地獄デ少女ハ魔人ト駆ケル ◆WAWBD2hzCI
絶望に包み込まれた夜は終わる。
剣戟と銃声と悲鳴と苦痛と無念と憎悪、その他諸々を飲み込んだ闇が消滅する。
だが、心せよ。それは決して地獄の終わりではない。
たとえ太陽が昇り、世界を陽光で満たそうとも……惨劇は終わらない。加速していく殺し合いの波は止まらない。
だが、心せよ。それは決して地獄の終わりではない。
たとえ太陽が昇り、世界を陽光で満たそうとも……惨劇は終わらない。加速していく殺し合いの波は止まらない。
「……っ……こんなものか」
地獄を求め、祝福する存在……ティトゥスは美術館の入り口に腰を下ろしていた。。
彼の者は殺し合いそのものを肯定した存在。殺戮と暴力と死合、それらを生き甲斐とした男。
必然なる絶対悪、それを自身が肯定してなお、歩き続ける修羅の道。
彼はブラックロッジの大幹部、アンチクロスの末席に位置する人であることをやめた魔人である。
彼の者は殺し合いそのものを肯定した存在。殺戮と暴力と死合、それらを生き甲斐とした男。
必然なる絶対悪、それを自身が肯定してなお、歩き続ける修羅の道。
彼はブラックロッジの大幹部、アンチクロスの末席に位置する人であることをやめた魔人である。
人をやめた証である四本の腕。
最強を掴むため、強者と心行くまでの殺し合いをするための腕は現在、三本しかない。
死合の代償として斬りおとされた第三の腕。
それは新たな器官だ。人間に尻尾が生えるような感覚。最強を掴むための四本腕……そのうちのひとつが斬りおとされた。
最強を掴むため、強者と心行くまでの殺し合いをするための腕は現在、三本しかない。
死合の代償として斬りおとされた第三の腕。
それは新たな器官だ。人間に尻尾が生えるような感覚。最強を掴むための四本腕……そのうちのひとつが斬りおとされた。
先の殺し合い、この腕を斬りおとした三人組。
制限されたティトゥスの身体能力でも遠く及ばない身のこなしではあったが、十分に楽しませる存在だった。
また、死合いたいと思う。命を懸けた剣閃の先、無我の境地。その先を見たい。
制限されたティトゥスの身体能力でも遠く及ばない身のこなしではあったが、十分に楽しませる存在だった。
また、死合いたいと思う。命を懸けた剣閃の先、無我の境地。その先を見たい。
ここにはティトゥスを楽しませてくれる強者が大勢いる。
―――――なんて、素晴らしい。
集ったのは大勢の戦士。
自身を楽しませる最上の獲物。
他にもマスター・オブ・ネクロノミコンなどの強者が集う地獄の島を……ティトゥスは諸手をあげて祝福する。
楽しませろ、もっと拙者を楽しませろと心が躍る。
自身を楽しませる最上の獲物。
他にもマスター・オブ・ネクロノミコンなどの強者が集う地獄の島を……ティトゥスは諸手をあげて祝福する。
楽しませろ、もっと拙者を楽しませろと心が躍る。
(さて、腕を失うのは初めてだが……戻るだろうか)
失った腕は魔術によって新たな器官となったもの。
ブラックロッジの技術を持ってすれば腕の修復など容易いのだが、生憎とそんな技術などはない。
せめて魔導書の類が見つかれば、魔力次第で腕の修復も可能になる……かも知れない。
あくまで仮定の話に過ぎないが、強者と全力で戦うには五体満足が好ましいものだ。
ブラックロッジの技術を持ってすれば腕の修復など容易いのだが、生憎とそんな技術などはない。
せめて魔導書の類が見つかれば、魔力次第で腕の修復も可能になる……かも知れない。
あくまで仮定の話に過ぎないが、強者と全力で戦うには五体満足が好ましいものだ。
(そう……あの男……戦士ウィンフィールドと死合うときは、全力でありたい)
身体能力という観点から見ても、ティトゥスと互角を誇る戦士。
是非、この機会に殺し合いたい。そのときが楽しみで仕方がなかった。
例えば今戦えばどのような結末を迎えられるだろうか、そんな期待に胸を膨らませる。まるでクリスマスの夜、サンタを待つ子供のように。
強い者と戦いたい、自身の願いはただそれだけだ。
是非、この機会に殺し合いたい。そのときが楽しみで仕方がなかった。
例えば今戦えばどのような結末を迎えられるだろうか、そんな期待に胸を膨らませる。まるでクリスマスの夜、サンタを待つ子供のように。
強い者と戦いたい、自身の願いはただそれだけだ。
そうして、時刻は午前六時。
『……さて、諸君。ご機嫌はいかがかね』
死を告げる放送が島に響き渡ることとなる。
その頃にはティトゥスも行動を開始していた。新たな獲物を見つけ出すために美術館を南進。
放送になど興味はない。いずれ、他者に蹂躙されて消えていった弱者になど興味は割かなかった。
ただ、禁止エリアの範囲は美術館の北であることを考えれば、南へ進むことは必定だっただろう。
その頃にはティトゥスも行動を開始していた。新たな獲物を見つけ出すために美術館を南進。
放送になど興味はない。いずれ、他者に蹂躙されて消えていった弱者になど興味は割かなかった。
ただ、禁止エリアの範囲は美術館の北であることを考えれば、南へ進むことは必定だっただろう。
べらべらとくだらない言葉で愉悦のままに喋る男の声を聞き流す。
死者の発表などに興味はなかった。
既に自身を楽しませることもできぬ者に興味などなかったのだ。だから――――
