───何なんですの!!あの女は!!
考え得る限りの悪罵を零しながら。
私、北条沙都子は夜の街を駆けていた。
金の髪を振り乱し、全身から汗をとめどなく流して走る。
狼に追われる羊の様に逃げ惑うその様は、今の私には似つかわしくない、無様な姿だった。
私、北条沙都子は夜の街を駆けていた。
金の髪を振り乱し、全身から汗をとめどなく流して走る。
狼に追われる羊の様に逃げ惑うその様は、今の私には似つかわしくない、無様な姿だった。
(おかしいですわ!こんなの…何故わたくしが……!!)
今の私は、オヤシロ様──雛見沢の新たなる神なのだから。
体感時間にして百年前。エウア、という正体不明の女神、或いは宇宙人に魅入られ。
私は力を得た。
自分の死をトリガーに時を操り、昭和五十八年六月を延々と繰り返す、その力を。
かつて雛見沢で起きた百年の惨劇。
その全ての脚本を手に入れ、惨劇を思うがままにコントロールできるようになった。
ループの力を活用し、銃の扱いも五十年以上の特訓を経て凄腕のガンマンと並ぶほどになった。
もう、大人であろうと一対一では負けない。そう思えるほどに成長した。
体感時間にして百年前。エウア、という正体不明の女神、或いは宇宙人に魅入られ。
私は力を得た。
自分の死をトリガーに時を操り、昭和五十八年六月を延々と繰り返す、その力を。
かつて雛見沢で起きた百年の惨劇。
その全ての脚本を手に入れ、惨劇を思うがままにコントロールできるようになった。
ループの力を活用し、銃の扱いも五十年以上の特訓を経て凄腕のガンマンと並ぶほどになった。
もう、大人であろうと一対一では負けない。そう思えるほどに成長した。
(わたくしには──こんな事をしている暇も…こんな場所で死ぬ訳にはいけませんのに!)
全ては、親友古手梨花を捕らえるため。
大好きな梨花と、永遠に続く昭和五十八年六月を繰り返す事こそ、私の望み。
強情な梨花。頑固な梨花。私に決して屈しようとしない不屈の梨花。
生まれ育った故郷を、私を捨てて、外の世界に出ようとする裏切者の梨花。
逃がさない、決して。絶対に。
貴方は既に、オヤシロ様である私の物なのだから。
オヤシロ様の巫女である貴方は、ずっと私のそばにいればいい。
それこそが終わらない幸せ。
ずっとずっと輪廻(ループ)する幸せを、私は永遠に着飾って。
大好きな箱の中の猫を、慈しみながら過ごすのだ。
大好きな梨花と、永遠に続く昭和五十八年六月を繰り返す事こそ、私の望み。
強情な梨花。頑固な梨花。私に決して屈しようとしない不屈の梨花。
生まれ育った故郷を、私を捨てて、外の世界に出ようとする裏切者の梨花。
逃がさない、決して。絶対に。
貴方は既に、オヤシロ様である私の物なのだから。
オヤシロ様の巫女である貴方は、ずっと私のそばにいればいい。
それこそが終わらない幸せ。
ずっとずっと輪廻(ループ)する幸せを、私は永遠に着飾って。
大好きな箱の中の猫を、慈しみながら過ごすのだ。
───ここでは君のオヤシロ様の力も制限されている。自殺するのはやめた方がいい。
あの、乃亜という子供に殺し合いをしろと命じられて。
兄弟が死ぬのを無感情に眺めていた私は。
訳の分からないカケラに迷い込んだと思った私は、先ず死のうとした。
とんだ意味不明な傍流に巻き込まれてしまった、そう思って。
そうして、自殺用の武器を探してデイパックの中を漁っていたら見つけたのが、私の制限を示した、乃亜からのメッセージカードだった。
どうやら、エウアさんから賜った能力はこの場所では制限されているらしい。
兄弟が死ぬのを無感情に眺めていた私は。
訳の分からないカケラに迷い込んだと思った私は、先ず死のうとした。
とんだ意味不明な傍流に巻き込まれてしまった、そう思って。
そうして、自殺用の武器を探してデイパックの中を漁っていたら見つけたのが、私の制限を示した、乃亜からのメッセージカードだった。
どうやら、エウアさんから賜った能力はこの場所では制限されているらしい。
(つまり、此処で死んでしまえばそれで終わりということ……!!)
