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カノッサの星

 

あたりが暗くなってきた。

ここからが早い。ちょっと銃の手入れをして視線を空に映すともう真っ暗だ。

とくにここ、カノッサの密林地帯だとろくにセレネも崇めない。

カノッサは、文字通りの闇となる。

 

だからこうして今日の野営の準備をしている。

湿った木の枝を踏む感触。

こんなジメジメしたところで燃やせるものといったら…お偉方が「新式」とか呼んでいるこの玩具くらいだろう。

 

巡航戦車ランツナウ。

よく燃える。

いいや、実際燃やしたことはないが、燃えてしまいそうなくらいにこいつのエンジンがじゃじゃ馬だ。見た目だけはいい。スラリとした車体に無駄を削ぎ落とした設計。こいつを作った奴は最速・最強の戦車作ろうとしたに違いない。もっとも、ここは戦場。ましてやこのカノッサ湿地帯なんかでは、こんなもの何の役にも立たない。

そんなことをブツブツとひとりごとにもならないような声で愚痴っていると、前のハッチから操縦士が身を乗り出してきた。

 

「テザワ隊長、薪木はみつかったのでありますかー?」

「いいやまだだ。ちゃんとついてこいよ、ゆっくりな」

「りょうかいでありますー」

そういうと操縦士は小動物のように車内へ消え、パコンとハッチが閉まる。まるで子供用のおもちゃだ。子供ならわかるが、あの歳になってもこんな玩具で騒いでいるようじゃ情けないものだよ。

 

………

 

……

 

 

視界がだいぶ狭くなってきた。

いつもならとっくに薪木は見つかっている頃だが、我々も日々移動しているのだ。その場所ごとのカノッサの地勢というものがあるのだろう。

我々メル=パゼル共和国陸軍では、機械を整備したり何かを組み立てたりといった座学はあっても、火の起こし方とか焚き火のいろはとかいうものについては全く触れられていない。連邦や帝国ではどうなのかはしらないが、おそらく今頃は奴らも薪木探しには相当苦労していることだろう。この時間帯は両軍ともに戦争を忘れて、せっせと薪木を探すというなんともおかしい平和な時間が流れる。

 

このまえ遭遇した連邦の連中は、薪木と食料も探していたな。

連邦語が少しわかる奴から聞いた話だったが、たしか揃いも揃って小隊まるごとがチヨコレッテとかいう毒物で腹を下して、腹を綺麗にするための果物を探していたのだという。

 

「隊長―。」

「なんだ?」

「これ燃えませんかね?」

 

こいつはそういいながら昨今のチヨコレッテを取り出した。対帝国戦用として…そして半ば興味本位でもらってきたものだ。

「貴重な戦略兵器だぞ」

「なんか臭いんですよ 臭い兵器は大抵ダメですよ」

 

なにをいっているんだこいつは。

だが、そうしている間に空の輪郭がわからなくなってきた。

もう、ワグワグの枯れ枝を探して切り倒す時間はない。

 

「ようし、しかたない、燃やしてしまおう。」

ランツナウからチヨコレッテを積み下ろし。適当な山を作った。

よくよく思えばたった4人の戦車小隊にこれだけの量のチヨコレッテが支給されているとは信じがたい。これも連邦の国力なのだろうか。

 

「よしラジン、火を付けろ。」

「りょーかいであります!」

砲手のラジンがランカー(電気火花ライター)についた紐を片手で思い切り引く。

パチッ パチッ!!

伝電コイルから放たれた火花がチヨコレッテに振れると、爆発的に燃え出した。

 

「うわぁ」

「連邦ってすげーな」

「パゼル火薬の数倍の瞬間燃焼性ですね。」

「そんなこと言っとらんで、さっさと飯の支度をせんか」

「りょーかい!」

 

真っ暗な森のなかで火をたくのはもちろん最初は戸惑った。

長い夜を狭い車内で仲間と身を寄せて寝たこともあった。だが、それも最初の4日だ。人間は車内で寝るように作られてはいない。肩や腰が悲鳴を上げる。

結局、カノッサに退治する両軍の兵士は皆その結論に行き着いたようで、いまでは夜になると山にポツポツと日の明かりがぼんやり見えるのが楽しい。

 

敵なのか味方なのかわかるはずはない。

誤射は怖いし、やっぱりみんな、僅かな時間だけでも平和になれるこのひとときを邪魔されたくなかったのだ。

今日もまた、カノッサの森に一番星が輝いた。

 

超新星級の明るさだった。

最終更新:2015年12月17日 01:22