日が沈んで数時間。人の気配のないあぜ道に一人の少年が怯えるように歩んでいる。
己の気配を殺しながら進む先はあたりと雰囲気を異にする石垣で囲まれた庭園。
少年の名はゾヤ。曇り空の合間から落とされる月光を受けて、わずかに姿が見て取れる。
ゾヤは典型的な農業手伝いの格好をしており、この日も地主の農場で過酷な収穫作業に従事していたはずだが、ゾヤは仕事が終わると姿を消し―正確には日没まで付近の林で身を潜め―この時を待っていた。
ゾヤはいままさに、夜中まで身を潜めてまで目指した場所に達しようとしている。庭園の名は“ディアルゲ“。四方が人の肩ほどまで積まれた石垣に囲まれており、不思議なことに中に入るための入り口が存在しない。周囲の人々はその庭園には立ち寄らぬよう子どもたちに口を酸っぱくして忠告していた。
その庭園は、過去に罪を犯し人になれなかった亜人の庭園だ。
亜人の庭園に足を踏み入れようならば、たちまち魂を抜かれてしまうだろう。
そういった言い伝えを子どもたちは受けてきた。
誰が始めたのか見当がつかないが、少なくとも親たちも、またその親たちも先代から語り継いできたものなのだ。
だが、古今東西禁忌には甘い果実がついてまわるものであって、この言い伝えも例外ではない。少年ゾヤはその庭園に眠る黄金の種を持ち帰ることを思いついた。彼をそうさせたのは病に伏した家族でも己の名誉でもなく、人が持つ根源的な欲求の一つ、好奇心であった。
結局の所ゾヤは好奇心に駆られ、禁忌の庭園に足を踏み入れて庭園の一部となってしまった。庭園はそれからというものの、時折ゾヤの声が聞こえてくるようになり、周りのものはすべてを悟ったという。
背丈の低いゾヤがどうやって石垣を超えたのかはわからない。
そう問われると周りのものはこういった。
「庭園の番人(アルゲ・クメグ)の甘い誘いにのってしまったのだろう」
…
ソナの光が遮られてあたりが漆黒のベールに包まれる。
闇は気が遠くなるほど深い黒をしていて、散りばめられた光点はひとつひとつが小さいものの、どこか途方も無い距離を感じさせる冷たい夜の印象を受ける。
輝くソナを隠したのは彼女の4番目の息子。名はパルエ。
パルエ人の故郷であり、彼らのゆりかご。
パルエ人は大陸じゅうに広がりその生命活動の証を地上の都市網として刻んでいた。夜闇にぼぅっと光り浮かぶそれは血管のようにも見える。今や彼らは地上の大部分を征服し、その活動域は惑星から脱して第5惑星にまで達していた。
パルエ重力圏
「まもなくパルエ重力圏を離脱、ソナ公転軌道へ移行します。」
「フェゾンドライブの出力は良好。さすがだ、屁こきロケットの頃がなつかしいよ。」
機器から放たれるオレンジ色の光りが、暗いコックピット内部をフィルターが掛かったように染めており、頬を仲良く橙に染めた2人がぼんやりと見て取れる。
「そういうあなたのお尻は未だに第一世代式ね。ほら、はやくシーケンス移行。やって。」
「へいへい。オービッタシステム起動…ステラミヤ基地聞こえるか、こちら探査船ゾヤ。ソナ公転軌道に入る、どうぞ。」
ステラミヤ基地、連盟の宇宙基地と交信するのはオージア出身のガタイのいい男、ハジャック。対照的に彼の隣に座っている女は細身で、病的なほど白い肌が特徴のチェリエ。国籍はメルパゼルだが、父も母もフォウの出身だ。
「こちらステラミヤ基地。ハジャック、報告が遅いぞ。もう脱出速度を出しているじゃないか。まだ宇宙船同士が接触するほど宇宙は混雑していないが、連邦宇宙交通法では―」
基地からの交信をシャットアウトするチェリエに、ハジャックはにんまりと左右の親指を交差させる“でかしだぞ”サインを送る。
「ゾヤを普通の連邦の“宇宙缶”と一緒にされては困るわね。」
