ダンゲロスSS上海
上海金剛譫妄(シャンハイ・ダイアモンド・ハルシネーション)
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dangerousss_shanghai
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「何か、おかしい……」
「唐突にどうしたの」
「唐突にどうしたの」
今、俺達は蘇絲織たちを国外脱出させている。行き先は日本だ。
とは言っても観光客の出入りにかこつけて上海からしれっと抜け出して飛行機で飛ぶだけだが。
とは言っても観光客の出入りにかこつけて上海からしれっと抜け出して飛行機で飛ぶだけだが。
「【魔幇】の首領のことだよ」
「そんなの既知の情報じゃ……な……い?」
「そんなの既知の情報じゃ……な……い?」
日本への飛行の中で上海での案件を思い返していたが、何かがおかしいことに行き当たる。
具体的には【魔幇】の首領の名前があやふやになっている。
【魔幇】、魔都上海を支配するもっとも強大なマフィア。その首領の名が思い出せないことなど、あるだろうか?
具体的には【魔幇】の首領の名前があやふやになっている。
【魔幇】、魔都上海を支配するもっとも強大なマフィア。その首領の名が思い出せないことなど、あるだろうか?
「せーのでいくぞ、せーの」
俺と七歌で合わせる。
『五爪の翁』
『上海天子』
『上海天子』
「な?」
「え、黄嫦娥だと思ってたけど……? あれ……??」
「え、黄嫦娥だと思ってたけど……? あれ……??」
通路を挟んで座ってた蘇絲織も違う名を挙げる。
おかしい。そんなことが、有り得るのか?
おかしい。そんなことが、有り得るのか?
「七歌、飛行機降りたら向こうと連絡取ってくれ。魔幇首領の情報をありったけ、捨てるような情報でも今回は積み上げる」
「了解」
「それともう一つ」
「何かしら?」
「了解」
「それともう一つ」
「何かしら?」
窓際の席に目をやる。そこには大人しく寝息を立てている少女が一人。
「彼女が一体何者か、改めて考える時が来たんじゃないか?」
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上海金剛譫妄(シャンハイ・ダイアモンド・ハルシネーション)
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上海への境界。ここから一歩踏み込めば魔都上海。
俺たちは蘇のお嬢さんたちを日本へ送ったあと再びここへ舞い戻った。
俺たちは蘇のお嬢さんたちを日本へ送ったあと再びここへ舞い戻った。
「さて、推測が正しければここへ踏み込めば魔幇首領への疑問が雲散霧消するはずだが」
七歌に頼んで集めた魔幇首領の情報を統合すると、矛盾だらけにも程がある。
性別、年齢、いつから支配していたか、その他諸々。
それでいて送信者に情報を共有しても、おかしいところなどないとの返事。
つまりは、異変は上海内部にある。
性別、年齢、いつから支配していたか、その他諸々。
それでいて送信者に情報を共有しても、おかしいところなどないとの返事。
つまりは、異変は上海内部にある。
「手元にメモも用意したし、大丈夫かどうか確認してみるぞ」
メモには[魔幇首領の情報は矛盾だらけ]と大きく書かれている。
自分が再び引っかかった場合に備え、縄を腰にくくりつけている。
これを七歌と育美に引っ張ってもらい、強制的に引きずり出すというわけである。
自分が再び引っかかった場合に備え、縄を腰にくくりつけている。
これを七歌と育美に引っ張ってもらい、強制的に引きずり出すというわけである。
「こっちも準備はOKよ」
七歌の返事に俺は頷き、一歩踏み出す。
……俺は、なにを確認しようとした?
右手に紙の感触。何故こんなものを持っているのか。とりあえず広げてみる。
右手に紙の感触。何故こんなものを持っているのか。とりあえず広げてみる。
[■■■■■■■■■■■■■]
文字がぼやける。書いてあった文字を思い出そうとする。記憶の底から無理やり引きずり出すように。
首領……情報……矛盾……全く意味が解らない。そんなことはあり得ない。俺は紙を放r
首領……情報……矛盾……全く意味が解らない。そんなことはあり得ない。俺は紙を放r
「何やってんの、よっ!」
ずてん、と後ろに引っ張られて尻餅をつく。
……は? 俺は今メモを捨てようとしてた?
