目覚め作戦後の南東地域には、正規軍の統治が行き届かない無法地帯が無数にあった。
旧文明の遺物をかき集め、一攫千金を狙う無法者たちが集まるこの地域では、他人の稼ぎを奪う手段を取っても誰も咎めやしない。
人の死は満ち溢れており、人殺しなんて日常茶飯事であった。
「だけどな、そんな無法地帯でも限度があるってもんだ。わかるだろう?」
「ピューイ!」
「……ふーむ」
とある地下酒場で、カウンターに座るマスターとクルカが、一人の探索者にそう言って経緯を説明していた。
旧文明の核シェルターを改造したこの酒場は、山をくり抜いてバンカーのような作りになっている。酒場はそのバンカーの一角にある。
酒場にはマスターと、ベテランの探索者がいた。その他、ここには数人の人々が集まって食事を楽しんでいた。まだ外は昼なので、客足は比較的静かだ。
この探索者は他の人々の喧騒には目もくれず、グラスの醸造酒をちびちびと飲みながら、マスターからある依頼について話を聞いていた。
「なるほど。いくら縄張りだからって、正規軍の部隊に喧嘩を売るとは……良い度胸してるな、そいつ」
「あの辺りじゃ有名な賞金首らしい。何人もの探索者を殺しては装備を剥ぎ取る無法者だ。それが、イキって遂に正規軍まで邪魔し始めたってわけだ」
「ピューイ!ピュイ!」
マスターの説明の最中、半場酒場のマスコットみたいになっているクルカが口を挟んでくる。私はこいつの騒がしさには慣れているので、無視して話を進める。
「で、正規軍は人手が足りないから俺たち探索者に仕事を頼んでるわけか。じゃあ、その"イザーク"って奴を殺してしまえば任務は完了なんだよな?」
私はマスターにそう確認するが、マスターはしばらく唸ったのち、こう語り出した。
「依頼としてはそうなんだが……暗殺は簡単じゃないぞ。奴は旧文明の鉄道整備工場を拠点としているんだが、本人に変なカリスマがあるからか、数名の腰巾着がいる。警備はそれなりに厳重だろう」
「ピュイピュイ!」
マスターがそう言うので、私は少し顎に手を当て考えた。
「なら一人でと言うわけにはいかんな。同じ依頼を受けている奴はいないのか?」
「今のところはいない。なんせ、この辺りじゃイザークの名を聞くだけで震えて眠る奴らばっかりだからな」
「相当恐れられているのか……それとも──いや、やめておこう」
酒場に地元の探索者がいる手前、その先を言うことはできなかった。私は再び顎に手を当て考える。
今回マスターから受けた依頼は、近くの村で探索者を襲って装備を剥ぎ取っている"イザーク"とかいう荒くれ者の暗殺任務だ。
最近イザークが正規軍の偵察部隊を襲って身包みを剥がしたことで、人員不足の正規軍に代わり、探索者に討伐依頼が出てきたというのが事の発端である。
地元で相当恐れられているのを見るに、装備も人数もそれなりに多い郎党であるのは間違いない。なのでこちらもそれ相応の人数で当たりたかったが、残念ながらここの探索者は怖気づいて依頼を受けていない。今回はソロで行かなくてはならなさそうだ。
「報酬は高いぞ。なんてったって正規軍からの依頼でもあるかな。これだけ出せるようだ」
「ピューイ!」
「どれ……」
クルカから差し出された端末には、報酬となる金額がダルト換算で表示されている。かなり破格の金額だった。襲われた正規軍の奴らが帝国系で助かった。
「いいじゃないか、受けよう」
「決まりだ。……生きて帰れよ」
「ピュイ!」
マスターはそう言って、ゲン担ぎを兼ねてカード(甘いヨーグルト状の飲み物)を渡してきた。パンノニアでは戦地への赴任前にカードを飲む風習があるらしい。
それが彼なりのサービスだと知ると、ベテラン探索者はそれを一気に飲み干した。
仮眠をとって起きたのは夜間だった。
ベテラン探索者にとって、人間を襲撃するのは夜間の方が慣れている。夜の敵は大体寝ているか、起きていても視界が未開の暗闇に包まれる。敵を襲撃するにはもってこいの時間帯というわけだ。
私は主武装のライフルを机に並べ、一度分解してみた。帝国系突撃銃のガルシアⅢは、その単純な構造から南東地域においても広く流通している。この地域の探索者はガルシア系ライフルの整備をこなせるようになってから一皮剥けたと言えるだろう。
