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大馬鹿者達の出会い

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大馬鹿者達の出会い ◆lcMqFBPaWA


…緑
新緑の匂いのかぐわしい美しい森の中においては、緑など探す必要もないほどに溢れている。
だが、それが森の中を走る青い線…川のすぐ傍だとしたらどうだろう。
無論、川の傍とて苔などが生していはいるし、川の内部には海草の類が繁栄していることだろう。

しかし、これはそのどちらとも違う。
何故なら、その緑は…動き出したのだから。
そう、それはモノではなく…

「…う、む…ゲホゲホッ!!
 むう…死ぬかと思ったのである。
 おのれあの女め、世紀の大天才にして人類の財産であるこの我輩の頭脳の損失を惜しむ気は無いのか!
 …む?
 いやむしろ我輩の財産は頭脳であるからしてその他の部分など不要とでも考えたか!?
 否! 断じて否!!
 このセリフは何となく死亡フラグである気もするがそもそも我輩に死亡フラグなど通用するはずも無い以上何の問題も無いのである。
 兎に角! 我輩の! この両の手は! ギターを鳴らすのにとても重要である以上! 断じて不要などでは無いのであーーる!!
 いや、そもそも我輩の頭脳を刺激するのにこれ以上無いほどに重要なモノである事を考えるとむしろ真の頭脳と言っても過言ではないのである!!
 つまり! 我輩の頭脳よりも更に貴重な人類の財産と言ってよいのである!!
 ……む、だが待つのである。
 そもそも我輩の頭脳以上に貴重なモノなど存在するはずが無い!
 つまりやはり頭脳の方が貴重であるか!?
 …………いや!! 問題ナッシーーーング!!
 そもそも、我輩自体が人類の財産であるのだからして悩む必要など無いのである!!
 うむ! そもそも最初から結論なぞ出ていたのである以上やはり我輩は天才であった以上証明終わりなのである!」

……この物体が何か、
そう、聞かれると、多くの人はこう答えるであろう。
「キチ○イ」
と。
そのキチ○イ、本人の言によればその名は『ドクターウエスト』
少し前までほぼ土座衛門であった事を考えると、非常に丈夫な生き物であると推測される。
…あるいは、頭の緑で光合成でも行っているのかも知れない。

「うむ! 結論が出た所で話を戻そう!!
 そもそもあの女め! この人類史上最大の財産である我輩を!
 ……む、何時の間にか我輩は歴史上においても最高の天才であると認識されていたのであるか。
 当然のこととはいえ少しは照れるのである。
 うむ、兎に角歴史上最高の天才という財産である我輩を無慈悲にも突き落とすとは何たる極悪人であるか! 親の顔が見たいである!
 ええい親! 出て来い! と言っても出てくるはずも無いのである!
 うむ、ならば勝手に想像するのである! 確か『子は親の鏡』ということわざがあったはず。
 うむ、先人も中々良い事をいうのである! つまり、あの女の親の顔はあの女の顔を鏡に映せば良いのだ!!
 あいにくと鏡はここには存在しないが問題ナッシーーーング!!
 そもそも鏡に映るのは自分の顔と相場は決まっているのである!
 つまりあの女の顔を鏡に映せば写るのはあの女!! つまりあの女の親の顔はあの女の顔ということである!!
 うむ、親! 娘にどんな教育をしているであるか!! この人類最高の天才であるドクターウエストを殺そうとしたのであるぞ!!
 全く…凡骨リボンは無事であろうか……
 ………………………………………………む?
 ぼ! 凡骨リボーーーン!!」

一しきり叫んだ後で、更に大きな声で叫ぶキチ○イ。
だが、その声音は先ほどまでのものとは多少異なる。
特に意味の無い(本人には大有りなのだろうが)叫びと違い、多分に驚愕とか心配とかそういった感情を混ぜたものであった。
そう、先ほどまですっかり忘れてはいたが、元々彼は一人では無かった。
凡骨リボンこと『藤林杏
ウエストに言わせると凡骨である、何処にでもいると言ってよい普通の一般人である。
最も、ウエストの叱咤によって多少なりとも生きることに意義を見出した辺り、少しばかりの根性はあるようだが。
兎に角、その杏であるが、非常に不安定な状況であった事は違いない。
加えてそこにはウエストを川に落とした相手『椰子なごみ』が居たのだ。
最早杏の命は風前のともし火と言って過言では無いのかも知れない。