だが、焦りは無かった。さっきの兄弟程度の相手ばかりなら、まぁ自分が負ける事は無い。
そう考えていたから。
兄弟の方の片割れは何某かの特殊能力を有していたようだが、あの程度なら抗す術は幾らでもある。
何しろ、雛見沢の百年の惨劇に、人が死ぬバリエーションは事欠かなかったから。
謀殺する手段は、簡単に思いついただろう。
もし本当に参加者があの兄弟程度の力量の持ち主だったなら……
そう考えていたから。
兄弟の方の片割れは何某かの特殊能力を有していたようだが、あの程度なら抗す術は幾らでもある。
何しろ、雛見沢の百年の惨劇に、人が死ぬバリエーションは事欠かなかったから。
謀殺する手段は、簡単に思いついただろう。
もし本当に参加者があの兄弟程度の力量の持ち主だったなら……
(それなのに……!あんなの!反則ですわ!!)
支給された銃で撃っても、ビクともしなかった。
同じく支給された、私にとって馴染み深い悪魔の薬も、あんな相手では刺す暇がない。
今こうして逃げられているのも、相手が何か明らかにやる気がないからでしかない。
追跡者がその気になれば簡単に私は殺されるだろう。
同じく支給された、私にとって馴染み深い悪魔の薬も、あんな相手では刺す暇がない。
今こうして逃げられているのも、相手が何か明らかにやる気がないからでしかない。
追跡者がその気になれば簡単に私は殺されるだろう。
(銃で撃っても!死なない相手を呼ばないで欲しいですわ!!)
迷いのない、支給された拳銃での頭部への三点制圧射撃(スリーショット・バースト)
見事命中したにも関わらず、相手の反応はケロリとしていた。
そして、その両手から伸びた剣で切りかかってきたのだ。
眼への銃撃と、咄嗟に尻もちつくことで命を拾ったが、追撃されていれば間違いなく死んでいただろう。
それから必死に逃走を開始して、今に至る。
見事命中したにも関わらず、相手の反応はケロリとしていた。
そして、その両手から伸びた剣で切りかかってきたのだ。
眼への銃撃と、咄嗟に尻もちつくことで命を拾ったが、追撃されていれば間違いなく死んでいただろう。
それから必死に逃走を開始して、今に至る。
(あの方は──いない!逃げ切れたんですの?)
と、不意に背中から感じていた圧迫感が消えて、振り返り背後を確認する。
先ほど自分が出会った少女は、いなかった。
逃げ切ったのかと、立ち止まって、呼吸を整える。
ここまでずっと走り通しだったため、呼吸が苦しい。
胸を押さえながら深呼吸をして、もう一度走ってきた道を確認する。
そこに人影は無かった。
先ほど自分が出会った少女は、いなかった。
逃げ切ったのかと、立ち止まって、呼吸を整える。
ここまでずっと走り通しだったため、呼吸が苦しい。
胸を押さえながら深呼吸をして、もう一度走ってきた道を確認する。
そこに人影は無かった。
(どうやら──撒けたようですわね?)
その事を確認して、思わず年相応の少女の様に胸を撫で下ろす。
拳銃も一先ず仕舞い、人心地つく。
どうやら相手は自分を見失った様だが、まだ安心するのは早い。
そう思って、直ぐにここから離れようとした、その時だった。
拳銃も一先ず仕舞い、人心地つく。
どうやら相手は自分を見失った様だが、まだ安心するのは早い。
そう思って、直ぐにここから離れようとした、その時だった。
─────!?!?!?!?
