ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

吊り天秤は大きく傾く

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吊り天秤は大きく傾く ◆eQMGd/VdJY



「え?」
「いや。だから、何か聞こえなかったか?」

立ち止まり、唐突に問いかけてきた対馬レオに対し、山辺美希はどう答えて言いか迷う。
確かに、今しがた美希の耳にも、後方から何かが爆発する音が聞こえた。
が、仮にここでYESと答えた場合、目の前のレオはどう動くだろうか。
美希としては、なるべく問題を避けながら集団に混じりたい。
先の爆発音は恐らく、何らかのトラブルの証だろう。
この殺し合いの場において、あれだけの爆音を鳴らすなど、常人ならば出来ないはず。
好奇心は猫をも殺すと言う諺通り、行けば死に繋がる可能性が高い。
とぼけた表情を作りながら、美希はレオの手を引く。

「何も聞こえませんでしたよ? ほら、ここって川が近いですし」
「そうかもしれないけど、もし誰かいるなら助けてやらないと」

後ろ髪引かれる様な態度に、美希は不安そうな顔を見せる。
事実不安なのだ。現状でトラブルに飛び込むのは危険だ。
仮に問題を消化できたとしても、火種が残っては不味い。
そんなものを抱えた人間など、誰が手を差し伸べようか。

「でもでも、やっぱり対馬さんの聞き間違いですよぉ」
「ん~」

確かに美希の言うように、耳を澄ませば途切れる事のない水音が聞こえてくる。
腕を組んで悩んでいたレオだったが、気のせいと言う事で納得したらしい。
なんとか誘導できて安心した美希だったが、先を行くレオの評価はグンと下がった。
下手に筋を通そうとする正義感は、今後の行動で大きな災いを招くだろう。
早めにレオを切り捨てるか。それとも時間を掛けて従えるか。
無防備に背中を曝け出すレオの後ろを歩きながら、美希は悩む。
と、僅かに周囲への意識を緩めた時、薄暗い森の置くから何かが飛び出すのを瞳が捉える。
いち早く危険に反応した美希は、前方のレオを強引に掴んだ。

「対馬さん危ないです!」
「ぅおっ!」

ぐるりと反転させられたレオは、美希に抗議しようとするが、
視界の先に現れた強い存在感を示す刀と、その奥にいる白い影に驚く。
顔に見覚えはないが、その視線は確実に二人を捉えているのが理解できる。
慌てつつも美希の前に立ち、庇うように銃を構える。

「な、誰だよアンタ!」

激昂する感情を抑える事無く、レオは警戒心を露にしながら名を尋ねた。
が、そんな警戒など無視するかのように、襲撃者は一歩前に踏み出す。
一歩。また一歩。何度か呼びかるものの、何一つ反応が返ってこない。
ジリジリと迫る白服の男に対し、後退りながら距離を保つ。
と、目の前の男は突然止まり、構えていた刀をゆっくりと地に降ろす。
こちらの呼び掛けに応じるのかと、それに釣られたレオも銃口を下げてしまう。
その判断が間違いだと気付いたのは、当のレオ本人以外の二人。
次の瞬間には相手は大きく跳び、綺麗な一太刀をレオに見舞っていた。
避ける間もなく制服の左肩が裂け、肩から噴出した鮮血が弧を描く。
痺れるような感覚が傷口を中心に浸食し、同時に侵入してきた恐怖の侵攻が始まる。
それでも、血が減っていくと訴える筋肉に無理を利かせ、右手で美希の手を掴み逃げるように走る。
未だに溢れてくる血液に我慢しながら、レオは後方を睨み、そして愕然とした。
刀を握った襲撃者は、予想以上の速度で二人に追いていたのだ。
追いつくだけでない。その腕は、すでに頭上へと振り上げ攻撃へと向っていた。
二人では逃げ切れないと悟ったレオは、立ち止まって、美希を背に隠す。

