て。
ブラウネの夫と息子は、それを為したのだ。 当然のことながらその功は二人のみに帰せられるものではない。だが、それを望む幾多の人々の中心にあって、少なくとも彼らが旗を振った。 それはまさに、偉大なサンテネリの男の姿である。”(10)
”彼はそう在ろうとして、そう在った。 しかし、そう在るために彼が払ったであろう犠牲を今の彼女は理解することができる。”(10)
” この「日本」という国、青佳が自明のものとして受け入れ、生きるこの世界は、夫がそうあるべきと願ったものに限りなく近い。長らく連れ添った経験からブラウネは夫の願いの輪郭を漠然と感得していた。”(10)
” 何よりも、それはブラウネが最も愛した男達——夫グロワスと息子ロベルが目指したものであったのだから。 夫が意図し、息子が為した。 光輝あるルロワの盾上蛇紋は光の宮殿から静かに降納された。 ”サンテネリ共和国憲法”がそれを為さしめたのだ。 夫が意図し、”改革主義者”たちが引き継ぎ、息子が完成させた法が。”(10)
” どれほどの労苦であろう。国家を創造するということは。 しかも、最小限の血を以て。
ブラウネの夫と息子は、それを為したのだ。 当然のことながらその功は二人のみに帰せられるものではない。だが、それを望む幾多の人々の中心にあって、少なくとも彼らが旗を振った。 それはまさに、偉大なサンテネリの男の姿である。”(10)
暗君と似てて非なるシーン(15)
”「ではこう呼びましょう。あなた、と」”
”「これから、いつどんな場所でも、ぼくを”あなた”と呼べるか? 青佳さん。——全てを投げ捨てた、何も持たない、何も誇れるものを持たないこのぼくを!」”
”「あなたが望まれるならば、いつ、どこでも、青佳ブラウネはそうお呼びします」”
暗君19話、「無能な王の重荷」と呼応。
”マンションの窓から指す西日が彼女の顔を照らし綺麗な陰影を作る。その様はまるで女王のようだ。芋虫よろしくソファで身体を震わせる男などよりもよほど、彼女は堂々としている。彼女は強い。”
”「これから、いつどんな場所でも、ぼくを”あなた”と呼べるか? 青佳さん。——全てを投げ捨てた、何も持たない、何も誇れるものを持たないこのぼくを!」”
”「あなたが望まれるならば、いつ、どこでも、青佳ブラウネはそうお呼びします」”
暗君19話、「無能な王の重荷」と呼応。
”マンションの窓から指す西日が彼女の顔を照らし綺麗な陰影を作る。その様はまるで女王のようだ。芋虫よろしくソファで身体を震わせる男などよりもよほど、彼女は堂々としている。彼女は強い。”
現実の話(27)
王妃たちのサンテネリ語による思い出話の後、日本語にて行われた相談。当日ブラウネは夫の立場を由理が演じると聞いて冷静を欠いたと振り返る。
” 例の不遜な男が夫の立場を僭称するなどと聞いて、思わず頭に血が上ってしまった。夫の偉業を掠め取るに飽き足らず、さらには王夫の役を演じるなど”
”でも、それは本当に? シャンパングラスを掲げて明るく友人の偉業を「発表」する夫の姿は、彼女ブラウネにとって余りにも見慣れた光景を想起させた。かつて自身の手が抑えたもの。夫の震えを”
”ブラウネは、最も古くから知る友であり、ともに侍女を務めた女が何かを語り出そうとするのを感じ取った。”
”「思い出話はもういいですか? では、ここからは今の話をしましょう。現実の」”
”「土曜日のお話ですね?」”
”「ええ。皆さんお分かりですね。——今、私たちはとても不味い状況にあります」
「そうですね。グロワス様も突然のことにちょっと混乱したご様子でしたから。わたくしもあの場にあって冷静さを欠きました」”
”「私も急ぎすぎました。陛下とお会いできた喜びが抑えられません。まだ私たち程にはご自身を”理解”されていないかもしれないのに。ご自身がグロワス様であることを。それを失念していました」”
”「やはり皆さん勘違いしていますね。私もそうでしたから偉そうなことは言えません。でも、少し考えてみてください。思い返しましょう。私たちの記憶を。——陛下はとても不思議な方でした。20の年に人が変わられたようになって、その後、偉大な王になられました。皆さんご存じのように。でも、一方で私たちには思いもつかないことをお考えでいらっしゃいましたね。本当に不思議なことを、たくさん」”
”「たとえばこの世界……日本にグロワス様がいらしたらどうでしょう。私たちのように混乱するでしょうか。それとも自然に振る舞われるでしょうか。あたかもここが彼の居場所であるかのように」”
”「まぁ! つまり茉莉さんはこう言いたいのですか? ここがグロワス様の本来の世界であると」
「どうでしょうか。それは分かりません。私に分かることはただ一つです。——陛下が彼なのではありません。彼が、兄さんがグロワス様なのです」”
”「——貴族会の後、陛下は独りお部屋に籠もられましたね。その後、陛下は落ち着かれました……」”
””
” 例の不遜な男が夫の立場を僭称するなどと聞いて、思わず頭に血が上ってしまった。夫の偉業を掠め取るに飽き足らず、さらには王夫の役を演じるなど”
”でも、それは本当に? シャンパングラスを掲げて明るく友人の偉業を「発表」する夫の姿は、彼女ブラウネにとって余りにも見慣れた光景を想起させた。かつて自身の手が抑えたもの。夫の震えを”
”ブラウネは、最も古くから知る友であり、ともに侍女を務めた女が何かを語り出そうとするのを感じ取った。”
”「思い出話はもういいですか? では、ここからは今の話をしましょう。現実の」”
”「土曜日のお話ですね?」”
”「ええ。皆さんお分かりですね。——今、私たちはとても不味い状況にあります」
「そうですね。グロワス様も突然のことにちょっと混乱したご様子でしたから。わたくしもあの場にあって冷静さを欠きました」”
”「私も急ぎすぎました。陛下とお会いできた喜びが抑えられません。まだ私たち程にはご自身を”理解”されていないかもしれないのに。ご自身がグロワス様であることを。それを失念していました」”
”「やはり皆さん勘違いしていますね。私もそうでしたから偉そうなことは言えません。でも、少し考えてみてください。思い返しましょう。私たちの記憶を。——陛下はとても不思議な方でした。20の年に人が変わられたようになって、その後、偉大な王になられました。皆さんご存じのように。でも、一方で私たちには思いもつかないことをお考えでいらっしゃいましたね。本当に不思議なことを、たくさん」”
”「たとえばこの世界……日本にグロワス様がいらしたらどうでしょう。私たちのように混乱するでしょうか。それとも自然に振る舞われるでしょうか。あたかもここが彼の居場所であるかのように」”
”「まぁ! つまり茉莉さんはこう言いたいのですか? ここがグロワス様の本来の世界であると」
「どうでしょうか。それは分かりません。私に分かることはただ一つです。——陛下が彼なのではありません。彼が、兄さんがグロワス様なのです」”
”「——貴族会の後、陛下は独りお部屋に籠もられましたね。その後、陛下は落ち着かれました……」”
””
職場見学(36)
1か月ぶりにぼくの部屋を訪れ、各部屋を見回った青佳の感想。人が生きている限り生じる混沌、生活感がほぼ残されていない。ああこれはだめだ。整理されたオフィスのような生活感のなさと、これから青佳が家事代行として仕事する場としての職場のダブルミーニング?
”かくして青佳はるかは「職場見学」を終えた。そして率直に思った。 ああ、これは駄目だ、と。”
” そこにはもはや混沌がほとんど残されていない。混沌が死に瀕している。 人が生きるとき、そこには必ず猥雑さがある。なぜなら人の肉体こそが無秩序の極みであるのだから。どれほど整理整頓に気を遣い、掃除をしたとしても、そこには人の——動物の息づかいが残る。几帳面な彼女とて、自身の部屋にそれはある。 男の部屋にはそれがない。”
”「とても……綺麗にされているんですね」”
”「物を減らしたんだ。ミニマルな暮らしというんだろうか。こう見えて私は流行りに弱いから」”
”男の部屋は心象そのものに感じられる。 片付けが終わりつつある。”
”かくして青佳はるかは「職場見学」を終えた。そして率直に思った。 ああ、これは駄目だ、と。”
” そこにはもはや混沌がほとんど残されていない。混沌が死に瀕している。 人が生きるとき、そこには必ず猥雑さがある。なぜなら人の肉体こそが無秩序の極みであるのだから。どれほど整理整頓に気を遣い、掃除をしたとしても、そこには人の——動物の息づかいが残る。几帳面な彼女とて、自身の部屋にそれはある。 男の部屋にはそれがない。”
”「とても……綺麗にされているんですね」”
”「物を減らしたんだ。ミニマルな暮らしというんだろうか。こう見えて私は流行りに弱いから」”
”男の部屋は心象そのものに感じられる。 片付けが終わりつつある。”
花火大会(36)
社長の家のベランダから見える花火大会。青佳はさらに一歩踏み込もうとして私もここから見たいと提案。二人きりはとしぶる社長に、「お友達」も呼ぶという。
”「社長。——もしよろしければその日、私もここから見たいです」”
”事に臨んでは果断であるべき。 ブラウネは、元は武門の名家、サンテネリ王国譜代筆頭フロイスブル侯爵家の長女である。始祖ブラウネの名を受け継ぐ女だ。”
”彼は意識の届かぬところで求めているはずだ。自分を縫い付けてほしいと。 彼女はその予測にかけた。”
”「社長。——もしよろしければその日、私もここから見たいです」”
”事に臨んでは果断であるべき。 ブラウネは、元は武門の名家、サンテネリ王国譜代筆頭フロイスブル侯爵家の長女である。始祖ブラウネの名を受け継ぐ女だ。”
”彼は意識の届かぬところで求めているはずだ。自分を縫い付けてほしいと。 彼女はその予測にかけた。”
謝罪の昼食のあと(30)
なぜか知子とデートをすることに。ビジネススーツで来たのでギリギリ会社の同僚関係の線で行こうと考えるが無理だった。
”ぼくは高性能の危険センサーを持っているくせに、それを有効活用するのが絶望的に下手だ。 小一時間レストランで話をして和やかに解散するつもりが、結局なぜか銀座をふらついてる。島津さんとともに。 上目遣いで「せんぱい」を連呼され、敬語を止めるように優雅に促されつつ。”
”「せんぱい、表参道とかよく行かれるんですか?」
「いや。ほとんど行かないけど。なぜ?」
「青佳さんにこの前お聞きしたんです! 表参道でデートをして、とっても楽しかったって。いいなぁ! 大人のデート。そういうの憧れです。——いいなぁ!」”
”「ああ……うん、そういうこともあった。ちょっとした買い物に付き合って貰ったんだ。だからデートというわけではないよ」”
” 嘘はあんまり言ってない。物を買ったのはぼくだからね。着るのは彼女だけど。”
”「そうなんですね! ちょっと誤解しちゃいました。——せんぱいと青佳さん、付き合ってるのかな、って」
「まさか。それは彼女に失礼だ。三沢さんはとても素敵な方で私も憧れるから、光栄なことだけどね」”
”ぐいぐい来る……。
何となく危険な雰囲気があるな。”
”「あ、これ! もう出てるんだ! 綺麗! ちょっと寄り道してもいいですか? せんぱい」”
”「え? ああ、うん。そうだね。せっかく銀座まで来たんだから……」”
”ぼくは高性能の危険センサーを持っているくせに、それを有効活用するのが絶望的に下手だ。 小一時間レストランで話をして和やかに解散するつもりが、結局なぜか銀座をふらついてる。島津さんとともに。 上目遣いで「せんぱい」を連呼され、敬語を止めるように優雅に促されつつ。”
”「せんぱい、表参道とかよく行かれるんですか?」
「いや。ほとんど行かないけど。なぜ?」
「青佳さんにこの前お聞きしたんです! 表参道でデートをして、とっても楽しかったって。いいなぁ! 大人のデート。そういうの憧れです。——いいなぁ!」”
”「ああ……うん、そういうこともあった。ちょっとした買い物に付き合って貰ったんだ。だからデートというわけではないよ」”
” 嘘はあんまり言ってない。物を買ったのはぼくだからね。着るのは彼女だけど。”
”「そうなんですね! ちょっと誤解しちゃいました。——せんぱいと青佳さん、付き合ってるのかな、って」
「まさか。それは彼女に失礼だ。三沢さんはとても素敵な方で私も憧れるから、光栄なことだけどね」”
”ぐいぐい来る……。
何となく危険な雰囲気があるな。”
”「あ、これ! もう出てるんだ! 綺麗! ちょっと寄り道してもいいですか? せんぱい」”
”「え? ああ、うん。そうだね。せっかく銀座まで来たんだから……」”
買い物(36)
青佳によるぼくがいなくならないようにする作戦その1。戦場に向かう戦乙女さながらに勇壮な響きの声でぼくをスーパーに連れ出す。
”「この調子だと冷蔵庫の中も期待できませんね」
「ああ、うん。その……飲み物はあるよ?」
「お茶ですか?」
「いや、まぁ……」
「分かりました。ではお仕事にかかります。ちょっとお付き合いくださいね?」”
” 彼女は男を促し玄関に向けて歩き出す。
「どこへ?」
「スーパーへ」
開いた扉から這い入る光を受けて、青佳は言い放つ。その声は戦場に向かう戦乙女さながらに勇壮な響きを含んでいた。”
”「この調子だと冷蔵庫の中も期待できませんね」
「ああ、うん。その……飲み物はあるよ?」
「お茶ですか?」
「いや、まぁ……」
「分かりました。ではお仕事にかかります。ちょっとお付き合いくださいね?」”
” 彼女は男を促し玄関に向けて歩き出す。
「どこへ?」
「スーパーへ」
開いた扉から這い入る光を受けて、青佳は言い放つ。その声は戦場に向かう戦乙女さながらに勇壮な響きを含んでいた。”
人物/茉莉・メアリ
| 項目 | 話数 |
|---|---|
| ぼくのマンションに来た茉莉(24) | 24 |
| ぼくを救った茉莉(23) | 23 |
| メアリ(27) | 27 |
| メアリ・アンヌ(23) | 23 |
| メアリ・エン・ルロワ(23) | 23 |
| 下川茉莉(3) | 3 |
| 下川茉莉(24) | 24 |
| 下川茉莉(中学時代)(23) | 23 |
| 窒息しそうなぼくを助けにくる茉莉(22) | 22 |
| 茉莉が来た理由(25) | 25 |
| 茉莉さんのちょっとアレな襲撃事件(31) | 31 |
| 茉莉に生じた異変(23) | 23 |
| 茉莉の入社希望(24) | 24 |
| 茉莉の母(23) | 23 |
| 下川のおばさん(10) | 10 |
| 切腹の準備(37) | 37 |
| 本番は夜(25) | 25 |
| 近所のお洒落カフェ(5) | 5 |
ぼくのマンションに来た茉莉(24)
片付けが終わって愛の死を聴いているぼくの部屋を訪れた茉莉。昨日の疲れが見える。
”玄関で迎え入れた茉莉さんは昨日の疲れを残したままだ。化粧で隠してはいるけれど目元にうっすら隈の後が残る。”
”面白い構図がここにある。 ぼくの背中を最後に押した人が、ぼくが見る最後の人になった。彼女が発したわけの分からない台詞は紛れもなくそれだった。”
”玄関で迎え入れた茉莉さんは昨日の疲れを残したままだ。化粧で隠してはいるけれど目元にうっすら隈の後が残る。”
”面白い構図がここにある。 ぼくの背中を最後に押した人が、ぼくが見る最後の人になった。彼女が発したわけの分からない台詞は紛れもなくそれだった。”
ぼくを救った茉莉(23)
1度目:高校1年。処女作が売れず、落ち込むぼくに対し、「私は好きです。……羊が。かわいかったです」と答えた。
2度目:大学2年。父親を失ったぼくの部屋を訪ねる。
”葬儀から2週間が過ぎたころ、彼女は男の家を訪ねた。 地方の私鉄駅から10分ほど歩いたところにある単身者用アパートの一室。日曜の昼のこと。”
”「兄さんなら大丈夫です。なんとかなります」”
”「それにしても、色々読んでみて思う。本当に社会は複雑だ。小難しい本をたくさん読んできたつもりだけど、実際はね。おれたちが生きる世界のほうがずっと小難しい」”
”滅多に聞くことのない台詞を男は告げる。 内容ではない。語調に変異がある。それは自嘲ですらない。否定だった。その予感を確信に変えたのは、またしても1つの情景であった。 部屋の隅、光の当たらぬ一角に色々なものが雑多に積まれている。CDと本だ。”
”こうしては彼女は2度救った。 男の子どもと、男の存在を。つまり男を。”
2度目:大学2年。父親を失ったぼくの部屋を訪ねる。
”葬儀から2週間が過ぎたころ、彼女は男の家を訪ねた。 地方の私鉄駅から10分ほど歩いたところにある単身者用アパートの一室。日曜の昼のこと。”
”「兄さんなら大丈夫です。なんとかなります」”
”「それにしても、色々読んでみて思う。本当に社会は複雑だ。小難しい本をたくさん読んできたつもりだけど、実際はね。おれたちが生きる世界のほうがずっと小難しい」”
”滅多に聞くことのない台詞を男は告げる。 内容ではない。語調に変異がある。それは自嘲ですらない。否定だった。その予感を確信に変えたのは、またしても1つの情景であった。 部屋の隅、光の当たらぬ一角に色々なものが雑多に積まれている。CDと本だ。”
”こうしては彼女は2度救った。 男の子どもと、男の存在を。つまり男を。”
メアリ(27)
女神の母。王国の母と呼ばれたアナリゼとの比較。
”偶然にも同じく「母」と称された女。”王国”ではなく”女神”を産んだ女。今日この日、3人の”お友達”を集めた王妃メアリである。”
”偶然にも同じく「母」と称された女。”王国”ではなく”女神”を産んだ女。今日この日、3人の”お友達”を集めた王妃メアリである。”
メアリ・アンヌ(23)
メアリ・エン・ルロワの一人娘。「市民メリア」あるいは「共和国の守護女神」。国家存亡のさなか過酷な東部戦線を維持し続けた将軍の一人として脚光を浴びる。彼女が目立った何かをしたわけではないが、国家を救った決定的な作戦命令の多くがその名の下に出された。戦後は政界に身を置き、肥大した軍と脆弱な議会・政府の間の均衡維持、意思疎通に務め、新国家の最も危険な一時期を支える。
”市民は目に見える戦功を讃え、為政者達は目に見えぬ偉大な政治力を讃えた。その功績の全てをもって、メアリ・アンヌは国民から2つの名誉ある仇名を得た。「市民メリア」あるいは「共和国の守護女神」。”
”市民は目に見える戦功を讃え、為政者達は目に見えぬ偉大な政治力を讃えた。その功績の全てをもって、メアリ・アンヌは国民から2つの名誉ある仇名を得た。「市民メリア」あるいは「共和国の守護女神」。”
メアリ・エン・ルロワ(23)
サンテネリ王国近衛軍を率いる伯爵家の姫として生を受け、長じては王に嫁ぎ子を為した。夫を亡くしたのちは長く住んだ光の宮殿を早々に辞し、実家家領の田舎に隠棲。彼女の一人娘メアリ・アンヌが成した共和国への多大な貢献から、「女神の母」と呼ばれた。
”実際に軍を率いることは叶わなかったが、彼女は近衛軍士官としての教育を受けていた。近衛軍の士官とはつまり、サンテネリ国軍の多くがそうであるような貴族の次男三男が腰掛けで遊び暮らすための地位ではない。実戦に必要な全て——当然のことながら火砲の運用法までを含む——を詰め込まれた存在である。”
”実際に軍を率いることは叶わなかったが、彼女は近衛軍士官としての教育を受けていた。近衛軍の士官とはつまり、サンテネリ国軍の多くがそうであるような貴族の次男三男が腰掛けで遊び暮らすための地位ではない。実戦に必要な全て——当然のことながら火砲の運用法までを含む——を詰め込まれた存在である。”
下川茉莉(3)