「ええい! こうしては居られんのである!!
 待っていろ凡骨リボン!! 今助けに天才が行くぞ!!
 ……むう、だがそれにしても何処にいるのであろうか?
 そもそも先ほどの所に戻った所で既に手遅れと言う可能性も…否! そんな事ナッシーーーング!!
 この超天才に限って間に合わぬなどという事があるはずが無い!
 それに凡骨リボンとて凡骨なりに頑張っておる!! いざとなったら川に飛び込んで逃げる事位!
 ……む、待て、川であると?
 そういえばそもそも我輩は川に落とされてこんな所に居るのである以上、凡骨リボンも同じような目に会っているともしれず。
 そうなるとむしろ我輩は川を下るべきなのではと思うのが素人の浅はかさ!
 そんな事をしても見つかる可能性の低い以上! やはり我輩は先ほどの所に戻るべきなのである!!
 うむ、そうと決まれば休んでいる暇など無い! 早速戻るのである!!」

とっくの昔に走り出しながらも、それでも意味不明な事を言い続けていたウエストだが、それでも目的地が定まったのは多少は意味があったらしく、彼は今までよりも早い速度で川の横を駆け上り始めた。
どうでもいいがあれだけの大声で叫びながら走り続けている辺り相当の肺活量と言って良いだろう。

…だが、その肺活量故に、彼の身には危険が迫る事となる。


「ええい!! また進めないであるか!!
 この天才の歩みを妨げるとはいい度胸ではあるが相手が自然である以上は度胸も何も会ったものではないわけで…
 つまり平たく言うと我輩の手に破壊ロボが無いので命拾いしたな自然!!
 今度会ったら覚えておくのである!!」

あれから数十分、ウエストは川の側を登りながら文句を叫んでた。
地図上で見ると平坦なようでも、実際に川を追うというのはかなり大変な作業である。
大地の起伏は人の足では進めず、密集する草木は容易く人の行く手を遮る。
既に三度、ウエストは回り道を余儀なくされていたのだ。

一応、科学者ではあるのだが、ウエストは兎に角タフだ。
それこそ○キブリ並みの生命力と言っても過言では無いのだが、その彼にしてもこうも何度も回り道をさせられては流石に堪える。
元より川に流されて体力を消耗した身では、急な勾配と自然の妨害は十二分に強大な敵であった。
……だが、それでもウエストは歩みを止めない。
元より負けず嫌いな彼のことである。
ここで足を止めては何かに敗北したと考えても不思議は無い。
…だが、それ以前に……要するに、藤林杏の事が心配であったのだろう。
無論、本人が聞いたら確実に否定するのだろうが。


「…湖…か…」
(知らぬ間に北に向かっていたのか…)

目前に広がる光景を目にしながら、片手に鞘に収まった刀を携えた制服姿の少女―千羽烏月は一息ついた。
先ほどの別れ、馴れ合うような中では無いとはいえ、元よりの顔見知りである浅間サクヤとのそれは、どうやら知らずうちに烏月の心に陰を落としていたようだ。

“ふざけるんじゃないよ、この馬鹿!
 そんな事をされても、桂は喜ばないよ!
 あの子はそんな子じゃない!”
“いいや、あんたはわかっちゃいない。
 ……あの子は、例え見知らぬ誰かが死のうと心を痛める子だ。
 そして、それと同じくらい、誰かが誰かを傷つける事に心を痛める子だよ!
 それを……桂のために皆殺しにしよう、だって?
 そんなの桂に対する侮辱だ!”