「一応規則は規則だからな。なんたって規則は規則だっていう規則があるくらいだ、あの国は、ハハハ。」
パルエ歴760年。
これまでの戦乱の時代を乗り越え、有り余るエネルギーを宇宙に向けて数十年。
さながら大航海時代の序章に突入したパルエ人たちは飽くなき好奇心を燃やし、多くの探査船を放つ。各国は団結を強め、内惑星に簡易的な拠点を構えるまでに至り、背丈に似合わぬ技術問題も妥協といくらかのゴリ押しで解決していた。
最初の数十年で各内惑星の基本的な探査が終わって勢いに陰りが見え始めた頃、ノスギア天文台が報告したある電文がその状況を一変させた。
小惑星帯の向こう、不気味に輝く準褐色矮星アルゲクメグより奇妙な電波が放たれたというのだ。報告書はこれを形容するにあたり、「人為的な」という表現を使っていた。
「にわかに信じがたい。もう一度説明してくれないか。」
ノスギア天文台の告知は連盟アカデミーを揺るがした。赤道に作られた宇宙飛行士訓練施設である“星の街“の大会議場は各国の頭脳が集結しており、突然の発表にどよめきの声に包まれていた。
「えー、ただ、お配りした資料の通りなのです。ソナ星系第7惑星アルゲクメグから微弱ながらも、人為的な電波をキャッチいたしまして。5ページ目の写真ですね。」
紙面上には紙切れの転写が印刷されており、おびただしい数の数字が刻印されていた。なんの意味のなさそうな羅列だが、これは彼らの天文台が受信した電波信号の強度を数字で表したものであった。壇上に上がっているもじゃもじゃ頭の男が全員が資料に目を落としたのを確認し、つづける。
「5行目と6行目です。青で囲った部分ですが、電波強度を表す数値が9を振り切って制御代数まで達している箇所が2つあります。多少のばらつきがありますが、等間隔に鳴らされたブザーであるとも推測できます。アルゲクメグには第2,3惑星のウィトカやエイアのように、海洋を抱えた衛星を持っていることはスペクトル分析でほぼ確定しています。であれば、このシグナルの意味も自ずと…」
そう言い終わると、クルカを飲み込んだ顔をしたような傍聴席の天文学者に目をやった。
「エイゾレには、何か、があります。」ともじゃもじゃ頭。
なにかがあることぐらい分かっとるがな、と議会はその後ペンと文鎮が飛び交う乱闘騒ぎになり強制閉会したのだが、落ち着きを取り戻したアカデミーは新プロジェクトをあっさりと承認した。
観測の邪魔で目の上のたんこぶであった小惑星帯を強行突破して、ブザーの発信元であるアルゲクメグを直接観測するという強引なものであったが、宇宙船に本能的に突進する宇宙クジラが小惑星帯に生息していることを考えるともっとも妥当な方法であった。
時間は再び探査船ゾヤがパルエの重力井戸から脱出したところに戻る。
ステラミヤ基地への適当な返答を済ませた2人は操縦をオートパイロットに託し、つかの間の休息時間に入る。休息と入ってもコクピットからは出られず、手元の端末を使って溜まったメッセージボックスの受信問い合わせをしたり、開発者が無断で実装したクルカヘビゲームを遊んだりくらいしかすることはなかった。
「失礼するよ。公転軌道に入ったみたいだね、ひとまずは安心ってところかな。」
そう言いながらコクピットルームに入ってきたのは純帝国人だとひと目で分かる金髪碧眼の火器管制官、リュン・エメル・バンイェット、通称リュンだ。無重力であることを忘れてしまうかのように体をうまくくねらせて、一直線に二人のもとにやってきてチューブタイプの甘味を渡す。
「ありがとう、リュン。」
「あとはルーン衛星軌道に入るまで、これだな。」とハジャックが暇だというジェスチャーをみせる。この男の身振り手振りはその体のデカさが災いして狭苦しい。
