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命も無いのに、殺しあう

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ここで別れましょう。
人形は、雅な平安貴族のお子様にそう告げた。
貴族のお子様は瞼に涙を一杯に溜めて、いやいやと首を横に振った。
一人にしないでたも。マロも連れて行って銀ちゃん。そう懇願する。
だが、人形にとっても状況は逼迫していた。

何しろ敵は二人。
戦力外のお子様を守りながら戦う余裕はとてもない。
このままでは二人纏めて共倒れになる状況下で、お荷物を連れている余裕は無かった。
人形には、やらなければならない事があるのだから。


―――死が二人を別つまで?

―――いいえ 死んでも一緒だわ。


肉体的には壊れかけの、精神的には既に壊れてしまっている自分の媒介(ミーディアム)。
彼女を攫った欲しがりの末妹が、この地にいるという。
では、自分の媒介は今どうしているのか?
末妹が傍にいるときは、彼女が面倒を見ていたはずだ。
だから生命の維持という一点に限れば、人形はそこまで心配していなかった。
だが、その末妹がここにいるというという事は、つまり。
今、媒介(めぐ)は一人きりという事か?
病院で治療を受けていなければ、命の維持すら危うい体で?


────私はね、ニケ程甘くないの。


作り出した黒翼をひた、と。お子様の首筋に添えて。
異を唱えるなら、ここで殺す。
口にすることなく、人形はお子様にその決定を突き付けた。
シャンバラの長距離移動はさっき使ってしまったばかりだ。
短距離移動を連続使用し距離をとることに成功したものの、このままでは追い付かれる。
残された時間はもう一分もないだろう。
だからこれ以上、駄々ばかりの甘ったれに付き合っている暇はない。


───この曲がり角でさよならよ。着いてきたら殺すわ。


そう言っても、お子様は動かない。
いやだいやだと、駄々をこねて。
だから人形は、容赦なく黒翼をお子様に見舞い、追い立てた。
本当は、お子様のことを僅かに哀れに思う気持ちも僅かにあったけれど。
それでも共倒れするよりは余程マシな選択肢だろう。
頭の中でそう反芻して、自己を納得させた。
勇者がいた頃とは違うのだ。何もかも。

お子様は足が遅い。狙うとしたら、彼だろう。
対する自分は飛べる。シャンバラと組み合わせれば、逃げ切れる勝算は十分だ。
もし、追跡者二人ともが自分を追ってきたとしてもそれは変わらない。
その間にお子様が何処かの誰かに保護されれば、上手くいけば二人とも助かる。
だから恨みっこなしよ。口にしないまま、胸の中で言い聞かせるように呟いた。


───こんな所で……ジャンクになるわけにはいかないのよ、私は。


薔薇乙女。生み出された時からたった七人の姉妹と争う事を宿命づけられた人形。
血の通わぬ実の姉妹を相手に何度も戦い、傷つけあった。
全ては父に愛されるために。完璧な少女(アリス)となるために。
自分たちは、絶望するために生まれてきたのだ。
やがて永い時間をかけて、人形が行き着いたのは、そんな考えだった。
かつて姉妹が共にあった時間を遠い過去と打ち棄て。
壊しあい(アリスゲーム)における最も積極的な“マーダー”として人形は行動し続けた。
現在の、媒介(めぐ)に出会うまでは。そして、出会ってからは。
自分と同じ壊れた子(ジャンク)を、何故か放っておけず。こうして駆けずり回っている。
不思議なものだと、人形は独り言ちる。




───あんなに、アリスを目指していたのに。
───あんなに、お父様に愛されることを求めていたのに。


この殺し合いに招かれてからずっと。
思い浮かぶのは、媒介の顔だった。
まさか、自分の中でお父様よりも媒介の方が大きい存在になっているとでも言うのか?
馬鹿らしい。そんなの、手段と目的が逆転しているじゃないか。
あんな壊れた子(ジャンク)を、お父様よりも───


「何て、ね………」


どこか哀切を帯びた表情で、浮かんだ考えを一蹴する。
第一今は感傷に浸っている場合ではない。
生きるか死ぬかの瀬戸際なのだから。
思考を切り替えて、翼を広げる。
大丈夫、あのお子様を囮に飛んで逃げれば、きっと逃げ切れる。
一対一なら戦ってもよかったが、媒介もいない以上無駄なリスクを負うべきではない。
そう考えて、人形は黒翼をばさりと羽ばたかせた。
空中でシャンバラを使用すれば、人形がそこにいた痕跡は消えてなくなる。
それを狙い、シャンバラを掲げて使用しようとしたところで。
地上ではお子様がよたよたと民家に隠れようとしているのが見えた。
……人形が付けた傷から流れた血痕にも気づかずに。


───ジャンクなんて、誰もいないのだわ。


その姿を見て、何故かどこまでも反りの合わない五番目の妹の言葉を想起した。
彼女なら、この状況においてもお子様を見捨てないのだろうか。
例え二対一の絶望的な状況下で、それでも美しく咲き誇るのだろうか。
雑念めいた思考が、胸中を漂う。


「バッカみたい」


それでジャンクにされては元も子もない。
あのお子様は自分の媒介とは違う。命を懸ける理由はどこにもない。
だから、これでいい。これが正解。
殿を務めた勇者の姿を見てから、過剰に感傷的になっている。良くない兆候だ。
いつもの自分に戻るために。冷酷な逆十字を背負わされた最凶の薔薇乙女に戻るために。
一抹の躊躇を切り捨て、人形は帝具を使用した。
全身が、帝具が発した光に包まれる。


────っ!?