さっきまでいなかった筈の少女が前方に現れ、振り向いた瞬間剣を向けてきたのは。
動くことが、できない。
そうすれば、この少女は私の首を即座に撥ねるだろう。
私は、私が詰んだことをその瞬間に悟った。
動くことが、できない。
そうすれば、この少女は私の首を即座に撥ねるだろう。
私は、私が詰んだことをその瞬間に悟った。
(あーあ、ここで負けとは。オヤシロ様も形無しですわね……)
屈辱だった。
少し前までのただの北条沙都子ならともかく。
今の私が、こんな殺し合いに巻き込まれて、為すすべなく早期脱落するのは。
だが、百年惨劇を繰り返してきた私だからこそ分かる。
今の私に、この状況から逆転する手段は無い。
口惜しいが、死ぬのには慣れている。
ここでなお不様を晒すよりは、大人しく断頭の刃を受け入れようと思った。
視線と視線が交わり、少女の瞳を見るその時までは。
少し前までのただの北条沙都子ならともかく。
今の私が、こんな殺し合いに巻き込まれて、為すすべなく早期脱落するのは。
だが、百年惨劇を繰り返してきた私だからこそ分かる。
今の私に、この状況から逆転する手段は無い。
口惜しいが、死ぬのには慣れている。
ここでなお不様を晒すよりは、大人しく断頭の刃を受け入れようと思った。
視線と視線が交わり、少女の瞳を見るその時までは。
「……どうしたんですか、早くおやりなさいな」
……美しい女の子だった。伸ばされた白銀の髪に、妖精の様な整った顔立ち。
けれど、絶望に囚われた目をしていた。
梨花が同じ目をしてくれれば、私は手を叩いて喜んだだろう。
もっとも、梨花でも何でもない子供がそんな目をしていても、嬉しくも何ともないが。
私がさっさと殺すように促しても、当の本人はうわ言のように、何かをぶつぶつと呟いて。
何だか、見ていてイライラしてくる子供だった。
その苛立ちのままに手を伸ばす。
反射的に今度こそ首を絶たれると思ったが、慣れた死という現象は、やってこなかった。
そのまま目の前の少女の顔を両手で掴む。
けれど、絶望に囚われた目をしていた。
梨花が同じ目をしてくれれば、私は手を叩いて喜んだだろう。
もっとも、梨花でも何でもない子供がそんな目をしていても、嬉しくも何ともないが。
私がさっさと殺すように促しても、当の本人はうわ言のように、何かをぶつぶつと呟いて。
何だか、見ていてイライラしてくる子供だった。
その苛立ちのままに手を伸ばす。
反射的に今度こそ首を絶たれると思ったが、慣れた死という現象は、やってこなかった。
そのまま目の前の少女の顔を両手で掴む。
「……やる気があるんですの!?」
返事は帰ってこなかった。
こうやって顔を触られても、まだ私を見ていない。
視界に入ってはいるが、それだけだ。首筋に剣を当てながらまだぶつぶつとうわ言を呟いている。
オヤシロ様となった私を完膚なきまでに詰ませた力の持ち主なのに。
何だそれは、と思った。
勝者は敗者の悔しがる顔を眺めて、それを踏み躙りながら先へと進むものだろう。
殺されるにしても、こんな夢現な相手に殺されるのはごめんだ。
気づけば、私は静かに、目の前の子供に問いかけていた。
こうやって顔を触られても、まだ私を見ていない。
視界に入ってはいるが、それだけだ。首筋に剣を当てながらまだぶつぶつとうわ言を呟いている。
オヤシロ様となった私を完膚なきまでに詰ませた力の持ち主なのに。
何だそれは、と思った。
勝者は敗者の悔しがる顔を眺めて、それを踏み躙りながら先へと進むものだろう。
殺されるにしても、こんな夢現な相手に殺されるのはごめんだ。
気づけば、私は静かに、目の前の子供に問いかけていた。
「……貴女、お名前は?」
その言葉に、目の前の少女が初めて反応を見せる。
ぴくりと、肩を震わせて。うわ言ではなく、はっきりと。
彼女は、自分の事をメリュジーヌと名乗った。
ぴくりと、肩を震わせて。うわ言ではなく、はっきりと。
彼女は、自分の事をメリュジーヌと名乗った。
■
その日、私は私の一番愛していた妖精(ヒト)を殺した。
■
アルビオン。
神の時代が落陽を迎え、人の時代に移り変わろうとしていた頃。
それでもなおブリテンに留まり続けようした紅き竜。
世界の裏側に消えていった同族たちから取り残された、最後の幻想種。
アルビオンは強大だったが、移り変わろうとする時代のうねりには勝てなかった。
神秘の衰退により力尽き、朽ち果てたアルビオンの左腕から生まれたのが私だった。
尤も、誕生した時は人の姿ですらない。
アルビオンの遺骸が眠る昏くて腐った汚濁の中に沈む、ただの肉塊だったけれど。
神の時代が落陽を迎え、人の時代に移り変わろうとしていた頃。
それでもなおブリテンに留まり続けようした紅き竜。
世界の裏側に消えていった同族たちから取り残された、最後の幻想種。
アルビオンは強大だったが、移り変わろうとする時代のうねりには勝てなかった。
神秘の衰退により力尽き、朽ち果てたアルビオンの左腕から生まれたのが私だった。
尤も、誕生した時は人の姿ですらない。
アルビオンの遺骸が眠る昏くて腐った汚濁の中に沈む、ただの肉塊だったけれど。
────私は、オーロラ。貴女、お名前は?