整備状況は悪くなかった。分解していたガルシアⅢを素早く元に戻し、必要な物を荷物にまとめた。
拠点にしていたバンカーを出ると、焚火の光を頼りに歩き出した。他の探索者はここで晩餐会を開いていたり、あるいはその喧騒の中で寝袋に収まって寝ていたりする。
バンカー周辺の光が薄くなると、私は端末を確認し、目標の位置を調べる。真っ暗闇の中で端末の光が良く目立つ。
イザークという荒くれものが最後に目撃されたのは、廃線を辿った先にある車両整備工場だ。旧文明の列車が幾つも残っている中規模サイズのもので、自分も足を踏み入れたことがある。
列車の動力含め、目立った遺物はすでに回収されているらしいが、探索者が寄り付かなくなったのをいいことに、賊党や荒くれものが集まる拠点になることがある。定期的にその主は変わるのだが、今回はターゲットとなるイザーク派が占拠しているようだった。
「ここか」
私は一時間ほど歩いて、整備工場が見下ろせる小高い丘にやって来た。
周囲を見渡し、視界の良さそうな場所に陣取る。何か見えるかと思ったが、ここからでは一番明るい整備工場の中を完全に見る事ができなかった。
位置を変えても時々草や木、工場の壁に隠れて内部のすべてが見渡せない。むしろこの整備工場がこの辺りで一番高い建物まであった。
なるほど、この微妙な工場の作り、狙撃から身を護るにはもってこいの場所だなと、ベテラン探索者は思う。ベテラン探索者は見える範囲を地図と照らし合わせ、イザークの護衛が何人いるかを確認しようとする。
工場の入り口、旧文明語で書かれた看板の前に一人。武装は短機関銃。
工場の敷地にポツンとある給水タンクに一人、軽機関銃付き。
他にも、墓のようなオブジェがあった。そこには数名が、焚火を囲って談笑していた。
「あの墓はなんだか……」
不気味で少し趣味の悪いオブジェに見えたが、無視して他を見る。
車両が多く点在する広場の方も見ようとしたが、見えない範囲に数名固まっているようで、人数を把握できなかった。
軽機関銃が厄介だと思ったので、広場で戦闘をするには先ず物見やぐらを潰さなければならない。見たところ給水タンクに昇るには裏のはしごを昇る必要がありそうだ。
私は頭の中でざっくりとした計画を立て、実行する決断を下した。
端末の電源を切り、潜入を試みる。
「よし、取り掛かろう」
まず私は、工場の入り口を見張っている護衛を避け、裏口がないかを探した。
それはすぐに見つかる。車両整備工場には地下水道があり、それを伝って中に入れそうだった。
問題は、上のマンホールを開けたら敵地のど真ん中だった、という事を避けなければならないことだ。だが私は前にここが無人だったころに来た記憶がある。もうこの際、位置関係は間で把握するしかなかった。
私は戦闘に備えて頭の上に備え付けていた暗視ゴーグルを目元に降ろした。中古品で旧式だが、バッテリーは新しくしてあるのでそれなりに長持ちはするはずだ。
電源を入れると、視界が緑色に輝いて鮮明に映る。私は潜入に備え、片手に副武装のメルパゼル製大型拳銃──93式重手槍──を持ち、先端に消音器を付けた。
拳銃に消音器を付け終え、いよいよ中に入ろうとトンネルを覗いたその時だった。
「ッ!」
途端、足音に驚いてドブネズミが慌てて逃げ出したのがよく見えた。中へ向け拳銃を構えると、そこには通常の20倍くらいはありそうな、巨大なネズミがいた。
「クソッ」
小声で口走り、消音器が付いた拳銃を即座に発砲した。
11mmの大口径拳銃弾が、こちらに向かって来たドブネズミの足元を掠める。
拳銃で仕留めきれず、ドブネズミはこちらの腕を噛みちぎろうと、口を大きく開けてかぶりつこうとした。それを見計らって、私はあおむけに倒れる。
「ッ!」
齧り付こうとしたドブネズミは、わざと倒れた私を掠め、脆弱な腹を見せる。私はその腹に向かって二発、拳銃弾を撃ち込んだ。
頭をかすめて飛んでいったドブネズミは、そのまま血を流して倒れる。ネズミが死んだのを確認し、私は拳銃の弾倉を交換、周りを見渡して騒ぎが起こってないかを確認した。