「ぐ、う……逃げろ」
「そんな、対馬さんは!?」


斬られた肩を抑えつつ、レオは頑張って作り笑いを浮かべた。
肩越しに見た美希を不安にさせまいと、当人なりの気遣いである。
それに対し、心配であるとアピールするように、美希はレオの袖を掴む。
だがそれを振り払うかのように、レオは襲撃者に向かって一歩踏み出す。

「大丈夫だ。一人ならなんとかなる」
「……分かりました。美希、誰か呼んできますね!」

レオの発言に、美希は一度も振り返る事無く逃走を開始する。
襲ってきた襲撃者と逆の、本来二人が進もうとしていた北に向かって。
そうこうしている内に、襲撃者はすでに目の前まで来ていた。
刀の間合いなど判らないレオは、懸命に距離をとる。目測で10mは離れただろうか。

(くそぉっ! せめてあっちが逃げる時間は稼がないと)

美希が北に逃げるならば、レオは相手の注意をこちらに向けさせつつ南に進むしかない。
威嚇する蜂を刺激する気持ちで、レオは無事な腕で銃を構える。
そして慣れない手つきでトリガーに指を掛けると、躊躇せずに指を引いた。
だが、予想以上の反動に腕が上空に持っていかれる。銃を離さなかったのが奇跡なくらいだ。
これを見ていた相手は、レオは文字通り素人だと認識したのか、距離を大幅に詰める。
しかし結果的に、この反動がレオの心に冷たい水を湧きあがらせた。

(何やってんだ対馬レオ! 落ち着けッ)

そう。テンションに身を任せてはいけないと、普段からあれほど言っていたではないか。
銃口だけを襲撃者に向けつつ、レオは誘うように南に後退を始める。
どちらを追うか悩んだ襲撃者だったが、視界に残っているレオを選んだようだ。
魚が餌に掛かったのを確信したレオは、追いつかれないギリギリの速度で走り出す。
牽制のために向けた銃口が効いているのか。相手の警戒は続く。
誘い込む際、適当な方角に数発撃ったのも効いているようだ。


素人であることはばれているのだろうが、それでも効果はあるようで、襲撃者からの追撃は来ない。
出来ることならば、この状態のまま南下していきたいレオ。
彼が目指しているのは川。そこに飛び込み、難を逃れようというのだ。
確実に詰まっていく二つの足音。水の音はまだ遠い。




◇◇◇




一人逃走を済ませた美希は、困ったと言う表情を露骨に示していた。
せっかく手に入れた盾をもう失ってしまったからだ。
社交辞令として誰か探すとレオに告げたものの、そんなつもりは毛頭ない。
今回の件で理解した。下手に正義感の強い人間は面倒くさいと。
そんな美希の耳に、初めて聞く二種類の声が微かに伝わる。
声からすると女性だろうか。気付かれないように、そっと近付く。
茂みから発信源を覗き込むと、そこでは見知らぬ二人の女性が問答をしていた。
やりとりを聞く限り、それぞれ鉄乙女と杉浦翠と言う名のようだ。

「だから、鉄だからてっちゃん」
「頼むから、その呼び方だけはやめてくれ」
「ぶーぶー。可愛いじゃない」
「……普通に乙女さんと呼べんのか」

今、少し向こうでは殺し合いが始まっていると言うのに、暢気なものだ。
そんな感想を飲み込みつつ、美希は直前のやりとりを思い出す。

(鉄……対馬さんの言ってた人かな?)


偽名の可能性もあるが、その時は調子を合わせるなりすればいい。
まさかいきなり飛び掛っては来ないだろう。第一、殺し合いに乗っているにしては仲が良すぎる。
とは言え、いきなり姿を見せても警戒されてしまう。
が、ここで一つ名案を思いつく。こういう場所で、尚且つ女が相手だから通用する芝居。
美希は衣類を適当にはだけさせ、顔に泥を塗ると、泣きながら二人まで走りだす。

