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上海型脱出ゲーム『ヨニも奇妙な物語 〜〜けっ! これからてめーを女陰黄泉! ヨニヨニって呼んでやるぜ!〜〜』

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⚪︎女陰黄泉プロローグ
上海に10日間の動乱が訪れる、その最初の日。
街の賑わいの影、路地に血池。
横たわる死体。目を覚ます。
それは女陰黄泉。


⚪︎第一部『怪死事件の謎を解け』語・倒萩

 ダイヤがあると聞きつけ、私はさる雑居ビルにやってきた。
 一見ただのビルだが、中は浮世と隔絶した全く別の空間らしい。異世界でクイズを解き謎を解きひらめきを駆使してドキドキハラハラな体験をする——それがイマーシブ謎解き、あるいは上海型脱出ゲームと呼ばれているもののようだ。
 ツテはそれ以上の情報を流さなかったので、他に何の知識もない。さらには他の情報屋から裏取りすることも禁止された。絶対ネタバレ踏まないように、と。

倒萩「本当にここに清王朝のダイヤがあると思います?」
ロハ「情報屋さん、めっちゃ目キラキラでしたもんね。ダイヤと関係ない、か、つまらなかったら爪五枚払うって」

 爪五本を確約するくらいだ。本当にオススメしたいのだろう。
 問題は爪コパスな私が楽しめるだろうか……、
 いや本当にダイヤを見つけられるだろうか、と不安半分ワクワク半分だ。

 到着したは予約時間1分前(あまり早く来すぎると前の団体がネタバレで盛り上がったりしてるらしい)。
 エレベーターで向かい、扉が開かれる。
 ごく普通の、ホテルフロントのような受付だ。二人分の料金を払い、注意事項や免責事項を聞く。それに同意して荷物を預けて、待合室へと渡される。

 そこにいたのは、

ヨニ「これで全員なのかな? 私は女陰黄泉、ヨニも珍しい、関節の曲がる殭屍だよ」
 額にお札を貼った女性。お札には「御主人様大募集」と書かれている。マゾなのだろうか。キョンシーのコスプレに力が入っているのか、少し臭い。

死神「わたしは死神。こっちは下山アンドロメダ師匠……宇宙人みたい、よ?」
 三人のうちでいっとう背の低い少女だ。私よりもちょい低い。健気で柔い感じがするが、背中に羽、足に尻尾が、悪魔みたいに生えている。少し親近感が湧いた。
 彼女の指した方は誰もいない。

首羅「……我は首羅」
 第一印象は、極めて強そう。2mほどもあり、褐色の肌は筋肉質だ。それに何より、顔が三つ、腕が六本ある。爪がいっぱいで、あまりにエロすぎだ。

 いかにもハローウィンすぎる人たちが、今回の同行者らしい。ひえー。この人たちも演出の一部? なかなか楽しそうだ。

 死神は透明人間に対し、楽しみだとウキウキ語りかけている。
 ヨニから「男一点だね」と言われ、首羅は「てずから去勢済みだ」と言う。なんだそれ。
 それへのヨニの返しは「けつあな確定できなくて可哀想……」だ。なんだそれ。
 奇妙なメンツに面食らっている間に、開始時間となった。

受付「皆様お集まりいただきありがとうございます」

 アルコールを飲んでいないかの確認や、自力で歩くことができるかの確認。事故等の責任は負えないことや、慌てても走ったりしないこと。途中退場を希望する場合は全員でバッテンを作ること。ゲーム後に感想を書く際はネタバレを控えてほしいこと等等を伝えられた。

受付「なにか質問はございますか?」

 清王朝のダイヤがここにありまか? ……とは流石に聞けない。あってもわざわざ私に言うわけがない。

受付「では質問がないようですので」
 彼は上着を脱ぎ捨てた。下に着ていたのは、警察制服だった。「皆様にとびきりの体験を与えましょう。私のことは案内人とお呼びください」

 照明が落ち、真っ暗になる。
 突如風の音が強く鳴る、体に強風が当たる。外へと放り出されたみたいだ。

死神「ひっ」
案内人「風が冷たく、湿気を孕んでいますねえ! 嵐が近そうです。みなさま決して慌てず——」

 ぼんやりと頭上が明るくなる。さっきまでなにもなかったそこにあったのは一本の街灯、そして警察車両だった。

案内人「事件現場までお送りいたしますので、ついて来てください」

 周りには、このビルへ来るまでに見た街並みがあった。暗さで誤魔化していて実際は壁紙、なのだろうけど。
 けれど少なくとも警察車両手前の縁石は、本物の石の質感だった。

 警察車両に乗り込む。年季の入った濃い藍色のビニールレザーのシートに触れる。これまで、幸いにもトチって載せられることはなかったのだがついに御用か。
 みなが乗り込む間に、先程の演出についてロハと小声で話す。

倒萩「風音と送風……それだけで外にいる感じが出るんだねえ」
ロハ「風景もね。設定的にはここのビルの地上から、どこかへ行くって感じなのかな」

 車の窓の景色は、数分前に入って来たばかりの雑居ビルの玄関口が見える。ただ、時間帯が違う。夜だ。作り物の景色だと分かる。よくよく見ると映像で、窓ガラスではなく窓液晶だ。
 ロハは地図を広げて、自分らが四階から一歩も出ていないことを教えてくれる。

案内人「さあシートベルトは締めましたね。出発いたしますよ」

 エンジンがブオオンブロロンと鳴り、振動が揺れる。座席が軋み体が左右に揺さぶられる。揺れと景色に、ほんの少しのズレを感じて、少し酔いそうになる。
 ロハは地図を指さし、隣の部屋にゆ〜〜っくりと移動していると教えてくれる。

 無線の声が流れる。

入り乱れる警察内無線「屋台街にて火を吐く不審者が目撃される」「鞍馬山にて天狗の目撃情報あり」「貧民街で地殻変動か、一帯がコンビニと化している。異常事態だが有害性は不明」「新作映画発表会にて暴徒発生。原因は不明。公開された新作映画については目下調査中」「蟹ランドにて傷害事件発生。現地魔幇から調書を取るつもりだ」「上海大賽参加者と見られる男がカジノにて——」

 上海の日常が、治安を守る警察目線で語られる。上海全土で忙しそうだ。

案内人「どこも人手が足りなくてねえ。みなさんに協力していただいて、感謝しているよ。名前は先程聞かせてもらったけれど、普段はどんな仕事をしているんだい」

 そう言われて、しばしの沈黙。あれ? 「君たちは警察の一員として……」みたいな設定を教えてくれるのかと思ったが。
 案内人の言葉を単なる会話として、最初に返事をしたのはキョンシーだった。

ヨニ「私はご主人様の道具!」
運転手「道具? 嬢ちゃんは大変だねえ」
 奴隷かなにかなのだろうか、魔都とは言え大変な境遇だ。本人が楽しそうなのが幸いか。

首羅「魔幣のボスだ」
運転手「おおこれはこれは恐れ入ります。貴方様がいればすぐに解決するでしょう」
 魔幣……魔幇の前身のカルト、だったか? 名乗るだけでも恐ろしいほど畏るべき存在なのか、力を失った抜け殻なのか、詳しくは分からないな。ただまあ、ボスを名乗るにふさわしくはある。腕六本あるし。

死神「とにかく金を稼がないと!」
運転手「無事解決すれば弾んで貰えるはずですよ」
死神「310億円一括で!?」
運転手「310億円!? 流石にそれは……」
 金額に面食らって運転手が聞き返している。
 ふっかけすぎ。もらえなくてマジで落ち込んでるのがいっそう面白い。若い身空で、そんな借金を負わされてるのかな?

