時と場所によって戦術は変わっていきます。
開けた平原、密林のど真ん中、どちらにもそれぞれのドクトリンがあるというものです。
このページでは、時代を追って各国の軍事ドクトリンを解説していきます。
これはミリタリー好きの層のためのコンテンツですので、「公式設定だよ」とは言いません。
読んで楽しんだり、自分で新たなドクトリンを考えて投稿してみたり、小説の元ネタにしたりと自由に使ってください。
惑星パルエの長ったらしい南北戦争は、文字通り世界中の国々が巻き込まれているとはいえ、どうしても連邦と帝国の戦いが目立ちます。
無理も無い話で、この戦争に費やされるエネルギーの70%強はこの2カ国で費やされているといっても過言ではないのです。
この章では、160年間の南北戦争におけるこの2カ国の戦い方の変化を中心に解説していきます。
南北接触当初から、帝国は空中艦隊を率いています。
とはいっても所詮それは空飛ぶ騎兵の集まりと言ってもいいほど、適当なものでした。
厳格な行動規範や戦術理論もなく、兵站管理といった"科学的な手法"を取り入れた戦い方とは無縁でした。
古代から中世の槍兵に大砲を積んだ空中艦を操作させているようなものだったのです。
そういう意味では北半球国家も空中艦を持っていないだけで、同じような状況でした。
この無秩序な状態の中、最初の本格的な「ドクトリン」が組まれた戦いが勃発します。
カルラ市上空戦 507年1月
交戦勢力 | |
![]() クランダルト帝国軍 |
![]() アーキル連邦軍 |
戦力 | |
第3艦隊 空中装甲戦列艦1隻 空中装甲巡空艦2隻 空中駆逐艦10隻 戦闘機20機 |
連邦軍空中艦隊 気球型空中戦艦1隻 気球型空中駆逐艦5隻 気球型快速強襲艦12隻 気球型戦闘機12機 |
帝国による一方的な攻撃に打ちのめされた北半球諸国が最初におこした大規模な攻勢です。
連邦は2年間で作り上げた急造兵力で帝国と対等に戦う必要がありました。
冷静に考えても無謀でした。連邦は以下の問題を抱えていました。
・やっとこぎ着けた「空中艦」は可燃性ガスの浮袋に弾薬を括りつけたような代物であった。
・絶対数も生産能力も、人的資源も劣っている。
・機動力に欠け、位置取りを間違えればただの的すでに的である
他にもいろいろありますが、一言で言えば、何もかもが帝国軍に対して劣っていたのです。
それぞれの陣営の兵器を見れば、技術力の差がわかるはずです。
ここで連邦がなんとか戦闘を有利にすすめるべく打ち出した作戦が、パルエ最初のドクトリンとなります。
それは…
「帝国艦隊の編成・行動パターンの弱点を突き、統制のとれた集中射撃でできるだけ確実に敵を沈める」といったもの。
帝国の弱点は、自分以外に対等の敵がいないが故に、対等の者同士、特に空中艦隊戦の対策が全くなされていないことでした。
格下相手に力任せに突っ込めば楽に倒せたので、戦術論や戦略論が発達しなかったのです。
一方、連邦は気球艦をせっせと研究・建造している間に、安々と破れないために帝国の艦隊の行動パターン、艦種、脅威などの情報を彼らなりの知識でリサーチしていました。
ちょっと前まで刀で戦をしたいた人たちなので、「速力がどう、装甲がどう」といった科学的な分析は出来なかったにせよ、情報を艦の乗組員全員にに叩き込み、簡単な図上演習までして下準備に励みました。
この時点で連邦と帝国の潜在的な戦力は連邦が圧倒しました。
その結果…
帝国軍は初めて見る自分以外の「空中艦隊の出現」にパニックに陥り、対艦戦闘の訓練もせず、そもそも知識すらない帝国軍は用意周到な下準備をした連邦軍相手に劣勢に追い込まれます。
もちろん空飛ぶ爆発要員の連邦軍も侵害をだしましたが、帝国軍はそれ以上の損害を出してしまいました。
この戦いで、連邦は急造技術と戦術計画の応用をもって帝国に対抗することができると学び、
帝国も連邦の潜在的な脅威に危機感を覚え、双方ともに様々なドクトリンを考案していくことになるのでした。
まえがき終わり。
帝国をカルラ市上空で撃破した連邦は自身の対帝国ドクトリンの有効性を認識し、それをアーキル軍の正式戦法として採用しました。
次の新しいドクトリンが生まれてくるまでの間、これ以後のアーキル軍艦艇はこの対帝国ドクトリンをベースとしたものが生産されます。
戦闘ドクトリン自体は10年ほどの間は大きく変わりませんでしたが、最初は1艦隊しか持っていなかった連邦も複数の部隊を持つようになると、「戦術」のほかに「戦略」を持つようになります。
"どんな口説き文句であの子を落とすか"が戦術ならば、戦略は"どのようにしてあの子と知り合うか"といった一歩引いた大きな視点です。
複数の艦隊をどのように配置し、艦の配分はどうするか。地区ごとにどのような連携をとるか。
その点帝国は大いに先行していました。連邦は強大な敵を相手に工夫を凝らします。
ここで生まれたのが、アーキル連邦解体まで引き継がれる有名な「万能艦コンセプト」です。
早い話が、「安くて大量に作れて、どんな敵にも対処ができる、コストの割に強力な万能艦・飛行機を作る」といったもの。要するに無難の塊で身を固めれば無難に敵をやり過ごせるということです。
厳密にはいろいろな艦種が考案されては途中で途絶えるカオティックな印象のほうが強いですが、その根源には確固たる万能艦万能論(?)が存在していました。
対する帝国ですが、艦の装備や運用法はあまり変わりませんでした。
この時の帝国はすでに多種多様な艦艇と戦力を揃えていたので、対艦戦闘の訓練をするだけで実際連邦をあらゆる面で圧倒することができるようになっています。
もう、連邦は何も知らない帝国を奇襲して大戦果をあげるというカルラ市上空戦を再び再現することはできないのです。
お互いに何かに特化した戦法を開発しようにも、そのための知識や資源、人材はありませんでした。
というわけで、当時の連邦と帝国はこの時期ほとんど同じようなドクトリンを持っていました。
とりあえず会敵し、自軍の被害を最小限に抑えつつ敵を撃破するといった、お互いに何の変哲もない、普通の戦い方でした。
しかし、戦闘が開始されてからある程度の年月がたつと、双方ともに図らずとも「自軍の傾向」が現れてきます。
火力で圧倒する帝国と射程で圧倒する連邦という構図です。
一度この傾向が現れると、両者はそれを有効活用しようとさらに彫り込みます。
ここに新しいドクトリンが両軍の間に生まれました。
戦闘は単なる戦いから、互いに有利な地形や時間を選ぶようになり
両軍は互いのドクトリンの弱点を突こうと様々な戦法や兵装を考案します
そのような事実があっても、やはりこのドクトリンは大きく変わりませんでした。
次にドクトリンが大きく変わるのは、連邦が太古の遺物「浮遊機関」を実用化した時期になります。