ダンゲロスSS上海
陽光にまどろむ上海の王
最終更新:
dangerousss_shanghai
-
view
九龍城砦
あの人に渡された地図はどれもこれも分かりづらく、亀岩さんの部屋への道程も、芽芽さんの事務所への旅路も、それはもう波瀾万丈な物語でした。それに輪をかけて九龍の地図は惨憺たるもので、現代アートの如き謎図形を手に複雑怪奇な無法建築物群に挑むのは無謀そのものと思われました。
でも報酬を前金で貰ってしまったので仕方ありません。愛と混沌の脱出ゲーム会場(後編)になるのを覚悟で戦々恐々踏み込みますと、不思議なこともあるものです。分かりにくい地図と、分かりにくい地形が奇跡的に打ち消し合い、あれよあれよと言う間に目的地へ着いてしまいました。なんだか逆に悔しいくらいです。
「何故ここが分かったんですか」
ワニをけしかけて噛み殺させるぞ、とばかりに剣呑な表情で出迎えたのは潜伏中のメーメーさん。こんな言い方は失礼かもしれませんが、可愛らしい女性だな、というのが第一印象でした。
師匠が知り合いに占ってもらったらしいです、と正直に答えたところ、どうやら地雷を踏んでしまったらしく、空気はますます険悪に。メーメーさんは占いが大嫌いな様子です。
ここでわたしは驚くべき機転でメーメーさんの警戒を解き、師匠からの伝言を届けるお仕事を無事完了したのですが、その詳細を書くには文字数が足りません。
それにしても驚いたのは、メーメーさんの黒もっこです。こんなに大きな黒もっこを連れてる人は滅多にいません。ああ、願わくば彼女がわたしみたいな死に方をしませんように!
下山師匠は“きみたち”を愛してる
上海上空2万km。衛星軌道上で、宇宙大天狗・下山師匠と2基の人工衛星とAI少女、そしてラブホテルのバトルが始まった。
「ふっふふ~。特に危ない連中を、魔幇の協力も仰ぎつつちょちょいのちょーいと拉致させてもらったわけだ。お詫びと言ってはなんだが、そちらの流儀でセックスバトルしてあげよう。いやーん、久々で腕が鳴る~。さて、わたしは女だが、おまえたちはどうなんだい?」
――数時間後。上海の夜空に四つの流星が煌めいた。
「いやあ、柄にもなく頑張っちゃったねえ。もう触手の一本も動かないや。――後はきみたち次第。上海の行く末、空から見守ってるからね」
セックスしないと出られない部屋、魔人衛星『星の岩屋』、都市捕獲用無人衛星、ストレリチア:撃破
下山師匠:継戦不能
下山師匠:継戦不能
格闘技場
拳狐の秘策、無拍で射出されるタングステン棍が躱された。高融点金属を能力で加速した予備動作無き奇襲。黒羽の弾丸を受けていなければ、流石の炎嵐も避けられなかっただろう。
「危ねぇなオイ!すげぇ技、持ってんじゃねぇか!」
ズン、ズン、ズン。
響く心臓の拍動音。
響く心臓の拍動音。
「だから気に入らねぇ」
ギリ、ギリ、ギリ。
歯軋りの音。
歯軋りの音。
「てめぇは何故これ程の技を世のために使わねぇんだ!」
ミチ、ミチ、ミチ。
筋肉のひしめき。
筋肉のひしめき。
劈掛拳が、弧を描く軌道で放たれる。側方から襲い来る曲線的な攻撃。
熱波を纏った暴威の一撃だが、その動きは鍛練に基づく実直な拳。拳狐に見切れぬ業ではない。
だが、長きに渡る攻防で拳狐は限界を迎えていた。避けるべきだが脚が動かぬ。悪手と理解しながらも、腕を挙げて防御する。鉄拳が防御ごと拳狐をぶちのめし、床に叩きつける。闘技場の床が砕ける。勝負あり。
拳狐はそれでも立ち上がった。
積み重ねた功夫に導かれるまま拳を構え。……そこで意識を失った。
上海大賽優勝者:劉炎嵐
下水道
暗渠の中を進むメーメー達の、共有暗視視界が異変を捉えた。ファック部門のジョボビッチが汚水に潜んでいる。その液状肉体は接触即感染の脱水悪疫。打撃咬撃無効。スパイクの変形・高速移動が通用しない天敵である。
「あなたが来たってことは、やはりスパイクの能力も魔幇に割れてる」
ジョボが溶け込んだ下水をメーメーが睨む。その上を掠めるようにスパイクが高速通過。直後まばゆい閃光が迸り、下水内に爆発音が反響する。
「でも、まだ私達を甘く見てません?同じ部門に天敵がいたら、対策は当然。常連さんに貰った特製マグネシウム爆弾。感想は……聞けなさそうですね」
水蒸気の雲が晴れると、そこには禍々しい氣を纏った老人が立っていた。古樹を思わせる、人間離れした存在感の男だった。
「御苦労だったジョボビッチ。お主の献身で手札を一枚暴けた」
「……七鴉翁」
その老人は魔幇最古参幹部。七つの能力を操る最悪の敵だ。
(多分ジョボビッチの能力に別の防御能力を重ねてる。スパイクじゃ勝てない)
(どうしよう……逃げる?)