「あとはアーキルのケチ共とのドッキングがうまく行けばいいんだけどね」フンとアイロニカルな鼻息を吐きつつリュンは隣の管制室へと戻っていった。
…
ルーン衛星軌道上
「7番缶から空気が漏れ出しています!!」
「チウイング・チヨコを塗りつけろ。」
「缶の錐揉み回転がとまらず、チゴイネル・ワイゼンとのドッキングも不可能です!!」
「姿勢制御スラスターで回転を相殺しろ、頭を使え頭を、それでもアーキル人か!!」
探査船ゾヤのスマートな雰囲気とは真逆で、無様な見た目をした緑色のガラクタの中は阿鼻叫喚。
この宇宙船はアーキルが宇宙開発予算確保を確保するため、その第一歩として建造されたものだった。
その名もアルゲバル760C。
かつて彼らが設計した、初の成功した量産型戦艦の名をとって作られた探査船。―その3隻目。
全体的に緑色の塗装の空き缶をつなぎ合わせた無様な形をしており、異様に大きな推進システムがその見た目を更にケチっぽく見せている。
“人海探査プログラム”、大量の格安有人探査船を送り込んで大発見の報告を待つというプロジェクトが生み出した経済的な戦闘探査艦だ。
彼らはいま、惑星ルーンの探査で使用された後に無人となっていた宇宙船、チゴイネル・ワイゼンとドッキングを試み、燃料と観測機器を移送する準備をしていた。
もろもろの準備が整い次第、パルエを出発した探査船ゾヤとのランデブー・ドッキングを控えている。
探査船ゾヤとアルゲバル760Cは合体し、大型宇宙探査船としてアルゲクメグを目指す計画なのだ。
~
「まったくね、人使いがね、あまいだね!」
ようやく錐揉み回転がおさまり、静まり返った船内から体中をさすりながら甲高い声の主がやってきた。
彼女はその小柄な身を活かして、同船の最奥部にある7番缶にできた穴を塞ぐという大事業をやってのけたばかりだ。
一瞬女性かどうか判断に迷う、どことなく地味な彼女はニヂリスカの出身の火器管制官兼アカデミア…であり、平時には雑用クルーということになっている。
「ごめんよヤエラ、あとでシーバを一杯だすから。」
「一杯少ないね、二杯たちをもらわないとね!」
そこにはさきほどまで船内無線で指示を出していた困り顔の優男ナビゲーターのオトと、艦長のモジャがいた。
モジャは伸びに伸びた髪の毛と無精髭で顔の全貌がわからない原始人のような男だが、最低限のことを可能な限り最低限にやることにおいては目を見張るものがある。
ふたりともアーキルの出身で、旧時代の名残で平然とニヂリスカ人をアーキル人とみなすこと以外は、とくにヤエラにとって不満のない男たちだった。
「あとはワイゼンにドキングね。」
ヤエラが公衆トイレよりも狭い第一艦橋に入り、二人並んだ座席越しに前を覗く。
そこには、緑色に光る飴玉のような惑星ルーンと、前方にソナの光を受けて輝くワイゼンの姿があった。
室内にはワイゼンからのビーコンが、チロッチロッという独特な電子音となって発せられている。
「そうだ。ここからが本番だ。たのむぞオト。アーキル人ならできる。」
「まかせてください。」
モジャに肩を控えめに叩かれて、深呼吸をしたオトは操縦桿を握りしめてスラスターを操作した。
ブシュッという鈍い音とともに、下水管のような形をしたアルゲバルはワイゼンとの相対速度を徐々に高めていく。
最初はゆっくりだったビーコンの感覚も、心臓の鼓動のように短くなっている。
さっきまでおちゃらけていたオトの表情にも力が入っていく。
モジャはとなりで黙っていた。
こういうときは余計な口を叩かないほうがいい…というわけではなく、ナビゲータシステムに搭載されているクルカヘビゲームに熱中していただけだった。
とうとう2隻の距離は50mというところまで差し掛かってきた。
