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入学式
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入学式
入学式の前夜
「チョコちゃん、右!」
エクレアさんの声が、薄暗い遺跡の通路に響きました。
私は反射的に刀を構えます。
壁際に置かれていた古い石像が動き出し、重たい腕をこちらへ振り下ろしました。
「はい!」
一歩下がるのではなく、斜め前へ。
腕の内側へ潜り込み、胴体の継ぎ目を狙います。
「一閃!」
刀を振り抜くと、石像の表面に細い亀裂が走りました。
すぐに横へ抜けます。
次の瞬間、私が立っていた場所へ石の拳が落ち、床から細かな破片が飛び散りました。
「今のいいよ!」
エクレアさんが笑いながら駆け込み、亀裂の入った場所へ連撃を叩き込みます。
一撃。
二撃。
三撃。
石像は耐えきれず、光の粒になって崩れました。
「よし、次!」
「待ちなさい」
奥の扉へ向かおうとしたエクレアさんを、アイリスさんの声が止めました。
「まだ戦利品の確認が終わっていないわ」
「あとでまとめて取ればいいじゃん」
「前もそう言って、一部屋分置いて帰ったでしょう」
「あれは……ちょっと急いでただけ!」
「何に?」
「次の部屋に」
「理由になってないわよ」
二人のやり取りに、私は小さく笑いました。
受験勉強の間、FoFへ来られる時間はかなり減っていました。
完全に離れていたわけではありません。
短い時間だけギルドハウスへ寄ったり、素材の整理を手伝ったり、簡単なクエストへ参加したりすることはありました。
けれど、長時間の探索やレイドからは遠ざかっていました。
合格が決まってから、ようやく少しずつ戻り始めたところです。
今日は王都近郊にある小さな遺跡で、依頼品の魔石を集めています。
高難易度でも、大規模攻略でもありません。
三人で一時間もかからず終わる、小さなダンジョンです。
それでも、久しぶりに刀を振る感覚は心地よく感じました。
「チョコちゃん、足元」
アイリスさんに言われ、私は床へ目を向けました。
砕けた石像の近くに、淡い光を放つ小さな石が落ちています。
「依頼品ですね」
拾い上げると、達成数が更新されました。
<魔力を帯びた石片 8/8>
「これで終わりです」
「もう一部屋だけ見ない?」
エクレアさんが言いました。
「見ません」
アイリスさんは即答しました。
「まだ時間あるよ?」
「チョコチップは明日、入学式でしょう」
「少しくらい大丈夫じゃない?」
「学校初日に寝不足で接続遅延でも起こしたら、笑えないわよ」
「アイリスさん、覚えていてくださったんですね」
私が言うと、アイリスさんは少しだけ目を逸らしました。
「ギルドメンバーの予定を把握しているだけよ」
「心配してるんだ」
エクレアさんがにやりとします。
「違うわ」
「でも、入学式の日まで覚えてたよね?」
「必要な情報だからよ」
「チョコちゃん、これツンデレってやつだよ」
「エクレア?」
「はい」
エクレアさんは一歩下がりました。
ただ、表情は楽しそうなままです。
私は刀を鞘へ戻しました。
「ありがとうございます。今日はここで戻りましょう」
「チョコちゃんまで!」
「明日の準備もありますから」
「じゃあ仕方ないかぁ」
エクレアさんは残念そうに言いながらも、素直に帰還アイテムを取り出しました。
王都へ戻ったあとは、三人で依頼品を納品しました。
報酬を分け、余った素材をギルドハウスの倉庫へ入れます。
アイリスさんは回復薬の残数を確認し、エクレアさんは近くの椅子へ座るなり、次に行きたい場所を探し始めました。
私は倉庫の前で、入れた素材の分類を整えます。
「チョコちゃん、そこまでやらなくてもいいよ?」
「中途半端に置くと、あとで探しづらくなります」
「相変わらずしっかりしてるなぁ」
「エクレアさんが少し自由すぎるんです」
「チョコちゃんが言うようになった!」
「事実でしょう」
アイリスさんも同意してくれました。
「二人ともひどい!」
エクレアさんは笑いながら、机へ突っ伏しました。
そんな何でもない時間が、少し懐かしく感じます。
以前の私は、ギルドハウスにいるだけでも緊張していました。
今では、エクレアさんへ注意することもできます。
アイリスさんの言葉の裏にある優しさも、少しだけわかるようになりました。
「それでは、今日は落ちますね」
「うん。明日頑張ってね!」
エクレアさんが大きく手を振ります。
「入学式で戦闘はないと思いますけど」
「高校生活との戦いが始まる!」
「不安になる言い方をしないの」
アイリスさんはため息をつきました。
「緊張しても、最初から全部うまくやろうとしなくていいわ。初日なんだから」
「はい」
「別に、励ましているわけではないけど」
「ありがとうございます」
「……ならいいわ」
私は二人に挨拶をし、FoFからログアウトしました。
明日は、だんのこまち第一高等学校の入学式です。
先輩たちが待っている学校へ、ようやく私も向かいます。
エクレアさんの声が、薄暗い遺跡の通路に響きました。
私は反射的に刀を構えます。
壁際に置かれていた古い石像が動き出し、重たい腕をこちらへ振り下ろしました。
「はい!」
一歩下がるのではなく、斜め前へ。
腕の内側へ潜り込み、胴体の継ぎ目を狙います。
「一閃!」
刀を振り抜くと、石像の表面に細い亀裂が走りました。
すぐに横へ抜けます。
次の瞬間、私が立っていた場所へ石の拳が落ち、床から細かな破片が飛び散りました。
「今のいいよ!」
エクレアさんが笑いながら駆け込み、亀裂の入った場所へ連撃を叩き込みます。
一撃。
二撃。
三撃。
石像は耐えきれず、光の粒になって崩れました。
「よし、次!」
「待ちなさい」
奥の扉へ向かおうとしたエクレアさんを、アイリスさんの声が止めました。
「まだ戦利品の確認が終わっていないわ」
「あとでまとめて取ればいいじゃん」
「前もそう言って、一部屋分置いて帰ったでしょう」
「あれは……ちょっと急いでただけ!」
「何に?」
「次の部屋に」
「理由になってないわよ」
二人のやり取りに、私は小さく笑いました。
受験勉強の間、FoFへ来られる時間はかなり減っていました。
完全に離れていたわけではありません。
短い時間だけギルドハウスへ寄ったり、素材の整理を手伝ったり、簡単なクエストへ参加したりすることはありました。
けれど、長時間の探索やレイドからは遠ざかっていました。
合格が決まってから、ようやく少しずつ戻り始めたところです。
今日は王都近郊にある小さな遺跡で、依頼品の魔石を集めています。
高難易度でも、大規模攻略でもありません。
三人で一時間もかからず終わる、小さなダンジョンです。
それでも、久しぶりに刀を振る感覚は心地よく感じました。
「チョコちゃん、足元」
アイリスさんに言われ、私は床へ目を向けました。
砕けた石像の近くに、淡い光を放つ小さな石が落ちています。
「依頼品ですね」
拾い上げると、達成数が更新されました。
<魔力を帯びた石片 8/8>
「これで終わりです」
「もう一部屋だけ見ない?」