死者の発表などに興味はなかった。
既に自身を楽しませることもできぬ者に興味などなかったのだ。だから――――
『ウィンフィールド』
その名前が島に響き渡ったとき、ティトゥスは足を止めざるを得なかった。
脳が一瞬だけ機能を停止する。呆然と、彼らしくない表情で思わず死者の放送に耳を傾けた。
岡崎朋也、リセルシア・チェザリーニ、蒼井渚砂、対馬レオ、小牧愛佳、向坂雄二、間桐桜、宮沢謙吾。
聞くつもりもなかった死者全員の名前が、ただ聴く機能しか持たないティトゥスの耳に吸い込まれていった。
脳が一瞬だけ機能を停止する。呆然と、彼らしくない表情で思わず死者の放送に耳を傾けた。
岡崎朋也、リセルシア・チェザリーニ、蒼井渚砂、対馬レオ、小牧愛佳、向坂雄二、間桐桜、宮沢謙吾。
聞くつもりもなかった死者全員の名前が、ただ聴く機能しか持たないティトゥスの耳に吸い込まれていった。
「―――――――」
たっぷり、数秒間もの間。
ティトゥスはこれ以上ないほどの無防備な姿を晒していた。
ティトゥスはこれ以上ないほどの無防備な姿を晒していた。
「莫迦な……戦士ウィンフィールドが倒れた、だと?」
人間の身でありながら、魔人であるティトゥスと互角に渡り合った剛の者。
もう一度死合いたい、と。久しぶりに見つけた対等の獲物ともう一度、命のやり取りをしたかったというのに。
彼は開始から六時間、早くも姿を消してしまった。
もう殺し合えない。もう二度と戦えない。あの興奮も、あの緊張感も、彼との間でやり取りすることは永遠にない。
もう一度死合いたい、と。久しぶりに見つけた対等の獲物ともう一度、命のやり取りをしたかったというのに。
彼は開始から六時間、早くも姿を消してしまった。
もう殺し合えない。もう二度と戦えない。あの興奮も、あの緊張感も、彼との間でやり取りすることは永遠にない。
「ウィンフィールド以上の猛者がいるというのか……? それとも、不覚を取ったのか……?」
分かっていることはただひとつ。
もう、ウィンフィールドは自分の乾きを癒してはくれないのだ、という漫然たる事実のみ。
ではどうすればいいのだ。ティトゥスは自身に問いかける。
誰が自分を楽しませてくれるのだ、と……軽い失望感と喪失感と無常感を抱えながら、ティトゥスは歩き続ける。
もう、ウィンフィールドは自分の乾きを癒してはくれないのだ、という漫然たる事実のみ。
ではどうすればいいのだ。ティトゥスは自身に問いかける。
誰が自分を楽しませてくれるのだ、と……軽い失望感と喪失感と無常感を抱えながら、ティトゥスは歩き続ける。
その先、目前にある駅に一人の少女を見つけた。
呆然と上空を見上げたまま、凍り付いているスチュワーデス服の少女。
ティトゥスは何も言わず、無言のまま刀を構えた。
ウィンフィールドがいないのであれば、誰でもいい。あの男の代わりなら誰でもいい……だから。
ティトゥスは何も言わず、無言のまま刀を構えた。
ウィンフィールドがいないのであれば、誰でもいい。あの男の代わりなら誰でもいい……だから。
――――楽しませろ、楽しませろっ……ウィンフィールドの代わりに楽しませろッ!
◇ ◇ ◇ ◇
時を少し戻すことにしよう。
時刻は早朝、太陽が暗闇を切り裂き、世界に恩恵をもたらす時間帯だ。
照らされた島に、ぽつんと建てられた駅がある。
そこで清浦刹那はずっと待ち続けていた。果たされるべき約束をずっと待ち続けていた。
時刻は早朝、太陽が暗闇を切り裂き、世界に恩恵をもたらす時間帯だ。
照らされた島に、ぽつんと建てられた駅がある。
そこで清浦刹那はずっと待ち続けていた。果たされるべき約束をずっと待ち続けていた。
「……来る」
きっと、来る。絶対だ、間違いない。
ウィンフィールドは約束を守る紳士だったのだから。彼の言うことは大体正しかったのだから。
必ず用を済ませて、自分を迎えに来てくれるのだ。
だから刹那は駅でじっと待ち続けていた。耳障りな電車のアナウンスも無視して。ずっと、待ち続けていた。
ウィンフィールドは約束を守る紳士だったのだから。彼の言うことは大体正しかったのだから。
必ず用を済ませて、自分を迎えに来てくれるのだ。
だから刹那は駅でじっと待ち続けていた。耳障りな電車のアナウンスも無視して。ずっと、待ち続けていた。
「…………絶対、来る」
すぐに出られるように準備しておかなければ。
黙々と仕事に励んで時間を潰すことにした。まず、乾いた下着を改めて着用する。
上半身は全部脱がなければならなかったが、空港のときのように変態が押しかけてくることもなく。
何事もなく、着替えは終了した。何もない、無常感が漂った。
黙々と仕事に励んで時間を潰すことにした。まず、乾いた下着を改めて着用する。
上半身は全部脱がなければならなかったが、空港のときのように変態が押しかけてくることもなく。
何事もなく、着替えは終了した。何もない、無常感が漂った。
次に武装の確認。
一発しか撃てないトンプソンコンテンダーは切り札ではあるが、自衛には頼りない。
威力はともかく、銃を撃ち慣れてなどいない自分には連射できず、反動のきつい銃は扱いづらいのだ。
よって他の武装。つまりは支給品に頼るしかないのだが。
出てきたのは皮の紐で二つに束ねられた翼を模した首飾りと、博物館あたりに在りそうな古い鏡。
