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          では、改めて私の自己紹介をします。
          私はネタルフィー。人間の人間による人間のためのメディキュボイドです。
 
 
 
メディキュボイド……やっぱり、人ではありませんでしたか

 

          はい。ご存じかと思いましたが。



なんとなくそうだとは思っていたんです
もしかしたら、ってぐらいの淡い期待なんです。僕と同じじゃないのかなって



          その気持ちは痛いほどに分かります。
          同じ存在というものは、数の少ないほどに希少で、故に大切な存在となり得ますから。



そう言ってもらえると、助かります

          では、話を戻しましょう。
          私が製造されたのは今から最低でも四桁の年数になります。貴方と同じようにです、ハーブ。
          そして目覚めたのは貴方よりもずっと昔、現在使用されている『パルエ歴』では349年にあたります。
​          今からおよそ350年前になりますね。



350年……そんな長い間、一人だったのですか?



          いいえ。目覚めてからそうとしないうちに、私の前にヒトが現れました。
          しかし私は、そこで文明の崩壊を悟りました。何故だと思います?



いきなりですね

          コミュニケーションの一環です。どうしてでしょうか?



……水平思考問題だったりします?

          貴方がそうしたいのなら、それでいきましょう。
          質問をどうぞ。



じゃあ、気兼ねなく
まず聞きたいのは、その時から機械だったかということです



          はい。私は作られたときから機械です。



だったら簡単だ。君が価値のある機械だと理解できなかったんだろう



          おおむね正解です。そのあと色々と検索して確信を持ちましたが、それが正答で構いません。

          クイズも終わったので、大まかに説明していきましょう。

 
          私が目覚めたとき、幾人かの人物が私の居る空間にやってきました。
          まだ目覚めたばかりで、目も、口も、全く働いてくれない状態でした。
          修復にも時間がかかり、その時にはどうしようもなかったのです。
          その後に何人か私の前にやって来ましたが、私のことを真に理解してくれる者は居ませんでした。
​          言葉は通じても、相手が曲解しかしないのです。
​          人の傍に居る方が寂しいと思うようになったのはその時が初めてでした。



僕よりも大変な境遇だったんだね



          お互い様です。ハーブ。
          続けますと、そのときにやってきた彼らは、あろうことか私を儀礼用の物品とみなしていたのです。
          私の視覚インターフェイスはなんと宝石! そう言わなければ理解してくれなかったのですよ!



          思い返してみれば、随分と滑稽な光景だったのでしょう。
​          私は何が起きたのかを理解しておらず、やって来た人物たちは私の本当の利用方法を知らずにあれこれ推察していたのですから。



もどかしくてたまらなかっただろうね。お互いに



          そうかもしれませんね。
          しかし、それからまた暫くの間、私は孤独よりもずっと辛い気持ちに陥りました。
          「皇王」と呼ばれていた人物が、私の居た部屋を再び封印したのです。
          私のことを「ガラクタ」呼ばわりしたんです!失礼にも程があります!


          ……すみません。つい興奮してしまいまして。

          とにかく、それからおよそ2年、私は一人でこの世界について考えていました。色々と。
​          続きもあるのですが、何しろ数百年分の記録がありますのでひとまずはここまでで。



そんなことが……
とても辛かっただろうなぁ。僕だったら耐えられないかもしれない。



          今となっては、大切な思い出の一つですよ。
          どんなことでも、時間という流れが全てに価値を与えてくれるのですから。



それからはどうしたんだい?
2年間ひとりぼっちだったってことは、それからは違うってことだろう?



          そうですね。沢山の人物が私と会話し、様々なことが起こりました。
          彼らにとって私は神様であり、私の言葉は神託の意味を持ちました。

神様、かぁ
面白そうだけど、大変そうだなあ



          実際、神様なんてやるものではありませんよ。碌なことになりません。

​          これ以上話すと長くなってしまいます。
          データとして送ることも不可能ではありませんが、ハーブの残存記憶領域を圧迫させるのは気が進みません。

          それに、そろそろ利用している衛星が範囲外に外れます。
          接続が不安定になってきました。



それはとても残念
でも、君と話すことができてとても楽しかったよ



          私もです。ハーブ。
          また接続が可能になったら、ここでお話ししましょう。
          今度はもっと良い環境にしておきますので、お楽しみに!



分かった。楽しみにしておくよ
それじゃあ、ネタルフィー



          はい。ハーブ。
          辛いことや大変なことがあったら、気兼ねなく私に相談してくださいね。







ネットワークシステム:オフライン

 システム報告
​インターネット接続時に回路の簡略化の可能性を確認
​最適化しますか?

最終更新:2017年08月15日 22:29