パルエは丸い。最初にそういった人物は誰だったか。
昔ならば誰も信じることのない笑い話になっていたことだろうが、これから迎えようとしている時代ではきっと違った笑い話になるだろう。
拡大期と後に言われるであろうこの時代、神秘に満ち溢れる世界に人類が挑戦していくことが当たり前になりつつあった。
深い地下に潜り込み、新しい機械が発明され、星々に憧れを抱いた。パルエが丸いのではという疑問も、人々の探求心をくすぐるスパイスとなった。
日々の疑問が、一日ごとに解消されていくような気さえした。
極寒の国、フォウ王国のさらに北、全てが凍り付く地の向こうには何があるのか。今日はそんな疑問が解消されるかもしれない計画が発動する日だ。
この計画は極地における実地試験や共同開発機の実験稼働等も含まれた、大規模な人類の挑戦であった。
往復二年の旅路、決死隊ともいえる調査隊には厳しい試験を乗り越えた15名が指名されることになった。
人員は王国が中心となる混成部隊。使用される車両や機械は技術大国である統一パンノニアやメルパゼル、王国や諸島のスペシャリストが主導となって制作され、必要な物資は連邦が用意した。
今回の作戦は、パルエ史上初めての国際的協力の元に行われることとなる。色々と混乱もあったが、準備は無事に終了し、旅立ちを待つばかりとなった。
この日記を付けている私、ガリア・フラッグはその決死隊の一員となったものである。
これから、この日記が調査隊の生活の様子を綴るためのものになるだろう。現在、外では最後の積み荷点検と機械整備が行われている。
出発まであと七時間を残すばかりとなったが、新たな世界への好奇心と恐怖、不安がないまぜになった心境が体の中で渦巻いていて落ち着かない。
どうか無事に極地の向こうへとたどり着き、故郷へと帰れることを祈りつつ、出発の時間まで軽く眠ることにする――――――
結局、あれからずっと眠ることができなかった。
十分に休養と健康管理をしているために不調は何もないが、心に溜まった不安が取り除かれることはなかった。
残っていた私物を押し込んだ極地用携帯バッグを取り、少し寂しくなった自室を見渡してから、純白の世界へと踏み出した。
数週間とはいえ、慣れた住処を後にするのは少し心に来るものがある。
今は風が収まっているようだ。空も晴れ、多少ながら温かさを感じる。この季節には珍しい。
大抵ずっと空は雲に閉ざされ、風も唸りを上げて通り過ぎてゆくはずなのだが。パルエも我々の門出を祝福してくれているのだろうか。
数分ほど歩くと、基地の中に異様な影が見えてくる。その姿は戦車と言うのは大きすぎ、建物と言うには機能的な佇まいだ。
二年と言う長い時をあの中で過ごすのだと思うと、さっきまで感じていた寂しさが少し紛れた。
グラン・パルエズ。『偉大なパルエ人達』なんて大袈裟な名前を付けられたこの車両は、ついさっき点検が終了したばかりの最新鋭の探査車両だ。
元々の設計は超重戦車らしいのだが、それが新たな世界への箱舟として製造されたことに、平和になったものだなと感じる。
三階建ての建物ほどの大きさがある箱舟を見上げながら、車両の入り口、車両後部のガレージへと歩いていくと、途中で声をかけられた。
その方向を見ると、子供が一人、こちらに走ってくるのが見えた。彼の後ろには人だかりがあった。どうやら私たちの出発を一目見ようとこんな場所にやってきた人たちのようだ。
「あのっ、ガ、ガリアさんですよねっ!」
走り寄ってきた少女が白い息を吐きだしながら、嬉しそうに話してくる。
「ああ、そうだけど」
「その、えっと、が、頑張ってきてくださいっ!」
そう言って何かを私に差し出してきた。クルカの見た目をしたぬいぐるみ、見た感じだと彼女の手作りのようだ。
一生懸命作ったのだろう。少し形が崩れているものの、少女の気持ちがしっかりと感じられる。
