Monochrome~モノクローム~ ◆aa/58LO8JE
ゆっくりとした動きで、ボート乗り場にクルーザーが接岸する。
操舵室で舵輪を握っていた少女はそれを確認し、ほうっと息を吐いた。
操舵室で舵輪を握っていた少女はそれを確認し、ほうっと息を吐いた。
伊達スバルの身が海中へと消えた後。
クルーザーがあらぬ方向へ流されていることに気付いたなつきは、慌てて船の舵をとった。
少し悩んだ後に船首をG-6へと向ける。
船に居るのが自分だけになってしまった以上、このまま北上するのは危険だろうし、
陸上の監視と操船を一人で行うのは困難だと判断したからだ。
それ以上に、そのままこのクルーザーに乗っているのが嫌だったからでもあるが。
クルーザーがあらぬ方向へ流されていることに気付いたなつきは、慌てて船の舵をとった。
少し悩んだ後に船首をG-6へと向ける。
船に居るのが自分だけになってしまった以上、このまま北上するのは危険だろうし、
陸上の監視と操船を一人で行うのは困難だと判断したからだ。
それ以上に、そのままこのクルーザーに乗っているのが嫌だったからでもあるが。
食料や双眼鏡などの備品と共に、操縦機器から抜き取ったカードキーを鞄へと入れる。
計画が頓挫したとはいえ、船自体は脱出に使える可能性もある。
だからこそ、上陸しようとして破損・沈没なんて事がない様、わざわざここまで戻ってきたのだ。
それを他者に譲る事もないだろう。
赤に塗れた甲板から桟橋へ。
そうして、なつきは久しぶりの揺るがない大地に降り立った。
計画が頓挫したとはいえ、船自体は脱出に使える可能性もある。
だからこそ、上陸しようとして破損・沈没なんて事がない様、わざわざここまで戻ってきたのだ。
それを他者に譲る事もないだろう。
赤に塗れた甲板から桟橋へ。
そうして、なつきは久しぶりの揺るがない大地に降り立った。
『いずれ……なっちゃんも俺みたいになるぜ。絶対』
伊達スバルが死ぬ間際に言った言葉が、呪いの様になつきに絡み付く。
静留をうまく見つけ出したとして、自分はその後どうする?
合流する以前に静留の死が知らされたら?
静留をうまく見つけ出したとして、自分はその後どうする?
合流する以前に静留の死が知らされたら?
自分は伊達スバルのように、ゲームにのるのだろうか……?
そして、考えることはもう一つ。
(桂お姉さんと……フカヒレか)
若杉葛が慕い、会いたいと願っていた少女、羽藤桂。
伊達スバルが探し、聖域とまで言っていた人物、フカヒレ。
二人が探していた彼女等を探したいと、なつきは思っていた。
(桂お姉さんと……フカヒレか)
若杉葛が慕い、会いたいと願っていた少女、羽藤桂。
伊達スバルが探し、聖域とまで言っていた人物、フカヒレ。
二人が探していた彼女等を探したいと、なつきは思っていた。
「感傷だな」
海を見つめながら、小さく呟く。
この広い島で顔も知らない人間二人を探すのは困難な事だろう。
更にフカヒレに至っては本名、性別すらわからない。
そんな二人を探し回って、自分はどうしようというのか?
自分だけが生き残った事に謝る?
死んでしまった二人の代わりに彼女達を守る?
それとも、その二人に自分を断罪してもらおうとでも言うのだろうか?
海を見つめながら、小さく呟く。
この広い島で顔も知らない人間二人を探すのは困難な事だろう。
更にフカヒレに至っては本名、性別すらわからない。
そんな二人を探し回って、自分はどうしようというのか?
自分だけが生き残った事に謝る?
死んでしまった二人の代わりに彼女達を守る?
それとも、その二人に自分を断罪してもらおうとでも言うのだろうか?
(……馬鹿げているな)
そんな事は、その時考えればいい。
今はただ、静留を探す事、それだけを考えればいいのだから……
そんな事は、その時考えればいい。
今はただ、静留を探す事、それだけを考えればいいのだから……
「っ!?」
不意に響いた爆発音に、なつきは思考の波から復帰する。
尋常でない音量のそれは、対岸の街の方角から聞こえていた。
(どうする……?)