昏くて汚い汚濁の水面で、僕は、妖精(オーロラ)に出会った。
彼女に抱きかかえられた時、肉塊だった私は、妖精の形を得た。
元は龍の遺骸の左腕だった僕が、少女の、妖精の形を取った理由は単純だ。
ただ、彼女(オーロラ)の様になりたい、その一心だった。
僕は、僕を抱きかかえる彼女以上に、美しい物を見た事が無かった。
眼にして、人の形を得た瞬間、瞳から熱いものが流れた。
それほどまでに、僕を救った奇跡(オーロラ)は美しかったのだから。
そして僕は彼女の騎士として生きようと思った。
何があろうと、オーロラを……彼女の笑顔と、七色に光る翅の輝きを守ると誓った。
彼女に抱きかかえられた時、肉塊だった私は、妖精の形を得た。
元は龍の遺骸の左腕だった僕が、少女の、妖精の形を取った理由は単純だ。
ただ、彼女(オーロラ)の様になりたい、その一心だった。
僕は、僕を抱きかかえる彼女以上に、美しい物を見た事が無かった。
眼にして、人の形を得た瞬間、瞳から熱いものが流れた。
それほどまでに、僕を救った奇跡(オーロラ)は美しかったのだから。
そして僕は彼女の騎士として生きようと思った。
何があろうと、オーロラを……彼女の笑顔と、七色に光る翅の輝きを守ると誓った。
────貴女は私の王子様だもの。
────何時だって、私が一番欲しいモノを持ってきてくれるのよね?
────何時だって、私が一番欲しいモノを持ってきてくれるのよね?
そうして、僕は、私は。
オーロラの望みを叶え続けた。
『妖精も人間も共存できる世界を目指す。最も優しく慈愛に満ちた妖精』
いつだって彼女はそう見えるようにふるまい続けた。
でも、それは事実とは違っている。
オーロラの望みを叶え続けた。
『妖精も人間も共存できる世界を目指す。最も優しく慈愛に満ちた妖精』
いつだって彼女はそう見えるようにふるまい続けた。
でも、それは事実とは違っている。
彼女が愛しているのは、自分だけだから。
自分を愛してくれる環境。
自分が一番でいられる世界を大切にしている。
人間よりもずっと強い妖精の中で人間を庇護するのは、人間達からチヤホヤされるため。
妖精たちの旗印になるのは、そうしていれば誰からも尊敬されるから。
優れた指導者の様に見えるのは、彼女が誰とも争わないため。
自分が一番愛される存在でなければならない彼女がこれまで生き残ってきたのは。
彼女が強かったからからじゃない。
ただ、他の指導者の足を引っ張るのが上手かっただけなのだ。
自分が一番でいられる世界を大切にしている。
人間よりもずっと強い妖精の中で人間を庇護するのは、人間達からチヤホヤされるため。
妖精たちの旗印になるのは、そうしていれば誰からも尊敬されるから。
優れた指導者の様に見えるのは、彼女が誰とも争わないため。
自分が一番愛される存在でなければならない彼女がこれまで生き残ってきたのは。
彼女が強かったからからじゃない。
ただ、他の指導者の足を引っ張るのが上手かっただけなのだ。
───僕は悪くない、僕が殺したかったんじゃない。
───オーロラ、オーロラ…どうか聞かせてくれ……
───僕は、私は、君がありがとうと言って笑ってくれれば、それだけで……
───オーロラ、オーロラ…どうか聞かせてくれ……
───僕は、私は、君がありがとうと言って笑ってくれれば、それだけで……
自分より人気の妖精が出るたびに、“思いつき”で世界を悪い方へと転がしていく。
彼女に悪意はない。
だってそうすることが、彼女にとって生きるという事だから。
そうしなければ、自分より優れた誰かを貶めなければ、一番でなければ。