今のところ、イザークの拠点では目立った騒ぎは見られない。気付かれてはなさそうだった。
私は地下水道の中を、柵で覆われて進めない地点まで探索した。その道中、地上へ向かうマンホールは二つあった。私は歩幅と勘を頼りに、奥側のマンホールを選択した。
「頼むぞ」
私はライフルを肩にかけ、拳銃を持ち、奥川のはしごを登り始める。
登りきると、私はマンホールを少しだけ開けてみて、拳銃を構える。
360度見渡してみても、周りに人影はいなかった。こっちで正解のようだ。
周囲は車両のコンテナで隠れた絶好の場所だった。しかも人気が無い。こっちの警備は手薄なようだ。
私はそっとマンホールから這い出ると、暗視ゴーグルの視界を頼りに、給水塔の位置を再確認した。車両の陰から見ると、ざっと20メルトもない位置に給水塔がある。四本の柱で立っている頑丈で大きいつくりだ。
しかしよく見ると、この給水塔は錆だらけだった。さすがの旧文明の遺物でも、数百年単位で放置されては錆も出るものなのだろう。
そんなことを考えながら、私は見張りが反対側を向いているうちに走り出し、給水塔に張り付いた。見張り代替わりになっている給水塔には、階段が螺旋状に伸びているようで、上り下りは一本しかないようだ。
「ようし……」
私は小声で、鞄の中から一つの四角い物体を取り出した。それを階段の下にそっと貼り付けて、その装置の電源を付ける。
地雷だ。それも対人用。レーザー光のセンサーを踏んだのを感知するだけで爆発するタイプの厄介なものだ。それを給水塔の階段横に張り付かせ、草と石で絶妙に隠した。
地雷を設置した後、私は見張りの隙を縫って工場内部に侵入した。
内部は車両整備工場らしく、鉄道車両が数両放置されている。遮蔽物にはなりそうなコンテナ車だったが、ほとんどのコンテナ車はイザークの一味が隠れるのに使っているようだった。
私は近くのドラム缶に隠れながら、工場の上の方を見た。
工場の上の方には、事務室の様な白い部屋があった。階段で上れそうなのが見て通れる。
私は足音を頼りに一味の人数を確かめる。歩いているのは四人ほど、階段まで見える範囲で二人いる。
「なら……」
車両の陰にもう二人がパトロールしていると踏んだ私は、事務所に向かうのは厳しいとみて、しばらく考えて、一芝居打つことにした。
いったん工場を出て、先ほど地雷を仕掛けた給水塔を見る。
私は後ろを向き、すぐそこに隠れられそうなドラム缶が転がっていることを確認すると、それを持ち上げる。そして、手袋を外し、周りに聞こえる音量でわざと指笛を吹いてから、ドラム缶の中に隠れた。
「ん、誰だ?」
気付いた監視員が後ろを向いたのが、ドラム缶の穴から分かった。
監視員は誰かが呼んでいると思ったのか、いそいそと給水塔の階段を駆け下りる。そして、階段を降り切ったその瞬間、地雷が動体を検知した。
爆発。吹き飛ぶ監視員。
その刹那、周りの空気が一変し、一味が騒ぎを聞いて慌ただしく動く。
「な、なんだ!?」
「爆発だ!」
「給水塔の方からだ!」
爆発音を聞いた一味は、いそいそと給水塔の方へと集まってくる。私は足がちぎれて悶え苦しむ監視員の悲鳴を聞きながら、彼が見ていないことを確認した後、ドラム缶ごと転がっていった。
横になったドラム缶から、ドアの方を見る。そこから四人の一味が出てきたのを確認すると、ドラム缶から素早く這い出て、入れ違う様に扉を通り、ドアを閉め、工場へ侵入した。
工場は先ほどの騒ぎでもぬけの殻だった。イザークの一味と言えど、もとは素人の集団だったのかもしれないと少しばかり思った。
さて、ここまで郎党の大将をまだ見ていない。大将が居そうな部屋と言えば、少しばかり上質な部屋であるというのが通例だ。残る部屋は、あの事務室しかない。
私は郎党が戻ってくる前に、イザークがいるであろう部屋に突入する。私は拳銃を構え、階段を一段一段上っていく。物音を立てないように登りきると、工場全体を見渡せる高さに金網の足場が設置されていた。
そして、事務所はその足場に囲われた場所に設置してある。私はドアの前に取り付くと、ドアノブを開ける。そしてドアを勢いよく開いた。
