『ナジャ』(なじゃ、原題:Nadja)は、フランスのシュルレアリスム運動の指導者アンドレ・ブルトン(André Breton、1896–1966)が1928年に発表した自伝的小説で、シュルレアリスムの記念碑的作品。

1963年に著者自身による全面改訂版が出され、現在読まれるのは主にこの版だ。物語というより「自動記述」の手法で綴られたドキュメントであり、写真や挿絵が本文に組み込まれ、テキストとイメージが融合した革新的な形式を持つ。1926年10月4日、パリの街角でブルトンは謎めいた若い女性と出会う。彼女は自らを「ナジャ」と名乗り(ロシア語で「希望」の始まりを意味する)、本名は明かさない。
ナジャは幻覚を見、奇妙な言葉を口走り、シュルレアリスムの自動記述のような言動を連発する。ブルトンは10日ほどにわたって彼女と会い続け、カフェでの会話、街歩き、ホテルの部屋での出来事を克明に記録する。ナジャは娼婦の過去を持ち、幼い娘がいるが、精神の不安定さからやがて発狂し、サン=タンヌ病院やペレー=ヴォークリューズ病院に入院する。
ブルトンは彼女を「真の人生」の体現者と見なしながらも、距離を置き、ついに関係を断つ。
ブルトンは彼女を「真の人生」の体現者と見なしながらも、距離を置き、ついに関係を断つ。
解説
本書の核心は「私は誰か?」(Qui suis-je?)という問いから始まる自己探求と、偶然の出会い(objet trouvé)がもたらす「驚異」の追求にある。ナジャはブルトンにとって「誰でもない、誰でもある」存在であり、シュルレアリスムの理想——無意識の解放、夢と現実の融合——を体現する女神のような女性だ。テキストにはパリの街角、カフェ、ホテルの写真が散りばめられ、読者はブルトンの視点を通じて「現実の超現実」を追体験する。結語の有名な一文「美は痙攣的なものであろう。それ以外にはないであろう」は、シュルレアリスムの美学を象徴する。