エクレアさんが言いました。
「見ません」
アイリスさんは即答しました。
「まだ時間あるよ?」
「チョコチップは明日、入学式でしょう」
「少しくらい大丈夫じゃない?」
「学校初日に寝不足で接続遅延でも起こしたら、笑えないわよ」
「アイリスさん、覚えていてくださったんですね」
私が言うと、アイリスさんは少しだけ目を逸らしました。
「ギルドメンバーの予定を把握しているだけよ」
「心配してるんだ」
エクレアさんがにやりとします。
「違うわ」
「でも、入学式の日まで覚えてたよね?」
「必要な情報だからよ」
「チョコちゃん、これツンデレってやつだよ」
「エクレア?」
「はい」
エクレアさんは一歩下がりました。
ただ、表情は楽しそうなままです。
私は刀を鞘へ戻しました。
「ありがとうございます。今日はここで戻りましょう」
「チョコちゃんまで!」
「明日の準備もありますから」
「じゃあ仕方ないかぁ」
エクレアさんは残念そうに言いながらも、素直に帰還アイテムを取り出しました。
王都へ戻ったあとは、三人で依頼品を納品しました。
報酬を分け、余った素材をギルドハウスの倉庫へ入れます。
アイリスさんは回復薬の残数を確認し、エクレアさんは近くの椅子へ座るなり、次に行きたい場所を探し始めました。
私は倉庫の前で、入れた素材の分類を整えます。
「チョコちゃん、そこまでやらなくてもいいよ?」
「中途半端に置くと、あとで探しづらくなります」
「相変わらずしっかりしてるなぁ」
「エクレアさんが少し自由すぎるんです」
「チョコちゃんが言うようになった!」
「事実でしょう」
アイリスさんも同意してくれました。
「二人ともひどい!」
エクレアさんは笑いながら、机へ突っ伏しました。
そんな何でもない時間が、少し懐かしく感じます。
以前の私は、ギルドハウスにいるだけでも緊張していました。
今では、エクレアさんへ注意することもできます。
アイリスさんの言葉の裏にある優しさも、少しだけわかるようになりました。
「それでは、今日は落ちますね」
「うん。明日頑張ってね!」
エクレアさんが大きく手を振ります。
「入学式で戦闘はないと思いますけど」
「高校生活との戦いが始まる!」
「不安になる言い方をしないの」
アイリスさんはため息をつきました。
「緊張しても、最初から全部うまくやろうとしなくていいわ。初日なんだから」
「はい」
「別に、励ましているわけではないけど」
「ありがとうございます」
「……ならいいわ」
私は二人に挨拶をし、FoFからログアウトしました。
明日は、だんのこまち第一高等学校の入学式です。
先輩たちが待っている学校へ、ようやく私も向かいます。
お団子と花飾り
「お姉ちゃん、もう少し右」
「このくらいですか?」
「行きすぎ。ちょっと戻して」
「難しいです」
「動かないで。私がやるから」
ミントちゃんが私の後ろへ回り、学校用アバターの髪へ触れました。
鏡の中には、制服姿の私が映っています。
学校用アバターの髪は黒。
現実とほとんど同じ色です。
ただ、普段より少し高い位置でお団子にまとめています。
前髪と顔の横へ細い髪を残し、あとは崩れないように固定しました。
ミントちゃんが最後に、お団子の横へ小さな花飾りを留めてくれます。
白い花びら。
黄色い花芯。
小さな緑の葉。
中学校の卒業式の日、みた先輩が私のために選んでくれたものです。
現実の花飾りをスキャンし、学校用アバターでも使えるようにしました。
「はい、完成」
ミントちゃんが私の肩へ顎を乗せ、一緒に鏡を覗き込みました。
「似合ってる」
「本当ですか?」
「何回目、それ」
「大事なことなので」
「昨日も三回聞かれたよ」
「昨日と今日は違います」
「入学式補正?」
「そうかもしれません」
二人で少し笑います。
制服は指定のシャツとブレザー。
赤いリボン。
スカート。
足元には黒いタイツを合わせました。
学校ではかなり自由に制服を組み合わせられると聞いています。
でも、初日はこれくらいが落ち着きます。
「DPo-Xは?」
「確認しました」
「充電は?」
「問題ありません」
「アクセス時間は?」
「あと十二分です」
「連絡先は?」
「登録済みです」
「先輩たちに会ったら?」
「きちんと挨拶します」
「完璧だね」
ミントちゃんは満足そうに頷きました。
「ミントちゃんこそ、朝ごはんは全部食べましたか?」
「食べたよ」
「お皿は?」
「洗った」
「歯磨きは?」
「した」
「本当ですか?」
「見てくる?」
「そこまではしません」
「お姉ちゃんも心配性じゃん」
ミントちゃんは笑いながら、私の頭を軽く撫でました。
お団子が崩れない程度の、優しい触れ方です。
私たちは普段からよく話します。
学校のこと。
ゲームのこと。
食べたいもの。
見つけた動画。
今日あった小さな出来事。
受験勉強で忙しかった時も、ミントちゃんは変に気を遣いすぎることなく、いつも通り隣にいてくれました。
疲れている日は飲み物を持ってきてくれました。
模擬試験の結果がよかった時は、私以上に喜んでくれました。
合格通知を見た時は、二人でしばらく抱き合いました。
「緊張してる?」
ミントちゃんが聞きました。
「少しだけ」
「先輩たちに会うから?」
「それもあります」
「一年ぶりだもんね」
連絡は取っていました。
それでも、直接会う機会はかなり減っていました。
受験が終わるまでは、自分で決めたことに集中したかったからです。
「学校で見つけられるでしょうか」
「花つけてるし、わかるんじゃない?」
「学校用アバターで会うのは初めてです」
「お姉ちゃんはどこにいてもお姉ちゃんだよ」
「それはミントちゃんだからわかるのでは?」
「先輩たちも、たぶんわかるって」
ミントちゃんは私の手を握りました。
「見つからなかったら、自分から会いに行けばいいじゃん」
「二年生の教室へですか?」
「うん」
「少し緊張します」
「じゃあ一回深呼吸してから行けばいい」
「一回で足りますか?」
「三回までなら待ってくれるでしょ」
「それ以上は?」
「私に連絡して。応援するから」
「現地には来られませんよ」
「通話越しに『行けー』って言う」
「少し目立ちそうです」
「じゃあ小声で」
また二人で笑いました。
DPo-Xから、アクセス開始の通知が届きます。
<だんのこまち第一高等学校>
<新入生用学校座標への接続が可能になりました>
<生徒ID:2221042>
私は接続スペースへ座りました。
ミントちゃんが、握っていた手を一度だけ強くします。
「行ってらっしゃい、お姉ちゃん」
「行ってきます、ミントちゃん」
確認ボタンを押しました。
視界が光に包まれます。
新しい高校生活が、始まります。
「このくらいですか?」
「行きすぎ。ちょっと戻して」
「難しいです」
「動かないで。私がやるから」
ミントちゃんが私の後ろへ回り、学校用アバターの髪へ触れました。
鏡の中には、制服姿の私が映っています。
学校用アバターの髪は黒。
現実とほとんど同じ色です。
ただ、普段より少し高い位置でお団子にまとめています。
前髪と顔の横へ細い髪を残し、あとは崩れないように固定しました。