互いの相対速度は0.2m/sまで落とされ、ゆっくりとワイゼンの背中についた丸いドッキングポートに艦首を近づけていく。
オトは乾いた口内をシーバで潤そうとしたが、ヤエラにわたしたのだったとすこし後悔しながら最終誘導を行う。
気がつけばビーコンはほとんど連続音となっている。
ゆっくり、ゆっくり…
と その瞬間、艦全体が急激なマイナスGに襲われた。
「やっべ、接触した!?」
慌てるオト。
すぐさま艦首スラスターによる逆噴射を行い、ワイゼンから距離を取る。
ワイゼンとの距離を200mまで離して再び静止する。
暫くの間、艦橋は沈黙につつまれたが
「わりい。」
モジャは申し訳無さそうに言った。
「このゲームな、操縦桿で操作するせいか、たまにゲーム中でも艦制御に干渉するらしいんだわ。」
姿勢制御中のクルカヘビゲームは禁止になった。
燃料補給
ゾヤとの合流前に、ルーン衛星軌道上でワイゼンとドッキングすることとなったアルゲバル。
ちょっとしたヒヤリハット・アクシデントを経て、両者は問題なく結合された。
「ドッキング完了。」
「よくやったぞオト。さすがアーキル人だ。」
「ドッキングポートに酸素充填するね。」
2隻の間を隔てるドッキングポートに酸素が送り込まれ、ゆっくりと1気圧に調整されていく。
と同時に…
「…ヤ! …ャ!」
何かが飛び跳ねる音とともに聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。
「おいおいまさか…!」
「オト、みてこい!」
3人のクルーはまさかこんなことはありえないとおもいつつ、船内のロープ伝いにドッキングポートに急いで飛び込んだ。
「あ、いや、ちょっとまってください艦長」
「なんだ?」
「特追条項です、連邦宇宙航空特別法、追記条項。…異種族とのコンタクトの際は一切の威圧行為を封じ、クルーは防護服を着用の上―」
「うるせえ、クルカだ! 異種族だが異種族じゃねえ!」
ドッキングポートのチャンバーを開けるとそこにはどこからどう見ても1匹のクルカがシオシオになって力なくこちらを見ているのだった。
「どこから入ってきたね…」
「おそらく建造当時から住んでたんだろうなぁ、まったく、宇宙クルカ以外のクルカの持ち込みは違法だぞ」
困り果てた様子のオトは突き刺すほど冷たいクルカを抱きかかえると、とりあえずタオルにくるんでスープ用の保温器にやさしく寝かせることにした。
「まあ、普通に生きてるし、たぶん実質宇宙クルカだ。名誉宇宙クルカ。」
「だったら名誉アーキル人にしたほうがいいぞオト。」
「あんたたち、さっさとワイゼンのりこむね!!」
~
「これがルーンの探検家の船か…。失礼するぞ。」
「わぁ、すごい未来的というか、映画のセットみたいだ…」
ふたりがはしゃぎながらドッキングポートを通じてルーンに移乗していく。
ヤエラもそれにつづく。
ワイゼンの船内は無人となっている。
宇宙飛行士ならば知らない人はいないあの探検隊がまさにこのワイゼンを使って、前人未到のルーンを探査したと思うとオトは胸の奥が熱くなるのを感じた。
結局あれからルーンの再度の有人探査は行われていない。
ワイゼンによる詳細な地表マッピングが行われ、ルーン独特の大気循環や極圏の特異なオーロラ等が観測されただけで、これといった新発見はなされていない。
アルゲバルの燃料をワイゼンに送り込めば、3人でルーン探査もやろうと思えばやれるんだけどな、と夢想しながらオトは仕事に取り掛かった。
モジャは一通りワイゼンを見渡した後はアルゲバルにもどり、周囲のモニタリングや燃料輸送の様子を監視する。
鈍い駆動音を発しながら燃料を移し始め、同時にワイゼンから得られた惑星周辺の観測データも無事にダウンロードされた。