「た、助けてください!」

突然飛び出してきた美希に警戒した乙女だったが、その姿を見て警戒を解く。
同時に碧の方も、やや真面目な雰囲気を構えつつ美希を抱きしめた。

「ちょっと、どうしたの?」
「あ、あっちで、襲われて! 美希を庇おうと、対馬さんが!」

最後に飛び出してきた単語に、乙女は勢いよく飛びつく。
魚が喰らい付いたのを心の内で確信しつつ、美希は嗚咽混じりに状況を語る。
突然現れた相手が、刀で斬りかかってきて、それをレオが身を呈して庇ってくれたのだと。
相手の姿だけはぼかしたものの、基本的には全て事実だ。
それを聞いた乙女は、美希が飛び出してきた方角目掛けて一気に駆け出す。

「あ、てっちゃん!?」

同じく追いかけようとする碧だったが、抱きかかえた美希が動かない。
見れば肩は小刻みに震え、表情が硬く張り付いている。
こんな震えた美希を置いていくなど、碧には出来なかった。
遠くなっていく乙女の背を見送りながら、碧はその場にとどまる事を決意。
もちろんここまでの美希の様子は、全てが演技。清々しいまでのひとり芝居である。

「うぅ……」
「ほら。あっちで休もう」


疑いの心など持たない碧は、目と鼻の先にあった温泉旅館を目指す。
しっかりと肩を抱きしめられながら、俯く美希は小さく唇を動かした。

(杉浦さん……でしたっけ。今度は役に立ってもらえると、美希的には嬉しいです)





【D-6 旅館周辺/1日目 黎明】
杉浦碧@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備】:不明
【所持品】:支給品一式、支給品(未確認0~2)
【状態】:健康
【思考・行動】
0:旅館で美希を休ませる。
1:美希が落ち着いたら乙女を探しに行く。
2:反主催として最後まで戦う。
3:知り合いを探す。


【山辺美希@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【装備:投げナイフ1本】
【所持品:支給品一式、投げナイフ4本、ランダム支給品0~2(本人確認済み)】
【状態】:恐怖(芝居)。健康。衣類に乱れ。
【思考・行動】
 基本方針:とにかく生きて帰る。集団に隠れながら、優勝を目指す。
1:杉浦碧からの信頼されるよう振舞う。
2:太一、曜子を危険視。
3:刀を持った人間が危険だと言う偽情報を、出会った人間に教える。
【備考】
※ループ世界から固有状態で参戦。
※つよきす勢のごく簡単な人物説明を受けました。




◇◇◇



一乃谷愁厳は、逃げ続けるレオを着実に追い詰めていた。
二手に分かれた時は判断に迷ったが、かといって二人逃がしては意味がない。
結果、残ったレオの方に照準を絞ることにしたのだ。
もちろん、レオが誘っていると分かっていたが、あえてそれに乗る。
何か策があるのだろうが、先程の射撃を見る限り戦いに慣れてはいない様子。
道すがら、三発の銃声を聞いたが、愁厳まで届いた弾は一つもない。
念には念を込めて距離を保っていたが、どうやらこれ以外は本当に何も無いようだ。
このまま行けば、川にぶつかる。そうなれば逃げ場など無い。
と、前方を行くレオが愁厳を睨みながら声を荒げる。

「もしかして、アンタ黒須太一じゃないだろうな!?」

レオの呼びかけを無視する。誰と勘違いしているかは知らないが、詮無き事。
答えだと言わんばかりに、頭の天辺から爪先まで殺気を纏う。
やがて薄暗い森が終わり、視界が一気に晴れる。
先を逃げていたレオは、銃を構えたままジリジリと後ろに下がっていた。
このまま後退すれば、行き着く先は橋ではなく崖。

(飛び降りるつもりか?)