その刹那の事だった。


「隙あり、よ」


ついさっきまで人形を追いかけていた二人組の片割れ。
褐色の少女が突如隣に現れ、その手の姉妹剣を振り下ろしていた。
人形の漆黒の羽が、青いキャンパスに垂らした墨のように広がった。



      ◆     ◆     ◆     



逃げ込んだコンビニの物置で、こぶたのしないをぎゅっと握りしめて。
坂ノ上おじゃる丸は考え付く限りの神や仏に祈っていた。
銀ちゃんは本当に自分を置いて行ってしまった。ニケもここにはいない。
つまりそれは、頼れる者は誰もいないということを意味する。
たった一人取り残されたおじゃるにとって、今の状況は心細さと不安、それに恐怖でおかしくなりそうだった。



(カジュマァ…田ボ…父上…母上…パパ上…愛ちゃん……月光町のみな………
この際小鬼めらでも構わぬ……シャクも三日くらいなら返してもよいから………)


だから、マロを助けて。
水銀燈に付けられた傷がじくじくと痛む中で、必死に体を縮ませて。
父や母、友誼を交わした者たちに助けを乞う。
この恐怖から生きて帰ることができたら、もっといい子になるから。
ここから生きて帰れるのであれば閻魔大王に、尺を数日返したっていいから。
だから、どうかこんな怖い場所から、今すぐ自分を帰してください。
今のおじゃる丸の胸にある思いはただそれだけだった。
ぎゅう、とお守りのように抱いたこぶたのしないを握りしめて、一心に祈る。



「Midnight with the stars and you───(真夜中に星々と君と)」



しかし、祈りだけで救われる程、この島は優しくなかった。
ヴィィン、と扉が開く機械音がして。
コツコツと白いタイルを靴が叩く音が響く。
息を潜めた静寂を破るのは、悪徳の街においても天使と称される歌声だった。


(き、来たでおじゃる………どうして来るのかの………)


おじゃる丸に追跡を撒けるような技術はない。
元より鬼ごっこやかくれんぼは足の遅い彼は苦手だ。
その上で、血痕という目印があれば、逃げ延びる事は不可能だった。
それ狙って、同行者である水銀燈は、攻撃を行ったのだから。
羊飼いが、餓えた肉食獣の前に羊を差し出して見逃してもらうように。


「Saying I surrender all my love to you───(すべての愛を私にささげると)」


おじゃる丸の緊張と恐怖を他所に、侵入者は楽し気に詩を口ずさむ。
この時狭いコンビニの中は、彼女専用のステージになっていた。
生憎歌を聴く観客は一人だけだけれど、それでもどこまでも無邪気に、旋律を刻む。


(奇麗でおじゃる………)


胸に抱いた奇麗という言葉は侵入者の容姿か、それとも美声に向けられた言葉だったか。
おじゃる丸には我のことながら分からなかった。
それほどまでに、物置の扉の隙間から覗き見た侵入者の容姿と声は美しかったのだ。
朝日に照らされる中、黒の喪服と長い銀の髪を優雅に揺らして。
くるくるとステップを踏み、歌を口ずさみながら店内を物色する様は、息を飲む程だった。
もしこんな島でなく月光町で出会ったなら、きっとお近づきになりたいと思っただろう。
ただ、少女の身に纏う喪服に染み込んだ返り血と、鉄錆の匂いが。
幼いおじゃるの本能に、目の前の少女は危険な存在だと訴えてくる。


「Midnight brought us sweet romance───(真夜中は甘いロマンスのひとときと)」


地獄の聖母の様な少女を前に。
おじゃる丸は彼女が一刻も早くこの場を去ることを祈っていた。
お願い、見つけないで。早くどこかに行って。
血痕を補足されている以上虚しさしか残らない願いを、しかし天に届くと信じ。
雅なお子様は、食い入るように少女を見つめる。


(…………ひっ)



そうしている内に。
陳列棚のあるフロアを一通り検めた少女の視線が、トイレと物置に向かう。
それを受けたおじゃるは慌てて隙間が空いているのに気づかれないように、扉を閉めた。
それがいけなかった。
少女の歌声と足音以外は無音でなければならない店内に、微かにだがはっきりと。
キィ……という音が響いたのだから。


(な、何故音を立ててしまうのでおじゃる~~~!!!!)


