吊り天秤は大きく傾く ◆eQMGd/VdJY
「え?」
「いや。だから、何か聞こえなかったか?」
「いや。だから、何か聞こえなかったか?」
立ち止まり、唐突に問いかけてきた対馬レオに対し、山辺美希はどう答えて言いか迷う。
確かに、今しがた美希の耳にも、後方から何かが爆発する音が聞こえた。
が、仮にここでYESと答えた場合、目の前のレオはどう動くだろうか。
美希としては、なるべく問題を避けながら集団に混じりたい。
先の爆発音は恐らく、何らかのトラブルの証だろう。
この殺し合いの場において、あれだけの爆音を鳴らすなど、常人ならば出来ないはず。
好奇心は猫をも殺すと言う諺通り、行けば死に繋がる可能性が高い。
とぼけた表情を作りながら、美希はレオの手を引く。
確かに、今しがた美希の耳にも、後方から何かが爆発する音が聞こえた。
が、仮にここでYESと答えた場合、目の前のレオはどう動くだろうか。
美希としては、なるべく問題を避けながら集団に混じりたい。
先の爆発音は恐らく、何らかのトラブルの証だろう。
この殺し合いの場において、あれだけの爆音を鳴らすなど、常人ならば出来ないはず。
好奇心は猫をも殺すと言う諺通り、行けば死に繋がる可能性が高い。
とぼけた表情を作りながら、美希はレオの手を引く。
「何も聞こえませんでしたよ? ほら、ここって川が近いですし」
「そうかもしれないけど、もし誰かいるなら助けてやらないと」
「そうかもしれないけど、もし誰かいるなら助けてやらないと」
後ろ髪引かれる様な態度に、美希は不安そうな顔を見せる。
事実不安なのだ。現状でトラブルに飛び込むのは危険だ。
仮に問題を消化できたとしても、火種が残っては不味い。
そんなものを抱えた人間など、誰が手を差し伸べようか。
事実不安なのだ。現状でトラブルに飛び込むのは危険だ。
仮に問題を消化できたとしても、火種が残っては不味い。
そんなものを抱えた人間など、誰が手を差し伸べようか。
「でもでも、やっぱり対馬さんの聞き間違いですよぉ」
「ん~」
「ん~」
確かに美希の言うように、耳を澄ませば途切れる事のない水音が聞こえてくる。
腕を組んで悩んでいたレオだったが、気のせいと言う事で納得したらしい。
なんとか誘導できて安心した美希だったが、先を行くレオの評価はグンと下がった。
下手に筋を通そうとする正義感は、今後の行動で大きな災いを招くだろう。
早めにレオを切り捨てるか。それとも時間を掛けて従えるか。
無防備に背中を曝け出すレオの後ろを歩きながら、美希は悩む。
と、僅かに周囲への意識を緩めた時、薄暗い森の置くから何かが飛び出すのを瞳が捉える。
いち早く危険に反応した美希は、前方のレオを強引に掴んだ。
腕を組んで悩んでいたレオだったが、気のせいと言う事で納得したらしい。
なんとか誘導できて安心した美希だったが、先を行くレオの評価はグンと下がった。
下手に筋を通そうとする正義感は、今後の行動で大きな災いを招くだろう。
早めにレオを切り捨てるか。それとも時間を掛けて従えるか。
無防備に背中を曝け出すレオの後ろを歩きながら、美希は悩む。
と、僅かに周囲への意識を緩めた時、薄暗い森の置くから何かが飛び出すのを瞳が捉える。
いち早く危険に反応した美希は、前方のレオを強引に掴んだ。
「対馬さん危ないです!」
「ぅおっ!」
「ぅおっ!」
ぐるりと反転させられたレオは、美希に抗議しようとするが、
視界の先に現れた強い存在感を示す刀と、その奥にいる白い影に驚く。
顔に見覚えはないが、その視線は確実に二人を捉えているのが理解できる。
慌てつつも美希の前に立ち、庇うように銃を構える。
視界の先に現れた強い存在感を示す刀と、その奥にいる白い影に驚く。
顔に見覚えはないが、その視線は確実に二人を捉えているのが理解できる。
慌てつつも美希の前に立ち、庇うように銃を構える。
「な、誰だよアンタ!」
激昂する感情を抑える事無く、レオは警戒心を露にしながら名を尋ねた。
が、そんな警戒など無視するかのように、襲撃者は一歩前に踏み出す。
一歩。また一歩。何度か呼びかるものの、何一つ反応が返ってこない。
ジリジリと迫る白服の男に対し、後退りながら距離を保つ。
と、目の前の男は突然止まり、構えていた刀をゆっくりと地に降ろす。
こちらの呼び掛けに応じるのかと、それに釣られたレオも銃口を下げてしまう。
その判断が間違いだと気付いたのは、当のレオ本人以外の二人。
次の瞬間には相手は大きく跳び、綺麗な一太刀をレオに見舞っていた。
避ける間もなく制服の左肩が裂け、肩から噴出した鮮血が弧を描く。
痺れるような感覚が傷口を中心に浸食し、同時に侵入してきた恐怖の侵攻が始まる。