「ありがとう、ずっと大切にするよ」
少女の目線と同じ高さになるようにしゃがみ、お返しに頭を撫でると、少女の顔が少し赤くなった。
手を振りながら人だかりに戻ってゆく少女を見送ってから、貰ったぬいぐるみをしっかりと抱えてグラン・パルエズへと再び歩き出した。
さっきまで気が付かなかったが、周囲には結構な人数が来ているのが分かる。少なくても百人は超えているだろう。彼らの視線を感じながら、開かれたガレージの中へと入り込む。
中に入ると、外の音が遠くなり、静寂と微かなエンジン音が私を包んだ。足を前に動かし、車両の真ん中にある広間へと進んでいく。金属の床がコツコツと音を立てる。
二つドアをくぐると、天井が一気に高くなった。吹き抜けの広間、隊員たちの憩いの間になる場所だ。
誰も居ないのを見ると、どうやら私が一番乗りらしい。肩にかけていた荷物を足元に、ぬいぐるみを机の上に置いて、取り付けられている椅子の一つにへたり込む。
出発まであと30分。エンジンが稼働し、社内が温まりつつある。心地の良い振動に少しの間身を任せることにした。
一番乗りだった私の次に乗り込んできたのは、メルパゼルの技術者である二人の兄弟だった。
三ヵ月前に初めて会った時には身長以外見分けのつかないほどの瓜二つの兄弟であることに驚いたが、性格が真逆なこともあってその点では心配することはなかった。
似ているのは見た目だけだ。
「やぁガリア君。とうとう出発ですね」
先に話しかけてきたのは兄のテルーキ・マッダだ。初めて会ってからずっと変化することが無かった自慢げな表情で私を見下ろしている。
かなり積極的な性格で、興味のあることにはなりふり構わず突っ込んでいくためにかなり手間をかけさせられることがあった。クルカが化けてるんだなんて冗談も出されるほどだ。
しかし、流石はメルパゼル人といったところで、機械や研究のことに関しては弟と二人そろって隊員の中から頭1つ分飛び抜けていた。見知らぬ機械でも三分あればメカニズムを理解できるとよく自慢している。
「……どうも。き、緊張しますね……」
そんな彼の隣にいる、小さい声で話す男性が弟のテラコ・マッダだ。慎重さが取り柄の頼れる技術者である。
機械の修理に関しては兄よりも早く、機械関連のトラブルが起きたらテラコに頼めばいいと隊員の皆が思っている。
兄よりも秀でる弟と言うのも存在するのだなと思ったのは彼と出会ってからだ。
「ああ、とうとう出発の時だ。何があるか楽しみだね」
そう二人に話す。平気そうに振舞っているものの、実際は不安に押しつぶされそうである。楽しみであると言うのは嘘ではない。
「私としては、極地におけるメルパゼル製の温度計測器がどこまで計測できるかという耐久実験と極地内での旧文明の発見を心待ちにしているところです。
知ってます? この車に搭載されている観測機器のほとんどがメルパゼルのとある高名な技術者の……」
「兄さん、そのぐらいにして。その話を始めると丸一日が過ぎてしまうよ。それに僕たちがやらないといけない仕事がまだ残ってるでしょ」
「おっと、そうだったね。では、この話はまた今度に」
「ああ、そうしてくれ」
テルーキがいつもの長話を始める前にテラコが遮ってくれたことに感謝の目を向けると、ご迷惑お掛けしましたと言いたげな顔を兄に見られないように向けてきた。
兄をコントロールするというのも大変そうだ。
彼らはやっぱり二人でひとつなのだろう、そう思えるほど足並みを揃えて居住区の奥へと姿を消すのを見送ると、部屋にエンジンの音だけが響くようになった。
数分が経過し、そろそろ荷物を自分の部屋に置きに行こうとしたとき、何人かの足音が近づいてくるのが聞こえた。誰かが喧嘩をしているのもなんとなく分かった。
真っ先に二人の人物が思い浮かび、そしてその人物らがドアを蹴飛ばすように開いて入ってきた。