残念ながら殺し合いには向かない外れ支給品、ということだろう。
一発しか撃てないトンプソンコンテンダーは切り札ではあるが、自衛には頼りない。
威力はともかく、銃を撃ち慣れてなどいない自分には連射できず、反動のきつい銃は扱いづらいのだ。
よって他の武装。つまりは支給品に頼るしかないのだが。
出てきたのは皮の紐で二つに束ねられた翼を模した首飾りと、博物館あたりに在りそうな古い鏡。
残念ながら殺し合いには向かない外れ支給品、ということだろう。
「………………」
十分待った。
当然、まだ来ない。着替えも終わったというのに。
当然、まだ来ない。着替えも終わったというのに。
「………………」
三十分待った。
やっぱり、まだ現れない。出かける準備も終わっているというのに。
やっぱり、まだ現れない。出かける準備も終わっているというのに。
「……………………」
一時間、ずっと待ち続けた。
暇なので考え事をする。これからのこと、ウィンフィールドと合流してからのことを。
地図を広げて目的地も考えた。名簿を開いて会うべき人たちに当たりをつけた。襲い掛かってきた眼鏡の女性のことも忘れない。
首輪のことも、親友のこともたくさん考えながら待ち続けた。
暇なので考え事をする。これからのこと、ウィンフィールドと合流してからのことを。
地図を広げて目的地も考えた。名簿を開いて会うべき人たちに当たりをつけた。襲い掛かってきた眼鏡の女性のことも忘れない。
首輪のことも、親友のこともたくさん考えながら待ち続けた。
『……さて、諸君。ご機嫌はいかがかね』
そうして、その時間がやってきた。
死を告げる放送、犠牲者を綴る閻魔帳の音読。一番最初に伝えられた死者の名前。
死を告げる放送、犠牲者を綴る閻魔帳の音読。一番最初に伝えられた死者の名前。
『ウィンフィールド』
その名前が、呼ばれてはならなかった名前が呼ばれてしまった。
ぐらり、身体が揺れる。脳に伝わる衝撃の大きさに意識を手放してしまいそうになって、それを何とか踏ん張った。
近い表現としては受験に失敗したようなもの。呼ばれなかった自身の番号に絶望するような感覚。
だが、それとは比べ物にならないほどの重さ。
ぐらり、身体が揺れる。脳に伝わる衝撃の大きさに意識を手放してしまいそうになって、それを何とか踏ん張った。
近い表現としては受験に失敗したようなもの。呼ばれなかった自身の番号に絶望するような感覚。
だが、それとは比べ物にならないほどの重さ。
「…………嘘、だ」
呆然とつぶやく。
なんて呆気ない放送だったのだろう。
人が死んだ。名前を呼ばれた数だけ、この地獄の島で命を落としていった。
なんて呆気ない放送だったのだろう。
人が死んだ。名前を呼ばれた数だけ、この地獄の島で命を落としていった。
「そんなはず、ない……」
弱々しく呟きながら、上空を見上げる。
憎らしいほどの朝日は生き残った人間を祝福するかのように、或いは嘲笑うかのように。
刹那は放送を信じようとはしなかった。
ウィンフィールドは必ずここに来てくれるのだから。そう言ったのだから……心の中で、その言葉を反芻した。
憎らしいほどの朝日は生き残った人間を祝福するかのように、或いは嘲笑うかのように。
刹那は放送を信じようとはしなかった。
ウィンフィールドは必ずここに来てくれるのだから。そう言ったのだから……心の中で、その言葉を反芻した。
「…………信じない」
まだ、待とう。まだ、ずっと待ち続けよう。
迎えに来てくれることを信じてウィンフィールドを待ち続けよう。
聡明な彼女が出した答えはあまりにも脆弱だった。この殺し合いの場で、自分を保ちきれそうになかった。
さっきまで笑顔で話していた人間が肉塊になっていく、という潜在的恐怖が忍び寄る。
迎えに来てくれることを信じてウィンフィールドを待ち続けよう。
聡明な彼女が出した答えはあまりにも脆弱だった。この殺し合いの場で、自分を保ちきれそうになかった。
さっきまで笑顔で話していた人間が肉塊になっていく、という潜在的恐怖が忍び寄る。
そうして、刹那は駅で待ち続けた。
一秒でも長く生きていたいなら遭うべきではなかった災厄を、待ち続けてしまった。
一秒でも長く生きていたいなら遭うべきではなかった災厄を、待ち続けてしまった。
「…………っ……!」
忍び寄る足音を刹那が感知したとき、既にその悪鬼は目の前にいた。
ウィンフィールドかと思って振り向き、そうして希望に満ちた表情が絶望の色に染まっていく。
現れたのは絶大なる殺気を放った黒髪の侍。
逆立った髪の毛はまるで怒りを露にするかのように。その殺意はおよそ人のものではないと刹那が錯覚するほどに邪悪だった。
ウィンフィールドかと思って振り向き、そうして希望に満ちた表情が絶望の色に染まっていく。
現れたのは絶大なる殺気を放った黒髪の侍。
逆立った髪の毛はまるで怒りを露にするかのように。その殺意はおよそ人のものではないと刹那が錯覚するほどに邪悪だった。
敵だ、戦わなければ。
刹那が自然、そう思ったのは限りなく正しかった。
再戦を願ったライバルの死に虚しさを感じたティトゥスの刃は、ぎらりと螺旋を象って少女へと向けられる。
ティトゥスの口元が殺害への至福に歪み、刹那は焦燥を隠しながら銃を構えた。
再戦を願ったライバルの死に虚しさを感じたティトゥスの刃は、ぎらりと螺旋を象って少女へと向けられる。