彼女は、枯れて死んでしまうから。精神のみならず、肉体的にも。
人が、呼吸しなければ死んでしまうのと同じように。
それが彼女の、妖精としての特性だった。
だから本当に、心の底から“自分に邪魔な相手は危険な相手である”。
そう思いつくだけなのだ。
その想い付きで、僕に一つの部族を滅ぼせと命じ。
最後には、彼女の思い付きは女王を…妖精國そのものを滅ぼすに至った。
そして、僕は、そんな彼女の思いつきに、最後まで従い続けた。
彼女に悪意はない。
だってそうすることが、彼女にとって生きるという事だから。
そうしなければ、自分より優れた誰かを貶めなければ、一番でなければ。
彼女は、枯れて死んでしまうから。精神のみならず、肉体的にも。
人が、呼吸しなければ死んでしまうのと同じように。
それが彼女の、妖精としての特性だった。
だから本当に、心の底から“自分に邪魔な相手は危険な相手である”。
そう思いつくだけなのだ。
その想い付きで、僕に一つの部族を滅ぼせと命じ。
最後には、彼女の思い付きは女王を…妖精國そのものを滅ぼすに至った。
そして、僕は、そんな彼女の思いつきに、最後まで従い続けた。
───わかってる…わかってる……!
───愛されていないなんて、分かってる……!
───愛されていないなんて、分かってる……!
あれは奇跡、奇跡だった。
昏い沼の底で蠢くだけだった肉塊が、彼女に抱きかかえられた瞬間、人の形を得た。
人の姿のみならず、心を知った。憧れを知った。
決して揺らぐことのない、振りほどくことのできない愛を知った。
その愛を追いかけて、僕は後戻りのできないところまで進み続けた。
昏い沼の底で蠢くだけだった肉塊が、彼女に抱きかかえられた瞬間、人の形を得た。
人の姿のみならず、心を知った。憧れを知った。
決して揺らぐことのない、振りほどくことのできない愛を知った。
その愛を追いかけて、僕は後戻りのできないところまで進み続けた。
───ブリテンの外!カルデアの人たちから聞いたでしょう!
───こんな、つまらなくなった世界より、きっとずっとマシのはず。
───だって、憐れで汚くて弱弱しい人間達だけの世界なんですもの!
───もっと簡単に、もっと行儀よく、理想の世界が作れるわ!!
───可愛い人。私のメリュジーヌ。今一番貴女を愛しているわ。
───手を出して、私の手を握って、新しい生活を始めましょう?
───こんな、つまらなくなった世界より、きっとずっとマシのはず。
───だって、憐れで汚くて弱弱しい人間達だけの世界なんですもの!
───もっと簡単に、もっと行儀よく、理想の世界が作れるわ!!
───可愛い人。私のメリュジーヌ。今一番貴女を愛しているわ。
───手を出して、私の手を握って、新しい生活を始めましょう?
彼女の暗躍と扇動によって。
ブリテンは…女王モルガンが作り上げた妖精國は地獄絵図となった。
呪詛と殺戮、暴徒が蔓延し、誰の目にも末期であるのは明らかだった。
そんな地獄を創り上げてなお、彼女の関心は既に外の世界へ向いていた。
そして、彼女を、僕は。私は。
ブリテンは…女王モルガンが作り上げた妖精國は地獄絵図となった。
呪詛と殺戮、暴徒が蔓延し、誰の目にも末期であるのは明らかだった。
そんな地獄を創り上げてなお、彼女の関心は既に外の世界へ向いていた。
そして、彼女を、僕は。私は。
───そんなわけ、ないんだよ……!
───君が外の世界で愛されるハズが無いんだ…!君は此処でしか一番になれないんだから……!
───外の世界はこの妖精國程単純じゃないんだ。君が害悪だなんて事は、直ぐに見抜かれる……!
