目覚め作戦の前に勃発した六王湖と帝国の艦隊戦という設定です。いくら各国の技術力が向上しても、やはり圧倒的な武力を持つ旧兵器への恐怖心は大きいのではないでしょうか?そこで、パルエ人が潰し合いの戦争に嫌気がさし、自分達の艦隊は旧兵器に通用しそうだという希望的観測を持てる戦いが必要だと考えたのです。勇敢なパルエ人ならきっとこの戦いを元に対旧兵器戦術を考案し、人類同士の戦争反対と声高に叫んでくれることでしょう。
※注意、面白くするために意図的に付け加えた設定や、無理やり整合性を合わせた部分があります。多めに見てください。
状況:帝国とそれを取り巻くリューリア協商は、表面的には敵対しながらも経済的な結びつきは強固であった。そんな中、帝国は技術供与の対価として六王湖に対し領空侵犯を行うよう協商側と水面下で交渉を進めた。自国の艦隊戦力を整備したかったリューリア協商はこれを受諾し、航空機を六王湖上空に侵入させ、ヨダ地区の帝国艦隊と国境部で大規模な演習を開始する。六王湖側は公式に抗議の声明を発表し、大規模な艦隊を国境部に派遣、両者はしばらく睨み合いを続けた。それまで中立派が大半を占めていた六王湖参謀本部であったが、この事件を受けて人事に徹底的なテコ入れが為され、リューリア協商並びにヨダ地区を電撃的に制圧する作戦が立案されることとなった。
パルエ暦6◯◯年、南北停戦によって保たれていた平和は突如として崩れた。帝国から独立して以来中立を保っていた六王湖が帝国とリューリア協商に宣戦布告をしたのだ。宣戦布告からわずか数時間後の開戦劈頭、ノスギア山脈沿いに密かに展開していた六王湖軍は帝国軍の重要拠点ヨダ地区へ機動部隊による奇襲攻撃を敢行した。国境演習を終えて兵士の大半が休暇中であった同地の艦隊を完膚なきまで殲滅、一時的に南半球の制空権を奪取した。リューリア協商の小規模な艦隊は六王湖軍にいとも容易く捻り潰され、次々と都市が陥落した。帝国はこれを座して見守ることは出来ず、急ぎ編成された本国艦隊を送り込んだ。これを察知した六王湖もヨダ地区急襲に参加した精鋭機動部隊を含む大規模な艦隊を派遣し、両者はリューリア上空で剣を交えることになる。
以下参加兵力
帝国:◆第1打撃艦隊(艦載機57機) [クルメ上級大将]
※正規空母1隻で20機、航空戦艦、軽空母一隻で15機、ラドで7機
第1戦隊:戦艦ラドゥクス・インペリウム、 戦艦2(ドラッシェ、バスク)、
重巡3、駆逐艦4
第5戦隊:高速戦艦1(改ノスギア級)、重巡4、駆逐艦6
第3戦隊:航空戦艦1、正規空母1、軽空母1、軽巡2、駆逐艦3
◆第2機動艦隊(艦載機180機)[ヴァルメリダ・グレーヒェン大将]
※正規空母1隻で30機、軽空母一隻で15機
第7航空戦隊:正規空母3、重巡1、駆逐艦4
第2航空戦隊:正規空母2、軽空母2、重巡2、駆逐艦4
〈合計〉戦艦級5、巡空艦12、空母大小7、駆逐艦21、艦載機237機
編成を見ると航空機が主戦力であることが分かる。かつての戦艦主体のドクトリンを捨て航空戦力の強化を行った帝国軍は、保有航空機数200機を超える大艦隊を運用するに至ったのだ。将兵も航空機の優位性を十分に認識し、艦隊を率いるクルメ提督は自らの戦力に絶対の自信を持っていた。最新鋭の正規空母が複数含まれるだけでなく、帝国最強、はたまたパルエ最強とも言われるラドゥクス・インペリウムの存在があったからだ。航空機による遠距離攻撃でも、艦隊を接近させた砲撃戦でも不利に陥ることはないと思われた。
一方の六王湖艦隊の戦力もまた強大であった。以下戦力
六王湖:■グロース=ダルト親衛隊師団(艦載機20機)[ヴァルター=ギュントルット大将]