ティトゥスの口元が殺害への至福に歪み、刹那は焦燥を隠しながら銃を構えた。
「来ないで……! 近づいたら、撃つ……!」
それは何の牽制にもならないであろうことは、聡明な彼女には気づけていた。
それでも相手に銃口を突きつけることによって安心感を得たかった。
結果、それは何の意味も持たないことを刹那は改めて突きつけられる。ティトゥスの足は、決して銃などで止まらない。
それでも相手に銃口を突きつけることによって安心感を得たかった。
結果、それは何の意味も持たないことを刹那は改めて突きつけられる。ティトゥスの足は、決して銃などで止まらない。
「……銃を向けたからには、殺される覚悟ぐらいあるのだろうな? 拙者を失望させるなよ、小娘?」
「あ……」
「あ……」
向けられた殺意だけで死んだ、と錯覚した。
これは殺し合いなどではない。そんな崇高なものですらない。
ただの虐殺、ワンサイドゲームにしかならないことを、改めて弱者は突きつけられた。
今、こうして会話している間も、刹那は見逃されている。
ティトゥスが刹那を仕留めるには一瞬のみ。恐らく息を吸う時間の間に百殺されているに違いない。
これは殺し合いなどではない。そんな崇高なものですらない。
ただの虐殺、ワンサイドゲームにしかならないことを、改めて弱者は突きつけられた。
今、こうして会話している間も、刹那は見逃されている。
ティトゥスが刹那を仕留めるには一瞬のみ。恐らく息を吸う時間の間に百殺されているに違いない。
「あっ……う……っ……」
「どうした? 来ぬのか、小娘」
「どうした? 来ぬのか、小娘」
銃を突きつけているのは自分なのに、命を握られているのは刹那自身。
どうすればいい、どうすればいい、どうすればいいと自身に問いかけ……そうしている間にも、ティトゥスの剣幕が厳しくなっていく。
どうすればいい、どうすればいい、どうすればいいと自身に問いかけ……そうしている間にも、ティトゥスの剣幕が厳しくなっていく。
「……ならば、拙者から行くぞ」
「っ……!!」
「っ……!!」
ティトゥスが腰を落としたと同時に、刹那は無我夢中で引き金を引いた。
両腕でしっかりと固定させたトンプソンの銃口から、弾丸が発射される。あまりの衝撃に、腕が痺れるかと思った。
衝撃の殺し方も知らない刹那は、そちらのほうに一瞬の意識を奪われ、気づけば目の前に黒い侍の姿はない。
両腕でしっかりと固定させたトンプソンの銃口から、弾丸が発射される。あまりの衝撃に、腕が痺れるかと思った。
衝撃の殺し方も知らない刹那は、そちらのほうに一瞬の意識を奪われ、気づけば目の前に黒い侍の姿はない。
「あっ……は、やく……!!」
早く、弾丸を装填しなければ。
たった一発しか撃てない切り札を簡単に使用してしまった。よって、数秒間もの間、無防備な姿を晒すこととなる。
終焉、それだけで十分。
たった一発しか撃てない切り札を簡単に使用してしまった。よって、数秒間もの間、無防備な姿を晒すこととなる。
終焉、それだけで十分。
「あ……」
ティトゥスが刹那の身体を真っ直ぐに切り裂くのも。
袈裟斬り、唐竹、腕から足から全てを切り落とすことも。
その瞬間、刹那はティトゥスに百殺されてなお、お釣りが来るほどの隙を晒すだけだった。
袈裟斬り、唐竹、腕から足から全てを切り落とすことも。
その瞬間、刹那はティトゥスに百殺されてなお、お釣りが来るほどの隙を晒すだけだった。
「つまらん」
本当に退屈に、苛立たしげにティトゥスは呟いた。
その瞳は失望に彩られ、彼の瞳に映った刹那の表情は死を前にして凍りつくことしかできなかった。
刹那を何度も殺してすら余る時間で、接近したティトゥスは無造作に刹那を蹴りつけた。
その瞳は失望に彩られ、彼の瞳に映った刹那の表情は死を前にして凍りつくことしかできなかった。
刹那を何度も殺してすら余る時間で、接近したティトゥスは無造作に刹那を蹴りつけた。
「うあっ……!?」
「つまらん。本当につまらんぞ、小娘。期待はしてなかったが、ここまでとは思わなかったわ!」
「つまらん。本当につまらんぞ、小娘。期待はしてなかったが、ここまでとは思わなかったわ!」
無造作な蹴りの一撃でも、刹那を弾き飛ばすには十分すぎるほどの脚力だった。
壁に身体を打ちつけ、倒れる刹那を虫でも見るかのようにティトゥスは見下しながら、双身螺旋刀を抱える。
刀を使うまでもない、このまま蹴り続けるだけでも刹那は死ぬだろう。
だが、ティトゥスが求めるのは一方的虐殺による快楽ではなく、対等の猛者との心行くまでの死合なのだ。
壁に身体を打ちつけ、倒れる刹那を虫でも見るかのようにティトゥスは見下しながら、双身螺旋刀を抱える。
刀を使うまでもない、このまま蹴り続けるだけでも刹那は死ぬだろう。
だが、ティトゥスが求めるのは一方的虐殺による快楽ではなく、対等の猛者との心行くまでの死合なのだ。
だから、楽しませることしかできない刹那に価値など見出さない。
「さらばだ」
短い死刑宣告は刹那の耳にも届いていた。
無造作に振り上げられた刀。きっと本当に簡単に、自分の身体を切り裂くのだろう。
無造作に振り上げられた刀。きっと本当に簡単に、自分の身体を切り裂くのだろう。
(助けて……助けて、助けてっ……!)