しもかわまり。28歳。青佳とのディナー中にぼくにアポイントのラインを送ってきた。ぼくの母方(13)の遠い親戚ではとこ。部活でもクラスでもリーダー的存在だったが突如学校に行けなくなり、中2の半年間不登校になる。不登校中も友達が入れ替わり立ち替わりお見舞いに来ていた(10)。彼女が中3、ぼくが大学3年の頃に(10)家庭教師をした(4)。中分けにした長めのボブ、パンツスーツをカチッと着こなした長身美人(5)。日本橋の超カッコいい本社ビルの床をヒールの踵を打ち付けながら颯爽と歩いている系キャリアウーマン(5)。某財閥系デベロッパー勤務で、ぼくのマンションも彼女の勤め先の物件(5)。ぼくのことを兄さんと呼ぶ(5)。暇なときは月2くらいで土曜の夕方にぼくの部屋に遊びに来る(5)。例のマンガ読者。W大学政治経済学部卒で、超大手企業の総合職(5)。高身長でモデル感、カッコいい系のイデア(6)。日本橋のオフィスで「地図に残る仕事」をしている。(12)建設業界志望だったため、加賀の叔父に相談していた。叔父からは「近年なかなか見ない肝の据わった子だ」との評価(13)。仕事はフレックスらしく日曜夜10時からぼくの部屋に来ても大丈夫(13)。お酒はあまり強くないらしく、500ml缶を1本空けたあたりでぼんやりしてソファーに寝転がり、ぼくに這いよって顔をこすりつけてきた。
”「ああ、これは遠い親戚の子からだ」「子?」「子」(3)”
”「まぁ。——その方とは親しくされているんですか?」(4)”
”「親しくとまではいかない。親戚の娘でね、長い付き合いなんだ。昔は家庭教師のまねごとをしたこともあるよ。彼女、それまで部活一辺倒だった割にはいざ受験となると集中力が凄かった。成績のグラフなんてほぼ垂直に伸びてたな。世の中にはああいう凄い人がたくさんいる」(4)”
”——彼女。ふぅん。(4)”
”「ひょっとしたら将来わたしもお会いすることになるかもしれませんね。その方と。——お名前はなんとおっしゃるんですか?」(4)”
”「マリさん。——覚えておきますね」(4)”
”「ああ、ああ、なるほど。そのようだ」「その台詞は似てますね! そんな口調ですよ、グロワス13世」(5)”
”「大丈夫です、兄さん。まだその子彼氏いませんから。これからです」(5)”
”「ところで下川さん、さっきご両親からちょっと聞いたけど、はまってる趣味があるんだよね?」”(10)
”「いなくならないでください。私のところにいてください。——先生」”(10)
”「今から行きますね」
「夜分本当にごめんね、茉莉。来なくていいよ。叔父さんのいつものアレだから」
「いいえ。行きます。わたしもちょっと飲みたい気分だったんです。兄さんにまたご相談したいこともありますから」”(13)
”「分かりました。すぐに行きますね」
「いや、これからだと11時過ぎるだろう。明日に響く。今度にしよう、今度」
「行きます」
「来るの?」
「行きます」”(13)
”ちなみに彼女お酒あんまり強くないので、500ml缶を1本空けたあたりでぼんやりし始める。ソファーに寝転がってね。
ぼくはできる限り距離を取って座ってたんだけど、這ってくるんだよね、ずるずると。茉莉さんが。で、ぼくの膝に顔ぐりぐり押しつけて、そのまま寝落ちした。
なんだこれ。”(13)
”「ああ、これは遠い親戚の子からだ」「子?」「子」(3)”
”「まぁ。——その方とは親しくされているんですか?」(4)”
”「親しくとまではいかない。親戚の娘でね、長い付き合いなんだ。昔は家庭教師のまねごとをしたこともあるよ。彼女、それまで部活一辺倒だった割にはいざ受験となると集中力が凄かった。成績のグラフなんてほぼ垂直に伸びてたな。世の中にはああいう凄い人がたくさんいる」(4)”
”——彼女。ふぅん。(4)”
”「ひょっとしたら将来わたしもお会いすることになるかもしれませんね。その方と。——お名前はなんとおっしゃるんですか?」(4)”
”「マリさん。——覚えておきますね」(4)”
”「ああ、ああ、なるほど。そのようだ」「その台詞は似てますね! そんな口調ですよ、グロワス13世」(5)”
”「大丈夫です、兄さん。まだその子彼氏いませんから。これからです」(5)”
”「ところで下川さん、さっきご両親からちょっと聞いたけど、はまってる趣味があるんだよね?」”(10)
”「いなくならないでください。私のところにいてください。——先生」”(10)
”「今から行きますね」
「夜分本当にごめんね、茉莉。来なくていいよ。叔父さんのいつものアレだから」
「いいえ。行きます。わたしもちょっと飲みたい気分だったんです。兄さんにまたご相談したいこともありますから」”(13)
”「分かりました。すぐに行きますね」
「いや、これからだと11時過ぎるだろう。明日に響く。今度にしよう、今度」
「行きます」
「来るの?」
「行きます」”(13)
”ちなみに彼女お酒あんまり強くないので、500ml缶を1本空けたあたりでぼんやりし始める。ソファーに寝転がってね。
ぼくはできる限り距離を取って座ってたんだけど、這ってくるんだよね、ずるずると。茉莉さんが。で、ぼくの膝に顔ぐりぐり押しつけて、そのまま寝落ちした。
なんだこれ。”(13)
下川茉莉(24)
ぼくから見た茉莉。170cm超のスレンダー美女。シゴデキオーラ満載のクール完璧系。社会人6年目で部下もそこそこいて、面倒見の良さから男女問わず慕われ、また同僚や部下から魅力的な異性として注目を浴びていると思われる。一方で趣味は手芸という温和な性格。
”社会人6年目だからきっと部下もそこそこいるはず。彼女はあの性格だから、何か部下がトラブったら『今から行きます』が発動するんだろう。”
”ドラマで主演を張れそうな170cm超のスレンダー美女(ヒール装備)が、明らかにシゴデキオーラ満載のスーツ姿でカツカツ地面を蹴って早足に向かってくるわけだ。ああ見えてそこまで気が強い方でもないから、やらかした部下を軽くたしなめつつも、一緒にトラブルを解決してあげるんだろう。”
”これはダース単位で信奉者がいる予感。 同僚からは虎視眈々と狙われ、部下からも虎視眈々と狙われてる感ある。ああ、彼らの勇気は買いたい。ああいう完璧系クール美女って声かけるのとんでもなく勇気いるからね。”
”多分、女性陣の皆さんにもファンがいる予感。”
”特段攻撃的な性格をしていない。趣味は手芸。かわいい動物をフェルトで器用に作る。ちょっと前はネットで流行ったモルモットのキャラクターを一生懸命作ってた。”
”つまりこれがぼくという「他者が見る下川茉莉」だ。本当の彼女とはかけ離れている可能性も十分ある。でも、案外良い線行っているんじゃないかと思うよ。 少なくともぼくが昨日まで友達だと思っていた人たちがぼくにしたような特大の見当外れはしていないと自信を持って言える。”
”社会人6年目だからきっと部下もそこそこいるはず。彼女はあの性格だから、何か部下がトラブったら『今から行きます』が発動するんだろう。”
”ドラマで主演を張れそうな170cm超のスレンダー美女(ヒール装備)が、明らかにシゴデキオーラ満載のスーツ姿でカツカツ地面を蹴って早足に向かってくるわけだ。ああ見えてそこまで気が強い方でもないから、やらかした部下を軽くたしなめつつも、一緒にトラブルを解決してあげるんだろう。”
”これはダース単位で信奉者がいる予感。 同僚からは虎視眈々と狙われ、部下からも虎視眈々と狙われてる感ある。ああ、彼らの勇気は買いたい。ああいう完璧系クール美女って声かけるのとんでもなく勇気いるからね。”
”多分、女性陣の皆さんにもファンがいる予感。”
”特段攻撃的な性格をしていない。趣味は手芸。かわいい動物をフェルトで器用に作る。ちょっと前はネットで流行ったモルモットのキャラクターを一生懸命作ってた。”
”つまりこれがぼくという「他者が見る下川茉莉」だ。本当の彼女とはかけ離れている可能性も十分ある。でも、案外良い線行っているんじゃないかと思うよ。 少なくともぼくが昨日まで友達だと思っていた人たちがぼくにしたような特大の見当外れはしていないと自信を持って言える。”
下川茉莉(中学時代)(23)
賢く真面目な中学生。品よく抑制された反抗期を、忙しい親に代わって年の離れた弟の面倒を見ながら過ごした。バスケットボール部に所属。注目を浴びるほどの選手ではないものの、長身とチームへの献身が評価される。女子にしては高い、細身ながら強靱な芯を感じる四肢。化粧をせずとも十分に存在感を持つ凛とした瞳と鼻梁。
”つまり、日本の地方都市に住む中間階層の少女が持ちうるもののほとんどを彼女は持っていた。まともな家族と恵まれた容姿、人並み以上の知性と身体能力。そしてほどよい人望。”
”つまり、日本の地方都市に住む中間階層の少女が持ちうるもののほとんどを彼女は持っていた。まともな家族と恵まれた容姿、人並み以上の知性と身体能力。そしてほどよい人望。”
”14歳の少女、下川茉莉の身に——より正しくは精神に——生じた一つの異常は、彼女の歩く目映い早朝の遊歩道を暗い森の茨道へと変えた。”
窒息しそうなぼくを助けにくる茉莉(22)
『暗君』16話「無能な王と王様係」と対応。
茉莉が来た理由(25)
”「ねえ兄さん。だから私は来ました。あなたを助けるために」”
”ぼくが見せた恐らく初めての怒声に彼女は全く怯まなかった。それはまるで物語の登場人物のようだ。どんな危機にも苦難にも堂々と立ち向かう主役ヒロインのような。「助ける? ありがとう。もう十分助けてもらった。これ以上は……」「あなたはグロワス13世ではありません。——あなたは私の兄さん」”
”彼女の声は凛として、一語一語が輝いていた。 にもかかわらず、内容は陳腐だ。 当たり前のことを言っただけ。それだけに過ぎない。 だから、ぼくは彼女の言葉に感動したりはしなかった。背筋を伸ばし、昂然とぼくを見つめる姿に気圧されたわけでもない。”
” ぼくは感じたんだ。震えを。 ぼくのじゃない。 手錠を通して伝わる、彼女の。”
※『暗君』61話「正教新暦1716年2月15日」
”ブラウネは微かな震えを覚える。それはもはや見慣れてしまった夫の振動ではありえない。自分が震えていたのだ。”を想起させる。
”「それは……当たり前のことだよ。茉莉」「ええ」「でも、それを嬉しく思ってしまうほど、もうおれはおかしくなってる」”
”彼女は困ったように薄く笑い、首を小さく振った。整髪料かシャンプーか、柔らかい花の匂いが散った。”
”「兄さんはおかしくなっていません。おかしいのは私……私たちの方なんです。ここでは」”
”ぼくが見せた恐らく初めての怒声に彼女は全く怯まなかった。それはまるで物語の登場人物のようだ。どんな危機にも苦難にも堂々と立ち向かう主役ヒロインのような。「助ける? ありがとう。もう十分助けてもらった。これ以上は……」「あなたはグロワス13世ではありません。——あなたは私の兄さん」”
”彼女の声は凛として、一語一語が輝いていた。 にもかかわらず、内容は陳腐だ。 当たり前のことを言っただけ。それだけに過ぎない。 だから、ぼくは彼女の言葉に感動したりはしなかった。背筋を伸ばし、昂然とぼくを見つめる姿に気圧されたわけでもない。”
” ぼくは感じたんだ。震えを。 ぼくのじゃない。 手錠を通して伝わる、彼女の。”
※『暗君』61話「正教新暦1716年2月15日」
”ブラウネは微かな震えを覚える。それはもはや見慣れてしまった夫の振動ではありえない。自分が震えていたのだ。”を想起させる。
”「それは……当たり前のことだよ。茉莉」「ええ」「でも、それを嬉しく思ってしまうほど、もうおれはおかしくなってる」”
”彼女は困ったように薄く笑い、首を小さく振った。整髪料かシャンプーか、柔らかい花の匂いが散った。”
”「兄さんはおかしくなっていません。おかしいのは私……私たちの方なんです。ここでは」”
茉莉さんのちょっとアレな襲撃事件(31)
「この良き日の終わりには1、2」を参照。
”ご想像通り、この流れは茉莉さんのちょっとアレな襲撃事件に着想を得ている。 さすがに手錠は出さなかったよ。「ノベルライターになろう」の規約に抵触してBANされたら嫌だからね。”
”ご想像通り、この流れは茉莉さんのちょっとアレな襲撃事件に着想を得ている。 さすがに手錠は出さなかったよ。「ノベルライターになろう」の規約に抵触してBANされたら嫌だからね。”
茉莉に生じた異変(23)
中学二年、14歳のある朝、茉莉の意識がメアリの意識と混濁。不思議と違和感を感じないまま朝の支度をし、食卓につき、納豆の匂いで嘔吐。母親は珍しくない体調不良と判断し、学校を休ませた。食事も満足に取れず、他者との会話におびえる状態から半年をかけて復帰。受験対策のため母が連れてきた遠縁の大学生に出会う。メアリからは年下、茉莉からは年上という相手に強く警戒した彼女だが、彼の一言で感情は一変。メアリとしては愛を、茉莉としては興味を感じた。彼と過ごせることを楽しむとともに、彼の有能さを示すために学業に励んだ茉莉は無事都内トップクラスの女子高に入学。家庭教師は1年延長されたが、ぼくが社会人となったため終了。茉莉は家庭教師の最後の一年で、ぼくの出版と挫折を間近に見る。大学生になっても「親戚のお兄さんの様子を見に行ってあげる」という口実で月に一度か二度ぼくのアパートを
”茉莉メアリは、食卓に並んだ納豆の小鉢を見る。匂いを感じる。そして吐いた。”
”特段珍しいことではない。彼女が体験したような極端なものではないが、人は常に同様の「変化」を繰り返す。10年前の自分と10年後の自分が同一の存在であるなどということはありえないのだ。身体的にも、精神的にも。 ゆえに彼女の変化はありふれたものであった。”
”「ところで下川さん、さっきご両親からちょっと聞いたけど、はまってる趣味があるんだよね?」”
”『ところでメアリ殿、昨夜ガイユールの夜会で少し小耳に挟んだのだが、メアリ殿はとても素晴らしいご趣味をお持ちだとか?』”
※『暗君』9話「無能な王としんどい会議」と対応。
”メアリと茉莉は別たれながら同一の存在である。ゆえにメアリの心に灯ったものは茉莉の心に灯ったものと同一である。 メアリは万感の愛を点した。それは恋ではない。その段階は過ぎ去ったものだからだ。 一方で、茉莉の心に花開いたものは興味であった。それは恋ではない。その段階の前にあるものだからだ。”
”メアリでありながら茉莉であるところの少女は愛でありながら興味であるところの感情を得た。明白な矛盾であるが、それがつまり慣れるということであった。”
”メアリにとってはより深く、その状況はある感情と直結していた。死後のグロワス王夫が受けた嘲罵を彼女が忘れることは決してない。その時感じた限りない憎悪と憤怒をも。”
”茉莉メアリは、食卓に並んだ納豆の小鉢を見る。匂いを感じる。そして吐いた。”
”特段珍しいことではない。彼女が体験したような極端なものではないが、人は常に同様の「変化」を繰り返す。10年前の自分と10年後の自分が同一の存在であるなどということはありえないのだ。身体的にも、精神的にも。 ゆえに彼女の変化はありふれたものであった。”
”「ところで下川さん、さっきご両親からちょっと聞いたけど、はまってる趣味があるんだよね?」”
”『ところでメアリ殿、昨夜ガイユールの夜会で少し小耳に挟んだのだが、メアリ殿はとても素晴らしいご趣味をお持ちだとか?』”
※『暗君』9話「無能な王としんどい会議」と対応。
”メアリと茉莉は別たれながら同一の存在である。ゆえにメアリの心に灯ったものは茉莉の心に灯ったものと同一である。 メアリは万感の愛を点した。それは恋ではない。その段階は過ぎ去ったものだからだ。 一方で、茉莉の心に花開いたものは興味であった。それは恋ではない。その段階の前にあるものだからだ。”
”メアリでありながら茉莉であるところの少女は愛でありながら興味であるところの感情を得た。明白な矛盾であるが、それがつまり慣れるということであった。”
”メアリにとってはより深く、その状況はある感情と直結していた。死後のグロワス王夫が受けた嘲罵を彼女が忘れることは決してない。その時感じた限りない憎悪と憤怒をも。”
茉莉の入社希望(24)
「あの人達」事件直後にぼくが人事部長ほか関係各所にメールで連絡済み。
”うちに来ると言っていたけど、諸々のことは来週話そうと昨晩答えたはずだ。 昨日のうちに『返信不要』と前置きした上で人事部長とか関係各者にメールをしておいたので、月曜には彼らからコンタクトを取るはず。”
”うちに来ると言っていたけど、諸々のことは来週話そうと昨晩答えたはずだ。 昨日のうちに『返信不要』と前置きした上で人事部長とか関係各者にメールをしておいたので、月曜には彼らからコンタクトを取るはず。”
茉莉の母(23)
ぼくの母親の友人。茉莉の家庭教師として大学生のぼくをひきあわせた。当時中学生の娘に手を出そうとしなかった点から、ぼくのことを「まともな大人の男性」として評価。将来的に二人が付き合っても問題ないと判断する。
”当然のことながら、母親は娘の男に対するささやかな興味に気づいていた。場合によってはこの先恋仲に発展する可能性も。そうなったところで特に問題は無い。経歴や能力の点から見て男の将来は有望に思われたし、男の母親とも友人同士の付き合いをしている。娘が嫁姑問題で苦しむこともないだろう。 だが、それは今ではない。 未成年、それも中学生の娘に手を出すとなると話は別だ。 だが、男にその気がないのは明白であった。母親とはつまるところ”経験を積んだ娘”である。いかに娘と男が隠そうとしたところで、そのような関係性が二人の間に存在した場合感づくのは難しいことではない。 ゆえに男はその点においても株を上げた。当人のあずかり知らぬところで。「まともな大人の男性である」と。”
”当然のことながら、母親は娘の男に対するささやかな興味に気づいていた。場合によってはこの先恋仲に発展する可能性も。そうなったところで特に問題は無い。経歴や能力の点から見て男の将来は有望に思われたし、男の母親とも友人同士の付き合いをしている。娘が嫁姑問題で苦しむこともないだろう。 だが、それは今ではない。 未成年、それも中学生の娘に手を出すとなると話は別だ。 だが、男にその気がないのは明白であった。母親とはつまるところ”経験を積んだ娘”である。いかに娘と男が隠そうとしたところで、そのような関係性が二人の間に存在した場合感づくのは難しいことではない。 ゆえに男はその点においても株を上げた。当人のあずかり知らぬところで。「まともな大人の男性である」と。”
下川のおばさん(10)
茉莉の母。ぼくの親戚。大学生のぼくに娘の家庭教師をするよう、ぼくの母に依頼した。
切腹の準備(37)
茉莉から『地に落ちて死なば』推しのメッセージが来たことで、著者がぼくでありモデルが彼女たちであることを知られた恐れがあると感じたぼくはネット通販で切腹用の脇差を検索する。
”ぼくが著者であることを茉莉さんが分かってるのかどうか、正直本当に半々だな。
分かっている場合でもこういう婉曲な会話になることもあるだろう。特に彼女は「物語を書くこと」がぼくにとってどれほどに深刻な意味を持つかを理解しているから。”
” 一方で分かってない可能性も十分にある。そう信じたい。 うん。分かってないと思う! 考察終了!”
” でも念のために準備だけはしておかなければいけないね。 ぼくはウェブブラウザを立ち上げ、検索窓にキーワードをたたき込む。「脇差し 切れ味 いい 店 東京」”
”ぼくが著者であることを茉莉さんが分かってるのかどうか、正直本当に半々だな。
分かっている場合でもこういう婉曲な会話になることもあるだろう。特に彼女は「物語を書くこと」がぼくにとってどれほどに深刻な意味を持つかを理解しているから。”
” 一方で分かってない可能性も十分にある。そう信じたい。 うん。分かってないと思う! 考察終了!”