ミントちゃんが最後に、お団子の横へ小さな花飾りを留めてくれます。
白い花びら。
黄色い花芯。
小さな緑の葉。
中学校の卒業式の日、みた先輩が私のために選んでくれたものです。
現実の花飾りをスキャンし、学校用アバターでも使えるようにしました。
「はい、完成」
ミントちゃんが私の肩へ顎を乗せ、一緒に鏡を覗き込みました。
「似合ってる」
「本当ですか?」
「何回目、それ」
「大事なことなので」
「昨日も三回聞かれたよ」
「昨日と今日は違います」
「入学式補正?」
「そうかもしれません」
二人で少し笑います。
制服は指定のシャツとブレザー。
赤いリボン。
スカート。
足元には黒いタイツを合わせました。
学校ではかなり自由に制服を組み合わせられると聞いています。
でも、初日はこれくらいが落ち着きます。
「DPo-Xは?」
「確認しました」
「充電は?」
「問題ありません」
「アクセス時間は?」
「あと十二分です」
「連絡先は?」
「登録済みです」
「先輩たちに会ったら?」
「きちんと挨拶します」
「完璧だね」
ミントちゃんは満足そうに頷きました。
「ミントちゃんこそ、朝ごはんは全部食べましたか?」
「食べたよ」
「お皿は?」
「洗った」
「歯磨きは?」
「した」
「本当ですか?」
「見てくる?」
「そこまではしません」
「お姉ちゃんも心配性じゃん」
ミントちゃんは笑いながら、私の頭を軽く撫でました。
お団子が崩れない程度の、優しい触れ方です。
私たちは普段からよく話します。
学校のこと。
ゲームのこと。
食べたいもの。
見つけた動画。
今日あった小さな出来事。
受験勉強で忙しかった時も、ミントちゃんは変に気を遣いすぎることなく、いつも通り隣にいてくれました。
疲れている日は飲み物を持ってきてくれました。
模擬試験の結果がよかった時は、私以上に喜んでくれました。
合格通知を見た時は、二人でしばらく抱き合いました。
「緊張してる?」
ミントちゃんが聞きました。
「少しだけ」
「先輩たちに会うから?」
「それもあります」
「一年ぶりだもんね」
連絡は取っていました。
それでも、直接会う機会はかなり減っていました。
受験が終わるまでは、自分で決めたことに集中したかったからです。
「学校で見つけられるでしょうか」
「花つけてるし、わかるんじゃない?」
「学校用アバターで会うのは初めてです」
「お姉ちゃんはどこにいてもお姉ちゃんだよ」
「それはミントちゃんだからわかるのでは?」
「先輩たちも、たぶんわかるって」
ミントちゃんは私の手を握りました。
「見つからなかったら、自分から会いに行けばいいじゃん」
「二年生の教室へですか?」
「うん」
「少し緊張します」
「じゃあ一回深呼吸してから行けばいい」
「一回で足りますか?」
「三回までなら待ってくれるでしょ」
「それ以上は?」
「私に連絡して。応援するから」
「現地には来られませんよ」
「通話越しに『行けー』って言う」
「少し目立ちそうです」
「じゃあ小声で」
また二人で笑いました。
DPo-Xから、アクセス開始の通知が届きます。
<だんのこまち第一高等学校>
<新入生用学校座標への接続が可能になりました>
<生徒ID:2221042>
私は接続スペースへ座りました。
ミントちゃんが、握っていた手を一度だけ強くします。
「行ってらっしゃい、お姉ちゃん」
「行ってきます、ミントちゃん」
確認ボタンを押しました。
視界が光に包まれます。
新しい高校生活が、始まります。
二年目の朝
二年生になっても、みたらしっぽの朝は思ったほど変わらなかった。
学校座標へ接続する。
ホームエリアを確認する。
教室へ行く。
自分の席へ座る。
そして、DPo-Xへ表示された予定を眺めながら、別のことを考える。
「朝からずっと同じ画面見てるね」
隣の席から、フェタシェールが声をかけた。
短い髪を耳へかけながら、みたらしっぽのDPo-Xを覗き込む。
「まだ新しい情報出てないでしょ?」
「出てない」
「じゃあ、何見てるの?」
「入学式の予定」
「新入生でもないのに?」
「後輩が入るから」
フェタは少し考えたあと、納得したように頷いた。
「前に話してた子?」
「うん。チョコ」
「そっか。今日なんだ」
「今日なんだよね」
「なんで他人事みたいなの?」
「まだ実感がないから」
「会ったら出るんじゃない?」
フェタとは、一年生の頃に同じクラスになった。
今年も偶然、隣の席だ。
いつも一緒にいるわけではないが、席が近いのでそれなりによく話す。
みたらしっぽが授業中に考え込んでいると、先生に呼ばれる前に声をかけてくれる。
フェタが本を忘れた時には、みたらしっぽの表示資料を半分使う。
近すぎず、遠すぎない。
そんな関係だった。
「みた、今年もフェタと隣なのか」
教室の入口からシュガーシロップが顔を出した。
その後ろにはキャラメルと、ユーリコレットがいる。
「おはよう」
みたらしっぽが言う。
コレットはシュガーシロップを見るなり、少し眉を上げた。
「シロ、先輩風吹かせる前にリボン直したら?」
「曲がってる?」
「見ればわかる」
「コレット、朝から厳しくない?」
「事実を言っただけ」
キャラメルが慣れた手つきで、シュガーシロップのリボンを整えた。
「はい。これで大丈夫」
「自分でできたんだけど」
「できてなかったよ」
「コレットまで頷かないで」
「二対一だから諦めな」
「多数決だったの?」
そこへ、ふわりとした金髪を揺らしながら、ミルククラウンが入ってきた。
小さな袋をいくつも抱えている。
「みんな、おはよ~。春休みのお土産持ってきたよ」
「また旅行行ってたの?」
シュガーシロップが聞く。
「うん。今回は海の近く。朝日がすっごくきれいだったの」
「写真ある?」
キャラメルがすぐに反応した。
「いっぱいあるよ。あとで見せるね」
ミルククラウンは小さな包みを一人ずつ配っていく。
みたらしっぽも一つ受け取った。
「ありがとう」
「どういたしまして。入学式の途中で食べちゃだめだよ~」
「食べないよ」
「みたなら、考えごとしながら開けそう」
フェタが言う。
「僕、そんなことする?」
教室にいた全員が、一瞬だけ黙った。
「しないと思う」
みたらしっぽが自分で答えると、コレットが短く言った。
「信用がないね」
「一年でこうなった」
中学校から一緒だった人だけではない。
高校へ入ってからの一年で、みたらしっぽたちの周りには新しい顔が増えていた。
フェタシェール。
ユーリコレット。
ミルククラウン。
廊下を歩けば挨拶をする人も増えた。
少し離れたところでは、ルーシャアッサムが新入生案内用の資料を抱えて歩いている。
みたらしっぽたちの教室へ気づくと、足を止めた。
「講堂前の補助、手が空いてる人いたらお願い。新入生の転送位置が一部変わったって」
「わかった。あとで行く」
シュガーシロップが答える。
「シロ、案内する側で迷わないでよ」
コレットが言う。
「迷わないって」
「去年、校外フィールドから戻る道間違えてたじゃん」
「あれは近道しようとしただけ」
「結果、遠回りだったよね」
キャラメルが笑う。