───そんな世界で君が生きていけるとでも!?
───澄んだ水の中でしか生きていけない君が!
───君が外の世界で愛されるハズが無いんだ…!君は此処でしか一番になれないんだから……!
───外の世界はこの妖精國程単純じゃないんだ。君が害悪だなんて事は、直ぐに見抜かれる……!
───そんな世界で君が生きていけるとでも!?
───澄んだ水の中でしか生きていけない君が!
僕は、オーロラを刺した。
今迄生きてきた妖精國はもうすぐに滅びる。
かといって、外の世界は彼女にとって終わりのない地獄に他ならないから。
きっとすぐに、彼女の輝く翅も、姿も、色あせて衰えていく。
その事実に誰よりも彼女(オーロラ)自身が耐えられない。
自分を愛せなくなって、絶望する。
そんな地獄の未来に、彼女を連れて行くわけにはいかない。
だから刺した。
今迄生きてきた妖精國はもうすぐに滅びる。
かといって、外の世界は彼女にとって終わりのない地獄に他ならないから。
きっとすぐに、彼女の輝く翅も、姿も、色あせて衰えていく。
その事実に誰よりも彼女(オーロラ)自身が耐えられない。
自分を愛せなくなって、絶望する。
そんな地獄の未来に、彼女を連れて行くわけにはいかない。
だから刺した。
例え、彼女が死ねばこの身体がただの肉塊に戻るとしても。
生涯を賭けて守ると誓った、私の愛(すべて)を、喪うとしても。
生涯を賭けて守ると誓った、私の愛(すべて)を、喪うとしても。
■
「……そして、頭の中が真っ白になって……気が付いたら此処にいた」
話を聞いた理由は、反撃の手段を考える時間が欲しかったから。
何故そんな光のない瞳をしているのか、そう尋ねた。
尋ねた瞬間は無言で。十秒後にぽつりぽつりと語り出し、やがて止まらなくなった。
彼女の話を聞いて。
何を言っているかは八割がた分からなかったけれど。
それでも確信できることが、三つだけあった。
まだ、私の悪運は尽きていないということ。
今この、メリュジーヌさんは、空っぽなこと。
そして、この方は私の役に立つ、ということ。
何故そんな光のない瞳をしているのか、そう尋ねた。
尋ねた瞬間は無言で。十秒後にぽつりぽつりと語り出し、やがて止まらなくなった。
彼女の話を聞いて。
何を言っているかは八割がた分からなかったけれど。
それでも確信できることが、三つだけあった。
まだ、私の悪運は尽きていないということ。
今この、メリュジーヌさんは、空っぽなこと。
そして、この方は私の役に立つ、ということ。
「…なら、貴方がすべきことは一つですわ、メリュジーヌさん」
にぃ、と笑って。今も剣が首筋に添えられているにも関わらず。
私は、北条沙都子は前に進み出た。
抵抗は無いだろうと思って、事実抵抗と呼べる動きは無かった。
私は、メリュジーヌさんの身体を優しく抱きしめる。
そして、耳元で囁いた。
私は、北条沙都子は前に進み出た。
抵抗は無いだろうと思って、事実抵抗と呼べる動きは無かった。
私は、メリュジーヌさんの身体を優しく抱きしめる。
そして、耳元で囁いた。
「オーロラさんとやらと、一緒に生きていきたいのでしょう?」
「彼女との最後を、後悔しているのでしょう?」
「愛が欲しいのでしょう?」
「そのために、わたくしを襲ったのでしょう?」
「彼女との最後を、後悔しているのでしょう?」
「愛が欲しいのでしょう?」
「そのために、わたくしを襲ったのでしょう?」
瞳を紅く染めて。