” でも念のために準備だけはしておかなければいけないね。 ぼくはウェブブラウザを立ち上げ、検索窓にキーワードをたたき込む。「脇差し 切れ味 いい 店 東京」”
本番は夜(25)
思わせぶりな茉莉の台詞。夜にイベントがあるのか、夜は社長が危ないという意味か。
”わけが分からないけど、もうそれでいいよ。茉莉はどうする? 会社は?」「休みの連絡は入れてあります。今回はちゃんと」「じゃあ、帰ってしっかり寝るといい」「はい。夕方までは寝ます。夜は用事があるので」
「そうか。忙しいな。——寝過ごさないようにね」「ええ。もちろん。——夜の方が本番ですから」”
” そして……本番? 昨日の晩あれだけのことをやっておいて、それが前座なの? 今夜何があるの? え?”
”わけが分からないけど、もうそれでいいよ。茉莉はどうする? 会社は?」「休みの連絡は入れてあります。今回はちゃんと」「じゃあ、帰ってしっかり寝るといい」「はい。夕方までは寝ます。夜は用事があるので」
「そうか。忙しいな。——寝過ごさないようにね」「ええ。もちろん。——夜の方が本番ですから」”
” そして……本番? 昨日の晩あれだけのことをやっておいて、それが前座なの? 今夜何があるの? え?”
近所のお洒落カフェ(5)
ぼくの行きつけ?のカフェ。土曜夕方に遊びに来た茉莉を連れていこうとぼくが考えた。夜は飲み屋営業をしていて(6)、安くて美味しいシャンパンがある。ぼくがシャンパンをガンガン流し込みながら茉莉をケーキ食事会に誘った(6)。
”「是非会ってみたい」(6)””「この間お話を聞いてから、わたしも一度お会いしてみたかったんです。——その方と」(6)”
”「是非会ってみたい」(6)””「この間お話を聞いてから、わたしも一度お会いしてみたかったんです。——その方と」(6)”
人物/アナリース・アナリゼ
| 項目 | 話数 |
|---|---|
| アナリゼの墓碑銘(16) | 16 |
| アナリゼの葬儀(16) | 16 |
| アナリゼ・エン・ルロワ(10) | 10 |
| アナリースによるグロワス13世評価(43) | 43 |
| アナリースのレスパンに対する思い(43) | 43 |
| アナリース・ヴォー・エストビルグ(16) | 16 |
| ゾフィのアナリゼ訪問(27) | 27 |
| 「こちらへいらしてくださいませ。」(8) | 8 |
| 「では、慣れてくださいませ」(8) | 8 |
| さる高貴な物売りの方(16) | 16 |
| とびきりのホラー(18) | 18 |
| ネコ科の動物(41) | 41 |
| 平穏な状態の崩壊(21) | 21 |
| 片割れ(9) | 9 |
| 狩り(43) | 43 |
| 答え合わせ(31) | 31 |
アナリゼの墓碑銘(16)
”また、自身の身体を収める棺桶の発注書も残されている。彼女の署名は簡潔である。「アナリゼ・ルロワ」”
アナリゼの葬儀(16)
ヴェノン郊外の斎場で執り行われた。宮廷から白眼視されている女性のものとしては諸外国からの参列者の顔ぶれが異様に豪華。遺灰をめぐってはサンテネリと連邦共和国が争った結果、両者が分け合うこととなったが、当事者であるエストビルグはそれに異を唱えなかった。
”当年王制に復帰したサンテネリ王国からは国王ロベル3世の名代として枢密院首相ブルノー・ボスカルと枢密院軍務卿メアリ・アンヌ・ルロワが多数の随員と共に参列した。女の古い友人であるガイユール女公は名代を立てず当人が参加した。プロザンは王フライシュ4世の名代として王妃マルグーリトを送った。
そして連邦共和国からは、中央大陸各国歴訪中であり女の死の数週間前には面談もなした枢密院主催者グレイスを筆頭に、在エストビルグのしかるべき人物のほとんどが参列している。
女の祖国エストビルグが寄越したのは皇帝の名代たる小身の男爵とヴェノン市の行政管理官数名である。”
”最終的に女の残骸は分有されることになる。一部はサンテネリに。一部は連邦共和国に。”
”当年王制に復帰したサンテネリ王国からは国王ロベル3世の名代として枢密院首相ブルノー・ボスカルと枢密院軍務卿メアリ・アンヌ・ルロワが多数の随員と共に参列した。女の古い友人であるガイユール女公は名代を立てず当人が参加した。プロザンは王フライシュ4世の名代として王妃マルグーリトを送った。
そして連邦共和国からは、中央大陸各国歴訪中であり女の死の数週間前には面談もなした枢密院主催者グレイスを筆頭に、在エストビルグのしかるべき人物のほとんどが参列している。
女の祖国エストビルグが寄越したのは皇帝の名代たる小身の男爵とヴェノン市の行政管理官数名である。”
”最終的に女の残骸は分有されることになる。一部はサンテネリに。一部は連邦共和国に。”
アナリゼ・エン・ルロワ(10)
青佳が予想するアナリースの正体。ブラウネが共に盛り立てたグロワス13世の妻であり正妃。
”「正教の威光のもと諸王を束ねる権威を与えられた人界の君主が領する地」の第1皇女にして「正教の守護者たる地上唯一の王国」国王グロワス13世正妃”
” アナリース・エストブールというフランス人女性の行動は明らかに常軌を逸していた。つまりそういうことなのだろう。”
”「正教の威光のもと諸王を束ねる権威を与えられた人界の君主が領する地」の第1皇女にして「正教の守護者たる地上唯一の王国」国王グロワス13世正妃”
” アナリース・エストブールというフランス人女性の行動は明らかに常軌を逸していた。つまりそういうことなのだろう。”
アナリースによるグロワス13世評価(43)
真に偉大な男。凡庸でありながら偉大であるような類いの。派手な技巧はなく、ただ淡々と時間を刻む手巻きの三針時計のように。
”現代の地球においても頻繁に起こる、何一つ目新しいところのない平凡な悲劇が展開されていく。”
” アントワン3世はいつものように皮肉めいた自嘲を連ねながら、内心決まってこう呟く。「まぁ、なんとかうまくやっていくしかない。ぼくの責任において。その道を選んだんだからね」”
” よって物語は単調だ。”
”だが、単調さは不変を意味しない。かすかな変化は常に存在する。彼はその微細な動き——彼に許された自由——をその意思において操作する。例のごとくぼやきながら。”
” こうしてアナリースは彼を知った。 彼が何者であるかを。”
” 全くもって指導者には向かない男だ。 臆病で神経質、かつ他者を気にしすぎる。”
” アントワン3世は、強いられてなお「物語」を受け入れなかった。 受け入れてしまえば楽になる。”
”だが、彼は拒否する。 彼は耐える。”
” つまり彼は真に偉大な男だ。凡庸でありながら偉大であるような類いの。”
” 彼は手巻きの3針時計なのだ。
派手な技巧はない。ただ時間を表すのみ。退屈な時間を、淡々と。
それがどれほどに素晴らしいことであるか、時計師である彼女はよく理解していた。”
アナリースのレスパンに対する思い(43)
王の思想と心の一端を理解していたであろう男であり、彼女と息子に亡命を強い、結果息子の死を導いた男であるが、サンテネリに生きた当時から「世界はかく在るように在る」のであり、それは全て定められた「物語」の一部であるとして、アナリースはレスパンを特段敵視はしていなかった。
”彼女はサンテネリ共和国のことも国民会行政委員長のことも恨みはしなかった。かく在るように在っただけのことなのだから。”
アナリース・ヴォー・エストビルグ(16)
中央大陸の約半分を支配する国家、エストビルグの第一皇女として生を受け、若くして、大陸のもう半分を支配する国家サンテネリの王に正統な王妃として嫁いだ女性。王との間に生まれた男児は王太子となり、王の死後即位。しかしその後、暴動に起因する一連の騒動により、息子と共に第二の祖国を追われて母国に戻る。息子が出奔したのちは首都ヴェノンのアパルトマンに暮らし、趣味の時計作りに没頭。夫の死の10年後、そして息子の死の3年後、寂しく世を去った。
”アナリース・ヴォー・エストビルグは誠に幸せな女であった。”
”アナリース・ヴォー・エストビルグは誠に幸せな女であった。”
ゾフィのアナリゼ訪問(27)
息子グロワス14世を失って市井にて生活に窮乏する親友をガイユール領に呼び寄せようとゾフィはエストビルグを訪問するが、アナリゼはこれを拒否。自身の寿命を予見していたのか、あるいはエストビルグへの、そしてサンテネリへの意趣返しであったのか。
”彼女はかつて、友の困窮を聞きつけ単身ヴェノンを訪ねたことさえある。当然のことながら弟たるガイユール公は姉の長旅を渋った”
”彼女をゾフィ姉様エネ・ゾフィと慕うとある共和国議員は自身のささやかな伝手を辿ってささやかな護衛を用意した。平服に衣替えをしたサンテネリ共和国国家親衛軍最精鋭の一団を。”
”アナリゼのささやかな住まいを訪問したゾフィは、ともにガイユール公領に来るよう友を誘った。そして断られた。”
”アナリゼはヴェノンにあることを選んだ。自身の死を予感したか、あるいは、彼女の人生からはおよそ縁遠い行為——意趣返し——のためかもしれない。”
”ゾフィはアナリゼの質素な住まいで、数日をともに過ごした。 時にはそこで連邦共和国の要人と非公式な面会をすることもあった。ガイユール地方には良港が多い。連邦共和国東岸とガイユールに直接航路を開くことが出来れば双方の利となる。”
”ヴェノンにおいて、ゾフィは友の元に滞在する以外、何もしなかった。”
”面会を求めてやってくる帝国貴族達に対して、彼女はまことに彼女らしい返事を以てそれを謝絶した。「身分違いゆえ、恐れ多く」”
”友を粗略に扱うエストビルグに対して、ゾフィは極めて明白な態度を示した。”
”やがて彼女は帰途についた。 そして二人が再び出会うことはなかった。”
”彼女をゾフィ姉様エネ・ゾフィと慕うとある共和国議員は自身のささやかな伝手を辿ってささやかな護衛を用意した。平服に衣替えをしたサンテネリ共和国国家親衛軍最精鋭の一団を。”
”アナリゼのささやかな住まいを訪問したゾフィは、ともにガイユール公領に来るよう友を誘った。そして断られた。”
”アナリゼはヴェノンにあることを選んだ。自身の死を予感したか、あるいは、彼女の人生からはおよそ縁遠い行為——意趣返し——のためかもしれない。”
”ゾフィはアナリゼの質素な住まいで、数日をともに過ごした。 時にはそこで連邦共和国の要人と非公式な面会をすることもあった。ガイユール地方には良港が多い。連邦共和国東岸とガイユールに直接航路を開くことが出来れば双方の利となる。”
”ヴェノンにおいて、ゾフィは友の元に滞在する以外、何もしなかった。”
”面会を求めてやってくる帝国貴族達に対して、彼女はまことに彼女らしい返事を以てそれを謝絶した。「身分違いゆえ、恐れ多く」”
”友を粗略に扱うエストビルグに対して、ゾフィは極めて明白な態度を示した。”
”やがて彼女は帰途についた。 そして二人が再び出会うことはなかった。”
「こちらへいらしてくださいませ。」(8)
エストブールイベントでアナリースが発した台詞。暗君26話「王と正妃と波紋」でアナリゼの発した”「フロイスブル侯爵令嬢殿、バロワ伯爵令嬢殿、こちらへいらっしゃいな」”という言葉を女官長フロイスブル伯爵夫人フェリシアが”「アナリゼ様、このような場合、”こちらへいらしてくださいませ”と仰った方がよろしゅうございますわ」”と直したことが思い出される。経験が生きたな。
”「三沢さん、下川さんも、こちらへいらしてくださいませ。一緒にお話いたしましょう?」”(8)
”「三沢さん、下川さんも、こちらへいらしてくださいませ。一緒にお話いたしましょう?」”(8)
「では、慣れてくださいませ」(8)
なぜかいきなりシークレットモデルを見せ、ぼくの手を掴んだアナリースの発した台詞。暗君25話「王と正妃」ではぼくに手を握られたアナリゼは鳥肌を立てていたこととの対か。
”儀礼的に手を握ったら奥さんが鳥肌を立ててる。” ”「済まないことをした。アナリゼ殿も色々思うところがあるだろうが、少しずつ慣れてもらえればうれしい」”(暗君25)
”「知り合った方と手を握るのは、フランスでは普通のことですから」(8)”
”儀礼的に手を握ったら奥さんが鳥肌を立ててる。” ”「済まないことをした。アナリゼ殿も色々思うところがあるだろうが、少しずつ慣れてもらえればうれしい」”(暗君25)
”「知り合った方と手を握るのは、フランスでは普通のことですから」(8)”
さる高貴な物売りの方(16)
エストビルグ貴族たちによるアナリースの蔑称。彼女の息子グロワス14世がエストビルグによるサンテネリ侵略の正統性を認める「王位復帰宣言」に署名せず、新大陸に出奔したため、アナリースの立場は悪化。生活に困窮した彼女が自作の時計を連邦共和国からの客人に贈り、その返礼で生計を立てていたことをあざけって呼んだ。そのことを耳にした連邦共和国の紳士たちは、”「”偉大であること”を理解しえぬ哀れな者達の存在こそが、国家を朽ち果てさせる。我らがこの堕落の都において学ぶべきはその一点のみである」”と手記に示している。
とびきりのホラー(18)
アナリースからの好意について、毛布にくるまって震えるぼくがおびえて表現。「おそらく日本市場の案内を求められているのだろう」と解釈してやっと安眠した。若干強引だが「不条理系ホラーよりまし」。なおアナリースがくれた時計は4桁くらいするらしい。
”「その時、突如理由のない暴力が主人公を襲う」みたいなフレーズはちょっと面白いよね。じゃあこう言い換えたらどうだろう。「その時、突如理由のない暴力(的なまでの好意)が主人公を襲う」 コメディとしては面白い。 で、実体はとびきりのホラーだ。”
”ある善良な中年男性がうら若い美貌の才媛から好意を受けてる。あー、もっと正確に言うと、4桁くらいする貴重な時計をただで貰った。にもかかわらず相手が欲している見返りが見えない。想像が付かない。”
”「その時、突如理由のない暴力が主人公を襲う」みたいなフレーズはちょっと面白いよね。じゃあこう言い換えたらどうだろう。「その時、突如理由のない暴力(的なまでの好意)が主人公を襲う」 コメディとしては面白い。 で、実体はとびきりのホラーだ。”
”ある善良な中年男性がうら若い美貌の才媛から好意を受けてる。あー、もっと正確に言うと、4桁くらいする貴重な時計をただで貰った。にもかかわらず相手が欲している見返りが見えない。想像が付かない。”
ネコ科の動物(41)
突然手をつないできたアナリースをぼくが評して言った。
”前からそうだったけど、アナリースさんはね、予備動作がない。突然来る。やっぱりあれかな。ネコ科の習性なんだろうか。”
”前からそうだったけど、アナリースさんはね、予備動作がない。突然来る。やっぱりあれかな。ネコ科の習性なんだろうか。”
平穏な状態の崩壊(21)
失われるアタラクシア。『アナリース』の試作一号機「小プティグロワス」をつけているぼくに、どこの時計か尋ねる由理の一言がきっかけで乱れる。
”「先輩、今日の時計いいですよね。どこのですか?」”
”「だって先輩が付けてるやつはいつもこう……ごちゃごちゃしてるから。でも今日のはさっぱりしていてカッコいいじゃないですか」”
”自分はあるブティックで時計を買ったら、次に店を訪れるときには買った当の時計をしていくように心がけている。店員さんも自分が売った時計が愛用されている姿を見たら喜んでくれるだろうから。”
”「きみも分かってきたな! いいね。素晴らしい。これは何を隠そう、きみのお隣に座る独立時計師アナリース・エストブール氏のハンドメイドだよ。まだ売ってない、非売品だね」”
”「前にきみは言ってただろう? 女性には人気出ないって。それがそうでもない。実はここにいるアナリースさんも青佳さんも茉莉も、皆ファンなんだよ。ああ、島津さんも好きかな? 最近流行っている……」知子さん、朗らかな笑顔で元気よく「はい! 知ってます」と答えてくれた。”
”うれしいね。 友人の成功を我がことのように誇れるのは。たとえ血を飲み下しても。たとえ唇をかみ切っても、ぼくは誇ることができる。”
”「先輩、今日の時計いいですよね。どこのですか?」”
”「だって先輩が付けてるやつはいつもこう……ごちゃごちゃしてるから。でも今日のはさっぱりしていてカッコいいじゃないですか」”
”自分はあるブティックで時計を買ったら、次に店を訪れるときには買った当の時計をしていくように心がけている。店員さんも自分が売った時計が愛用されている姿を見たら喜んでくれるだろうから。”
”「きみも分かってきたな! いいね。素晴らしい。これは何を隠そう、きみのお隣に座る独立時計師アナリース・エストブール氏のハンドメイドだよ。まだ売ってない、非売品だね」”
”「前にきみは言ってただろう? 女性には人気出ないって。それがそうでもない。実はここにいるアナリースさんも青佳さんも茉莉も、皆ファンなんだよ。ああ、島津さんも好きかな? 最近流行っている……」知子さん、朗らかな笑顔で元気よく「はい! 知ってます」と答えてくれた。”
”うれしいね。 友人の成功を我がことのように誇れるのは。たとえ血を飲み下しても。たとえ唇をかみ切っても、ぼくは誇ることができる。”
片割れ(9)
古代哲学者アリストファネスの言。プラトンに関する哲学書の一節。なぜ日本に来たかについて問われたアナリースが根拠として答えた言葉。ぼくは信じなかった。
”プラトンっていう哲学者の『饗宴』って本に出てくる有名な一節だね。昔人類は男と女が一体になった存在だったんだけど、神様がそれを切り分けてしまったたものだから「半分」の存在である男と女は自分の「片割れ」を探し続ける、っていう。で、見つけると「完全体」になれる。 アナリースさんが言うと超知的でお洒落な会話に見えるけど、分かりやすく言えば「運命の人を探しに」ってところ。”(9)
” で、実際のところは最近流行りのアニメ、ゲーム系趣味が高じてのパターンなのかな。 それはそれで本当に素晴らしいよね。ソフトパワーは侮れない。パクス・ロマーナもパクス・ブリタニカもパクス・アメリカーナも、すべてソフトパワーに支えられてきたんだから。”(9)
”プラトンっていう哲学者の『饗宴』って本に出てくる有名な一節だね。昔人類は男と女が一体になった存在だったんだけど、神様がそれを切り分けてしまったたものだから「半分」の存在である男と女は自分の「片割れ」を探し続ける、っていう。で、見つけると「完全体」になれる。 アナリースさんが言うと超知的でお洒落な会話に見えるけど、分かりやすく言えば「運命の人を探しに」ってところ。”(9)
” で、実際のところは最近流行りのアニメ、ゲーム系趣味が高じてのパターンなのかな。 それはそれで本当に素晴らしいよね。ソフトパワーは侮れない。パクス・ロマーナもパクス・ブリタニカもパクス・アメリカーナも、すべてソフトパワーに支えられてきたんだから。”(9)
狩り(43)
アナリースの意外な趣味。ぼくを追い詰めて行く姿勢。実はサンテネリのアナリゼ時代にもその萌芽はあったことが明らかに。
”アナリースははっきりと、楽しげに問うた。狩りは楽しい。”
”女の幸福に満ちた人生において、真に「幸福」であったひとときの追憶がアナリースの胸中を満たしていた。”
”『頻度は比較的高いとブラウネ姉様エネ・ブラウネに聞きました』
まれに嘘をつくこともある、とごまかした夫グロワス13世を王妃アナリゼはこう言って追撃した。”
”東京においても2人は相変わらずだ。”
答え合わせ(31)
突然フランス語に変わったアナリース。「答え合わせをしましょう」。これは高性能でなくても反応する。
”アナリースさんはいきなりフランス語でぼくに語りかける。 軽やかに、しかし明瞭に。誤解無く。 それは官能的ですらある。控え目な笑みには挑発的な色合いさえ見える。”
”『では、これから時間をかけて、本当のあなたを教えてください。私に教えて? ——そして答え合わせをしましょう』”
” ぼくが高性能な危険センサーを持っていることはご存じのことと思う。 今、猛烈に点滅してる。”
”アナリースさんはいきなりフランス語でぼくに語りかける。 軽やかに、しかし明瞭に。誤解無く。 それは官能的ですらある。控え目な笑みには挑発的な色合いさえ見える。”