……は? 俺は今メモを捨てようとしてた?
「危ない危ない、間一髪だったわね」
「だがこれでわかった。何者かが広域の精神操作をかけている。それも、上海そのものに、だ」
「だがこれでわかった。何者かが広域の精神操作をかけている。それも、上海そのものに、だ」
言いながら引き起こしてもらい、尻の砂をパンパン、と払う。
「それで、どうするの?」
「とにかく、これを解く。……文言はどうするか」
「とにかく、これを解く。……文言はどうするか」
しばし、あーでもない、こーでもないと七歌と意見を交わす。
「よし、決まりだ。七歌、頼むぞ」
「おっけー」
「おっけー」
七歌が息を吸い、言葉を紡ぐ。
「あたりはびこる まぼろしとけて
くもったきおく はれわたりゆく」
くもったきおく はれわたりゆく」
これで、少なくとも七歌のそばでは記憶が保持されるはず。あとは維持する方法だ。
「よし、七歌、育美、一旦事務所に……誰ぇ!?」
育美のいた場所には全く別の人物、七歌よりやや背が高く、ほっそりとしたダイヤの如きオリエンタル美人がそこにいた。
七歌も俺と同じように驚いている。さっきまでいた子供がいきなり自分より背の高い大人になったらそりゃびっくりもする。
やったことといえば七歌の深く昏き森 くらい。
……つまり、あの姿は何らかの幻だった?
七歌も俺と同じように驚いている。さっきまでいた子供がいきなり自分より背の高い大人になったらそりゃびっくりもする。
やったことといえば七歌の
……つまり、あの姿は何らかの幻だった?
「……思い、出しました!」
独り合点の言ってる女性に、恐る恐る話しかける。
「育美……だよな?」
「はい、そう呼ばれていました。我が騎士を簒奪され、そう名付けられて少女の姿で一人、放り出されていました」
「はい、そう呼ばれていました。我が騎士を簒奪され、そう名付けられて少女の姿で一人、放り出されていました」
だいぶ話が変わってきた。
「そう呼ばれて『いた』ってことは元の名前があるのか」
「いえ、我が騎士からは貴婦人とだけ呼ばれていたので……育美のままで構いませんよ」
「それは助かる」
「いえ、我が騎士からは貴婦人とだけ呼ばれていたので……育美のままで構いませんよ」
「それは助かる」
……だが、一つ気にかかることがある。
「そういえば、七歌の範囲外から出たら、元に戻ってしまわないか?」
「確かに、範囲から出たらポンと戻ったら意味ない……とは言わないまでもだいぶ行動が制限されちゃうわね」
「それについては……多分大丈夫だとは思いますが、試してみましょう」
「確かに、範囲から出たらポンと戻ったら意味ない……とは言わないまでもだいぶ行動が制限されちゃうわね」
「それについては……多分大丈夫だとは思いますが、試してみましょう」
一歩ずつ七歌から離れていく。目測10mを越えても元に戻る様子はない。
「……やはり、大丈夫です」
「一体何故……いや、そうか、魔人能力……!」
「そう、改竄を元に戻した 」
「一体何故……いや、そうか、魔人能力……!」
「そう、改竄を
癒やすということは、正常な状態への遡行。こういうことも出来るのか……!