※航空戦艦2隻で20機
第1重戦列隊:旗艦級戦艦1(ギッザス)、航空戦艦2(メルバルク級)、
戦艦1(ヴァスカラ・コントラルフ)、重巡3、駆逐艦9、火力支援艦2
第13工作部隊:火力支援艦3、武装工作艦4
第4駆逐戦隊:重巡1、駆逐艦4、戦列フリゲート8
■アイギス・デュ護国機動艦隊(艦載機158機)[シュリーツ・ウィッペ中将]
※大型空母2隻で120機、航空戦艦アドで28機、航空重巡で10機
第2航空戦隊:大型空母2(ノスギア級、その他)、航空戦艦アドミラーレ=ウリヤノフール、重巡2、
駆逐艦4、戦列フリゲート6
第3前衛戦隊:航空重巡1(ジストラグル級)、重巡2、駆逐艦4、戦列フリゲート4
〈合計〉戦艦級5、巡空級9、空母2、駆逐艦21、フリゲート18、その他9、艦載機178機
六王湖艦隊の編成も帝国と似たり寄ったりだが、いくつか異なる点があった。まず目立つのは火力支援艦の存在である。この艦は超長射程からのミサイル攻撃に特化していた。50門を超えるミサイルで飽和攻撃されればどんな艦隊も無事では済まない。さらに陸上支援用の重砲さえも装備されていた。この重砲は短砲身で遠距離戦闘に適さないものの、接近した小型艦艇を一撃で葬り去る威力を持つ。また空母い運用も特徴的であった。大型空母2隻に艦載機を集中し、管制を戦艦に任せるという独特な方法だが指揮系統の点で非常に効率的だった。艦載機を発艦させる際は、一定距離ごとに連絡機を配置し、加えて前衛艦隊や先行した艦艇を中継して母艦から指示を行うことができた。防空に関する情報は全て艦隊旗艦に集中するため極めて迅速な指揮が可能であるが、旗艦が攻撃された場合艦隊全体のn防空網が一時的に停止するのは明白であった。この弱点は戦闘結果に大きな影響を与えることになる。
加えて首都防衛艦隊を動員した精鋭であることから帝国の近衛艦隊と比べても非常に強力な戦力だと見積もられた。司令官には30代の若さで大将となったヴァルター=ギュントルット将軍と、新型防空網の整備を進めたシュリーツ・ウィッペ中将があてられた。この2将は六王湖軍内外で改革派として知られており、ともに防空戦力の刷新を行った盟友であり、艦隊の連携において力を発揮すると見られていた。
かくして双方共に互いの戦力に絶対の自信を持ち決戦に挑んだ。先に敵を発見したのは帝国艦隊であった。六王湖艦隊の襲撃を免れた小規模拠点からの観測情報があったので索敵において優位に立つことが出来たのだ。だが、敵艦隊の詳細な編成を知った司令部は混乱に見舞われた。偵察機からの報告によれば敵艦隊は前後2つに分かれて行動しており、それぞれ多数の大型艦を保有するとのことだった―――その大型艦が問題であった。前衛とみられる艦隊の中央に陣取っていたのは何とラドゥクス・インペリウムを遥かに上回る巨大戦艦だったのだ。「ありえない!バカな!」帝国司令部の受けた衝撃は凄まじかった。自分達こそがパルエ最強と自負していたインペリウムの乗員にとってはなおさらである。さらにやや後方の機動部隊にはヨダ地区艦隊を壊滅させた航空戦艦アドミラーレ=ウリヤノフールがその巨体を晒していたのだ。当然どちらを優先攻撃するべきかで意見が分かれることになった。かなり話し合いが紛糾した後、高い攻撃能力を持つであろう機動部隊を先に叩くべしということになった。敵の化け物戦艦を数の暴力で屠るのはその後でも良いと判断された。結局総合した艦隊規模ではやや劣る以上、着実に各個撃破するしか方法はなかった。
ただし戦艦を主力とした第1打撃艦隊艦隊を前進させ、敵の突撃に備えることとした。