それでも、血が減っていくと訴える筋肉に無理を利かせ、右手で美希の手を掴み逃げるように走る。
未だに溢れてくる血液に我慢しながら、レオは後方を睨み、そして愕然とした。
刀を握った襲撃者は、予想以上の速度で二人に追いていたのだ。
追いつくだけでない。その腕は、すでに頭上へと振り上げ攻撃へと向っていた。
二人では逃げ切れないと悟ったレオは、立ち止まって、美希を背に隠す。
が、そんな警戒など無視するかのように、襲撃者は一歩前に踏み出す。
一歩。また一歩。何度か呼びかるものの、何一つ反応が返ってこない。
ジリジリと迫る白服の男に対し、後退りながら距離を保つ。
と、目の前の男は突然止まり、構えていた刀をゆっくりと地に降ろす。
こちらの呼び掛けに応じるのかと、それに釣られたレオも銃口を下げてしまう。
その判断が間違いだと気付いたのは、当のレオ本人以外の二人。
次の瞬間には相手は大きく跳び、綺麗な一太刀をレオに見舞っていた。
避ける間もなく制服の左肩が裂け、肩から噴出した鮮血が弧を描く。
痺れるような感覚が傷口を中心に浸食し、同時に侵入してきた恐怖の侵攻が始まる。
それでも、血が減っていくと訴える筋肉に無理を利かせ、右手で美希の手を掴み逃げるように走る。
未だに溢れてくる血液に我慢しながら、レオは後方を睨み、そして愕然とした。
刀を握った襲撃者は、予想以上の速度で二人に追いていたのだ。
追いつくだけでない。その腕は、すでに頭上へと振り上げ攻撃へと向っていた。
二人では逃げ切れないと悟ったレオは、立ち止まって、美希を背に隠す。
「ぐ、う……逃げろ」
「そんな、対馬さんは!?」
「そんな、対馬さんは!?」
斬られた肩を抑えつつ、レオは頑張って作り笑いを浮かべた。
肩越しに見た美希を不安にさせまいと、当人なりの気遣いである。
それに対し、心配であるとアピールするように、美希はレオの袖を掴む。
だがそれを振り払うかのように、レオは襲撃者に向かって一歩踏み出す。
肩越しに見た美希を不安にさせまいと、当人なりの気遣いである。
それに対し、心配であるとアピールするように、美希はレオの袖を掴む。
だがそれを振り払うかのように、レオは襲撃者に向かって一歩踏み出す。
「大丈夫だ。一人ならなんとかなる」
「……分かりました。美希、誰か呼んできますね!」
「……分かりました。美希、誰か呼んできますね!」
レオの発言に、美希は一度も振り返る事無く逃走を開始する。
襲ってきた襲撃者と逆の、本来二人が進もうとしていた北に向かって。
そうこうしている内に、襲撃者はすでに目の前まで来ていた。
刀の間合いなど判らないレオは、懸命に距離をとる。目測で10mは離れただろうか。
襲ってきた襲撃者と逆の、本来二人が進もうとしていた北に向かって。
そうこうしている内に、襲撃者はすでに目の前まで来ていた。
刀の間合いなど判らないレオは、懸命に距離をとる。目測で10mは離れただろうか。
(くそぉっ! せめてあっちが逃げる時間は稼がないと)
美希が北に逃げるならば、レオは相手の注意をこちらに向けさせつつ南に進むしかない。
威嚇する蜂を刺激する気持ちで、レオは無事な腕で銃を構える。
そして慣れない手つきでトリガーに指を掛けると、躊躇せずに指を引いた。
だが、予想以上の反動に腕が上空に持っていかれる。銃を離さなかったのが奇跡なくらいだ。
これを見ていた相手は、レオは文字通り素人だと認識したのか、距離を大幅に詰める。
しかし結果的に、この反動がレオの心に冷たい水を湧きあがらせた。
威嚇する蜂を刺激する気持ちで、レオは無事な腕で銃を構える。
そして慣れない手つきでトリガーに指を掛けると、躊躇せずに指を引いた。
だが、予想以上の反動に腕が上空に持っていかれる。銃を離さなかったのが奇跡なくらいだ。
これを見ていた相手は、レオは文字通り素人だと認識したのか、距離を大幅に詰める。
しかし結果的に、この反動がレオの心に冷たい水を湧きあがらせた。
(何やってんだ対馬レオ! 落ち着けッ)
そう。テンションに身を任せてはいけないと、普段からあれほど言っていたではないか。
銃口だけを襲撃者に向けつつ、レオは誘うように南に後退を始める。
どちらを追うか悩んだ襲撃者だったが、視界に残っているレオを選んだようだ。
魚が餌に掛かったのを確信したレオは、追いつかれないギリギリの速度で走り出す。
牽制のために向けた銃口が効いているのか。相手の警戒は続く。
誘い込む際、適当な方角に数発撃ったのも効いているようだ。
銃口だけを襲撃者に向けつつ、レオは誘うように南に後退を始める。
どちらを追うか悩んだ襲撃者だったが、視界に残っているレオを選んだようだ。
魚が餌に掛かったのを確信したレオは、追いつかれないギリギリの速度で走り出す。