アッサムも少しだけ口元を緩め、そのまま隣の教室へ向かった。
窓際では、つきみがDPo-Xへ何かを書き込んでいる。
みたらしっぽが後ろから覗くと、校内地図の上に小さな足跡が並んでいた。
一年生の教室。
中央講堂。
購買。
保健室。
図書室。
「つきみ、それ何?」
つきみはすぐに画面を閉じた。
「何でもない」
「今、足跡見えたけど」
「新入生が迷いやすい場所をまとめてただけ」
「ルナの足跡で?」
「見やすいから」
ミルククラウンが横から顔を出す。
「かわいい地図だね~」
「地図は機能性が大事」
「足跡も機能?」
フェタが聞く。
「機能」
「つきみちゃんらしいね」
キャラメルが微笑む。
つきみは少しだけ頬を膨らませ、DPo-Xを胸元へ抱えた。
「新学期初日から、みんなして何」
「かわいいって話」
「してない」
「今、したよ」
「聞かなかったことにする」
つきみは窓の方を向いた。
耳が少し赤く見える。
みたらしっぽは笑いそうになったが、あとで覚えていられると面倒なので黙っておいた。
「それで、チョコちゃんは?」
キャラメルが聞いた。
「まだ会ってない」
みたらしっぽは答えた。
「連絡してないの?」
シュガーシロップが言う。
「入学初日だし、準備で忙しいかもしれないから」
「向こうも会いたいんじゃない?」
「それは……そうかもしれないけど」
フェタが少し笑う。
「みたって、そういうところ変に遠慮するよね」
「邪魔したら悪いかなって」
「会いたいなら、あとで探せばいいじゃん」
コレットがさらっと言った。
「考えてても見つからないよ」
「コレットははっきり言うね」
「回りくどいの苦手だから」
ミルククラウンが校門側の表示窓を眺める。
「新入生、もういっぱい来てるよ。どんな子?」
「黒髪で、お団子にしてくると思う」
「花飾りもあるかも」
つきみが付け足した。
「みたがあげたやつ?」
シュガーシロップが聞く。
「うん」
「まだつけてたら、見つけやすいな」
「そうだね」
予鈴が鳴った。
入学式の開始時間が近づいている。
教室にいた生徒たちが、少しずつ講堂へ向かい始めた。
みたらしっぽは立ち上がりながら、校門の方向へ目を向けた。
今日から、チョコも同じ学校にいる。
まだ姿は見えない。
それでも、一年前よりずっと近い場所にいる。
学校座標へ接続する。
ホームエリアを確認する。
教室へ行く。
自分の席へ座る。
そして、DPo-Xへ表示された予定を眺めながら、別のことを考える。
「朝からずっと同じ画面見てるね」
隣の席から、フェタシェールが声をかけた。
短い髪を耳へかけながら、みたらしっぽのDPo-Xを覗き込む。
「まだ新しい情報出てないでしょ?」
「出てない」
「じゃあ、何見てるの?」
「入学式の予定」
「新入生でもないのに?」
「後輩が入るから」
フェタは少し考えたあと、納得したように頷いた。
「前に話してた子?」
「うん。チョコ」
「そっか。今日なんだ」
「今日なんだよね」
「なんで他人事みたいなの?」
「まだ実感がないから」
「会ったら出るんじゃない?」
フェタとは、一年生の頃に同じクラスになった。
今年も偶然、隣の席だ。
いつも一緒にいるわけではないが、席が近いのでそれなりによく話す。
みたらしっぽが授業中に考え込んでいると、先生に呼ばれる前に声をかけてくれる。
フェタが本を忘れた時には、みたらしっぽの表示資料を半分使う。
近すぎず、遠すぎない。
そんな関係だった。
「みた、今年もフェタと隣なのか」
教室の入口からシュガーシロップが顔を出した。
その後ろにはキャラメルと、ユーリコレットがいる。
「おはよう」
みたらしっぽが言う。
コレットはシュガーシロップを見るなり、少し眉を上げた。
「シロ、先輩風吹かせる前にリボン直したら?」
「曲がってる?」
「見ればわかる」
「コレット、朝から厳しくない?」
「事実を言っただけ」
キャラメルが慣れた手つきで、シュガーシロップのリボンを整えた。
「はい。これで大丈夫」
「自分でできたんだけど」
「できてなかったよ」
「コレットまで頷かないで」
「二対一だから諦めな」
「多数決だったの?」
そこへ、ふわりとした金髪を揺らしながら、ミルククラウンが入ってきた。
小さな袋をいくつも抱えている。
「みんな、おはよ~。春休みのお土産持ってきたよ」
「また旅行行ってたの?」
シュガーシロップが聞く。
「うん。今回は海の近く。朝日がすっごくきれいだったの」
「写真ある?」
キャラメルがすぐに反応した。
「いっぱいあるよ。あとで見せるね」
ミルククラウンは小さな包みを一人ずつ配っていく。
みたらしっぽも一つ受け取った。
「ありがとう」
「どういたしまして。入学式の途中で食べちゃだめだよ~」
「食べないよ」
「みたなら、考えごとしながら開けそう」
フェタが言う。
「僕、そんなことする?」
教室にいた全員が、一瞬だけ黙った。
「しないと思う」
みたらしっぽが自分で答えると、コレットが短く言った。
「信用がないね」
「一年でこうなった」
中学校から一緒だった人だけではない。
高校へ入ってからの一年で、みたらしっぽたちの周りには新しい顔が増えていた。
フェタシェール。
ユーリコレット。
ミルククラウン。
廊下を歩けば挨拶をする人も増えた。
少し離れたところでは、ルーシャアッサムが新入生案内用の資料を抱えて歩いている。
みたらしっぽたちの教室へ気づくと、足を止めた。
「講堂前の補助、手が空いてる人いたらお願い。新入生の転送位置が一部変わったって」
「わかった。あとで行く」
シュガーシロップが答える。
「シロ、案内する側で迷わないでよ」
コレットが言う。
「迷わないって」
「去年、校外フィールドから戻る道間違えてたじゃん」
「あれは近道しようとしただけ」
「結果、遠回りだったよね」
キャラメルが笑う。
アッサムも少しだけ口元を緩め、そのまま隣の教室へ向かった。
窓際では、つきみがDPo-Xへ何かを書き込んでいる。
みたらしっぽが後ろから覗くと、校内地図の上に小さな足跡が並んでいた。
一年生の教室。
中央講堂。
購買。
保健室。
図書室。
「つきみ、それ何?」
つきみはすぐに画面を閉じた。
「何でもない」
「今、足跡見えたけど」
「新入生が迷いやすい場所をまとめてただけ」
「ルナの足跡で?」
「見やすいから」
ミルククラウンが横から顔を出す。
「かわいい地図だね~」
「地図は機能性が大事」
「足跡も機能?」
フェタが聞く。
「機能」
「つきみちゃんらしいね」
キャラメルが微笑む。
つきみは少しだけ頬を膨らませ、DPo-Xを胸元へ抱えた。
「新学期初日から、みんなして何」
「かわいいって話」
「してない」
「今、したよ」
「聞かなかったことにする」
つきみは窓の方を向いた。
耳が少し赤く見える。
みたらしっぽは笑いそうになったが、あとで覚えていられると面倒なので黙っておいた。
「それで、チョコちゃんは?」
キャラメルが聞いた。
「まだ会ってない」
みたらしっぽは答えた。
「連絡してないの?」
シュガーシロップが言う。
「入学初日だし、準備で忙しいかもしれないから」
「向こうも会いたいんじゃない?」
「それは……そうかもしれないけど」