(逃がさぬよ。だが多重防御を警戒したのは正解だ。褒めてやろう)
(私の『鱗語交流』!?それでスパイクの居場所を?)
(ついて来い。張一族の娘よ。汝には果たすべき定めがある)
ジョボ・ジョボビッチ:継戦不能
万事屋上海紀行・最終日 侠盗饗宴狂想曲(上)
「クハハ、あんたが魔幇のボスかい?手下を散々けしかけてから悠々登場とは存外臆病だねえ!」
と、軽口を叩くのが精一杯。傍らに倒れている神楽ちゃんには咄嗟に【死亡】のイメージを付与した。この子だけでも見逃してもらえたら御の字だろう。
流石はボス。連戦で消耗してたとは言え、このアタシが手も足も出ないとはね。
最早『龍飛九天』に抗えず、自然と差し出された腕から輝く薄煙が五爪の翁へ移ってゆく。ダイヤを渡しちまった。
「……貴様等に興味など無い。速やかに我が上海を去れ」
奴はそう言い捨て、悠然と去りやがった。舐められたもんだ。きっと後悔させてやる……と言いたいとこだが、残念ながらアタシにはもうこれ以上打てる手はない。
だがな、上海にはまだてめぇの首を狙ってる強者がゴロゴロいるぞ?覚悟しとけ!
白髪黒羽、日ノ御子神楽:継戦不能
外灘
黄浦江に無数の節足動物が蠢く。赤。青。緑。様々な色の甲殻。いずれも堅牢無比。テロ組織CDCの揚陸強襲部隊が侵攻を開始した。
CDC首領の王龍蝦は、ダイヤ強奪の濡れ衣を着せられた挙げ句に上海蟹ランドを焼かれ、怒り心頭だ。
「魔幇も!上海も!粉々に切り刻んでくれよう!」
KABOOOM!
誘導ミサイルが甲殻類の群れに撃ち込まれ爆発!硬い甲が砕け飛ぶ!白煙の中から現れたのは最新鋭パワード鎧、ブリガントMk3カスタム。
「雑魚は引き受けます!芽芽さんは親玉を!」
チャムリー家が極秘裏に開発したカルミア専用機。本国から急遽取り寄せ、先程現着したところだ。両腕の電磁振動ブレードが唸りをあげる。
「死神ちゃんが言ってた通りね。……機能的で洗練された眼鏡。宝石のような深紅の瞳。海みたいに青い髪。そして煌めく甲殻の鎧。この可愛さ、私が倒すべき敵!」
ドレスと桜色の髪がふわりと揺れる。芽芽はハートのチョーカーを軽く指で弾き、挑発的に微笑んだ。王龍蝦は両拳を垂らしたシャコの構え。ネコちゃんポーズみたいで可愛い。
上海で最もカワイイ戦いが始まった!