牽制のために向けた銃口が効いているのか。相手の警戒は続く。
誘い込む際、適当な方角に数発撃ったのも効いているようだ。
素人であることはばれているのだろうが、それでも効果はあるようで、襲撃者からの追撃は来ない。
出来ることならば、この状態のまま南下していきたいレオ。
彼が目指しているのは川。そこに飛び込み、難を逃れようというのだ。
確実に詰まっていく二つの足音。水の音はまだ遠い。
出来ることならば、この状態のまま南下していきたいレオ。
彼が目指しているのは川。そこに飛び込み、難を逃れようというのだ。
確実に詰まっていく二つの足音。水の音はまだ遠い。
◇◇◇
一人逃走を済ませた美希は、困ったと言う表情を露骨に示していた。
せっかく手に入れた盾をもう失ってしまったからだ。
社交辞令として誰か探すとレオに告げたものの、そんなつもりは毛頭ない。
今回の件で理解した。下手に正義感の強い人間は面倒くさいと。
そんな美希の耳に、初めて聞く二種類の声が微かに伝わる。
声からすると女性だろうか。気付かれないように、そっと近付く。
茂みから発信源を覗き込むと、そこでは見知らぬ二人の女性が問答をしていた。
やりとりを聞く限り、それぞれ鉄乙女と杉浦翠と言う名のようだ。
せっかく手に入れた盾をもう失ってしまったからだ。
社交辞令として誰か探すとレオに告げたものの、そんなつもりは毛頭ない。
今回の件で理解した。下手に正義感の強い人間は面倒くさいと。
そんな美希の耳に、初めて聞く二種類の声が微かに伝わる。
声からすると女性だろうか。気付かれないように、そっと近付く。
茂みから発信源を覗き込むと、そこでは見知らぬ二人の女性が問答をしていた。
やりとりを聞く限り、それぞれ鉄乙女と杉浦翠と言う名のようだ。
「だから、鉄だからてっちゃん」
「頼むから、その呼び方だけはやめてくれ」
「ぶーぶー。可愛いじゃない」
「……普通に乙女さんと呼べんのか」
「頼むから、その呼び方だけはやめてくれ」
「ぶーぶー。可愛いじゃない」
「……普通に乙女さんと呼べんのか」
今、少し向こうでは殺し合いが始まっていると言うのに、暢気なものだ。
そんな感想を飲み込みつつ、美希は直前のやりとりを思い出す。
そんな感想を飲み込みつつ、美希は直前のやりとりを思い出す。
(鉄……対馬さんの言ってた人かな?)
偽名の可能性もあるが、その時は調子を合わせるなりすればいい。
まさかいきなり飛び掛っては来ないだろう。第一、殺し合いに乗っているにしては仲が良すぎる。
とは言え、いきなり姿を見せても警戒されてしまう。
が、ここで一つ名案を思いつく。こういう場所で、尚且つ女が相手だから通用する芝居。
美希は衣類を適当にはだけさせ、顔に泥を塗ると、泣きながら二人まで走りだす。
まさかいきなり飛び掛っては来ないだろう。第一、殺し合いに乗っているにしては仲が良すぎる。
とは言え、いきなり姿を見せても警戒されてしまう。
が、ここで一つ名案を思いつく。こういう場所で、尚且つ女が相手だから通用する芝居。
美希は衣類を適当にはだけさせ、顔に泥を塗ると、泣きながら二人まで走りだす。
「た、助けてください!」
突然飛び出してきた美希に警戒した乙女だったが、その姿を見て警戒を解く。
同時に碧の方も、やや真面目な雰囲気を構えつつ美希を抱きしめた。
同時に碧の方も、やや真面目な雰囲気を構えつつ美希を抱きしめた。
「ちょっと、どうしたの?」
「あ、あっちで、襲われて! 美希を庇おうと、対馬さんが!」
「あ、あっちで、襲われて! 美希を庇おうと、対馬さんが!」
最後に飛び出してきた単語に、乙女は勢いよく飛びつく。
魚が喰らい付いたのを心の内で確信しつつ、美希は嗚咽混じりに状況を語る。
突然現れた相手が、刀で斬りかかってきて、それをレオが身を呈して庇ってくれたのだと。
相手の姿だけはぼかしたものの、基本的には全て事実だ。
それを聞いた乙女は、美希が飛び出してきた方角目掛けて一気に駆け出す。
魚が喰らい付いたのを心の内で確信しつつ、美希は嗚咽混じりに状況を語る。
突然現れた相手が、刀で斬りかかってきて、それをレオが身を呈して庇ってくれたのだと。
相手の姿だけはぼかしたものの、基本的には全て事実だ。
それを聞いた乙女は、美希が飛び出してきた方角目掛けて一気に駆け出す。
「あ、てっちゃん!?」
同じく追いかけようとする碧だったが、抱きかかえた美希が動かない。
見れば肩は小刻みに震え、表情が硬く張り付いている。
こんな震えた美希を置いていくなど、碧には出来なかった。
遠くなっていく乙女の背を見送りながら、碧はその場にとどまる事を決意。
もちろんここまでの美希の様子は、全てが演技。清々しいまでのひとり芝居である。
