コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

壊れた幻想

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
「14人死んだのか……あのガキ……何やってるのか、分かってんのか」

「……信じ、られないわ」

乃亜の放送を聞き終えてから、日番谷冬獅郎は舌打ちをした。
子供ばかりを集めた挙句に、この一時間で二桁も死者を出している。ただの、子供だけの殺し合いならばそうはならない。
つまり、子供の中に殺人を肯定する危険な参加者を潜ませ、殺し合いを促進させている筈だ。
死神である日番谷が子供にカウントされているのであれば、同じように容姿だけが幼く、だが隊長格の死神にに匹敵する猛者がいるのだろう。
そんな連中と、ただの子供が殺し合うなど、ただの蹂躙劇にしかならない。

(あるいは、俺がそういった連中の対抗馬ってことか?)

乃亜の台詞の中に、"対主催を欺き、人数が減ったところで裏切る算段"というものがあった。
奴は殺し合いに肯定的な強者に、その逆の対主催をぶつけることで、弱者でも生き残れるように、この殺し合いをデザインしているのではないか?

「夕闇島の時みてえだなぁ……あの時も、滅茶苦茶人が死んだんだけどよ……でも、一時間だろ? 本当にこんな死んじまうのかよ……」
「元太君、貴方……もしかして、少年兵とかじゃないわよね?」

人の死に対しやけに達観した様子を見せる元太に対し、紗寿叶は訝しげに尋ねる。
もし、そうなら人が死ぬのは日常茶飯事だし、食にがめついのは戦場で食糧危機に扮した経験からなのではと考えたからだ。
当然、元太は首をかしげて「何言ってんだ、姉ちゃん」と本人にその気はなくとも、紗寿叶目線ではとぼけたふりをしてるかの様に返された気がした。

「お前ら、さっきの放送で、知り合いの名前はなかったんだな?」
「おう、探偵団のみんなの名前はなかったぜ」
「私も大丈夫だったわ……日番谷君は?」
「……居ねえな。多分、俺の知り合い自体、早々呼ばれることもねえだろうしな」

日番谷の身内で、この子供だけの殺し合いに呼ばれそうな人物と言えば、かつての十一番隊副隊長、草鹿やちるだが彼女は既に消えてしまった。
あとは、幼馴染の雛森桃も子供の基準を満たすかもしれない。だが、雛森は身長が低い童顔であって、やちる程、幼女と呼べる容姿ではない。
部下の松本乱菊など、子供から最もかけ離れた存在だ。絶対に居る筈がない。

「タブレットのマップで施設が更新されたが、お前ら何処か気になるところはあるか?」
「いや、全然ないぞ」
「……この海馬コーポレーションって、あの乃亜って子の名前に関係あるのかしら」
「乾、俺も同じことを考えてた。奴の手がかりが掴めるかもしれねえ。
 お前らの知り合いを探しながら、ここに向かってみようと思うがいいか?」
「ええ、私も……ただ、ちょっとこのホグワーツっていう所も気になるかも」
「魔法の学校、か……鬼道とは違うのか? 首輪に俺も知らない力が、使われてる可能性もあるかもな……ここも、後で行ってみるか」

「すっげぇ~!! ホグワーツって、ここからでも見えるあの城みたいな奴だろ? でっけ~なぁ!」

方針はすぐに纏まった。乃亜の語った禁止エリアの事もある。あまり、時間を掛けている訳にもいかない。三人とも無意識ながらも、それを念頭に置いていたのだろう。
特に反対意見も出ず、準備を整えて行動を開始する。

「――――動くな! お前らッ!!」

その刹那、日番谷が声を荒げ二人を制止する。無数の射撃音と、日番谷が背の太刀を抜刀したのはほぼ同時だった。

「霜天に坐せ!! 『氷輪丸』!!!」

日番谷の振るう太刀の動きに合わせ、冷風を伴い大気中の水分が凍結し、それらの微小な氷が集まり竜を現出させる。
五月雨のように降り注ぐ魔弾の全ては、竜の放つ冷気により凍結し、運動エネルギーを相殺され弾き落とされた。