「本来は我が騎士を癒やしたいという思いからだったのですが……あの方は傷つかないので、使う機会がなかったんです」
「塞翁が馬ってヤツだな。精神でも問題ないのか?」
「ええ。あなた達に接触したまま上海に入れば、改竄を補修して無事通り抜けることが出来るはずです」
「……よし、それで行こう。七歌もいいな?」
「うー、どさくさに紛れて塔矢とらないでよ?」
「私には想い人がいますから、取りませんよ」
「なら良いけど……」
「塞翁が馬ってヤツだな。精神でも問題ないのか?」
「ええ。あなた達に接触したまま上海に入れば、改竄を補修して無事通り抜けることが出来るはずです」
「……よし、それで行こう。七歌もいいな?」
「うー、どさくさに紛れて塔矢とらないでよ?」
「私には想い人がいますから、取りませんよ」
「なら良いけど……」
育美を挟むように三人で肩を組んで上海に入る。一瞬頭がクラっとして記憶が飛ばされそうになったが、すぐに元に戻る。
「……うん、魔幇首領の情報にはおかしなところがある」
異常がないことを確認し、俺達の事務所に戻ることになった。
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「つまり、自分のパートナーを簒奪されたと」
「はい……」
「はい……」
何でも、かつてある騎士と一緒にいたが、ある時、とある妖 に騎士を奪われ、記憶を封じられ、姿を変えられて放り出されたという。
その妖は長年この一帯を支配し、今も上海を陰から支配しているという。強大なマフィアが支配しているという幻想によって。
その妖は長年この一帯を支配し、今も上海を陰から支配しているという。強大なマフィアが支配しているという幻想によって。
「その騎士の名は。心当たりがあるかもしれん」
「クラム・ハードシェルといいます」
「クラム・ハードシェルといいます」
その名前に七歌が反応する。
「一種の都市伝説だけど……最近のダイヤ絡みの騒動に一枚噛んでるって話が出てたわね」
「本当ですか!?」
「本当ですか!?」
ものすごく食いついてくる。
「ちょっと待ってね、確かこっちのほうに……」
七歌がマウスを忙しなく動かし、情報を漁る。
「この人? ……人で間違いない?」
画面を覗くとそこには時代錯誤と言っても良い鎧騎士の画像。
「間違いありません、我が騎士です」
「話は早いが……当然向こうにはお前から騎士を寝取った奴がいるわけだ。作戦を練らねばな」
「話は早いが……当然向こうにはお前から騎士を寝取った奴がいるわけだ。作戦を練らねばな」
敵を知り、己を知れば百戦危うからず。
「クラム・ハードシェルとはどんな存在だ?」
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「情報が正しければ、ここだな」
人も寄り付かぬ、廃墟となったビルの屋上。
階下に七歌と貴婦人……育美を待機させている。
『何故待機を……?』」
『一つ、クラムはお前が隣りにいる……と思いこんでいる。思い込まされている、というべきか』
『本物が来たところですぐに信用されはしない、ってことね』
『そうだ。こちらを偽者と断じるか……あるいは、本物だと思ってもこっちが攫ったと思いこむか』
『それならば、どうすれば?』
『簡単だ。お前をたばかったやつの正体を晒せば良い。つまり……』
『一つ、クラムはお前が隣りにいる……と思いこんでいる。思い込まされている、というべきか』
『本物が来たところですぐに信用されはしない、ってことね』
『そうだ。こちらを偽者と断じるか……あるいは、本物だと思ってもこっちが攫ったと思いこむか』
『それならば、どうすれば?』
『簡単だ。お前をたばかったやつの正体を晒せば良い。つまり……』