一方の六王湖艦隊幕僚団も焦燥を隠せていなかった。リューリア上空に進出してから偵察機でしらみつぶしに索敵しているが、一向に敵艦隊は見つからないのだ。事前情報で確実に存在する事が分かっていても、誘い込まれたのではないかという不安は常に付き纏う。敵艦隊に肉薄し撃滅するという意図が読まれたのかも知れなかった。そんな焦る空気に包まれつつある幕僚団に朗報が飛び込んだ。偵察機が敵艦隊をほぼ前方に捉えたのだ。しかも憎き戦艦ラドゥクス・インペリウムが含まれていると知ったギュントルット将軍は攻撃隊の発進と親衛隊師団によるミサイル飽和攻撃を麾下全艦隊に命じた。そしてほとんど同時に帝国艦隊のクルメ提督も艦載機による攻撃を命令していた。補足
ここで双方の航空戦力に話を移そう。帝国艦載機は南北戦争で蓄えられた膨大な戦訓をもとに大幅な性能向上がなされていた。具体的にはグランビアⅡなど速度に特化した機体、グランオイゲンなど火力重視の機体、またシュタット攻撃機のような対艦攻撃機が挙げられる。これらは制空用、防空用、攻撃用と用途が分けられていた。帝国軍はそれぞれの任務に特化した機体を作る事でバランスの良い優れた航空戦力の創成に成功したのだ。
一方の六王湖艦載機は対照的であった。帝国を仮想敵とした場合国力の差から物量の面で負けることは必至であった。であるからにはいちいち用途を専門化した機体を作るのは非効率であり、全ての任務に対応出来る万能機を作ることこそが最適解だと考えられた。生産効率や整備性の観点からも多くに利点があった。そのため六王湖が新規開発した艦載機の種類は極めて少なく、片手で数えるほどしかない。とはいえモジュール構造により各種装備の付け替えは可能なので多くの派生型が存在していることと、未だ帝国時代の旧式装備に依存することから雑多な編成になることも多い。しかし今回出撃したアイギス・ドュ護国機動艦隊は首都防衛を担う最精鋭であり、最新鋭機で固められている。新型機は非常に合理的な機体であるが、用途が増える都合上容積を拡大するしかなくなり、搭載機数の減少を余儀なくされている。
そして航空攻撃が発令されてから45分……六王湖の攻撃編隊では
「先行した制空隊より入電。目標の敵打撃部隊は直進中。偵察情報通りです!」
「了解した……優先攻撃目標は戦艦だ。護衛機を引き剥がした後、高高度から突入する。」
制空隊と攻撃機隊に分かれた六王湖艦載機群はラドゥクス・インペリウムを含む帝国軍打撃艦隊を攻撃するべく前進していた。アイギス・ドュ護国機動艦隊の繰り出せる最大戦力を叩きつける90機による対艦攻撃で接近する帝国戦艦群を摩耗させ、後続する親衛隊師団によるミサイル飽和攻撃で完全に殲滅する計画だった。
「敵の防空隊が上がってきました。その数およそ50。」
「味方制空隊、敵の頭をとりました!」
帝国軍の防空網はかつてと比較にならないほど強化されていた。元帝国近衛艦隊に属し今は六王湖の攻撃機隊を率いるラーギェリク少佐は敵に最大の打撃を与える方法を模索する。そして彼が至った結論は“肉薄攻撃”であった。予定よりも大きく敵艦隊に斬り込み、ほとんど直上から急降下することを決断する。
「敵の防空網は想定よりも厚いようです。如何致しますか、少佐殿。」
「やはり損害は覚悟しなければならんか………肉薄攻撃しかあるまい。敵の頭上から一気に畳みかける。」
こうして大挙押し寄せた六王湖攻撃機隊は射点につくまでに30%が撃墜されるも高度優位を活かした物量攻撃を帝国艦隊中央の戦艦群に集中させ、中破〜大破の損害を与えることに成功する。そのまま艦隊の下へ潜り込むと最大速度で母艦へ帰投するのだった…