「これは凄いね。冷気の操作……いや、そんな生易しいものじゃない。本調子なら、天候も思いのままに操るとかかな?」

二丁の使い込まれた古臭い拳銃を手にした白髪で眼帯を付けた隻眼の少年。
ナチスの軍服も、少年のレトロな雰囲気に一役買っていた。

「てめぇ、何だ?」

「自分から名乗りなよ。ベイ中尉の言葉を借りれば、戦の作法も知らないのかな?」

「……」

思ってもないことを口にする。初対面の日番谷からして、既に少年の悪印象は最底辺に定義された。
その言葉には意味はなく、ただの気紛れに言い放ったもの。単に高貴な軍人を気取りたい気分であるだけだ。

「護廷十三隊十番隊隊長、日番谷冬獅郎」
「聖槍十三騎士団黒円卓第十二位・大隊長、ウォルフガング・シュライバー=フローズヴィトニル」

「そうだ。お前、うな重持ってねえか!!?」

奴の目的は殺戮そのもの。纏わりついた血と死臭の悪臭、そして内に取り込んだ数多の命の憎悪の悲鳴は、日番谷に霊圧という形で感知されていた。
瞬間、二つの銃口が弾け、竜の冷気が迸る。

「ッッ!!」

弾道を見切り、冷気で魔弾を凍結、即座に防御から攻撃へと転じる。踏み込み間合いを詰める。構えた太刀を横薙ぎに振るう。
それらの動作をコンマ以下の領域で行い、日番谷はシュライバーへと肉薄した。
だが、その切っ先からはシュライバーの姿は消える。

「あっ、はァ――――」

奇抜な笑い声が頭上から響いた。シュライバーは地を蹴り上空へと飛躍していた。
宙を舞い足を天上へ向け兜割の要領で、日番谷の脳天へ、踵をギロチンのように振り落とす。
氷壁を展開し、頭上に氷結の盾を生成する。
一瞬にして氷は砕け散り、一撃は大地に大きく亀裂を刻み込んだ。

「――――その動き、瞬歩でも、響転(ソニード)でもねぇな」

死神の持つ高速走法、瞬歩、死神により差はあれど護廷十三隊隊長の一人である日番谷の瞬歩も、決して鈍足なものではない。
時速数百キロの高速移動を可能にしている。
土煙の中、地面の亀裂の先に日番谷は未だ健在。高速の攻防の中、シュライバーの動きを見切り、瞬歩を用い後方へと瞬時に飛び退いていた。

「ああ、それ……走ってるつもりかい?」

だが、狂乱の白騎士を前にして、その絶速と比類するには児遊にも等しい。
日番谷の意識の外、視界の届かぬ背後から息の掛かる程の超至近距離から、憐れむように蔑むように、声を投げかける。

「チッ……!」

振り向きざまに太刀を一閃、しかし既にそこには虚空しかない。
空降りした体制から構えを修正し、周辺に意識を張り巡らせる。恐ろしいほどに何も音がない、あの白き災厄の姿が一片も見えない。
逃げた訳ではない。では、透明になって消えた? 違う。これはもっと簡単で、もっと恐ろしい驚異的事実、文字通り"目にも止まらぬ速さで駆け巡っている"のだ。
仮にも隊長格の死神である日番谷ですら、一切の反応が追い付かず完全な後手に回る程の驚異的速度。

「お前ら、俺から離れるな!!」

「日番y―――」

叫ぶ日番谷に、紗寿叶が無意識に呼びかける。だが、その名が紡がれる前に数百の銃声に上書きされる。
束の間の静寂を破り去り、シュライバーが魔人の域を以て射撃を開始する。
日番谷を取り囲むように、爆風を巻き起こし、衝撃波を発生させ、轟音と共に、この場に存在するありとあらゆる物を粉砕し、破壊し、蹂躙し尽くす。
既に、数十近くの殺人事件に関わったことのある元太と、ただの小柄な女子高生の紗寿叶では、息を吸う事すら奇跡に等しい惨状、。
しかし、まだ二人の命は消え去ってはいない。五体満足、一切の怪我もなく生存するという奇跡を成立させていた。
白き魔性に抗うように、白銀の氷竜が蜷局を巻くように、無辜の命を繋ぎとめる。
氷に鱗が罅割れ砕かれ、その身を粉々にされようとも大気から水分を凍結させ、再生させる。

(埒が明かねえ……!!)