”『では、これから時間をかけて、本当のあなたを教えてください。私に教えて? ——そして答え合わせをしましょう』”
” ぼくが高性能な危険センサーを持っていることはご存じのことと思う。 今、猛烈に点滅してる。”
人物/知子・ゾフィ
| 項目 | 話数 |
|---|---|
| 「知子はよくて私は駄目ですか(^^)」(41) | 41 |
| ぼくへの知子/ゾフィの印象と対策(29) | 29 |
| ぼく(知子による評価)(39) | 39 |
| ゾフィ(27) | 27 |
| ゾフィ(27) | 27 |
| ゾフィ・エン・ルロワ(17) | 17 |
| レストランでの知子の謝罪と接近(29) | 29 |
| 大学での知子の専攻(29) | 29 |
| 島津知子(16) | 16 |
| 島津知子(29) | 29 |
| 知子(9) | 9 |
| 知子が謝罪したレストラン(29) | 29 |
| 知子とのドライブ(37) | 37 |
| 知子と入ったブティック(30) | 30 |
| 知子の変化(29) | 29 |
| 知子の方針転換(29) | 29 |
| 知子の暴言(22) | 22 |
| 知子の父に調べられた場合の予想(30) | 30 |
| 知子への認識の変化(30) | 30 |
| 知子先生の美術史講義(39) | 39 |
| あなた(17) | 17 |
| 地獄(30) | 30 |
| 確認の必要性(17) | 17 |
| 自撮り(40) | 40 |
「知子はよくて私は駄目ですか(^^)」(41)
アナリースからのメールの文面。日本の絵文字文化に疎いためかちょっとニュアンスの異なる「にっこり」マークを付けている(とぼくは判断した)。
ぼくへの知子/ゾフィの印象と対策(29)
ゾフィの意識は夫への愛を深め、ぼくに惹かれる知子の意識はぼくに子ども扱いされることに我慢できない。よって知子は初手で謝ることにした。
”ゾフィの意識は男の行動に最愛の夫の心根、その面影を感じる。”
”翻って知子にとって、男の存在ははっきりと「大人の男性」として認識された。”
”彼からすれば、あの夜の知子の振る舞いは小娘の移り気と癇癪と映ったかもしれない。”
”彼女がどのような態度を取ろうが、彼は彼女を許すだろう。内心どうあれ、子どものしたことに目くじらを立てる素振りは見せないだろう。 内心どうあれ。”
”これほどに辛く感じられる状況はない。 知子は男を初対面から比較的好ましく思っていた。”
”彼に「子ども」と見なされ、あしらわれるなど耐えがたい。対等の「相手」と見なされぬなどとは。”
”ちゃんと見てもらうためにはどうするべきか。彼女は考えた。 まずは自分が彼をしっかりと知ること。そして、自分を彼に知ってもらうこと。”
”最初に知ってもらいたいことは何か。 それは彼女が抱いた悔悟と申し訳なさである。”
”ゆえに「OB訪問」の口実はきっぱりと捨てた。 それこそがまさに「子ども」の振る舞いであると感じたからだ。”
”面会を断られる可能性は十分にある。だが、彼が彼女の謝罪をもし受け入れるのであれば、そこから先は大人の女と男である。 いずれにしても筋を通さなければならない。自身の誇りにかけても。”
”知子とゾフィの心情は明確に合一していた。彼との会話は楽しいのだ。”
”ゾフィの意識は男の行動に最愛の夫の心根、その面影を感じる。”
”翻って知子にとって、男の存在ははっきりと「大人の男性」として認識された。”
”彼からすれば、あの夜の知子の振る舞いは小娘の移り気と癇癪と映ったかもしれない。”
”彼女がどのような態度を取ろうが、彼は彼女を許すだろう。内心どうあれ、子どものしたことに目くじらを立てる素振りは見せないだろう。 内心どうあれ。”
”これほどに辛く感じられる状況はない。 知子は男を初対面から比較的好ましく思っていた。”
”彼に「子ども」と見なされ、あしらわれるなど耐えがたい。対等の「相手」と見なされぬなどとは。”
”ちゃんと見てもらうためにはどうするべきか。彼女は考えた。 まずは自分が彼をしっかりと知ること。そして、自分を彼に知ってもらうこと。”
”最初に知ってもらいたいことは何か。 それは彼女が抱いた悔悟と申し訳なさである。”
”ゆえに「OB訪問」の口実はきっぱりと捨てた。 それこそがまさに「子ども」の振る舞いであると感じたからだ。”
”面会を断られる可能性は十分にある。だが、彼が彼女の謝罪をもし受け入れるのであれば、そこから先は大人の女と男である。 いずれにしても筋を通さなければならない。自身の誇りにかけても。”
”知子とゾフィの心情は明確に合一していた。彼との会話は楽しいのだ。”
ぼく(知子による評価)(39)
34歳。
”彼は穏やかな男だ。 自身よりも一回り大きい身長に、若干痩せた四肢。少しルーズフィットのベージュセットアップ。焦げ茶のローファー。 前髪を上げたバーバースタイル。綺麗にそり上げられた髭。 切れ長の瞳。しかし目元の隈は隠しようもない。 大きな手。長い指。 歳相応の皺がある。”
”彼は34歳。自身とは一回り以上歳が離れている。さすがに親子とまではいかないものの、世代の違いは誤魔化しようもない。彼が子どもの頃に見たテレビ番組も、流行っていた漫画も、彼女は知らない。逆もまた然り。”
”彼は穏やかな男だ。 自身よりも一回り大きい身長に、若干痩せた四肢。少しルーズフィットのベージュセットアップ。焦げ茶のローファー。 前髪を上げたバーバースタイル。綺麗にそり上げられた髭。 切れ長の瞳。しかし目元の隈は隠しようもない。 大きな手。長い指。 歳相応の皺がある。”
”彼は34歳。自身とは一回り以上歳が離れている。さすがに親子とまではいかないものの、世代の違いは誤魔化しようもない。彼が子どもの頃に見たテレビ番組も、流行っていた漫画も、彼女は知らない。逆もまた然り。”
ゾフィ(27)
弟とともに公領を切り盛りした女、サンテネリ王妃にしてガイユール女公。
ゾフィ(27)
サンテネリを去った親友アナリゼの境遇を長く懸念していたが、呼び寄せることは叶わなかった。祖国戦争終結を機にエストビルグを訪れ、ガイユール領へ転居を提案するが断られる。数日の滞在の後ガイユールへ帰還。アナリゼはまもなく世を去ったものと考えられる。
”共和国となったサンテネリにおいて、建前上ゾフィは単なる「ゾフィ・ガイユール・ルロワ」である。だが実際のところ彼女はプロザン王妃の母であり、共和国の守護女神の姉であった。”
”共和国となったサンテネリにおいて、建前上ゾフィは単なる「ゾフィ・ガイユール・ルロワ」である。だが実際のところ彼女はプロザン王妃の母であり、共和国の守護女神の姉であった。”
ゾフィ・エン・ルロワ(17)
ガイユール大公女。サンテネリ王妃。プロザン王正妃の母にしてガイユール女公。知子が高校生の頃に彼女の中に現れた。
” 数年前、まだ高校生の頃にそれは女の身体の中に滑り込んできた、不思議な記憶と不思議な感情。以来ずっとそれと上手く付き合ってきた。知子はときにそれに身体を委ね、ときにそれをいなし、ときに手を携えて生きてきた。”
”ゾフィは夫と出会うことを決して望まなかった。 今の彼女がゾフィであると同時に知子であるのと同様に、この日本において夫はグロワス13世その人ではないだろうから。 彼女は二つの未来を恐れた。男に失望する未来と男を失う未来を。”
”ゆえに彼女は動けなかった。少女の身体は千々に引き裂かれていた。”
”ゆえに彼女は座り続ける他はない。書店の通路に置かれた、立ち読みならぬ座り読み用の椅子に。”
” 数年前、まだ高校生の頃にそれは女の身体の中に滑り込んできた、不思議な記憶と不思議な感情。以来ずっとそれと上手く付き合ってきた。知子はときにそれに身体を委ね、ときにそれをいなし、ときに手を携えて生きてきた。”
”ゾフィは夫と出会うことを決して望まなかった。 今の彼女がゾフィであると同時に知子であるのと同様に、この日本において夫はグロワス13世その人ではないだろうから。 彼女は二つの未来を恐れた。男に失望する未来と男を失う未来を。”
”ゆえに彼女は動けなかった。少女の身体は千々に引き裂かれていた。”
”ゆえに彼女は座り続ける他はない。書店の通路に置かれた、立ち読みならぬ座り読み用の椅子に。”
レストランでの知子の謝罪と接近(29)
真摯な姿勢で謝罪する知子をぼくは受け入れ、それを機に知子は距離をつめた。
”「改めて謝罪の機会をいただけましたこと、心より感謝いたします。先日は誠に申し訳ありませんでした」”
”「ああ、島津さん、頭を上げてください。お心は十分頂きました」”
”「本当に、申し開きのしようもありません。私は……とても無礼でした」
「そうですね。無礼と言えば無礼だった。だが、私にというよりは、彼由理に対してのものでしょう。ああ、もちろん彼もあなたに無礼だった。私にはよく分かりませんが、何かその、お二人は互いに気に入らないところがあったのだと理解しています」”
”「はい。レスパンさんにもお会いして謝罪をしたいと思います。ですが、ご連絡先が分からなくて……」
「ああ、確かに。彼とは古くからの付き合いなので気安く感じていましたが、考えてみれば有名人だ。——彼も一方的な被害者ではないので、謝罪というよりも和解ができるといいですね。ただ、彼の仕事柄、この場で連絡先をお伝えすることは出来ません。もちろんあなたを疑ってではなく……。私の方から彼に尋ねておきます」
「はい。もちろんです。お心遣いありがとうございます」”
”「ところで、差し支えなければお聞きしたいことが一つ。——あれは、つまり何だったんですか? 私には状況がよく分からなかった」”
”「えーっと、その、マンガとか小説のファンの間には”解釈違い”っていう現象があるんです。ある場面をどう解釈するか、あるキャラをどういう性格と感じるかで、ファンの間で意見が分かれて」”
”「なるほど。何となく分かります。マイナーな小説1つとっても読者の感想は千差万別。皆色々な解釈をしますから……本当に。それが『この人を見よ』ほどの凄い作品となれば読者の多様性も桁違いでしょう」”
”「でも由理くんは作者だ。たとえばあるキャラクターについて、作り手である作者と意見が食い違った場合でもそれは起こるんですか? 彼が書いたのだからそれが正しい解釈になるとは……ああ、なるほど。……そうは言えないか」”
”「はい。テクストの独立性です! 作者と作品を切り離す。作品は自足する。そうですよね、先輩!」”
”「そうだね。こんなところで懐かしのテクスト論に出くわすとは驚いた。確かにそうだ。対象がライトノベルだったから忘れていたけど、考えてみればその通りです。作者と意見が食い違うことは禁忌ではありません。作品は自足する。——ああ、ところで島津さん、先輩は恥ずかしいな」
「駄目ですか? でも、本当に先輩ですから……」”
”「ああ、駄目ではありません。……確かにあなたは後輩だ。そういえば学部も同じでしたね」
「はい! 文学部です」
「専攻はどこですか? 美美美術美学科かな?」
「正解です! 分かりやすい感じですよね、私。——先輩は……あ、言わないでください。当てますから。たぶん哲学!……か、仏文フランス文学科!」
「ああ、ずるいな、答えを二つも。私は哲学ですね。あそこ、今も”ヤバい人たちの巣”扱いされてるのかな」”
”「えーっと……ちょっと私には分かりません。美美なので。——でも、私は先輩とお喋りしていてとても楽しいです!」”
”「それはうれしいな。——ありがとうございます。光栄です」”
”「先輩——私たち、ちょっと変ですよね」
「変?」
「普通、先輩は後輩に敬語を使いません。——そうですよね、せんぱい!」”
”「改めて謝罪の機会をいただけましたこと、心より感謝いたします。先日は誠に申し訳ありませんでした」”
”「ああ、島津さん、頭を上げてください。お心は十分頂きました」”
”「本当に、申し開きのしようもありません。私は……とても無礼でした」
「そうですね。無礼と言えば無礼だった。だが、私にというよりは、彼由理に対してのものでしょう。ああ、もちろん彼もあなたに無礼だった。私にはよく分かりませんが、何かその、お二人は互いに気に入らないところがあったのだと理解しています」”
”「はい。レスパンさんにもお会いして謝罪をしたいと思います。ですが、ご連絡先が分からなくて……」
「ああ、確かに。彼とは古くからの付き合いなので気安く感じていましたが、考えてみれば有名人だ。——彼も一方的な被害者ではないので、謝罪というよりも和解ができるといいですね。ただ、彼の仕事柄、この場で連絡先をお伝えすることは出来ません。もちろんあなたを疑ってではなく……。私の方から彼に尋ねておきます」
「はい。もちろんです。お心遣いありがとうございます」”
”「ところで、差し支えなければお聞きしたいことが一つ。——あれは、つまり何だったんですか? 私には状況がよく分からなかった」”
”「えーっと、その、マンガとか小説のファンの間には”解釈違い”っていう現象があるんです。ある場面をどう解釈するか、あるキャラをどういう性格と感じるかで、ファンの間で意見が分かれて」”
”「なるほど。何となく分かります。マイナーな小説1つとっても読者の感想は千差万別。皆色々な解釈をしますから……本当に。それが『この人を見よ』ほどの凄い作品となれば読者の多様性も桁違いでしょう」”
”「でも由理くんは作者だ。たとえばあるキャラクターについて、作り手である作者と意見が食い違った場合でもそれは起こるんですか? 彼が書いたのだからそれが正しい解釈になるとは……ああ、なるほど。……そうは言えないか」”
”「はい。テクストの独立性です! 作者と作品を切り離す。作品は自足する。そうですよね、先輩!」”
”「そうだね。こんなところで懐かしのテクスト論に出くわすとは驚いた。確かにそうだ。対象がライトノベルだったから忘れていたけど、考えてみればその通りです。作者と意見が食い違うことは禁忌ではありません。作品は自足する。——ああ、ところで島津さん、先輩は恥ずかしいな」
「駄目ですか? でも、本当に先輩ですから……」”
”「ああ、駄目ではありません。……確かにあなたは後輩だ。そういえば学部も同じでしたね」
「はい! 文学部です」
「専攻はどこですか? 美美美術美学科かな?」
「正解です! 分かりやすい感じですよね、私。——先輩は……あ、言わないでください。当てますから。たぶん哲学!……か、仏文フランス文学科!」
「ああ、ずるいな、答えを二つも。私は哲学ですね。あそこ、今も”ヤバい人たちの巣”扱いされてるのかな」”
”「えーっと……ちょっと私には分かりません。美美なので。——でも、私は先輩とお喋りしていてとても楽しいです!」”
”「それはうれしいな。——ありがとうございます。光栄です」”
”「先輩——私たち、ちょっと変ですよね」
「変?」
「普通、先輩は後輩に敬語を使いません。——そうですよね、せんぱい!」”
大学での知子の専攻(29)
文学部美術美学科。美美と呼ばれる模様。
島津知子(16)
しまづちかこ。K大学に交換留学したアナリースに声をかけた学友。日本有数の名家の娘。家として付き合いがある銀座の店も多く、4丁目交差点付近の老舗商店などは娘時代から家族で足を運んだ(17)。純粋なデザインとしての服飾を好む(17)。
”「なぜって。そうですね! お名前がとても素敵だったから。アナリース・ヴォー・エストビルグさん」”
”「……知子さん。——わたしの姓はエストブールです」”
”「はい。知っています。人の名前って面白いですね! 日本にはこんなことわざがあるんですよ? ”名は体を表す”って。私の名前、漢字では知性の「知」に子どもの「子」なんですけど、これをヨーロッパ風に直すとどうなるでしょう! アナリースさんはドイツのお生まれですよね。じゃあドイツ風に。——『ゾフィ知恵』ですね!」”
”小柄な日本人の少女を彼女はじっと眺めた。 戸惑いがあった。そして思い出が。「お友達」の。 ゆえに彼女は無言だった。 ゆえに、たった今できたばかりの「お友達」が言葉を継いだ。「私ばっかり話してしまいました……。次はアナリースさんの番です!」”
※暗君47話「妃たち3」”「私ばっかり話してしまいました…。次はアナリゼさんの番です!」”に対応。
”一緒に行こうと誘う友人の姿に知子は複雑な感情を抱いた。その男性が誰であるか、大体の想像が付いていたがゆえに。逢瀬を指折り数える友人と対称的に、彼女は男と会わなくて済む日が何日残っているか、指折り数えた。”(17)
”出会ってしまえば何かが変わるだろう。それが知子(ちかこ)という一人の女性にとって幸せなものであるか、あるいは不幸なものであるか。予測できないのはそこだ。”(17)
”「なぜって。そうですね! お名前がとても素敵だったから。アナリース・ヴォー・エストビルグさん」”
”「……知子さん。——わたしの姓はエストブールです」”
”「はい。知っています。人の名前って面白いですね! 日本にはこんなことわざがあるんですよ? ”名は体を表す”って。私の名前、漢字では知性の「知」に子どもの「子」なんですけど、これをヨーロッパ風に直すとどうなるでしょう! アナリースさんはドイツのお生まれですよね。じゃあドイツ風に。——『ゾフィ知恵』ですね!」”
”小柄な日本人の少女を彼女はじっと眺めた。 戸惑いがあった。そして思い出が。「お友達」の。 ゆえに彼女は無言だった。 ゆえに、たった今できたばかりの「お友達」が言葉を継いだ。「私ばっかり話してしまいました……。次はアナリースさんの番です!」”
※暗君47話「妃たち3」”「私ばっかり話してしまいました…。次はアナリゼさんの番です!」”に対応。
”一緒に行こうと誘う友人の姿に知子は複雑な感情を抱いた。その男性が誰であるか、大体の想像が付いていたがゆえに。逢瀬を指折り数える友人と対称的に、彼女は男と会わなくて済む日が何日残っているか、指折り数えた。”(17)
”出会ってしまえば何かが変わるだろう。それが知子(ちかこ)という一人の女性にとって幸せなものであるか、あるいは不幸なものであるか。予測できないのはそこだ。”(17)
島津知子(29)
若い硬さを秘めた輪郭、くっきりとした目鼻立ちと小柄な四肢。女と娘の中間であり可憐と華美の中間。無邪気で溌剌とした心持ちと、冷徹にして苛烈な思考。明白な二面性を備える。
”若い硬さを秘めた輪郭、くっきりとした目鼻立ちと小柄な四肢は、彼女に不思議な魅力を与えた。女と娘の中間であり可憐と華美の中間であるような、そんな存在として。ある者は彼女を可愛らしい少女と感じ、またある者は孤高の美女と見る。”
” その容姿と同様、島津知子ゾフィ・エン・ルロワの性格もまた明白な2面性を備えていた。無邪気で溌剌とした心持ちと、冷徹にして苛烈な思考を一身の内に閉じ込めている。 好意と礼節を以て接する相手に対しては心を開き友好関係を築こうと試みる一方で、悪意と無礼を秘めて対する者に向けて、彼女は痛烈な反撃を躊躇しない。断固たる行動に出る。”
” その容姿と同様、島津知子ゾフィ・エン・ルロワの性格もまた明白な2面性を備えていた。無邪気で溌剌とした心持ちと、冷徹にして苛烈な思考を一身の内に閉じ込めている。 好意と礼節を以て接する相手に対しては心を開き友好関係を築こうと試みる一方で、悪意と無礼を秘めて対する者に向けて、彼女は痛烈な反撃を躊躇しない。断固たる行動に出る。”
知子(9)
K大学の学生。交換留学でやってきたアナリースと仲が良い。
” でもアナリースさんは本気にした様子。パッと満面の笑顔を見せた。本日初の。
「はい! ルー・サントルに行くときにはチ・カ・コ・も誘いましょう」
「ああ、うん。チカコさんね。それでいいと思うよ……」”(9)
”「銀座デート、いいなぁ。いいなぁ! ねぇ、茉莉さん?」
「ええ。でも、兄さんと大学生の女子二人だと、少し誤解を生む可能性がありますね。あらぬ誤解を受ける可能性があります」
「誤解を避けるためにはどうしたらいいんでしょう。ねぇ、茉莉さん?」
「難しいですね。——たとえばですが、大人の女性がつきそうとか」”(9)