一方のアイギス・ドュ護国機動部隊では動揺が広がっていた。性能向上した探知機によって遠距離で敵攻撃機編隊を捉えたのは良いが、その数は優に100機を上回っていたのだ。迎撃に使える機体は50機程度。その後は高度にシステム化された防空火力に命運を託すことになる。すぐに統制を取り戻した艦隊幕僚団のウィッペ中将は麾下全艦隊に立体防空陣形への移行を命令するのだった。
シュリーツ・ウィッペ中将は齢34歳という若さで抜擢された新進気鋭の軍人だった。ヴァルター=ギュントルット大将の2期下であり、共に航空主兵論を唱える改革派であった。当初は異端扱いされた彼らであったが、シルクダット会戦の戦訓分析やリューリアの戦いでの連邦第5艦隊の活躍、さらに戦時中の帝国戦艦の損失の6割は航空機によるものであるという参謀本部のレポート(やや誇張されたものもあったが)、これらが広まると多くの六王湖士官の見方が変わり、航空戦力の大規模整備が進められた。加えて新規艦艇建造計画「R計画」を主導したことも重要であった。彼の思想が反映された戦闘艦は破格の防空性能を誇り、大量のミサイルによる飽和攻撃は実弾演習で“圧倒的”との評価が与えられたほどだった。そんな彼だからこそ現皇帝の名を冠された機動部隊の指揮官を任されたのである。そして、彼の組織した立体防空網は恐るべき威力を発揮する。
当初防空網に侵入した攻撃機隊は150機だった。護衛戦闘機によって防空隊が封殺されているうちに、多数の攻撃機が防空陣形に突き進んでいった。そして最初の迎撃網が反応する。中、大型艦に配置された25fin砲から多数の対空用砲弾が放たれた。それらは自動装填装置によって口径からは考えられない発射速度を実現した。さらに時間を置いて多数の10.7fin砲が発砲を開始し、加えて噴進弾による濃密な弾幕を形成した。この時点で攻撃隊の10%ほどは対空砲火で撃墜され、投弾コースに入ることすら覚束ない機体が続出した。しかし物量は全てを解決すると言わんばかりに帝国機は果敢に突っ込んでいった。
「敵は物凄い数です…中将殿。既に外周防空圏は突破されました。さらに敵は散開してこちらの弾幕密度を下げるつもりのようです。」
「やはり密度が課題か。飽和攻撃は最も効果的な手段だと参謀本部の演習で示されたが……、正しかったようだな。」
多大な損害を受けながらも何とか防空網を突破した攻撃隊は確固に目標を定め散開していた。この行動が結果的に吉と出たわけである。そうして噴進弾を射出した攻撃隊が離脱するのを見届けると、制空隊も引き上げていった。
この攻撃でアイギス・ドュ護国機動艦隊が被った損害は比較的大きなものだった。空母2隻はそれぞれ中破程度にとどまり艦載機運用能力に影響は無かった。大小護衛艦については重巡クラスの大型艦は1隻が5発の噴進弾で戦闘能力を喪失したものの、他は中破程度の損害で戦闘に支障は無かった。損害が大きかったのは艦隊外周のフリゲートであり、脆弱な船体構造から半数程度が撃破判定となり、残った艦も戦闘能力をほとんど喪失してしまった。そして最も大きな損害を被ったのは航空戦艦アドミラーレ・ウリヤノフールであった。高い防空能力から敵機を全く寄せ付けなかったものの、運悪く1発が対艦噴進弾発射管に直撃してしまい、誘爆で指揮能力を一時的に喪失した。艦隊防空の総指揮を担う艦が途端に沈黙したためそれまで完璧に統制されていた防空網に綻びが生じ、敵機の大量侵入を許すことになる。これが無ければ帝国軍攻撃隊はほとんど戦果を得ることなく逃げ帰らざるを得なかっただろうと後世言われるほどであった。とはいえ新しい防空戦術が非常に有効である事が証明されたため、ウィッペ中将以下幕僚団は満足し、手際よく艦隊を再編し帰投した艦載機を収容すると、前進を開始した。彼の前方では未曾有の大戦艦による艦隊決戦が行われようとしているのであった。