 少しの沈黙。あ、私たちか。

倒萩「私はネイル職人です」
ロハ「その相棒の解決屋です」
運転手「ウチの若いモンにも煎じて飲ませてやりてえもんだ」

 ロハが解決屋だと池しゃあしゃあと嘘ついても話は進む。まあ尋問でもないし事実かどうかは関係ないか。みんなが言ったのもノリなのかもしれない。
 なりきり遊びのチャンスを逃して少し惜しい気もした。

 窓の風景は繁華街へと向かっていく。街の喧騒がサラウンドに聞こえてくる。車内にスピーカーが、巧妙に隠されているのだろう。
 案内人がハンドルを切ると、ぐいと車が揺れる。慣性の働き方だけは流石に実際とは違った。

案内人「飛ばしてますんで失礼。……市民からの通報がありましてね、死体があると。しかしね、それが消えてしまったようです。なぜ消えたのか、そしてなぜ、こんな事件はありふれているのに上のものは重視しているのか。事件を調べるうちに分かってくるものもあるでしょう。みなさんの観察、推理、そしてひらめきに期待してますよ。そろそろ現場に着きます」

 窓に映るのは、薄暗い路地裏だった。街の喧騒もいつの間に遠くなって、小さくなっている。案内人より僅かに年嵩の警官が立っており、目元は影に隠れマスクと手袋をしている。彼の足元に、黒い水溜りが見えた。
 がちゃりと車のドアが開く。湿度と温度の違いを肌に感じた。湿気ていて、少しだけぬくい。
 違うのは空気感だけで、目に映るものは窓から見たものと同じにみえた。マスクと手袋の警官が立っている。妙に感動してしまう、ムービーと立ち絵がシームレスに繋がるソシャゲの新キャラ紹介PVみたいだ。
 彼が近づいてくる。

警官「アンタらが派遣されてきた調査員か。ある程度調べてはしたが、俺たちにはこれがせいぜいだった。あとは頼むぜ。なんか不気味で……不吉な予感がする。おっと悪ぃな、変なこと言っちまって。まあせいぜい頑張ってくれよ」

 少し演技臭い口調で、警官は「調査書」という一枚の紙を渡してきた。それから車内の案内人に軽い敬礼をしたあと、角を曲がって見えなくなった。その方向からバイクのエンジン音が聞こえ、すぐに遠ざかっていった。

 ふむ。
 放り出された形だ。みんなで顔を合わせる。

ヨニ「て言われてもね」
死神「調査しろって言われてもね」
ヨニ「まずはみんなで読みましょうか?」
 受け取ったヨニが、みなが読みやすいよう調整して、調査書を掲げる。

……通報は午後10時34分。通報者は付近住民の男性(47歳)。推定失血量1800〜2000cc。現場付近から毛髪数本および繊維片を発見、採取。鑑定中。路地の壁に引っかき傷あり(関連性不明)。凶器は発見されず。四日前に同所にて野良犬に男児が噛まれる傷害事故発生。該当犬は被害者の親により撲殺。今事件との関連性は低い。通報者の情報……

 細かい文字が延々と! 路地裏を模したここでは明かりも遠く、熟読する気がしぼんでいく。
 現場にいるのだから実物を調べてみよう。調べるものは黒い水溜まり——まあ血溜まりだろう——しかないだろう。
 人がすっぽり入るほど広がった血溜まり。時間が経っているのかもう黒ずみ、固くなりつつある。乾いてきてこれだけの量なら、臭いも相当なものだが、流石にそこまでは再現できていないようだ……製作者が再現せずにはいられなくなったら怖いな、それこそ新しいホラー事件だ。
 さらに、血溜まりから足跡が、向こう側へと伸びている。足跡は裸足で、サイズは小さい。女性で小柄だろう。つまり被害者は小柄な女だ。同行者の中では私が一番近いか。
足跡は薄れていき消え、KEEPOUTの仕切りがある。その奥は完全な暗闇だ。私は手を伸ばして何も掴めず、尻尾を伸ばして何かに触れた。
 しっぽで触れた地形を溶かす私の魔人能力『掻撫』を発動。少し溶かして目前に持って来てみると、しっぽが黒くなった。ただ黒い、ただただ黒いだけだった。
 ロハが近いてきて地図を片手に言う。

ロハ「その先はなんもないね。壁だ。外に出ちゃう」
倒萩「しっぽ、黒くなっちゃった」
ロハ「ベンタブラックかな? なるほど、これで奥行きをバグらせて暗闇を表現してるのか……。ちゃんと塗り直ししなよ」

 路地奥の闇が妙に欠け、宙にゴミが浮いているように見えている。没入感ぶち壊しだ、慌てて均し直した。

 足跡を遡り、また血溜まりの前へ。他に何か目ぼしいものはなかった。
 血をよく見てみる。私が爪コパスでなければ、本物のようにしか見えない。触れると、ぬとりとした。

ヨニ「それが被害者の血らしいよ」
倒萩「へぇ!?」
ヨニ「あ、いや、そうらしいよ。設定で。身長が3mくらいでないと、まあ致死量くらい流れてるみたいだって」

 調査資料を渡される。読み込んでいく。
 血液に不純物なし。誰かが触った形跡もなし。失血量1800cc。成人男性でさえ死んでもおかしくない量だ。いわんや小柄な女性をや。

 血溜まりが綺麗に固まっているところを見るに、誰かが立ち入ってもいないだろう——ならば。

倒萩「誰かが運び出した線はない」
ロハ「まるで死体が歩き出したみたいな、ね」
ヨニ「こわーい」

 キョンシーの格好してる奴がいうセリフかね。
 気を取り直して調査書を見直す。……文字は疲れる。現場写真を見てみる。
 一見すると血が黒く乾き始めたくらいしか差異のない写真だ。通報者の提供だと補足がある。
 一見すると怪しい点はないが。違和感。実物と写真を見比べてみる。

倒萩「足跡がない……? いや、これは角度の問題か」写真の撮られた画角が合うように、すり足で移動する。「いや? あれ? 写真だとこの位置がおかしくない? ——」

 ロハに呼びかけたつもりが、振り返るとみんなが写真を覗き込んでいてビックリした。

倒萩「コホン」

 咳払い。気を取り直して、写真と目の前の光景を見比べると、ひとつ、違いがある。

倒萩「写真だとここになにか像がありますよね?」

 現場写真は通報者のスマホ画質だ。ブレて傾いて、フォーカスも合ってない。今よりも赤い血溜まりに紛れ、足をあげ踊る像が、写真には確かに映っている。
 死神ちゃんが、その場所へ行く。血の飛沫が妙に途切れている。そこになにかあったのら間違いなさそうだ。
 注意深く観察してみると、地面の砂が妙に隆起して、何か文字のように読める。

死神「エヌ、エー、ティー、エー、アール……読めません!」
首羅「【Nataraj】……ナタラージだな」

 一瞥で読めたのだろうか。さすが目6個、視力もすごい。

死神「どーゆー意味なんですか?」
首羅「意味も何も、人名だろう。よくある名前だ」
死神&倒萩「へー」

 ……で、なに?
 というか、なんで人の名前が書いてある?