ふたりは船内に残された元クルーのメモ書きや、ちょっとしたおやつなどを拝借してアルゲバルに戻ってきた。
かわりにアーキル土産と称して大量のチヨコや手つかずのスペース・フードがワイゼンにぶちこまれた。
宇宙ステーションにドッキングする際に次のクルーのためにお土産を残す文化は、いつから始まったかは定かではないが、いまや普遍的なものとなっている。
「ゾヤがくるまでしばらくはここで休息だ。」
「パルエからたった3ヶ月だっけ。うわさのFZドライブってやつは恐ろしいね。」
「ピーヤ!」
ヤエラ、オト、モジャの3人とイシュ(氷)と名付けられた1匹のクルカは、噂の新鋭探査船の到来を待ちわびていた。
邂逅
「おい、あれじゃあねえか!?」
「ちがうだね、あれはアーキルのタンカーだね!ゾヤはもっと、も〜っとかっこいいね!」
「じゃあ、あれは。」
「あれはデブリだよ、艦長のお目目、節穴ね!」
オトが夫婦漫才みたいなやり取りをしている2人をよそ目に、まもなく行われようとしているドッキングの準備を進めていた。ドッキングはルーン衛星軌道上で行われる予定だ。
アルゲバルが先程までドッキングしていたワイゼンの軌道は比較的低高度であったために、軌道速度が速い。
これではゾヤに無理な減速を強いることとなるため、アルゲバルはエンジンを吹かして余裕のある高高度…例えるならばパルエとセレネくらいの余裕を持った公転距離にて待機していた。
最近はこんな僻地にもなかなかの頻度で宇宙船が通るようになった。
船乗りにとって宇宙でのニアミスというのは、退屈で孤独な宇宙の旅を勇気づけてくれる心強い存在だということで、どういうわけか互いの無線におすすめの音楽を流し合うといった慣習が生まれていた。
ゾヤとの接近が秒読みだということで、モジャとヤエラは宇宙に垂れ流される色々な音楽にチューニングしながらどれがゾヤの信号か当てっこをしていたのだった。
「艦長は下手ね!ゾヤが流してそうな音楽を探すンね。」
「帝国人が乗ってるってことは帝国軍歌を流しているに決まってんだろ」
「メルパゼル人も乗ってるね!」
「じゃあアーキルっぽい音楽を探すんだ」
オトは、そういうことじゃないんだけどな、ゾヤは商船じゃないから音楽は流さないだろうけどなとかを考えながら通信用無線に集中していた。
その刹那、オトがこの数ヶ月の間街に待っていた通信が彼の耳に入ったのだ。
「こちら探査船ゾヤ、連盟識別LNSSa001。アルゲバル160C聞こえますか。」
「こちら戦闘探査艦アルゲバル760C、連盟識別LNBBc003。よく聞こえる。」とオトは返信した。
モジャもヤエラもふざけるのをやめてヘッドホン越しにやりとりに耳を傾けている。
「現在ゾヤは貴船との距離、約3光秒に位置している。これよりルーン軌道アプシス・ポイントに向けて航行し、減速。軌道同調を行う。」
「アルゲバル了解。歓迎する!…脅威はないと思われるが、付近に確認できるデブリが9つ。データを送る。」
「ゾヤ了解。感謝する。予想ランデブーポイントまでのマニューバ・データを送信するので確認されたし。以上。」
2隻はついに互いを光学観測ではっきりと目視できる位置まで接近した。
これはもう、車で言うならばトレーラーの運転手がバックミラー越し台車をとらえて、これからバックして接続しようというような距離だ。
とはいえ、スケールが宇宙なだけに距離や秒速が数十万キロというレベルということになる。
「ついにこの時がきたんだな。」
モジャは彼の今までの旅路だったり、ここに至るまでーメオミーでのバルク・キャリアー操縦手時代のことやらを思い返しながら、きたる壮大なミッションを受け持つための心の準備をして待つのであった。