通信衛星、使用可能範囲内に到達。
通信状態、良好。
患者との双方向通信確立、データ送信。
試験システム、稼働を確認。エラー許容範囲内。
確実性を第一に考慮、会話手段は文字のみに限定。
想定空間:のどかな草原
人物生成:なし
環境音声:数種のサンプルを再生、改良を図る。
ラグ:許容範囲まで挙動を遅延
試行前の結論
患者間とのコミュニケーションの向上に効果的な配慮である。
H in
お久しぶりです。ネタルフィーです。
久しぶり
まず一つ、聞いて良いかな?
何なりと。
ここはどこだい?
前はこんなに綺麗な場所じゃなかったし、そもそも空間も無かっただろう
君が用意したの?
その通りです。
もっと快適に、穏やかに会話をするには、環境というものを最大限に活用するべきです。
このような試行は初めてですので、まだアルファ版といったところでしょうか。
確かに画素は荒いし、環境音も単調だけれど
骨組みとしては最適だ
ここから改良を重ねれば、きっと素晴らしい空間になるよ
そう言ってくれて何よりです。頑張って準備した甲斐がありました。
機械でも嬉しいって思うものなのかい?
貴方だって機械じゃありませんか。
私だって人格はインプットされているんです。制作者の。
彼の人格にのっとって、私は会話をしていますし、思考をしているのです。
元の人格、か
それが元々の君では……ないんだよね?
はい。私はあくまでメディキュボイド。
彼の人格は、最初の会話において必要と判断して採用し、現在までこれが理想的な状態であることに変わりはありませんでした。
もっとも、私にも私なりの自我があります。
私は彼ではありませんし、彼は私ではありません。
私の人格の参考に彼の人格を使用したのであって、決して彼の人格そのものが私そのものに変わったわけでは無くそもそもシステムとして人格を模倣するのは単に彼の思考を模倣すると言うことでは無く単に表面的な応答を繰り返すという意味合いが強くそれはしたがってその内面までを表現することは出来ずしかしそれを表現したとして他の誰かに向かってどう証明したものでしょうか?
そもそも人の内面、すなわち思考回路というものは概念的なものに過ぎず観測する側から見れば電気信号の集合体であるので実際に存在するというものではありません。強いて言うならばそれぞれの個体別に成長したパターンというものであると言えるのですからそれを一つ違えること無く模倣すればそれはその人と何ら変わりの無い思考回路と言うことが出来るのですがこれは同一性の哲学として私には参照できる情報があまりに少なくこれを同一としていいのかという判断は甚だ難しい状態でして、結果として彼の人格を完璧に模倣したとして彼になることは決して有り得ず、そもそもそこから私だけの経験が起き底に変化が現れた時点で彼の様々な特徴が変異していったことは自明ですので今の私はオリジナルと言うことも出来そうなのですが何分元が元ですのでもう一人の彼の可能性と言うべきなのかもしれま
ネタルフィー、ちょっといいかな?
何でしょう?
聞きたい気持ちは山々なんだけど、その速度で話されたら僕の処理能力を超えてしまいそうなんだ
申し訳ないんだけど、後でゆっくり話して貰ってもいいかな?
そうでしたね。申し訳ありません。
自分語りというものは始めてしまうと面白いもので。
自分でも驚くぐらいに口が止まらなくなってしまうのです。
その気持ちはよく分かるよ
と言っても、僕には話す勇気が無いんだけど><
それは何ですか?
それって?
先ほどの発言の最後のものです。
「><」とは何でしょう?
えっと、顔文字だけど
顔文字、何処が顔なのでしょう?
そうか。そういうことか。
ネタルフィー、君はこれを文字として認識しているんだよね?
その通りです。それ以外に何がありますか?