バクバクと心臓がうるさい程に早鐘を打つ。
おじゃる丸は自分の犯した失態に泣きたい気分だった。というより泣いていた。
口を押えて最後の悪あがきとでもいう様に息を潜める。
股座が湿り熱を持って気持ち悪かった。
ぶるぶると身を震わせて、時が過ぎるのを待つ。
やがて耳に響いていたコツコツという靴音が、すぐ近くで止まった。
目を閉じていても、扉一枚を挟んだ向こう側に死神がいるのだと分かってしまう。
助けてカズマ。助けて田ボ。助けて父上。助けて母上。助けてパパ上。助けて愛ちゃん…
目を閉じて、胸の中で祈る語気をより強く。



(………………)



天に祈りを捧げてから、十秒…二十秒……三十秒………一分。
隠れ潜む物置の扉が開けられる事はなかった。
引きずり出されて、殺されてしまうなんて事は起こらなかった。


(い、行ったのかの………?)


足音も、歌声も聞こえない。
静寂だけがおじゃるの小さな体を包み、平穏な時間が続く。
もしかして、やりすごせたのでは?
頭の中に沸いた都合の良い考えに、おじゃるは逆らうことができず。
ぐっしょりと緊張の汗で汗だくの顔を上げ、瞼を開き。
物置の扉に窓のように据え付けられたガラス部分を仰ぎ見る。
すると、そこには。


「おっ!?おじゃぁああぁああ~~~~!?!?!?」


天使のように美しい、悪魔の笑みがそこにあった。
銀髪の少女は無言で、楽し気に。
必死に祈りを捧げるおじゃるの姿を見下ろしていたのだ。ずっと。
…少し考えればわかる話ではあった。
歌声はともかく、足音が響いていないのに少女が何処かに行ったなど、あり得ぬ話だと。


「た…助けてたも。雅でかわゆいマロを殺すなど………できぬはずでおじゃ………」


おじゃるの言葉に、少女は答えなかった。
ただ一度頷いて、こつこつと何処かに歩いていく。
物置の扉に鍵のようなものはない。殺そうと思えばいつでも殺せる。
なのに、何で押し入ったり、引きずり出して自分を殺さない?
呆然とするおじゃる丸の耳に、また歌声が響いてきた。
その歌声に誘われるように身を起こし、また扉を少しだけ開いて。
その隙間から、喪服の少女の様子をもう一度検める。


「I know, for my whole life through──(生まれてからずっと知っていた)」


少女が歌い出したことによって。
再び店内は、彼女という歌手の独占ステージに代わる。
朝日に照らされながら歌声を綴る喪服の少女の姿は。
一枚の宗教画の用に非日常的で、美しかった。
死の美というものが、おじゃる丸の視界に広がっていた。




「───殺すわ。私と兄さまが生きるために…永遠に輪廻(リング)を回すために。
殺している限り、私たちの存在は終わらない。Never Die だもの」



扉を開く気配を察したのか。
歌を中断し、くるりと喪服に包まれた体をターンさせて。
ふわふわとした、愛玩動物のように愛らしい笑顔で。
けれど吐かれた言葉は、餓えた肉食獣そのものだった。
事実上の死刑宣告。
後半の意味は理解できなかったけれど、前半の言葉の意味は幼いおじゃるにも分かった。
再び、ドッと汗が噴き出す。
少女の所作が。笑顔が。短いやりとりの中、頭ではなく心で理解させてくる。
この娘は、自分を生かして見逃すつもりなどないと。


「~~~~~~♪」


だけれど、少女は言葉とは裏腹に。
鼻でハミングなど刻んで。またくるりと身を翻してしまう。
そして、陳列棚に並べられたお菓子などを見分し、おじゃるに無防備な背中を晒した。
少なくとも、自分から仕掛けてくるそぶりは見られない。
その姿を見て、おじゃる丸にある一つの考えが浮かぶ。


───今なら、このこぶたのしないを使えば……


少女を子豚に変えて、逃げられるのではないか?
何しろ、つい先ほど目の前の銀髪の少女より強そうだったナカジマにも通用したのだ。
豚にしてしまって驚いている内に逃げる事は、不可能ではないのでは?
さっきとは別種の理由で鼓動が早くなる中、ぎゅうとこぶたのしないを握りしめる。


(い、いや……たとえ無理でも、やらねば、マロは………!)


少女はこのコンビニで唯一の出入り口の前に陣取っている。
店員用の出入り口も一応あったが、どの道少女の前を通っていかねば辿り着けない位置だ。
故におじゃるのいる場所は、どちらにしても袋小路なのだった。
だから、目の前に立ちふさがる死から逃れようとすれば、少女を何とかするほかない。
覚悟を決める他ない事を、状況は嫌でも幼いお子様に突き付けてくる。


(や……やるでおじゃる。マロは、まだ死にたくないでおじゃる………!)