誰でもいいから助けてほしかった。
伊藤誠でも、西園寺世界でも、桂言葉でも構わない。見知らぬ誰かでも問題ない。
こんな理不尽に殺されるのは嫌だった。こんな簡単に殺されるなんて嫌だった。
だから、年相応に彼女は助けを望んだ。ヒーローの存在を……この危機を救ってくれる騎士を求めることに、罪はない。
伊藤誠でも、西園寺世界でも、桂言葉でも構わない。見知らぬ誰かでも問題ない。
こんな理不尽に殺されるのは嫌だった。こんな簡単に殺されるなんて嫌だった。
だから、年相応に彼女は助けを望んだ。ヒーローの存在を……この危機を救ってくれる騎士を求めることに、罪はない。
「助けて……っ……ウィンフィールド、さん……!」
恐怖のままに叫んだ。
凶器はもう目の前、刹那には視認すら許さぬ速度で襲い掛かる。
最後に思い浮かんだのは、もう亡くなったことを知らされた執事のこと。この島でもっとも頼りになった戦士のことだった。
もう、届かない嘆願だったのだ。
凶器はもう目の前、刹那には視認すら許さぬ速度で襲い掛かる。
最後に思い浮かんだのは、もう亡くなったことを知らされた執事のこと。この島でもっとも頼りになった戦士のことだった。
もう、届かない嘆願だったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
そうして、清浦刹那は死ぬはずだった。
届かない叫びの声を聞きつけた存在がいなければ、こうしてティトゥスの刃は首の薄皮一枚で停止はしなかった。
刹那は呆然と、目の前の殺人鬼を見上げていた。
魔人は初めて狩られるだけだった少女に価値を見出したかのように、その瞳を見開いていた。
届かない叫びの声を聞きつけた存在がいなければ、こうしてティトゥスの刃は首の薄皮一枚で停止はしなかった。
刹那は呆然と、目の前の殺人鬼を見上げていた。
魔人は初めて狩られるだけだった少女に価値を見出したかのように、その瞳を見開いていた。
「お主、ウィンフィールドを知っているのか?」
ティトゥスの問いかけに、刹那の頭はようやく回転を始めた。
その言葉の意味は? どうして殺されるはずだったのに殺されないのか?
疑問に答えを出すために、刹那は目の前の侍へと問いかける。
その言葉の意味は? どうして殺されるはずだったのに殺されないのか?
疑問に答えを出すために、刹那は目の前の侍へと問いかける。
「ウィンフィールドさんの、知り合い……?」
「殺し合った間柄だ。更に問う、ウィンフィールドはどうした?」
「殺し合った間柄だ。更に問う、ウィンフィールドはどうした?」
やはり、と刹那は思った。
彼が警戒していた黒い侍の男……それが目の前の魔人だと理解した。
そして彼が知りたいのは、ウィンフィールドのことなのだろう。少なくとも、刹那には彼の質問を黙秘する権限などなかった。
彼が警戒していた黒い侍の男……それが目の前の魔人だと理解した。
そして彼が知りたいのは、ウィンフィールドのことなのだろう。少なくとも、刹那には彼の質問を黙秘する権限などなかった。
「……さっきまで、一緒にいた」
「…………」
「…………」
ティトゥスは刹那の答えを聞いて思い返す。
呼ばれた名前、死んだとされたウィンフィールド。そのはずの彼と一緒にいたという少女。
若干の静寂、ティトゥスの脳裏にとある仮定が浮かび始める。
大いに願望を含んだ考察。だが、疑いを持つには十分ではある仮定の話……それを裏付けようと、再度として問いかけた。
呼ばれた名前、死んだとされたウィンフィールド。そのはずの彼と一緒にいたという少女。
若干の静寂、ティトゥスの脳裏にとある仮定が浮かび始める。
大いに願望を含んだ考察。だが、疑いを持つには十分ではある仮定の話……それを裏付けようと、再度として問いかけた。
「ウィンフィールドは、死んだのか?」
「…………死んでない。あんなの、信じない」
「…………死んでない。あんなの、信じない」
刹那の願望、思い込みをこもった否定。
それを十分にティトゥスは受け止めた。それが偽りである、とは感じられなかった。
なによりティトゥス自身が、あっさりと消えてしまった強者の死に強く不信感を持っていたのだから。
それを十分にティトゥスは受け止めた。それが偽りである、とは感じられなかった。
なによりティトゥス自身が、あっさりと消えてしまった強者の死に強く不信感を持っていたのだから。
「……ウィンフィールドと別れた場所は分かるか?」
「分かる。……E-5地点の駅」
「分かる。……E-5地点の駅」
ティトゥスの内心に沸きあがってきたのは、放送に対する疑問と不信感。
ウィンフィールドの強さは身に染みている。その彼がこんなにもあっさりと舞台から退場するのは、あまりにも不自然だ。
確かに死者の名前は挙がっている。ティトゥスがこの手で殺した宮沢謙吾の名前は、確かに挙げられていた。
だが、刹那のような非力な弱者が無傷で生き残っているような島で、あれほどの強者が六時間と経たずに死ぬだろうか。
ウィンフィールドの強さは身に染みている。その彼がこんなにもあっさりと舞台から退場するのは、あまりにも不自然だ。
確かに死者の名前は挙がっている。ティトゥスがこの手で殺した宮沢謙吾の名前は、確かに挙げられていた。
だが、刹那のような非力な弱者が無傷で生き残っているような島で、あれほどの強者が六時間と経たずに死ぬだろうか。
「小娘、案内せよ」
その疑問を解消したい、とティトゥスは思った。
故にその提案は刹那自身に取っても、驚くべきことであることは言うまでもない。
どういうこと、と刹那は小さく呟いた。
ついさっきまで殺そうとしていた殺人鬼。それもウィンフィールドの敵と自称した男に同行を求められたのだ。
故にその提案は刹那自身に取っても、驚くべきことであることは言うまでもない。