敵の姿は未だ見えず、ただ後に置き去りにされた銃弾と、その絶速に齎される破壊に辛うじて耐えることは出来るが、消耗を続けているだけではいずれ拮抗は崩れる。

「卍解―――ッ!? がっ……!」

故に、切札を今ここで解放する。その寸前、シュライバーが日番谷へと肉薄した。
痺れを切らしたのは日番谷だけではなく、シュライバーもまた同じこと。
腹部に走る衝撃、シュライバーの靴が日番谷の腹に吸い寄せられ、吹き飛ばされていった。
ボールのように民家の外壁に衝突し、家は瓦礫と化し崩れ落ちていった。

「あれ? 何かする気だったのかな。だとしたら、遅過ぎるよ……。つまらないなァ」

「ひ、ひ……つが……や、くん……?」

戦いには無縁の紗寿叶でも分かる。恐ろしいほどのスピードを伴った攻撃は小柄な体躯など関係なく、膨大な破壊力を伴う。
苦悶の表情を浮かべ、張り裂けそうなほどの苦痛で顔を歪ませた日番谷の姿、あんまものを人間から直接受ければ肉片一つ残らず砕け散ってしまう。




「大紅蓮氷輪丸」




無数の氷柱が、シュライバーが居た場所を抉った。その僅か数㎝横で、シュライバーは好戦的な笑みを浮かる。
瓦礫を押しのけ、腹を抑えながらも日番谷は生きて、まだその足で立ち上がっていた。

「なるほどね。僕達で言う、創造みたいなものか」

日番谷が従えていた竜は術者と一体化し、その氷の翼を日番谷が受け継ぎ、力を増大化させる。
氷雪系最強の斬魄刀、氷輪丸の真の力を解放した姿。
その域に到達したのであれば、例外なく尸魂界の歴史に名を刻む、死神の奥義にして最大の秘技。卍解。

「減らず口を叩いてる暇があるのか」

「暇すぎて、欠伸が出そうだよォ!!」

己を追尾するように、次々と放たれる鋭利な氷柱を涼しい顔で避けながら、シュライバーはその力を分析する。
二丁の銃口から放った射撃は、桁違いにまで増大した冷気に、いとも容易く弾き落とされる。

「力だけじゃない。規模も射程も、速さも……全てが桁違いに増幅してる」

氷風と魔弾が入り交じり、風音と銃声が木霊し破壊の協奏曲を奏でる。
その中を肉薄した日番谷が振るう冷気を纏った太刀を避け、シュライバーは銃弾を百発叩き込む。背に纏う氷翼が盾となり、銃弾を防ぐ。
更に数百発撃ち込み、氷翼が軋み、追撃を掛け更に数百発着弾し、罅割れ砕け散る。
だが、大気の水分を吸い取り即座に翼は修復される。
死角に回り、横薙ぎに回し蹴りを放つ。だが、体を逸らし避けられる。

「群鳥氷柱」

反撃に数多の氷柱を投擲され、回避しながら銃弾を撃つ。

「良い能力だよ」

放たれた銃弾を太刀を数回振るい、全て弾きシュライバーへと肉薄する。
先ほどは瞬歩でも追い付けなかったシュライバーの動きに、日番谷の反応が追い付いている。
能力そのものは同じだ。ただ卍解以前の、全ての力をそのままに最大値を更新する正当進化を果たした姿なのだろう。
攻守ともに隙がなく。殺戮に於いて優れた才を持つシュライバーを以てしても、創造と形成を封じられては殺し切る手札が切れない。

「でも、きみは未熟だ」

しかし、同時に日番谷もシュライバーを倒し切れていない。圧倒されていた戦況を互角に持ち込んだに過ぎない。
証拠に、日番谷の背後に浮かぶ氷の花が一つ散る。
三つあったそれは、いまや一つにまで減っていた。
時間経過で消滅するそれは、既に相応の時間二人の戦闘が長引いていたことを現す。

「分かりやすい弱点だけど、後ろの花はそれはカウントだろ? 恐らくその卍解とやらの階位を維持するのに、きみの体は追い付いていない」

同時に、日番谷の消耗を具現化した者ともいえる。死神とも破面とも滅却師とも違う、最速の存在に日番谷は従来以上の霊力を消費していた。
その代償は、すぐにでも支払う羽目となる。

「ク、ソ……」

眼前に迫るシュライバー、一切の光沢を発さなくなった錆び付いたルガーP08が、日番谷の額に押し付けられる。
既に日番谷は膝を折り、限界を迎えていた。

「詰み(チェックメイト)だ」

その一撃はシュライバーとして、非常にゆっくりと、だが確実に引き金が引かれ、ただの一発の銃声が鳴り響く。
額を貫き、頭蓋を砕き、脳味噌を掻き分け、弾丸が後頭部から排出される。