「動くな!手を上げろ!」
私は素早く部屋の中をクリアリングする。そこにはイザークらしきベレー帽をかぶった人物と、上質な椅子、真っ白な机、簡易ベッドなどがあるだけで、他は殺風景なもんだった。
イザークらしき人物は、壁から何かを手に取ろうとしていたが、その前に私が突入したことにより、ゆっくりと両手を上げる。
私は間髪入れずにイザークの方へ近づき、横方向から銃を向ける。
「お前がイザークか?」
「……ああ」
私が質問すると、イザークはそう答えた。ふと、彼が取ろうとしていた壁掛けの銃を見る。ネネツ製、シヴェルト自動小銃。比較的新しい消音器内蔵の自動小銃だ。私はそれを壁から取り上げると、自分の肩に掛け無力化した。
「幾つか質問がある。答えろ」
殺しに来たことは伏せて、前々から気になっていたことを聞いてみることにした。
「何故正規軍の奴らを襲った?」
それを聞くと、イザークはしばらく黙ってから、口を開いた。
「理由がある。俺たちは正規軍を襲うつもりはなかった」
「ならなぜ?」
「最初は些細な争いだった。正規軍の奴ら、俺たちの拠点に来ては仕事の邪魔をして口論になった。具体的にいうと、旧兵器の件でな」
そう言うと、イザークは一呼吸おいてから語り出す。
「俺たちが倒した旧兵器だったはずなのに、ある程度パーツを取って、次の日また見てみたら正規軍の奴らが居た。俺たちの獲物だぞって注意したんだが、正規軍の奴らは連盟管轄だのなんだの言って、聞かなくてな」
「……」
「それで部下が怒って一触即発。だが、最初に発砲したのは正規軍の方だった。それで俺たちは一斉に発砲して、正規軍は全滅、こっちは二人が死んだ」
私はイザークの話を黙って聞いていた。
「ここに来る前に墓が見えただろう。あれは部下の墓だよ。死んだ部下を労ったつもりだったが……」
「……今の話は本当なのか?」
私は一度聞き返す。
「私の話を信じるならな。見たところ、君は私の暗殺を頼まれてきたのだろう?」
「なっ……」
「お見通しだよ。わざわざ真実を問いただせとは依頼しないだろうからな」
イザークはすべてを知っているようだった。真実を知り、感情が揺れる。
だが私は良心を振り払い、受けた依頼の完遂を優先することにした。
「……残念だが、こっちも仕事なんでな。情が湧いてもお前の話は信じないことにするよ」
「そうか。残念だ!」
イザークはそう言って、両手を上げたまま床を思いっきり踏み鳴らした。すると床板が跳ね上がり、中からスモークグレネードが飛び出して、煙を撒き散らし始めた。
「なっ!?」
一瞬で視界が曇る。私は即座に下がって距離を取るが、粉が暗視ゴーグルのレンズに引っ付いて視界が真っ白のままだった。
「くそっ!」
私は暗視ゴーグルを取っ払い、その場に投げ捨てると同時に、イザークを探したが、見つからず──
奴は私の懐に潜り込んでいた。
「シッ!」
「!!」
私は咄嗟に銃を向ける。しかし、イザークは戸惑う私の反応速度を追い越して、拳銃を持っていた手に向かって蹴り上げを喰らわせた。
拳銃が蹴りで吹っ飛び天井に当たる。私は視界が煙に覆われる中、武器を無くした。
「このやろっ」
私は危険も承知で胸のナイフを抜き取り、奴に向かって振り払う。しかし、その切先は寸前のところで避けられると、代わりにアッパーが飛んできた。
「せいっ!」
「がっ」
思いっきり殴り上げられた私は、頭を事務室の窓枠にぶつけて、体が痺れて動けなくなる。首をぶつけたのか、手足の動きが鈍くなった。
それを見計らい、イザークは私が落とした拳銃を拾い、スライドを引く。
「いい腕だ探索者。だが、ここまでだ」
「くっ……」
窓から月明かりが差し込む中、私は立ちあがろうとするが、体の痺れはひどく、できなかった。
奴が引き金を引く──その時だった。
窓が割れる。一発の銃弾が、イザークの胸を貫く。遅れて銃声らしき音が、窓枠の向こう側から響いた。
「な、に……」
イザークは心臓を貫かれたのか、口から血を流し、そのままよろよろと、転がるように倒れた。
私は痛む体を抑え立ち上がる。
「くっ……誰だ?」
狙撃手だ。第三者の介入かもしれないと思い、窓枠に隠れながら、ゆっくりと向こう側を見る。