ヨニ「砂が盛り上がるってことは、なにか……凹んでたってことなん? 像の底」
死神「サイン……作者が彫られていたのでしょうか」
首羅「ちっ。シヴァを崇める愚物か」

 首羅が忌々しく舌打ちした。あの像はインドの神、シヴァのものだったのだろうか。
 写真をよく見る。踊ってる男の像。
 シヴァといえば氷の裸の姉さんのイメージと違うな、裸なのは同じだけど。

 その後、進展は特になかった。何かありそうな気もするけど、特に何も見当たらない。
 ズルで壁を溶かしたり、ロハの地図を見たりもしたけど、なにか隠されたなにかを見つけることはできなかった。
 一個目の謎ってことで、導入のチュートリアルでこれだけなのかもねとメタ読みをして、私は車に戻ることを提案した。みんなも異はなかった。



第一の答え、Natarajナタラージ



案内人「なにか分かりましたか。調査書が唯一、私たちから提供できる手がかりです。あなたがたなら、なにか発見があるかもしれません」
倒萩「シヴァだかなんだかが現場にあって、今はないってことしか分かりませんでした。ナラタージって方のかもです」
案内人「ああ、あの芸術家の! インドの神を彫ると言ったら彼くらいだ。じゃあ彼がなにか知ってるかもしれないね」

 お。どうやら話が進みそうだ。写真に像がある、くらいでもokだったのかも。
 案内人は車両装備の無線機をとる。

案内人「こちら42隊、調査進展、これから次なる参考人への聞き込みへ向かう。インド人の彫刻家、ナラタージ・ヤーダヴァだ」
無線機「了解した。健闘を祈る」

 そのように次の目的地を決めて、彼は私たちにシートベルトを勧める。ドッドッドッとエンジン音が鳴り出す。規則的な振動で、少し体がほぐれる。
 車両が動きだす。実体感より何百倍も遅い速度で移動する。
 窓の景色は繁華街から大通りへと流れていく。
 地図で見ると、隣の部屋に真っ直ぐゆっくり移動していくだけなのだけれど……。

 展開がわかってきた。部屋を調べて報告して、隣の部屋に移動する。言葉にするとそれだけだが——自分史上最高の移動だ。
 地図を見るに、次は同じサイズの部屋、その次は大部屋だ。先の展開が見えてしまったが、これはこれで面白い。

倒萩「ふぅ」

 思わず息が漏れた。初めての脱出ゲーム体験だ。思いがけず緊張していたらしい。

死神「ふふっ。第一面、クリアーですね」
ロハ「アタシら初めてなんですよ、こういうの」
死神「わたしもですよ。師匠は得意分野だって言い張ってるけれども、どうなんでしょうね? あのひと、そこなしのあっぱらぱーですから。……さっきもなんにも気づかなかったよねえ?」

 死神は中空に向けてからかい、笑う。様子のおかしい気の毒な子かと思っていたが、本当に霊視とかか何かかもしれないな。

死神「さいしょは値段たかいな〜って思ってたんですけど、ダイヤがみつからなくてもモトが取れるくらい楽しめそうです! 普通の人みたいに遊んだりしたかったんですよ〜」

 とニコリと笑う。

 ダイヤ——。

 不意を突かれた単語に、ギョッとする。

死神「あ! やっぱりネーさんたちもそうだったんですねぇ」

 しかも見抜かれる。ちっちゃい子のわりに、ちゃんと目端効いてる。

死神「こーゆー場ですし、あんま気にせず楽しみましょうよ! なくてもガックシしちゃもったいないですよ」

 煽ってるのか励ましてるのか分からない声かけだ。死神は好意的で楽観的だけど、他がどう思うか。脱出ゲーム運営サイド、首羅、女陰黄泉……。
 一番おっかない首羅をチラリと見る。
 彼は顔が三つあるので、がっつり目が合った。ひえっ。

首羅「別にとって喰らいはせん。神の聖遺物、いずら我が奪還するは必定だが、ここに参加するは他の目論見がある」

 別の目論見……? 彼がどんな目的でやって来たのか聞こうとして、遮られた。

ヨニ「ダイヤはきっとある。あるに決まってる」
倒萩「……理由は?」
ヨニ「冒険の最後には宝があるって、相場は決まってるじゃない」

 そんな弱い理屈で断言するか?
 あきれる。
 天を仰ぐ、車両の天井が見える。
 窓の外を見やる。
 窓の風景(映像)は、坂を登って郊外のはずれに移る。街灯のない暗い道だ。
 一瞬、明るすぎて眩しくなる。
 雷鳴——つんざくような。そういえば冒頭に言っていたような……嵐が近いと!
 鋭く割れる轟音が繰り返される、どんどんと近づくように大きくなる。
 雨雲に追われているようで——追いつかれたが。雨粒が降り注ぐ。いや雨粒のぶつかる音と振動が、車の表面で発生されている。

運転手「今日は荒れそうだな、少し急ごう」

 ぐっと車体が傾き、いっそう雨音と振動が強くなる。キュルルとダイヤが滑る音も加わる。
 鼓膜を揺らす、座席を揺らす。嵐の臨場感に心も高揚してきた。フロントガラスはワイパーをフル回転、しかし視界は一瞬で雨粒に歪まされる。

 ロハは地図を指差す。
 現在地は——5mしか動いていない。

ロハ「すごい演出技術だね」
倒萩「……うん」

 ——さっきまで頭を占めていた清王朝のダイヤのことなど、すっかり吹き飛んでしまった。
 車内での小休止は終わり、第二幕の謎解きへと舞台を移す。



案内人「着きましたよ、ナタラージの工房です」

 車内の窓からは、粗末な小屋が見える。
 モルタルの壁に、安っぽい木扉。
 それらが雨の隙間に滲んで見える。この雨も映像表現のエフェクト、歪みなのだから驚く他ない。

案内人「雨はまだ強いので、早めに中に入れてもらいますよう頑張ってください。私は車内でぬくぬくさせてもらいますが、悪しからず」
倒萩「え?」
案内人「あ。ぬくぬくは冗談ですよ。ああでも皆様が戻ってくるときに寒い思いをしないよう、暖かめておきますよ」

 なにか話がズレている気がする。

倒萩「あの、雨が降ってるんですか?」
案内人「……? 見ての通り。雨が止むまで待ちますか?」

 まるで本当に嵐が来ているかのような口ぶりじゃないか。
 確認するよう外に出ると、——本当に雨が降ってる! それも大雨! 思わず顔を見上げる。真っ暗で何も見えない。天井にも例の真っ黒な塗料が使われているのだろうか、暗雲に満ちているらしく星月のきらめきはない。雨はボボツボボツと大きな粒で、頬と言わず肩と言わず体中にぶち当たる。

 もう戻るのもあれなので、私はナラタージさんの玄関前に立つ。ボロ扉をドンドンと叩く。ギギギンと軋む、ちゃんと鍵がかかっているようだ。

倒萩「ごめんくださーい! 開けてください! 警察のものです!! おーい!」

 何度も叩く。もう少し力を入れれば割れ破れそうでちょっと怖い。
 ロハやみんなも車両から出てきて、私を見守っている。

ヨニ「早くして〜笑」

 開かねえもんは開かねえんだって!
 ドンドンドンと叩いて、中の気配を探る。
 ドンドンドンと叩いて、中の気配を探る。
 心臓マッサージみたいに意識があるか確認するも、なんの返答もない。木のボロ扉は隙間が空いており、そこから覗くと、橙の灯りの中に動く気配はない。

 背後から声が聞こえる。

案内人「雨が強くなってます! 急いで中に入ってください!」

 急いでって言われても、も〜、最終手段!
 扉を蹴破る!!