存在しないレガリア
魔幇宝物庫。再びそのダイヤを見たメーメーは困惑した。それは以前と変わらぬ姿で鎮座していたが、『清王朝のダイヤ』ではないことを直感が告げる。
「日本に伝わる三種の神器を知っているか?」
七鴉翁が問う。
「天皇が継承する三つの宝物。宝玉、剣、鏡」
メーメーは淀み無く答えた。
「うむ。それらは王権を示す継承器、レガリアだ。異質な点は、天皇本人すら現物を見ないこと」
「誰も見ず、何故それを天皇が持っていると皆が信じるのでしょう?」
問い返しながらも、メーメーの中には結論が浮かびかけている。
「二千年続く王権が、それを可能としたのだろう。そして、清王朝は三種の神器の如きレガリアを目指しダイヤを作った」
「それが私たち張一族の秘術」
「然り。張一族の娘よ。時を経て乱れた秘術を今一度編み直すのだ。汝の認識が、ダイヤの所在を定義する」
ダイヤの実体は盗まれていなかった。ダイヤ盗難の流言をメーメーが信じた時点でそれが真実となり、新たなダイヤが顕現したのだ。
「汝の死を以て定義が固定され、支配の礎となる。娘よ。魔幇のためにその命、捧げてくれるな?」
七鴉翁の問いに、メーメーは淀み無く答える。
「はい。我が主、五爪の翁様がお望みとあらば」
弱者を絶対服従の忠臣に変える、五爪の翁の『龍飛九天』。その術中にある者は、自らの命すら顧みない。
魔幇殿
高層建築ひしめく陸家嘴の中心に、巨大な城郭がある。魔都を公然と支配する魔人マフィア・魔幇の本拠地だ。
銅鑼が打ち鳴らされ、二胡の旋律が響き渡る。百年節は最終局面を迎えていた。壇上に重々しい足取りで現れたのは魔幇のボス、五爪の翁。その横には最古参幹部の七鴉翁と、清朝式の礼服を纏ったメーメーが侍る。
五爪の翁は会場を睨む。炎嵐。張三。拳狐。それぞれの思惑を秘めこの場に参じた強者たちが居る。だが、彼等の意志は『龍飛九天』に塗り潰され、恭しく頭を垂れることしかできなかった。
武力。財力。家柄。組織力。経験。その全てにおいて五爪の翁は、比肩する者すら存在せぬ圧倒的強者なのだ。
荘厳な雰囲気の中、一人の少年が現れ壇上へ登る。七鴉翁とメーメーは、少年を最敬礼で迎える。少年の纏う威厳を見て、誰もが理解した。この少年こそが魔幇を継ぐ者。新たなる首領であると。
五爪の翁の腕から薄霧が立ち昇り、ダイヤが現れる。継承の時だ。人々の視線がダイヤに集まる。
その時!
突如流れる明るくポップな音楽!
桃色の怪盗少女が現れ、電光石火の早業でダイヤを盗み去る!
五爪の翁は『龍飛九天』を仕掛けるが怪盗少女は止まらない!
突如流れる明るくポップな音楽!
桃色の怪盗少女が現れ、電光石火の早業でダイヤを盗み去る!
五爪の翁は『龍飛九天』を仕掛けるが怪盗少女は止まらない!
それは黒羽がダイヤに仕掛けた【再び奪われる】イメージだった。惑わされず動けた者は三名。
会場外から、桃猫を背に載せた双喜が欲望の風に乗って飛来する。
双喜は次期首領たる少年を捕えて上空へ!
「君も『造られた存在』ですね!ならば私の弟です!決めましたよ!私とラストダンスを踊ってもらいましょう!」
「君も『造られた存在』ですね!ならば私の弟です!決めましたよ!私とラストダンスを踊ってもらいましょう!」
桃猫はダイヤを奪って走り出す!
「やったアル!これで私も人間に!」
「やったアル!これで私も人間に!」
そしてメーメーの姿が低く沈み、五爪の翁の死角を突いた軌道で全身を不規則回転させながら襲い掛かる。秘拳・殺影翻身咬!その太い小指を小さな両腕で捉え、捻り折る!
