番組のオープニング
メルパゼル国営放送局
実録!!水晶戦争の記録!!
『ナレーション:コチ・サダマツ』
水晶戦争、それはメルパゼルにとって初めての血なまぐさい外征戦争となりました。
これは戦いの模様を映像で記録しており、中には目を背けたくなる場面もあるかもしれません。
しかし、戦場では皆が一丸となって助け合い、そうしたドラマがあります。
エクナン半島北端から北へ500km、色濃くクレーターの深瀬が残るこの海域に、小さな島々が点在しています。
ここが今回の舞台、スクレン諸島です。
同諸島は歴史的に古くからクリスタル伝説が残っており、その関係でスクルフィルと関係性が深い土地です。
しかしながら南北戦争時、この島をスクルフィル政府の黙認のもと秘密裏にメルパゼル軍が占拠。大規模な空軍基地が建設され、カノッサへ向かう帝国軍輸送船団への攻撃基地として密かに運用された事からほころびは始まります。
戦後、スクレン諸島は返還されるかどうかが焦点になりましたが、家族等の移住によりメルパゼル系住民が大多数となったことが問題にされ、当面はあやふやに済ますことになっていました。
しかし、同地域にドブルジャガスの資源が湧き出ると、この地域の領有権をめぐって両国の間で激しい論争が巻き起こります。
そして、668年3月20日。
耐え切れなくなったスクルフィルは武力を以てして、この問題の解決を図ろうとしました。
戦争の開戦です。
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スタル島、マリミドリ飛行場。
『我々は飛行場を包囲しました』
『敵は我々より貧弱、降伏を待ちます』
スクルフィル軍の駆逐艦が攻撃をしてきたその時刻。
ラジオを通して住民に避難を訴える民政官と大尉階級の軍人の声が響いていました。
当時、島の住民のほとんどが聞いていたそうです。
『抗戦の見通しは?』
『無理です。敵駆逐艦が空にいる以上、二、三回の砲撃で我々は万事休すです』
『分かっている』
『向こうが会談を申し込んでくれたらと思います』
『話し合いをか?』
『降伏はしません。しかし、住民だけでも見逃してくれたらという意味です』
軍人たちの強い決意にもかかわらず、上陸からわずか数時間後には飛行場と民政庁に高々とスクルフィルの国旗が掲げられました。
わずか80名の兵士たちの必死の抵抗により、スクルフィル軍に少なくない損害を与えています。
その中には、自ら拳銃を持って戦う民政官の姿もありました。
しかし、十倍を超えるスクルフィル軍上陸部隊を相手には勝ち目がありません。
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車からばらまかれる『スクルフィル軍、ウィスレン諸島奪還!!』の新聞。
車から掲げられるスクルフィル国旗と、ナダル宰相の顔写真。
スクレン諸島奪還の報道に沸き立つスクルフィルの首都、サルァミン都。
群衆一万人が広場に集まり、独裁者ナダルを褒めたたえます。
『スクルフィル領ウィスレン諸島!』
スクルフィルの国民はウィスレン諸島、つまりスクレン諸島が自分たちの領土だと聞かされてきました。
それをメルパゼルから取り戻し、メルパゼルを蹴散らしたというニュースは、ナダル宰相に対する不信感を一気に吹き飛ばし沸き立てるには十分でした。
スクルフィルの歴史は、クランダルト帝国に搾取され続けた苦難の歴史です。
南北戦争が終わり、晴れて独立した後も大国に搾取され続けてきました。
そんなスクルフィルが、メルパゼルに対して領土を奪い返したという事実は、歴史的な熱狂を呼びます。
実権を握っていたナダル宰相狙いは、見事に命中したのです。
レオポル・ラ・ナダルは、スクルフィル王国の女王に仕える宰相です。
年少だった女王に代わり、国民から絶対的な支持を受けていましたが、権利を奪われた女王と軍は彼に不信感を抱いています。
当時のスクリフィル軍には、女王に仕える『女王派』と宰相を支持する『宰相派』で対立が相次いでいました。
一度女王派の軍人たちがクーデターを起こしましたが、失敗に終わっています。
それ以降、軍は宰相ナダルの命令が絶対になり、従わざる負えません。
宰相派軍人の最たる勢力は、空軍のファン・プラザ司令官です。
彼が宰相派の威信を図るべく、ウィスレン諸島に侵攻する計画を立てた時点で、その時メルパゼルがどう動くのか大きな誤算を産むことになります。
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メルパゼル共和国
首都キタラギ
「重大事項なのですぐさま議会を開きます」
当時のメルパゼル共和国の女性首相「ナカセ・ナガトモ」はこの事態を重く受け止め、緊急で会議を開きました。