「てめぇがな」


眼前の日番谷が、打ち込んだ弾痕から罅割れガラス細工のように砕け散る。

「――――!!?」

その瞬間、背後から今目の前で撃ち殺した筈の男の声が響く。

「ようやく背中を取れたな。苦労したぜ」

斬氷人形。
使用者である日番谷本人を再現した氷。
種さえ割れれば何てことない手品だが、初見でさえあれば、殺人に精通し殺害に必要であれば僅かな他者の機微すら見落とさないシュライバーでも、見分けが付かぬほど精巧な分身だ。
卍解を発動する寸前、シュライバーの奇襲を受けたのを利用し、その視界から外れた僅かな合間に分身を作り出し、操作し、同じく冷気も遠隔から放ちあたかも分身を本体と錯覚させていた。

「フ、フフフ……あはははははは!!!」

何てことない。本当になんて事のない。ただの小細工。
振り向きもせず、背後からの一太刀を前方へ跳躍して避ける。宙で体を捻り、日番谷と向き合うように着地する。
ただ、こちらの錯覚を利用し出し抜いたのは見事だが、別にそれだけだ。そこまでして背後に回ったからといって、肝心の不意打ちは掠りもしない。

「残念だったねェ! アイディアは悪く――――」

違う。狙いはこれではない。
コンマにも満たぬ刹那の瞬間に、シュライバーの脳内に思考が巡る。

僅かな違和感、そう、気温が下がっている。僅かではあるが確実に。シュライバーを取り囲むこの空間が冷え出している、

まさか、まさか、奴の狙いは。

「乃亜の言うハンデとやらのせいで、こいつを使うのに少しばかり時間が掛かっちまった」

天候を操り、大気中の水分から無尽蔵に氷を生み出し己の刃へと変える。ならば、その規模を更に拡大することも可能なはずだ。
地球上である限り、大気中に存在する水分が消えることはない以上、実質、無から氷を編み出せることと相違ない。
であれば、相手が同じく地球上の存在である限り、この世界と同じ大気を浴びている限り、奴の射程距離内に補足されている事と何ら変わりはない。

故に、今は距離を取る。爆ぜるように弾け飛び退き、日番谷の射程から脱出を図る。
少なくとも、この島全てを含む攻撃は不可能だ。それは乃亜の言うハンデの対象内にある筈、それらを考慮すれば一定距離以上離れていれば、奴の射程距離から十分離脱出来ている筈。

「千年氷牢」

音速をも超え、ベストコンディションであれば宇宙的速度に匹敵する高速度で走り抜くシュライバーに、冷酷に死刑宣告を放つ。
大気にある全ての水を支配し、氷柱を発生させ、相手を包囲し巨大な氷塊へと囲う。

「く、ぐ―――――」

氷塊の牢獄、その一歩手前だった。その包囲網を抜ける手前で、シュライバーは氷柱により進行を遮られる。

「あと一歩、遅かったな」

シュライバーを囲う無数の氷柱、いかに速かろうと、駆け抜ける先がなければ、それは止まっている事と変わりはない。
逃げ場を失った哀れな狂獣は、氷の墓標の下に埋まる。
目の前の空間一帯を埋める程の氷塊を目の当たりにして、日番谷は敵の殲滅を確信した。



「グランシャリオォォォ!!!」



氷の一角に亀裂が走る。連鎖するように、氷塊が軋み、砕け散る。



「……なん……だと……?」


「使わせたね、これを」



氷塊の中から飛び出すは、漆の竜の鎧。
修羅化身グランシャリオ。
ある世界に於いて、危険主と呼ばれる超獣を素材に生成された鎧。
その性質は使用者の身体能力を向上させ、鎧としても高硬度な耐久力を誇る。いわば、パワードスーツに近い。
千年氷牢をグランシャリオの鎧を纏い防ぎ、高まった膂力で氷塊を打ち砕く事で、シュライバーは外界へと再び顕現した。

(クソ、氷塊の層が薄かったか……)

シュライバーの速さに対抗する為、生成速度を優先した。恐らくは千年氷牢の耐久度が落ちていた可能性も高い。
既に日番谷の氷の花は一つのみ。
斬氷人形による搦手は、シュライバー程の相手には二度も通じないだろう。
そして、卍解を維持する日番谷の負担も激しい。氷輪丸を杖のように突きたて、体を預けなければ立てない程に消耗していた。