ミッションは実に単純。
油断しているとみられる目の前の少女の背中をこぶたのしないで突き。
相手が豚になって驚いている間に逃走する。これだけだ。


(できる。マロはできる子でおじゃるぅ……!も、もう怖いのもいやでおじゃる……!)


これ以上、恐怖に怯えるのも耐えられなかった。
今でこそ少女は楽しそうに歌っているが。
殺すと宣言した以上、いつ気が変わって自分を殺しに来るかわからないのだから。
だから、やられる前にやる。やるのだ。やらなければ未来はない。
血走った眼で、己の内側から湧き上がる初めて感覚に突き動かされるように。
おじゃる丸は、決意を固めた。
体の震えはそのままに、その手に握る武器だけは手放さぬよう固く握りしめて。
一秒。
──二秒。
───三秒。




「おっおじゃあぁああああ~~~~~~!!!!!」


おじゃる丸は、駆け出した。
バン、と体で物置の扉を押しのけて。
狭くて寒々しい空間から、朝日に照らされる明るい空間へ躍り込む。
目指す先は勿論、脱出口を塞ぐ喪服の少女の元だ。
てしてしてしてしと、彼を知るものが見れば目を疑うであろう速さで。
転倒することもなく、おじゃるは死神の今なお無防備な背中に肉薄した。


「おじゃっ!」


ぎゅっと目を瞑って、祈るように。
その手のこぶたのしないを突き出す。
通じてくれ。自分を逃がしてくれ。何とかしてくれ、お願いだと。
物言わぬ竹刀を神のように崇めつつ、おじゃる丸は僅かな勝機をつかみ取らんとする。
果たして、彼の狙いは達成された。
ぱしんと音を立て、身長差の関係で突き出された竹刀が少女の足を捉える。
当たった。この手ごたえは間違いない。
後は、ナカジマの様にこの少女が豚に変わるだけ───、


「フフッ、ざーんねん。サムライにはなれないわね、貴方」


竹刀を引き戻したとき、先端が引っかかって命中した部分、少女の脚部が露わとなる。
気づいたのは、直後のことだった。
モノにしたと考えた勝機が、少女の仕掛けた陥穽。
張りぼてでしかなかったことに。
こぶたのしないは、乃亜の調整で対象者の肉体に直接当たらなければ効果を発揮しない。
では、おじゃる丸の感じた手ごたえは全く見当違いであったのかと問われればそれも違う。
彼の一撃は、確かに少女の足を捉えていた。
少女の、金色に輝く義足の部分を。
古代遺物(アーティファクト)、走刃脚(ブレードランナー)と、その義足は呼ばれていた。



───分かったわ。お姉さん。そんなに怖い顔をしないで。
───お姉さんのいう通り、お姉さんのお友達には何もしないから。
───だけど、“武器”は必要よね?



今から数時間ほど前。
少女が海馬CPのエントランスを吹き飛ばした少し後、
錬金術師と海馬乃亜の類縁者の少年を襲う空白の時間。
少女がその義足を得たのはその時のことだった。
不治(アンリペア)が義足を用い戦闘を行っているのを、少女もまた目撃していた。
あれは優れた武器だと思っていたため、ただ埋葬するのは惜しい。
そう同行者の弓兵の少女に訴えた。

弓兵の少女は二人の死体を玩具とする事は断固として反対だったが。
戦力の増強という合理的な理由を提示されれば否定もできなかった。
仕方なく投影魔術で解析を行った所、使用者を選ぶタイプの武器では無い事が判明。
しかしこれを身に着けるならば両足を切断する必要がある。
嫌味たっぷりに述べられた装着条件を、喪服の少女は涼しい顔で受け入れた。
地獄の回数券を言う非合法ドラッグの存在が、両足切断というリスクを踏み倒させたのだ。


───ふふ、ぴったりだわ。ガラスの靴に見えるかしら?


据え付けられた、先ほどまでサイズが違っていたはずの義足は。
少女の足に据え付けられると同時に、ぴったりと彼女の切断した足の断面に収まった。
担い手と認めた相手のサイズにぴったりと収まる。
例え別の古代遺物(アーティファクト)の効果で、十年以上肉体年齢を操作された肉体でも。
それが走刃脚(ブレードランナー)の特性だった。


まるで本当にガラスの靴を履いた灰かぶりの様に、くるくると笑顔で舞う喪服の少女。
そんな彼女を、相方である弓兵の少女は完全に気狂いを見る視線で見つめていた。
だって、そうだろう。ドラッグを摂取した状態であれば失血の心配はないとはいえ。
両足切断なんて、筆舌に尽くしがたい痛みを伴うなど自明なのだから。
イカレてる。両足の切断作業を担当した弓兵の少女は吐き捨てるようにそう零し。
喪服の少女は特に気にすることなく、上機嫌で弓兵の少女と接吻を交わした。