爆発物か、砲弾か……何にしてもあれは戦闘音だろう。
そんな場所に自ら近づくのは愚かな行為だ。
が、襲われているのが誰かは、近づかなければ確認は出来ない。
暫しの逡巡の後、なつきは鞄へと手を伸ばし――
不意に響いた爆発音に、なつきは思考の波から復帰する。
尋常でない音量のそれは、対岸の街の方角から聞こえていた。
(どうする……?)
爆発物か、砲弾か……何にしてもあれは戦闘音だろう。
そんな場所に自ら近づくのは愚かな行為だ。
が、襲われているのが誰かは、近づかなければ確認は出来ない。
暫しの逡巡の後、なつきは鞄へと手を伸ばし――
◇◇◆◇◇
彼女等を襲った先の攻撃。
それは浅間サクヤの命を奪うと同時に、羽藤桂の心すら打ち砕いていた。
そして、茫然自失になったその隙を、先の攻撃を仕掛けてきた相手が見逃すはずがない。
次の瞬間には桂とアルも再び同じ攻撃を受けて、命を落としているはずである。
が……
(攻撃はおろか襲撃もない、か)
蹲る少女に気遣いを向けながら、アルは思考する。
それは浅間サクヤの命を奪うと同時に、羽藤桂の心すら打ち砕いていた。
そして、茫然自失になったその隙を、先の攻撃を仕掛けてきた相手が見逃すはずがない。
次の瞬間には桂とアルも再び同じ攻撃を受けて、命を落としているはずである。
が……
(攻撃はおろか襲撃もない、か)
蹲る少女に気遣いを向けながら、アルは思考する。
――何故、攻撃がこない?
先に感じたプレッシャーや、辺りに微弱に残る残り香から鑑みるに、
あの攻撃は強大な魔力の塊をぶつけるという物なのだろう。
それもただ押し潰すだけではなく、放出――すなわち魔力塊を破裂させている。
破壊力にかけてはおそらく一級品。
魔力の大きさによっては更なるダメージも受けかねない。
そして、爆発という攻撃の特性からいって、術者は爆心地から離れた位置にいる可能性が高い。
ならば考えられる発動方法は大まかに考えて二つ。
対象がその場所を通った時に発動するトラップのような形か、
もしくは離れた距離――それも攻撃対象が俯瞰できるような高所からの射撃という形。
前者にしろ後者にしろ、こちらに向けて再びあの攻撃が振るわれたならば、二人になす術はないだろう。
だが、攻撃は訪れない。
連発出来ないのか、消耗が激しいのか、そもそも一回しか使えない支給品の能力だったのか……
あの攻撃は強大な魔力の塊をぶつけるという物なのだろう。
それもただ押し潰すだけではなく、放出――すなわち魔力塊を破裂させている。
破壊力にかけてはおそらく一級品。
魔力の大きさによっては更なるダメージも受けかねない。
そして、爆発という攻撃の特性からいって、術者は爆心地から離れた位置にいる可能性が高い。
ならば考えられる発動方法は大まかに考えて二つ。
対象がその場所を通った時に発動するトラップのような形か、
もしくは離れた距離――それも攻撃対象が俯瞰できるような高所からの射撃という形。
前者にしろ後者にしろ、こちらに向けて再びあの攻撃が振るわれたならば、二人になす術はないだろう。
だが、攻撃は訪れない。
連発出来ないのか、消耗が激しいのか、そもそも一回しか使えない支給品の能力だったのか……
「……アルちゃん」
不意に掛けられた声にアルは考察をやめる。
見ると、桂がこちらに虚ろな眼差しを向けていた。
「お水、ちょうだい……サクヤさんの顔、汚れ落とさなきゃ……」
サクヤの髪を指で梳きながら、桂は力なく呟く。
アルは無言で近くにあった鞄に手を伸ばし、そのチャックを開いた。
「……?」
と、開かれたその口から食料や刀などと一緒に白い物体が顔を出す。
それは、真っ白な色をした子狐だった。
見ると、桂がこちらに虚ろな眼差しを向けていた。
「お水、ちょうだい……サクヤさんの顔、汚れ落とさなきゃ……」
サクヤの髪を指で梳きながら、桂は力なく呟く。
アルは無言で近くにあった鞄に手を伸ばし、そのチャックを開いた。
「……?」
と、開かれたその口から食料や刀などと一緒に白い物体が顔を出す。
それは、真っ白な色をした子狐だった。
「汝は……」
アルはそれに看過できないほどの力を感じ、動きを止める。
それは相手も同じだったようで、子狐もまたアルをじっと見つめ返す。