事は単純。説得は考えない。育美の代わりに彼の隣に収まったダイヤ。それを元に戻してしまえば良い。
己の手から離れたと分かる形で。
己の手から離れたと分かる形で。
「お前が、上海を徘徊する彷徨う鎧 、クラム・ハードシェルだな?」
俺の呼びかけに、微動だにしなかった鎧がガチャリと動き虚ろな声を発する。
「何者だ?」
「トラブルバスターズ槌歌の所長、槌唄塔矢だ……と言っても聞きたいことはそうじゃないな。お前……いやお前の『貴婦人』に用があるものだ」
「トラブルバスターズ槌歌の所長、槌唄塔矢だ……と言っても聞きたいことはそうじゃないな。お前……いやお前の『貴婦人』に用があるものだ」
その言葉に彼は警戒するかのように剣の柄に手をかける。
「何が目的だ」
「最近の上海の騒動の元凶が彼女と判明してな。渡すならそれでよし、それ以上の用はない」
「渡さないならば」
「普通なら交換条件とか提示するんだが……そんな交渉が通る相手じゃあるまい。剣を抜きな」
「最近の上海の騒動の元凶が彼女と判明してな。渡すならそれでよし、それ以上の用はない」
「渡さないならば」
「普通なら交換条件とか提示するんだが……そんな交渉が通る相手じゃあるまい。剣を抜きな」
クラムは剣を抜き、正眼に構える。
俺も呼応するようにハンマーを両手で握る。
俺も呼応するようにハンマーを両手で握る。
「つまるところ、強奪か、まるで盗人だな」
「悪いが、上海の正常化のためなら俺は悪行も厭わん」
「悪いが、上海の正常化のためなら俺は悪行も厭わん」
ヒュン、と互いの得物がぶつかり合う。
軽い。
鎧兜を身に纏った人間は当然己の重量と防具のぶんを持っているものだが、彼にはそれがない。
それに、衝撃が通った様子もない。まるで撞いても音の鳴らない鐘のようだ。
打ち合った反動でクラムは距離を取る。
鎧兜を身に纏った人間は当然己の重量と防具のぶんを持っているものだが、彼にはそれがない。
それに、衝撃が通った様子もない。まるで撞いても音の鳴らない鐘のようだ。
打ち合った反動でクラムは距離を取る。
「お前本人に恨みはないが、真の黒幕がお前の貴婦人と理解った以上は、なっ!」
避けるなら右か、左か……。
「我が貴婦人にそのような言いがかり、許すまじ!」
上! 鎧を纏うものとは思えぬ跳躍、いや、中の肉体がないならむしろ自然か。
「許されようとは思ってない!」
空を舞うクラムの足元に瞬間的にブロックを積み上げる。飛び出た柱は彼の位置をずらす。
金属音が頭上で響く。振り下ろされた剣を間一髪ハンマーの柄で受け止める。
金属音が頭上で響く。振り下ろされた剣を間一髪ハンマーの柄で受け止める。
「っ、ぶねぇ。体幹どうなってやがんだ」
「この程度、某 の戦ってきた相手に比べれば、大したことはない」
「この程度、
見た目に反して軽やかな剣戟。槌の柄や頭で打ち払い、時にはブロックを盾に致命打を防ぐ。
普通の人間 ならばこれだけ打ち合えば手首や腕に負担がかかるところだが、相手は疲労を知らない。
情報通り幻だというならさもありなん。だが、それが正しいならば打つ手はある。
普通の
情報通り幻だというならさもありなん。だが、それが正しいならば打つ手はある。
「打てど叩けどダメージが通った様子がない……これだから肉の無い奴は……」
一歩、二歩、三歩。階段の方へ後ずさる。
「臆したか」
「まさか。必殺の一撃を叩き込もうってだけだ」
「まさか。必殺の一撃を叩き込もうってだけだ」
十分下がったところで、ハンマーを振り上げる。
「無駄なことを」
「無駄かどうかは、やってみなけりゃわからない、ってな!」
「無駄かどうかは、やってみなけりゃわからない、ってな!」
頭部への振り下ろし、それに対してクラムは臆することなく突っ込み、俺の胴を袈裟懸けに断ちに来る。
こちらの一撃を意に介さぬこと前提の一撃。それでいい。