「グウッ……貴様!なぜ我に歯向かえる!」
小指を折られた五爪が吼える。
「私が貴方より強いからですよ」
“魔幇最強”恋辻メーメーが、艶やかに嗤う。
「下山師匠が倒した『上海の敵』に、魔幇幹部がいるのに違和感がありました。暴走AIはともかく、何故ラブホテルが?――最強の貴方にも、老いによる衰えに抗えぬ弱点がある。だから私は強さの定義をズラし、貴方の支配を斥けた」
「小娘ッ!」
五爪の翁はメーメーを握りつぶそうとするが、拳狐と張三が立ち塞がる。たかが小指一本。だが、その僅かな弱体化が『龍飛九天』の支配を弱めた。
「己の妹弟子が世話になった礼をさせてもらおう」
「張一族の重荷を背負わせてすまない。希美、彼女を護ってくれ。さて――五爪よ。そろそろ終わりにしようじゃないか」
張三の指示で、希美はメーメーと共に駆け出す。
五爪の翁は手を掲げた。逃げる桃猫が持つダイヤが、薄霧と化し再び魔幇首領の手に吸い込まれる。奪取に失敗した桃猫は跳ねるように広場を去った。五爪の翁は拳を握り締め、敵対者たちを睨み付ける。
「よかろう。相手になってやる。上海を統べる者の力、その身で味わうがよい」
七鴉翁が広げた衣の内側から巨鴉達が飛び立つ。
「ついばめ、鴉達よ。反逆者の肉で腹を充たせ」
ズンズン。ギリギリ。ミチミチ。
怒りの音が響き、豪拳が鴉の一羽を殴り飛ばす。
怒りの音が響き、豪拳が鴉の一羽を殴り飛ばす。
「七鴉ッ!てめぇには前からずっとムカついてたんだよ!」
飢餓と酩酊
メーメーと共に逃げる林希美。追い縋るは魔幇首領第十八夫人、黄嫦娥!
「ハニーを侮辱した罪!死を以て償わせよう!」
嫦娥は酔拳の達人。希美よりも数段上の遣い手だ。防戦一方の希美だが、勝機はある。時間経過と共に嫦娥の酔いは醒め、『飢鬼』希美の飢えは深まる。
張三の同盟者として戦った経験が、希美の耐える戦いを研磨していた。徐々に飢えによる破調が不規則な嫦娥の酔拳挙動に拮抗してくる。
だが、酔いは補充できる。嫦娥は懐から酒を取り出す。
「今だ!」
希美は『飢鬼』の超加速で酒を奪い取った。
「これで形勢逆転だな!」
そのまま一気に飲み干し、倒れる希美!
「ハハッ!馬鹿め!そいつはアタシ専用の董酒!75度だよ!死んだね!」
希美を嘲笑い、嫦娥はメーメーを殺しに向かう。
(立たなきゃ……護らなきゃ……)
朦朧とする意識の中、希美は薄く目を開き、メーメーに向かって拳を振るう嫦娥を見た。それは、酷くゆっくりとした動きに見えた。
(あれ?こんなだったら……私にも……とめれる……)
希美が動いた。尋常でない速度で、嫦娥の拳を蹴り上げる。
「させましぇん!張三しゃんから任されたんれしゅから!」
回らぬ呂律と裏腹に、希美の動きは雷光の如く鋭かった。喉。鳩尾。側頭部。一瞬のうちに三撃が嫦娥の急所を穿つ。
「ガハッ!これは酔拳!?」
否。飢餓による極限状態が希美の力の源。空腹へ染み込むように吸収された酒の酩酊で更なる極限状態に至り、『飢鬼』の強化を極大発揮したのだ。
「とろめれしゅ!」
十六連撃!酔拳の特異な回避挙動を発揮する間もない高速の拳に、嫦娥は為す術もなく崩れ落ちる。
「やりまひたー!」
希美は拳を突き上げて勝利宣言し、バタリと床に倒れてスヤスヤと眠りに落ちた。
林希美、黄嫦娥:継戦不能
EP Fin. 本懐
多くの者は桃猫にダイヤを見る。だが殺人ピエロ・小丑大師は、ありのままのウーズを見ていた。真摯に相手と向き合い、楽しませて殺す。魔幇の軍門に下って尚、その矜持は揺るぎない。
魔幇殿の外に逃げ出した桃猫に、大師は一瞬で追い付く。おどけたポーズの残像を数多く作り、あまたの万国旗と花を無から取り出しながら。殺人ナイフが桃猫に迫る。
パキリ。光の盾がナイフを弾き、桃猫を守った。
「玄武印!間に合ったぜ!」
駆け付けた亀岩の指先に印章の残滓が輝く。
「桃猫!俺はお前がどうしようもなく好きなんだ!だから、勝手にお前を護ることを許してくれ!」
「亀岩!」
小丑大師は二人をにこやかに見守り、パチパチと拍手した。
「ヒョホホホ!これは素晴らしい!感動的な再会!悲劇を彩る最高のスパイス!」
そしてピエロは二人の周囲を飛び回り、翻弄する。無数の残像に、亀岩の銃撃は掠めすらしない。
「さあて、盾は何枚あるのかなー?ヒョホホー!」
ナイフが次々に玄武印の盾を砕く。ついに最後の一枚が砕け散った。
「これで盾はもうナシ!さあ哀しい別れの時間だよ!ヒョホヒャハーッ!!」
最後の一撃を桃猫へ放つ大師。だが、亀岩はその身でナイフを受け止め、桃猫を守った。腹部に深々と突き刺さるナイフ。致命傷。
「俺自身が……最後の盾だ!」
亀岩は、腹を突き刺す大師の腕を掴んだ。
「ヒョホ!?は……放せ!」
「ハッ!お前が死んだらな!」
至近距離から拳銃を連射!全弾命中!