ロハ「あっ」

 雨は冷たくはないが、なにか冷たいものが背筋を通る。
 ……やっちった? 恐る恐るふりかえり運転席を伺うと、案内人はサムズアップ。ほっ。雨から逃れるため急いで中に入る。

 暖かい熱気。円柱状の携帯電気ストーブが部屋を橙色に染めている。暖かいが、揺れる影はない。
 生気がない。
 作業スペースにしているのだろう部屋中心部に、一際大きな、ほとんど完成しかけた一本造りの男神像がある。芸術肌な木彫り小屋の作業小屋といったようだ。
 ボロ小屋の木肌と、削り取られた木屑。
 清貧で創作に打ち込んでいるのだろう家主の人柄が見える——その家主であろう男が、天井に、磔にされている。蛇口から水が滴るように、ポツン、ポツンと血を落としている。血の赤は、ストーブの朗らかな暖色の明かりにハッキリと親和していた。
 倒れる男を見下ろすように、彼が作ったであろうシヴァの神像が、ただただ沈黙している。

 雷鳴が轟く。はかったような効果的なタイミングで。

 初っ端面食らってしまったが、あくまでゲームの演出だ。気を取り直して、みんなで捜索を始める。
 住居兼作業部屋らしく、狭っ苦しく、物がごちゃごちゃある。生活感すら感じられる。
 ストーブのそばで体を乾かしながら、ロハと作戦会議する。私は頭上の遺体を仰ぎ見る。男の顔色は紫で、明らかに変死しているようだった。

倒萩「芸術家さんから話は聞けなそうだね」
ロハ「これだけものがあって、なにを探せばいいんだ? 見つけられる気がしないぞ」
倒萩「そうですねえ。分かりやすい形かもしれませんね。鍵とか」

 私は少し上等な木目の扉を見やった。しかしロハは首を横に振る。

ロハ「他の階を見るにあれは非常口だ。非常灯も外されてるが」
倒萩「ああ。そういえば……。ただの雑居ビルなこと忘れてたよ」

 荷物で塞がった扉、実際の非常時に本当に出られるのか疑問だ。

ロハ「鍵でなくとも、とはいえ分かりやすい形ではあると思う」
倒萩「じゃあ探さなきゃね、そのなにかを」

 私たちは手分けして「なにか」を探す。なにが見つかるのか分からないが、それも「なにが出てくるか分からない」という楽しみがある。もし何にも見つからなければ、ガイド役も兼ねているのであろう運転手さんに聞けば良いのだ。そう考えると気が楽だ、楽しんで警察ごっこに打ち込める。

 手分けして探すのは——やはり手が多い方が有利なのだろうか。手がかりを見つけたのは首羅だった。
 手にしてるのは一枚の紙。一枚の謎解きだった。



  聖キンタマコロ教会

  猫膝隠殿


         三つ目を選ぶ


 二つの場所と、ナラタージの一つの走り書き。次の目的地を示しているのだろうけど。「三つ目を選ぶ」……と言われても、二つしか書いてない。
 ……ふむ。
 考えてみるも、よく分からない。
 匂いを嗅いでみる。ミルク臭くはない。炙り文字ではないようだ。

倒萩「どういうつもりなんでしょう。誰か分かりますかね」

 見つけた本人である首羅が口を開いた。けれどそれは期待したものではなかった。

首羅「口に出したくもない」

 ふむ?
 つまり「知っているけど答えたくない」ということか。そんな殺生な。爪剥ぐぞ。腕六本になれるみたいだし剥ぎ放題か? なんか超常ぶってる顔が歪むのが見たい!

倒萩「あ」

 ふと彼の歪んだ顔が脳裏に形つくられた。思い出した。私は彼の不機嫌な顔をもう見ている。
 路地裏でシヴァの神像を見つけた時、舌打ちをして嫌そうな顔をしていた。
 つまり……

倒萩「シヴァ?」

 首羅の眉間が一層深くなる。どうやら正解らしい。やったー。
 ……だからなに? しかもなにがシヴァ?
 FFでの知識しかないため、なにもピンとこない。

 この部屋にある一番目立つ、中央の作りかけの神像を眺める。写真で見た踊っている様子のものとは違い、胡座をかいて瞑想をしている。表情は知的で柔らかい。両目を閉じていて、神様らしさのある額の三つ目も瞑っており——三つ目?

倒萩&死神「「あ!!!」」

 思わずハモった。顔を見合わせる。笑みが溢れる。

死神「三つ目ってみっつ目じゃなく三つ目の目ってことだったんだ! アハッ、ほーらわたしのほーが賢い! 少なくともココでは私が師だって思い知った?」

 死神はこめかみをコツコツ叩いて虚空に勝利宣言した。そこに彼女の見えない友達がいるのだろう、あいまいに笑って距離をとる。
 第三の目を選ぶ——もう謎解き完了まで目前だ。私はある程度スッキリしたので、この先は死神に譲る。仲良しの第一歩だ。決して「選ぶってなにすりゃいいの?」と迷ったからではない。
 死神は閉じた瞼をこじ開けようと奮闘している。見えない友達にからかわれているのか、「これであってるの!」などと言い返している。たぶん違いそうだ。
 手が滑ったのだろう、彼女の指が滑り、神像の瞼ごしに眼球を押した。その拍子で、死神が飛び上がる。

死神「ひぃ! …………ぐにゅってしたあ」

 本当に生々しい感触だったのだろう、強がりなど一切吹き飛び、情けなく口をへの字に歪ませている。

死神「……うん……でも……絶対これでぇ……」

 などと一人ごちる。お友達から勇気を貰ったのか、瞼の上からぐいと押した。

 明らかにスイッチの入ったカチッという音がして、神像の二つのまなこと、口が開いた。

神像「汝、我を誰と心得る」

 ギャっと死神は飛び上がり、尻餅をついた。今のは驚いた。譲っててよかった〜。

死神「ば、お化け!」
神像「汝、我を誰と心得る!」
死神「ぴぃ!……」

 物々しい問いかけに、死神はすっかり萎縮している。
 代わりに「シヴァ様です〜はは〜」と仰々しく平伏しようかと前に出たとき、私を押し除け、ずずいと首羅が詰め寄る。

首羅「まさかシヴァそのもの……摩醯首羅(マヘーシュラ。シヴァの名のひとつ)とでも言うつもりか?」
神像「然り。智慧の目を以て汝らに道を示そう」

 お。なにかヒントを貰えるようだ。神像の正面に立っていたから、像の第三の目が、ゆっくりと開きかけるところがよく見えた。
 瞬間、首羅の姿が動いた。目に止まらぬ速さ。六つの腕で、私は押し倒されていた。
 視界がぐるりと廻転し、天井が見える。
 突然の接触に目を丸くする間もない。
 視界に眩しい光線が奔る。

 ビシィィュ!

 と鞭打つような炸裂音が鳴り響く。

 何が起こったのか。首羅はゆっくりと私の体を起こす。みんなが私に目を向け——私の背後を見ている。
 そこには地図。ロハの持つものではなく部屋に架けられていた、上海のここいら一帯が描かれた大きな地図。その一点が、円状に焼け焦げている。
 ……レーザー光線。

倒萩「これって今の……?」
ロハ「トウハギ大丈夫!? 大丈夫そうね良かった〜」

 ロハは私を上から下へ何度も見分する。

死神「目からビーム! 私と一緒だ〜」
 目からビーム?

首羅「シヴァのトリネトラが開かれるとき、世界を焼き尽くす。正面に立つのは迂闊だったな」
 世界。スケールがでかすぎる。それは正面を避ければokなのか?