その狙撃地点らしき場所からは、ピカピカと点滅した光が見える。狙撃手にしては随分と目立つ行動に見えたが、それが発光信号のようなものであると分かると、即座に解読する。
「我、クランダルト軍、援護する?」
その意味を理解すると同時に、私は立ち上がる。
それと同時に、誰かが階段を駆け上がる音が聞こえた。はっとして、私はイザークから拳銃を回収した。ざっと見てナイフは見当たらなかったので、放置する事にした。
そして、私は工場の窓から地面を見下ろした。流石に飛び降りるのは躊躇したが、代わりに排水管が近くにいい感じに伸びていた。
「イザーク様!」
「ご無事ですか!?今行きます!!」
イザークの一派が狙撃の音を聞きつけて戻ってきたらしい。私は急いで窓から這い出て排水管に掴まると、そのまま滑り降りるようにして地面まで降りていった。
それと同時に、また窓枠が割れた。遅れて狙撃の銃声が鳴り響く。誰かが狙撃で援護してくれるのは、本当だったようだ。
走って工場から抜け出して、しばらく歩き、呼吸を整える。装備はナイフ以外は全て回収して戻ってきたが、一つ余分に自動小銃を持って帰っていた。
結構重たいことを考え、捨てるか考えたが、これは珍しい銃なので売れば高くなるかもしれないと思い、持って帰ることにした。
それよりも、狙撃手のことだ。先ほど狙撃手がいた場所にやってくると、そこには二人の人物がいた。
「そこにいるのは、クランダルト軍かな?」
私が問いかけると、狙撃手と観測手は答える。
「はい、そうです。そう言うあなたは、今回イザークの件について、依頼を受けていただいた方ですね?」
「ああ、そうだが。君たちは誰だ?」
狙撃手と観測手は両方とも女性だった。
しかもよく似ている。プラチナブランドの髪に白い肌、クランダルト系を表す識別表、華奢でありながら引き締まった体。
そして何より、瓜二つの外見に鏡合わせのオッドアイ。狙撃手は右目が赤で、左目が青。観測者はその逆だった。
「まずは、ありがとうを先に言うべきでは?」
「これだから探索者は……」
と、女性から礼儀を指摘されたので少しムッとするも、言われてみれば感謝の方が先だったと思い、それに答える。
「……助けてくれて感謝する。危ないところだった」
「はい」
「どういたしまして」
「ところで君たちは?クランダルト軍から援護が来るなんて聞いていなかったが」
それについては、観測手の方が答える。
「私たちは依頼が失敗した際のバックアップとして派遣されていました。要は監視役です。貴方が依頼をしくじった際は、イザークを始末するようにと」
「……なるほど。で、俺が見事にしくじりそうだったから、手を下したと」
「そうなります。なので、今回の依頼は失敗と見なされますね」
「…………」
彼女たちから交互にそう言われ、依頼が失敗扱いになったことで、私は心の中で小さく舌打ちをした。
「ですが、せっかく依頼を受けていただいた身ですので成功報酬の半分は差し上げます」
「が、これ以上の報酬はこちらとしては差し上げられない形になります。当然ですね」
「わかったわかった。それでいいよ」
少し気が滅入り、彼女たちから指摘される言葉の釘にイライラし始めたところで、強制的に話を終わらせた。
変な奴らに援護されてしまったと悔やみつつ、私はハンガーへの帰路についた。今日は少し疲れた。
その後、マスターから成功報酬の半分をもらった。マスターからは深夜に生きて帰ってきたことを喜ばれたが、自分としては成功扱いにならなかったことが悔やんで仕方ない。
ちなみに、シヴェルト自動小銃は状態も良く弾丸の在庫もあると言うことなので、新しい主武装にする事にした。
翌日の昼、しっかりとした睡眠をとって起きたその日の日差しを浴びながら、私はまた新しい仕事に就く。
「いい成果を!」
「ピューイ!」
「ああ、いい成果を」
私はそう言ってマスターの見送りを返した。
歩き始めてしばらく経ったのち、そう言えば、あの狙撃手の二人はいつから先回りしていたのだろうかと気になった。
あの狙撃手が居れば、最初から楽な任務になるだろうに、何か裏があるのだろうか……?