フェタが少し笑う。
「みたって、そういうところ変に遠慮するよね」
「邪魔したら悪いかなって」
「会いたいなら、あとで探せばいいじゃん」
コレットがさらっと言った。
「考えてても見つからないよ」
「コレットははっきり言うね」
「回りくどいの苦手だから」
ミルククラウンが校門側の表示窓を眺める。
「新入生、もういっぱい来てるよ。どんな子?」
「黒髪で、お団子にしてくると思う」
「花飾りもあるかも」
つきみが付け足した。
「みたがあげたやつ?」
シュガーシロップが聞く。
「うん」
「まだつけてたら、見つけやすいな」
「そうだね」
予鈴が鳴った。
入学式の開始時間が近づいている。
教室にいた生徒たちが、少しずつ講堂へ向かい始めた。
みたらしっぽは立ち上がりながら、校門の方向へ目を向けた。
今日から、チョコも同じ学校にいる。
まだ姿は見えない。
それでも、一年前よりずっと近い場所にいる。
初めての登校
視界が戻ると、目の前には大きな校門がありました。
「……広いですね」
説明会で映像は見ています。
それでも、実際に学校用アバターで立つと、印象がまったく違いました。
正門の先には白い校舎がいくつも並んでいます。
中央には時計塔。
左右には庭園。
校舎のさらに奥には、授業で使う広いフィールドが続いていました。
自転車で移動している上級生もいます。
学校というより、小さな街のようです。
校門を通ると、DPo-Xが振動しました。
<ようこそ、だんのこまち第一高等学校へ>
<クラス分け表示は正面広場です>
足元に淡い案内線が表示されます。
私は人の流れに合わせて歩きました。
周囲には同じ新入生がたくさんいます。
制服をきっちり着ている人。
カーディガンを合わせている人。
すでに靴や小物を自由に変えている人。
髪色も、体格も、アバターの特徴もさまざまです。
現実では見かけない耳や尻尾を持つ人もいます。
それでも、ここでは誰も気にしていません。
私は自分の制服を見下ろしました。
ブレザー。
指定のシャツ。
赤いリボン。
スカート。
黒いタイツ。
特別なアレンジは、髪をお団子にしていることと、花飾りだけです。
初日には、これくらいが落ち着きます。
正面広場には、クラス分けの大きな表示が浮かんでいました。
本名ではなく、生徒IDが並んでいます。
私はDPo-Xへ届いていた番号を確認しました。
<2221042>
一年一組。
ありません。
一年二組。
上から番号を追っていきます。
「あ……ありました」
一年二組。
間違いありません。
<一年二組への経路を登録しました>
クラスがわかり、少し安心しました。
すぐに教室へ向かおうとして、私は一度だけ立ち止まります。
周囲には上級生もたくさんいました。
友人や後輩を探しているようです。
みた先輩。
シロ先輩。
キャラメル先輩。
つきみ先輩。
同じ学校にいるはずです。
メッセージを送れば、すぐに会えるかもしれません。
それでも、DPo-Xの連絡画面を開くところまではできませんでした。
新学期初日です。
先輩たちにも、新しいクラスや予定があります。
突然呼び出すのは、迷惑かもしれません。
「少しだけ、探してみましょう」
私は周囲を見回しました。
けれど、人が多すぎます。
先輩たちの学校用アバターを、私は詳しく知りません。
シロ先輩なら声でわかるかもしれません。
つきみ先輩なら、立ち方でわかるかもしれません。
みた先輩なら。
きっと、見ればわかると思っていました。
ですが、見つかりません。
「仕方ありませんね」
少し残念でした。
でも、今日から同じ学校です。
会う機会は、いくらでもあります。
私は髪の花飾りへ触れ、案内線に従って一年二組へ向かいました。
「……広いですね」
説明会で映像は見ています。
それでも、実際に学校用アバターで立つと、印象がまったく違いました。
正門の先には白い校舎がいくつも並んでいます。
中央には時計塔。
左右には庭園。
校舎のさらに奥には、授業で使う広いフィールドが続いていました。
自転車で移動している上級生もいます。
学校というより、小さな街のようです。
校門を通ると、DPo-Xが振動しました。
<ようこそ、だんのこまち第一高等学校へ>
<クラス分け表示は正面広場です>
足元に淡い案内線が表示されます。
私は人の流れに合わせて歩きました。
周囲には同じ新入生がたくさんいます。
制服をきっちり着ている人。
カーディガンを合わせている人。
すでに靴や小物を自由に変えている人。
髪色も、体格も、アバターの特徴もさまざまです。
現実では見かけない耳や尻尾を持つ人もいます。
それでも、ここでは誰も気にしていません。
私は自分の制服を見下ろしました。
ブレザー。
指定のシャツ。
赤いリボン。
スカート。
黒いタイツ。
特別なアレンジは、髪をお団子にしていることと、花飾りだけです。
初日には、これくらいが落ち着きます。
正面広場には、クラス分けの大きな表示が浮かんでいました。
本名ではなく、生徒IDが並んでいます。
私はDPo-Xへ届いていた番号を確認しました。
<2221042>
一年一組。
ありません。
一年二組。
上から番号を追っていきます。
「あ……ありました」
一年二組。
間違いありません。
<一年二組への経路を登録しました>
クラスがわかり、少し安心しました。
すぐに教室へ向かおうとして、私は一度だけ立ち止まります。
周囲には上級生もたくさんいました。
友人や後輩を探しているようです。
みた先輩。
シロ先輩。
キャラメル先輩。
つきみ先輩。
同じ学校にいるはずです。
メッセージを送れば、すぐに会えるかもしれません。
それでも、DPo-Xの連絡画面を開くところまではできませんでした。
新学期初日です。
先輩たちにも、新しいクラスや予定があります。
突然呼び出すのは、迷惑かもしれません。
「少しだけ、探してみましょう」
私は周囲を見回しました。
けれど、人が多すぎます。
先輩たちの学校用アバターを、私は詳しく知りません。
シロ先輩なら声でわかるかもしれません。
つきみ先輩なら、立ち方でわかるかもしれません。
みた先輩なら。
きっと、見ればわかると思っていました。
ですが、見つかりません。
「仕方ありませんね」
少し残念でした。
でも、今日から同じ学校です。
会う機会は、いくらでもあります。
私は髪の花飾りへ触れ、案内線に従って一年二組へ向かいました。
後輩を迎える側
中央講堂の二階席から、一階の新入生を見下ろしても、チョコの姿は見つからなかった。
黒髪の生徒は多い。
お団子にしている生徒も、一人や二人ではない。
花飾りまで見ようとしても、距離がありすぎる。
「見つかった?」
隣に座ったフェタが聞いた。
「まだ」
「本当に連絡しないんだ」
「式が終わってからでいいかなって」
「そういうところだけ気が長いね」
「そういうところだけ?」
「ゲームの更新待ってる時は五分で落ち着かなくなるのに」
「それとこれは別だよ」
少し離れた席では、シュガーシロップがキャラメル、コレット、ミルククラウンと話していた。
入学式が終わったあとは、部活動見学の案内を手伝うらしい。