そして、現在。
錬金術師との戦いでは彼女に隙が乏しく、披露する機会がなかった刃は。
雅なお子様にとって最悪の形で、再び血を吸うために現れたのだった。


「うふふ、そうだわ。“練習相手“として、丁度よさそうね」


ヒュッと、風切り音が店内を巡り。
それと共に、お子様の握る竹刀が持ち手の部分を残して切り裂かれる。
これでもう、武器としては用をなさない。


───助けて、カズマ。


尻もちをついて、喪服の少女を見上げた刹那。
脳裏に浮かぶのは、同居人であり、友である石好きな少年の顔だった。
その顔が消えるのと同時に。




お子様にとっての短く、しかし酸鼻を極める地獄が始まった。




      ◆     ◆     ◆     




本当に、お馬鹿さんねぇ。
臍を?みたくなる劣悪な状況下で、水銀燈は襲撃者の少女に蔑如の言葉を投げかけた。


「こんな殺し合いに優勝したとして、乃亜が願いを叶えると貴方本気で思ってるの?」


声色は冷たく。
しかし相手に冷静な思考を呼び起こさせ、少しでも戦意を削げる様に。
ニケがいるときに出会った中島ほどではないが、目の前の少女は強い。
常人なら相手にならない薔薇乙女の自分と比較しても、勝てるとは断言できない水準だ。
だから媒介との契約もできていない身で、ぶつかるのは避けたかった。


「…お生憎様。願いが叶おうと叶うまいと、やるしかないの、こっちは」


水銀燈のそんな思惑を真っ向から打ち砕くように。
クロエ・フォン・アインツベルンの戦意は陰りを見せず。
弓兵の少女は、澱んだ瞳で両手の夫婦剣を人形へと向ける。


「はッ、乃亜の靴を舐めてまで、叶えてもらいたい願いでもあるのかしら?」


嘲笑う様な言葉を述べながら、その裏で自分の状態を確認する。
初撃の奇襲で、黒翼は片方に損傷を負っていた。
飛ぶことは問題ないが、速度はかなり落ちる。
更に、発動前だったためにシャンバラも奇襲によってどこかに飛んで行ってしまった。
現状では、正攻法での逃走は非常に困難であると言う他なかった。
戦闘で決して小さくはない隙を作ってから逃走するしか選択肢はない。
故に会話で状況を引き延ばしつつ、脳裏で策を巡らせる。
今は、考える時間をこそ最も欲していた。



「………………」
「……だんまりじゃつまらないじゃない。お話しましょうよ。
どうせこれが、お互い最後になるんだし………ね?」


余裕。悠然。不敵。
水銀燈は苦境である事を悟らせない、底を見せぬ立ち振る舞いを徹底していた。
アリスゲームの経験と、ローゼンメイデンの能力を総動員して、目の前の敵手の隙を見出さんとする。


(…雛苺や翠星石よりは少なくとも強い。武器が剣だけって感じでもない感じかしら)


だが、付け入るスキはある。
それを即座に水銀燈は見抜いた。


「フフ、緊張してるの?剣が震えてるわよ」
「……ッ、誰が…………」


目の前の敵は、強さは厄介だが、精神的には確実に本調子ではない。
事実剣は震えていないが、初歩的なブラフに反応を示したのが良い証だ。
説得できるかもしれない、とまでは考えない。
このまま心理戦で揺さぶりをかけ、隙を引き出す。
そして、一度でも大きな隙を作る事ができれば自分はそれを見逃さない。
少なくとも目の前の相手をジャンクにする事は十分可能だという自負があった。



「お話もできないくらい……私が怖い?」



だから彼女は挑発の言葉を重ねる。
少しでも相手の情報を引き出せるように。
策を練る時間を得るために。
手持ちのカードを僅かにでも強く見せられる様に。
目論見は、ある意味では功を奏した。
彼女の狙い通り、僅かにだが気圧された様に、弓兵の少女が口を開いたからだ。



「───生きる為」
「え………?」



その言葉を聞いて。
水銀燈の思考に、空白が生まれる。
策を練る筈だった意識と思考の全てが、クロエの言葉へと向けられた。


「私、もう永くないのよ」


だって、短い発言の中から伺える少女の境遇と。
哀切を含んだ表情は。
水銀燈の良く知る少女と、全く同じものだったから。



「──私は、取り戻すの。私の人生を………!」



魂を分けた片割れの奥底に意識を沈められて。
お前は要らないと言われて。
そんなの、受け入れられるはずがない。
そのまま消えていくなんて我慢ならない。
ただ、生きて居たい。
その一心で自分はこの手を血に染めたのだから。
そして今回も。苦渋の決意と共に双剣を握り締める。



「だから───貴女も死んで!!」


言い終わると同時に、疾走を開始する。
その表情に先ほどまでの動揺はなく。
鋭利な狩人の表情に、クロエ・フォン・アインツベルンは変わっていた。


「───ッ!」


対する水銀燈は、一手遅れた。
揺さぶりをかける筈が、揺れてしまったのは逆に自分の方で。
これでは結果があべこべだ。


「チッ!」


舌打ちを一度行った後、その手に握っていた戦雷の聖剣を振り上げる。
意識を切り替えろ。思考を切り替えろ。
目の前の相手は、ただ殺し合いに恐慌を起こして乗った相手と変わらない。
だから、願いが何であれ、自分に思う所は何一つない!