川の流れは激流に近い。こんな中を飛び降りれば、無事では済まないだろう。
それが解かっているのか、レオは青ざめた顔で川に視線を送っている。
この間に、じわりじわりと、気付かれないように足場を踏み潰す。
同時にレオの手持ちの札を確認しておく。
レオが手に持っているのはリボルバータイプの銃。うち、四発は追撃中に撃ち終えている。
銃の残数が分からない形状ならば、不安要素はあった。だが、目の前のそれは違う。
しっかりと開いた穴は五つ。そして弾の補充をしていた素振りは無い。
ならば撃てたとして一発のみ。愁厳はそれだけに注意すればいいだけ。
未だに川と愁厳を交互に見比べるレオに向け、愁厳は大地を蹴り飛ばす。
警戒はしていただろうが、まさか直線を飛んでくると思わなかったのだろう。
慌てた様子で銃を持ち直し、焦りの様子で照準を愁厳に合わせ、その引き金をひく。
もちろん狙われるのを理解しての突撃だ。愁厳に慌てた様子は無い。
銃口から吐き出された弾丸は、ぶれる事無く愁厳まで走る。
だが、弾丸が顔を出したと同時に、愁厳は上空へ大きく跳ぶ。
残った砂煙の中を、弾丸が虚しく突き抜けていく。
予想していなかったのだろう。愁厳がここまで人間離れしていると。
こうなったら、レオが取る道は一つしかない。
上空から迫る刃から逃れるため、後方に飛ぼうと身体の向きを変える。

「レオ!」

今まさに、その身を投げ出さんとしてたレオが、一瞬だけ振り返る。
森から飛び込んできたその声は、レオを探し走り続けていた乙女のものだった。
窮地に立たされていたレオにとって、乙女の登場は何よりも待ち望んだ希望。
レオの顔が困惑から喜びへと変化する。だが、希望にはいつも絶望が付き纏うもの。
絶望を運ぶ愁厳は、レオの頭上から突きの構えで急降下する。
レオが乙女に言葉を返すのを遮るかのように、激痛が呼吸の循環を停止させた。
背中に刺さった刀身は、一直線に下腹部を貫通し、その切っ先を煌かせて。
逆に、先端部分から押し出され、刃に絡まるよう飛び出した小腸は、不気味な生き物のように蠢く。
言葉の代わりに、レオの口から紅い泡が零れ出す。
希望と絶望の吊り天秤は、ゆっくりと絶望へ傾き始めた。


◇◇◇




叫ぶより先に、乙女は走り出していた。目の前で串刺しにされたそれは、紛れも無くレオそのもの。
咄嗟に握り締めていた銃を構えるが、下手をすればレオに当たってしまう。
止むを得ず、乙女は銃を投げ捨て拳一つで突撃を開始。
疾風の如き速度で二人に接近する。時間が無い。あのままではレオが死んでしまう。
だが、地に足を降ろした愁厳は、そんな乙女を牽制するかのように立ち位置を変える。
その際に、動いた反動で、レオに突き刺さる刀は容赦なく中身を掻き混ぜていく。
腹部からでは足りないのか、レオの口からはとどまる事無く紅い泡が噴き出す。
眼前で広がる最愛の弟の悶絶に、乙女は何も考えられなくなる。
ただ純粋な怒りと恐怖に身を委ね、無我夢中に拳を振るう。
型を忘れ、平常心を失った乙女の拳は、愁厳に一度たりとも触れられない。
右に拳を突き出せば左に避けられ。左に蹴りを放てば右に逃げられ。
そしてその度に、レオの身体は掻き乱され、眼球から涙が溢れ落ちる。
乙女の動きがより一層鈍くなる。彼女が懸命になればなるほど、地獄は悪化していくのだ。
全身から滝のように汗を流す乙女と対照的に、愁厳の顔は涼しいまま。
自身が盾にしているものなど気にしていないように、ただ乙女の動きだけを追う。
一方の乙女の心は、極限状態に到達しようとしていた。
愁厳からの反撃は無い。それなのに、乙女の精神はずたずたに切り刻まれていく。
一刻も早く助けなければと言う焦りと、もう目を逸らしたいという叫び。
串刺しになったレオが痙攣するたび、乙女の視界が歪んでいく。
あと少し手を伸ばせば届くのに。届かない。助けられない。
だが、無意識ながらも、乙女は本能的に愁厳を追い詰めていた。
気付けば三人がいるのは、川の淵。少し高い崖のような場所。
少しだけ焦りの表情を浮かべた愁厳は、最善の手を欲する。