どういうこと、と刹那は小さく呟いた。
ついさっきまで殺そうとしていた殺人鬼。それもウィンフィールドの敵と自称した男に同行を求められたのだ。
「お主はウィンフィールドへの道しるべにして、餌だ。あの男が生きているなら、お主を取り戻しに来るのだろう?」
「……多分、だけど来る」
「いいだろう。貴様が案内人だ。そしてウィンフィールドと拙者が死合う理由となる」
「……多分、だけど来る」
「いいだろう。貴様が案内人だ。そしてウィンフィールドと拙者が死合う理由となる」
刹那はその人質となる。
恐らくはティトゥスの気まぐれに近いのだろう。場所さえ聞けば、もう刹那には用がないはず。
それでも彼女を生かす理由は、ウィンフィールドとの殺し合いを確実なものにしたいがため。
恭介たちのように途中で逃亡される、ということは我慢ならなかったのだ。
恐らくはティトゥスの気まぐれに近いのだろう。場所さえ聞けば、もう刹那には用がないはず。
それでも彼女を生かす理由は、ウィンフィールドとの殺し合いを確実なものにしたいがため。
恭介たちのように途中で逃亡される、ということは我慢ならなかったのだ。
「私は、どうなるの?」
そして、刹那の興味の第一はそこに集約されるといって過言ないだろう。
殺人鬼の人質。目の前で人を殺すことも厭わない侍。
用が済めば呆気なく殺されることだって当然だ。なら、そんな意味のないことに手を貸せはしない。
対してティトゥスは、興味もなさげに応答した。
殺人鬼の人質。目の前で人を殺すことも厭わない侍。
用が済めば呆気なく殺されることだって当然だ。なら、そんな意味のないことに手を貸せはしない。
対してティトゥスは、興味もなさげに応答した。
「ウィンフィールドに逢えれば用はない。勝手に何処へなりと行くがいい」
「……見逃してくれるんだ?」
「図に乗るなよ、小娘。貴様など何百人斬ろうと楽しめんだけのことよ。もっとも、邪魔をするなら斬ることは覚えておけ」
「……見逃してくれるんだ?」
「図に乗るなよ、小娘。貴様など何百人斬ろうと楽しめんだけのことよ。もっとも、邪魔をするなら斬ることは覚えておけ」
今の話を総合すると、こういうことになる。
刹那はティトゥスを連れ立ってウィンフィールドを捜索する。
ウィンフィールドの生死を確認したら彼女は放免。好き勝手に野たれ死ぬがいい、とは本人の弁だ。
そして確認するまでの間、ティトゥスは刹那の身の危険すらも切り伏せる。
刹那はティトゥスを連れ立ってウィンフィールドを捜索する。
ウィンフィールドの生死を確認したら彼女は放免。好き勝手に野たれ死ぬがいい、とは本人の弁だ。
そして確認するまでの間、ティトゥスは刹那の身の危険すらも切り伏せる。
「拙者の望みは生き残ることではなく、殺し合いそのものだ。そしてお主を殺すと脅せば、腕に覚えのある者が現れるやも知れん」
「脅して、殺し合いを強要させるんだ……?」
「本来なら、そのような戯事などはせん。だが……拙者の知らぬところでまだ見ぬ強者ば消えるなど、惜しい」
「脅して、殺し合いを強要させるんだ……?」
「本来なら、そのような戯事などはせん。だが……拙者の知らぬところでまだ見ぬ強者ば消えるなど、惜しい」
その言葉を刹那は頭の中で噛み砕いて、分かりやすく纏めていた。
彼は殺し合いそのものを楽しむ戦闘狂。
殺し合うための人質として選ばれた自分だが、考えてみれば一番安全に立ち位置にいることになる。
ウィンフィールドを見つけるまでは、どんな意図があろうともティトゥスが護衛に就く。
もしも途中で殺し合いを否定する人間が、彼を倒して助けてくれたとしても刹那としては一向に構わない。
彼は殺し合いそのものを楽しむ戦闘狂。
殺し合うための人質として選ばれた自分だが、考えてみれば一番安全に立ち位置にいることになる。
ウィンフィールドを見つけるまでは、どんな意図があろうともティトゥスが護衛に就く。
もしも途中で殺し合いを否定する人間が、彼を倒して助けてくれたとしても刹那としては一向に構わない。
構わないのだが。
それは自分の安全だけを優先した、愚考であることも承知していた。
それは自分の安全だけを優先した、愚考であることも承知していた。
「……条件」
「む?」
「条件を、ひとつ……いい?」
「む?」
「条件を、ひとつ……いい?」
ティトゥスが若干、不愉快そうに眉をひそめた。
対等の口の聞き方に対してか、それとも条件を挙げることそのものがおこがましいと思われているのかも知れない。
だけど、心中で勇気を振り絞りながら刹那は言う。
対等の口の聞き方に対してか、それとも条件を挙げることそのものがおこがましいと思われているのかも知れない。
だけど、心中で勇気を振り絞りながら刹那は言う。
「伊藤誠、西園寺世界、桂言葉。この三人には危害を加えないでほしい」
「―――――拙者は、図に乗るなと言ったぞ?」
「―――――拙者は、図に乗るなと言ったぞ?」
黒い殺意が刀に載せられて、刹那に届けられる。
その虫を見るかのような瞳が告げていた。条件を付ける権限など、刹那にはないということを。
対等ではない。仲間となって馴れ合うつもりは一切ない。
刹那の背中から冷や汗が止まらない。それほどの殺意をその身に受けてなお、刹那は敢えて語る。
その虫を見るかのような瞳が告げていた。条件を付ける権限など、刹那にはないということを。
対等ではない。仲間となって馴れ合うつもりは一切ない。
刹那の背中から冷や汗が止まらない。それほどの殺意をその身に受けてなお、刹那は敢えて語る。
「あ、あなたのいう、強者じゃないから……だから、襲わないでほしい」
死を覚悟して刹那は告げた。
もしもこの先、自分のせいで知人が死んだら……自分は生きていけないかも知れない。
だからこそ、ここで退くことは許されないと自分に言い聞かせて。
