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ダンゲロスSS上海
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ダンゲロスSS上海

ダブル・ハピネス・キャンペーン

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dangerousss_shanghai

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19XX年 とある報告書(抜粋)

…よって、被検体が未起動の状態ではこれ以上の調査はほぼ無意味であると結論付けられる。

起動に成功した場合はその限りではないが、起動の条件が不明瞭であり、また条件を満たす環境は多大な社会的不安や治安の悪化を伴う危険性があるため、起動を試みることは多大なリスクを伴うと考えられる。

以上の点より、研究は無期限に凍結される。




現代 雑誌の4面記事
『博物館から人形が脱走?不可解な消失』
清王朝のダイヤモンドの話題で持ち切りの上海で、奇しくも他の清王朝のお宝に関する奇妙な事件が発生した。
○○博物館の収蔵庫が何者かによって開錠され、内部に保管されていた新王朝時代の精巧な人形が消えたのだ。
盗まれた人形は清代の魔人の手によるものと言われているもので、等身大の極めてリアルに作られた眠る少女の人形である。誰がどのような目的でどのようにして作ったのかなど謎が多い歴史的遺物の一つであった。
これだけならば近頃の上海のゴタゴタに乗じた泥棒の仕業と考えられるが、この事件には奇妙な点がある。
厳重に施錠されていた収蔵庫の電子ロックには外部からの干渉の記録は無く、なぜか「中から開けられた」記録が残っていたのである。
あたかも人形の少女がひとりでに起き上がり、外に歩み出たような形跡である…

百年祭の上海 夜 とある動画サイトでの生配信

(画質の悪い、かくついた動画)
(音声にはノイズが混じっている)
(藍色の髪の少女が配信カメラを覗き込んでいるらしい)

「これでいいのかな…写ってる?写ってますかぁ~?」
「いけてる?うまく動いてる?」
「お!いけてるっぽい!」
「それでは、えー、こほん」

(満面の笑みと共にカメラに向かって手を振る少女)

「魔都上海の皆様!はじめまして~!!」
「伝説のダイヤモンド争奪戦!楽しんでますか~!!」
「今日は上海に蠢く強欲貪欲業突く張りの皆様に、素敵なお知らせを持ってきましたよ!」

(楽しくてたまらないといった様子で気取ったポーズの少女)

「私のことは双喜(シュアンシー)とでもお呼びください!」
「別に皆様の好きな呼び方があるなら、それでも構いませんよ!」
「名前はともかくとして私が何者なのか、もしかするとこの顔でピンときた方もいらっしゃるのではないでしょうか!」

(双喜は自分の顔を指さしているようだが、画質が悪くて細部はあまり見えない)
(双喜がなにかパンフレットや雑誌を取り出して配信に写すが、やはり画質が悪くてよく見えない)

「じゃじゃ~ん!何を隠そうこちらの記事にて紹介された○○博物館の収蔵庫から脱走しちゃった生き人形…」
「それこそが!わ・た・し~!」
「ほらみてみて博物館のパンフレット!我ながら写真写りがいい!!」
「だからどうした!俺たちは清王朝のダイヤモンドで忙しいんだ!という皆様に、素敵なお知らせです…!」

(にやにや笑っているようだが画質が悪くてよく見えない)

「実は私…現在博物館に入っていたころを遥かに凌駕するお宝となっております!」
「気になりませんか…ただの人形だった筈の私を動かしているオーパーツな超技術!」
「命を生み出す生命創造の秘法!」
「魔人能力者の人為的製造技術!」
「現代では失われた清王朝のバイオ・マジカル・ミスティック・テクノロジィ!!」
「ここに!今まさに稼働中のが!ありますよっ!!」
「現存しているのは…私だけかもしれませんね!」

(テンション高く立ち上がってくるくると回る双喜)

「生け捕りにして然るべき研究機関に持ち込めば…どれだけのお金になるんでしょう?」
「少なくとも医療分野に劇的な進歩があるでしょうねぇ…現代では不治の病とされているものの多くに効きそうです!」
「あえて宣言しましょう!」

(ビシッ!とポーズをとる双喜)

「アイ・アム・トレジャーボックス!!」
「清王朝のダイヤモンドに次ぐ今の上海で2番目のお宝…それが私です!!」
「人によってはダイヤモンドよりほしいって人もいるんじゃないです?」
「そしてもうひとつ!重要なお知らせです!」

