エル・ファシルの奇跡とは宇宙歴788年8月16日に行われた帝国軍が迫る惑星エル・ファシルから民間人三百万人を脱出させた事件。

1 戦いの背景

 銀河帝国軍は対同盟侵攻の拠点イゼルローン要塞から小規模艦隊の侵入を繰り返すことで、同盟領の浸食を図っていた。
 宇宙歴788年8月、エル・ファシル星系警備隊司令官アーサー・リンチ宇宙軍少将は麾下の戦力一〇〇〇隻を率いて、侵攻してきた同数の帝国軍を迎撃した。戦闘は双方が同数程度の被害を被り、終結した。ところが、帝国軍は後退する同盟軍の背後を急襲した。パニックに陥ったリンチ少将は撤退命令も出さずに、惑星エル・ファシルに逃げ帰った。その結果、エル・ファシル星系警備部隊の戦力は四散し、リンチ少将の指揮下に残ったのは二〇〇隻しかなかった。一方、帝国軍はこれをエル・ファシル星系攻略の好機と判断し、戦力を三倍に増強して惑星エル・ファシルに迫った。
 目前に迫る帝国軍に怯えたエル・ファシル住民は、脱出と保護を警備部隊に願い出た。リンチ少将は民間人の脱出計画を幕僚の末席にいたヤン・ウェンリー宇宙軍中尉に一任する。

2 軍の指導者・指揮官


自由惑星同盟 戦後 同盟「エル・ファシルの逃亡者 戦後 銀河帝国       
ヤン・ウェンリー宇宙軍中尉
エリヤ・フィリップス宇宙軍一等兵
アーロン・ビューフォート宇宙軍少佐
生還
生還
生還
アーサー・リンチ宇宙軍少将

ケビン・パーカスト宇宙軍大尉
ヘッジズ宇宙軍軍曹
捕虜

捕虜
捕虜?
不明       

3 戦いの経過

 宇宙歴788年8月15日、リンチ少将は「エルゴン星系の第七方面軍に援軍を求めに行く」と称し、保護すべき民間人三百万人と指揮下の多数の将兵を放置して惑星エル・ファシルの脱出を試みた。
 同日、ヤン中尉は緊急会見において逃亡したリンチ少将一行を囮として脱出することを発表。エリヤ・フィリップス宇宙軍一等兵が「帝国軍よりも市民を見捨てることを恐れる兵士」として記者会見を開く。
 翌16日、ヤン中尉率いる脱出船団が惑星エル・ファシルを出発。

 リンチ少将一行は帝国軍に捕捉され、降伏する。ヤン中尉一行は脱出に成功し、第七方面軍所属の第七一星間巡視隊と接触。第七方面軍の保護下に入る。

 ヤン中尉一行、惑星シャンプールのジョード・ユヌス宇宙港に着陸。住民の大歓迎を受ける。(第3話)一方、ルチエ・ハッセルはじめ大多数のエル・ファシル避難民は「シャンプールには、三〇〇万人も受け入れるキャパが無い」と言われ、貨物船の船室に押し込められたままだった。(45話)

 同年9月18日、ヤン中尉一行は惑星ハイネセンに到着。


4 結果及びその影響

 エル・ファシル脱出作戦に参加した軍人四万人は手厚く報いられ、全員が一階級昇進した。特にヤン・ウェンリー中尉、エリヤ・フィリップス一等兵は事実上の二階級昇進と諸々の勲章で報いられた。のちに自由惑星同盟軍を代表するヤン少佐及びフィリップス兵長が雄飛する第一歩となる事件となった。その一方で、大多数のエル・ファシル避難民にとっては過酷な生活の始まりでもあった。また、アーサー・リンチ少将をはじめとする「エル・ファシルの逃亡者」は灼熱のバルス矯正区に収容され(93話)、劣悪な環境と過酷な労働により心身を痛めつけられた。更に後からやってきた者がリンチ一派の所業を広めたため、他の収容者から白い目で見られた。(98話)
 一方、銀河帝国はこの後も着実に占領地域を拡大させていき、自由惑星同盟の対帝国反攻作戦「自由の夜明け」を招くことになる。
最終更新:2019年04月03日 21:18