「亀岩!私なんかのためにそんな無茶を!」
「ヘヘッ、惚れた女を守って死ねるなら本望よ」
亀岩が倒れる。その命が尽きようとしている。
「ひとつだけ贅沢言うなら……惚れた女の腕の中で死にてえな……」
桃猫:生存
郭亀岩、小丑大師:死亡
郭亀岩、小丑大師:死亡
ネクスト・グリード・ヘリテージ
魔幇殿の上空で、渦巻く欲望の上昇気流に乗った二つの人造生命がぶつかり合う。激突の衝撃が眼下の建物を軋ませる。
「何故だ!上海そのものの力を持つ僕が何故押されている!?」
「私も同じなんですよ!上海の欲望全てが私の中に流れ込んで来ている!この欲望の炎の中、燃えて燃えて燃え尽きるのが私の願い!私の欲を上乗せした分だけ空っぽの君より私は強い!さあ我が弟よ、このまま私に焼き尽くされますか?違いますよね!君の欲を見せてください!」
「僕の願いは……!」
少年の拳が、双喜の胴を貫く。
「上海だけじゃなくて!もっと広い世界を見てみたい!」
双喜は最後の力を振り絞り、少年を優しく抱き締めた。
「愛しき弟よ。素敵な欲です。君は運命なんかに縛られなくていい。心の赴くまま、世界を見て来なさい」
双喜:停止
未来の上海天子:戦線離脱
未来の上海天子:戦線離脱
七鴉翁
炎嵐の怒りが煮え滾る。選べる七つの能力?それがあればどれだけ多くの者を救えるんだ?能力を保身と魔幇の維持のためだけに使う七鴉翁の在り方に怒り狂っていた。
彼を中心に熱波が渦巻き、足元の地面が溶けて気化する。その血の温度は三千度を越え、太陽表面に迫る高熱と化していた。
『ホェンちゃん駄目!流石に体が持たない!』
ドローンから王双葉が呼び掛けるが、その声も届かない。
全ての攻撃は炎嵐へ届く前に焼け落ちる。影に隠れようと影ごと焼かれる。七羽の鴉が次々に落とされてゆく。
「覚悟しろやゴルァァァ!!」
燃える鉄拳が七鴉翁を殴り飛ばす。一撃で玄武印が砕け散る。いや、一撃だけでも防げる玄武印に驚嘆すべきか。間髪入れず二撃目の拳が迫る。
「ヌウウ……噂に聞く红虎、まさかこれ程とは」
七鴉翁は最終手段を使った。それは、あらゆる状況を仕切り直す究極の論理結界。能力名『最強を決めよう』。
その瞬間、上海住民の全てが異空間ラブホテルの一室に2人ずつペアで監禁された。『セックスしないと出られない部屋』である。
「オイッ!これは何なんだ!?」
「今まで私が戦ってた王龍蝦は!?」
炎嵐の対戦相手は、“太可愛了”喬芽芽。だが、限界を越えて怒り狂っていた炎嵐の肉体は、何かをする前に力尽き意識を失った。
劉炎嵐:継戦不能
この能力は、術者本人も一戦しなければ解除できない。だが、勝利は必須ではなく、また、老いたと言えど七鴉翁は並大抵の相手に負ける気もなかった。
七鴉翁は対戦相手を見る。小柄な女性。それは、恋辻メーメーであった。彼女は心の底から嬉しそうに七鴉翁へ微笑み、両膝をついて優雅に跪拝した。
「私は今、とっても機嫌がいいんです。だって、長年の願いがもうすぐ叶いそうなんですから。七鴉翁様。貴方には直接の恨みはありません。だから特別に、最高に素敵な死に方、させてあげますね」
この空間では、相手へのセックス以外の攻撃は禁止されている。だが、アクメマン兄弟の例を挙げるまでもなく。達人は、セックス自体で命を造るも奪うも思うがままである。
七鴉翁:死亡
五爪の翁
拳狐と钢铁构架。上海でも最強級の武人二人を相手取って尚、五爪の翁の強さは圧倒的であった。加速した拳と暗器。自在に変形する鉄棍。巧みに連携して打ち込まれる必殺の攻撃を、易々と捌く。