こちらの一撃を意に介さぬこと前提の一撃。それでいい。
クラムの兜は大きく潰れ、必殺の刃は服すら斬れず。
「何っ!?」
「もう一丁!」
「もう一丁!」
振り下ろした反動で脚を狙ってハンマーを振るう。クラムの脚甲が、兜と同じくグシャリとひしゃげる。
頭を潰せたとて、死には至るまい。だが、二足で動く以上、脚を崩せば話は変わる。
頭を潰せたとて、死には至るまい。だが、二足で動く以上、脚を崩せば話は変わる。
「某の体は――」
「幻のはず、だろ?」
「幻のはず、だろ?」
もう一振り。戦鎚は中世において重装甲の相手を破壊するために振るわれたという。
先程受け止められた一撃も、脚を砕いたことでバランスを崩したなら話は変わる。防いだ剣ごと押し切り、脇腹を打ち据える。
先程受け止められた一撃も、脚を砕いたことでバランスを崩したなら話は変わる。防いだ剣ごと押し切り、脇腹を打ち据える。
「ぐうっ、何故だ!」
「幻が凹み、ひしゃげ、潰される。そんなあり得ないことをあり得るに変えてやっただけのことよ」
「幻が凹み、ひしゃげ、潰される。そんなあり得ないことをあり得るに変えてやっただけのことよ」
心があるかどうかはわからない。おそらくあるのだろう。この幻以上に強固な心が。でなければ幻が幻のまま動けるはずもない。
そんな折れぬ心を持っているのなら、物理的に潰すしかない。
バランスを崩し倒れた所で、手早くクラムの両肘と両膝を砕く。
そんな折れぬ心を持っているのなら、物理的に潰すしかない。
バランスを崩し倒れた所で、手早くクラムの両肘と両膝を砕く。
「俺の、勝ちだ」
うつ伏せになったクラムの背面にハンマーヘッドを乗せ、宣言する。
「何故だ……何故……」
「何故、攻撃が通ったか。何故貴婦人を奪うのか。そうだな、聞く権利はあるだろうな。だがまずは、宣言通り頂いてから」
「何故、攻撃が通ったか。何故貴婦人を奪うのか。そうだな、聞く権利はあるだろうな。だがまずは、宣言通り頂いてから」
しっかり結わえ付けられていた巾着袋を外す。手触りから中に宝石……ダイアモンドがあるとわかる。
「七歌、上がってきていいぞ」
カツン、カツン、と階段を登る音。七歌が育美を連れて屋上に上がって来た。
「うつろのよろい たたけばつぶれ
するどきやいば いとすらきれぬ」
するどきやいば いとすらきれぬ」
今回のための歌をつぶやきながら七歌が一歩一歩、歩み寄ってくる。
「なっ……貴婦人が何故そこに」
「悪いね。攻撃が通ったのは彼女の力だ。そして……お前のそばにいたのは偽者だからだ」
「なん、だと……」
「悪いね。攻撃が通ったのは彼女の力だ。そして……お前のそばにいたのは偽者だからだ」
「なん、だと……」
袋からダイヤを取り出す、暮れ行く陽に照らされて美しく輝く。
「お前はこれに騙されていたんだ。いつすり替えられたかは知らないが……記憶を失い彷徨っていたそうだ」
輝くダイヤモンドを育美に投げ渡す。
「育美、本当に元に戻せるんだな?」
「ええ」
「ええ」
彼女が念ずるように拳を握ると、ダイヤが砕けて靄とも霧とも付かぬ物が発生した。
それは形を取り、巨大な二枚貝の中に横たわる、一糸纏わぬ美女の姿を取った。
それは形を取り、巨大な二枚貝の中に横たわる、一糸纏わぬ美女の姿を取った。
「よし、出たな黒幕。育美、クラムを頼むぞ」
育美――貴婦人はすぐさまクラムに駆け寄り、抱きしめる。
「む……体が、元通りに動く?」
「えぇ、貴方様にずっとやりたかったことです。傷つかぬ無敵の騎士だったので今まで叶いませんでいたが……」
「えぇ、貴方様にずっとやりたかったことです。傷つかぬ無敵の騎士だったので今まで叶いませんでいたが……」
クラムは貴婦人がそんな力を持っていたことに少々驚いたようだが、現れたものに対し、剣を構える。