「外国からメルパゼル領土への侵攻は、久しくなかったことです。スクルフィルとの関係が緊迫している中、昨日スクレン諸島が攻撃され、スクリフィルの軍政下に入りました。政府は準備ができ次第、空軍に機動部隊の出動を決議しました」
軍が派遣されるまで、長くはかかりませんでした。
数日中に議会は軍の派遣を承認。
首都キタラギより、盛大な見送りとともに空軍が出撃します。
『空軍の幸運を祈る!敵を叩け!』
空母が二隻、その他護衛だけでもメルパゼル建国以来最大の艦隊です。
空母〈エイホウ〉は南北戦争時代の建造で、当時に至るまで改装を続けており、外見はどことなく威厳を感じさせます。
改修により最新の通信設備を整えており、古いながらもメルパゼル最強の艦隊の旗艦として、重要な役割を持つことになります。
ビルの上から旗を振る人々。
その感情は甲板の上の兵士たちにも伝わります。
こうした本土からの熱い応援は、兵士たちの士気を支えました。
別れのシーンは、群衆が共和国の国歌を歌い、涙を誘います。
南北戦争から約20年、若い兵士たちはこれから任務先で何が起こるのか、考えるゆとりはありません。
しかし、本土にいる人々は戦争という事が何たるかを知っていました。
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【空母エイホウ艦内に鳴り響くブザーの音】
現地に着くまでの航海の間、兵士たちは厳しい訓練に明け暮れます。
飛行甲板では、最新鋭の艦上戦闘機ケイデンが待機。
何時でも航空機を出せるよう万全の準備を整えています。
カタパルトが動き、艦載機を固定。
甲板係員が合図を送ると、75ノットの時速でケイデンが撃ち出されます。
空に上がったケイデンは訓練弾を搭載し、気球を模した標的に対して爆弾を当てる訓練をします。
何度も着艦し、訓練弾を積んでは飛び上がります。
対地攻撃のロケット弾、熱源を探知するラケーテ、敵艦を一撃で破壊する誘導弾。
赤道を越えると、雰囲気が大きく変わります。
メルパゼルが初めてパルエの赤道を越え、敵国に奪われた領土へ。
それを祝い、空母エイホウではお祭りが執り行われました。
解禁されたお酒がふるまわれ、皆は仮装をして楽しみました。
仮装は様々です。
モンスターに扮したり、メイド服を着たり、裸になったり。
楽し気な雰囲気が、エイホウの甲板を包みました。
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その頃、ウィスレン諸島ではスクルフィル空軍による空輸作戦が行われていました。
彼らはこの地域の軍政を確固たるものとし、敵を寄せ付けないことにあります。
ウィスレン諸島には二つの飛行場がありました。
片方は、メルパゼルの民間飛行場だったマリミドリ飛行場。
もう一つは、現在建設中で滑走路だけのサリノ飛行場。
そこには多数の戦闘機と攻撃機が存在し、空母機動艦隊を威圧します。
陸軍は乗り気ではありませんでしたが、起こってしまったからには輸送機を貸し出します。
4月10日の時点で、大空輸作戦により9000名を超える兵士たちがこの島にいます。
守備隊と物資を載せた輸送機は毎日のように本土と島を往復し、必要な物を運びます。
守備隊の指揮官に任命されたのは、リア・メンデル少将です。
一見穏やかな女性のように見えますが、彼女の戦術は鬼才です。
◇◆◇◆◇◆◇◆
一方のメルパゼル艦隊は、本土とスクレン諸島の間にある小さな島エイレン島に集結します。
機動部隊は二組に分けられ、そこから南下して空域を封鎖。
陸軍は揚陸艦や客船に乗り、出撃の時を待ちます。
長旅で疲れた兵士たちにとって、ここでの訓練は緊張をほぐすいい機会です。
軍歌を奏でる音楽隊、綺麗な行進を見せます。
艦内でマラソン大会が開かれ、綱引きも行われます。
テレビ通信で家族と話す兵士たち。
あるビデオレターでは、軍隊での生活をこう振り返ります。
『ここにいるのは全員既婚者で、今は銃の手入れ中です』
『心配事があるかと思いますが、ご心配は無用です。皆頑張っています。新聞の報道は誇張しすぎているので、テレビやラジオをご覧ください。そうすれば真実は明らかです』
◇◆◇◆◇◆◇◆
それから数日後、アラサカ艦長は電話にてメルパゼル艦隊司令官のカサイ中将と打ち合わせをしています。
最初の爆撃作戦の命令が下ったからです。
「機体の状態を見たいと?」
「ええ、少しお待ちを」
アラサカ艦長は電話を通話中に切り替え、受話器を一旦置きます。
そして内線電話を切り替え、出てきた整備主任に対して質問をします。
「こちら艦長のアラサカ。整備主任はいるかしら?」
「……主任、今稼働できるソウデンは何機だったかしら?」