アルはそれに看過できないほどの力を感じ、動きを止める。
それは相手も同じだったようで、子狐もまたアルをじっと見つめ返す。
だから、二人は一瞬、それに気付くのに遅れてしまった。
「……なっ!?」
それは突然の事だった。
急に横合いから突き出た手が鞄から何かを引き抜く。
アルがそちらの方向を見ると、そこには刀を持つ一人の少女の姿があった。
少女は残された腕と脚を使い鞘から刃を抜き放つ。
そして――
急に横合いから突き出た手が鞄から何かを引き抜く。
アルがそちらの方向を見ると、そこには刀を持つ一人の少女の姿があった。
少女は残された腕と脚を使い鞘から刃を抜き放つ。
そして――
◇◇◆◇◇
そして、わたしは抜いたその刀を――自分の首に当てた。
「桂、何を……しておるのだ?」
「ごめんね、アルちゃん、わたし、もう、耐えられない」
首輪の上にあたった冷たい感触。
これを引けば、それで終わり。
サクヤさんの所にいける。
これを引けば、それで終わり。
サクヤさんの所にいける。
「このうつけがっ! 何の為に……何の為にそやつは汝を救ったと思っておるのだ!」
アルちゃんの言いたい事、わかるよ。
もしこのまま死んじゃったら、サクヤさんにすごく怒られるってわかるもん。
でも……
もしこのまま死んじゃったら、サクヤさんにすごく怒られるってわかるもん。
でも……
「でも、わたし、サクヤさんがいない世界なんて耐えられない……
サクヤさんがいないのに、わたしだけが生きて……
周りのみんなが……陽子ちゃんも、お凛さんも、葛ちゃんに烏月さんも!
みんな、みんな、死んでいく中で一人ぼっちで生きるなんて、わたしできない!」
サクヤさんがいないのに、わたしだけが生きて……
周りのみんなが……陽子ちゃんも、お凛さんも、葛ちゃんに烏月さんも!
みんな、みんな、死んでいく中で一人ぼっちで生きるなんて、わたしできない!」
ふたりなら。
サクヤさんとふたりなら耐えられた。
どんなに辛くても、寂しくても、ふたりで立ち向かって行けた。
サクヤさんとふたりなら耐えられた。
どんなに辛くても、寂しくても、ふたりで立ち向かって行けた。
でも、サクヤさんはもういない。
わたしのたいせつなひとは、いなくなってしまった。
わたしを置いて、いってしまった。
それに……
「それにね、わたし、おかしいの」
サクヤさんがいなくなって、胸の中に穴があいて、からっぽになって。
なのに、からっぽなはずのそこから、なにかがあふれ出てきて。
「わたしの中の何かが、にくいって言うの……
わたしからサクヤさんを奪った人がにくい……
わたしのたいせつなひとを傷つけた人がにくい……
わたし達にこんな事をさせるあの二人がにくい……
わたし達をこんな目にあわせる神様がにくいって!」
わたしからサクヤさんを奪った人がにくい……
わたしのたいせつなひとを傷つけた人がにくい……
わたし達にこんな事をさせるあの二人がにくい……
わたし達をこんな目にあわせる神様がにくいって!」
「桂……」
にくい、にくい、にくい、にくい……
いやな気持ちが胸の奥からあふれてきて、くるしい。
このままだと、わたしはいやな子になってしまう。
そしたら、サクヤさんは誉めてくれない。
きっと、悲しい顔をするに決まってるから、だから。
そしたら、サクヤさんは誉めてくれない。
きっと、悲しい顔をするに決まってるから、だから。
「もう、終わりにしてもいいよね?」
わたしは腕に力を込めた。
なのに。
何か白い物体が腕にぶつかって、わたしは刀を落としそうになる。
どうして?
どうして、死なせてくれないの?
どうして、わたしの邪魔するの?
それは、わたしの腕に何回もぶつかって。
まとわりついて。
すごく、
すごく邪魔な存在で。
わたしを死なせてくれないそれが、
とても、とても……にくらしい。
「邪魔をするなぁ!」
知ってるけれど知らない声がして、その白い物は遠くに吹き飛んだ。
白くて、四本の脚があるそれはおもしろいほどに地面を跳ねて、転がって……
そして、驚いた顔をしているアルちゃんの前で止まる。
ピクリとも動かなくなったそれに、わたしは見覚えがあった。
「……尾花、ちゃん?」
なんで、尾花ちゃんが倒れてるんだろう?