「──このッ!」


ガァン!と硬質の物質同士がぶつかり合う音が鳴り響く。
人間の少女の膂力ではない。水銀燈は瞠目した。
速度も間違いなく白兵戦において、薔薇乙女の中で随一の蒼星石を上回るそれだ。
接近戦は不味いと一瞬で判断。
何しろ彼女は薔薇乙女以外との戦闘経験は殆ど無い。
お互いを知り尽くした蒼星石ならば兎も角、手の内の分からない相手となれば。
出来る事なら、普段通り遠距離からの黒翼を用いた戦闘に持ち込みたかった。


「人形のくせにやるじゃない」
「お褒めの言葉ありがと、ねぇ……!」


のしかかる剣の重みに堪えながら、余裕の笑みを作り直し。
数秒前の動揺を感じさせない淀みのなさで、そのまま戦雷の聖剣から雷撃を放つ。
本来の担い手と比べれば数パーセントの出力しか発揮されていないとはいえ。
英霊に匹敵する黒円卓の魔人が振るっていた聖遺物。
本来の英霊よりもさらに劣化した出力であるクロエには十分脅威となる雷だった。
鍔迫り合いの状態から肉食獣のように素早いバックステップで距離を取る。


「死になさい──!」


後退した敵手に向けて、容赦なく水銀燈は黒翼を振るった。
最初に襲撃されたただの人間の少女と違い、とても手加減できる相手ではない。
持てる力をすべて使って、速攻で潰す。そう彼女は決断した。
翼が振るわれると同時に、数十発以上の漆黒の羽がクロエへと殺到する。
散弾銃を遥かに超える速度と量だ。ただの人間ではとても対応できない。
周囲の景色が黒一色へと染まる。しかし───


「悪いわね」


一本の矢が、漆黒の津波を貫く。
波濤を突き破る凶撃。咄嗟に反応できたのは、殆ど偶然に近かった。
突風が顔面のすぐ隣を吹き抜け、射抜かれた自身の銀の髪の毛を目の当たりにして。
水銀燈の全身に戦慄が走る。


「私、むしろ遠距離戦(そっち)の方が本職なの」



弓兵(アーチャー)だから。
クロエは二の矢、三の矢を引き絞りながら、そう水銀燈に告げた。
その様を見た水銀燈の第六感が、けたたましく警鐘を鳴らす。
今しがた敵手が言った言葉は嘘ではない。立ち振る舞いを見れば分かる。
慣れた遠距離戦であれば主導権を握る事は可能だと、そう踏んでいたが甘かった。
それでも防御が間に合ったのは、彼女の薔薇乙女としての能力の高さの証明に他ならない。


「くっ───!!!」


ダメージを受けていない翼の黒翼を何層も重ね合わせ、即席のバリケードへ。
初手の奇襲によって羽にダメージを受けたとは思えない早業だ。
更に、もう片方のダメージを負った翼をも動かし、防御と迎撃を一手に行う。
彼女は雪華綺晶の言葉の通り、最強の薔薇乙女と呼ぶに相応しい判断力を有していた。


「っ、冗談じゃない……っ!」


二の矢の防御は叶った。
先ほど防御を貫いてきた致死の矢を、今度は見事に反らすことに成功する。
だが、二の矢に重ねるように発射された三の矢は。
二の矢を反らしたことで防御が甘くなったポイントを突き進む。
反らし弾く様な複雑な操作は最早叶わない。
そう判断した水銀燈は一瞬のうちに可能な限りの黒翼を展開し、砦の様に展開する。
直後、ズン!という砲弾が撃ち込まれた様な音と衝撃が、翼を通じて水銀燈を襲った。
衝撃は激しかったが、ダメージは無い。防御を解き、反撃に移る。
そう。移ろうとした、その時の事だった。


(────まず、いッ!?)