見れば肩は小刻みに震え、表情が硬く張り付いている。
こんな震えた美希を置いていくなど、碧には出来なかった。
遠くなっていく乙女の背を見送りながら、碧はその場にとどまる事を決意。
もちろんここまでの美希の様子は、全てが演技。清々しいまでのひとり芝居である。
「うぅ……」
「ほら。あっちで休もう」
「ほら。あっちで休もう」
疑いの心など持たない碧は、目と鼻の先にあった温泉旅館を目指す。
しっかりと肩を抱きしめられながら、俯く美希は小さく唇を動かした。
しっかりと肩を抱きしめられながら、俯く美希は小さく唇を動かした。
(杉浦さん……でしたっけ。今度は役に立ってもらえると、美希的には嬉しいです)
【D-6 旅館周辺/1日目 黎明】
【杉浦碧@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備】:不明
【所持品】:支給品一式、支給品(未確認0~2)
【状態】:健康
【思考・行動】
0:旅館で美希を休ませる。
1:美希が落ち着いたら乙女を探しに行く。
2:反主催として最後まで戦う。
3:知り合いを探す。
【杉浦碧@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備】:不明
【所持品】:支給品一式、支給品(未確認0~2)
【状態】:健康
【思考・行動】
0:旅館で美希を休ませる。
1:美希が落ち着いたら乙女を探しに行く。
2:反主催として最後まで戦う。
3:知り合いを探す。
【山辺美希@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【装備:投げナイフ1本】
【所持品:支給品一式、投げナイフ4本、ランダム支給品0~2(本人確認済み)】
【状態】:恐怖(芝居)。健康。衣類に乱れ。
【思考・行動】
基本方針:とにかく生きて帰る。集団に隠れながら、優勝を目指す。
1:杉浦碧からの信頼されるよう振舞う。
2:太一、曜子を危険視。
3:刀を持った人間が危険だと言う偽情報を、出会った人間に教える。
【備考】
※ループ世界から固有状態で参戦。
※つよきす勢のごく簡単な人物説明を受けました。
【装備:投げナイフ1本】
【所持品:支給品一式、投げナイフ4本、ランダム支給品0~2(本人確認済み)】
【状態】:恐怖(芝居)。健康。衣類に乱れ。
【思考・行動】
基本方針:とにかく生きて帰る。集団に隠れながら、優勝を目指す。
1:杉浦碧からの信頼されるよう振舞う。
2:太一、曜子を危険視。
3:刀を持った人間が危険だと言う偽情報を、出会った人間に教える。
【備考】
※ループ世界から固有状態で参戦。
※つよきす勢のごく簡単な人物説明を受けました。
◇◇◇
一乃谷愁厳は、逃げ続けるレオを着実に追い詰めていた。
二手に分かれた時は判断に迷ったが、かといって二人逃がしては意味がない。
結果、残ったレオの方に照準を絞ることにしたのだ。
もちろん、レオが誘っていると分かっていたが、あえてそれに乗る。
何か策があるのだろうが、先程の射撃を見る限り戦いに慣れてはいない様子。
道すがら、三発の銃声を聞いたが、愁厳まで届いた弾は一つもない。
念には念を込めて距離を保っていたが、どうやらこれ以外は本当に何も無いようだ。
このまま行けば、川にぶつかる。そうなれば逃げ場など無い。
と、前方を行くレオが愁厳を睨みながら声を荒げる。
二手に分かれた時は判断に迷ったが、かといって二人逃がしては意味がない。
結果、残ったレオの方に照準を絞ることにしたのだ。
もちろん、レオが誘っていると分かっていたが、あえてそれに乗る。
何か策があるのだろうが、先程の射撃を見る限り戦いに慣れてはいない様子。
道すがら、三発の銃声を聞いたが、愁厳まで届いた弾は一つもない。
念には念を込めて距離を保っていたが、どうやらこれ以外は本当に何も無いようだ。
このまま行けば、川にぶつかる。そうなれば逃げ場など無い。
と、前方を行くレオが愁厳を睨みながら声を荒げる。
「もしかして、アンタ黒須太一じゃないだろうな!?」
レオの呼びかけを無視する。誰と勘違いしているかは知らないが、詮無き事。
答えだと言わんばかりに、頭の天辺から爪先まで殺気を纏う。
やがて薄暗い森が終わり、視界が一気に晴れる。
先を逃げていたレオは、銃を構えたままジリジリと後ろに下がっていた。
このまま後退すれば、行き着く先は橋ではなく崖。
答えだと言わんばかりに、頭の天辺から爪先まで殺気を纏う。
やがて薄暗い森が終わり、視界が一気に晴れる。
先を逃げていたレオは、銃を構えたままジリジリと後ろに下がっていた。
このまま後退すれば、行き着く先は橋ではなく崖。
(飛び降りるつもりか?)