なんで、あんなに血を流してるんだろう?
なんで、わたしの持ってる刀に血が付いているんだろう?
わたしを見つめるアルちゃんの目が、怖かった。
「あ……い、いやぁあああああああああああああ!!!!!」
目の前のそれを見たくなくて、わたしはそこから逃げ出した。
わたしは、尾花ちゃんを……葛ちゃんの、たいせつなそんざいをうばってしまった。
そして、このままいっしょにいると、わたしはアルちゃんの事も……
だから、わたしは走った。
誰も傷つけないように。
誰からも傷つけられないように。
どうしてこうなったんだろう?
どうしてこうなってしまったんだろう?
そんな事、わからない。
わたしにわかる事はただ一つ。
かみさまなんていない。
いたとしても、それはただ残酷なだけのものなんだ。
◇◇◆◇◇
「桂!」
アルの叫びに返答は返らない。
羽藤桂は絶望の表情を浮かべながら走り去る。
見る間に小さくなる少女の背中。
その速度は、明らかに人のそれを上回っていた。
羽藤桂は絶望の表情を浮かべながら走り去る。
見る間に小さくなる少女の背中。
その速度は、明らかに人のそれを上回っていた。
「くっ……!」
無論、アルも少女の背中を追おうとする。
が、目の前に倒れ付す者に一瞬、躊躇してしまう。
果たして、この子狐をこのままにしていいのか、どうか。
と、よろよろと顔をあげた狐が、まっすぐにアルの目を見つめた。
言葉はない。
しかし、その視線は子狐の思いを雄弁に語っていた。
が、目の前に倒れ付す者に一瞬、躊躇してしまう。
果たして、この子狐をこのままにしていいのか、どうか。
と、よろよろと顔をあげた狐が、まっすぐにアルの目を見つめた。
言葉はない。
しかし、その視線は子狐の思いを雄弁に語っていた。
「汝……すまぬ……!」
謝罪の言葉と共に、アルは駆け出す。
すでに小さくなった少女。
桂の言葉に一瞬気圧されてしまった自分が情けなかった。
彼女の想いを、一人取り残される悲しみを理解してしまい、
少女を止めるのをためらってしまった自分が許せなかった。
だからこそ、彼女を連れ戻すためアルは駆ける。
少女を保護し――憎しみから解放する。
それだけが、浅間サクヤの、そしてあの子狐の想いに答える唯一の方法なのだから。
すでに小さくなった少女。
桂の言葉に一瞬気圧されてしまった自分が情けなかった。
彼女の想いを、一人取り残される悲しみを理解してしまい、
少女を止めるのをためらってしまった自分が許せなかった。
だからこそ、彼女を連れ戻すためアルは駆ける。
少女を保護し――憎しみから解放する。
それだけが、浅間サクヤの、そしてあの子狐の想いに答える唯一の方法なのだから。
◇◇◆◇◇
動く者のの消えたその場所で、彼はゆっくりと顔を上げる。
少女の身体能力が上昇している事に気付かなかったのは、失敗だったと自戒する。
結果、彼はけして軽くはない怪我を負ってしまった。
刀は掠った程度なものの、強かに打ちつけた頭部からは血が滲み、足も軽くふらついている。
更に骨が折れてしまったのだろう、右後ろ脚は動かすたびに痛みが走った。
しばらくは動く事も間々ならないだろう。
だが、それでも動かなくてはならない。
彼が思い返すのは、少女の言動と身体能力の異様な上昇。
彼女は鬼に囚われてしまったのだ。
少女を解放してやりたい。
それが彼の率直な願いだった。
無論、あの少女と共にいた鬼――何かの古道具の精のように感じたが――を信用しないわけではない。
だが、自分だけこのままここで倒れているわけにもいかない。
だから、彼は立ちあがろうとする。
あの少女を救う為に……
少女の身体能力が上昇している事に気付かなかったのは、失敗だったと自戒する。
結果、彼はけして軽くはない怪我を負ってしまった。
刀は掠った程度なものの、強かに打ちつけた頭部からは血が滲み、足も軽くふらついている。
更に骨が折れてしまったのだろう、右後ろ脚は動かすたびに痛みが走った。
しばらくは動く事も間々ならないだろう。
だが、それでも動かなくてはならない。
彼が思い返すのは、少女の言動と身体能力の異様な上昇。