 気を取り直して、私は地図に近づく。
 焼けこげた地点に何があるのか、みんなに伝える。

倒萩「魔幣寺院。おそらく次の目的地」



第二の答え、Śivaシヴァ



 雨はなお降り止まない。車に帰るときは、扉を蹴破る時間ロスもないのに、ずぶ濡れだ。車両内はぬくぬくなのであまり気にならないけど。
 案内人は今回の「成果」を尋ねる。

案内人「お疲れ様です皆様方。ナラタージからなにか聞き出せましたか」
倒萩「え? ……あ。そうか」

 案内人は部屋を見ていないから、彼がどうなったかを知らないんだ。
 どこから伝えたものか……と口篭ってしまう。

首羅「彼のものは死んでおった。シヴァをかたる者は、魔幣本寺院を指し示した」

 案内人は息を呑んで頷き、車を発進させた。

 魔幣。
 首羅は魔幣のボスだと名乗っていた。魔幣首羅はシヴァの別名という。
 私は改めて首羅に向き直り、礼をする。

倒萩「さっきは庇っていただいてありがとうございました、焼き殺されなくてよかったです。……つかぬことをお聞きするのですが、首羅さんって、その、シヴァだったりするのですか……?」

 首羅は虚をつかれたようで、間をおいて、笑った。

首羅「なぜそう思った愚物よ」
倒萩「あの像みたく三つ目ではないですけど、人より爪が多いじゃあないですか。なんか、ありがたい存在なのかなあって」
首羅「その基準はなんだ? 人の性癖はよく分からん」

首羅「我らが神は魔幣首羅——あまねく全ての名を持つアスラである。すべての名を持つからシヴァであるとも言えるが浮世はいまや習合、合体、同一視、ルート変更に設定誤読、牽強付会に拡大解釈——魔幣首羅の力は失われつつある。ダイヤの散逸を許すほどにな」
倒萩「ダイヤ? 清王朝のダイヤ?」
首羅「ああ。あれは我らが神の聖遺物。人の手によってどうこう出来るものではない」

 宗教者特有のヒト軽視に、思わず口を挟んでしまう。

倒萩「でもでも、人の力ってのはすごいですよ」
首羅「ふん。我ほど人の可能性を知るものはおらん。それに人の力など、このような遊戯を見るだけで分かる。底知れぬし、訳のわからぬ。それでもダイヤに触れることは叶わん。シヴァかあるいは——それに比する何者かが潜んでいるのだろうな」

 首羅の六つの目が、案内人を見る。案内人はバックミラー越しに笑む。お楽しみいただけてなによりです、と言った表情だ。

 首羅は、この脱出ゲームで、清王朝のダイヤを奪った犯人を探ろうとしているのか。
 ……。
 …………ただの脱出ゲーム、だよね?

 ガコンとひどく揺れる。
 気付くと景色は鬱蒼とした森で、獣道を走っている。
 ロハの地図を見る。あっちこっちへと移動した気になっているが、ふた部屋移動しただけだ。
 車に乗っているだけでは、どこにも行けない。脱出することはできない。



 次は大部屋。
 これまでの部屋の9倍の面積が見てとれる。物語の最終地点なのは、間違いないだろう。

案内人「そろそろ着きます。私も一緒に降りましょう。——シヴァ神が導く先に何が待っているのか、この目でお確かめたく存じます。願わくば消えた死体の謎を解かれんことを」

 期待を煽り、目的を思い起こさせる台詞だ。道先案内NPCの台詞として満点だ、自然にやる気が湧いてくる。

 車から降りる。嵐はまだ止まないが降る雨はない、頭上の密した枝葉が防いでいる。強く感じるのは風だ、肌ではなく耳で。木々が大風に身を揺らしている。数千の鴉が飛び立つようなざわめきが、四方から聞こえる。

 荘厳で歴史ある門構えを跨いで、招き迎えいれるかのように開かれた入り口をくぐる。
 中に薄暗い。祭壇に何かが座っている。
 皆が入ると、入り口が一人でに閉められた。

 真っ暗になる。お互いの声だけで安否を確かめ合う。
 ぼっ、ぼっ、と壁の蝋燭が灯る。

 祭壇に座っていたものは、これまでに見たシヴァの神像だった。目は開いていない。
 彼が座る台座に、詩のようなものがある

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎のような変化を以てしても
⚪︎⚪︎によって船を動かすことは能わず
宝を捧げ、⚪︎⚪︎⚪︎よシャクティを発せ

ヨニ「ふ〜む、虫食いパズルでしょうか」

 三単語が空欄となっており、物理的に空白がある。いかにも埋められそうだ。
 そして、目の前には三つの入り口がある。

倒萩「この先に何かあるのかな?」

 私とロハは一番近い左側の入り口に進んだ。一歩二歩と歩くと、ガッシャァアン!と激しい金属音が鳴る。振り向くと、檻のような鉄格子が降りていた。
 閉じ込められた!?

 壁を溶かすことも考えたが、それは流石にやりすぎか。力押しがすぎる、正規の手順ではないだろう。私は柵の隙間から声かける。

倒萩「ねえ案内人さん! これもぶっ壊していい?」
案内人「落ち着いてください! 力ずくでやっては、何か別の罠が作動するかもしれません、建物が崩れるかもしれません。最後の最後の手段としましょう——それより奥はどうなっていますか?」
ロハ「なにか、パズルみたいなものがある!」

 背後遠くからロハが声を上げた。

案内人「それを解いたらどうにかなるのやも知れません。——私たちは他二つの入り口を調べましょう。おそらく似たような罠があるかも知れませんが。用心のため誰か一人は中央に残った方がいいかも知れませんね」

 これまでは集団行動だったが、案内人は少数行動させたいようだ。その意図を考える。
 確かに、ずっと全員で行動すれば、消極的な人は「参加できた感」が少ないかも知れない。メリハリをつける意図でこのような仕組みを取っていそうだな、と思案した。

倒萩「謎解きがあるみたいだから、頑張ってくる! そっちも頑張って!」

 そう声かけて、私は通路奥へと進んだ。
 小さな部屋がある。そこへ入ると、キィイと扉が閉められた。隔離に念入りだな。
 部屋の壁には横長の絵巻がある。神の言葉を受け船を作り、大洪水で世界が沈んで、その人だけが生き延びた……というストーリーに見えた。ギルガメッシュ叙事詩からある、洪水伝説だろう。
 部屋の中心には、小さな台があり、木材の駒がある。駒は縦長だったり横長だったり。見たことのあるパズルだ。

ロハ「これ、やったことある?」
倒萩「ああ。『箱入り娘』ね」

 「兄弟」や「両親」や「用心棒」と言った駒を動かし、一番奥の一番大きな「娘」を外に出すパズルだ。ただ娘にあたる駒が「船」、家族にあたる駒が「波」や「礁」など、航海に関するものになっている。

 確か中央の詩に、船が云々という文面があったはずだ。なんらかの関連だろうか?
 気になったものの、よく思い出せない。

 とにかく手を動かしてみよう。
 カチカチカチカチ……。

ロハ「そこに動かしても、なんにも何ないんじゃない?」

 カチカチカチカチカチカチ……。

ロハ「さっきと同じ形に戻ったね」

 カチカチカチカチカチカチ……。

ロハ「あれ? ——」
倒萩「うるさい!」

 胸ぐら掴む。締め殺したろか。
 ロハは引き攣った笑みで言い訳つくろった。

ロハ「違う違う! ほら、あっち!」

 指さす方、入り口が開いている。
 パズルはまだまだクリアできてない。

ロハ「開いたから不思議だなあって。ぜんぜんクリアできてないのに」
倒萩「クリア寸前だ!」

 カチカチカチカチカチカチ……。
 うーん、上手くいかんなあ。
 カチカチカチカチカチカチ……。
 おっ。いい感じ。
 カチカチカチ……カチッ。

 船が出た。

倒萩「やった!」

 どうだと振り返ってみると、ロハは居ない。いつのまにやら出ていっていたらしい。
 怒りを抑えながら、私は船の駒を手に取る。動かしながらどうにも気になっていた、黄金色の部分に触れた。案の定、パキッと音がして、それが外れた。
 小さなプレートのようだ。文字が彫られていて、文字が彫られている。



第三の答え、manuマヌ



 これまでの答えから推察するに、インド神話のなにかなのだろう。プレートを握りしめて、中央の部屋に戻った。

倒萩「おいロハ、私を応援しようって気持ちはないのか」
ロハ「いやいや信じてるからさ。信じてるからこそ任せていったわけで」

 詰め寄ると早口でなにか捲し立ててきる。時間があったらもう少しいじめてやりたかったが——今はそんな暇なさそうだ。

倒萩「首羅さん、なにがあったんですか?」
首羅「分からんな。我が戻ったときから、こうだった。無論、水はもう少し少なかったがな」

 首羅が足を軽く蹴る。足首まで浸かった水が、壁に軌跡を作る。
 入り口を見ると、閉めた扉の隙間からじょろじょろと水が流れている。
 水責めか。嫌な感じだ。
 だがそれよりも気になるのは、像だ。
シヴァの神像が消え去り、そこには黄金の像があった。紅宝玉の剣を帯び、藍宝玉の瞳を光らせる、絢爛な像だ。
 問題は彼の顔が案内人と同じ顔をしていることだ。