カラメルの様に甘い囁きを、彼女へと届ける。
リンゴを食べろと、嘯いた蛇のように。
カラメルの様に甘い囁きを、彼女へと届ける。
リンゴを食べろと、嘯いた蛇のように。
「……でも、貴方だけでは駄目ですわ」
「貴女の様に、絶望に囚われた瞳をしていては、勝てる勝負も勝てません」
「絶望と言う運命を乗り越えるには、絶対の意志が必要なのですから」
「貴女の様に、絶望に囚われた瞳をしていては、勝てる勝負も勝てません」
「絶望と言う運命を乗り越えるには、絶対の意志が必要なのですから」
抱きしめた彼女の唇が、仄かに震える。
その口から、呆然と「絶対の、意志…」と、言葉が漏れる。
そして、彼女とこの瞬間初めて、会話が成立する。
その口から、呆然と「絶対の、意志…」と、言葉が漏れる。
そして、彼女とこの瞬間初めて、会話が成立する。
「………大した…自信だね。君に、その絶対の意志があるの?」
問いかけに、「ありますわ」と、即答で答える。
私は私を信じている。
絶対の意志が無ければ、梨花に打ち克つことなど出来はしないのだから。
何百年かかろうと、私は私の望んだ未来へ必ず辿り着く。
だから、こんな所で負けるわけにはいかない。
何を利用してでも、必ず昭和五十八年の雛見沢へと帰って見せる。
私は私を信じている。
絶対の意志が無ければ、梨花に打ち克つことなど出来はしないのだから。
何百年かかろうと、私は私の望んだ未来へ必ず辿り着く。
だから、こんな所で負けるわけにはいかない。
何を利用してでも、必ず昭和五十八年の雛見沢へと帰って見せる。
「……さっきは僕に殺されようとしてたよね」
「ええ。ですが、結果的に死んでいないでしょう?」
「………」
「ええ。ですが、結果的に死んでいないでしょう?」
「………」
抱きしめていた体を離し、そっと右手を出す。
もう首筋に剣は当てられていなかった。
もう首筋に剣は当てられていなかった。
「一緒に、優勝を目指しましょう。メリュジーヌさん」
「貴方が信じて居なくとも、わたくしは絶対の意志を信じます」
「貴方はただ、わたくしを利用すればいい。わたくしも貴方を利用します」
「最後に二人残った時、わたくしの首を撥ねればそれで貴方が優勝者です」
「貴方が信じて居なくとも、わたくしは絶対の意志を信じます」
「貴方はただ、わたくしを利用すればいい。わたくしも貴方を利用します」
「最後に二人残った時、わたくしの首を撥ねればそれで貴方が優勝者です」
その手が握られることは無かった。
けれど彼女はくるりと私に背を向けて。
一言、唸る様に言葉を紡いだ。
けれど彼女はくるりと私に背を向けて。
一言、唸る様に言葉を紡いだ。
「……私は、君の騎士になるつもりはない」
「だけど、私は彼女のために生きる、そう決めた」
「彼女がせめて、もっとマシな最期を迎えられるなら──」
「君の様な者とだって、手を組もう」
「だけど、私は彼女のために生きる、そう決めた」
「彼女がせめて、もっとマシな最期を迎えられるなら──」
「君の様な者とだって、手を組もう」
───すみませんね。オーロラさん?
───でも貴方、もうメリュジーヌさんは要らないのでしょう?
───だったら、わたくしが代わりに使って差し上げますね?
───私が私の望む未来へと、辿り着くために。
───でも貴方、もうメリュジーヌさんは要らないのでしょう?
───だったら、わたくしが代わりに使って差し上げますね?