六王湖艦載機の攻撃を何とか切り抜けた帝国前衛艦隊であったが、クルメ提督は焦りを覚え始めていた。攻撃が戦艦に集中されたため艦隊全体で見ると受けた損害は大きくないが、戦艦の戦闘力低下は深刻だった。ラドゥクス・インペリウムは強靭な装甲で敵弾を弾き返し、若干の器官出力低下と小型火器が一部破壊されたのみであった。しかし2隻の高速戦艦は主砲一部破損、光学機器の故障という無視できない損害を負っていた。加えて艦橋に被弾した混乱からダメージコントロールが遅れ、一時は弾薬庫の誘爆すらしかねないほどだった。幸いノスギアは別動隊として艦隊から離れていたため無事だったものの、ラドゥクス・インペリウムと互角以上と見られる戦艦と戦うには力不足だと思われた。提督は一瞬撤退を検討するが、ここで引き上げれば六王湖艦隊はフリーハンドで南半球を縦横無尽に駆け回れることになり、それだけは絶対に避けねばならなかった。もしもこの戦いで敗北したとしても敵に損害を与え、本国艦隊が全力出撃するための時間を稼げれば十分意義はあると考えたクルメ提督は前進を決定する。
「偵察機より入電、敵艦隊はなおも前進セリ。前進セリ。」
(来るか……)戦艦ギッザスに座乗するギュントルット大将は艦隊決戦を行う決意を固めていた。帝作戦で両親を失った経験を持つ彼は興奮を抑え切れなかった。何しろノコノコと出てきた憎き大戦艦ラドゥクス・インペリウムをこの手で葬り去るチャンスが巡って来たのだ。無理も無い事だった。
「全艦、対艦戦闘用意。火力支援艦は敵が射程に入り次第全力射撃。飽和攻撃で混乱させたのち、接近し機動砲撃戦を行う。」
「了解。全艦、高機動戦の用意をせよ!」
最初に攻撃をしたのは六王湖側であった。艦砲と比べて圧倒的な射程を誇る対艦ミサイルを数百発、地平線の彼方へ発射したのだ。さらにダメ押しとばかりに、数十発の重対艦ミサイルを小型ミサイルの群れに紛れ込ませていた。当然帝国艦隊は迎撃を行ったが、到底対処出来る数ではなく、複数の艦艇により精密誘導されるミサイルにより多数の命中弾が生じた。
「緊急回避!っ!間に合わないッ、、ぐわぁぁa!」
「こちら第3戦隊、空母2隻が轟沈!」「戦艦ドラッシェ、大破炎上!」
今まで受けた事も無い大規模攻撃の前に精鋭の帝国艦隊も逃げ惑うことしか出来なかった。この攻撃で空母大小2隻を含む第3戦隊は事実上壊滅し、第1戦隊は護衛艦を失い丸裸も同然となってしまった。そして帝国艦隊の混乱の覚めやまぬうちに、六王湖の親衛隊師団が突入を開始してしまう。
当初1本の槍のように纏まって行動していた六王湖親衛隊師団だが、帝国前衛艦隊が予想以上に弱体化していたため、数で押しつぶすべく両翼に展開し、両側から挟み込んで火力で圧倒しようとした。
「全艦、立体包囲隊形、敵艦隊外周部隊を包囲し、その後吶喊する!こちらは火力で優越している。両側から挟み込んですり潰してやれ!」
帝国艦隊の命運が決したかに見えたその瞬間、突如左側の六王湖艦隊の隊列が乱れた。別行動していた帝国第5戦隊が六王湖艦隊の左横腹に噛みついたのだ。六王湖艦隊は突然の事態に混乱したため対応が遅れ、統制雷撃機動を行っていた第4駆逐戦隊は一斉射で撃沈されてしまう。急遽目標を変更した巡洋艦の統制射撃で何とか抑え込むも、状況は六王湖艦隊の圧倒的不利であった。弱体化した帝国前衛艦隊に殴りかかる格好だったのが、一気に半包囲されてしまったのだ。しかし状況はまたも一変する。ミサイルの再装填を完了した火力支援艦が再び全力射撃を開始。ようやく統制を取り戻しつつあった帝国前衛艦隊をまたも翻弄する。加えて母艦での補給、整備を完了させた双方の艦載機が上空に来援し、激しい制空戦を繰り広げた。もはや砲撃戦を行なっている場合では無くなった両艦隊は撤退を開始し、ここに両者の戦いは幕を閉じることになる。