” で、アナリースさんにチラリと視線を投げてみた。
彼女もにっこり笑顔。
”友達”が増えてうれしそうだ。ぼくも紹介した甲斐があったよ。”(9)
” でもアナリースさんは本気にした様子。パッと満面の笑顔を見せた。本日初の。
「はい! ルー・サントルに行くときにはチ・カ・コ・も誘いましょう」
「ああ、うん。チカコさんね。それでいいと思うよ……」”(9)
”「銀座デート、いいなぁ。いいなぁ! ねぇ、茉莉さん?」
「ええ。でも、兄さんと大学生の女子二人だと、少し誤解を生む可能性がありますね。あらぬ誤解を受ける可能性があります」
「誤解を避けるためにはどうしたらいいんでしょう。ねぇ、茉莉さん?」
「難しいですね。——たとえばですが、大人の女性がつきそうとか」”(9)
” で、アナリースさんにチラリと視線を投げてみた。
彼女もにっこり笑顔。
”友達”が増えてうれしそうだ。ぼくも紹介した甲斐があったよ。”(9)
知子が謝罪したレストラン(29)
平日の昼、知子の大学に近い銀座に立地。
”知子は謝罪メッセージの中で男が住む地方都市まで出向くと告げたが、逆に都内を提案された。2週間後に都内に出る用があるのでその際に、と。それは事を荒立てず、些事として流そうとする彼の意志であった。”(29)
”客観的に見て、例の騒動は損害賠償が発生する類いのものではない。ちょっとした行き違いに過ぎないのだ。あくまで客観的には”(29)
”一般的な社会常識に基づき——それはつまり、学生の些細なミスを大人が許すという構図である——さりげなく、穏便に済ませる道が提案された。”(29)
”ここは彼女の通う大学からアクセスがいいし、ぼくも暇を潰せる場所をたくさん知っている。
平日の午後だけど彼女は授業が無い時間帯。ぼくはぼくでその後色々なお店を回ることができる。もちろん新しく買うことはないよ。市場調査に行くんだ。売価のね。”(30)
”知子は謝罪メッセージの中で男が住む地方都市まで出向くと告げたが、逆に都内を提案された。2週間後に都内に出る用があるのでその際に、と。それは事を荒立てず、些事として流そうとする彼の意志であった。”(29)
”客観的に見て、例の騒動は損害賠償が発生する類いのものではない。ちょっとした行き違いに過ぎないのだ。あくまで客観的には”(29)
”一般的な社会常識に基づき——それはつまり、学生の些細なミスを大人が許すという構図である——さりげなく、穏便に済ませる道が提案された。”(29)
”ここは彼女の通う大学からアクセスがいいし、ぼくも暇を潰せる場所をたくさん知っている。
平日の午後だけど彼女は授業が無い時間帯。ぼくはぼくでその後色々なお店を回ることができる。もちろん新しく買うことはないよ。市場調査に行くんだ。売価のね。”(30)
知子とのドライブ(37)
近く閉館の決まっているぼくの住む県の外れの美術館までのドライブ。新国立美術館は次回に持ち越し。ぼくの最寄り駅まで電車で来た知子をロータリーで拾って出発。道中ぼくは知子に名前呼びを命じられる。小休憩をとったコンビニでぼくはミネラルウォーターを、知子は玄米茶とソフトクリームを購入。
知子と入ったブティック(30)
まんまと青佳と同じルートに誘導されたぼく。
※作者TwitterによるとGinza6の隣のDior銀座ブティックがモデルとのこと。
https://x.com/kentaro_honjo/status/1985347993617440914
”ぼくには全く縁が無いながら、時々脇を通るといつも行列が出来てる人気のブランド。”
※作者TwitterによるとGinza6の隣のDior銀座ブティックがモデルとのこと。
https://x.com/kentaro_honjo/status/1985347993617440914
”ぼくには全く縁が無いながら、時々脇を通るといつも行列が出来てる人気のブランド。”
知子の変化(29)
ぼくにとって大学生という記号からミステリアスな存在へ。
”2週間前、初対面の知子ははっきりとした記号をまとった存在であった。 大学生の女の子。それ以上でも以下でもない。そして夕食時、記号は見慣れたものから見慣れぬものへと変化した。得体の知れぬ存在へと。”
”出会い頭のしおらしい風情から徐々に明るさを取り戻してきた知子の様子を、男は微笑を浮かべて眺め、そして最後に控えめな戸惑いをみせる。”
”調子に乗ったことを後悔した知子のしょげた様子を、しかし男は鷹揚に受け入れた。 確かに受け入れたのだ。”
”2週間前、初対面の知子ははっきりとした記号をまとった存在であった。 大学生の女の子。それ以上でも以下でもない。そして夕食時、記号は見慣れたものから見慣れぬものへと変化した。得体の知れぬ存在へと。”
”出会い頭のしおらしい風情から徐々に明るさを取り戻してきた知子の様子を、男は微笑を浮かべて眺め、そして最後に控えめな戸惑いをみせる。”
”調子に乗ったことを後悔した知子のしょげた様子を、しかし男は鷹揚に受け入れた。 確かに受け入れたのだ。”
知子の方針転換(29)
”年も立場も異なる4人の「女子会」の後、彼女は男への接し方について軌道修正を行った。
否、接し方などといったものではない。 それは自身と男との「関係」そのものについてである。”
”実家の存在を無視して個人のみを見たならば、彼女は21歳の大学生に過ぎない”
”男は半世紀以上に渡る歴史を持つ企業の代表であり、相応の経験を積んだ社会人であった。”
”男はその友人であるという二人の女性とアナリース、そして彼女を至ってまともにエスコートした。”
”にもかかわらず、知子ゾフィは男が厚意から皆に紹介した彼の友人を痛烈に罵倒した。”
”険悪極まる状態——手元のナイフが飛び交いかねないほどに——を、しかし男は穏便に収めようとした。必死に。何度も。”
”ゾフィの意識は男の行動に最愛の夫の心根、その面影を感じる。狂おしいほどに。 彼女が尊敬した夫は常に抑制的であった。 何かもめ事があれば柔和にその場を収め、のちに原因を解消しようと動く。ゆっくりと。静かに。”
”——皆さんご覧下さい! あの方こそが私の夫なんです! ”
否、接し方などといったものではない。 それは自身と男との「関係」そのものについてである。”
”実家の存在を無視して個人のみを見たならば、彼女は21歳の大学生に過ぎない”
”男は半世紀以上に渡る歴史を持つ企業の代表であり、相応の経験を積んだ社会人であった。”
”男はその友人であるという二人の女性とアナリース、そして彼女を至ってまともにエスコートした。”
”にもかかわらず、知子ゾフィは男が厚意から皆に紹介した彼の友人を痛烈に罵倒した。”
”険悪極まる状態——手元のナイフが飛び交いかねないほどに——を、しかし男は穏便に収めようとした。必死に。何度も。”
”ゾフィの意識は男の行動に最愛の夫の心根、その面影を感じる。狂おしいほどに。 彼女が尊敬した夫は常に抑制的であった。 何かもめ事があれば柔和にその場を収め、のちに原因を解消しようと動く。ゆっくりと。静かに。”
”——皆さんご覧下さい! あの方こそが私の夫なんです! ”
知子の暴言(22)
サンテネリの女ではなくなった知子、数十年にわたってため込み続けたうっぷんを由理にぶちまける。『暗君』81話、「悪について5」ではできなかったこと。
”「やっと分かりました! だからあんなに薄っぺらいんですね、あのお話!」”
”突然、懐に隠し持ったアイスピックで相手を滅多刺しにしている”
”「やっと分かりました! だからあんなに薄っぺらいんですね、あのお話!」”
”突然、懐に隠し持ったアイスピックで相手を滅多刺しにしている”
”「はい! グロワス様。とても刺激的な”お話”でした」”
”「私も難しいところがいくつもあって、ちょっと混乱してしまいました。でも、やっぱり面白い”お話”」”
『暗君』81話、「悪について5」
”「私も難しいところがいくつもあって、ちょっと混乱してしまいました。でも、やっぱり面白い”お話”」”
『暗君』81話、「悪について5」
知子の父に調べられた場合の予想(30)
田舎の中小企業の世襲社長、それほどの大ミスはしていない、素行もそれほど悪いわけではない、独身。あれ? わりと、いいんじゃないですか? 自身サゲに限界を感じたぼく、話題を知子の名誉にずらしてごまかす。
”ぼくがお父さんなら調べるね。そのおじさんが何者か。当然。 で、田舎の中小企業の社長(世襲)で、かつ無能なヤツであると判明する。もうその時点でよろしくない。 いや、もちろんどんな企業であれ、創業者であれ世襲であれ、真面目で有能でまともな社長は山ほど居る。というかそっちの方が明らかに多い。でも稀にぼくみたいなのが紛れ込んでいて、それが界隈の評判を下げてしまう。 ぼくの場合派手な遊び——つまり接客のプロの皆さんとシャンパンタワーをするような——は全くしないから素行面は大丈夫だけど、それにしてもね。”
”ぼくがどう思われるかはこの際どうでもいい。 だけど島津さんの名誉に傷がつくのは避けたいところだ。”
”ぼくがお父さんなら調べるね。そのおじさんが何者か。当然。 で、田舎の中小企業の社長(世襲)で、かつ無能なヤツであると判明する。もうその時点でよろしくない。 いや、もちろんどんな企業であれ、創業者であれ世襲であれ、真面目で有能でまともな社長は山ほど居る。というかそっちの方が明らかに多い。でも稀にぼくみたいなのが紛れ込んでいて、それが界隈の評判を下げてしまう。 ぼくの場合派手な遊び——つまり接客のプロの皆さんとシャンパンタワーをするような——は全くしないから素行面は大丈夫だけど、それにしてもね。”
”ぼくがどう思われるかはこの際どうでもいい。 だけど島津さんの名誉に傷がつくのは避けたいところだ。”
知子への認識の変化(30)
個人的に連絡を取って来た知子。まだ子供の彼女にさえ内心の混乱を見透かされていたこと、そして子供の彼女が想像以上にしっかりと謝罪の行動をとって来たことにぼくは動揺した。
”驚いたのは島津さんからのものだった。あんな真正面から謝られるとは思ってもみなかったから。”
”島津さんは自身の行為が引き起こした問題の意味をよく理解していた。大人の面子だったりぼくの内心だったり、そういうのをしっかり慮って長文の謝罪メッセージを送ってきたんだ。”
”恐怖ポイントは2つあるね。”
” 1つは、恐らく世間慣れしていないであろう大学生の彼女に見透かされるほどに、ぼくの擬態が稚拙であった可能性。茉莉さんや他の皆さんが気づくのは何となく分かる。社会人だからね。あっ、ちなみに青佳さんとアナリースさんからも色々働きかけがあったけど、その話はまた後でしよう。
もう1つは、彼女が想像以上に「しっかりしている」ところだ。大学時代のぼくはとてもこんな行動は取れなかったはず。 酔い混じりだったあの日は別として、冷めた後の冷静さ、観察眼、行動力、誠意、どれもすごい。”
”彼女は誰にでも優しく明るく振る舞う子なんだ。 周囲に対して常に上機嫌な状態を見せることの重要性をしっかりと教えられてきたんだろう。”
”驚いたのは島津さんからのものだった。あんな真正面から謝られるとは思ってもみなかったから。”
”島津さんは自身の行為が引き起こした問題の意味をよく理解していた。大人の面子だったりぼくの内心だったり、そういうのをしっかり慮って長文の謝罪メッセージを送ってきたんだ。”
”恐怖ポイントは2つあるね。”
” 1つは、恐らく世間慣れしていないであろう大学生の彼女に見透かされるほどに、ぼくの擬態が稚拙であった可能性。茉莉さんや他の皆さんが気づくのは何となく分かる。社会人だからね。あっ、ちなみに青佳さんとアナリースさんからも色々働きかけがあったけど、その話はまた後でしよう。
もう1つは、彼女が想像以上に「しっかりしている」ところだ。大学時代のぼくはとてもこんな行動は取れなかったはず。 酔い混じりだったあの日は別として、冷めた後の冷静さ、観察眼、行動力、誠意、どれもすごい。”
”彼女は誰にでも優しく明るく振る舞う子なんだ。 周囲に対して常に上機嫌な状態を見せることの重要性をしっかりと教えられてきたんだろう。”
知子先生の美術史講義(39)
絵を近くで見たり遠くで見たりを繰り返す楽しみ。ぼくは文学的にはそれぞれ伝記的、作品論的アプローチに仮託できそうだと考えた。
”「近寄って、遠ざかって、また近寄って、って繰り返すと面白いんですよ。今日は出来ませんけど」”
” 全景から細部へ。細部から総体へ。絵を前にして前進と後退を重ねることで見えてくるものがある。図像は絵の具の筋へ。絵の具の盛り上がりは一つの画像へと姿を変える。”
”「なるほど。——近づくのは伝記的アプローチで、遠ざかるのは作品論みたいなものかな」
「はい。完璧に同じではないと思いますけど、細部には画家本人の手の動きが見えて、全体像ではその意図が分かります」
「それを一瞬で、同時に感じられるところが絵の魅力なのかもしれないね。文章だとどうしても時間がかかるから。——こういう絵の『見方』をもっと早く知れればよかったな」”
”「近寄って、遠ざかって、また近寄って、って繰り返すと面白いんですよ。今日は出来ませんけど」”
” 全景から細部へ。細部から総体へ。絵を前にして前進と後退を重ねることで見えてくるものがある。図像は絵の具の筋へ。絵の具の盛り上がりは一つの画像へと姿を変える。”
”「なるほど。——近づくのは伝記的アプローチで、遠ざかるのは作品論みたいなものかな」
「はい。完璧に同じではないと思いますけど、細部には画家本人の手の動きが見えて、全体像ではその意図が分かります」
「それを一瞬で、同時に感じられるところが絵の魅力なのかもしれないね。文章だとどうしても時間がかかるから。——こういう絵の『見方』をもっと早く知れればよかったな」”
あなた(17)
知子と引き合わされた際、青佳がぼくに向かって使用した呼称。
”「まぁ! お二人とも、お知り合いでいらしたんですか? なんて偶然! ——そうですね、あなた」”
”親友アナリースとの楽しい昼食を全て上の空に塗りつぶした元凶は、彼女の目の前で他の女に不可思議な釈明をしている。知り合いによく似た女に。知子の瞳は即座に男女の左手指を確認する。即座に。そこには何もない。彼女の瞳は男女の距離を確認する。同時に。少し近すぎる。”
”「まぁ! お二人とも、お知り合いでいらしたんですか? なんて偶然! ——そうですね、あなた」”
”親友アナリースとの楽しい昼食を全て上の空に塗りつぶした元凶は、彼女の目の前で他の女に不可思議な釈明をしている。知り合いによく似た女に。知子の瞳は即座に男女の左手指を確認する。即座に。そこには何もない。彼女の瞳は男女の距離を確認する。同時に。少し近すぎる。”
地獄(30)
リュテスのみならず銀座にも立地。パパ活と思われたぼくと知子は冷ややかな対応を受けた。
”こうしてぼくは地獄に居る。 なんで銀座のど真ん中に地獄があるんだろう。上野の美術館から例の門が転移してきたのか?”
”簡潔に言おう。 超塩対応。”
”ただ、ぼくと彼女が棚に近づいていくと、店員さんが微妙な距離を保ちつつ見てるんだよね。ぼくたちを。声掛けのタイミングを計っている風でもない。 なんというか、監視?”
”「お服は2階以降になります。……でも、大丈夫ですか? 彼氏さん」 ぼくは会話の当事者ではないので何も言わなかったけど、気だるげな、そして微かに迷惑そうなニュアンスで色々察した。もう完膚なきまでに。
要するに知子さんは尋ねられたわけだ。「おまえが引っかけてきたパパはうちの服を買えるお金持ってるの?」って。”
”世界経済の動向までを含んだ巨大な流れが、末端において小さな個別の問題を大量に生み出して、いつしかそれは個人の中に沈殿していく。一つ一つは捌けても根本的な解決はできない。そして疲弊する。”
”「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。——あ、今日は店長さんいらっしゃいますか?」”
”「あいにく店長は不在にしておりまして」
「そうですか……久しぶりにお会いしたかったんですけど、残念です。ではまた来ますね! ありがとうございました」”
”ああ、これは駄目だ。 危険センサーがマックスで鳴ってる。 彼女は本物だ。 本物のお嬢様襲来。”
”凛と背筋を伸ばし、陽気を消さず、歯切れ良く、しかし柔らかく、彼女はそう告げてきびすを返す。”
”「お客様! 店長に申し伝えますので、もしよろしければお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「島津知子と申します。——今日はありがとうございました!」”
”必死の形相で引き留める店員さんを愛想良く、かつ断固として振り切って、ぼくたちは銀座の街路に抜け出てきた。”
”「ちょっと行き違いがあったみたいだね。残念だ」
「はい。出来たら試着してみたかったんですけど、今日はタイミングが合わなかった感じです」”
”「確かにタイミングだ。そう考えられるのはとてもいいね。——タイミングが合えば、今度は……」”
”「今度! じゃあせんぱい、今度は美術館に行きましょう!」
「え?」
「せんぱいご存じですか? 今新国立美術館で面白い特別展をやってるんです」
「そうなの?」
「はい!」”
”「よかった! 次もお出かけできますね! ——せんぱいに誘ってもらえましたから!」”
”こうしてぼくは地獄に居る。 なんで銀座のど真ん中に地獄があるんだろう。上野の美術館から例の門が転移してきたのか?”
”簡潔に言おう。 超塩対応。”
”ただ、ぼくと彼女が棚に近づいていくと、店員さんが微妙な距離を保ちつつ見てるんだよね。ぼくたちを。声掛けのタイミングを計っている風でもない。 なんというか、監視?”
”「お服は2階以降になります。……でも、大丈夫ですか? 彼氏さん」 ぼくは会話の当事者ではないので何も言わなかったけど、気だるげな、そして微かに迷惑そうなニュアンスで色々察した。もう完膚なきまでに。
要するに知子さんは尋ねられたわけだ。「おまえが引っかけてきたパパはうちの服を買えるお金持ってるの?」って。”
”世界経済の動向までを含んだ巨大な流れが、末端において小さな個別の問題を大量に生み出して、いつしかそれは個人の中に沈殿していく。一つ一つは捌けても根本的な解決はできない。そして疲弊する。”
”「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。——あ、今日は店長さんいらっしゃいますか?」”
”「あいにく店長は不在にしておりまして」
「そうですか……久しぶりにお会いしたかったんですけど、残念です。ではまた来ますね! ありがとうございました」”
”ああ、これは駄目だ。 危険センサーがマックスで鳴ってる。 彼女は本物だ。 本物のお嬢様襲来。”
”凛と背筋を伸ばし、陽気を消さず、歯切れ良く、しかし柔らかく、彼女はそう告げてきびすを返す。”
”「お客様! 店長に申し伝えますので、もしよろしければお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「島津知子と申します。——今日はありがとうございました!」”
”必死の形相で引き留める店員さんを愛想良く、かつ断固として振り切って、ぼくたちは銀座の街路に抜け出てきた。”
”「ちょっと行き違いがあったみたいだね。残念だ」
「はい。出来たら試着してみたかったんですけど、今日はタイミングが合わなかった感じです」”
”「確かにタイミングだ。そう考えられるのはとてもいいね。——タイミングが合えば、今度は……」”
”「今度! じゃあせんぱい、今度は美術館に行きましょう!」
「え?」
「せんぱいご存じですか? 今新国立美術館で面白い特別展をやってるんです」
「そうなの?」
「はい!」”
”「よかった! 次もお出かけできますね! ——せんぱいに誘ってもらえましたから!」”
確認の必要性(17)
ぼくに強く興味を惹かれた知子(ゾフィ)が考え出した理屈。
”ゆえに確認する必要がある。 自分はこの男に持ちうるであろうか。敬意を。”
”——殿方を知るには、それはそれは長い時間がかかるものですから!”