「これがお前の言う貴婦人か?」
「否、このような淫らな姿であるはずがない」
「否、このような淫らな姿であるはずがない」
貝の中の美女が気だるげに起き上がり、脚を組んで腰掛ける。
『まさか妾の幻を打ち破るとはな……皆に存在しないものを意識させこの都市を牛耳っていたが……正体に行き着くモノが現れるとはな』
増える、増える。姿が増える。全ては幻なのだろうが。
こいつの正体は見当がついている。幻を生み出す二枚貝の妖怪、蜃。蜃気楼の語源にもなっている、人の世に名が定着した妖怪。
そも妖怪は魔人の一種という説もあるが……まぁそのへんはどうでもいいか。
こいつの正体は見当がついている。幻を生み出す二枚貝の妖怪、蜃。蜃気楼の語源にもなっている、人の世に名が定着した妖怪。
そも妖怪は魔人の一種という説もあるが……まぁそのへんはどうでもいいか。
『まぁ良い、護衛はまた調達すれば良い、お前らを消して、またやり直すまでよ』
「二度目のチャレンジなど、させるわけねぇだろ」
「二度目のチャレンジなど、させるわけねぇだろ」
最初の一体にブロックを打ち飛ばす。霧を通り抜けるようにするりと抜けていく。
向こうからは瓦礫が飛んでくる。念動か、本体が投げてるのかはわからないが、幻の姿とは無関係に飛んでくるので厄介だ。
向こうからは瓦礫が飛んでくる。念動か、本体が投げてるのかはわからないが、幻の姿とは無関係に飛んでくるので厄介だ。
『無駄じゃ、無駄じゃ。全ては幻、我が幻影の中で息絶えるが良い!』
「そんなこすっからい攻撃で死んでたまるかよ!」
「そんなこすっからい攻撃で死んでたまるかよ!」
ハンマーを振るって瓦礫を打ち砕く。飛んでくるペースは大したことはないが……さっさと打開しないとマズいかも知れない。
「七歌、なんか思いつくか?」
「うー、クラムさんが相手と大体同質だから、下手な言葉だと巻き込んじゃうし……」
「うー、クラムさんが相手と大体同質だから、下手な言葉だと巻き込んじゃうし……」
七歌の能力は範囲内なら無差別だ。無差別というのは万能ではない。敵も味方も巻き込むのは時としてデメリットになりうる。
クラムはというと、貴婦人を庇いながら幻に向かって真剣に剣を振っている。
クラムはというと、貴婦人を庇いながら幻に向かって真剣に剣を振っている。
「クラム、お前には本物が見えてるのか?」
「某と似たようなものだからだろうな。幻は幻と理解できる。すなわち、そうでない者が本物」
「某と似たようなものだからだろうな。幻は幻と理解できる。すなわち、そうでない者が本物」
なるほど、迷いがないのはそういうことだったか。ならば……
後追いしてハンマーを振るう。
後追いしてハンマーを振るう。
ガヂン、と硬い反応が返ってくる。殻の開いてる部分へ振るったにも関わらず。
「ちっ、見えているものと反応が違う。開けてるように見えるが実際は閉じてやがるな」
「そのようだ。これでは致命打は夢まぼろし」
「幻であるお前が言うかよ」
「そのようだ。これでは致命打は夢まぼろし」
「幻であるお前が言うかよ」
ツッコミを入れながら飛んでくる瓦礫を払う。
「何か手立てはあるのか? 生身である貴殿にはそちらの御婦人を庇うにも限度はあろう」
「だからとっとと決着をつけたい。まぁ隠し玉が一つあるが……口外無用だぞ」
「だからとっとと決着をつけたい。まぁ隠し玉が一つあるが……口外無用だぞ」
あまり見せたくはない隠し玉だが、仕方あるまい。
「つまり、あるのだな。某はどうすれば良い?」
「さっきみたく攻撃してくれ。相手がどこにいるか、位置がわかれば良い」
「承知」
「さっきみたく攻撃してくれ。相手がどこにいるか、位置がわかれば良い」
「承知」
そう言うや否や、クラムは揺らめく姿の一つに斬りかかる。刃が硬いものに当たる音。つまり、そこに本体がある!