以下損害
帝国:◆第1打撃艦隊[クルメ上級大将](艦載機45機/57機)
第1戦隊:戦艦ラドゥクス・インペリウム(中破)、 戦艦ドラッシェ(大破、後自沈)、戦艦バスク(大破)、重巡(大破2、撃沈1)、
駆逐艦(小破1、中破2、撃沈1)
第5戦隊:高速戦艦改ノスギア級(大破)、
重巡(小破1、中破3)、駆逐艦(小破1、大破3、撃沈2)
第3戦隊:航空戦艦(撃沈)、正規空母(撃沈)、軽空母(撃沈)、
軽巡(大破2)、駆逐艦(撃沈3)
◆第2機動艦隊[ヴァルメリダ・グレーヒェン大将](艦載機85機/180機)
〈合計〉
撃沈:戦艦級2、巡空級1、駆逐艦6、航空母艦2
大破:戦艦級2、巡空級4、駆逐艦2
中破:ラドゥクス・インペリウム、巡空級3、駆逐艦2
小破:巡空級1、駆逐艦2
健在:第2機動艦隊所属艦
艦載機:130機/237機(損失率55%)
六王湖:■グロース=ダルト親衛隊師団 [ギュントルット大将] (艦載機10機/20機)
第1重戦列隊:航空戦艦パールスフィア(小破)
重巡(小破1)、駆逐艦(小破2)
第13工作部隊:なし
第4駆逐戦隊:重巡(中破)、駆逐艦(中破2、大破1、撃沈1)、
フリゲート(大破2、撃沈5)
■アイギス・デュ護国機動艦隊 [シュリーツ・ウィッペ中将] (艦載機58機/158機)
第2航空戦隊:大型空母(中破2)、航空戦艦アドミラーレ=ウリヤノフール(大破)、重巡(小破1、大破1)、駆逐艦(中破2、大破1、撃沈1)、
フリゲート(小破2、中破1、撃沈3)
第3前衛戦隊:航空重巡ジストラグル級(小破)、重巡(小破2)、
駆逐艦(中破3、大破1)、フリゲート(大破1)
〈合計〉
撃沈:駆逐艦2、戦列フリゲート8
大破:戦艦アドミラーレ・ウリヤノフール、巡空級1、駆逐艦3、戦列フリゲート3
中破:空母2、巡空級1、駆逐艦7、戦列フリゲート1
小破:パールスフィア、巡空級5、駆逐艦2、戦列フリゲート2
健在:戦艦級4、巡空級3、駆逐艦7、戦列フリゲート4
艦載機:68機/178機(損失率38%)
誰がどう見ても六王湖艦隊の圧勝であった。帝国艦隊は戦艦や巡空艦、空母を数多く失ったのに対し、六王湖艦隊は少数の駆逐艦と旧式フリゲートが沈んだのみだった。重要なのは純粋な砲撃戦で失われた艦艇が少ないことだろう。戦闘終盤に奇襲を受けた六王湖空雷戦隊を除けば、殆どが航空攻撃とミサイルで撃沈されていた。これは肉薄し砲撃戦で決着をつけようとした両者の目論見が完全に外れた形となる。結果として従来よりミサイルと航空機の統合運用を主張していた六王湖改革派の勢いは強まり、両軍共に急速に艦隊の再編が進められることとなった。
この戦闘が歴史に及ぼした影響は大きかった。戦闘に勝利したものの艦隊を損耗した六王湖は一旦再編のため大規模な作戦を停止し、しばらくは大艦隊の編成など不可能だった。同じく本国艦隊を再編中であった帝国も大きな軍事行動を起こすことはなかった。半年間の静寂が続いたのち両国は講和し、世界が旧兵器との戦いへ向けて結束していくことになる。南北停戦後発生した数少ない戦例として本会戦は徹底的に研究され、旧兵器を破壊する戦術考案に生かされた。尚、この時出撃した巨大戦艦ギッザスは偵察機の誤報とされ正体がバレることなくひっそりと秘密ドックに舞い戻っている。結局彼女が真価を発揮するには目覚め作戦の開始を待たねばならなかった。
[第二次リューリア上空戦]終