フォウ王国軍空挺突撃兵

 パルエの青空を、二つの月のセレネとメオミーの足下をフォウ王国ラヴィン工廠で建造された強襲揚陸機ファーンが飛行している。飛行可能時間の三時間の半分を過ぎようとしているファーンの操縦士は機体後方に搭乗している完全武装の王国軍空挺突撃兵中隊八十名に伝声管でアナウンスした。
「あー、紳士淑女諸君にお知らせします。これより当機は偵察機より情報を得たワリウネクル諸島連合軍海軍駆逐艦カンナカムイに対し強襲を敢
行するため高度を下げます。降下準備を開始してください」  その命令を聞いた中隊長のクレナイ大尉は立ち上がり部下達に向き直った。
「さあ、ようやくの出陣だ。我々の初陣だ。この日のために訓練してきた。この日のために神経をすり減らしてきた。国土が不毛な王国国民の為に命を捧げる時が来た。諸君傾注!」  
 隊員が直立した。彼等の眼差しは一切の甘えや妥協を捨て去っている。
「我々は何だ?」
クレナイ大尉が隊員を見回す。
「「我々は王国軍だ!」」 「我々は何のために存在するのか?」 「「同胞達の為だ!」」 「よろしい!国王陛下へ敬礼!」
一糸乱れぬ動きで彼等の右腕は軍人特有の角度へと動いた。だが、空挺突撃兵が装備する落下傘の影響が有り腕が上がらない。それもそのはず彼等は落下傘が収納された落下傘袋を背負っているのだ。そして彼等は鉄帽とゴーグルを装着した。更に両腰の回転式拳銃が降下中に脱落しないように留め具を再確認した。
「目下に敵艦を視認。敵は単独行動の模様。水上機もインターセプトに上がってきていないぞ。扉を展開する」  
 ゴウンゴウンと機械音を発てて機体横面の扉が開いていく。その扉は下に開くため降下時の助走にも用いられている。水上機が迎撃に上がってこないのはフォウ王国沿岸北部でフォウ王国軍主力がワリウネクル諸島連合国主力と決戦を行おうとして戦力集中を行い、それに呼応して諸島連合も戦力を集めているからだ。おそらく駆逐艦カンナカムイは沿岸北部に向かっているのだろう。
「五分刻みで降下する。第一小隊降下開始!」
 クレナイ大尉が手を振り下ろすのと共に下した命令を起点として第一小隊二十名は降下していく。指揮官先頭を信条とするクレナイ大尉も降下していく。パルエの重力に引かれ彼等の肉体は加速し、凄まじい速度を得る。眼前の駆逐艦カンナカムイの全貌はぐんぐんと大きくなっていく。高度五百米で胸の前の開放索を引っ張った。すると背中の落下傘が開放され、青空に二十の白い華が咲き乱れた。それに気づいたのか、カンナカムイの対空砲火が火を吹く。三連装が二挺、二連装が四挺の対空機銃は濃密とはいかないまでも、そこそこの防御力を発揮している。カンナカムイの対艦重砲は砲撃を開始していない。雲の上のファーンを視認できていないからだ。だが、相手は飛行機械でも空中艦でもなく二十人の人間なのだ。目標が小さすぎる。ワリウネクル諸島連合軍の兵士達も上手く命中させることができない。そしてある時を境に、対空機銃の射撃は彼等を狙えなくなった。角度限界だった。対空機銃座は船体内側に回転させることができない。すると空挺突撃兵にとってカンナカムイの長い船体は絶好の着陸地点になった。いや、この場合は着艦地点だろう。
「これより強襲を敢行する!」  
クレナイ大尉は落下傘袋を脱ぎ捨て対空機銃座へと走り出す。そして其処に居る連合兵を拳銃で撃ち殺した。無事に着艦できたのは十人。残りは海に不時着してしまった。
「中尉!部隊を二分する!貴様の部隊は水上機を破壊しに征け!残りは俺と共に機銃座の無力化及び艦橋へと攻撃する!」
「了解!」  
中尉の返事と共に隊員は駆け出す。艦橋内部へと続く扉は硬く閉ざされている。連合兵が鍵をかけていた。大尉達は粘着爆弾を扉しかけ爆破した。爆発は耳をつんざくような爆音を発て、厚い扉を空中高く放り投げた。
「手投げ弾投げ入れろ!」  
 兵達は手投げ弾のピンを引き抜き艦橋内部へと投げ込んだ。その爆発と同時に第二小隊が降下を成功させ、中尉も水上機を破壊した。 「突入!」  扉の周辺を防衛していた連合兵は既に肉塊へと姿を変えている。だが、少しでも曲がり角があると其処で銃火に歓迎される。手投げ弾を投げ込み鎮圧していく。それを繰り返しながら空挺突撃兵達は船内へと進撃していく。最終的に突入に成功したのは三十八名だった。
「第一小隊は艦橋上部へと侵攻する。他の部隊は船内の鎮圧を行え」  
大尉は銃撃戦の最中、隊員達に命令した。それをすぐさま実行に移せるのは流石王国軍と言える。大尉達の第一小隊は艦橋上部の操舵室へと到達した。その扉は鍵がかかっておらず 容易く室内へと入ることが出来た。そこでは抵抗もなく数人の男達が立っていた。
「こんな方法で乗り込んで来るとはな。まったく脱帽だよ」  そう言って室内の最高位の人物と思える男、艦長は拍手した。
「此方は降伏を受け入れる準備がある」  
クレナイ大尉のその言葉に艦長は眉を動かせた。
「攻撃の中止、そして部下達への人道的な扱いは確約して貰えるね?」
「それは勿論、王国の名に懸けて」
「了解した」  
 艦長は伝声管で館内に放送した。 『コレヨリ本艦ハ降伏スル。全員抵抗ヲ停止セヨ』  この放送によって空挺突撃兵の初陣は終結した。ワリウネクル諸島連合国の駆逐艦カンナカムイを鹵獲するという大戦果を手に入れた。損害は王国側三名。連合国側の損害は二十名だった。この戦果によって王国は初の海軍を手に入れた。この艦の名前はフェルナと改名され王国の対諸島連合国戦を有利に進めていった。
これが空挺突撃兵の初陣の顛末である。

最終更新:2016年01月14日 19:17