もしもこの先、自分のせいで知人が死んだら……自分は生きていけないかも知れない。
だからこそ、ここで退くことは許されないと自分に言い聞かせて。
そうして、風を切る音が刹那の耳に届いた。
閃いたのは刃、刹那の目には相変わらず映ることすらなかった凶器が唸りをあげた。
閃いたのは刃、刹那の目には相変わらず映ることすらなかった凶器が唸りをあげた。
「……あっ……あ」
「強者かどうかは拙者が戦ってから決める。だが、必要ならば迷わず斬る。覚えておけ」
「強者かどうかは拙者が戦ってから決める。だが、必要ならば迷わず斬る。覚えておけ」
それでティトゥスの提案……否、命令は終了した。
これから刹那は彼の欲求を満たす餌として、殺し合いの最前線へと放り込まれるだろう。
最強の護衛カードを手に入れたと同時に、もっとも苛烈な戦場へと足を運ぶのだ。
これから刹那は彼の欲求を満たす餌として、殺し合いの最前線へと放り込まれるだろう。
最強の護衛カードを手に入れたと同時に、もっとも苛烈な戦場へと足を運ぶのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
(大丈夫…………これなら)
刹那は静かに腰を下ろし、安堵の溜息をついた。
ティトゥスは刹那の同行に意識すら向けていない。彼はウィンフィールドと出会う方法を考えている。
電車か、歩きか。考えているのはこんなところだろう。
黒き侍の性格は何となく把握した。ストイックなまでの殺し合い肯定者。自分の命などどうでもいい、と思っているに違いない。
ティトゥスは刹那の同行に意識すら向けていない。彼はウィンフィールドと出会う方法を考えている。
電車か、歩きか。考えているのはこんなところだろう。
黒き侍の性格は何となく把握した。ストイックなまでの殺し合い肯定者。自分の命などどうでもいい、と思っているに違いない。
だが、お互いの目的は一致している。
ウィンフィールドの生死を確かめること。そのために刹那はティトゥスを利用してみせる。
行動一つ一つが命懸けだが、一人で行動するよりも戦闘面での危険はない、はずだ。
ウィンフィールドの生死を確かめること。そのために刹那はティトゥスを利用してみせる。
行動一つ一つが命懸けだが、一人で行動するよりも戦闘面での危険はない、はずだ。
「ふむ……」
「……ねえ。ウィンフィールドさんが生きていた場合、ここで集合って約束をした」
「………………」
「……ねえ。ウィンフィールドさんが生きていた場合、ここで集合って約束をした」
「………………」
ぎろり、と向けられた視線に凍りつきそうになる。
だけどこの程度では殺すつもりはない、はず。お互いの利害関係は一致しているのだから大丈夫。
ウィンフィールドを見つけ出すこと、生死を確認すること。
だけどこの程度では殺すつもりはない、はず。お互いの利害関係は一致しているのだから大丈夫。
ウィンフィールドを見つけ出すこと、生死を確認すること。
「ウィンフィールドさんが生きていたなら、ここに向かうと思う」
「……つまり、お主の確証のない約束とやらで、拙者はしばらくここに滞在しろ、と言うのか?」
「ううん、そうじゃない……」
「……つまり、お主の確証のない約束とやらで、拙者はしばらくここに滞在しろ、と言うのか?」
「ううん、そうじゃない……」
周りの被害を考えるなら、そうしてくれるに越したことはないのだけど、と刹那は内心で思う。
ティトゥスを利用してみせる、とは決意したものの、彼をうまく誘導することも扱うことも中々できないだろう。
自分の身の程は知っている。だから、自分のできる範囲にしておかなければ。
ティトゥスを利用してみせる、とは決意したものの、彼をうまく誘導することも扱うことも中々できないだろう。
自分の身の程は知っている。だから、自分のできる範囲にしておかなければ。
「……ウィンフィールドさんがここに来るなら、線路沿いにここまで来るはず」
「つまり、それにあわせて拙者たちも線路沿いに北上すればいずれ、ということか」
「つまり、それにあわせて拙者たちも線路沿いに北上すればいずれ、ということか」
その通り、と頷いた。
刹那にできるのはここまで。強く勧めすぎれば、越権行為ということで殺されるかも知れない。
自分で考えるのも嫌だが、最悪命さえあれば人質の役目は果たされるのだ。
そうならないように彼を制御するために必要なことは、謙虚な姿勢だと心得る。それでも、限界はあるだろうが。
刹那にできるのはここまで。強く勧めすぎれば、越権行為ということで殺されるかも知れない。
自分で考えるのも嫌だが、最悪命さえあれば人質の役目は果たされるのだ。
そうならないように彼を制御するために必要なことは、謙虚な姿勢だと心得る。それでも、限界はあるだろうが。
「ふむ……なら、歩くほうが確実か」
彼は自身の中で自己完結すると、刹那に構わず歩き始めた。
その後姿をついつい呆然と見送ってしまうと、ティトゥスは足を止め、振り返らずに宣告する。
その後姿をついつい呆然と見送ってしまうと、ティトゥスは足を止め、振り返らずに宣告する。
「行くぞ、小娘」
「………………」
「………………」
黒い後姿を追っていきながら、刹那は思う。
なんて分の悪い賭けなのだろう、と。内憂外患、前門の虎にして後門の狼といったところだろうか。
その不安を吹き飛ばすように刹那はその背中に言い放った。
なんて分の悪い賭けなのだろう、と。内憂外患、前門の虎にして後門の狼といったところだろうか。
その不安を吹き飛ばすように刹那はその背中に言い放った。
「清浦刹那」
「……む?」
「清浦、刹那。貴方の名前は?」
「……む?」
「清浦、刹那。貴方の名前は?」
ティトゥスの歩みは止まらない。