”知子ゾフィは満面の笑みを見せた。小柄な体躯と合わせて、その姿は可愛らしく、あるいは幼さの残滓すらたたえていた。一方で、凄惨なほどに大人の女でもある。サンテネリ王妃にしてガイユール女公。ゾフィ・エネ・エン・ガイユール・ルロワは。”
”ゆえに確認する必要がある。 自分はこの男に持ちうるであろうか。敬意を。”
”——殿方を知るには、それはそれは長い時間がかかるものですから!”
”知子ゾフィは満面の笑みを見せた。小柄な体躯と合わせて、その姿は可愛らしく、あるいは幼さの残滓すらたたえていた。一方で、凄惨なほどに大人の女でもある。サンテネリ王妃にしてガイユール女公。ゾフィ・エネ・エン・ガイユール・ルロワは。”
自撮り(40)
二人とも汗だくの自撮り。知子が撮り、すぐさまみんなに送った。
” 彼女は助手席から腰を浮かせ、センターコンソールの肘置きを超えてぼくに身体を寄せる。ぼくも合わせて彼女の方に寄った。”
” ぼくも彼女も汗で髪は張り付いてる。知子さんなんかネクタイ緩めて胸元ギリギリまでシャツが開いてるという。”
” 彼女は助手席から腰を浮かせ、センターコンソールの肘置きを超えてぼくに身体を寄せる。ぼくも合わせて彼女の方に寄った。”
” ぼくも彼女も汗で髪は張り付いてる。知子さんなんかネクタイ緩めて胸元ギリギリまでシャツが開いてるという。”
人物/由理・レスパン
| 項目 | 話数 |
|---|---|
| ぼくによる由理の評価(21) | 21 |
| ユリス・レスパン(由理)(11) | 11 |
| 由理からの連絡(34) | 34 |
| 由理によるぼくの評価(33) | 33 |
| 由理による評価(34) | 34 |
| 由理の声(21) | 21 |
| 由理の広告(21) | 21 |
| 由理の挨拶の二言目(21) | 21 |
| 由理の決断(33) | 33 |
| 由理の物語(33) | 33 |
| 由理の驚愕(33) | 33 |
| 由理への社長の返答(20) | 20 |
| 由理・レスパンの母(20) | 20 |
| 由理・レスパンの父(20) | 20 |
| 町屋由理(20) | 20 |
| 社長への由理の啖呵(20) | 20 |
| あのならず者(27) | 27 |
| 王冠を脱ぎ去った王(33) | 33 |
| 週間スラッシュ2019年4月10日号(21) | 21 |
ぼくによる由理の評価(21)
勇敢で果敢、知的な内面。
”「彼は今度実写化する『この人を見よ』の主役のオファーを受けてるんだ! これは本当にすごい。あの作品は実写も大当たりするよ! ——皆も同意してくれると思うけど、グロワス13世役に彼ほど相応しい役者はいない。金髪の美麗なルックスもぴったりだし、なによりも勇敢で果敢、知的な内面を再現できる!」”
”「なにせ彼こそが原作者なんだから。——『この人を見よ』の」”
”「彼は今度実写化する『この人を見よ』の主役のオファーを受けてるんだ! これは本当にすごい。あの作品は実写も大当たりするよ! ——皆も同意してくれると思うけど、グロワス13世役に彼ほど相応しい役者はいない。金髪の美麗なルックスもぴったりだし、なによりも勇敢で果敢、知的な内面を再現できる!」”
”「なにせ彼こそが原作者なんだから。——『この人を見よ』の」”
ユリス・レスパン(由理)(11)
大人気モデル兼俳優。由理(ゆうり)・レスパンの芸名。ぼくの友達で大学文学部の後輩にあたる。180センチを優に超える長身に波打つ金髪をはためかせた、中性的な美貌のイケメン。フランス人を父に、日本人を母に持つハーフ。以前ぼくが家業のために新規開拓を試みた際にモデルとして知り合った。第一印象は互いに良いものではなかったが、以来なぜかぼくに懐いている。スマホのメッセージをしょっちゅう送ってくるほど。
”「小金持ちのお遊びはさぞや楽しいでしょう。——あなたは本気で思っているんですか? このよく分からない何かで世界が変わると」”(11)
”電波かな?”(11)
”「逆に聞くが由理ゆうりさん、どんな行動であれ、あなたは自分が何かをすれば世界が変わると思っている。そういうことだろうか」「ええ。何も善いものを生み出さない行為に価値はありません。俺は価値ある仕事をしたい」「それはあなただけの特性と考えていいのかな。変えられるのは選ばれた者だけ。あなただけが特別な人間だと」”(11)
”「まさか! 皆がその力を持っているはずです。世界を少しでもよくできる力を」”(11)
”「では、あなたは他者を巻き込むべきだ。拒絶ではなく。決めつけるのではなく。誘い込むべきだ。——あなたが何を望んでいるのかは分からないけれど、あなたの想いは恐らく善いものだ。だから、それを上手く実現するよう努めて欲しい」”(11)
※暗君43話、”「貴殿の想いは恐らく善いものだ。だからそれを、うまく実現するよう努めてほしい。慎重に、平和的に」”を参照。
”「そんなことを言われたのは初めてです……俺は」「私もだよ。”小金持ちのお遊び”とはっきり言ってくれたのはあなただけだ」”(11)
”「小金持ちのお遊びはさぞや楽しいでしょう。——あなたは本気で思っているんですか? このよく分からない何かで世界が変わると」”(11)
”電波かな?”(11)
”「逆に聞くが由理ゆうりさん、どんな行動であれ、あなたは自分が何かをすれば世界が変わると思っている。そういうことだろうか」「ええ。何も善いものを生み出さない行為に価値はありません。俺は価値ある仕事をしたい」「それはあなただけの特性と考えていいのかな。変えられるのは選ばれた者だけ。あなただけが特別な人間だと」”(11)
”「まさか! 皆がその力を持っているはずです。世界を少しでもよくできる力を」”(11)
”「では、あなたは他者を巻き込むべきだ。拒絶ではなく。決めつけるのではなく。誘い込むべきだ。——あなたが何を望んでいるのかは分からないけれど、あなたの想いは恐らく善いものだ。だから、それを上手く実現するよう努めて欲しい」”(11)
※暗君43話、”「貴殿の想いは恐らく善いものだ。だからそれを、うまく実現するよう努めてほしい。慎重に、平和的に」”を参照。
”「そんなことを言われたのは初めてです……俺は」「私もだよ。”小金持ちのお遊び”とはっきり言ってくれたのはあなただけだ」”(11)
由理からの連絡(34)
ぼくが意見表明をしてまもなくスマホに由理からの連絡あり。近々飲みたいという彼に、ぼくはよろこんで応じた。
”『先輩、次いつ空いてますか? 飲みましょう。おれ、話したいことがいっぱいあって』
『いいよ。飲もう。そして話そう』
ぼくは即座にそう返した。 これまでも彼と飲むのは楽しかった。そして、”ぼく”がどのような生き物であるかを知ってくれた彼と話すのは、これまでよりももっと楽しいはずだ。”
”『先輩、次いつ空いてますか? 飲みましょう。おれ、話したいことがいっぱいあって』
『いいよ。飲もう。そして話そう』
ぼくは即座にそう返した。 これまでも彼と飲むのは楽しかった。そして、”ぼく”がどのような生き物であるかを知ってくれた彼と話すのは、これまでよりももっと楽しいはずだ。”
由理によるぼくの評価(33)
実存主義と構造主義の角逐、構造による実存の超克という古くさい哲学論争について今でも考え続けている男。一面で常識的な大人の振る舞いをする反面、内面には驚くほどに瑞々しいまでの感情が渦巻いている。
”初めはクライアントの一人として、後には年の離れた大学の先輩として、そして友人として親密に付き合う中で、青年は男の中に「友」を見た。”
”男は明白に、かつてジュール・レスパンが唯一自身の「友」であると認めた男——サンテネリ国王グロワス13世であった。”
”男は哲学を好む。 実存主義と構造主義の角逐——構造による実存の超克という、もはや歴史の1ページになってしまった古くさい哲学論争について今でも考え続けている。”
”「きみが”時代遅れ”というならば、それはつまり論争が抽象論の世界を離れて、アクチュアリテ現代的意義を持つようになったということだ。思想に現実が追いついた。80年近く前に思想の王たちが戦った最前線で、今は我々一般人が戦ってるんだ」”
”その口調は古代ギリシャから現代に至るまで様々な、いわゆる「名演説」を読みあさった痕跡を感じさせた。”
”一面で男は驚くほどに無味乾燥な、世知に長けた、常識的な、大人の振る舞いをする。しかし、内面にはこれもまた驚くほどに、瑞々しいまでの感情が渦巻いている。”
” いい歳をした大人の男が考えるようなことではない。 世界とは何か。人とは、物とは、生きるとは、何か。そういった子供じみた思考を充満させているのだ。平然と。 まともな大人の仮面の下に。”
”初めはクライアントの一人として、後には年の離れた大学の先輩として、そして友人として親密に付き合う中で、青年は男の中に「友」を見た。”
”男は明白に、かつてジュール・レスパンが唯一自身の「友」であると認めた男——サンテネリ国王グロワス13世であった。”
”男は哲学を好む。 実存主義と構造主義の角逐——構造による実存の超克という、もはや歴史の1ページになってしまった古くさい哲学論争について今でも考え続けている。”
”「きみが”時代遅れ”というならば、それはつまり論争が抽象論の世界を離れて、アクチュアリテ現代的意義を持つようになったということだ。思想に現実が追いついた。80年近く前に思想の王たちが戦った最前線で、今は我々一般人が戦ってるんだ」”
”その口調は古代ギリシャから現代に至るまで様々な、いわゆる「名演説」を読みあさった痕跡を感じさせた。”
”一面で男は驚くほどに無味乾燥な、世知に長けた、常識的な、大人の振る舞いをする。しかし、内面にはこれもまた驚くほどに、瑞々しいまでの感情が渦巻いている。”
” いい歳をした大人の男が考えるようなことではない。 世界とは何か。人とは、物とは、生きるとは、何か。そういった子供じみた思考を充満させているのだ。平然と。 まともな大人の仮面の下に。”
由理による評価(34)
由理は「他者に影響を与え、世界をより良い方向に導くもの」が「物語」であり、それを意図した作品が善い作品であり、その意図が感じられないぼくの小説は物語ではないと評価。しかし、その物語を読んで由理はポストを30連投している。最終的に、二つの作品はまったくの別物であると主張した。
”私は自身の主観において、この『地に落ちて死なば』を全く評価できない。徹頭徹尾無意味なものであり、害悪であるとすら考えます。というのも、これは「閉じた」状況の描写であり世界に向けられていない。つまり物語とは言いがたい。”
”一見シニカルでコミカルな物語の覆いを剥ぎ取ったとき、そこに現れるのは徹底した醜悪さなのです”
”小説を含む文学作品は他者に向けた「働きかけ」の道具であり、作者はそれを使用して社会、あるいは世界をより善い方向へ導くことを意図する。作品を読んだ読者の中には善い変化が生じる。これらの行動の総体こそが「偉大なこと」であり、価値を持つものである”
”どのような内容であれ、それによって他者を何らかの形で変化させようと望む作者の意図——意思こそが尊い”
”学術系のプロが参入してきたら炎上というか不毛な論争になりかねない”
”随所に「私見」「個人的な意見」と差し挟んでいる。でもね、そうすると今度は彼の立場が「弱いものいじめ」と映りかねない。 要するに、著名な商業作家が1アマチュアの趣味の作品を自身の主観的好悪を基準に名指しで叩いている構図になる”
”彼の意見は「他者に影響を与え、世界をより良い方向に導くもの」が「物語」であり、それを意図した作品が善い作品である”
”ぼくの『地に落ちて死なば』は、少なくとも由理くんの心を動かした。自身の立場を無視しても30連投以上に及ぶ投稿をしたいと思うほどには。つまり、ぼくの作品が「物語」ではなく、価値のないものであることを主張する行為自体が、彼の主張の根拠を切り崩しているんだ。だから問題になるのは最後のポイント。ぼくにその意図があったかどうか”
”彼の投稿は『この人を見よ』とぼくの『地に落ちて死なば』が完全にかけ離れたものであるという主張に行き着く。両者を同一視するのは自身への最も酷い侮辱であり、同時に『地に落ちて死なば』作者——つまりぼくだ——への同程度の侮辱でもある、と。”
”小火を消そうとしてくれたのかな。 いや、恐らくそんなこと忘れてるだろうね。パクりかどうかとか、頭の中から消え去ってる感ある。 火力強すぎるからね。”
”私は自身の主観において、この『地に落ちて死なば』を全く評価できない。徹頭徹尾無意味なものであり、害悪であるとすら考えます。というのも、これは「閉じた」状況の描写であり世界に向けられていない。つまり物語とは言いがたい。”
”一見シニカルでコミカルな物語の覆いを剥ぎ取ったとき、そこに現れるのは徹底した醜悪さなのです”
”小説を含む文学作品は他者に向けた「働きかけ」の道具であり、作者はそれを使用して社会、あるいは世界をより善い方向へ導くことを意図する。作品を読んだ読者の中には善い変化が生じる。これらの行動の総体こそが「偉大なこと」であり、価値を持つものである”
”どのような内容であれ、それによって他者を何らかの形で変化させようと望む作者の意図——意思こそが尊い”
”学術系のプロが参入してきたら炎上というか不毛な論争になりかねない”
”随所に「私見」「個人的な意見」と差し挟んでいる。でもね、そうすると今度は彼の立場が「弱いものいじめ」と映りかねない。 要するに、著名な商業作家が1アマチュアの趣味の作品を自身の主観的好悪を基準に名指しで叩いている構図になる”
”彼の意見は「他者に影響を与え、世界をより良い方向に導くもの」が「物語」であり、それを意図した作品が善い作品である”
”ぼくの『地に落ちて死なば』は、少なくとも由理くんの心を動かした。自身の立場を無視しても30連投以上に及ぶ投稿をしたいと思うほどには。つまり、ぼくの作品が「物語」ではなく、価値のないものであることを主張する行為自体が、彼の主張の根拠を切り崩しているんだ。だから問題になるのは最後のポイント。ぼくにその意図があったかどうか”
”彼の投稿は『この人を見よ』とぼくの『地に落ちて死なば』が完全にかけ離れたものであるという主張に行き着く。両者を同一視するのは自身への最も酷い侮辱であり、同時に『地に落ちて死なば』作者——つまりぼくだ——への同程度の侮辱でもある、と。”
”小火を消そうとしてくれたのかな。 いや、恐らくそんなこと忘れてるだろうね。パクりかどうかとか、頭の中から消え去ってる感ある。 火力強すぎるからね。”
由理の声(21)
低く逞しい。
”「お初にお目にかかります。皆さん。町屋由理と申します。先輩にはいつもお世話になっていて。今日は先輩のご友人方とお会いできるときいて心を躍らせておりました。——以降お見知りおきください」低く逞しい声で居並ぶ女性陣に語りかける。そして軽やかに、上品に、軽く頭を下げる。”
”「お初にお目にかかります。皆さん。町屋由理と申します。先輩にはいつもお世話になっていて。今日は先輩のご友人方とお会いできるときいて心を躍らせておりました。——以降お見知りおきください」低く逞しい声で居並ぶ女性陣に語りかける。そして軽やかに、上品に、軽く頭を下げる。”
由理の広告(21)
”銀座駅にも彼がモデルやってる高級ファッションブランドの全面広告でてる”
由理の挨拶の二言目(21)
高速道路でいきなり急にハンドルを切るタイプ。事故を誘発するのでぼくは必死にハンドルを戻した。
”「想像に違わぬ気品溢れる方達だ。まぁ、先輩が初めて紹介してくれた女性の皆さんですから、変な女どものわけがない。そこは心配してませんでしたよ? 先輩」”
”「お二人はとても親密なお友達でいらっしゃるんですね」”
”「想像に違わぬ気品溢れる方達だ。まぁ、先輩が初めて紹介してくれた女性の皆さんですから、変な女どものわけがない。そこは心配してませんでしたよ? 先輩」”
”「お二人はとても親密なお友達でいらっしゃるんですね」”
由理の決断(33)
事実をもとにした寓話、事実をもとにした歴史小説、いずれも大衆には受けない。血湧き肉躍る「分かりやすい」物語が許されるジャンルを選ぶべき。ゆえに由理はWEB投稿小説サイトで書くことを決めた。
” 彼が体験した「真の歴史」の一場面を切り取り、その中に象徴性をたっぷりと込めた寓話。たとえば彼が王と初めて対話を為したアキアヌ邸の一夜などはちょうどいい短編になるだろう。 あるいは架空歴史小説。設定も辻褄も全て完璧なものを作り出すことができる。なぜならそれは「本当にあったこと」なのだから。こちらは大長編になるだろう。”
”前者を取れば純文学になる。専門家や好事家の評価は得られるかもしれないが、それ以上に大きく広まることはない。 後者を取った場合、主人公の振る舞いが障害となる。グロワス13世の行動は極めて分かりづらい。それこそまさに同時代を生きたであろう人々すらもその意義と意図を把握し切れなかったほどに。”
”『一人に届けば一人を、百人に届けば百人を、一万人に届けば一万人を、きみの物語は変えるだろう』”
”彼は自身の物語を一万人に、あるいは百万人に届けることを望んだ。 ジュール・レスパンはかつて王から学び、やがて身を以て知った事実を想起する。 ——大衆こそが正しい。”
”一般書のファンタジーでは地味に過ぎる。ならば派手にすればいい。 血湧き肉躍る「分かりやすい」物語であればいい。 それをするとなるとジャンルの自由度が欲しい。多少子供じみても、多少ご都合主義でも、多少陳腐でも構わない。面白ければ全てが許される世界がいい。”
”政治とはつまりそのような営みである。 大衆が求めるものを正確に把握し、それをうまく使うこと。うまく使うとは、大衆が求めるものを自分が求めるものにすり替えていく行為。あるいは自分が望むものを大衆に「自分たちが求めるもの」と信じ込ませる行為である。”
” 彼が体験した「真の歴史」の一場面を切り取り、その中に象徴性をたっぷりと込めた寓話。たとえば彼が王と初めて対話を為したアキアヌ邸の一夜などはちょうどいい短編になるだろう。 あるいは架空歴史小説。設定も辻褄も全て完璧なものを作り出すことができる。なぜならそれは「本当にあったこと」なのだから。こちらは大長編になるだろう。”
”前者を取れば純文学になる。専門家や好事家の評価は得られるかもしれないが、それ以上に大きく広まることはない。 後者を取った場合、主人公の振る舞いが障害となる。グロワス13世の行動は極めて分かりづらい。それこそまさに同時代を生きたであろう人々すらもその意義と意図を把握し切れなかったほどに。”
”『一人に届けば一人を、百人に届けば百人を、一万人に届けば一万人を、きみの物語は変えるだろう』”
”彼は自身の物語を一万人に、あるいは百万人に届けることを望んだ。 ジュール・レスパンはかつて王から学び、やがて身を以て知った事実を想起する。 ——大衆こそが正しい。”
”一般書のファンタジーでは地味に過ぎる。ならば派手にすればいい。 血湧き肉躍る「分かりやすい」物語であればいい。 それをするとなるとジャンルの自由度が欲しい。多少子供じみても、多少ご都合主義でも、多少陳腐でも構わない。面白ければ全てが許される世界がいい。”
”政治とはつまりそのような営みである。 大衆が求めるものを正確に把握し、それをうまく使うこと。うまく使うとは、大衆が求めるものを自分が求めるものにすり替えていく行為。あるいは自分が望むものを大衆に「自分たちが求めるもの」と信じ込ませる行為である。”
由理の物語(33)
この世界でやることを見失っていた由理は、ぼくにすすめられて物語を書こうと決めた。書くのは偉大さについて。偉大な人について。由理はグロワス13世について書くことにした。プラットホームには大衆受けを重視し、WEB小説投稿サイト『ノベルライターになろう』を選択。ランキング上位500位の文章を丸暗記して人気要素を抽出。凄い人が凄い人達の称賛を得ながら凄いことをして幸せになる。
”この生が自身に与えられた「余録」「補遺」であるという事実もまた、容赦なく知らしめられる。 日本において町屋由理は凡人として生き、凡人として死ぬだろう。そして男もまた。 彼がサンテネリにおいて希求したもの、そして王が体現したもの——「偉大さ」はここにはない。彼らは世界の中に埋没し、やがて消え去っていく。 ”
”平安は退屈である。 この名状しがたい贅沢な空しさの感覚を青年が漏らしたとき、男はしばし悩んだ末にこう答えた。”
”「”物語”を書けばいい。一人に届けば一人を、百人に届けば百人を、一万人に届けば一万人を、きみの物語は変えるだろう。不可逆的に。彼ら彼女らの中にきみが生み出した”何か”は生き続けるんだ。——思想と同様、物語も時代を超える。畢竟両者は同根だ。別ちがたく結ばれてる。どちらも時代を超える。それは素晴らしいことではないかな? 偉大なことでは?」”
”グロワス13世は何も成し遂げなかった。ジュール・レスパンは成し遂げた。 客観的に見ればその通りだ。当時を生きたサンテネリの人々は皆同意するだろう。 ”賢いコントゥール(導き手)と愚かなコントゥール(枢密院主催者)””
”どちらが偉大であるかは問題ではない。 どちらが偉大であると自分自身が考えているかが問題なのだと。”
”自身の作品が当てはまるジャンル「異世界ファンタジー」のランキングを1位から500位まで全て読み、ほぼ全ての文章を覚えた。 そして記憶の中から「人々に求められているもの」を抽出した。”
”人々は「凄い人物」の「凄い行い」を求める。「凄い人物」が「多くの凄い人々」から敬意と愛情を受けることを求める。 そして「凄い人物」は幸せになる。その全てを満たすことにした。”
”この生が自身に与えられた「余録」「補遺」であるという事実もまた、容赦なく知らしめられる。 日本において町屋由理は凡人として生き、凡人として死ぬだろう。そして男もまた。 彼がサンテネリにおいて希求したもの、そして王が体現したもの——「偉大さ」はここにはない。彼らは世界の中に埋没し、やがて消え去っていく。 ”
”平安は退屈である。 この名状しがたい贅沢な空しさの感覚を青年が漏らしたとき、男はしばし悩んだ末にこう答えた。”
”「”物語”を書けばいい。一人に届けば一人を、百人に届けば百人を、一万人に届けば一万人を、きみの物語は変えるだろう。不可逆的に。彼ら彼女らの中にきみが生み出した”何か”は生き続けるんだ。——思想と同様、物語も時代を超える。畢竟両者は同根だ。別ちがたく結ばれてる。どちらも時代を超える。それは素晴らしいことではないかな? 偉大なことでは?」”
”グロワス13世は何も成し遂げなかった。ジュール・レスパンは成し遂げた。 客観的に見ればその通りだ。当時を生きたサンテネリの人々は皆同意するだろう。 ”賢いコントゥール(導き手)と愚かなコントゥール(枢密院主催者)””
”どちらが偉大であるかは問題ではない。 どちらが偉大であると自分自身が考えているかが問題なのだと。”
”自身の作品が当てはまるジャンル「異世界ファンタジー」のランキングを1位から500位まで全て読み、ほぼ全ての文章を覚えた。 そして記憶の中から「人々に求められているもの」を抽出した。”
”人々は「凄い人物」の「凄い行い」を求める。「凄い人物」が「多くの凄い人々」から敬意と愛情を受けることを求める。 そして「凄い人物」は幸せになる。その全てを満たすことにした。”
由理の驚愕(33)
作品の原作者としてパクリ疑惑作品に目を通した由理は愕然とする。
”今、由理・レスパンは猛烈な憤怒の中にある。 正確には、憤怒と混乱と恐怖のただ中に。”
”一応冒頭部は読んで確認しておいた方が良い。大した手間ではないのだから。 そして彼はクリックした。 第1話を。 その後、撮影をどのようにこなしたか——あるいはこなしたかどうかすら——彼は覚えていない。”
”2周目を読み終えたときには時刻は23時。 彼はビールの缶を開け、飲み口から直接喉に流し込みながら、リビングをぐるぐると歩き回る。何かを求めての行動ではない。ただ歩くために歩いた。”
”5話まで読み進めたあたりで書き手をうっすら想像した。10話を超えて確信に至った。 作者は「先輩」だ、と。”
”ジュールにとって、この作品の内容は絶対に許容しえないものである。 なぜなら、そこには意思がない。 主人公の王アントワン3世は状況に流されるばかり。延々泣き言を零し、戸惑い、恐れ、怯え、日々を過ごしている。周囲の登場人物達もまた、それぞれに思惑と恐れと不安を秘めながら王と対する。”
”もし彼が王でないならば、王は一体誰なのか。 もし彼が王ならば、作品の主人公アントワン3世こそが、まさにグロワス13世であることになる。 もし仮にそれが真実であるならば。 ——おれが書いたグロワス13世は一体何者なのか。……おれは、誰を書いたんだ!”