「はははははははははははッ!!!」

万事休すか。

漆黒の竜の化身が、白の騎士という、この世のありとあらゆる殺意を煮詰めたかのような災厄を伴い、加速し――――膝を地に着けた。


「なん、だ……?」


死をも覚悟した日番谷の口から疑問が零れた。

「……ば、かな、ァ……」

何も消耗していたのは日番谷だけではない。
シュライバーとて、同じこと。
既に、シュライバーはこの殺し合いトップクラスの実力者、孫悟飯との激戦を終えている。
活動階位で並みの聖遺物の使徒なら形成を使われていようと、十分に圧倒するシュライバーが最初から出し惜しみなく形成を発動する程の強敵だ。
創造を出しても尚、その肉体にほぼダメージも通せず、互角に渡り合ったあの少年との戦いが、シュライバーにとって負担にならない筈がない。
更にグランシャリオを纏ったとはいえ、本人にその意識はないが、シュライバーは打たれ弱い。
鎧の防御力は高いとはいえ、そのダメージを完全に殺し切れる代物でもない。本来の所有者であるウェイブも、強力過ぎる攻撃を受けた時は本体にもダメージが通じていた。
乃亜の言うハンデ、制限による影響に加えて、なまじグランシャリオを纏い、"鎧越し"に攻撃を受けた為、自身の体に"触れられた"とは認識せず、キレた者勝ちのご都合主義も起こりえない。

つまり、いくつかの条件と蓄積した疲労と巨大なダメージが積み重なり、今ここに一気に噴き出してしまった。

「……お前ェ……!」

「っ……」

銃を構えようとして、意識に反して腕が持ち上がらない。こんな疲労など、魔人となる以前にまで遡らなければ、経験がない。
殺害について、機械以上に正確で効率的な手順で実行するが、今はその手順すら脳内に展開できない。
状況を完全把握した上で、これ以上の殺戮は続行不可能だと、認識せざるを得ない。

「――――――!!!」

シュライバーは外国語が入り交じり、怒りを込めた奇声を発し、残された僅かな余力で日番谷の前から消え去った。

創造と形成を使えないとはいえ、こんな劣等如きに、劣等に支給された道具すらも使わされ、追い込まれ、それでこの有様。
普段ならば、確実に目の前の獲物を狩り取るまで、殺戮を続けていたが、狂気の中にあった理性は撤退を選択した。
これがバトルロワイアルである以上、皆殺しをする以上、次の戦を考えなければならない。
彼は、狂犬ではあるが、考えなしの馬鹿ではない。
殺戮に優れた彼は、今この場で引き体力の回復と温存を選ぶ事が、トータルで見れば後の殺戮についてより効率的だと判断したのだ。

「……退いた、か」

「冬獅郎! 大丈夫かよ! でも、強かったぜ……お前、本当にちり紙だったんだな!!」

「馬鹿、それを言うなら……死神だ……」

恐ろしい相手だった。奴の言葉を信じれば、死神の基準で言う始解すら使わず、隊長格の卍解と張り合ってみせたのだ。
使わなかった理由が乃亜のハンデだとしたら、時間の経過でそれが復活する可能性は高い。
ここで仕留めきれなかったのは痛手であると、日番谷は強く後悔した。
今は元太の能天気な声が、嵐が過ぎだった後の平穏の象徴のようで、少し心地よかった。




――――――――




「なんなのよ……なんなの、これ……」

私は目の前で繰り広げられた戦いに、完全に腰を抜かしてしまっていた。
とても速い銃を使う男の子と、私よりもずっと年下だと思っていた日番谷君の戦いは、私が好んで見ていたアニメのようだった。
でも、アニメで見るそれらとは違って、本物の殺意をぶつけ合う命のやり取りは、アニメと違ってカッコよさとか戦うヒロインの可憐さを演出したような物とは違った。
血生臭くて、憎悪をぶつけあって、相手の首を何時刎ね取ろうか考えてる。