コレットは乗り気ではなさそうな顔をしているが、シュガーシロップが新入生へ勢いよく声をかけすぎないよう、見張るつもりなのだろう。
ミルククラウンは、校内案内の途中で新入生へおすすめの景色を教えたいと言っていた。
キャラメルは二人の間で、いつも通り柔らかく笑っている。
通路側にはルーシャアッサムが立ち、転送位置を間違えた生徒を案内していた。
一年の間に増えた人たち。
中学校からの仲間だけではない。
高校へ入ってから出会い、今では同じ日常の中にいる人たちだ。
みたらしっぽは、新入生の列をもう一度見た。
今日、チョコもここで新しい人と出会う。
それは少し寂しいような、嬉しいような、不思議な感覚だった。
「チョコなら大丈夫だよ」
つきみが反対側から言った。
「聞こえてた?」
「顔に出てた」
「そんなに?」
「少し」
つきみは膝の上にDPo-Xを置いている。
画面の端には、先ほどの足跡地図が少しだけ見えていた。
「迷ってたら、この地図渡す?」
みたらしっぽが聞く。
「まだ完成してない」
「十分使えそうだけど」
「新入生用にするなら、足跡を減らす」
「減らすんだ」
「わかりにくいって言われるかもしれないから」
「かわいいから大丈夫じゃない?」
つきみは無言で画面を閉じた。
「あとで覚えてて」
「やっぱり言わなければよかった」
入学式の開始を知らせる音が響いた。
講堂が静かになる。
壇上に校長のアバターが現れ、新入生へ向けて話し始めた。
みたらしっぽは正面を見ながらも、時々一階席へ視線を向けていた。
見つけることはできない。
それでも、チョコがこの場所にいることだけはわかっている。
式が終われば、会える。
そう思っていた。
しかし、入学式後の二年生には、新年度説明と新入生案内の補助が待っていた。
すぐに一年生の教室へ行けるほど、学校の予定は親切ではなかった。
黒髪の生徒は多い。
お団子にしている生徒も、一人や二人ではない。
花飾りまで見ようとしても、距離がありすぎる。
「見つかった?」
隣に座ったフェタが聞いた。
「まだ」
「本当に連絡しないんだ」
「式が終わってからでいいかなって」
「そういうところだけ気が長いね」
「そういうところだけ?」
「ゲームの更新待ってる時は五分で落ち着かなくなるのに」
「それとこれは別だよ」
少し離れた席では、シュガーシロップがキャラメル、コレット、ミルククラウンと話していた。
入学式が終わったあとは、部活動見学の案内を手伝うらしい。
コレットは乗り気ではなさそうな顔をしているが、シュガーシロップが新入生へ勢いよく声をかけすぎないよう、見張るつもりなのだろう。
ミルククラウンは、校内案内の途中で新入生へおすすめの景色を教えたいと言っていた。
キャラメルは二人の間で、いつも通り柔らかく笑っている。
通路側にはルーシャアッサムが立ち、転送位置を間違えた生徒を案内していた。
一年の間に増えた人たち。
中学校からの仲間だけではない。
高校へ入ってから出会い、今では同じ日常の中にいる人たちだ。
みたらしっぽは、新入生の列をもう一度見た。
今日、チョコもここで新しい人と出会う。
それは少し寂しいような、嬉しいような、不思議な感覚だった。
「チョコなら大丈夫だよ」
つきみが反対側から言った。
「聞こえてた?」
「顔に出てた」
「そんなに?」
「少し」
つきみは膝の上にDPo-Xを置いている。
画面の端には、先ほどの足跡地図が少しだけ見えていた。
「迷ってたら、この地図渡す?」
みたらしっぽが聞く。
「まだ完成してない」
「十分使えそうだけど」
「新入生用にするなら、足跡を減らす」
「減らすんだ」
「わかりにくいって言われるかもしれないから」
「かわいいから大丈夫じゃない?」
つきみは無言で画面を閉じた。
「あとで覚えてて」
「やっぱり言わなければよかった」
入学式の開始を知らせる音が響いた。
講堂が静かになる。
壇上に校長のアバターが現れ、新入生へ向けて話し始めた。
みたらしっぽは正面を見ながらも、時々一階席へ視線を向けていた。
見つけることはできない。
それでも、チョコがこの場所にいることだけはわかっている。
式が終われば、会える。
そう思っていた。
しかし、入学式後の二年生には、新年度説明と新入生案内の補助が待っていた。
すぐに一年生の教室へ行けるほど、学校の予定は親切ではなかった。
入学式
入学式の会場は、とても大きな講堂でした。
一階には新入生。
二階には在校生が座っています。
私は一年二組の列へ案内されました。
周囲には、まだ名前も知らない同級生が並んでいます。
緊張している人。
楽しそうな人。
何度も制服を直している人。
DPo-Xを確認している人。
私だけが落ち着かないわけではないのだとわかると、少し安心しました。
式が始まります。
校歌。
新入生の紹介。
校長先生のお話。
在校生代表の挨拶。
バーチャル世界で行われていても、入学式そのものは現実のものと大きく変わりません。
ただ、話される内容には、この学校ならではのものがありました。
現実とバーチャル、双方の校舎で学ぶこと。
DPo-Xを使い、自分の情報や装備、授業用データを管理すること。
校内レベルは単純な強さを競うものではなく、活動や学習の記録でもあること。
バーチャル世界を、遊びだけではなく社会の一部として理解すること。
私は壇上を見ながら、一年前を思い出していました。
中学校の校門で、先輩たちを見送った日。
あの時、この高校はまだ遠い場所でした。
先輩たちが先に進む場所。
私がいつか追いつきたい場所。
でも、今は同じ講堂にいます。
二階のどこかに、先輩たちもいるはずです。
まだ直接会えてはいません。
それでも、「一年後」はようやく今日になりました。
入学式が終わると、私たちは一年二組の教室へ転送されました。
一階には新入生。
二階には在校生が座っています。
私は一年二組の列へ案内されました。
周囲には、まだ名前も知らない同級生が並んでいます。
緊張している人。
楽しそうな人。
何度も制服を直している人。
DPo-Xを確認している人。
私だけが落ち着かないわけではないのだとわかると、少し安心しました。
式が始まります。
校歌。
新入生の紹介。
校長先生のお話。
在校生代表の挨拶。
バーチャル世界で行われていても、入学式そのものは現実のものと大きく変わりません。
ただ、話される内容には、この学校ならではのものがありました。
現実とバーチャル、双方の校舎で学ぶこと。
DPo-Xを使い、自分の情報や装備、授業用データを管理すること。
校内レベルは単純な強さを競うものではなく、活動や学習の記録でもあること。
バーチャル世界を、遊びだけではなく社会の一部として理解すること。
私は壇上を見ながら、一年前を思い出していました。
中学校の校門で、先輩たちを見送った日。
あの時、この高校はまだ遠い場所でした。
先輩たちが先に進む場所。
私がいつか追いつきたい場所。
でも、今は同じ講堂にいます。
二階のどこかに、先輩たちもいるはずです。
まだ直接会えてはいません。
それでも、「一年後」はようやく今日になりました。