後ろにもう一人いて、どうにか二人の喧嘩を止めようと必死になっている。
「……だといっとるだろが! ええ加減にするだ!」
「なんやと!? 喧嘩売ってんのかワレェ!」
「まぁまぁ二人とも、とりあえず落ち着こうか?そんなに熱くなることじゃ」
「「うるせぇ!!」」
今回のチームの中で二人が仲良くしているところを見たことがない。
オデッタ出身のダモス・アラッカと二ヂリスカ出身のニーワ・ダンキ―はいつもお互いを罵倒しあい、その間に誰かが入っていないとすぐさま殴り合いの大喧嘩を始めてしまうのだ。
そしてその二人の間の生贄となっているのは遠くネネツから来たパルシャキー・ダリ―ダだ。
耐寒訓練顧問としてネネツから来た彼は、今はその訓練相手をなだめることで精いっぱいのようだ。
「また言い合ってるのかい? そろそろ和解できないものかねぇ?」
「はぁ、現状を見る限り、無理そうですね」
言い争っていた二人がお互いに背を向けて一時休戦状態になったころを見計らい、一息ついているパルシャキ―に話しかけた。
思い返してみれば、二人の間にいる人物は大体彼だった。かなりの世話好きで、チームの雰囲気の向上のためと言ってコック長にも志願している。
誰とでも打ち解けられる彼にとって、仲裁は特技と言ってもいいだろう。
「しかし、あれを見る限り、本当に相手が憎くて喧嘩してるようには見えないんだけどね。喧嘩相手の近くにずっといたいとは思えない」
「もともと隣り合った国同士ですし、そのせいじゃないですかね?」
「お互い憎いけど、隣にいないと変な感じ。そんなところか」
「でしょうね」
そんなことを話していると、その二人が同時に立ち上がり、お互いを押しのけようとしながら奥へ向かっていった。
わざわざ相手を邪魔しあいながら同じ方向に向かうその後ろ姿だけを見れば、少しばかり仲睦まじく見えてしまうことに気づき笑みをこぼす。
ふと横を見れば、一緒に話していたパルシャキ―も笑っていた。もし誰かが見ていたら、私たちが子供の喧嘩を見守る親のようになっていたと話の種にしていたかもしれない。
今ここに私と彼しかいないことが幸いだった。パルシャキ―は食材のリスト確認のために今いる居住区の隣にある厨房へと向かっていき、また私は一人となった。
ここに来た時と比べ、随分と暖かくなった。暖房システムもしっかり働いているようだ。
「部屋に荷物を置きに行くか」
誰に言うでもなく独り言を漏らし、ゆっくりと立ち上がる。
私の部屋は探査車の最上階。この中で一番のスウィートルームだ。急な階段を登り切り、すこし息を切らしながら部屋のドアへ手をかける。
―――私の名誉のために、ここから部屋に入るまで、誰の気配もすることがなかったことを先に言っておく―――。
私は狭い部屋へと入り、荷物をベットの上に放り投げた。大きな荷物はすでに部屋へと運び込まれているため、出発までその整理をしようと思っていた。
一人用の机に壁に取り付けられたベッド、そして大して物を入れられない収納庫。残された狭い空間には、人が2人と入れない。
そんな部屋の中に置かれた荷物の入った折り畳み式の箱は、この部屋を更に圧迫していた。
恐怖が私の背後にやってきたのは、クルカのぬいぐるみを机の上に置き、私が箱を開けようと屈んだその時だった。
その箱を開いた瞬間、急に視界が暗くなったのだ。
両眼を塞ぐひんやりとしたそれは、私の心臓を凍り付かせるには十分すぎるものだった。
後ろにいるであろう存在に向けて咄嗟に腕を振り回すも、背中を通り過ぎ壁にぶつかった。
私の背後にいた存在は、ドアへもたれかかり、感情が読み取れない深い色の瞳をこちらに向けていた。
こんなことが出来るのは彼女以外に居ないというのは二か月半前に覚えたことだ。分かっていてもこの恐怖心だけは克服できずにいる。
「……頼むから驚かせることはやめてくれ。たとえ私をからかうにしてももう少し心臓に優しいものをだな……」