 詰まったら案内人に聞けばいいかと思っていたら、まさか像になっているとは。

倒萩「首羅さんが最初に戻ったんですか? なんかをクリアしました?」

 彼は中央台座の詩を指さす。そこには「シヴァ」のプレートがピタリとはまっていた。
 私も「マヌ」のプレートを嵌める。


︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎のような変化を以てしても
マヌによって船を動かすことは能わず
宝を捧げ、シヴァよシャクティを発せ


 サイズとしてはぴったりだが、文意がよくわからない。

倒萩「マヌというのは、なんでしょう?」
首羅「聞くに、部屋には大洪水の伝話が描かれていたのであろう? ならば、洪水を生き延びた唯一の人間を示しているに相違あるまい」

 ふむ。方舟のノアと同じようなものか。

倒萩「マヌによって……とはどういうことでしょう? マヌさんを櫂代わりに使うってわけでもないですよね?」
首羅「場合によってはそうするかも知れんが、おそらく違うだろうな。文意が曖昧なのは下も同じだ。シヴァに命ぜられるものなどおるまいて」

 ニュアンスが分からないが、大変不敬に見えるのだろう、若干の怒りを感じた。彼の信ずるアスラの魔幣首羅と、シヴァを意味する摩醯首羅は、両雄並び立たず、対立するものと思っていたが。なんだかんだ相手を認めている、ベジータ状態なのだろうか。まあ色々あるのだろう、あまり気にしないようにしよう。

倒萩「そっちにもなにか絵があったりしました?」
首羅「ああ。もしかしたら見ておいた方が良いかも知れないな。扉はもう閉まらん、見に行っても大丈夫だろう」

 三人で首羅のクリアした小部屋に入る。シヴァ像の三つの目があちらこちらを向いていて、その視線の先に傾けた鏡がある。調整して視線を合わせる謎解きだったのだろう。
 壁には神々の戦争が描かれている。首羅のように三つ首の神もいるが、それはシヴァに殺されている。敵役なのだろう、南無三。
 目を引くのは、神々の乗る、空飛ぶ宮殿のような乗り物だ。特別な塗料できらきらと輝いている。

首羅「それはヴィマナだな。人が操ろうとすると力を吸い取られすぎて死ぬか、天罰の雷が落ちるぞ」

 へぇ。
 首羅は乗れるのかと聞こうとしたが、やめた。絵の中で、三つ首の神々は誰も乗っていないのだから。

 わあっと言う声が遠くから聞こえて来た。死神&ヨニのチームがクリアしたのだろう。
 中央に戻ると、死神が水をバシャバシャやりながら騒いでいた。

死神「溺れてしまいますわ〜!」

 確かに水嵩は増してきている。部屋が水没するまでがタイムリミットなのだろうが、あまり濡れたくはない。

倒萩「そっちは、なにかゲットしなかった?」
ヨニ「しました!」

 プレートを持っていたので、空欄を指さす。案の定、ぴったりとハマった。



︎ナラタージのような変化を以てしても
マヌによって船を動かすことは能わず
宝を捧げ、シヴァよシャクティを発せ



 最後のピースは、彫刻家の名前だった。
 ナラタージのような変化? やっぱりピンとこない。
 ふむ、と一呼吸置く。まあ何にせよ空欄は埋まった。サイズから見て間違いないがはたして……?

 ご、ご、ご、と詩の部分が、台座の内側へと沈んでいく。やった。
 ぽっかりと空洞ができる。
 ご、ご、ご、と迫り上がるものがある。豪華絢爛な宝石箱が現れる。まさか、と予見したが、まさにその通り。現れたる箱には、巨大なダイヤが鎮座していた。

 真っ先に動いたのは死神だった。疾風の速さでそれを掴み取る。彼女の腕を、私は尻尾で絡めとる。ぐぎぎ。力を込め、持ち上げる。彼女が宙に浮く。死神は力一杯抜け出そうとする。死神は魔人のようだが肉体派ではないようだ。私の尻尾に制圧されている。

死神「手も足も出ない……でも真の英雄は目で殺す!」

 死神がカッと目を見開くと、目から光線が飛び出た。うひゃあ! ロハが私の肩を引いたおかげか、幸い、光線は当たらなかった。

 尻尾から逃れた死神は、羽をパタつかせて体勢を整え足から着地、我々から距離を取った。

倒萩「卦体糞悪い」

 思わず悪態が飛び出る。
 死神もダイヤを探しに来たとは知ってたが、まさか一目散にとびつくとは。浅はか極まりない。ありえない。

倒萩「この流れで清王朝のダイヤが出てくるわけねーだろ!!」

 死神はビクッと身を震わせて、こっちを見る。周囲を伺う。

 私も清王朝のダイヤを見たことはないが、でもそれが、今ここで現れるとは思えない。
 最後ならまだしも、まだまだ謎解きの途中だ。キーアイテムに決まってるのに、このタコが……。

首羅「少なくとも、我の求める聖遺物とは異なるな。黒光りせず赤い線も走っていない。聖遺物はトラペジウムの集合だが、それは——ん?」

 ぽこ、と膨らむ音がした。何かと思うと、死神の抱えるダイヤからだ。ダイヤは膨張し、掌大の立方体になった。大きな宝石ではあるものの、さきほどまでのブリリアントカットが持つ美しさはない。

 大きく安っぽい。
 死神もそう感じたのだろう、たははと苦笑いだ。

死神「ごめんちゃい」

 死神はダイヤを差し出してきた。…………まあ、謝ったのでよしとするか。
 協力謎解き気分が霧散したが、さて、気を取り直さないと。
 たしか宝がどうと、詩に書いてあったような……と台座を見る。純金の案内人像の足元には、宝石箱が転がっている。文字のピースを埋めたらこれが出てきたんだっけ。
 宝石箱は死神のいざこざで、弾き飛ばされている。宝石箱があった位置には、穴が空いている。
 なんらかの機構が台座の中にあって、表に出すものを変える仕組みがあるのだろう。シヴァ像が案内人像に変わったのも、そういうなにかだろう。それはわかる、それはわかるが……。
 宝石箱よりほんのひとまわり小さい穴のサイズが、膨らんだダイヤと同じサイズなのだ。ちょうどぴったり入りそうだ。
 私はその穴にダイヤを嵌めようとしてみる。

死神「わわあー! 捨てるんだったらやっぱり返して〜! 金になるかも」

 無視。

倒萩「ロハ! 詩の最後の文章ってなんだっけ?」
ロハ「ナラタージのような変化を以てしても、マヌによって船を動かすことは能わず。宝を捧げ、シヴァよシャクティを発せ。——宝を捧げるって、それか?」

 私はコクリと頷いた。ダイヤがどう言う原理で膨らんだのかは不明だが、たぶんこのサイズ感もヒントなんだろう。意味はわからなくとも、形は合う。
 詩の文意がよくわからなくても、プレートのサイズで突破できたのと同じだ。

 私は首羅とヨニを見やる。彼らは頷いてくれたから、私は手を離した。
 ダイヤがヒューと落ちていき、ぽちゃんと水に沈む音がした。

 しばしの沈黙。

 ——水が引き始めた。
 地震の前兆のようだと思ったと同時に、地が激しく揺れた。
 バキリッバキリッと木片が折れる音がした。
 寺院自体が歪み、砕けようとしている。

倒萩「まずいぞ!」

 壁が倒れた。内から外へと倒れた。
 パタンと。セットの書き割りみたいに。
 ロハの地図で、最後の部屋は最も大きいと気づいていたのに——まだまだ広がるのか、世界!
 寺院は跡形もない。ざぱあんざぱあんと波の音が響く。地震だと思った揺れは、海の揺れだ。
 立ち上がって見渡す。
 わたしたちは海の上にいた。

 船に乗っていた。
 白く輝く——ダイヤモンドの船!