その強さは単なる身体能力だけでも、技の切れ味だけでもない。かつて知った張三の技に、老いと円熟を想定して補正。上海大賽での戦いぶりから、拳狐の技と使いうる暗器を推察。その武力は、知力に裏打ちされた揺るぎなきものである。
拳狐は、炎嵐との死闘を終えて間もない。疲労と負傷は癒えておらず、本調子ではなかった。だが拳狐は、その状況を武器とした。
「咄ッ!」
基本に忠実な直拳。能力の加速は乗らず、疲労で威力の落ちた拳。故に、五爪は判断した。この拳は受けても問題ないと。拳狐の拳は脇腹に命中、分厚い腹筋に阻まれる。
『為逸速的一息』発動。五年前に腕の中に埋め込み固定していたステンレス・シャフトを加速する。長年の静止状態により超常の加速を得たシャフトが拳狐の腕を突き破って射出、五爪の強靭な肉体に深々と突き刺さる!
張三の鉄棍が蛇と化してうねり、五爪の腹に突き刺さったシャフトに触れる。『鉄杵』によりシャフトが変形し、五爪の体内を無数の鋭い棘が引き裂く!
「グゥ……上海は……我が上海は魔幇の……」
内臓を破壊し尽くされても、五爪の戦意は消えない。よろめき、数歩後退りながらも執念で拳を構える。
「スパイク!今だ!」
メーメーの叫びと共に、地面を突き破って巨大なワニの顎門が現れ五爪を一口で飲み込んだ。それが、上海を百年支配した魔人マフィア・魔幇の最後であった。
拳狐、張三:生存
五爪の翁:死亡
五爪の翁:死亡
魔幇:壊滅
EP Ex. 君と共に
「うーん、なんだか気持ち良い夢を見てたような……?」
亀岩は、桃猫の腕の中で目を覚ました。
「あれ?なぜ俺は生きて?あと何でズボンが脱がされてるんだ!?」
困惑する亀岩を、桃猫は強く抱き締めた。
「もう逃げないアル!これからは、二人でずっと一緒に……!」
白いヒーロースーツの男はその様子を見届け、立ち去った。
「死の悲しみで流れる涙を、俺は認めない」
レイズアクメマン:正義執行
郭亀岩:蘇生
桃猫:お幸せに!
郭亀岩:蘇生
桃猫:お幸せに!
第十六上海天空樹塔
上海全土を足下に望む地上451mの天际环廊。そこは、上海市街で最も下水から遠い場所。透明ワニの巨体では、よじ登ることも不可能な尖塔の高み。
「臆病者のお前なら、ここに居ると思ってました。スパイクの動きを占って何年も逃げ回ってたようですが、それもようやく終わりです」
メーメーは黒いコートの男を睨んだ。メーメーから全てを奪った者。絶対占術『筮錘推命』によって多くの者の運命を狂わせてきた魔幇諜報幹部。名は飛星。
「間もなくこの景色全てが私の物となる。全ての願いを叶えるダイヤを手にするのはこの私だ。たった一人でここまで来て、私に勝てるつもりなのかい?占い通りに誘い出されたとは思わなかったのか?」
飛星は嘲笑する。魔幇を壊滅させたのも全て彼がダイヤを手にするための計画だった。
「私は馬鹿な娘でした。パパの為になると思って熱心に持ち帰ってた占いが、全部罠だったなんて。飛星。私はお前を絶対に許しません」
メーメーは脚を左右に大きく広げて地を這うような低い姿勢を取った。鱷形拳。
「哈ッ!」
瞬時の動作で、飛星の両手から飾り紐をたなびかせた筮錘が高速で放たれた。二つの錘はメーメーの両腕を弾き上げ、絡み付く。五色の紐が、細腕を鉄柵に固く括り付けて磔にした。
「さあこれで、もう鱷形拳は使えないね。ワニ君はどこに居るのかな?君が死ぬ前に『鱗語交流』でダイヤを手放すよう伝えてくれたまえ」
冷たい声で、飛星が命じる。逆らえば死に至る責め苦を与えると言外に告げながら。