無言のままなので、てっきり無視されているのかと溜息をつこうとしたとき。
無言のままなので、てっきり無視されているのかと溜息をつこうとしたとき。
「必要ない。拙者たちは利害関係で結ばれているに過ぎん、名を憶える必要などなかろう」
そっけない一言が返ってきた。
どうやら会話は十分に通じてくれるらしい。ただ無駄口の類は怒らせることになると判断。
自分も寡黙なほうなので、そこは助かる。
だがいつまでも黒い侍、とか貴方、では困るのだった。
どうやら会話は十分に通じてくれるらしい。ただ無駄口の類は怒らせることになると判断。
自分も寡黙なほうなので、そこは助かる。
だがいつまでも黒い侍、とか貴方、では困るのだった。
「呼びづらい。名前、教えて」
「……ティトゥスだ。これ以上の無駄口は叩くな」
「…………」
「……ティトゥスだ。これ以上の無駄口は叩くな」
「…………」
よろしく、ティトゥス――――そんな言葉をぐっと飲み込んだ。
緊張のしすぎでついつい饒舌になってしまったが、これ以上のことは口は災いの元。
静かにティトゥスの後ろを付いていく。
願わくば誰かが、自分を助け出してくれることを祈って。
緊張のしすぎでついつい饒舌になってしまったが、これ以上のことは口は災いの元。
静かにティトゥスの後ろを付いていく。
願わくば誰かが、自分を助け出してくれることを祈って。
致命的な間違いを抱えたまま、二人の珍道中が始まる。
刹那の思い込みと、ティトゥスの疑念。
ふたつの要因は間違った方向へと捩れながら、地獄の島を闊歩することとなる。
刹那の思い込みと、ティトゥスの疑念。
ふたつの要因は間違った方向へと捩れながら、地獄の島を闊歩することとなる。
【F-2 駅、近辺/1日目 朝】
【ティトゥス@機神咆哮デモンベイン】
【装備:双身螺旋刀@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【所持品:支給品一式、不明支給品0~1(刀剣類ではない)、アサシンの腕】
【状態:右肩に軽い斬り傷と火傷、背中に浅い切り傷、第三の腕(背中から生えてくる左腕)損失】
【思考・行動】
基本行動方針:死合う
0:放送の真偽を確かめる
1:見つけた参加者とは死合う。状況によっては刹那を利用する
2:刀剣類と『屍食教典儀』(もしくは類するもの)を探す
3:刹那と共にウィンフィールドの生死を確かめる
4:恭介、トルタ、鳥月と再び死合いたい
5:骸骨の男が追ってくるならば、再び死合う
6:刹那の扱いについては保留。死合いの邪魔をするなら始末する
7:伊藤誠、西園寺世界、桂言葉とも一応は死合ってみる
【装備:双身螺旋刀@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【所持品:支給品一式、不明支給品0~1(刀剣類ではない)、アサシンの腕】
【状態:右肩に軽い斬り傷と火傷、背中に浅い切り傷、第三の腕(背中から生えてくる左腕)損失】
【思考・行動】
基本行動方針:死合う
0:放送の真偽を確かめる
1:見つけた参加者とは死合う。状況によっては刹那を利用する
2:刀剣類と『屍食教典儀』(もしくは類するもの)を探す
3:刹那と共にウィンフィールドの生死を確かめる
4:恭介、トルタ、鳥月と再び死合いたい
5:骸骨の男が追ってくるならば、再び死合う
6:刹那の扱いについては保留。死合いの邪魔をするなら始末する
7:伊藤誠、西園寺世界、桂言葉とも一応は死合ってみる
【備考】
※参戦時期は、ウィンフィールドと二度目の戦いを終えた後です。
※身体能力の制限に気づきました。
※刀の召喚は、魔導書などによるサポートが無ければ使用不可能です。
※ウィンフィールドの死に疑問を感じています。
※参戦時期は、ウィンフィールドと二度目の戦いを終えた後です。
※身体能力の制限に気づきました。
※刀の召喚は、魔導書などによるサポートが無ければ使用不可能です。
※ウィンフィールドの死に疑問を感じています。
【清浦刹那@School Days L×H】
【装備:トンプソンコンテンダー(弾数1/1)】
【所持品:支給品一式、コンテンダーの弾47発、ファルの首飾り@シンフォニック=レイン、良月@アカイイト】
【状態:精神疲労(大)、スチュワーデスの制服着用】
【思考・行動】
基本:人は殺さない。
0:線路沿いにE-5地点を進んでいく
1:放送の真偽を確かめる
2:ティトゥスを利用してみせる
3:ウィンフィールドや知人に逢いたい
【装備:トンプソンコンテンダー(弾数1/1)】
【所持品:支給品一式、コンテンダーの弾47発、ファルの首飾り@シンフォニック=レイン、良月@アカイイト】
【状態:精神疲労(大)、スチュワーデスの制服着用】
【思考・行動】
基本:人は殺さない。
0:線路沿いにE-5地点を進んでいく
1:放送の真偽を確かめる
2:ティトゥスを利用してみせる
3:ウィンフィールドや知人に逢いたい
【備考】
※制服(牛乳まみれ)と下着(濡れている)はデイパックにしまいました。
※黒髪に刀を持った裸の男(九郎)を変態だと思っています。
※ウィンフィールドの死を認めていません。
※制服(牛乳まみれ)と下着(濡れている)はデイパックにしまいました。
※黒髪に刀を持った裸の男(九郎)を変態だと思っています。
※ウィンフィールドの死を認めていません。
077:last moment | 投下順 | 079:この地獄に居る彼女のために |
077:last moment | 時系列順 | 079:この地獄に居る彼女のために |
057:First Battle(後編) | ティトゥス | 102:どうする? |
058:Servantたちへ | 清浦刹那 | 102:どうする? |