(カメラに顔を近づける双喜)

「私がお宝なのは、期間限定です!」
「詳細は省きますが、私が生きているのはこの上海で強欲な皆様が蠢いている間のみ…要するに清王朝のダイヤモンド争奪戦の間だけ!」
「私の死体は多分大したお金になりませんね!博物館で寝てる間の研究で成果が出なかったので推して知るべしです!」
「水物なので、お求めの方はお急ぎを!」
「清王朝のダイヤも欲しい!そんな強欲なあなたは必死で二兎を追っかけろぉ!!」
「つ・ま・り!今の上海は!」

(再びノリノリのポーズをとる双喜)

「お宝二倍!」
「強欲二倍ッ!!」
「二つを手中に収めて、幸せ二倍ッ!!!」
「ダブル・ハピネス・キャンペーンッ!!実施中っ!!!」
「何を隠そうこの私もダイヤモンドには積極的に絡みに行くので!!ダブルゲットチャンスは今後どんどんありますよ~!!!」
「私と一緒に!!強欲な人生に大チャンス!!魔都上海で私と握手!!!」
「あ、もちろんわたしは捕まりそうになったら抵抗しますよ!拳とかその他諸々で!そっちの方が楽しいでしょう?」
「というわけで早速!双喜キャンペーン第一弾!レッツ配信凸タイム!私の場所を突き止めて突っ込んでこい貪欲者…ってん?」

(急に明後日の方角を向く双喜)
(凄まじい高速機動で配信カメラから消える双喜)
(衝撃)
(ノイズ)

(配信は終了しました)



上海 夜 ビルの屋上

「ああ!パソコンが!図書館で電子工学の本を読み漁ってジャンクパーツで頑張って自作したパソコンがぁ!」

電波の通りが良さそうな廃ビルの屋上、先程までパソコンだった鉄屑の前でぴょんぴょこと地団太を踏む簡素な服装な少女の姿があった。
藍色の瞳の彼女こそは清の時代に製造されつい数日前に起動した人造魔人にして生ける宝箱、双喜(シュアンシー)である。
百年祭の上海の混沌にダイナミックエントリーを決めた彼女だが、早くも荒事に巻き込まれていた。
それ自体は望むところであるが、頑張って自作したパソコンがぶっ壊されたのは悲しかった。真面目にパーツを買う金などあるわけがないのでゴミ捨て場から拝借したパーツで作ったカスみたいなスペックの配信機器でも惜しいものは惜しい。

―が、それを嘆く間にも、双喜の口の端はギラギラと吊り上がっている。
「これはもう、よっぽど素敵な強欲を見せてくんないと割に合わないなあ!」

双喜は、強欲が好きだ。
金の亡者が好きだ。
食いしん坊が好きだ。
利権を狙うマフィアたちが好きだ。
各々の思惑を秘めた解決屋たちが好きだ。
賭博場で身ぐるみ剥がれても懲りないやつが好きだ。
禁断症状に呻く阿片中毒者が好きだ。
ダイヤモンドを求めて街を駆け回る無法者たちが好きだ。
混沌の中で守りたい誰かを決して離すまいとする護衛人たちが好きだ。
己の最強の証明を求めて戦いに身を投じる戦闘者たちが好きだ。
自分という宝箱を求めるありとあらゆる業突く張りが好きだ。

自身の身体に力を齎してくれる、ありとあらゆる欲望が好きだ。
そんな欲望が渦巻く、上海の街が大好きだ。

「ではいくぜ!上海!」

双喜はそう言って、大跳躍でビルの屋上から跳んだ。
その次の瞬間、双喜が一瞬前まで居た場所で僅かな空気の揺らぎがあった。
魔人能力による無音・無臭・不可視の念動力座標攻撃だ。パソコン程度なら鉄屑に変える威力と凄まじい隠密性を併せ持った恐るべきサイコキネシス狙撃であるが、双喜はこれを事もなげに避け―