メーメーはその言葉を聞いて、笑顔を浮かべた。愉快で仕方がなかった。
「従うと思ってるんですか?爪を剥がれようと目玉を抉られようと、私は平気ですよ?死ねばお前の計画を潰せるなんて、簡単すぎて笑っちゃう。でも――死ぬのはお前だ。スパイクの居場所を知りたい?得意の占いで当ててみたら?」
「黙れ」
投擲された筮錘が、身動きできないメーメーの額を割る。頭蓋骨に亀裂が入り、赤い血がしたたる。
そして、落下した筮錘の飾り紐が床に図形を形作った。『筮錘推命』は巫告する。
【ワニの】
【居場所は】
【塔の上】
飛星は息を飲み、周囲を見渡す。いない。周囲にワニの姿などなく、隠れる物陰も下水配管も存在しない。潮の香りを含んだ上海の風が、ただ吹き抜けるだけだ。
メーメーの額から流れる血が顎を伝って床に血溜まりを作る。メーメーは心の底から愉しそうに笑う。
「沢山の男に抱かれて、私の身体はすっかり汚れてしまってるんです」
それは、単なる比喩である。だが、メーメーは『鱗語交流』の精神感応を通じて、その認識をスパイクと共有した。
「まるで――下水道のように!」
メーメーの脚の間から、巨大な白いワニが這い出す。スパイクは、彼女の体内に潜んでいたのだ。
飛星は後方に跳び退きながら筮錘を連続投擲する。ライフル銃に匹敵する威力の錘が、スパイクの頭部に次々と突き刺さるが、堅牢な甲鱗に阻まれ致命傷には至らない。スパイクの肌に垂れ下がる飾り紐が告げる。
【お前はもう逃げられない】
【野望は潰える】
【復讐が果たされる時が来た】
猛然と突進する巨大爬虫類が、鼻先を低く沈めた体勢から突き上げるように飛星に激突する。化勁による受けが意味をなさぬ破壊力。
魔幇を影から操り、上海の人々の運命を弄び続けていた邪悪な占術師が、為す術もなく宙を舞う。そして、硬いアクリル硝子を突き破り、天空樹塔から落下してゆく。
「【全ての願いが叶う】ですって?そんな力、ダイヤにはないのに。そんな馬鹿げたお伽噺を信じてしまうなんて、占い師としても三流だったんじゃない?」
メーメーは吐き捨てるように言い、穏やかに微笑んだ。
絶対占術を持つ飛星の陥った誤謬の名は『空虚な真』。命題【A⇒B】は、Aが偽である時は常に真となる。故に【【ダイヤを手に入れた】ならば【全ての願いが叶う】】という言説は、ダイヤを手に入れられぬ者にとって真である。ダイヤ入手を前提とした時、飛星は『筮錘推命』を読み誤っていたのだ。
万事屋上海紀行・最終日 侠盗饗宴狂想曲(下)
黒羽の病室を、桃色の少女が訪ねる。怪盗少女・葉桃香だ。
「これが依頼金代わりです。次は敦煌に付き合ってもらいますよ」
桃香が投げ渡した箱の中には、大粒のダイヤ。それは、魔幇が宝物庫で百年間守り続けた秘宝である。
「オーケー。ダイヤと神楽ちゃんを日本に届けたらな」
黒羽は輝くダイヤを日光に透かして、満足そうに笑った。
白髪黒羽、葉桃香:ダイヤ獲得、次なる舞台へ
スパイクの願い
【だが、まだ死ぬ時ではない】
ワニに突き刺さった筮錘の一つは、そう告げていた。だから塔から落下しながらも、飛星はまだ諦めていなかった。
筮錘を投げ、鉄骨に絡み付かせて落下を止める。彼には、それが可能な身体能力があった。妨害者さえ現れなければ。
「グオオォーッ!!」
咆哮を耳にした飛星が上空を見ると、そこには真っ赤なワニの顎門が開いていた。スパイクが、追撃の為に塔から飛んでいたのだ。
(スパイク!!駄目!!いくらスパイクでも落ちたら死んじゃう!!)