怖い。

何で、私が殺し合いなんかしなくちゃいけないの。本当はこんな暗い夜中に放り出されるのだって、怖くて怖くて仕方ないのに。

あんな、あんな……平気で人に銃を向けて笑ってられるような子とまで、殺し合わなきゃいけないの? 無理だ。私なんかじゃ、どうやったって生き残れる訳がない。

助けて、誰か……。


「……」


「え」


フリルのついたピンクの衣装を着た、小さな女の子だった。
髪を白いリボンで二つに結んであって、ピンクのステッキを持って、空から宙を舞って降ってきた。
魔法としか思えないその芸当に、私は一つだけ心当たりがある。それは魔法、私が幼い頃からよく見ていた魔法少女が操る魔法。

「……素敵」

強い意志を持った真っすぐな瞳。とても整った美しい容姿。
強くて、キラキラして、かっこよくて、フリフリの可愛い服を着ていて、どんなに不幸でも、報われなくても、絶対に負けない希望の魔法少女。
きっと、こんな絶望の中にあっても、その娘は私を助けてくれるんだって。

「ごめんなさい。死んで」

私は、決めつけてしまっていた。

「危ねえぞ、姉ちゃん!!」

元太くんの声で、私はようやく、現実を悟った。女の子のステッキが私に向けられて、その先から光が圧縮されてる。
きっと、あれはそう……あの銃の男の子が向けてくる凶器と同じ意味合いを持ったものだ。だから、私は……。



――――――――



「く、そ……! 間に合わ――――」

新たな襲撃者に対し、完全に出遅れてしまった。卍解を解き、失った体力を回復させるために一時的に体の意識を休息に傾けた為に、反応が完全に間に合わず、スタートダッシュで出遅れた。
既にその少女は杖の先から光弾を作り出し、紗寿叶へと放たれていた。
そこへ割り込もうにも、たった僅かな距離が永久に感じるほどに、1秒にも満たない距離が永劫と見紛う程に遠い。

だから、間に合わない。

誰よりも早く、少女の襲撃を察知して、紗寿叶の元に飛び込んだ元太に。

「……げ、んた……く、ん……?」

光弾が触れる前、紗寿叶は強い衝撃を受けて体にのしかかる重さを感じた。
何が起こったか、数秒置いてから、生暖かく感じる大量の血液から、ようやく事の重大さを知る。

「なん、で……」

庇われたのだと。自分よりもずっと年下の男の子に、今、庇われたのだと悟った。

「……ね、えちゃん……大丈夫……か」

少年探偵団として、長い間、色んな殺人事件と関わり、そしてその殺人者たちを数多く見てきた。
だから、紗寿叶の元に現れた少女の顔を見た瞬間、元太は日番谷よりも早く、彼女が殺し合いに乗ることを決意しているのだと、理解してしまった。
先の戦闘の影響で、反応が遅れた日番谷を差し置いて、元太は紗寿叶の危機を直感し彼女を庇い、そして腹部を抉られた。

「霜天に坐せ!! 氷輪丸!!!」

始解を発動し、氷の竜の尾が襲撃者へと振るわれる。

(……この子は消耗してる。今なら、全員殺せる)

美遊・エーデルフェルトは日番谷の攻撃を避けながら、冷静に戦況を分析する。
周辺の破壊跡と、この日番谷の動きを見るにこの場で激戦があったのは確定だ。
なら、その戦闘後の疲弊した状態を狙えば、美遊にとって比較的少ないリスクで三人を殺害し支給品を奪い戦力を整えられる。

「……人、ごろ、しなんて、やめろよ……」

「ッ!?」

今の日番谷なら、まだ戦闘をしていない万全の美遊なら殺すことが出来る。戦況は比較的、美遊が優位だ。
だが、ステッキから放とうとした魔力弾の生成が鈍った。
あの肥満体系の少年の言葉が、小学一年生とは思えない程に、重みのある言葉が美遊に突き刺さる。

「そんな、こと……しても、よ……は、ら……減って……悲しい、だけだ、ぜ……」
「わた、し……は……!!」

それは元太なりに、人生を終わらされてしまった人達と、終わらせてしまった人達を見てきたからこそ、口にしたことだった。
どんな理由がある殺人でも、それが幸福で終わったことなど、ありえなかった。だからそんなことより、腹いっぱい飯でも食った方が良い。
美遊は、迷いを振り払おうとして、いずれ放っておけば死ぬであろう元太にステッキを向ける。