川の流れは激流に近い。こんな中を飛び降りれば、無事では済まないだろう。
それが解かっているのか、レオは青ざめた顔で川に視線を送っている。
この間に、じわりじわりと、気付かれないように足場を踏み潰す。
同時にレオの手持ちの札を確認しておく。
レオが手に持っているのはリボルバータイプの銃。うち、四発は追撃中に撃ち終えている。
銃の残数が分からない形状ならば、不安要素はあった。だが、目の前のそれは違う。
しっかりと開いた穴は五つ。そして弾の補充をしていた素振りは無い。
ならば撃てたとして一発のみ。愁厳はそれだけに注意すればいいだけ。
未だに川と愁厳を交互に見比べるレオに向け、愁厳は大地を蹴り飛ばす。
警戒はしていただろうが、まさか直線を飛んでくると思わなかったのだろう。
慌てた様子で銃を持ち直し、焦りの様子で照準を愁厳に合わせ、その引き金をひく。
もちろん狙われるのを理解しての突撃だ。愁厳に慌てた様子は無い。
銃口から吐き出された弾丸は、ぶれる事無く愁厳まで走る。
だが、弾丸が顔を出したと同時に、愁厳は上空へ大きく跳ぶ。
残った砂煙の中を、弾丸が虚しく突き抜けていく。
予想していなかったのだろう。愁厳がここまで人間離れしていると。
こうなったら、レオが取る道は一つしかない。
上空から迫る刃から逃れるため、後方に飛ぼうと身体の向きを変える。
それが解かっているのか、レオは青ざめた顔で川に視線を送っている。
この間に、じわりじわりと、気付かれないように足場を踏み潰す。
同時にレオの手持ちの札を確認しておく。
レオが手に持っているのはリボルバータイプの銃。うち、四発は追撃中に撃ち終えている。
銃の残数が分からない形状ならば、不安要素はあった。だが、目の前のそれは違う。
しっかりと開いた穴は五つ。そして弾の補充をしていた素振りは無い。
ならば撃てたとして一発のみ。愁厳はそれだけに注意すればいいだけ。
未だに川と愁厳を交互に見比べるレオに向け、愁厳は大地を蹴り飛ばす。
警戒はしていただろうが、まさか直線を飛んでくると思わなかったのだろう。
慌てた様子で銃を持ち直し、焦りの様子で照準を愁厳に合わせ、その引き金をひく。
もちろん狙われるのを理解しての突撃だ。愁厳に慌てた様子は無い。
銃口から吐き出された弾丸は、ぶれる事無く愁厳まで走る。
だが、弾丸が顔を出したと同時に、愁厳は上空へ大きく跳ぶ。
残った砂煙の中を、弾丸が虚しく突き抜けていく。
予想していなかったのだろう。愁厳がここまで人間離れしていると。
こうなったら、レオが取る道は一つしかない。
上空から迫る刃から逃れるため、後方に飛ぼうと身体の向きを変える。
「レオ!」
今まさに、その身を投げ出さんとしてたレオが、一瞬だけ振り返る。
森から飛び込んできたその声は、レオを探し走り続けていた乙女のものだった。
窮地に立たされていたレオにとって、乙女の登場は何よりも待ち望んだ希望。
レオの顔が困惑から喜びへと変化する。だが、希望にはいつも絶望が付き纏うもの。
絶望を運ぶ愁厳は、レオの頭上から突きの構えで急降下する。
レオが乙女に言葉を返すのを遮るかのように、激痛が呼吸の循環を停止させた。
背中に刺さった刀身は、一直線に下腹部を貫通し、その切っ先を煌かせて。
逆に、先端部分から押し出され、刃に絡まるよう飛び出した小腸は、不気味な生き物のように蠢く。
言葉の代わりに、レオの口から紅い泡が零れ出す。
希望と絶望の吊り天秤は、ゆっくりと絶望へ傾き始めた。
森から飛び込んできたその声は、レオを探し走り続けていた乙女のものだった。
窮地に立たされていたレオにとって、乙女の登場は何よりも待ち望んだ希望。
レオの顔が困惑から喜びへと変化する。だが、希望にはいつも絶望が付き纏うもの。
絶望を運ぶ愁厳は、レオの頭上から突きの構えで急降下する。
レオが乙女に言葉を返すのを遮るかのように、激痛が呼吸の循環を停止させた。
背中に刺さった刀身は、一直線に下腹部を貫通し、その切っ先を煌かせて。
逆に、先端部分から押し出され、刃に絡まるよう飛び出した小腸は、不気味な生き物のように蠢く。
言葉の代わりに、レオの口から紅い泡が零れ出す。
希望と絶望の吊り天秤は、ゆっくりと絶望へ傾き始めた。
◇◇◇
叫ぶより先に、乙女は走り出していた。目の前で串刺しにされたそれは、紛れも無くレオそのもの。
咄嗟に握り締めていた銃を構えるが、下手をすればレオに当たってしまう。
止むを得ず、乙女は銃を投げ捨て拳一つで突撃を開始。
疾風の如き速度で二人に接近する。時間が無い。あのままではレオが死んでしまう。
だが、地に足を降ろした愁厳は、そんな乙女を牽制するかのように立ち位置を変える。
その際に、動いた反動で、レオに突き刺さる刀は容赦なく中身を掻き混ぜていく。
腹部からでは足りないのか、レオの口からはとどまる事無く紅い泡が噴き出す。
眼前で広がる最愛の弟の悶絶に、乙女は何も考えられなくなる。
ただ純粋な怒りと恐怖に身を委ね、無我夢中に拳を振るう。
型を忘れ、平常心を失った乙女の拳は、愁厳に一度たりとも触れられない。
右に拳を突き出せば左に避けられ。左に蹴りを放てば右に逃げられ。
そしてその度に、レオの身体は掻き乱され、眼球から涙が溢れ落ちる。
乙女の動きがより一層鈍くなる。彼女が懸命になればなるほど、地獄は悪化していくのだ。
全身から滝のように汗を流す乙女と対照的に、愁厳の顔は涼しいまま。
自身が盾にしているものなど気にしていないように、ただ乙女の動きだけを追う。
一方の乙女の心は、極限状態に到達しようとしていた。