水銀燈は、己の失策を悟った。
防御した弓矢が、消えていない。
消えていないだけならば問題はない。
だが、黒翼に突き立てられたその矢を見た瞬間、冷たい物が彼女の背筋を駆けた。
即座に防御態勢に移行しようとするが、一手遅れた。


───壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)


一秒後、射られた矢が眩い輝きを放ち。
閃光と衝撃が、水銀燈を襲った。




      ◆     ◆     ◆     



ハァハァと荒い息を吐いて。
水銀燈は吹き飛ばされ、叩き込まれたスーパーの壁に背中を預けた。
状況はすこぶる付きで悪い。
褐色の少女は、媒介と契約していない状態で戦うには厳しい相手だった。
あの爆発で五体満足で生還できたのは奇跡だったと言ってもいいが。
吹き飛ばされた時にボディ全体が叩きつけられ、あちこちが痛い。


(おじゃる丸と契約しておくべきだったからしら………)


一瞬そう考えるものの、追手が二人の状況では既にあの子供は死んでいるだろう。
戦っている最中に供給が途絶えた方が危険だと、即座に窮地に沸いた考えを棄却する。
都合よくニケが助けに来ればいいが、彼を見捨てて逃げたのが自分だ。
だから、自分自身の手で何とかするしかない。
と、そんな時だった。
水銀燈の頭上で、小さな輝きがチカチカと瞬く。



「………メイメイ。見つけた?えぇ、そう。分かったわ」


チカチカと、水銀燈の顔の隣を揺蕩う光点。
彼女の自動精霊であるメイメイだった。
水銀燈が戦っている最中に探し物を命じられ、つい先ほど目当ての代物を発見したらしい。
更に、捜索の最中メイメイが発見したのはそれだけではなかった。
偶然探し当てたそれを、自動精霊は主へと差し出す。


「────これって」


水銀燈の目が見開かれる。
メイメイが差し出したそれは、水銀燈にとって馴染み深く、憎んだ姉妹のものだった。
鈍い輝きを放つ、真紅のローザミスティカが、そこにあった。


「………お手柄よ、メイメイ」


何故これがここにあるのかは分からない。
だが、使えるものを使わぬまま安穏とできる余裕のある状況ではない。
例えそれが、最も気に入らない姉妹のものであってもだ。
刹那の思索ののち、無言で水銀燈は真紅のローザミスティカを取り込む。
そっと胸に添えたその輝きは、溶けるように抵抗なく水銀燈の胸に吸い込まれた。


「ふ、ぅ……あ………」


力が満ちる感覚に伴い、官能的な声が漏れる。
全身に負ったダメージが癒されていく。
折れた片翼は元通りに動かせるようになり。
戦雷の聖剣を握っていた手にも、力が籠った。


「これなら……」


メイメイが発見した物の所まで、妨害を?い潜り到達は可能。
彼我の戦力差を理解しながらも、そう水銀燈は判断する。
更にランドセルから一枚のカードを取り出し、準備は整った。
後は行くだけだ。


「さぁ………勝負よ」


脳裏に自身の媒介の顔を強く焼き付けながら、剣を握りしめて。
待ち伏せを行っているであろう弓兵の待つ外へと、その身を飛び出した。




      ◆     ◆     ◆     



思ったより、早かったわね。
水銀燈が吹き飛ばされたスーパーから200メートル程離れた電柱の上に陣取り。
店内から飛び出してきた人形を観察しつつ、クロエはそう考えた。
壊れた幻想を受けた後、店内に逃げ込んだのは確認していたが、あえて追わなかった。
理由は単純に、白兵戦での消耗を抑えたかったからだ。
乾坤一擲の覚悟で突撃を受ければ、思わぬ反撃を負う可能性がある。
だから、選んだのは遠距離からの狙撃。狙いすました一射で標的の絶命を狙う。
標的はまだ気づいていない。きょろきょろと周囲の様子を伺っている。


「───じゃあね」



躊躇や不安を心の奥底に沈め。
自分でも驚くほど冷静で、冷淡な声を発して。
手にしていた弓矢を放った瞬間の事だった。


────お手付きよぉ、お馬鹿さん。


先ほどまで周囲を伺い、自分を探していた筈の標的と目が合う。
殆ど同時に、コンマ数秒前に顔があった場所を弓矢が突き抜け、後方へと突き刺さる。
俄かに驚愕するクロエだったが、驚愕はそれだけに留まらなかった。
初手の奇襲で損傷させたはずの翼で、人形──水銀燈が羽ばたいたからだ。
これでは壊れた幻想で爆撃を行った所で、爆風は彼女には届かない。
どうやって即座に位置を割り出していたのかは分からないが。
だが視線を向ける迷いのなさと表情から、虚を突くことを狙っていたのは明白だった。


「くっ───!」


消耗を敬遠し、追撃に消極的だったのが裏目に出た。
恐らく支給品の効果で負った損傷を癒したのだろう。
いや、それどころか、飛行速度は出会った時まで遡ってももっとも早い。


(飛ぶ速度が上がってる………!)