───私が私の望む未来へと、辿り着くために。
■
目の前の人間の少女が、邪悪である事は見ただけで分かった。
この子はきっと、オーロラと同じ気質の人間だ。
だけれど、オーロラよりもずっと賢くて…普通の人間ではない事も分かった。
彼女に与すれば、また僕の手は血に染まる事も察せた。
けどそれでも、僕は彼女の誘いを拒絶する事ができなかった。
愛してくれとは言わない。二人で生きていきたいとも願わない。
ただ、せめて。あの終わりを否定できるのなら。
僕の奇跡(オーロラ)の終わりをもっと穏やかなモノにできるのなら。
悪魔に魂を差し出しても、構わなかった。
この子はきっと、オーロラと同じ気質の人間だ。
だけれど、オーロラよりもずっと賢くて…普通の人間ではない事も分かった。
彼女に与すれば、また僕の手は血に染まる事も察せた。
けどそれでも、僕は彼女の誘いを拒絶する事ができなかった。
愛してくれとは言わない。二人で生きていきたいとも願わない。
ただ、せめて。あの終わりを否定できるのなら。
僕の奇跡(オーロラ)の終わりをもっと穏やかなモノにできるのなら。
悪魔に魂を差し出しても、構わなかった。
「……私は、君の騎士になるつもりはない」
「だけど、私は彼女のために生きる、そう決めた」
「彼女がせめて、もっとマシな最期を迎えられるなら──」
「君の様な者とだって、手を組もう」
「だけど、私は彼女のために生きる、そう決めた」
「彼女がせめて、もっとマシな最期を迎えられるなら──」
「君の様な者とだって、手を組もう」
本当は、優勝を目指すだけなら、彼女の力など必要ない。
人間と最強種の間では、殺し合いなど成立するはずがないのだから。
此処で彼女を斬って捨てて、目についた他の参加者を次々に血の海に沈めて行けばいい。
魔力の問題も、無尽蔵にして超高出力の魔力を生み出せる龍種の心臓ならば問題ない。
けれど、「絶望に囚われていては勝てない」という彼女の言葉は。
皮肉にも、私の胸の奥深くへと突き刺さった。
確かにオーロラを刺した以上、私はいつまで人の形を保っていられるかは分からない。
最後の一人と言う所で、肉塊に戻る可能性もある。
だから、彼女の言う絶対の意志を利用しようと……いや、これは建前だ。
尤もらしい理屈をつけても、本当の理由は単純で。
酷く疲れ切っていた所に、彼女がはっきりと進むべき指針を示してくれたのは有難かった。
だから、私は家族と喧嘩した少女が行きずりの男に身を任せる様な、退廃的な思考で。
北条沙都子と名乗った少女の、甘言に乗ったのだった。
人間と最強種の間では、殺し合いなど成立するはずがないのだから。
此処で彼女を斬って捨てて、目についた他の参加者を次々に血の海に沈めて行けばいい。
魔力の問題も、無尽蔵にして超高出力の魔力を生み出せる龍種の心臓ならば問題ない。
けれど、「絶望に囚われていては勝てない」という彼女の言葉は。
皮肉にも、私の胸の奥深くへと突き刺さった。
確かにオーロラを刺した以上、私はいつまで人の形を保っていられるかは分からない。
最後の一人と言う所で、肉塊に戻る可能性もある。
だから、彼女の言う絶対の意志を利用しようと……いや、これは建前だ。
尤もらしい理屈をつけても、本当の理由は単純で。
酷く疲れ切っていた所に、彼女がはっきりと進むべき指針を示してくれたのは有難かった。
だから、私は家族と喧嘩した少女が行きずりの男に身を任せる様な、退廃的な思考で。
北条沙都子と名乗った少女の、甘言に乗ったのだった。
あぁ、僕は、私は。どうあっても君の為にしか生きられないらしい。
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:健康
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(10/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、H173入り注射器
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
[状態]:健康
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(10/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、H173入り注射器
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、自暴自棄(極大)
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
1:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
2:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
[状態]:健康、自暴自棄(極大)
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
1:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
2:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。
【H173@ひぐらしのなく頃に業】
発症すると妄想や幻聴、疑心暗鬼を催す雛見沢症候群を強制発症させる悪魔の薬品。
H173はその促進剤であり注射すれば即座に末期症状まで進行した状態で発症するが、
今ロワでは制限により初期症状の状態で発症する程度に抑えられている。
投薬方法は主に静脈注射だが、綿騙し編では経口摂取によって発症したともとれるため、
飲み物に混ぜるなどでも発症させることができる。
発症すると妄想や幻聴、疑心暗鬼を催す雛見沢症候群を強制発症させる悪魔の薬品。
H173はその促進剤であり注射すれば即座に末期症状まで進行した状態で発症するが、
今ロワでは制限により初期症状の状態で発症する程度に抑えられている。
投薬方法は主に静脈注射だが、綿騙し編では経口摂取によって発症したともとれるため、
飲み物に混ぜるなどでも発症させることができる。
176:灰色少年と明るい少女 | 投下順に読む | 189:「藤木、殺し合いに乗る」の巻 |
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START | 北条沙都子 | 009:さぁ誰かを、ここへ誘いなさい |
START | メリュジーヌ |