「そこだな!いまいくぞー!」

1㎞近く離れた高層ビルの上階を落下しながらも真っ直ぐ指さし、落下の勢いを殺さぬままの着地から猛ダッシュで街を駆け始めた。

自動車顔負けの速度で疾走する双喜に向けて、再度の念力狙撃。正確な狙い。狙撃手の腕も相当だ。
だが双喜はジグザクのステップで回避。目標のビルまで残り800m。
再狙撃。建造物の壁を蹴る立体機動で回避。残り600m。
再狙撃―否、折り取った道路標識を念動で飛ばす範囲攻撃。弧を描いて飛来する鉄柱を回転受け流し回避。残り400m。
その次は隣接家屋の窓ガラスが一斉に割れ、破片が散弾と化す。大跳躍で散弾領域脱出回避。残り200m。
残り50m地点で、進行方向の路面が割れ、地面からばぎばぎと土の巨人が表れる。年動力で操られるゴーレムめいた傀儡だ。

「わお!器用!」
双喜は拳を振り上げるゴーレムの繰り手を称賛し―
「そして、強欲!」
ゴーレムの胴から飛び出した隠しマシンガンの銃撃をあっさりと回避し、その頭上を踏みつけて跳んだ。
疾走の勢いそのままの跳躍、そして着地からの疾走はあっという間に目標とした高層ビルまでの距離を潰し―

―狙撃手がいる部屋は、上方200m。
8度目の念動攻撃よりも、双喜の動きが早かった。

「はい皆様ご注目!これな~んだっ!!」
一連の騒ぎで集まりつつあった野次馬に向かって、双喜は満面の笑顔と共に何かを高々と掲げて見せた。

拳大の、キラキラと光る透明な宝石である。近頃の上海に溢れるイミテーションのダイヤだ。
だが、今の上海でダイヤモンド(のようなもの)を見て、「もしかして」と思わない者はいない。
野次馬たちの視線を一点に集めたダイヤを、双喜は思い切り上空に投じた。
そして、ダイヤモンドの後を追う軌道で飛んだ。

跳んだのではなく、飛んだ。

双喜はダイヤモンドに向けられる熱視線に導かれるように、真っ直ぐと上方へ飛翔する。
これぞ魔人能力『欲心流路』。上海に満ち溢れる欲望の流れは大河のようにうねり、双喜はそれを乗りこなす船頭、あるいはサーファーだ。

「いやっほおおおおう!」

爽快な歓声と共に双喜は上空に吹っ飛び、自分で投げ上げたダイヤモンドをキャッチしてもなおぐんぐんと上昇して、200m上空の部屋の窓に張り付いた。

狙撃用のスコープの付いたゴーグルをかけた男が、窓越しに双喜と目が合う。

狙撃手の男は驚愕。
双喜は満面の笑み。

「こんにちは腕利き狙撃手さん!こいつは素敵な念力ショーの代金!お釣りは不要!」

念力狙撃手が再度魔人能力を行使するよりも早く窓ガラスを突き破って投げつけられたイミテーションのダイヤが男のゴーグルを叩き割り―

「要らんわクソガキィ!」

意識を刈り取るには至らずに弾かれる。
反撃に振るわれた念力が制御を取り払った暴風と化して、双喜を捕らえようと暴れ回る。
割れ残っていた窓が不可視の力に煽られて吹き飛び、ガラスの割れる甲高い音がビルの一室に響いた。

念力を躱して双喜が降り立ったビルの中はセレモニーの類などに使われる貸しホールのような空間である。

「改めましてこんにちは!いや夜だからこんばんは!素敵な欲張り狙撃手さん!そちらさんは何故に私を狙う感じなのでっとおっとお!」

距離が縮まった分威力を増した念力が空間を薙ぎ払うが、双喜は範囲を見切って軽やかに躱す。

「クソがッ!なぜ当たらねえ!」
「お答えしましょう!私の魔人能力『欲心流路』には欲望を探知する機能が付いているのです!特に私に向けられる欲望には敏感でしてね!お兄さんの『ここを狙う!当ててやる!そして一攫千金!』って意思がビンビンに伝わって来るんですよ!念力っていう能力の性質も関わってるんでしょうけど、物凄くわかりやすいですよ!このレベルだと人によっては能力無くても殺気を感じるんじゃないです?私は好きですけどねそういうやる気!」