”今、由理・レスパンは猛烈な憤怒の中にある。 正確には、憤怒と混乱と恐怖のただ中に。”
”一応冒頭部は読んで確認しておいた方が良い。大した手間ではないのだから。 そして彼はクリックした。 第1話を。 その後、撮影をどのようにこなしたか——あるいはこなしたかどうかすら——彼は覚えていない。”
”2周目を読み終えたときには時刻は23時。 彼はビールの缶を開け、飲み口から直接喉に流し込みながら、リビングをぐるぐると歩き回る。何かを求めての行動ではない。ただ歩くために歩いた。”
”5話まで読み進めたあたりで書き手をうっすら想像した。10話を超えて確信に至った。 作者は「先輩」だ、と。”
”ジュールにとって、この作品の内容は絶対に許容しえないものである。 なぜなら、そこには意思がない。 主人公の王アントワン3世は状況に流されるばかり。延々泣き言を零し、戸惑い、恐れ、怯え、日々を過ごしている。周囲の登場人物達もまた、それぞれに思惑と恐れと不安を秘めながら王と対する。”
”もし彼が王でないならば、王は一体誰なのか。 もし彼が王ならば、作品の主人公アントワン3世こそが、まさにグロワス13世であることになる。 もし仮にそれが真実であるならば。 ——おれが書いたグロワス13世は一体何者なのか。……おれは、誰を書いたんだ!”
由理への社長の返答(20)
サンテネリ時代のグロワス13世との会話がリフレイン。由理は友に再会する。『汝、暗君を愛せよ』「敵3」への言及。
”「逆に聞くが由理さん、どんな行動であれ、あなたは自分が何かをすれば世界が変わると思っている。そういうことだろうか」
「ええ。何も善いものを生み出さない行為に価値はありません。俺は価値ある仕事をしたい」
「それはあなただけの特性と考えていいのかな。変えられるのは選ばれた者だけ。あなただけが特別な人間だと」”
” この論法を由理ジュールはよく知っている。一言一句諳んじることができる。
かつてアキアヌ大公の屋敷で青年が「彼」と交わした議論。
『…陛下は王です。王には分からない』
『では、レスパン殿が先ほど述べた”すべての者の等価”は嘘かな。私以外の者は理解でき、私にのみ理解できないのだとすれば、私には他者の持つ能力が欠落していることになる。等価ではあるまい』”
”「では、あなたは他者を巻き込むべきだ。拒絶ではなく。決めつけるのではなく。誘い込むべきだ。——あなたが何を望んでいるのかは分からないけれど、あなたの想いは恐らく善いものだ。だから、それを上手く実現するよう努めて欲しい」
と。 ——貴殿の想いは恐らく善いものだ。だからそれを、うまく実現するよう努めてほしい。慎重に、平和的に。”
”こうして青年は出会った。 友と。”
”「逆に聞くが由理さん、どんな行動であれ、あなたは自分が何かをすれば世界が変わると思っている。そういうことだろうか」
「ええ。何も善いものを生み出さない行為に価値はありません。俺は価値ある仕事をしたい」
「それはあなただけの特性と考えていいのかな。変えられるのは選ばれた者だけ。あなただけが特別な人間だと」”
” この論法を由理ジュールはよく知っている。一言一句諳んじることができる。
かつてアキアヌ大公の屋敷で青年が「彼」と交わした議論。
『…陛下は王です。王には分からない』
『では、レスパン殿が先ほど述べた”すべての者の等価”は嘘かな。私以外の者は理解でき、私にのみ理解できないのだとすれば、私には他者の持つ能力が欠落していることになる。等価ではあるまい』”
”「では、あなたは他者を巻き込むべきだ。拒絶ではなく。決めつけるのではなく。誘い込むべきだ。——あなたが何を望んでいるのかは分からないけれど、あなたの想いは恐らく善いものだ。だから、それを上手く実現するよう努めて欲しい」
と。 ——貴殿の想いは恐らく善いものだ。だからそれを、うまく実現するよう努めてほしい。慎重に、平和的に。”
”こうして青年は出会った。 友と。”
由理・レスパンの母(20)
大学での語学講師をしていた男と恋に落ち、由理を妊娠したことにより大学を中退。入籍するも数年で男は帰国しシングルマザーとなる。技能も学歴も実家の助けもないまま、様々なパートを掛け持ちして生計を立てる。由理が中学生の頃、水商売に転職。生活レベルは大幅に改善し、木造アパートからエントランス付きのマンションに引っ越すが心をすり減らすという意味では変わりのない日々のうるおいとして由理を愛する。
” 一人の若い女。20歳に満たぬ大学生の女は語学の授業でその男と知り合った。講師と学生として。やがて女は、彼がアルバイトをする語学学校にも入学した。女は語学が好きだった。真実かどうかはさておき、女は周囲にそう説明した。 やがて二人の間に子どもができ、女は大学を中退した。そして籍を入れた。”
”母が自身の持って生まれた特性——美貌——を最大限生かせる仕事に就いたのだ。 それから母子の経済状況は目に見えて好転した。軽く押せば柱も折れそうな木造アパートから立派なエントランスを備えた鉄筋造のマンションへと、彼らは転居した。そして食事は目に見えて豪華な、栄養のあるものとなった。 母は目に見えて美しくなった。 そして、本格的な成長期を迎えた少年もまた。”
”精神をすり減らす生活に区切りを付け、また別の心を削る生活に身を投じた彼女にとって、息子の成長はこの残酷な——つまり平凡な——世界が自身に与えた唯一の果実である。”
” 一人の若い女。20歳に満たぬ大学生の女は語学の授業でその男と知り合った。講師と学生として。やがて女は、彼がアルバイトをする語学学校にも入学した。女は語学が好きだった。真実かどうかはさておき、女は周囲にそう説明した。 やがて二人の間に子どもができ、女は大学を中退した。そして籍を入れた。”
”母が自身の持って生まれた特性——美貌——を最大限生かせる仕事に就いたのだ。 それから母子の経済状況は目に見えて好転した。軽く押せば柱も折れそうな木造アパートから立派なエントランスを備えた鉄筋造のマンションへと、彼らは転居した。そして食事は目に見えて豪華な、栄養のあるものとなった。 母は目に見えて美しくなった。 そして、本格的な成長期を迎えた少年もまた。”
”精神をすり減らす生活に区切りを付け、また別の心を削る生活に身を投じた彼女にとって、息子の成長はこの残酷な——つまり平凡な——世界が自身に与えた唯一の果実である。”
由理・レスパンの父(20)
大学の臨時講師や語学学校講師をしながら日本での人生を楽しんでいたフランス人。生徒であった由理の母と恋仲になり結婚。由理が生まれて数年後にフランスに帰国。その後の足取りは不明。
”若いフランス人の青年が日本にやってきた。彼は大学の臨時講師や語学学校の講師をして食いつなぎながら人生を楽しんでいた。母国での栄達には到底足らぬ経歴も、欧州の若い白人男性が比較的少ない日本においては多少の優位性を持つ。彼は異国を満喫した。”
” 数年が経ち、男は母国に帰った。 男にとってそれは当然のことだ。楽しい時間はやがて終わる。ここからはしっかりと生きなければならない。遊びは終わりにしなければならない。 彼は立派な分別を備えた立派な男であった。”
”若いフランス人の青年が日本にやってきた。彼は大学の臨時講師や語学学校の講師をして食いつなぎながら人生を楽しんでいた。母国での栄達には到底足らぬ経歴も、欧州の若い白人男性が比較的少ない日本においては多少の優位性を持つ。彼は異国を満喫した。”
” 数年が経ち、男は母国に帰った。 男にとってそれは当然のことだ。楽しい時間はやがて終わる。ここからはしっかりと生きなければならない。遊びは終わりにしなければならない。 彼は立派な分別を備えた立派な男であった。”
町屋由理(20)
まちやゆうり。フランス人の父と日本人の母の間に生まれたハーフ。小学校にあがる直前に父親が失踪した。その後、母と東京の外れ、住宅街と繁華街の狭間に位置する古い木造アパートの一室で暮らす。サイズの合わない服を着て、散髪していない乱れた金髪のおとなしく小柄な少年。言葉も拙い。
高学年ではクラスの輪を乱す粗暴さをあらわし、駅前の繁華街に屯するが、6年生の夏休み明けから突如振る舞いが変わり、公民館、そして図書館に入り浸って図鑑を読みふけるようになる。伸び放題の金髪としわだらけの黒いTシャツを着た彫りの深い顔立ちの少年の発言には深い知性と若さが同居していた。
”図書館で最初に手に取ったのは『この国のしくみ』という小学生向けの学習図書”
”図書館で最初に手に取ったのは『この国のしくみ』という小学生向けの学習図書”
中学1年生の1学期から3年生の3学期に至るまで、全ての定期テストで首位に付ける。一方、自分が理解している範囲の課題には一切手を付けない態度から、成績表は常に4とされた。父親譲りの金髪と極めて整った顔。長く引き締まった手足。思春期の少年とは思われない落ち着いた佇まい。知性においても常軌を逸し、特に記憶力は驚くべきものを見せる。「由理は好きな子いるの?」と聞かれた際、男と答えて母をうろたえさせた。
高校時代、図書室で、前世でグロワス13世が語っていた”シーシュポスの神話”を発見。この世界にいるはずのグロワス13世を探す決意をする。国内最高峰の国立大学にも海外の有名大学にも行ける能力を有しながら、フランス文学と哲学の研究に定評のある私立大学を志望。
区立最上位の公立高校を卒業後、都内の私立大学に入学。かつて自らが夢見、目指してついに倒れた理想が実現しているこの”天国”において自分は何をすべきか悩む。友の偉大な行為、その行為の動因となったものを知りたい、そして彼に再会したいとの願いを持つようになる。
大学の講義にも級友にも興味を持てず、虚無感に不満を募らす由理は知人の紹介を受け、「由理・レスパン」の芸名でモデルのアルバイトを開始。「世界を変える。木々と暮らす世界へと」というキャッチフレーズに反感を持って「ぼく」に接触。
愛用の時計は中学生の時にホームセンターで買った簡素なデジタル時計。長年の酷使に耐えかねたウレタンのベルトには罅が入っている。
” 少年が思い出すのはまさに小学6年生の夏。 この不可思議な天国を知覚した当時のこと。”
”「由理は好きな子いるの?」
「まだ分からない。——でも、尊敬する人はいるよ」
「ああ、違う。彼女とか付き合うとかじゃないんだ。——純粋に尊敬する人。そもそも男だからね。その人は」
「だから! 好きとかじゃない」
「ここに。……心の中にいる」”
”長じて振り返れば気味が悪いほどに芝居がかった場面でありながら、それはさながら一幅の絵画のごとく、ささやかな荘厳さを秘めていた。”
”「由理は好きな子いるの?」
「まだ分からない。——でも、尊敬する人はいるよ」
「ああ、違う。彼女とか付き合うとかじゃないんだ。——純粋に尊敬する人。そもそも男だからね。その人は」
「だから! 好きとかじゃない」
「ここに。……心の中にいる」”
”長じて振り返れば気味が悪いほどに芝居がかった場面でありながら、それはさながら一幅の絵画のごとく、ささやかな荘厳さを秘めていた。”
”だが、この少年、町屋由理は図鑑を愛し、辞典を愛した。 彼はそれを「読む」。何かを調べるのではない。読んだのだ。 図鑑を読むとはつまり、世界を読むことに他ならない。”
”少年の記憶は父と母の親密な抱擁、繰り返し交わされる頬への接吻に始まる。父と母はまことに幸せそうに、楽しい毎日を過ごしていた。それは少年の記憶の基層にある。 小学生に上がる直前、父は消えた。”
”大人びた言い回しよりもその語調こそが不思議な印象を生んだ。つまり深く、円熟した知性である。 そして同時に相反するものがあった。若さである。”
”硬い表紙の大判の本。大きな文字で書かれた子ども向けの言葉。 その「言葉」が途方もない数の人々の血によって記されたものであることを少年ジュールは知っていた。かつて故国で、自分の血もまた使われたのだから。文字を描くインクとして。”
”『いつか私の子孫とあなたの子孫が会堂セアトルで語らう。この国の未来を巡って、人々を代表して論戦を交わす。平等な立場で。そしてね、ジュール殿。会議が終われば彼らは二人で旧市に繰り出す。そこで酒を飲みながら趣味の話に花を咲かせる。——友として』”
”俺が生涯において唯一誇れることがあるとすれば、それは俺が、俺だけがあなたを理解したことだ。偉大なグローグロワスを。大王ロー・グローじゃない。偉大なグロワス氏を。”
”町屋由理ジュール・レスパンは、ここ日本において人生の答え合わせを為したのだ。 それで話は終わり。”
” だが、幸運なことに、あるいは不幸なことに、彼は未だ12歳の少年である。 つまり、先を生きなければならない。 物語の結末の先を。”
” それは一個人の業ではない。途方もない、気が遠くなるような試みだ。事実、自分ジュールは為しえなかった。そして「友」もまた。 だが、それを知ってなお一歩を踏み出そうとした意思と、実際に一歩を踏み出したその行動を誰が嗤おうか。それこそが人に為しうる偉大さの最たるものである。”
” 官僚になることも大手企業の重役になることも、あるいはかつて生業とした弁護士や政治家になることも、もはや彼は望まなかった。 彼は別のことを望んだ。 人を揺り動かすもの。人をして偉大なことをなさしめる動因となるもの。それが何であるかを知りたいと望んだのである。 そしてもう一つ。 叶うならば、「友」と再会したいと望んだ。”
”彼はつまるところ、羊の群に迷い込んだ虎であった。飢えた。”
”生来青年の気性は温和なものではない。それは苛烈な攻勢である。 自身の芸名を「由理・レスパン」と決めたのも、自分たち母子を”消費”し、捨てた父親に対する意趣返しである。 おまえが捨てた”生き物”が、おまえの名を名乗って生きているぞ。 心の中で嘲笑う。”
” 彼は名前を幾つも持っている。 ジュール・エン・レスパン、ジュール・レスパン、町屋由理。 サンテネリにおいて青年は、心から憎んだ家名を終生使い続けた。そして今生日本においては、侮蔑以外の感情を持ち得ない家名を使う。奇しくも同名の。”
”レスパン家の者達は青年亡き後こう見られるだろう。「あの国民会行政委員長、あの『人の自然に関する宣言』を書いた男の係累」と。それほどに愉快なことはない。 ゆえに今生において、彼は由理・レスパンとなった”
”政治家は他者の機微に敏感でなければならない。彼はかつて政治家であった。どれほどの? ある大国の建国の祖と謳われる程度の。”
”少年の記憶は父と母の親密な抱擁、繰り返し交わされる頬への接吻に始まる。父と母はまことに幸せそうに、楽しい毎日を過ごしていた。それは少年の記憶の基層にある。 小学生に上がる直前、父は消えた。”
”大人びた言い回しよりもその語調こそが不思議な印象を生んだ。つまり深く、円熟した知性である。 そして同時に相反するものがあった。若さである。”
”硬い表紙の大判の本。大きな文字で書かれた子ども向けの言葉。 その「言葉」が途方もない数の人々の血によって記されたものであることを少年ジュールは知っていた。かつて故国で、自分の血もまた使われたのだから。文字を描くインクとして。”
”『いつか私の子孫とあなたの子孫が会堂セアトルで語らう。この国の未来を巡って、人々を代表して論戦を交わす。平等な立場で。そしてね、ジュール殿。会議が終われば彼らは二人で旧市に繰り出す。そこで酒を飲みながら趣味の話に花を咲かせる。——友として』”
”俺が生涯において唯一誇れることがあるとすれば、それは俺が、俺だけがあなたを理解したことだ。偉大なグローグロワスを。大王ロー・グローじゃない。偉大なグロワス氏を。”
”町屋由理ジュール・レスパンは、ここ日本において人生の答え合わせを為したのだ。 それで話は終わり。”
” だが、幸運なことに、あるいは不幸なことに、彼は未だ12歳の少年である。 つまり、先を生きなければならない。 物語の結末の先を。”
” それは一個人の業ではない。途方もない、気が遠くなるような試みだ。事実、自分ジュールは為しえなかった。そして「友」もまた。 だが、それを知ってなお一歩を踏み出そうとした意思と、実際に一歩を踏み出したその行動を誰が嗤おうか。それこそが人に為しうる偉大さの最たるものである。”
” 官僚になることも大手企業の重役になることも、あるいはかつて生業とした弁護士や政治家になることも、もはや彼は望まなかった。 彼は別のことを望んだ。 人を揺り動かすもの。人をして偉大なことをなさしめる動因となるもの。それが何であるかを知りたいと望んだのである。 そしてもう一つ。 叶うならば、「友」と再会したいと望んだ。”
”彼はつまるところ、羊の群に迷い込んだ虎であった。飢えた。”
”生来青年の気性は温和なものではない。それは苛烈な攻勢である。 自身の芸名を「由理・レスパン」と決めたのも、自分たち母子を”消費”し、捨てた父親に対する意趣返しである。 おまえが捨てた”生き物”が、おまえの名を名乗って生きているぞ。 心の中で嘲笑う。”
” 彼は名前を幾つも持っている。 ジュール・エン・レスパン、ジュール・レスパン、町屋由理。 サンテネリにおいて青年は、心から憎んだ家名を終生使い続けた。そして今生日本においては、侮蔑以外の感情を持ち得ない家名を使う。奇しくも同名の。”