愁厳からの反撃は無い。それなのに、乙女の精神はずたずたに切り刻まれていく。
一刻も早く助けなければと言う焦りと、もう目を逸らしたいという叫び。
串刺しになったレオが痙攣するたび、乙女の視界が歪んでいく。
あと少し手を伸ばせば届くのに。届かない。助けられない。
だが、無意識ながらも、乙女は本能的に愁厳を追い詰めていた。
気付けば三人がいるのは、川の淵。少し高い崖のような場所。
少しだけ焦りの表情を浮かべた愁厳は、最善の手を欲する。
咄嗟に握り締めていた銃を構えるが、下手をすればレオに当たってしまう。
止むを得ず、乙女は銃を投げ捨て拳一つで突撃を開始。
疾風の如き速度で二人に接近する。時間が無い。あのままではレオが死んでしまう。
だが、地に足を降ろした愁厳は、そんな乙女を牽制するかのように立ち位置を変える。
その際に、動いた反動で、レオに突き刺さる刀は容赦なく中身を掻き混ぜていく。
腹部からでは足りないのか、レオの口からはとどまる事無く紅い泡が噴き出す。
眼前で広がる最愛の弟の悶絶に、乙女は何も考えられなくなる。
ただ純粋な怒りと恐怖に身を委ね、無我夢中に拳を振るう。
型を忘れ、平常心を失った乙女の拳は、愁厳に一度たりとも触れられない。
右に拳を突き出せば左に避けられ。左に蹴りを放てば右に逃げられ。
そしてその度に、レオの身体は掻き乱され、眼球から涙が溢れ落ちる。
乙女の動きがより一層鈍くなる。彼女が懸命になればなるほど、地獄は悪化していくのだ。
全身から滝のように汗を流す乙女と対照的に、愁厳の顔は涼しいまま。
自身が盾にしているものなど気にしていないように、ただ乙女の動きだけを追う。
一方の乙女の心は、極限状態に到達しようとしていた。
愁厳からの反撃は無い。それなのに、乙女の精神はずたずたに切り刻まれていく。
一刻も早く助けなければと言う焦りと、もう目を逸らしたいという叫び。
串刺しになったレオが痙攣するたび、乙女の視界が歪んでいく。
あと少し手を伸ばせば届くのに。届かない。助けられない。
だが、無意識ながらも、乙女は本能的に愁厳を追い詰めていた。
気付けば三人がいるのは、川の淵。少し高い崖のような場所。
少しだけ焦りの表情を浮かべた愁厳は、最善の手を欲する。
(退路はなし……か)
ひたすら回避を続けていた愁厳だったが、別段余裕を見せていたわけではない。
乙女の動きが俊敏過ぎるため、逃げるだけで手一杯だったのだ。
ならばいっそ、数発喰らうのを覚悟し、攻めに転じようかと考えたところで思いつく。
目の前で必死に手を伸ばす乙女の目的は唯一つ。ならば、それを利用しないては無い。
すっと呼吸を置き、吐き出すと同時に握っていた柄に力を込め、一気に下へと捻り降ろす。
これにより、レオの腹部が鎖骨から臍まで一気に切開される。
皮膚はダンボールを裂くようにあっさり破れ、次に脂肪の少ない筋肉が音を立てて千切れていく。
そして最後に、詰め込まれていた臓器が二つに分断され、開いた穴から我先にと外に飛び出していった。
乙女の動きが俊敏過ぎるため、逃げるだけで手一杯だったのだ。
ならばいっそ、数発喰らうのを覚悟し、攻めに転じようかと考えたところで思いつく。
目の前で必死に手を伸ばす乙女の目的は唯一つ。ならば、それを利用しないては無い。
すっと呼吸を置き、吐き出すと同時に握っていた柄に力を込め、一気に下へと捻り降ろす。
これにより、レオの腹部が鎖骨から臍まで一気に切開される。
皮膚はダンボールを裂くようにあっさり破れ、次に脂肪の少ない筋肉が音を立てて千切れていく。
そして最後に、詰め込まれていた臓器が二つに分断され、開いた穴から我先にと外に飛び出していった。
「うああああああああぁぁぁぁぁ!!」
喉を潰すかのような乙女の絶叫を耳を立てず、愁厳は刀を抜き取りレオを川へと蹴り飛ばす。
先に落ちたレオの身体。それに追従するように、千切れかけの臓器。
二つは途切れる事無く、激しい激流の中へと水飛沫を立てて沈んでいった。
先に落ちたレオの身体。それに追従するように、千切れかけの臓器。
二つは途切れる事無く、激しい激流の中へと水飛沫を立てて沈んでいった。
「レオぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおっッッッ!!」
愁厳に背を向けるのも構わず、乙女もまた川へと飛び降りていく。
斬り捨てようと刀を振る愁厳だったが、手応えがまるで無い。
振り下ろした刀の先には、既に誰もいなかった。残ったのは、流れ続ける川の音だけ。
その中で愁厳は一人、無音のまま崖から離れ、安全な場所まで戻ると深く目を閉じた。
黙祷を捧げている様にも見えるが、閉じた瞼には慰めの動きがない。
視界を闇に染めてた愁厳が思っていた事は一つ。レオが叫んだ名だ。
取り立てて注意する事ではないが、その響きが頭から離れずにいる。
なるべくならば名前は覚えたくなかった。斬り捨てる刀に重みを乗せたくない。
斬り捨てようと刀を振る愁厳だったが、手応えがまるで無い。
振り下ろした刀の先には、既に誰もいなかった。残ったのは、流れ続ける川の音だけ。
その中で愁厳は一人、無音のまま崖から離れ、安全な場所まで戻ると深く目を閉じた。
黙祷を捧げている様にも見えるが、閉じた瞼には慰めの動きがない。
視界を闇に染めてた愁厳が思っていた事は一つ。レオが叫んだ名だ。
取り立てて注意する事ではないが、その響きが頭から離れずにいる。
なるべくならば名前は覚えたくなかった。斬り捨てる刀に重みを乗せたくない。
「黒須太一……か」
そう。