 船の揺れが落ち着いてくると、周りを見渡す余裕も出てくる。

 空は、これまでと同様暗くはあるのだが、プラネタリウムのように星々が投影され、閉塞感を感じない。
 波は、落ち着いている。表面にヒダが走る程度で、星明かりと船体の光を反射している。
 船は、車と同じように進んでいるふりの運動を繰り返す。同一の繰り返しがなければ、機械による揺れと思えないくらいだ。
 甲板は簡易なもので、目につくものは多くない。マストも操舵手もない。手すり(ブルワーク)と、黄金案内人像くらいだ。
 みんなは、ぽやーんと空を眺めたり、波を眺めている。

 景色は十分楽しんだ。
 最後は星空の下で、決着をつけよう。

倒萩「ここから最後の謎解きが始まる——」

 ……。

 ……と思う。んだけど。

 …………始まらないなあ。


案内人像「ン皆様方、ご注目を」

 案内人像が喋り出した。黄金色の案内人は、機械仕掛けのようにカクカクとした身振りだ。

 彼の左右から、ダイヤの棚が競り上がる。
 それには、見覚えのあるものが載せられていた。
 【調査書】【シヴァ像】【足跡】……。
 これまでの調査で見かけたものたちだ。中には見覚えのないものもあるようだが。

 それと、案内人像の手前に大きな穴が空いた。首吊り処刑を受けたものが落ちる穴のように、深く昏い穴だ。

案内人「これらの【証拠】を改めて調べてもらいます。その後、最後に一人、選んでください。選ぶ理由はなんでも構いません。好きだから、嫌いだから。頑張ってたから、怠けてたから。かわいいから、かっこいいから。なんであれ、全員一致で一人を選んでもらいます。その一人が、必ずみんなを、エンディングへと連れて行ってくれるでしょう。それでは、最後までご歓談と謎解きを楽しんでください」

 深いお辞儀のポーズで、案内人は再び動きを停止した。
 みな、顔を合わせ合う。思い思いに、証拠品を手に取ってみる。


+ 調査書
路地裏での警察の調査書だ。一度だけ出てきたあの男が、事件の鍵を握っているのか……? しかし、黒幕を担うにはあまりにも棒読みすぎるか。←何様?

+ 調査書2
【ナラタージ・ヤーダヴァ】の調査書。寺院へ向かう車内で読むチャンスがあった。簡易な来歴が書いてある。中央美術学院で【ローマ彫刻】を専攻していたようだ。出自であるのインドの神を彫るようになった理由は不明。自身の根源をそこに見たか?


+ 足跡
血の足跡。ヨニや首羅では小さすぎ、ロハや死神では大きすぎる。私が一番近いサイズだ。もちろん、私は殺されたりなどしていない。

+ シヴァ像
事件現場の写真で見つかったシヴァ像。これは寺院の死神&ヨニチームの部屋に飾られていた。サイコロを抱えており、サイコロはアラビア数字の六面体だ。【4】だけが左右鏡文字に反転している。極めて怪しい。

+ 工房内の走り書きの構想メモ
意識がない——非シヴァ的
女——どちらかというと非シヴァ的
死者——非シヴァ的。非シャクティでもある?
陰陽術からの死霊術は数値の調整以上の意味を持たない。素体の属性に依存。絶望だが、希望にもなりうる。

+ 左部屋の壁画
マヌの大洪水が描かれている。神の啓示によって船を作り、ヴィシュヌ神第一の変化と言われる魚・マツヤに導かれ、ヒマラヤまで船を運んだ。彼以外の人類は死亡したため、いかにして人類は昨今のように繁栄したか疑問に思われるが、二柱の女神とまぐわい、人類の祖となる。マヌこそが、神血の混ざらない最後の純人類だったのかもしれない。

+ 中央部屋の壁画
十二の車輪を持つ二階建ての宮殿から身を乗り出したインドラが、槍を投げヴリトラを殺害する様子を描いた壁画。神々の乗り物・ヴィマナvimanaはあまりにも人工物であるため、戦車どころか戦艦や戦闘機あるいはUFOのように描かれることもしばしば。意匠が凝り、動力源が不明なことが共通する。

+ 右部屋の壁画
宇宙の中に地球がある。
海の中に島がある。
女性器の中に男性器がある。
これら三つの組み合わせは共通して「リンガとヨーニ」を示している。繁殖を乞い願うちんぽ祭りのような下卑はなく、男性器はシヴァ「形・意識」を、女性器はシャクティ「力・根源」を意味する。

+ 謎解き詩
【ナラタージのような変化を以てしても
マナでは船を動かすことはできない
宝を捧げ、シャヴァよシャクティを発せ】
三つの部屋で、全員で協力して埋めた謎解き詩だ。
あれ、何か違和感が……?

+ 調査書2を既読
亡くなった芸術家……本名はナラタージ・ヤーダヴァNataraj Yadava。
なんか、母音がA音多くないか? ……発音が何かに関わるのか?
あれ? 私が見つけた答えManuマヌが、Manaマナになっている! ŚivaシヴァもŚavaシャヴァになっている!? これはいったい……?
倒萩「マナとシャヴァについて教えて!」
首羅「マナは知らんな。人の力……気のようなものだろうが宗派が違いすぎる、詳しくは知らぬ。ただ、シャヴァはよく知っているぞ。【屍】だ」
ふむ。マナはMPか。ただマナではいけないのだから深掘りは不要か。「ナラタージのような変化」が母音をAに変えることを意味するのであれば、その後に続くのは「人の力で船は動かない。屍が神の力で船を動かせ」という感じの意味になるか?



 私の頭の中で、シナプスが発火した。
 選ぶべき一人、それは、こいつだ!

+ 倒萩
 私だ! きっと隠されしどんでん返しがあるに違いない。だって主人公なんだもの。そうでしょ? ねぇ、ねぇ、なんか言ってよ!
 私は皆の投票により、暗い穴に落とされ、そして、なにかが覚醒することもなかった……。

+ ロハ
路覇タッカー、残念だよ君が犯人だ。思えば君は自分から爪を再度剥いでもらいたがる変態だったね。そうやって人様を誘惑する悪魔なんだろ! き、き、殺してやる! どか、ばき、護衛を殺してしまった! チーン。

+ 首羅
首羅さん、あなたはインド神話に精通しすぎです。怪しい。もしかしたら実は案内人と同じNPCなんじゃないですか? それとなく必要な知識を開示し、それとなく危険があれば排除する。参加者同士の諍いがあれば最悪武力に訴えられそうだし。脱出ゲームにおいて必ず一人は欲しい存在ですね。そうなんだろ、この三つ面! 正体を表せな——え? あ、やめ、暴力反対——チーン。
私は昏い穴に突き落とされた。げふっ。意外とクッションあって助かった、が。
ロハ「うわっ」
死神「ひえ〜」
ヨニ「あ〜れ〜」
案内人像「なんで私まで……」
皆が次々に落とされてきた。阿修羅マンに武力勝負で敵うものはいなかったようだ。
だがしかし、きっかけにはなったのだろう。参加者の一人が、光輝き出す。
??「こんな終わりになるとは……まあいいか」
——Endingへ