(退路はなし……か)

ひたすら回避を続けていた愁厳だったが、別段余裕を見せていたわけではない。
乙女の動きが俊敏過ぎるため、逃げるだけで手一杯だったのだ。
ならばいっそ、数発喰らうのを覚悟し、攻めに転じようかと考えたところで思いつく。
目の前で必死に手を伸ばす乙女の目的は唯一つ。ならば、それを利用しないては無い。
すっと呼吸を置き、吐き出すと同時に握っていた柄に力を込め、一気に下へと捻り降ろす。
これにより、レオの腹部が鎖骨から臍まで一気に切開される。
皮膚はダンボールを裂くようにあっさり破れ、次に脂肪の少ない筋肉が音を立てて千切れていく。
そして最後に、詰め込まれていた臓器が二つに分断され、開いた穴から我先にと外に飛び出していった。

「うああああああああぁぁぁぁぁ!!」

喉を潰すかのような乙女の絶叫を耳を立てず、愁厳は刀を抜き取りレオを川へと蹴り飛ばす。
先に落ちたレオの身体。それに追従するように、千切れかけの臓器。
二つは途切れる事無く、激しい激流の中へと水飛沫を立てて沈んでいった。

「レオぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおっッッッ!!」

愁厳に背を向けるのも構わず、乙女もまた川へと飛び降りていく。
斬り捨てようと刀を振る愁厳だったが、手応えがまるで無い。
振り下ろした刀の先には、既に誰もいなかった。残ったのは、流れ続ける川の音だけ。
その中で愁厳は一人、無音のまま崖から離れ、安全な場所まで戻ると深く目を閉じた。
黙祷を捧げている様にも見えるが、閉じた瞼には慰めの動きがない。
視界を闇に染めてた愁厳が思っていた事は一つ。レオが叫んだ名だ。
取り立てて注意する事ではないが、その響きが頭から離れずにいる。
なるべくならば名前は覚えたくなかった。斬り捨てる刀に重みを乗せたくない。

「黒須太一……か」


そう。
知ってしまったのならゼロにすればいい。これより自身が暫くの間、黒須太一となろう。
今後もし、誰かに名を問われたら、この名を答えれば済むことだ。
そしていずれ、本当の持ち主に一太刀浴びせつつ返してやれば済む。
瞼を開き、二人が流されていった川を見下ろす。少なくとも、男の方は助からない。
懸念が残るのは、泣きながら拳を振るった乙女を、殺しておくべきだったかいう事。
だが、あのまま無理をして攻撃に転じ、怒りを受け止めるメリットはない。
あの時の拳の純粋な怒り。それを浴びれば、愁厳とて無事ではすまないだろう。
破裂した感情の怖さを理解しているからこその選択だった。
ふと、一瞬だけ刀の切っ先に視線がいく。そこにこびり付いた血と肉片を、無言で振り払う。
理解してはいたが、どうやら本当に太刀筋に迷いはないようだ。
生きた人間を盾にする躊躇いなど、少なくともこの場に必要ない心。
人は愁厳を外道と呼ぶかもしれない。ならばどこまでも堕ちようではないか。

「もとよりこの身に人の跡はない」

優しさもぬくもりも、余す事無く刀子に委ねてある。
喜びや悲しみも、あの時に全て成し遂げた。
ここにあるのはただ、愁厳の皮を被りし悪鬼也。
心の耳を削ぎ、彼らの叫びを断絶しよう。心の目を抉り、彼らの末路を遮断しよう。
今一度、血を拭った刀身に心を写す。穢れた刀身は、すでに煌きを取り戻していた。




【D-6 橋周辺/1日目 黎明】
【一乃谷愁厳@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備:今虎徹@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【所持品:木刀、支給品一式、不明支給品(0~2)】
【状態】:疲労(小)。かなりの返り血。
【思考・行動】
基本方針:刀子を神沢市の日常に帰す
1:生き残りの座を賭けて他者とより積極的に争う
2:今後、誰かに名を尋ねられたら「黒須太一」を名乗る