「解っているさ…そんな事くらい…」
そう、誰よりも…烏月自身がその事をよく理解している。
何故なら…桂は烏月の事を誰よりも良く見ていてくれていたのだから…
そう、約束したのだ…
烏月は桂を守る『鬼切り』であり。
桂はその烏月を空より見守る星であると。

(そう、だからこそ…)
桂の為に人を…鬼でないものを殺さなければならない…/桂の笑顔が、声が烏月の覚悟を曇らせる…
相反する意思。
同じ場所から生まれたが故に完全に分かれる事の無いソレは、烏月の心を割る。
無論、その程度で烏月の心は壊れたりはしない。
だが、それでもそれは確実に、烏月の力を奪う。

迷いは、太刀先を鈍らせる。
その程度の事は、思い返す必要すらないほどに刻まれた教え。
その教えに従い、……人を切った事すらある。
今更…何を悩むというのか。

“鬼を切るために、ソレを阻む人を切る”
“桂を生かすために、ソレを阻む人を切る”

たった…
そう、たった、二文字程度の違いでしかないというのに、だ。
何が違う?
何故違う?

そう、違うのは、変わったのはたった一つだけ。
羽藤桂
その存在が、烏月を変えたのだ。
いくらその為に、と思い込んだ所で、その底にある想いだけは偽れない。
“桂さんの悲しむ顔を、見たくない”

烏月が人を切れば、桂は嘆き悲しむだろう。
切られた人の為に、そして、切った烏月自身の為に。
ならばこそ、切らねばならない。
大切な人を守る為に、切らねばならない。
たとえ桂が嘆き悲しもうと、切らねばならない。
(何て…矛盾だろう……)
思わず、烏月の顔に自嘲の笑みが浮かぶ。

桂を守る為に、桂を嘆き悲しませる。
桂を守りたいから、桂に会うわけにはいかない。

今の烏月は矛盾の塊でしかない。
いや、元より矛盾の塊であったものが、サクヤとの再会によって矛盾を意識したと言うべきか。

…だが、
(…だから、人を切れる)
矛盾が矛盾であると理解したのであればこそ、それは存在できる。
桂の為に人を切る。
そこに矛盾が存在すると理解出来たのであれば、もう迷う必要などは無い。
迷いが正確に理解出来たのであれば、それ以上迷う必要などないのだから。

(そう…だから……!!)
刀を鞘から抜き放ち、肩に担ぎ上げる。
そして、そのままの流れに従い、背後へと切り流す。
切っ先の向きと共に体を背後に向け、
「貴方は…この殺し合いに乗っているのか?」
先ほどからその方向より聞こえていて、丁度姿を現した声の主に、詰問した。




(……何であるかこの女は)
漸く、先ほど藤林杏と別れた場所までたどり着いたドクターウエストを迎えたのは、刀を構えた女子学生であった。
黒い長い髪に、正面に突き出された切っ先。
明らかに、危険そうな人物であった。
(……むむ、この外見は…)
「お前は…もしや少し前にクリス・ヴェルティンと来ヶ谷唯湖が会ったとかいう女であるか!?」
少し前に別れた二人が、大聖堂にて襲われた相手の内の一人ではないのか?
その疑問が、ウエストの脳裏を過ぎる。
あの二人を襲った、恐らくは殺し合いを肯定している人物。
それが、この場所に居るということは…

「…その二人は「貴様!! 凡骨リボンをどうしたであるか!?
 この場所にいるという事は殺したのであるか!?
 …いや、凡骨とは言えそう簡単にはやられる筈も無い!!
 そうなると逃げられてこの場所に戻って来たという訳か!!
 そしてこの我輩がのこのこと現場に戻って着た犯人のようにこの場所に来たという事であるな!!
 むう、そうなると次にお前は我輩を襲う気であるな!
 構えた刀がその証!!
 ならば我輩は一目散にこの場から逃げ………………ノォーーーーーーウ!!!!
 逃げる!?
 言うに事欠いて逃げるであると!?
 この世紀の大天才ドクターウエストに逃走など許される筈が無い!!
 つまりこれは敗北ではなく転進である!!
 という訳で凡骨リボンを探しに転進するであーーーーーる!!」

…ウエストの言った名前について尋ねようとした烏月の言葉を遮って、ウエストが叫ぶ。
基本的に何から何まで間違っているようでいて、半分くらいは正解な辺り、ある意味天才という名は相応しいのかもしれない。
兎にも角にも逃げ…転進しようとしたウエストではあったが…