痛む拳をさすりながらそう愚痴ると、彼女は少しだけ笑った。
ピエニ・ヴァルフェ。
皇国から志願してきた彼女は、ユパの候補の一人だったという噂もある。
本人は否定しているが、彼女から感じる独特な雰囲気と深みのある声、そして吸い込まれそうな瞳にはその噂が立つ理由が感じ取られる。
ミステリアスな美人といえる彼女だが、チームの中で彼女に敵うものはいないと断言できる。現に、私は彼女が部屋に入ってきたことを感じ取るとこができなかった。
もしここが戦場だったならば、私は既に生きていないだろう。
何故なら、彼女は皇国人だからだ。
「それにしても、どうやって中に入ったんだ?部屋の中には隠れる隙間なんてないし、居住区にも君はいなかっただろう」
「……ダクト」
その言葉に上を見てみる。
すると、確かにダクトの金網部分が外れ、通気口の中に置かれているのが見えた。
が、あの通気口の中は人一人が入る隙間すらなかったはずだ。それに、あの中を通ってきたというのに彼女の衣服には一つも汚れた個所などない。
整備したてとはいえ、あの中は完全に掃除できたわけではない。
皇国生まれはすごい。改めてそう思った。
「それで?私に何か用でもあるのか?」
取りあえず聞いてはみたが、やはり少し笑うだけだった。
彼女とはどうも話しづらい。彼女は口数が少ないし(そもそも彼女が話せる言葉自体が少ないのも原因だろう)、私も饒舌なほうではない。
狭い部屋に少しばかり微妙な空気が淀み始めたので、私は勇気を少しばかり振り絞る。
「なあ、外に出たいんだが」
そう言うと、瞬きする間に彼女がいなくなった。頭の上で小さな金属音が聞こえる。
見上げた時には、ダクトの蓋がきっちりはめ込まれていた。本当に皇国人は人の枠を超えている。部屋の整理もせず、半分呆然としながら部屋を出た。
居住区の広間戻ると、さっきまでより少し騒がしくなっていた。
下を覗き込むと、全員が集合しているのが見えた。
階段を下りながら壁にかかる時計に目をやると、出発7分前だということを知らせていた。いつの間にこんな時間が経過してたのだろうか。
焦りながら階段を駆け下りると、集団の中から声が上がってきた。
「隊長、一体何をしていたんですか。時間ギリギリですよ」
その声の主が前へと出てくる。
短くまとめられた黒髪に、厳格そうな顔つき。
私と同じフォウ王国の兵士であり、調査隊副隊長を任されたトゥリ・ウラーハは私の元へつかつかと歩み寄り、私を見上げる位置までくる。
彼女は隊員の中で一二を争えるほど小さい。子供とまではいかないが、私の胸にやっとというほどしか身長が無い。
「すまない。荷物の整理に手間取ってしまってな」
そう言って彼女の頭に手を置く。彼女は不服そうな顔をして手を払いのけるが、それに対して何か言い返すことはしなかった。
彼女が無言で無線機を渡してきた。どういうことか尋ねると、これからする演説を外にいる人々にも聞いてもらおうと急遽決められたらしい。
なんでも、予想以上に人が来たので、これぐらいサービスしてやってくれということのようだ。一気にプレッシャーがかかってくる。
彼女から無線機を受け取り、彼女の隣に立ち、一つの咳払いをする。これから約二年間、命を預けあう仲になる。息を整えつつ時間を稼ぎ、時間を取らない話に纏め上げる。
無線機のスイッチを入れる。
「これから、我々は未知の世界へ向かい出発する」
その言葉に空間が静まり返る。それぞれが強い個性を持つ隊員たちだが、その全員が精鋭揃いだということを改めて実感する。
さっきまで談笑していた時と同じ人物とは思えない、強い意志が込められた眼差しがこちらに向けられている。
―――例外として、少しばかりお互いを睨むように目がずれている二人を除いて、だが―――。
「我々の前には、これまでにない困難が伴うだろう。それこそ、予測もしないことが起きる可能性も大いにある。
しかし、いやだからこそ、我々は挑戦し、その先にあるものへ向かって足を進めるのである。
我々の歩む小さな一歩は、パルエにおけるすべての人々の大きな一歩となる。そのことを誇りに思い、今、その最初の足跡をここに残してゆこうではないか!」
外で起こっただろう歓声が、微かに広間の中にも届いた。どうやらうまくいったようだ。
我ながらよく纏められたと思う言葉は、隊員達に何かしらの思いを抱かせたようだ。あるものは私の言葉に答えるように返事を返し、またあるものは拳を上げた。
彼らが抱いた思いが何であれ、先へ進むための原動力になることには違いない。
もう一度時計を見る。出発予定時刻まであと2分。どうにか間に合ったと胸を撫で下ろしつつ、さっきよりも大きな声で、作戦最初の支持を出す。
「これより、『アイレグレアの訪問者作戦』を開始する!各員、配置に着け!」
その瞬間、一気に隊員たちが動き出す。
この車両の運転手である幼馴染のフォウ王国兵士ときっちりとした顔のパンノニア技術官は誰よりも早く操縦室へと走り出し、
観測手のマリアナは階段を使わずに屋上へ駆け上がり、
ダモスとニーワはいつも通りぶつかり合いながらもいつもの倍近い速さで銃座へと向かい、
共和国出身の兄弟はさっきのように研究室へ足並みを揃えて入っていった。
数秒の喧騒の後、今のところ役割のないパルシャキ―とパンドーラ隊出身のアーキル人二人、隊の中でも飛び切り小柄なパンノニア人の技術官が私と副隊長と共に居住区に残された。
料理兼極地訓練担当のパルシャキ―と私、副隊長を除いた彼らは戦闘のプロフェッショナルと極地実験担当技術者ゆえに今のところやることがない。
早く指揮所へと向かおうとする副隊長を制止させつつ、残った隊員に声をかけることにした。
「君たちの出番は五時間後だ。その三十分前にはガレージへ集合しておくようにってうおぁあ!」
我慢の限界が来たのか、トゥリが私の右手を容赦ない力で握りしめ、引きずるように引っ張り始めた。
まだ一言しか言ってないのに随分と短気なことだ。彼女の少ない短所である。
「おいそんなに引っ張るな! 分かった! 分かったから放してくれあたたたた! 痛い! 痛いぞトゥリぃ!」
「早くしてください! 一秒でも遅れたらどうするんですか!」
「分かったから! 頼むから放して! 急ぐか……あっ」
その時、無線機のスイッチが入ったままなのに気が付いた。恐らくこのやり取りもしっかりと外に聞こえているだろう。せっかく決めたというのに台無しである。
トゥリに引っ張られ遠ざかる私を、彼らは爽やかな笑顔で見送ってくれた。私のプライドはともかく、士気に悪影響はなさそうだ。
それから数十秒後、私とトゥリは指揮室へ到着した。
運転室と直結したここは、この車両の全ての情報が届く場所だ。
主に私は車両の進行方向、遠距離通信の確認、全体的な指示。トゥリは各区域の状態管理、収集した情報の管理、偵察隊からの報告管理、各区域への通達と分担して指揮にあたる。
引っ張られてまだ痛む右手をさすりながら、私は目の前に広がる景色を睨んだ。今は晴れ、遠くまで見渡せるが、地平線の先まで白い大地が続いている。
この先は前人未踏の地。何があろうと、我々は止まるわけにはいかない。私の心は、緊張と高揚で疼いていた。少しの羞恥心も含まれているのが些か不服だ。
「作戦開始まで、3…2………開始、全速前進!」
響く言葉に呼応するように、車両が前へと動き出す。人類の新たな挑戦が始まった瞬間だ。外で花火が上がるのが見えた。
出来るなら、もう少し良い印象を持たせたまま出発したかったが、これから起きることにすれば些細なことだ。
隊員たちにからかわれることを覚悟しつつ、動き出した景色を眺め続けていた。
パルエは丸い。その裏側に何があるか、最初に知るのは私たちだ。