知ってしまったのならゼロにすればいい。これより自身が暫くの間、黒須太一となろう。
今後もし、誰かに名を問われたら、この名を答えれば済むことだ。
そしていずれ、本当の持ち主に一太刀浴びせつつ返してやれば済む。
瞼を開き、二人が流されていった川を見下ろす。少なくとも、男の方は助からない。
懸念が残るのは、泣きながら拳を振るった乙女を、殺しておくべきだったかいう事。
だが、あのまま無理をして攻撃に転じ、怒りを受け止めるメリットはない。
あの時の拳の純粋な怒り。それを浴びれば、愁厳とて無事ではすまないだろう。
破裂した感情の怖さを理解しているからこその選択だった。
ふと、一瞬だけ刀の切っ先に視線がいく。そこにこびり付いた血と肉片を、無言で振り払う。
理解してはいたが、どうやら本当に太刀筋に迷いはないようだ。
生きた人間を盾にする躊躇いなど、少なくともこの場に必要ない心。
人は愁厳を外道と呼ぶかもしれない。ならばどこまでも堕ちようではないか。
知ってしまったのならゼロにすればいい。これより自身が暫くの間、黒須太一となろう。
今後もし、誰かに名を問われたら、この名を答えれば済むことだ。
そしていずれ、本当の持ち主に一太刀浴びせつつ返してやれば済む。
瞼を開き、二人が流されていった川を見下ろす。少なくとも、男の方は助からない。
懸念が残るのは、泣きながら拳を振るった乙女を、殺しておくべきだったかいう事。
だが、あのまま無理をして攻撃に転じ、怒りを受け止めるメリットはない。
あの時の拳の純粋な怒り。それを浴びれば、愁厳とて無事ではすまないだろう。
破裂した感情の怖さを理解しているからこその選択だった。
ふと、一瞬だけ刀の切っ先に視線がいく。そこにこびり付いた血と肉片を、無言で振り払う。
理解してはいたが、どうやら本当に太刀筋に迷いはないようだ。
生きた人間を盾にする躊躇いなど、少なくともこの場に必要ない心。
人は愁厳を外道と呼ぶかもしれない。ならばどこまでも堕ちようではないか。
「もとよりこの身に人の跡はない」
優しさもぬくもりも、余す事無く刀子に委ねてある。
喜びや悲しみも、あの時に全て成し遂げた。
ここにあるのはただ、愁厳の皮を被りし悪鬼也。
心の耳を削ぎ、彼らの叫びを断絶しよう。心の目を抉り、彼らの末路を遮断しよう。
今一度、血を拭った刀身に心を写す。穢れた刀身は、すでに煌きを取り戻していた。
喜びや悲しみも、あの時に全て成し遂げた。
ここにあるのはただ、愁厳の皮を被りし悪鬼也。
心の耳を削ぎ、彼らの叫びを断絶しよう。心の目を抉り、彼らの末路を遮断しよう。
今一度、血を拭った刀身に心を写す。穢れた刀身は、すでに煌きを取り戻していた。
【D-6 橋周辺/1日目 黎明】
【一乃谷愁厳@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備:今虎徹@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【所持品:木刀、支給品一式、不明支給品(0~2)】
【状態】:疲労(小)。かなりの返り血。
【思考・行動】
基本方針:刀子を神沢市の日常に帰す
1:生き残りの座を賭けて他者とより積極的に争う
2:今後、誰かに名を尋ねられたら「黒須太一」を名乗る
【一乃谷愁厳@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備:今虎徹@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【所持品:木刀、支給品一式、不明支給品(0~2)】
【状態】:疲労(小)。かなりの返り血。
【思考・行動】
基本方針:刀子を神沢市の日常に帰す
1:生き残りの座を賭けて他者とより積極的に争う
2:今後、誰かに名を尋ねられたら「黒須太一」を名乗る
【備考1】
【一乃谷刀子@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【状態:精神体、健康、気絶中】
【思考】
1:不明
【一乃谷刀子@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【状態:精神体、健康、気絶中】
【思考】
1:不明
【備考2】
※一乃谷刀子・一乃谷愁厳@あやかしびと -幻妖異聞録-は刀子ルート内からの参戦です。
※一乃谷刀子・一乃谷愁厳@あやかしびと -幻妖異聞録-は刀子ルート内からの参戦です。
◇◇◇
激流に飲まれながら、乙女は必死の様子でレオを抱きしめた。
だが、ようやく触れられたのに、腕の中のレオに意識は無い。
だが、ようやく触れられたのに、腕の中のレオに意識は無い。
それどころか、激流に耐え切れない細い臓器は、今にも千切れそうに水中を揺らぐ。
自然に出来た渦に巻き込まれるたび、細長い臓器はどんどん川に広がっていく。
次々と真っ赤な水中に散らばっていく臓器を、乙女は懸命に掴み取る。
そして掴んだものをパックリと割れたレオの腹部へ丁寧に戻す。
が、この丸い臓器が収納されたと同時に、今度はクラゲのような臓器が外に飛び出す。
自然に出来た渦に巻き込まれるたび、細長い臓器はどんどん川に広がっていく。
次々と真っ赤な水中に散らばっていく臓器を、乙女は懸命に掴み取る。
そして掴んだものをパックリと割れたレオの腹部へ丁寧に戻す。
が、この丸い臓器が収納されたと同時に、今度はクラゲのような臓器が外に飛び出す。
(駄目、やめてくれッ! それは、それはレオのなんだ!)