「やめ、て……お願い、もう……やめ、てぇ……」

「……っ」

元太の傍らに居る紗寿叶が、震える声で懇願する。

『……素敵』

最初、自分に向けられた紗寿叶の憧れと羨望の眼差しが、跡形も残らず歪んでいた。
あの、光輝いていた目が、今は絶望と恐怖に彩られ、濁っている。自分がそうさせた、他の誰でもない美遊・エーデルフェルトがこの惨劇を創り上げてしまった。
身勝手で独善的な願いの為に。大切な少数の為に、多数を切り捨てる。それがこの惨状だ。

「もう、わたしは……!! ―――ぐっ」

消耗しきったとしても日番谷もまた歴戦の死神、相手の僅かな動揺を見過ごす事はない。
氷輪丸の一太刀を美遊へと浴びせる。
装甲の薄そうな見た目に反し、実際のところは物理的な干渉に対する障壁が貼られていた。斬撃は弾かれるが、また美遊も死神の膂力を受けたことで強い衝撃が全身を襲う。

『美遊さん、撤退しましょう! 無理に戦う必要はないです!』

ルビーの叫びと共に、美遊は高く跳躍し、何もない空中に足場を作り天空を駆ける。

(イリヤ……私は……)

美遊の脳裏には、今しがた殺めた少年と、恐怖に染まった少女の姿が強くこびり付いて離れることはなかった。




――――――――




「……へへ、目の前によ……大量の……うな重が見えるぜ」

「んなもん、何処にも……」

血溜まりの中、日番谷は元太の死を悟り、言いかけた言葉を閉ざした。
傷が深すぎる。氷輪丸で止血したが、血が止まらない。
医療に長けた死神ではない日番谷では、これ以上の処置は取れない。

「これ、食って良いか……?」

「……ああ……好きに食え……全部、俺の驕りだ」

「マジかよ……へへ、こんだけのうな重、食い切れ……る、か、な……」




【小嶋元太@名探偵コナン 死亡】

【G-6/1日目/深夜】

【乾紗寿叶@その着せ替え人形は恋をする】
[状態]:健康、殺し合いに対する恐怖(大)、元太を死なせてしまった罪悪感(大)、魔法少女に対する恐怖(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
1:……。
2:妹(178㎝)は居ないと思うけど……。
[備考]
原作4巻終了以降からの参戦です。


【日番谷冬獅郎@BLEACH】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)、卍解不可(日中まで)
[装備]:氷輪丸@BLEACH
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]基本方針:殺し合いを潰し乃亜を倒す。
0:すまねえ、元太……。
1:巻き込まれた子供は保護し、殺し合いに乗った奴は倒す。
2:海馬コーポレーションに向かい、乃亜の手がかりを探す。
3:美遊、シュライバーを警戒。次は殺す。
[備考]
ユーハバッハ撃破以降、最終話以前からの参戦です。
人間の参加者相手でも戦闘が成り立つように制限されています。
卍解は一度の使用で12時間使用不可。



【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(大)ダメージ(大)、形成使用不可(日中まで)、創造使用不可(真夜中まで)
[装備]:ルガーP08@Dies irae、モーゼルC96@Dies irae、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:いずれ、悟飯と決着を着ける。その前に大勢を殺す。
3:忌々しいが、一旦、体力を回復させる。
4:アンナの事、聞くの忘れちゃったじゃないかァ!
[備考]
マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。


【グランシャリオ@アカメが斬る!】
「鍵」と呼ばれる剣を手に、その名を叫ぶことで黒の鎧を召喚し、使用者に装着される。
装着者を攻守ともに強化する。他の低具とは違い、奥の手は存在しないが、非常に安定した性能を誇る。




【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康、深い悲しみ、覚悟。人を殺めた動揺
[装備]:カレイドステッキ・ルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~1、クラスカード(不明)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
基本方針:イリヤを元に戻すため、殺し合いに優勝する。
0:……今更、引き返せない。
1:ルビーと力を合わせて殺し合いに勝ち残る。
[備考]
※ドライ!!にて人形にされたイリヤを目撃した直後からの参戦です。
※カレイドステッキ・ルビーはイリヤが人形にされたことを知りません。


OP2:第0回放送 投下順に読む 002:解体し統合せよ
時系列順に読む
001(候補作採用話):後悔 ウォルフガング・シュライバー 064:まもるべきもの
133(候補作採用話):子供隊長 日番谷冬獅郎 033:i'm a dreamer
乾紗寿叶
小嶋元太 GAME OVER
125(候補作採用話):友達 美遊・エーデルフェルト 037:選択

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー