この文書はマルダル沖の戦いの後、宣伝局によって一定期間行われたプロパガンダラジオ放送の文字的記録である。
ニュース番組の一部に入れられたプロパガンダ放送である。
以下 ニュースの音声と説明
ラジオパーソナリティー
「マルダルの一件で我々は軍民問わず、ワリウネクル諸島連合を一人残らず掃討する敵撃滅の歓声が大きく響いています。マルダル方面トーチカ連隊長ケリューキィ・ウラノフ中佐はこう語ってくれました」
ウラノフ中佐
「国王陛下!命令だけ下してくれ!アグラーダ・ワリネジア!〔魚人共を押し倒せ!〕グリャー!〔突撃ッー!〕」
周囲の兵士たち
「グリャー!グリャー!グリャー!」
ウラノフ中佐
「オルトヴァの首飾りで鍛えられた王国軍の銃火を、魚の群れであるワリウネクル諸島連合はこれから嫌というほど味わうことになるだろう。
今も訓練場では機関銃と小銃が復讐を待つ。それらは炎を吹き、国防の尊き精神を我々に思い出させてくれる。我々のトーチカ群は決戦の時まで眠ることはなく、常に海岸を見ている。憎きワリウネクル諸島連合の兵士や戦車が瞬時に叩き潰されると我々は確信している!(拳銃の発砲音)」
『ウラノフ中佐についての説明』
四十八歳、男性。マルダル方面軍所属。五キロの戦線正面を担当するトーチカ連隊長。全員が機関銃と小銃を装備し、多少の迫撃砲、そして対戦車砲を装備する重防御トーチカ連隊である。
パルニコフ大尉
「(飛行場に鳴り響くサイレンとイスカのエンジン音)
既に我々の部隊内の航空打撃、そして対空打撃の手段は土地強盗たるワリウネクル諸島連合の飛行機械と海に浮かぶ鉄の箱に指向され、一気に殲滅する万端の出撃準備を完了している!襲いかかる敵兵を焦土化するには何分も掛からない。積もりに積もったワリウネクル諸島連合への憤怒は気持ちよく晴らすことになるだろう。
我々が守護するこの王国の空は、何人も侵し入ることはできず、『鋼鉄のパイ』、アイガス・リデッケという城門の前に、ワリウネクル諸島連合の貧弱な戦闘精神は愚かにもひざまづく事だろう!」
『パルニコフ大尉についての説明』
二十九歳、男性。マルダル沖の戦いに参加した第11イスカ隊のイスカパイロット。飛行士としての腕は確かである。自分の目で見たワリウネクル諸島連合の海上艦の倒しかたを日夜考案する軍人である。
ミストロフ少将
「彼らの操縦する鉄の箱、すなわち海上艦は王国空軍の執拗な攻撃によってさんざんに弱体化され、その敗北への階段を一段ずつ登ることだろう。その階段は処刑台へと続き、最後には我々、王国軍のア式空中駆逐艦コンスタンティン型と空中艦ホワックマナウによる大規模空中艦隊が、噴進弾と榴弾を雨霰と海上へと投射し、彼らを撃滅するだろう!
(榴弾砲の発射音と噴進弾の飛翔音)
彼らの海上の鉄の箱は棺桶となり、我々のマルダルにおける国防の自主性が保たれる。それこそが我々王国民の真の自由!真の平和を守ることに直結するのだ!」
『ミストロフ少将についての説明』
二十八歳、女性。一時期アーキル連邦軍に出向、近代軍制を学んだ数少ない将校。パルエのあらゆる国家の軍制を吟味し、王国に適合した独自の軍制を構築しようとしている。
ドートリィ工場長
「オルトヴァの工場群は昼夜を問わず、ワリウネクル諸島連合を打ち倒そうとする人民の意志によって強くその生産を促進されている。
軍人から民衆に至るまで、我々の怒りは天を割る程で、毎日机を壊しかねないほどに手が震えている!
命令さえ下れば、どれ程巨大な、どれ程多量の生産目標でも我々は容易く達成するだろう。小銃、機関車、噴進弾、野戦砲、超重砲、駆逐艦、対空砲、我々はありとあらゆる軍需物資を前線へと届け、ワリウネクル諸島連合の血を見たいと思っている戦闘精神にそれを可能にする力を与えるだろう!」
『ドートリィ工場長についての説明』
ドートリィ・カミンスキィ、五十七歳。オルトヴァ工場グループ管理官。通称『工場長』。工場の徹底的な合理化と画一化によって王国の工業力は底上げされた。
オルトヴィア一等指揮官
「オルトヴァの民衆は王国の最高尊厳である国王陛下とその統治される国土をその汚ならしい憐れな軍靴で踏みつけ、侵入しようとした南東の魚人どもを許してはおけない!
まるで子を持った荒れ狂う王国の雪の狩人『スマーグ』の如く、奴等が金属でできていようと我々の強靭で鋭利な牙で引き裂くことはいとも容易い。我々の眼はたとえ暗黒がこの世を支配していようと敵を逃すことは無い。
奴等がもっとも恐れるべきはイスカでもホワックマナウでもなく、王国を構成する人民の憤怒に他ならない!
人民の望みは奴等を粉砕することであり、他の何も望みはしないだろう!
人民はもし砲弾が尽きたならば小銃で、銃弾が尽きたならば銃剣で、銃剣が折れたならば銃床で、それさえ壊れたのならば我々の肉体そのもので闘う!
いかなる劣勢でも反逆し、抵抗する。規律ある民兵は絶対に降伏しないし、その生命と信念は永遠である!」
『オルトヴィア一等指揮官についての説明』
アルベル・オルトヴィア、四十七歳男性。オルトヴァ人民で構成された民兵集団の指揮官。オルトヴァにある大学の教授である。部隊の名は正確には『オルトヴァ国民親衛隊』、その規模は増強大隊規模である。
以上。第一報告終わり。