メーメーが『鱗語交流』で必死に呼び掛けるが、最早落下を止める術はない。スパイクの牙が、空中の飛星を捕える。
(ねえ、メーメー。僕が死んだら、お日さまの当たる明るいお墓に埋めてほしいな)
それは、スパイクが心の奥底に隠していた、メーメーも知らない秘密の計画だった。
スパイクは、ダイヤも魔幇も上海も、全部どうでもよかった。スパイクが大切なのは、メーメーの笑顔だけだった。だから、その笑顔を奪ったこいつだけは絶対に許せなかった。
地面に激突して一瞬で死ぬ?そんな楽な死に方は許せなかった。最大限の苦痛と絶望を与えてから殺さねば気が済まなかった。そのために、自分の命を賭そうとも。だから迷わず、スパイクは飛んだのだ。
憎き敵をその牙で噛み締めながら、スパイクは落ちてゆく。遥か眼下の、上海の街へと。
私もカニもかわいいの!
防御特化能力者同士の、永き戦いが決着した。最後に立っていたのは、芽芽だった。
龍蝦は甲殻類持久力で、疲労により芽芽の可愛さが翳る隙を狙っていた。だが、乱れた髪も、荒い息遣いも、芽芽の可愛らしさを引き立てるだけだったのだ。
「良い勝負でした。私ほどではないけど、貴女の可愛さも相当なものよ」
「私の負けだ。甲殻類の他にも素敵なものがある。思い知ったよ」
戦いの果てに、二人の間には友情が芽生えていた。生き残った甲殻類の軍勢は、龍蝦の号令で河の中に帰っていく。
うぃーん、がしゃん。
パワード鎧が解除され、カルミアが二人の前に降り立つ。
「さて、提案です。上海蟹ランドの再建のため、我がチャムリー財団は出資の用意がありますよ?」
野心家の貴族令嬢は好機を逃さず、上海への足掛かりを確保したのであった。
喬芽芽、カルミア・チャムリー、王龍蝦:生存
上海の王
上海市街から揚子江を遡るように、電車を乗り継いで西へ四百キロ。ボロボロになった上海の流通を建て直すために忙しく走り回るメーメーさんの代わりに、週に一回お隣の安徽省にある湿地帯を訪れるのがわたしの仕事です。
メーメーさんも月イチぐらいで来ますけど、わたしにしかできないこともありますから。混乱している上海には解決屋の出番が一杯ありますが、不安定な仕事ですから、借金を確実に返していける定期収入があるのはありがたいことです。
うねるように流れる揚子江の支流と、豊かな緑に穏やかな気候。この自然保護区は、ワニ達の楽園です。
からんからん、と合図のベルを鳴らすと水面が波打ち、大きなワニが姿を現しました。一際大きくて白いワニ。メーメーさんの親友で、スパイクという名前です。
スパイクさんは、嬉しそうに大きな口を開いて挨拶してくれます。毎週通ってるのですから、すっかり顔馴染みです。今週のメーメーさんの様子を、しっかりお伝えしてあげますからね。
取り付いてる黒もっこは、前と比べて随分と小さくなりました。黒もっこは、大きすぎても小さすぎてもいけない物です。そうですね、もうちょっと小さくなるとスパイクさんに丁度良い大きさではないでしょうか。
天空樹塔から落ちた時、地面にぶつかる寸前にスパイクさんは近くのマンホールに素早く滑り込み無傷で済んだとのこと。すごいですね。でも、そんなすごい能力を使う必要もない、今のワニらしい暮らしの方が気に入ってるようです。仲間のワニとはなかなか打ち解けられない様子ですが。
飛星という占い師は、下水管の中に置き去りにしてきたそうです。下水は栄養豊富なのでなかなか死ぬこともできず、まだ生きているはずだとか。狭い管の中に張り付いた汚物として、身動きもできずに生き続けるのは、もしかすると地獄に落ちるより辛いかもしれませんね。
上海の人はみんな知ってます。清王朝のダイヤはスパイクさんのお腹の中に。それは宝石としての価値は無く、王を示すだけの物なので欲しがる人もいません。
君臨も統治もせず、居住すらしてない上海の王は、日の光を浴びながら気持ち良さそうに大きなあくびをひとつしました。そんな王様が居ても良いとみんなが思ってる今の上海を、良い街だなってわたしは思います。
スパイク:『上海英雄』獲得
恋辻メーメー:貿易業務で活躍中
死神ちゃん:借金返済中
恋辻メーメー:貿易業務で活躍中
死神ちゃん:借金返済中
飛星:永続行動不能
上海全土:復興中