彼女は鬼に囚われてしまったのだ。
少女を解放してやりたい。
それが彼の率直な願いだった。
無論、あの少女と共にいた鬼――何かの古道具の精のように感じたが――を信用しないわけではない。
だが、自分だけこのままここで倒れているわけにもいかない。
だから、彼は立ちあがろうとする。
あの少女を救う為に……
不意に、風に乗って懐かしい匂いが届き、彼は顔をあげる。
微かな、ほんの微かなそれは、彼の敬愛する少女の匂い。
鬼切り頭筆頭の、あの娘の香り。
微かな、ほんの微かなそれは、彼の敬愛する少女の匂い。
鬼切り頭筆頭の、あの娘の香り。
彼は震える体を叱咤しながら、匂いの方へと顔を向ける。
しかし……二輪の乗り物に乗って現れたのは、彼の見知らぬ顔。
しかし……二輪の乗り物に乗って現れたのは、彼の見知らぬ顔。
「お、おい、大丈夫か?」
こちらへと駆け寄ってくるその姿を確認しながら、彼の意識は急速に遠のいていった。
◇◇◆◇◇
「お、おい、大丈夫か?」
乗っていた支給品のMTBを止め、なつきは慌ててその白い物体に駆け寄る。
(子犬……か?)
所々血に塗れたそれは、白い小さな獣。
そして、その場所にはその獣以外、生きている者の姿はなかった。
あるのは黒い鞄と巨大なクレーター、そしてその中心部に倒れる、見知らぬ女の死体。
それだけだった。
(間に合わなかったか)
死んでいる女が何者かはわからない。
もしかしたら、彼女が羽藤桂なのかもしれないが、なつきに確かめる術はない。
わかるのは、彼女が爆発物か何かで下半身が吹き飛ばされ絶命したという事だけだった。
乗っていた支給品のMTBを止め、なつきは慌ててその白い物体に駆け寄る。
(子犬……か?)
所々血に塗れたそれは、白い小さな獣。
そして、その場所にはその獣以外、生きている者の姿はなかった。
あるのは黒い鞄と巨大なクレーター、そしてその中心部に倒れる、見知らぬ女の死体。
それだけだった。
(間に合わなかったか)
死んでいる女が何者かはわからない。
もしかしたら、彼女が羽藤桂なのかもしれないが、なつきに確かめる術はない。
わかるのは、彼女が爆発物か何かで下半身が吹き飛ばされ絶命したという事だけだった。
周囲を警戒しながら、女へと近づく。
首がもげ、下半身が消失した無惨な死体。
思わずそれから視線を逸らそうとして……女の身体の側に首輪が落ちていることに気がついた。
首がもげ、下半身が消失した無惨な死体。
思わずそれから視線を逸らそうとして……女の身体の側に首輪が落ちていることに気がついた。
無言でそれを回収し、仔細に観察する。
殆ど繋ぎ目の目立たないツルツルとした外殻。
専門的な知識のないなつきにも、それを解除するのは困難であろう事は理解できた。
殆ど繋ぎ目の目立たないツルツルとした外殻。
専門的な知識のないなつきにも、それを解除するのは困難であろう事は理解できた。
クレーターの側にある黒い鞄にそれを詰め、なつきは早々にその場を後にする事にする。
この惨状を起こした参加者が、まだ近くにいるかもしれないし、
そうでなくとも、爆発音に引き寄せられてゲームにのった参加者が近づいてくるかもしれない。
生きている人間がいなかった以上、ここにもう用はないだろう。
この惨状を起こした参加者が、まだ近くにいるかもしれないし、
そうでなくとも、爆発音に引き寄せられてゲームにのった参加者が近づいてくるかもしれない。
生きている人間がいなかった以上、ここにもう用はないだろう。
なつきは止めていたMTBへと足を向け……
◇◇◆◇◇
111:大馬鹿者達の出会い | 投下順 | 112:続く夜に負けないで 朝の光信じて |
109:往こう、苦難と逆境と熱血と不屈に彩られた王道を | 時系列順 | |
098:Steelis my body, and fireis my blood/絡み合うイト(前編) | 羽藤桂 | |
098:Steelis my body, and fireis my blood/絡み合うイト(前編) | アル・アジフ | |
077:last moment | 玖我なつき |