入学式が終わると、私たちは一年二組の教室へ転送されました。
一年二組
教室は、現実の学校とよく似ています。
机。
椅子。
黒板。
窓。
ただし、それぞれの机にはDPo-Xと連動する表示面があり、必要な資料をすぐに呼び出せます。
窓の外には、現実では考えられないほど広い学校フィールドが見えました。
遠くを走る生徒が、小さく見えます。
担任の先生から学校用アカウントや今後の予定について説明があり、そのあと簡単な自己紹介が始まりました。
一人ずつ立ち、名前と趣味、学校でやってみたいことを話します。
順番が近づくにつれ、少しずつ緊張してきました。
「次、チョコチップさん」
「はい」
私は立ち上がります。
教室中の視線が集まりました。
レイドボスに見られるよりも、こちらの方が緊張するかもしれません。
「チョコチップです」
声が小さくなりすぎないように気をつけます。
「バーチャル世界でゲームをすることと、料理をすることが好きです。受験の間は少しゲームから離れていましたが、高校では勉強も、学校でできる活動も、いろいろ経験してみたいと思っています」
少し迷ってから、続けました。
「慣れるまで時間がかかるかもしれませんが、よろしくお願いします」
頭を下げます。
拍手が聞こえました。
席へ戻ると、ようやく息を吐けました。
何人か後に、一人の女の子が立ち上がります。
赤みを帯びた長い髪。
前髪の横には青い髪留め。
姿勢がきれいで、声も明るくよく通りました。
「マリーシュトレンです!」
教室中の視線を受けても、堂々としています。
「少し前まで、家族と一緒にドイツで暮らしていました。日本で生まれたので日本語は普通に話せますが、日本の学校へ通うのは久しぶりです」
何人かが興味を持ったように顔を上げました。
「趣味はピアノと、お菓子を作ることです。家もお菓子屋なので、作りすぎた時は誰か食べてください!」
教室に小さな笑いが起こります。
「こちらにはまだ友達がほとんどいないので、たくさん話しかけてもらえると嬉しいです。普通の高校生活を、思いっきり楽しみたいと思っています。よろしくお願いします!」
大きな拍手が起きました。
マリーシュトレンさんは笑顔で席へ戻ります。
その途中、一瞬だけ目が合いました。
彼女は私の方を見て、少し笑ったように見えました。
髪の花飾りが気になったのでしょうか。
自己紹介が全員分終わると、担任の先生から午後について説明がありました。
今日は午前中で式典と新年度説明を終え、そのあとは自由時間。
部活動を見学してもいい。
校内を歩いてもいい。
クラスメイトと交流してもいい。
上級生のところへ行く場合は、新年度説明の邪魔にならないようにすること。
その言葉を聞いた瞬間、先輩たちの顔が浮かびました。
会いに行きたいです。
一年ぶりに、きちんと挨拶をしたいです。
けれど、二年生の教室へ一人で向かうのはかなり勇気がいります。
まだ説明中だったら。
新しいクラスの人と話していたら。
突然私が訪ねたら、困らせてしまうかもしれません。
自由時間になっても、私はすぐに席を立てませんでした。
DPo-Xで校内地図を開きます。
二年生エリアを表示する。
閉じる。
もう一度開く。
やはり閉じる。
「どうしましょう……」
周囲では、すでにいくつかのグループができ始めています。
同じ部活を見に行く約束をする人。
中学校からの知り合いと話す人。
一緒に校内を回ろうと誘い合う人。
考えていると、机の横から明るい声がしました。
「チョコチップちゃん、だよね?」
「は、はい」
顔を上げます。
立っていたのは、先ほど自己紹介をしていた女の子でした。
「急にごめんね。マリーシュトレンです」
「覚えています」
「本当? よかった!」
シュトレンさんは嬉しそうに笑いました。
近くで見ると、明るいだけではなく、どこか上品な雰囲気があります。
けれど、話し方には気取ったところがありません。
「自己紹介の時から、ずっと話してみたいって思ってたの」
「私と、ですか?」
「うん。その花、すごくかわいいし、お団子も似合ってるから」
私は無意識に花飾りへ触れました。
「ありがとうございます」
「それに、さっきからDPo-Xを開いたり閉じたりしてたでしょ?」
「見られていたんですね……」
恥ずかしくなり、今度こそDPo-Xを完全に閉じました。
「ごめん。嫌だった?」
「いえ、そうではありません」
「よかった」
シュトレンさんは隣の空いている席へ腰を下ろしました。
座る動作も自然なのに、とてもきれいです。
「私の名前、覚えててくれたんだね」
「マリーシュトレンさん、ですよね」
「そうそう。長いから、シュトレンでも、レンでもいいよ」
「では……シュトレンさんで」
「まだ『さん』はつけるんだ」
「いきなり外すのは、少し難しいです」
「じゃあ、そのうちね」
「そのうち……頑張ります」
「頑張ることなの?」
二人で少し笑いました。
「私、自己紹介ではあんな感じだったけど、実はけっこう不安だったんだ」
シュトレンさんが言いました。
「そうは見えませんでした」
「頑張って、そう見せてたからね」
彼女は少しだけ肩をすくめました。
「中学校も向こうだったから、こっちに知り合いが全然いなくて。初日から一人だったらどうしようって思ってたの」
「私も、教室には知っている人がいません」
「じゃあ、一緒だね」
明るくて、堂々としていて。
自分とはまったく違う人だと思っていました。
でも、彼女も同じように不安だった。
そう知ると、少しだけ距離が近づいたように感じます。
「それでね」
シュトレンさんは、こちらへ少し身を乗り出しました。
「よかったら、友達になってほしいな」
「……私でいいんですか?」
思わず聞き返してしまいました。
「チョコちゃんがいいの」
「チョコちゃん……」
「だめだった?」
「いえ。そう呼ばれることに、まだ慣れていなかったので」
FoFでは、エクレアさんたちから呼ばれることがあります。
でも、出会ったばかりのクラスメイトに呼ばれると、少し不思議です。
それでも、嫌ではありませんでした。
「私も、ぜひ友達になってください」
私は姿勢を正しました。
「よろしくお願いします、シュトレンさん」
「うん! よろしくね、チョコちゃん!」
彼女の笑顔を見ていると、私まで嬉しくなります。
高校へ入って最初にできた友達は、思っていたより早く、向こうから私を見つけてくれました。
シュトレンさんは、私の髪の花へもう一度目を向けます。
「その花、学校アバター用に作ったの?」
「いえ」
私はそっと触れました。
「大切な先輩から、現実でもらったものです。それを学校用アバターにも読み込みました」
「大切な先輩」
シュトレンさんの表情が、少しだけ楽しそうに変わります。
「その先輩、この学校にいるの?」
「はい。二年生です」
「じゃあ、会いに行きたい?」
あまりにも自然に聞かれ、すぐには答えられませんでした。
会いたいです。
ずっと待っていた人たちに。
それでも、二年生の教室へ向かう勇気が、まだ少しだけ足りません。
「……そうですね。でも」
迷っている私を見て、シュトレンさんは首を傾げました。