”レスパン家の者達は青年亡き後こう見られるだろう。「あの国民会行政委員長、あの『人の自然に関する宣言』を書いた男の係累」と。それほどに愉快なことはない。 ゆえに今生において、彼は由理・レスパンとなった”
”政治家は他者の機微に敏感でなければならない。彼はかつて政治家であった。どれほどの? ある大国の建国の祖と謳われる程度の。”
社長への由理の啖呵(20)
モデルのアルバイトを始めた由理が、初対面の「ぼく」に言い放った。
”大した仕事ではないのだから失ったところで痛くはない。”
”「小金持ちのお遊びはさぞや楽しいでしょう。——あなたは本気で思っているんですか? このよく分からない何かで世界が変わると」”
”大した仕事ではないのだから失ったところで痛くはない。”
”「小金持ちのお遊びはさぞや楽しいでしょう。——あなたは本気で思っているんですか? このよく分からない何かで世界が変わると」”
あのならず者(27)
明確にレスパンと認識した由理について、青佳が呼んだ名称。知子は話題に触れもしない。
王冠を脱ぎ去った王(33)
由理によるぼくの評価。
”男はまさに王冠を脱ぎ去った王だった。
自身がもはや貴族会付帯法院の上級判事でもなければ国民会行政委員長でもない、ただの青年に過ぎないのと同様、男もまたサンテネリ国王ではなかった。”
” サンテネリにおいて彼が生涯をかけて希求し、恐らくは王も心から望んだであろう状態、つまり、グロワス・ルロワ氏とジュール・レスパン氏の友誼が、この日本において実現している。”
”男はまさに王冠を脱ぎ去った王だった。
自身がもはや貴族会付帯法院の上級判事でもなければ国民会行政委員長でもない、ただの青年に過ぎないのと同様、男もまたサンテネリ国王ではなかった。”
” サンテネリにおいて彼が生涯をかけて希求し、恐らくは王も心から望んだであろう状態、つまり、グロワス・ルロワ氏とジュール・レスパン氏の友誼が、この日本において実現している。”
週間スラッシュ2019年4月10日号(21)
ぼくと由理のスクープ写真が載った週刊誌。
”即答する由理くんに一堂面食らった様子。面食らいながらも青佳さん、スマホでメモってるんだけど。これ、一歩間違えると彼がなんというか、対象に熱い執着心を持つタイプのアレな人と勘違いされるな。しかも対象がぼくということになる。”
””
”即答する由理くんに一堂面食らった様子。面食らいながらも青佳さん、スマホでメモってるんだけど。これ、一歩間違えると彼がなんというか、対象に熱い執着心を持つタイプのアレな人と勘違いされるな。しかも対象がぼくということになる。”
””
人物/家族・仕事関係者・その他
| 項目 | 話数 |
|---|---|
| ぼくの会社(3) | 3 |
| ぼくの母(1) | 1 |
| ぼくの父(14) | 14 |
| ぼくの行きつけのブランドの店長(3) | 3 |
| 行きつけのブティック3階の店長(18) | 18 |
| ドアマン(7) | 7 |
| 加賀巌(13) | 13 |
| 加賀巌(24) | 24 |
| 商工会議所青年部(7) | 7 |
| 支店長会議(14) | 14 |
| 父から学んだ教訓(14) | 14 |
| 社長(20) | 20 |
| 社長(37) | 37 |
| 総務部長の吉永さん(1) | 1 |
| 親戚のおじさん(12) | 12 |
| 造園会社の古参幹部の容貌(25) | 25 |
ぼくの会社(3)
そこそこ大きくなった造園企業。中身はザ・昭和。業種の特性も相まって男性優位が強い。
ぼくの母(1)
下川のおばさんから茉莉の家庭教師を依頼され、ぼくに頼んだ。
ぼくの父(14)
家系的に内臓が悪く、腸の病気が元で亡くなる。死の間際に錯乱し、ぼくに向かって「おれの本当の息子はどこだ」と叫んだことはぼくに今に続く心の傷を残す。
” もうその頃には死期を悟っていたんだろう。ぼくを毎週末呼び出して、いわゆる「経営の心得」みたいなのを教えてくれたよ。 豪快なエピソードが大量に残る荒っぽい創業者の祖父に比して、父はどちらかというと物静かな人だった。イメージとしては官僚、あるいは大学の先生みたいな。とはいえちゃんと感情はある。抑制されたものながら、ぼくは確かに感じていた。父の愛を。”
”父が最後の大手術を終えたとき、ぼくの世界は変わった。麻酔が変に効いてしまったんだろう。見舞いに行ったぼくに父が変なことを言うんだ。母や親戚には普通なのに、ぼくにだけ。「おれの本当の息子はどこだ! おまえは誰だ!」って。 普段の落ち着きは姿を消して、垂れ下がった瞼を跳ね上げて、父はぼくを凝視してそう言った。何度も。何度も。”(14)
” 混乱の時期が終わって理性を取り戻した父は、いつものように穏やかにぼくに謝ってくれた。
「変なことを言ったみたいだな。すまん」
ぼくはちょっと笑って「いいよ」と答えた。
数日後、父は死んだ。”(14)
” もうその頃には死期を悟っていたんだろう。ぼくを毎週末呼び出して、いわゆる「経営の心得」みたいなのを教えてくれたよ。 豪快なエピソードが大量に残る荒っぽい創業者の祖父に比して、父はどちらかというと物静かな人だった。イメージとしては官僚、あるいは大学の先生みたいな。とはいえちゃんと感情はある。抑制されたものながら、ぼくは確かに感じていた。父の愛を。”
”父が最後の大手術を終えたとき、ぼくの世界は変わった。麻酔が変に効いてしまったんだろう。見舞いに行ったぼくに父が変なことを言うんだ。母や親戚には普通なのに、ぼくにだけ。「おれの本当の息子はどこだ! おまえは誰だ!」って。 普段の落ち着きは姿を消して、垂れ下がった瞼を跳ね上げて、父はぼくを凝視してそう言った。何度も。何度も。”(14)
” 混乱の時期が終わって理性を取り戻した父は、いつものように穏やかにぼくに謝ってくれた。
「変なことを言ったみたいだな。すまん」
ぼくはちょっと笑って「いいよ」と答えた。
数日後、父は死んだ。”(14)
ぼくの行きつけのブランドの店長(3)
銀座の一等地、超ムーディーかつ豪奢なブティックの店主。ぼくにマンガを紹介してくれた。”銀座の一等地、超ムーディーかつ豪奢なブティックの奥で、ソファーに対面で腰掛けた中年の男が二人してマンガを読むというミスマッチ。内容はあまり覚えてない。シャンパンを飲み過ぎまして。(3)”
行きつけのブティック3階の店長(18)
3階のBで始まるブランドのブティックの店長。丁寧に整えた髭のダンディな男性。
”ダンディという言葉がこれほどにフィットすることも珍しい、丁寧に整えた髭の中にある逞しい口元を軽く歪ませて。”
”ダンディという言葉がこれほどにフィットすることも珍しい、丁寧に整えた髭の中にある逞しい口元を軽く歪ませて。”
ドアマン(7)
エストブールのイベント会場のドアマン。美女ふたりを伴って訪れたぼくに対し、黒服をびしっと着こなして恭しくドアを開けてくれた。
加賀巌(13)
ぼくの父の弟。叔父。49歳。地場の不動産屋の娘さんと結婚して婿養子に入った。不動産業。月1くらいで来襲してくる。イケイケ具合に似合わずインテリ。「分かるな?」が口癖。会話が突然ギアチェンジする。
不動産会社経営、49歳、ツーブロックの似合うちょっと日焼けした男性(26)
”ゴリゴリの太ラペルスーツ。ボールドストライプの。もういい歳なのに中年太りはギリギリセーフな感じ。うちの家系は代々痩せ型だから、多分体質だろうね。でも本当にギリギリだよ。界隈御用達の「H」マークバックルが金色に輝くベルトがはち切れそうになってるからね。
ツーブロックの、いわゆる外資系保険営業っぽい髪型にベストマッチした押しが強そうな顔立ち。特に目がね。輪郭がくっきりしていて活力に満ちあふれてる。あー、一言で言うと、イイ感じで仕上がりつつある不動産屋さん。”
”飲み友達もいる。親戚のおじさんでね。不動産業やってる。地場のオフィスからワンルームまで手広く、ザ・不動産って感じの不屈のマインドを持ったおじさん。いい人なんだけど、酔うと説教が長い。”(12)
”チャイムが連打されて、出たら第一声が「居おるかー!」だからね。”(13)
”LVって大きく書かれた茶色のハンドバッグと金無垢デイトナがこの上なくお似合いになるイケイケ具合に似合わず、叔父さんは意外にもインテリだ。
先月かな、ぼくの無気力に対して行われた説教は素晴らしかった。さらっとエピクテトスとか引用してくるからね。「セネカ?」って聞いたら叱られた。”(13)
”「独りで飲むな! 人間は何でこんなにたくさんいると思う。1億も2億も。本来そんなにいらんだろうが。人が多いと土地が細切れになるからな! なのに存在する。理由は一つだ。一緒に飲むためにいる。大体な、おまえ、ワイン業者の気持ち考えてみろ。頑張ってぶどう育てて、ほら、ご丁寧にかわいいこの……なんだ、これ、羊か?」
「アルパカですよ」
「同じようなもんだろうが。細かいことをごちゃごちゃ言うな。それで、この羊のラベルを貼って売りに出してるわけだ。なぜか! おまえに分かるか?」”(13)
”派手なボールドストライプのスーツを着たノーネクタイの、ツーブロックの、金無垢デイトナをはめた50間近の男が空き瓶持っている姿を。”(13)
”「売るためでしょう。それが商売なんだから」
「ああ、ああ、全く分かっておられない。我らが三代目は全然お分かりでない。違うだろ! お客様に気持ちよく飲んでいただくためだろうが。この……あれだ、羊? アルパカ? それを愛でながら、皆で楽しく飲む。その至高の時間をお客様に提供するために、このワインは作られてる」”(13)
”「で、土地もまたしかり。おれたちは確かに土地を売る。建物も売る。でもその実、おれたちが売るのはそこに住むお客様の幸せな時間だろうが。分かるな」”(13)
”「よし! よし分かった! 三代目のお考えはよおく分かった。ここは一つ検証しよう。な!」”(13)
”「あっ、茉莉ちゃん? おお、おじさんだよ。元気にしてるか? うん。そうかそうか。ところで茉莉ちゃん、今おじさん、若旦那と飲んでるんだけどね。もう寂しそうにしててさ。……うん。え? 暇? 来れる? おお、ちょっと待ってな。今スピーカーにするから」”(13)
不動産会社経営、49歳、ツーブロックの似合うちょっと日焼けした男性(26)
”ゴリゴリの太ラペルスーツ。ボールドストライプの。もういい歳なのに中年太りはギリギリセーフな感じ。うちの家系は代々痩せ型だから、多分体質だろうね。でも本当にギリギリだよ。界隈御用達の「H」マークバックルが金色に輝くベルトがはち切れそうになってるからね。
ツーブロックの、いわゆる外資系保険営業っぽい髪型にベストマッチした押しが強そうな顔立ち。特に目がね。輪郭がくっきりしていて活力に満ちあふれてる。あー、一言で言うと、イイ感じで仕上がりつつある不動産屋さん。”
”飲み友達もいる。親戚のおじさんでね。不動産業やってる。地場のオフィスからワンルームまで手広く、ザ・不動産って感じの不屈のマインドを持ったおじさん。いい人なんだけど、酔うと説教が長い。”(12)
”チャイムが連打されて、出たら第一声が「居おるかー!」だからね。”(13)
”LVって大きく書かれた茶色のハンドバッグと金無垢デイトナがこの上なくお似合いになるイケイケ具合に似合わず、叔父さんは意外にもインテリだ。
先月かな、ぼくの無気力に対して行われた説教は素晴らしかった。さらっとエピクテトスとか引用してくるからね。「セネカ?」って聞いたら叱られた。”(13)
”「独りで飲むな! 人間は何でこんなにたくさんいると思う。1億も2億も。本来そんなにいらんだろうが。人が多いと土地が細切れになるからな! なのに存在する。理由は一つだ。一緒に飲むためにいる。大体な、おまえ、ワイン業者の気持ち考えてみろ。頑張ってぶどう育てて、ほら、ご丁寧にかわいいこの……なんだ、これ、羊か?」
「アルパカですよ」
「同じようなもんだろうが。細かいことをごちゃごちゃ言うな。それで、この羊のラベルを貼って売りに出してるわけだ。なぜか! おまえに分かるか?」”(13)
”派手なボールドストライプのスーツを着たノーネクタイの、ツーブロックの、金無垢デイトナをはめた50間近の男が空き瓶持っている姿を。”(13)
”「売るためでしょう。それが商売なんだから」
「ああ、ああ、全く分かっておられない。我らが三代目は全然お分かりでない。違うだろ! お客様に気持ちよく飲んでいただくためだろうが。この……あれだ、羊? アルパカ? それを愛でながら、皆で楽しく飲む。その至高の時間をお客様に提供するために、このワインは作られてる」”(13)
”「で、土地もまたしかり。おれたちは確かに土地を売る。建物も売る。でもその実、おれたちが売るのはそこに住むお客様の幸せな時間だろうが。分かるな」”(13)
”「よし! よし分かった! 三代目のお考えはよおく分かった。ここは一つ検証しよう。な!」”(13)
”「あっ、茉莉ちゃん? おお、おじさんだよ。元気にしてるか? うん。そうかそうか。ところで茉莉ちゃん、今おじさん、若旦那と飲んでるんだけどね。もう寂しそうにしててさ。……うん。え? 暇? 来れる? おお、ちょっと待ってな。今スピーカーにするから」”(13)
加賀巌(24)
夜中でも平気で部下に電話する。
”彼、深夜だろうが平気で部下に電話かけてるからね。 前に夜一緒に飲んだときなんか、ぼくと話してて浮かんだアイデアを流れるように役員だが部長だか知らないけど、そういう人に伝えてた。電話で。夜の12時に。”
”彼、深夜だろうが平気で部下に電話かけてるからね。 前に夜一緒に飲んだときなんか、ぼくと話してて浮かんだアイデアを流れるように役員だが部長だか知らないけど、そういう人に伝えてた。電話で。夜の12時に。”
商工会議所青年部(7)
大体ぼくみたいな境遇の二代目三代目の飲み会グループ。
支店長会議(14)
経営の方針がメインの役員会とは違って、各部門の週次報告と近々の実務的課題を話し合うもの。例の疫病を契機に国の補助金にてビデオ通話も交えた形に変わった。ゴルフの話題などが出る。
父から学んだ教訓(14)
矛盾している。
” 1つはね、父がぼくに施してくれた促成栽培の経営者心得の中にある。父はこう言った。「言いづらいこと、言いたくないことこそ、誤解無く、はっきりと言え」”(14)
” そしてもう1つ。子どもには、言ってはならないことは決して言わないこと。”(14)
” 1つはね、父がぼくに施してくれた促成栽培の経営者心得の中にある。父はこう言った。「言いづらいこと、言いたくないことこそ、誤解無く、はっきりと言え」”(14)
” そしてもう1つ。子どもには、言ってはならないことは決して言わないこと。”(14)
社長(20)
由理が初めて出会った際の「ぼく」。
” クライアントはとぼけた顔をした、中背中肉の、目立った特徴のない男だった。地方の造園会社の3代目。苦労を知らず、親の敷いたレールの上を楽しそうに歩くタイプの人間。 覇気もなく生気も薄い。”
”他者の目を惹くところなど欠片もない、路傍に転がる石のように平凡な、一人の中年男”
” クライアントはとぼけた顔をした、中背中肉の、目立った特徴のない男だった。地方の造園会社の3代目。苦労を知らず、親の敷いたレールの上を楽しそうに歩くタイプの人間。 覇気もなく生気も薄い。”
”他者の目を惹くところなど欠片もない、路傍に転がる石のように平凡な、一人の中年男”
社長(37)
つい数年前まではイケイケだった。というか一昨年までイケイケだったのでは。なにがあった?
”つい数年前までは、ぼくも意外とイケイケの経営者だったので。 思えばあの頃も謎の焦燥感に駆られていた。恐怖かな。ぼくが一瞬でも停まれば会社が無くなってしまうんじゃないかって。部下の信頼を失うんじゃないかって。今にして思えば、その恐れを忙しさでかき消すことに全力を傾けていた感があったね。 そしてここ1年くらいは暇を持て余すようになった。 単純明快な真実に気づいたからだよ。ぼくが居ようが居まいが何も変わらないという。”
”つい数年前までは、ぼくも意外とイケイケの経営者だったので。 思えばあの頃も謎の焦燥感に駆られていた。恐怖かな。ぼくが一瞬でも停まれば会社が無くなってしまうんじゃないかって。部下の信頼を失うんじゃないかって。今にして思えば、その恐れを忙しさでかき消すことに全力を傾けていた感があったね。 そしてここ1年くらいは暇を持て余すようになった。 単純明快な真実に気づいたからだよ。ぼくが居ようが居まいが何も変わらないという。”
総務部長の吉永さん(1)
悪い知らせを最悪のタイミングで持ってくることで有名。コンビニ弁当をつつくぼくに、三沢さん退職の知らせを報告。
※暗君での侍従長メリーズ子爵がイメージ?
※暗君での侍従長メリーズ子爵がイメージ?
親戚のおじさん(12)
→加賀巌
造園会社の古参幹部の容貌(25)
いかつい人が多い。
”うちの社もね、業界が業界ゆえに気合い入った人たちは結構いるからね。父の代からの古参幹部の方とか若い頃の写真見ると驚くよ。反社会勢力に属してらしたのかな、みたいな。”
”うちの社もね、業界が業界ゆえに気合い入った人たちは結構いるからね。父の代からの古参幹部の方とか若い頃の写真見ると驚くよ。反社会勢力に属してらしたのかな、みたいな。”