次に押し込めば赤い臓器が。
次に押し込めば桃色の臓器が。
次に押し込めば細い管が。
次に押し込めば、太い管が。
もともとは綺麗に詰め込まれていたはずなのに、上手く収納できない。
焦る乙女とは裏腹に、レオから流れていた血がどんどん少なくなっていく。
飛び込んだときには二人を包んでいた赤色の水が、今はレオの周囲からも消えている。
自身すら流されそうになる激流の中、乙女は無我夢中ではみ出していくレオの臓器をしまい続けた。
が、綺麗に収まっていたものは二度と収まることは無く、遂には殆どの臓器が捲れて千切れていく。
やがて流れの緩やかな下流まで辿り着いたとき、既にレオの中身は殆どが綺麗に攫われていた。
打ち上げられた砂浜で、乙女は軽くなったレオに覆い被さっていた。
顔をあげることが出来ない。顔をあげれば、現実に向き合わなければならない。
けれども視界を覆う闇の中ですら、乙女は自分自身に責められる。
次に押し込めば桃色の臓器が。
次に押し込めば細い管が。
次に押し込めば、太い管が。
もともとは綺麗に詰め込まれていたはずなのに、上手く収納できない。
焦る乙女とは裏腹に、レオから流れていた血がどんどん少なくなっていく。
飛び込んだときには二人を包んでいた赤色の水が、今はレオの周囲からも消えている。
自身すら流されそうになる激流の中、乙女は無我夢中ではみ出していくレオの臓器をしまい続けた。
が、綺麗に収まっていたものは二度と収まることは無く、遂には殆どの臓器が捲れて千切れていく。
やがて流れの緩やかな下流まで辿り着いたとき、既にレオの中身は殆どが綺麗に攫われていた。
打ち上げられた砂浜で、乙女は軽くなったレオに覆い被さっていた。
顔をあげることが出来ない。顔をあげれば、現実に向き合わなければならない。
けれども視界を覆う闇の中ですら、乙女は自分自身に責められる。
救えた。もっと早く誇りを取り戻し、すぐさまレオを探していれば。
救えた。あのように急に飛び出たりせず、もっと冷静に対処していたならば。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
けれど、救えなかった。
救えた。あのように急に飛び出たりせず、もっと冷静に対処していたならば。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
救えた。
けれど、救えなかった。
「レオ。ほら、起き……ろ」
そうだ。呼びかければ、レオはきちんと返事をしてくれる。
いつだってそうだ。今はきっと聞こえないフリをしているだけ。
いつだってそうだ。今はきっと聞こえないフリをしているだけ。
「お姉ちゃん、を……困らせる、んじゃない」
だから顔を上げ、その姿を直視して視界が歪む。
都合のいい空想は、どろどろに溶かされてしまう。
そうして残された亡骸こそが、乙女に残された現実。
都合のいい空想は、どろどろに溶かされてしまう。
そうして残された亡骸こそが、乙女に残された現実。
「ぁ、ぁぁ……ぅ」
対馬レオの天秤は絶望へと大きく傾いた。
希望の皿から奪われたのは、臓器か。それとも未来の糸か。
そして、対馬レオの死の重りは、鉄乙女をどちらに傾かせるのだろうか。
希望の皿から奪われたのは、臓器か。それとも未来の糸か。
そして、対馬レオの死の重りは、鉄乙女をどちらに傾かせるのだろうか。
【対馬レオ@つよきす -Mighty Heart-】 死亡
【E-8 川の下流の砂浜/1日目 黎明】
【鉄乙女@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式(未確認支給品0~2)。レオのデイパック(未確認支給品0~2)
【状態】:茫然自失。強烈な喪失感。肉体疲労(中)。精神疲労(大)
【思考・行動】
1:ぅぁ……ぁ……
2:自分の誇りを取り戻したい。
(死への拭いがたき恐と環への劣等感あり)
【鉄乙女@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式(未確認支給品0~2)。レオのデイパック(未確認支給品0~2)
【状態】:茫然自失。強烈な喪失感。肉体疲労(中)。精神疲労(大)
【思考・行動】
1:ぅぁ……ぁ……
2:自分の誇りを取り戻したい。
(死への拭いがたき恐と環への劣等感あり)
036:To hell ,you gonna fall | 投下順 | 038:降り止まない雨などここにはないから(前編) |
時系列順 | ||
009:狂ヒ咲ク人間ノ証明 | 杉浦碧 | 061:D6温泉を覆う影 |
011:固有の私でいるために | 山辺美希 | |
020:誰が為に刀を振るう | 一乃谷愁厳・一乃谷刀子 | 068:嘆きノ森の少女 |
009:狂ヒ咲ク人間ノ証明 | 鉄乙女 | 052:鬼神楽 |
011:固有の私でいるために | 対馬レオ |