+ ヨニ
ヨニを指名する理由、それは、

+ 脱出ゲームのタイトル
倒萩「ヨニも奇妙な冒険! これは絶対にお前に関係がある! だからなんかお前だ!」
メタ読みが過ぎるものの、特に誰からの反論もない。あからさますぎるので。スリラー映画で「実は冒頭のあれが特大ヒントで」というお約束があるように、実はタイトルこそが最大の謎解きのヒントなんだ! というかこれを後で「伏線でした」とドヤ顔で語られたらムカつく!! 私は人を許せなくなる前に自らの手で決着をつける!
指名されたヨニは、不服そうな表情をうかべながらも、穴に落ちた。すると、昏い穴から光が満ち溢れ出した。
——Endingへ


+ 右部屋の壁画を既読
倒萩「陰と陽の太極図によって万物の根本原理を説明する陰陽道、それに似た概念がインド神話哲学にもある。それが男性器・シヴァを象徴するリンガと、女性器・シャクティを象徴する——ヨーニだ」
謎解き詩にはシャクティを発すれば船は動くとあった。なんにせよ、その動力源となれる存在は一人しかいない。
倒萩「女陰黄泉。いや、ヨニヨニって呼んでやるぜ!」
指名されたヨニは、満足そうに頷き、穴に落ちた。すると、昏い穴から光が満ち溢れ出した。

+ シヴァ像、中央部屋の壁画、シャヴァ【屍】を既読
倒萩「私たちにはピースが足りなかった。その原因は死神にある。いや、確認を怠ったのは私たちか。手分けして寺院を探した際、最後に謎解きを終えた右部屋を、私たちは調べなかったんだ。そこにはとても重要な証拠があった」
私はサイコロを転がす。出目は、左右鏡文字に反転した4。普通の、ポッチの彫られたダイスではなく、アラビア数字が描かれている。これが欠けたピースだった。
倒萩「アラビアになんの関係が? エジプトは関係ない、インドでもない。関係があるのは、ローマだ。ローマ数字だ。iVの左右反転、つまりViをどこかに足す必要がある。どれだ……合わせていくと、ひとつ当てはまる言葉があった。中央部屋の壁画に描かれた神々の車、Vimanaヴィマナだ」
謎解き詩のManaマナのプレートを抜き取り、サイコロと一緒に穴の中へと投げ入れる。すると穴は内側から輝き出し、操舵輪が迫り上がる。
倒萩「この船を動かせるのは一人しか思いつかない。タイトルに名指しされ、見た目インパクトあるのにNPC然と控え目で、シャクティに相応しい女性器を意味する名前を持ち、【屍】のまま動くキョンシー——女陰黄泉よシャクティを発せ!」
——Endingへ









Ending

 ヨニが内側から放つ光に呼応して、船全体が輝き出す。
 神々の車は宝石に彩られ、というが、ダイヤモンドでできたこの船もまさしくそうだ。
 迫り上がってきた操舵輪を、ヨニは触れずに、動かす。船がぐわんを身じろぎし、地面を離れる。空の輝きが一層増している。巨大な月に向かって船がぐわんぐわんと進んでいく。そして届かぬはずの月を突き破り、そこは——

 ゴールだった。

 旅路の果ては、光の中は変哲のない座敷の間だった。
 船首からタラップがかけられ、船を降りる。
 座敷にはヨニの等身大パネルが置いてあり「脱出成功」の立て看板がある。グッズの売店コーナーが見え、その向こうは入場時の受付だ。ぐるっと一周回ってきたのだ。

 現実に帰ってきたという安心感というか疲労感が、どっと押し寄せてくる。

ヨニ「お疲れ様でした〜」
首羅「なかなか面白かったぞ」

 ヨニが恐縮そうに腰を折っている。参加者に混じって物語にNPCが加わることもあると聞いていた。途中までは首羅と思っていたがヨニだったとは。
 興奮冷めやらぬまま、笑顔の案内人が現れる。いつの間にやら金メッキははげている。

案内人「さて皆様、まずは完走、脱出成功おめでとうございます。色々とご質問等ございましょう、座敷でゆっくりおくつろぎ足を崩してください」

 そのような流れで、感想会・質問コーナが始まった。

感想会・質問コーナー 答・案内人

+ ちょい役の路地裏の警官の人、窓の映像とおんなじでしたけど毎回同じ人がやってるんですか? 彼は出演時間あたり時給換算でどんくらい稼いでるんですか?
→目元が隠れているので実は結構ごまかしですよ。私がすることもありますし。彼は次期店長なので、他にも仕事してます笑 ちなみに現店長は私です。



+ 路地裏のシヴァ像は誰が持ってったんですか?
→ヨニ本人ですね。一旦離れた後、戻って来て回収してます。彼女は記憶喪失という設定がありますので、記憶喪失前の手がかりを探しに、戻ってきた感じですね。その時にはもう足は乾いているので、血がついたようなわかりやすい足跡ではないですが、毎回一応(足跡を)つけてはいますね。気づいて報告してくれていたら車内で、ある程度の情報開示と時系列整理をしていました。


+ ナラタージの家の扉は壊してよかったのですか?
→はい。自然に見えるようバラける構造になってますので、弁償不要です。あそこで「やっちゃった!」と思うお客さんもいるのですが、その時は私が安心させることで、没入感だけでなく「色々やっていいんだ!」という自由度も高まることになります。だいたい3割くらいのお客様が壊しちゃいますね。他には雨が止むまで待つ、窓から入る、植木鉢の下の鍵を見つける択があります。お客さんがインド神話に詳しくない場合は、車内でざっくり説明したりしますね。まあその場合も少しは雨に濡れてもらいますけど笑


+ ナラタージさんの血は、とても鉄臭かったです。結局なんの血だったんですか?
→それは企業秘密……だと怖すぎますか。ここは正直に言わせてもらうと、豚ですね。触れられない位置に遺体を置く必要があるので、ちょっと遺体が遠くにあるぶん、ちゃんと死んでるリアリティを出すために、路地裏よりはちゃんとした血を使っています。いちおう食用血と同じ処理をしてますが、まあ免責事項なんで自己責任ですね。


+ シヴァの目の光に当たったらどうなってましたか?
→もちろん死んでましたよ! ハッハッハ、冗談冗談。あの発火はレーザー光のせいじゃなく、地図側で起こしていたから平気ですよ。



+ ヨニ以外を指名した場合はゲームオーバーだったのですか?
→途中退出以外、必ずクリアーできるようになってますので、ゲームオーバーはないですね。ヨニが神パワーを発揮して船を動かしてゴールの結末に変わりはありません。


+ このストーリーは実際の話なんですか?
→……(女陰黄泉を見る)。ご想像にお任せします。



 質問は山積みだったが、そろそろ時間のようだ。死神と感想をわあきゃあ言い合い、今から喫茶店で話そうと約束する。なるほど、初め予約時に「早く来すぎるとネタバレを喰らう可能性がある」と言われたわけだ。外に出ても余計なことを言いすぎないようにしないと。

 最後に、記念撮影。
 せーの。

「「「「「脱出成功!」」」」」

 パシャ。みんなハッピー。

 脱出ゲーム、最高〜!!!














































+ ⊕しかし本当にそれで良かったのでしょうか?
+ 【足跡】を確認する
+ 女陰黄泉、倒萩のサイズ感をプロフィールから確認する
+ 女体である女陰黄泉が、なにを使用して白髪黒羽のけつあなを確定したか考える
+ 尾は20cmから200 cmの範囲で伸縮し、先端には指よりも器用に扱える房
+ 倒萩は女陰黄泉?
+ であれば
+ 女陰黄泉役は白髪黒羽?
+ 足跡のサイズを確認する
+ 女陰黄泉、倒萩、白髪黒羽のサイズ感をプロフィールから確認する
このSS、なにか変……。

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