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ダンゲロスSS上海

キャンペーンプロローグ

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キャンペーンプロローグ『魔都の日常』

魔都上海。
東洋一の都会にして、古き中華の面影を残す国際経済都市。
近代と現代が交わり、繁栄と退廃が溶け合う街。
絢爛たる光と妖艶なる闇。実存が神秘に抱かれ、表と裏が一つになる都。

ここには、世界のすべてが集まる。
人種、富、財宝、美食、美術品、最先端技術。
だが、その全てが美しいとは限らない。
魔都というからには魔人が集い、犯罪が渦巻く。
この街の半分は彼らのもの。

上海には古くからの掟がある。
「魔人たちの問題は、魔人たちで解決する」

ここは魔都上海。
陽と陰、秩序と混沌が交錯する、魅惑の坩堝。



 郊外の埠頭には、潮の匂いが風と共に届いていた。
 騒々しく喚き散らす人の声や車のクラクションは遠くに、鳴り渡るサイレンはネオン光を滲ませ、高層ビル群に反響しては消えていく。それらすべてが渾然一体となり、魔都上海の幻想的な光景を作り上げていた。

 上空には、唸りをあげるヘリコプターの影が伸びている。
 巨大なコンテナがケーブルで吊り上げられ、ゆっくりと空を渡っていく。吊り下げられたコンテナは、黒々と光る大きな宝箱のようだ。

 港にはパトカーに乗った警察官とともに、黒服に身の男たち数人が待機していた。マフィアの下っ端たちだ。
 魔都上海を陰で支配する正体不明の【魔幇(モーパン)】。
 その非公式下部組織である彼らは、警察関係者とともに、この積み荷を無事に運びきる役目を任されていた。
 積み荷の中身は、誰一人として知らされていなかった。

「なあ、中に何が入ってると思う?」
 ぽつりと誰かが口にした。

「クスリ……なわけねえよな?こんだけバッチバチにガード固めてんだぜ。こりゃ相当なモンだ」
「どっかのセレブの財宝……まさか!噂の清王朝のダイヤか?」

「はっ、流石に違っげぇ!夢見すぎだよバーカ!」
 場違いな笑い声がこだました。



 だが同時刻、港に面した高層ビルの最上階では陰謀が渦巻いていた。
 シャンデリアの下、重厚な円卓を囲み、警察署長たちと、魔幇の非公式下部組織【安達会】の若頭、路安(ルウ・アン)が酒を酌み交わしていた。

「まずは成功を祈って乾杯」
「いやぁ、さすがに緊張するねぇ。こんな大層な命令は滅多に降りてくるものじゃないよ」
「本当に……ですが、これは上からの直接指示です。安全に運びさえすれば褒美は必ず頂けるでしょう。あなた方警察も、私どもマフィアも……ね」

 薄暗い室内で、路安は握りつぶしそうなほど強くグラスを持つ。中の酒が揺れ、琥珀色の液体の向こうで警察署長たちの顔が歪んで映る。

 真隣では、警察幹部が部下の男たちと気安く談笑し始めていた。
「はてさて、宝箱の中身は一体なんでしょうな」
「そうですな、これほどの面子で立ち会えというのです。余程の代物だということは確かでしょう。是非とも中身をお目にかかりたいものだ」

 他愛のない会話をよそに、路安は肝に銘じていた。これはただの運搬任務ではない、と。
 表向きは「展示品の輸送」などと呼ばれているが、こんな物々しい警備が必要なはずがない。詳細は知らされていないが、このクラスの護送が必要なのは、間違いなく魔幇の頂点であるボス直々の宝だ。

 路安は、どこかで聞いた噂を思い出す。
 清王朝最後の秘宝、伝説のダイヤモンド。
 おそらく、今夜運んでいるのはそれなのだろう。
 これは魔幇の、いや上海黒社会の威信を賭けた——

 ゴクリと酒を飲み干す。
 成功すれば昇進は確実。だが失敗すれば生きてはいられない。

 その時だった。
 懐の携帯が甲高い音を上げた。
 路安は即座に出た。

「……路だ。どうした?」
『積み荷がやられました!』
 瞬間、血の気が引いた。

「なんだと!? もういっぺん言ってみやがれ!!」
『……積み荷が盗まれました!!』

 路安は立ち上がり、机を叩いた。
 警察署長たちも顔を青ざめさせ、席を蹴って立ち上がる。
「ふっざけんな!! アレはただの宝じゃねえぞ!!」
 怒号が高層ビルの最上階を震わせた。

「清王朝のダイヤだ!!」

 瞬く間に、部屋の空気は凍りついた。
 路安は携帯を握り潰さんばかりに力を込めた。
 もう片方の手で叩きつけたグラスは粉々に砕けた。

「全員だ!!全員使え!!」
「草の根分けてでも探しだせ!!」
「手段は問わねぇ!!」
「怪しい奴は片っ端から捕らえろ!!吐かせろ!!!」

 路安の命令が矢継ぎ早に飛んだ。
 警察署長たちも即座に動き出す。
 魔幇の命令に逆らえば、自分たちにも明日はない。

「何をしてでもいい!どんな犠牲を払ってもだ!!いいな!」



 翌朝、魔都上海は、異様な興奮に包まれた。

 百年節。
 魔幇の創設百周年を祝う一大イベントは、開催される前から既に始まっていた。
 だが、その日の様子はただごとではなかった。
 街中の巨大スクリーン、駅の構内、繁華街のビル壁面……あらゆる場所に、血塗られた文字が書かれていたのだ。

『魔幇のボスより命令を下す』
『盗まれた清王朝のダイヤを探し出せ』
『犯人の首とともに持ち帰った者には、何でも望む褒美を与えよう』
『失敗すれば、死あるのみ』

 それは、布告だった。

 立ち尽くす観光客たちの目に、血に濡れ倒れ伏す男たちの姿が映った。
 高層ビルのスクリーンには、安達会の若頭・路安と、共に酒を飲んでいた警察署長たちが、無惨に積み上げられていた。

 顔は腫れ上がり、殴られた跡が生々しく残る。
 背後の壁には、赤黒い血の跡が指でなぞるように残されていた。

『魔幇の誇りを傷つけた報い』
 上海市民たちは恐怖と狂喜の入り混じる中で、静かに理解した。

 これから、魔都上海は混乱に染まる。
 そして、その中心に清王朝のダイヤがあることを。

 ここは魔都上海。
 陽と陰、秩序と混沌が交錯する、魅惑の坩堝。

 だが、これは魔都上海全体を巻き込む大騒動のきっかけに過ぎなかった……
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