【備考1】
【一乃谷刀子@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【状態:精神体、健康、気絶中】
【思考】
1:不明

【備考2】
一乃谷刀子・一乃谷愁厳@あやかしびと -幻妖異聞録-は刀子ルート内からの参戦です。






◇◇◇




激流に飲まれながら、乙女は必死の様子でレオを抱きしめた。
だが、ようやく触れられたのに、腕の中のレオに意識は無い。



それどころか、激流に耐え切れない細い臓器は、今にも千切れそうに水中を揺らぐ。
自然に出来た渦に巻き込まれるたび、細長い臓器はどんどん川に広がっていく。
次々と真っ赤な水中に散らばっていく臓器を、乙女は懸命に掴み取る。
そして掴んだものをパックリと割れたレオの腹部へ丁寧に戻す。
が、この丸い臓器が収納されたと同時に、今度はクラゲのような臓器が外に飛び出す。

(駄目、やめてくれッ! それは、それはレオのなんだ!)

次に押し込めば赤い臓器が。
次に押し込めば桃色の臓器が。
次に押し込めば細い管が。
次に押し込めば、太い管が。
もともとは綺麗に詰め込まれていたはずなのに、上手く収納できない。
焦る乙女とは裏腹に、レオから流れていた血がどんどん少なくなっていく。
飛び込んだときには二人を包んでいた赤色の水が、今はレオの周囲からも消えている。
自身すら流されそうになる激流の中、乙女は無我夢中ではみ出していくレオの臓器をしまい続けた。
が、綺麗に収まっていたものは二度と収まることは無く、遂には殆どの臓器が捲れて千切れていく。
やがて流れの緩やかな下流まで辿り着いたとき、既にレオの中身は殆どが綺麗に攫われていた。
打ち上げられた砂浜で、乙女は軽くなったレオに覆い被さっていた。
顔をあげることが出来ない。顔をあげれば、現実に向き合わなければならない。
けれども視界を覆う闇の中ですら、乙女は自分自身に責められる。



救えた。もっと早く誇りを取り戻し、すぐさまレオを探していれば。
救えた。あのように急に飛び出たりせず、もっと冷静に対処していたならば。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
けれど、救えなかった。

「レオ。ほら、起き……ろ」

そうだ。呼びかければ、レオはきちんと返事をしてくれる。
いつだってそうだ。今はきっと聞こえないフリをしているだけ。

「お姉ちゃん、を……困らせる、んじゃない」

だから顔を上げ、その姿を直視して視界が歪む。
都合のいい空想は、どろどろに溶かされてしまう。
そうして残された亡骸こそが、乙女に残された現実。

「ぁ、ぁぁ……ぅ」

対馬レオの天秤は絶望へと大きく傾いた。
希望の皿から奪われたのは、臓器か。それとも未来の糸か。
そして、対馬レオの死の重りは、鉄乙女をどちらに傾かせるのだろうか。



【対馬レオ@つよきす -Mighty Heart-】 死亡



【E-8 川の下流の砂浜/1日目 黎明】
【鉄乙女@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式(未確認支給品0~2)。レオのデイパック(未確認支給品0~2)
【状態】:茫然自失。強烈な喪失感。肉体疲労(中)。精神疲労(大)
【思考・行動】
1:ぅぁ……ぁ……
2:自分の誇りを取り戻したい。
(死への拭いがたき恐と環への劣等感あり)




036:To hell ,you gonna fall 投下順 038:降り止まない雨などここにはないから(前編)
時系列順
009:狂ヒ咲ク人間ノ証明 杉浦碧 061:D6温泉を覆う影
011:固有の私でいるために 山辺美希
020:誰が為に刀を振るう 一乃谷愁厳・一乃谷刀子 068:嘆きノ森の少女
009:狂ヒ咲ク人間ノ証明 鉄乙女 052:鬼神楽
011:固有の私でいるために 対馬レオ


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