「チョコちゃん、このあと、どこか行きたいところある?」
机。
椅子。
黒板。
窓。
ただし、それぞれの机にはDPo-Xと連動する表示面があり、必要な資料をすぐに呼び出せます。
窓の外には、現実では考えられないほど広い学校フィールドが見えました。
遠くを走る生徒が、小さく見えます。
担任の先生から学校用アカウントや今後の予定について説明があり、そのあと簡単な自己紹介が始まりました。
一人ずつ立ち、名前と趣味、学校でやってみたいことを話します。
順番が近づくにつれ、少しずつ緊張してきました。
「次、チョコチップさん」
「はい」
私は立ち上がります。
教室中の視線が集まりました。
レイドボスに見られるよりも、こちらの方が緊張するかもしれません。
「チョコチップです」
声が小さくなりすぎないように気をつけます。
「バーチャル世界でゲームをすることと、料理をすることが好きです。受験の間は少しゲームから離れていましたが、高校では勉強も、学校でできる活動も、いろいろ経験してみたいと思っています」
少し迷ってから、続けました。
「慣れるまで時間がかかるかもしれませんが、よろしくお願いします」
頭を下げます。
拍手が聞こえました。
席へ戻ると、ようやく息を吐けました。
何人か後に、一人の女の子が立ち上がります。
赤みを帯びた長い髪。
前髪の横には青い髪留め。
姿勢がきれいで、声も明るくよく通りました。
「マリーシュトレンです!」
教室中の視線を受けても、堂々としています。
「少し前まで、家族と一緒にドイツで暮らしていました。日本で生まれたので日本語は普通に話せますが、日本の学校へ通うのは久しぶりです」
何人かが興味を持ったように顔を上げました。
「趣味はピアノと、お菓子を作ることです。家もお菓子屋なので、作りすぎた時は誰か食べてください!」
教室に小さな笑いが起こります。
「こちらにはまだ友達がほとんどいないので、たくさん話しかけてもらえると嬉しいです。普通の高校生活を、思いっきり楽しみたいと思っています。よろしくお願いします!」
大きな拍手が起きました。
マリーシュトレンさんは笑顔で席へ戻ります。
その途中、一瞬だけ目が合いました。
彼女は私の方を見て、少し笑ったように見えました。
髪の花飾りが気になったのでしょうか。
自己紹介が全員分終わると、担任の先生から午後について説明がありました。
今日は午前中で式典と新年度説明を終え、そのあとは自由時間。
部活動を見学してもいい。
校内を歩いてもいい。
クラスメイトと交流してもいい。
上級生のところへ行く場合は、新年度説明の邪魔にならないようにすること。
その言葉を聞いた瞬間、先輩たちの顔が浮かびました。
会いに行きたいです。
一年ぶりに、きちんと挨拶をしたいです。
けれど、二年生の教室へ一人で向かうのはかなり勇気がいります。
まだ説明中だったら。
新しいクラスの人と話していたら。
突然私が訪ねたら、困らせてしまうかもしれません。
自由時間になっても、私はすぐに席を立てませんでした。
DPo-Xで校内地図を開きます。
二年生エリアを表示する。
閉じる。
もう一度開く。
やはり閉じる。
「どうしましょう……」
周囲では、すでにいくつかのグループができ始めています。
同じ部活を見に行く約束をする人。
中学校からの知り合いと話す人。
一緒に校内を回ろうと誘い合う人。
考えていると、机の横から明るい声がしました。
「チョコチップちゃん、だよね?」
「は、はい」
顔を上げます。
立っていたのは、先ほど自己紹介をしていた女の子でした。
「急にごめんね。マリーシュトレンです」
「覚えています」
「本当? よかった!」
シュトレンさんは嬉しそうに笑いました。
近くで見ると、明るいだけではなく、どこか上品な雰囲気があります。
けれど、話し方には気取ったところがありません。
「自己紹介の時から、ずっと話してみたいって思ってたの」
「私と、ですか?」
「うん。その花、すごくかわいいし、お団子も似合ってるから」
私は無意識に花飾りへ触れました。
「ありがとうございます」
「それに、さっきからDPo-Xを開いたり閉じたりしてたでしょ?」
「見られていたんですね……」
恥ずかしくなり、今度こそDPo-Xを完全に閉じました。
「ごめん。嫌だった?」
「いえ、そうではありません」
「よかった」
シュトレンさんは隣の空いている席へ腰を下ろしました。
座る動作も自然なのに、とてもきれいです。
「私の名前、覚えててくれたんだね」
「マリーシュトレンさん、ですよね」
「そうそう。長いから、シュトレンでも、レンでもいいよ」
「では……シュトレンさんで」
「まだ『さん』はつけるんだ」
「いきなり外すのは、少し難しいです」
「じゃあ、そのうちね」
「そのうち……頑張ります」
「頑張ることなの?」
二人で少し笑いました。
「私、自己紹介ではあんな感じだったけど、実はけっこう不安だったんだ」
シュトレンさんが言いました。
「そうは見えませんでした」
「頑張って、そう見せてたからね」
彼女は少しだけ肩をすくめました。
「中学校も向こうだったから、こっちに知り合いが全然いなくて。初日から一人だったらどうしようって思ってたの」
「私も、教室には知っている人がいません」
「じゃあ、一緒だね」
明るくて、堂々としていて。
自分とはまったく違う人だと思っていました。
でも、彼女も同じように不安だった。
そう知ると、少しだけ距離が近づいたように感じます。
「それでね」
シュトレンさんは、こちらへ少し身を乗り出しました。
「よかったら、友達になってほしいな」
「……私でいいんですか?」
思わず聞き返してしまいました。
「チョコちゃんがいいの」
「チョコちゃん……」
「だめだった?」
「いえ。そう呼ばれることに、まだ慣れていなかったので」
FoFでは、エクレアさんたちから呼ばれることがあります。
でも、出会ったばかりのクラスメイトに呼ばれると、少し不思議です。
それでも、嫌ではありませんでした。
「私も、ぜひ友達になってください」
私は姿勢を正しました。
「よろしくお願いします、シュトレンさん」
「うん! よろしくね、チョコちゃん!」
彼女の笑顔を見ていると、私まで嬉しくなります。
高校へ入って最初にできた友達は、思っていたより早く、向こうから私を見つけてくれました。
シュトレンさんは、私の髪の花へもう一度目を向けます。
「その花、学校アバター用に作ったの?」
「いえ」
私はそっと触れました。
「大切な先輩から、現実でもらったものです。それを学校用アバターにも読み込みました」
「大切な先輩」
シュトレンさんの表情が、少しだけ楽しそうに変わります。
「その先輩、この学校にいるの?」
「はい。二年生です」
「じゃあ、会いに行きたい?」
あまりにも自然に聞かれ、すぐには答えられませんでした。
会いたいです。
ずっと待っていた人たちに。
それでも、二年生の教室へ向かう勇気が、まだ少しだけ足りません。
「……そうですね。でも」
迷っている私を見て、シュトレンさんは首を傾げました。
「チョコちゃん、このあと、どこか行きたいところある?」