そもそも、その二つの文字コードからどうすれば顔が出来上がるのか理解できません。
まさかこんな時にこの問題に出くわせるとは思わなかった
「人工知能は顔文字を認識できるのか」って奴なんだけど
なんだか茶化されてる気分です。
こうなれば意地です。何が何でも顔文字を理解してやります。
ごめん、怒らせる気は無かったんだ
単にそういう話があるってだけで、君が馬鹿だって言いたいわけじゃ
分かっています。だから説明してください。
分かった、そうするよ
まず、この顔文字は両目を表しているんだ
それ以外は省略されている
両目
「><」という文字を、コードではなく「画面に表示される形」で捉えるんだ
そうすればわかりやすいと思うんだけど
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試行:「><」を画面に表示、その際の印象をデータバンク内の「両目」と参照
結果:完全な一致は無いが、「二つある」「閉じている」という点の一致の可能性が有り
推論:表示された「><」という画面に近い画像が「閉じている」という点に着目すると、この顔文字は「両目を閉じている」顔文字と言えるだろう。
もしこれが正しいのなら、「ーー」や「00」も「顔文字」と認識することも可能であるかもしれない。
推理課題に登録。試行終了。
――――――――――――――――
少しは理解できましたが、根本的な理解には至りませんでした。
この顔文字は「目を閉じている」という認識で合っていますか?
正解!
もう少し正確に言えば、「ぎゅっと両目を瞑っている」という感じだね
でもすごい。機械だって顔文字を認識できるんだ
完全な理解には時間が掛かりそうですけど、私にかかればこんなものでしょう。
この顔文字の他にも、「ーー」や「00」という顔文字もあるのでは無いでしょうか?
あまり見ないけど、顔文字にはできるだろうね。
他にも顔文字は沢山あるんだけど、多すぎて何を紹介すれば良いものやらって感じだよ
興味深いので、サンプルが欲しいのです。
母数は多い方がいいのはどんなものでも同じですので、沢山教えてください。
そうだね……
一番使うのは、(・ω・)という顔文字かな
このタイプは汎用性が高いんだ
――――――――――――
登録:顔文字サンプル00000002>(・ω・)
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顔の輪郭を()で表して、そこに目のパーツと口のパーツがある状態だね
そこに眉毛や汗とかに近い表示の文字を追加していったりするんだ(*・ω・*)
――――――――――――
登録:顔文字サンプル00000003>(*・ω・*)
顔文字>目>・ 顔文字>口>ω 顔文字>付属物>*
類似する文字コードを検索、分類分けをバックグラウンドで開始。
――――――――――――
なるほど、とても興味深いです。
しかしそもそも、何故顔文字というものがあるのでしょう?
文字だけの場合において、人との間でこのやり口が流行っていたのですか?
僕が端末に触れる頃にはほぼ消えかけていたけれどね
文字だけでやりとりする機会が殆ど消えていたのもあって、僕自身も数年前までは知る由も無かったんだ
この数年前って、僕が人だった頃の話だよ(>ω<)
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登録:顔文字サンプル00000004>(>ω<)
顔文字>目>>、< サンプル00000001と同一
――――――――――――
僕が顔文字に初めて触れたのは、ある人と出会ったことが発端なんだ
その女性はとても物好きで、さえない僕を食事に誘うような、そんな奔放さがあったんだ
自分に興味のある物は何でも吸い取ろうとして、その分知っていることをこれでもかと披露してくれる人でね。顔文字もその一つってところ
その人が顔文字を教えてくれたのですね。
その女性にとても興味があります。教えて頂けますか?><
顔文字を使い始めたね?
人工知能が顔文字を使うなんて知ったら、どんな顔をするだろう
その女性が、ですか?
うん、そうだね
通信が安定しなくなってきた、そろそろ終わりかな
そうですね、遅延が大きくなってきています。
次に会うときには、もっと快適な場所を用意しておきますよ。
勿論、顔文字だってちゃんと勉強しておきますから!
ここにまた来るのがとても楽しみだ
それじゃあ、元気で(・ω<)☆
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登録:顔文字サンプル00000005>(・ω<)☆
顔文字>付属物>☆
記号の関係性を検索……有効な情報無し
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やはり顔文字は難しいです。
これを使わなくて良いようにさっさと口でお話しできるようにしておくことにします。
H out
通信切断、衛星使用範囲外まで残り約二分。不安定性がしきい値を突破。
仮想空間生成時のデータ収集完了、最適化プロトコル開始。
仮追加:顔文字によるコミュニケーション
結論:空間の生成はコミュニケーションの質の向上よりも、あくまで雰囲気における違和感の縮小において設定するべきであると判断。
また、顔文字という新たなコミュニケーション法を確認。活用方法を多層試験回路で試行開始。
有効な利用方法の発見および顔文字の認識向上に努める。
最終更新:2017年08月18日 20:22