「……ではハヤテ隊は8機全て発艦できるように整備できるかしら?」
そしてしばらくすると、返事が返ってきます。
「全部できるのね?分かった、任せるわよ」
『黒板に書かれた【紺色作戦】の文字』
メルパゼルがスクレン諸島奪還作戦に名付けた名前は、メルパゼル国旗の色から抽出されていました。メルパゼルのパーソナルカラーであり国旗の色でもある紺色は、メルパゼルではめでたい色とされています。
その色が今回の作戦名に使われているのは、メルパゼル共和国空軍の武運を祈る願いが込められていたからでした。
そして数分後、エレベーターから迫り上がる艦載機。
甲板上に機体が集まります。
カタパルトで撃ち出された艦載機たちが、空へ舞い上がり、ジェットの爆音を立てます。
エイホウに搭載された艦載戦闘機ソウデンは共和国発の初一から設計された実戦ジェット戦闘機です。最新鋭機ではないですが、長らく使われている戦闘機で愛着があります。
蒼色の機体色にデルタ翼、機首に伝統のカナードが取り付けられ、先進的な見た目と旧態の見た目が混ざって見えるでしょう。
一方の空母の片割れ、小型空母の〈アスカゼ〉には最新鋭の戦闘機が搭載されています。
当時最新鋭の艦上戦闘機、ケイデンです。
先鋭的なフォルムが特徴のこの機体は、鋭いナイフのような印象を感じさせます。
メルパゼル軍の誇るケイデンが、初めて実戦で試されるのです。
これは、東のタラゴクレーターから飛んでくるキタラギ重爆撃機との共同作戦です。
艦載機はそれを護衛し、爆撃を成功に導くための作戦です。
撃墜される危険性を伴う危険な任務ですが、パイロットたちは気合が入っています。
飛び上がる艦載機。
〈エイホウ〉のソウデンが24機、〈アスカゼ〉のケイデンが16機。
いよいよスクレン諸島奪還に向け、総攻撃が始まりました。
◇◆◇◆◇◆◇◆
緊迫した40分が流れました。
誰もが期待と不安の入り混じった感情で、出撃機の帰りを待っています。
やがて出撃機が空母に帰ってきました。
しかし、中には損傷した機体もあります。
そして、恐れていた事態が起きました。
『出撃した機体のうち、未帰還機が2機発生しました。戦闘による撃墜か、遭難によるものだと考えます。捜索隊の派遣をお願いします』
◇◆◇◆◇◆◇◆
『おはようございます。現地より緊急のお知らせが入りましたので、国民の皆様にお伝えします』
翌日の朝のニュース、午前9時。
朝のテレビにタロウマ・ナオミ報道官の真剣な表情が放映されます。
国防省のタロウマ・ナオミ報道官は定期的な記者会見の他、たびたびテレビにも登場し、一躍時の人となりました。
しかし、報道管制により正確な情報が入るのが遅い事に対しては批判の声がありました。
『昨日、スクレン諸島周辺の海域で任務遂行中のメルパゼル空軍駆逐艦〈ハツカ〉が、スクルフィル空軍のラケーテによって撃破されました』
記者のフラッシュが老年のタロウマ報道官の顔を包み、顔の脂に反射します。
『スクルフィル軍との戦闘によるものでしょうか?』
とある記者が質問します。
その表情は真剣です。
『その通りです。詳細は不明ですが、多数の死傷者が発生しました』
『駆逐艦〈ハツカ〉はラケーテの着弾により爆発。現在も炎上中であり、懸命な消火作業が行われています』
『他の艦への損害は……』
重苦しい雰囲気が記者会見を包みました。
誰もが、スクルフィルも本気で戦っていると分かったからです。
◇◆◇◆◇◆◇◆
【空母エイホウ艦内に鳴り響くブザーの音】
空母エイホウは敵の奇襲に遭遇し混乱状態にありました。
襲ってくるその瞬間まで、エイホウのレーダーは機影を捉えることができなかったのです。
緊急発進する艦載機。
その時、遥か彼方の空に爆炎が見えました。
味方の駆逐艦〈ハツカ〉が、敵の攻撃を受けたようです。
〈ハツカ〉はラケーテの攻撃を受け爆発炎上。
航行不能になり、消火能力も失われています。
もはや、〈ハツカ〉は浮いているのがやっとの状態です。
消火栓は役立たず、周りの艦からの消火も焼け石に水です。
そして燃え盛ること10時間、艦の高度が徐々に下がります。
すでに艦は放棄されており、そのままゆっくりと海面に墜落していきます。
〈ハツカ〉は何とか海面に浮かんでいました。
艦隊は〈ハツカ〉が船体だけでも持ちこたえることを願っていました。
体面や装備を気にしているのではありません、現代艦艇の攻撃に対する脆弱性を図るためです。
たった一発のラケーテで、ここまでの被害を受けたのです。
必ず弱点があるはずです。
◇◆◇◆◇◆◇◆
楽観視できない損害を受けつつも、メルパゼルは上陸作戦を考えていました。
島を取り返し、この戦争を終わらせるには上陸するしかありません。
ついに揚陸艦〈マスラ〉と〈アジサキ〉にも出動命令が下されました。