二射、三射と弓を射かけるも、今の水銀燈には当たらない。
ひらりひらりと三次元的に中空を躍り、放たれた矢を潜り抜けていく。
クロエが文字通り命を消費して作った矢を、だ。
三射目を回避され、彼我の距離があっという間に100を切る。


(それなら、宝具で───)


通常の矢よりも更に高速かつ、空間すら捻じ切る攻撃力の宝具で射落とす。
魔力消費は痛いが、人形の速度から逆算すればこれで決められるはずだ。
目まぐるしく思考を回しながら、投影を開始する。


───この瞬間を待ってた。


通常の弓矢とは違い、宝具を投影する僅かなインターバル。
攻撃の手が緩む、5秒にも満たない時間。
クロエが作ってしまった僅かな陥穽を、水銀燈は見逃さなかった。
漆黒の両翼が、渾身の力で振るわれる。


(……ッ!攻撃も、さっきより早い上に強い───!)


さっきまでは散弾銃が如く放たれていた黒翼が、今は機関銃(マシンガン)だ。
飛行速度だけでなく、攻撃の鋭さも威力も先ほどまでとは段違いに上がっている。
弱体化しているとは言え、サーヴァントに近しい肉体でも危険な攻撃。
その上、今回はクロエの方が一手遅れていた。
迫って来る漆黒の天蓋は、最早純粋な回避運動では躱せない。
残された選択肢は、受ける事だけ。



───熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!


クロエの掌に紫の花弁を模した防御壁が現れる。
対軍宝具すら防ぎきる盾だ。如何にパワーが上がっていようと黒翼が貫くことはない。
だが、油断はしない。慢心も無い。
既にクロエにとって水銀燈は単独のうちに倒しておきたい脅威だ。
アイアスの盾で身を守りつつ、今度はクロエの方から距離を詰める。
敵の攻撃範囲は先ほどよりも広く、威力も遥かに増している。
物量で押されれば危険だ。そのため、遠距離戦より不得手と見た接近戦で確実に倒す。
そう、死ぬのは───



────貴方よ。


彼我の距離が20メートルを切る。
奇しくもその瞬間に考えた事は、双方同じだった。
クロエは展開していたアイアスの代わりに慣れ親しんだ夫婦剣を手に飛び掛かり。
水銀燈は片手に握っていた戦雷の聖剣を跳ね上げる。
投影された干将莫邪と、戦雷の聖剣が空間に火花を散らす。
一拍の間に十を超える剣閃が交錯し、鎬を削る衝突音は大気を震わせて。


(やっぱり力も上がってるか………でも!)


先ほど剣を交わしたときは膂力でいえば自分が圧倒していた。
今はいなして真っ向から打ち合わなければ、押し負けない程度に敵の力が上がっている。
一言で言ってやり手だ。人形に人の年齢の概念を当てはめるのは滑稽だが。
それでも戦うことを念頭に置いて、かなり長い年月を重ねたのは間違いないだろう。
人間の子供の経験値では断じてない。


(実力では私のほうがやっぱり上みたいね!)


先ほどよりもスペックが上がっているとはいえ。
それでも膂力、スピード、共に自分には及ばない。
このまま行けば押し切れる。
両手に握りしめた二刀を操りながら、クロエは自身の勝利を予感していた。
そして、その決定打となる瞬間が到来する。
撃ち込まれた水銀燈の剣を、交差させた二刀で絡めとったのだ。


「せぇええいッ!!」


カァンと乾いた音を立てて、戦乙女の剣が宙を舞う。
いける。予感が確信へと変わる。
今の水銀燈は空手だ。ほかに何か武器を隠し持っている気配はない。
接近戦では黒翼での迎撃も、自分を止められる水準の物は難しいだろう。
このまま押し切る。クロエは両手に力を込めて。
そして、眼前の水銀燈と視線を交差させた。


───お手付き。これで二度目、ね?


視線が交差した瞬間。
クロエは感じた勝機が、敵によって用意された虚像だった事を悟る。
交錯前の刹那、彼女は己の心眼に従い目前に迫った勝機を放棄した。
後退する水銀燈へ向けて踏み込まず、側頭部を守る様に剣を掲げる。
コンマ数秒後、水銀燈の物より遥かに大きな剣閃が襲い掛かった。
弓兵の肉体を得ている体にも響く、衝撃と圧力。
もし防御を優先していなければ、そのまま両断されていただろう。
とんでもない伏兵がいたものだ。
焦燥に胸を焦がしながら、奇襲を行ってきた新たな敵手を見据える。
水銀燈が呼び出したのは、漆黒の鎧に身を包み、大剣を肩に担いだ戦士だった。
彼こそ竜破壊の剣士。その名をバスター・ブレイダーと言った。


「いい使い魔持ってるじゃない……!」


語る言葉は気圧された物ではないが、クロエの表情には焦燥が浮かんでいた。
口にした通り、目の前の剣士は強い。
少し前に戦ったエルフの剣士とは比較にならない。
真っ向から、自分と切り結ぶだけの実力を有している。
更に、この戦士を従える水銀燈自身の攻撃も脅威となっている状況。
弓兵の少女は、確実に劣勢に追い込まれつつあった。


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