不可視の念力をひょいひょいと躱しつつペラペラとしゃべくる双喜。
戦うことも話すことも、果てしなく楽しくてたまらないといった様子だ。

「さてはて一つ質問に答えたのでそちらのお兄さんにも一つ質問に答えてほしいところですが、そうもいかぬご様子で」
「何を言って…」

次の瞬間、双喜と狙撃手に3発づつ銃弾が叩き込まれた。

「うひゃあ!」
「テメェ!何者だ!」

念力で銃弾をガードした狙撃手が誰何した先には、部屋の扉を開けて立ち入って来た黒スーツ姿の男がいた。両の手に拳銃を携え、いかにもヤクザのヒットマンといった風情だ。

「答える応える義理は無いな解決屋。俺は仕事に来ただけだ」
「ち!派手にやりすぎたか…!」
「こんばんはガンマンのおじさま!感じますよ強欲を!単なる仕事に留まらない心の内を聞かせてもらっても?」
「仕事だ。それ以上は―む!」

ヒットマンの男がバックステップで飛び退った後の空間を、回転しながら飛ぶ投げ斧が通過した。それを投じた下手人は、砕かれた窓から立ち入って来る。その背にはここまでやって来るのに使ったのであろうジェットパックと、何本もの投げ斧。
ジェットパックの男は、胡乱な瞳を混沌とした状況へと向けた。

「こんばんはミスタージェットマン!あなたの強欲はずばり何でしょう!」
「カネ」
「きゃーわかりやすーい!だいすき!」
「ホムンクルス。手足を落として、魔幇に売る」
「できるもんならやってみろー!」
「次から次へとめんどくせぇ…!」
「今日は仕事が多い日だ」
「カネ」

満面の笑みでファイティングポーズをとる双喜。
苛立ちをにじませながらも能力を高める狙撃手。
ため息と共に銃を構え直すヒットマン。
新たな手斧を手に取るジェットパックの男。
4つ巴の闘いがスタートしようとしたその時。

「たのもー!上海大賽の会場はここだなワシが決めた今決めたそして貴様らが対戦相手に違いない死ねぇぃ!」
恐るべきスピード感と共に壁をぶち抜いて現れた若干ボケ気味の老武術家が戦場に乱入し。

「いっけな~い地獄地獄☆わたしの名前はしりあるキラ子!三度の飯より無差別殺人が好きな上海の一般的な高校生!」
同時に特に関係ない通りすがりのシリアルキラーが天井をぶち抜いて乱入した。

瞬く間におっぱじまる、混沌・混乱・大騒乱。
それこそが、双喜が求める強欲の坩堝。上海の街に満ち満ちる、人間の情動のうねりである。

「クソがーっ!もういい全員ぺちゃんこになれーっ!」
「今日は残業だな…報酬を増やしてもらわねば割に合わん」
「カネ、カネ、カネ、カネ、カネ…」
「ワシは上海最強じゃあああああああああああああ!!」
「あーっ☆あいつ朝にぶつからなかった奴だ☆殺しちゃえ!」
「あっはははははははははははははは!すごい!すごい!強欲がいっぱいだあ!」

六つ巴の混沌の中、双喜は呵々大笑した。
欲望のごった煮の坩堝でくるくると踊りながら、生ける宝箱はからからと笑い、そして叫んだ。

「さあ!さあ!さあ!もっと!もっと強欲に!そして話しましょう!殴り合いましょう!騙し合いましょう!奪い合いましょう!踊りましょう!素敵に愉快に強欲に貪欲に欲深に貪婪に執拗に悪食に意地汚く業深く獣のように禿鷹(ハゲタカ)のように鬣犬(ハイエナ)のように鋸刺鮭(ピラニア)のように!私と一緒に!この街で!そして―」

双喜は混沌とした戦局を捌きながら渦巻く欲望の奔流に乗ってふわりと浮き上がり、割れた窓から輝く上海の夜景を見た。
溢れんばかりの強欲と混沌が、この町には渦巻いている。今まさに双喜を中心に展開されているハチャメチャが珍しくないほどに。
その輝きを、双喜は見つめる。

「―私に、その輝きを見せて!」

そんな街だから、双喜は今目覚めて、こうして生きている。それを求めて、生きているのだ。
それを実感した瞬間、双喜の口からは快哉が飛び出していた。

「愛してるよ!しゃんはーい!」

欲望渦巻く百年祭の混沌は、始まったばかりだ。
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