「おらよっ!」
対象の足元に、ブロックが生える、一、十、百、千、万。逃げる隙を与えず、塔を作り上げる。
おそらく、なんか喚いているだろうが、遠すぎて聞こえない。
おそらく、なんか喚いているだろうが、遠すぎて聞こえない。
「さて、みんな離れたほうが良いぞ。衝撃はかなりのものになるはずだ」
全員でビルを駆け下りる。
「あれはなんだ」
「お前と戦ってるときにも見せたブロック、アレを万単位で積み上げたものだよ」
「お前と戦ってるときにも見せたブロック、アレを万単位で積み上げたものだよ」
高さおよそ10km。これだけの高所から落ちて生き残るにはそれに対抗するレベルの魔人能力が必要となる。
そしてヤツにそれはない。いくら幻術が巧みであろうと、地球という大質量 からは逃れられない。
そしてヤツにそれはない。いくら幻術が巧みであろうと、地球という
「避難は終わったな? よし、解除」
数秒の空白のあと、聞こえるドグシャァ、という衝撃。続いてビルの崩れる音。
「終わりか」
「そのようだ」
「そのようだ」
こうして、上海を裏から操っていたものは、人知れずその生命を終えた。
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「行くのか」
「うむ」
「短い間でしたが、お世話になりました」
「うむ」
「短い間でしたが、お世話になりました」
クラムは貴婦人とともに再びどこかへ行くそうだ。
夜闇に紛れて消えゆく騎士と貴婦人。
また人々の間で語られる都市伝説に戻るのだろう。
夜闇に紛れて消えゆく騎士と貴婦人。
また人々の間で語られる都市伝説に戻るのだろう。
「俺達も帰るか、七歌」
「ええ。お疲れ様、塔矢」
「ええ。お疲れ様、塔矢」
翌日。
巷では魔幇のセレモニーが突然中止になったことと、それにより内部抗争が勃発したことに関する噂でもちきりだった。
巷では魔幇のセレモニーが突然中止になったことと、それにより内部抗争が勃発したことに関する噂でもちきりだった。
「しかし、なんだ。あの蜃が架空の首領を作っていたとはな……」
「魔人能力の調査に詳しい検証班を送った所、上海住人の思考を集めるレンズみたいな役目をしていたみたいね」
「魔人能力の調査に詳しい検証班を送った所、上海住人の思考を集めるレンズみたいな役目をしていたみたいね」
まぁこの抗争も一過性、魔人の住まう土地の混沌 を取り戻すであろう。
「あと、目ぼしい情報はあるか?」
「そうね……」
「そうね……」
海圻からはシグリの件はうまいこと解決したとの報告があった。律儀なものである。こっちも育美の件が解決したことについて報告しておこう。
姉を探してた斎藤和夫は、茶山明日歩に引き回されてまだ姉を探しているらしい。こちらも彼の姉に関する情報は得られていないのでどうしようもない。
女陰黄泉は全く分からない。真偽不明の情報によると魔幇の首領に挑んだと言うが……。
カムパネルラはどこぞの長命魔人からダイヤを掻っ攫おうとしていたとか。
一方で、ギャラハッド・ソネットがダイヤを処分する過程でかの悪名高いソウスケ軍団と交戦したとか。
倒萩という者がかつてあった大物マフィアの元首魁と戦ったとか。
果成いっぽという者が上海を所狭しと駆け巡り大立ち回りを繰り広げたとか。
そして魔幇の新たな首領は大戦持A子という者が最有力候補だという。
姉を探してた斎藤和夫は、茶山明日歩に引き回されてまだ姉を探しているらしい。こちらも彼の姉に関する情報は得られていないのでどうしようもない。
女陰黄泉は全く分からない。真偽不明の情報によると魔幇の首領に挑んだと言うが……。
カムパネルラはどこぞの長命魔人からダイヤを掻っ攫おうとしていたとか。
一方で、ギャラハッド・ソネットがダイヤを処分する過程でかの悪名高いソウスケ軍団と交戦したとか。
倒萩という者がかつてあった大物マフィアの元首魁と戦ったとか。
果成いっぽという者が上海を所狭しと駆け巡り大立ち回りを繰り広げたとか。
そして魔幇の新たな首領は大戦持A子という者が最有力候補だという。
「まぁ、なんとかなるだろう。引き継ぎも終了したことだし、日本へ帰るぞ」
世はなべてこともなし。上海はいつも通りの混沌だ。
「色々あったわね」
「俺達が全部を救うにゃ、世界は広く、起きてることが多すぎる」
「だから、出来ることをやっていく、って決めたんでしょ。私を助けたときみたいに」
「うむ、そうだな。これからもよろしく頼むぞ」
「勿論!」
「俺達が全部を救うにゃ、世界は広く、起きてることが多すぎる」
「だから、出来ることをやっていく、って決めたんでしょ。私を助けたときみたいに」
「うむ、そうだな。これからもよろしく頼むぞ」
「勿論!」
魔人在るところトラブルあり。魔人のトラブルを解決するのもまた魔人。彼らの仕事に、終わりはない。
されど、この話はここまで。とっぴんぱらりのぷぅ。
されど、この話はここまで。とっぴんぱらりのぷぅ。