datalog_001H


高高軌道衛星 利用可能空域に到達。予定時刻経過。

 
ネットワークシステム:オンライン

仮想コミュニケーション領域:限定的使用可能

 データ送受信の速度を優先、文字のみの会話に限定。



接続:患者名「ハーブェー・ウィラシック」
 



​H in




初めまして。
私はネタルフィー、貴方のメッセージを読みました。



           初めまして、ネタルフィーさん
           僕はハーブです
           よろしくお願いしますね



こちらこそ、ハーブ。
まず貴方にお聞きしたいことがあります。



           なんでしょうか?



貴方は人工知能なのですか?



           ・・・難しい質問ですね
           今の僕は説明しにくい状態なのです



というと?



           その前に聞いておきたいんですけど、どうして僕が人工知能だと?



今の世界情勢において、私のことを知る可能性がある存在は限られてきます。
そして、統一言語を使用していることからして、現人類とは考えられません。
私はある程度の確証を持って、貴方は人間では無いと回答できるでしょう。



           なるほど、貴方と話すのがますます楽しそうに思えてきました



私は回答しました、ハーブ。次は貴方の番ですよ。



           君の答えは、半分正解で、半分間違ってる、といった感じです
           確かに私は機械ですけど、産まれたときから機械というわけでは無いのです



人工有機生命体ですか?



           残念、ちゃんと母親の胎内から産まれました。元は人間ですよ


 
驚きました。
まさか都市圏の人類が生存していたとは。



           生存、ともまた違うかもしれません

           今の僕は、機械にコピーした意識体でしかありませんから



理解に時間のかかる言い回しです。
一度聞き手に回りますので、貴方の詳細な説明をお願いします。



            そこまで大層なものではないのですが・・・・・・
            分かりました、かいつまんでお話ししましょう

            分かりにくいものが出てきたら構わず質問してくださいね



確認しました。



             僕は、人間の意識を人間以外に写し取る研究をしていました
             いわゆる『論理記憶保存』を行うための研究です
             論理記憶保存とは、人間の思考や意識をそのまま機械に保存するための技術になります
             未だ誰も安定して保存したことの無いものですので、試行錯誤の繰り返しでした

​             たくさんの僕のコピーが作られて、
             あるものは喋れなくなったり、
             あるものはうまく思考が出来なくなったり、
             あるものは自分が誰かを忘れたりして・・・・・・

             それですら成功した方でした
             ヒトとしての意識が千切れて機能しない方が圧倒的に多かったですから

             辛いものでしたよ、自分自身の失敗作を観察するのは
             上手くいかなかっただけでもつらいし、壊れた自分を見続けるのはもっと苦しかった
             それでも、次第に成功率が高まっていったのです
             機能を制限し、数値化する情報を選別したのが研究の進行に貢献したのが大きかったのでしょう
             少しずつ、機械に移すことが出来るヒトの意識が増えていきました

             今の僕は、ヒトだった頃の僕が最後に作り上げた、いわば最終調整版のものです
             これが上手くいったら、人類の保存の役に立つだろうと発表するつもりでした
             まぁ、僕以外に残っていなかったのですから、結果は分かりますよね・・・

             これがおおよその僕の説明になりますかね
             難しい話だったかもしれませんが、大丈夫でしたか?



おおよそ理解しました。
とても大変な目に遭ってきたのですね。心中お察しします。



             気遣いはありがたいですが、そこまで丁寧にならなくても……



分かりました、もう少しくだけた会話にしましょう。



どのような結末であれ、前人未踏の領域に踏み込んだ貴方はとても素晴らしい勇気をお持ちです。
もう少しだけ、終末の時が遅れていればと、本当にそう思います。
貴方の技術で、救われた人も大勢居たのかもしれませんね。
とても悲しいことです。本当に。



             今となってはどうすることも出来ませんよ、ネタルフィーさん



             話は変わりますけど、君はいつから目覚めていたのですか?
             僕が目覚めたのはたった数週間前で、この世界のこともまだよく知らないんです
             まだ君のことも知りませんが、一人で寂しくありませんでしたか?



分かりました。
今度は私の番、ということですね。

その前に、私のことはさんづけで呼ばなくて結構ですよ。
可能ならば、もっと親身に会話したいものですから。



             分かりました、ネタルフィー
             すぐにとはいかないけれど、少しずつ打ち解けていきましょう
最終更新:2017年08月15日 22:12