「……ドクター…ウエスト…?」
多少の戸惑いと共に発せられた烏月の声に、ピタッ!!と、
それこそポーズボタンでも押されたかの様に停止した。
そして、首だけがコマの様に半回転しながら。

「むむ!?
 何故初対面の筈の我輩の名前を知っているのであるか!?
 …いや、そもそも世紀の大天才である我輩の顔を知らない者など我が宿敵大十字九郎以外に居る筈もないのであるが!
 ……むう! さては貴様我輩のファンであるな!!
 それならそうと先に言うが良い! 普段はサインはお断りであるが今回に限り特別に…」
「必要ありません」

一気呵成に放たれたウエストの言葉を、埒があかないと判断したか、烏月が遮る。
その声は、あくまで平坦だ。
ウエストを前にして普通にしている辺り、かなりのものであると言えるだろう。

「…とりあえず、順番に放してもらえないか?
 まず、先ほど言った二人、そして…凡骨リボン…とは何だ?」
ウエスト相手に駆け引きは不要と判断した為、話を促す方向に持っていく。
果たして、烏月の読み通りに、

「ノォーーーーーー!!
 我輩のサインよりもクリス・ヴェルティンに来ヶ谷唯湖に凡骨リボンのほうが価値があると!?
 否! 断じて否!!
 むう、死亡フラグ二回目のような気がするであるがどうでもいいのである!
 まさか大十字九郎以外にもこのような相手が居るなど!!
 ええい! 貴様など大馬鹿者の十分である!
 やーいこの大馬鹿者!!
 うむ、気が済んだのである。
 それでクリス・ヴェルティンに来ヶ谷唯湖は先ほど大聖堂にて大馬鹿者に襲われたと言っていたぞ。
 黒い制服と長い髪に日本刀とくれば概ね間違いないのである。
 ついでに凡骨リボンは本名藤林杏と言うが凡骨リボンで充分である。
 そして見た限り周りに凡骨リボンが死んだと思われる証拠はないので問題ナッシングである。
 うむ、凡骨リボンごときに逃げられるとはやはり貴様は大馬鹿者なのであろう。
 やーい大馬鹿者!!」

いかなかった。
…いや、質問に答えている辺り目的は果たしているのだろうが…
兎に角長すぎる。
肝心の内容よりも無駄話のほうが遥かに長いのだから。
だがそれでも充分ではあるのだろう。
(大聖堂…あの二人組か…?)
何処の国かは不明だが西洋系の少年と、日本人と思わしき少女。
名前から考えると、恐らくは間違い無いのだろう。
そして…
「…私がここに着たのは少し前です。
 その藤林杏という人は知りません」
具体的に何があったのかは不明だが、ウエストはその杏という人物と合流する為にここに来たのであろう。
その杏なる人物がどうなったのかは不明だが…兎に角、
(殺し合いには乗っていないという事か…)
あの二人組と共に行動し、他にも仲間がいるということは、そうなる。
つまり、利害の一致によって手の組める相手では無いということだ。

…だが、
「貴方の名は、ドクターウエストなのですね?」
「……我輩の名も知らぬ大馬鹿者に答えてやる理由などないが我輩の名を知らぬ者がいるというのも納得いかないので答えてやろう!
 いかにも!! 我輩こそが世紀の大天才! ドクターウエストであーる!!
 さあ、わかったからには」
「…では」
ウエストに喋らせていては埒が明かないと充分に理解出来たが故に、烏月は遮って、デイパックに手を入れた。
そして、
「コレに、見覚えは?」
ソレを、取りだした。
恐らく、ウエストを名乗る人物は、偽名では無い。
あそこまで自然に偽名を使える人間が居るとは思えないが故に。
だが、それでも確認の為にそれを見せた。

「ぬおっ!?
 それは我輩がエルザ用に作った『我、埋葬にあたわず』ではないであるか!!
 何故大馬鹿者がソレを持っておるのだ!?
 それはエルザのものひいていえば我輩のものであるぞ! さあさっさと返せ!!」
「…残念ながら返す訳にはいけません」

どうやら、ウエストという男は本物のようだ。
見ただけで烏月の知らない内容まで自分から喋っている以上、間違いないだろう。

「何故であるか!?
 我輩のものである以上持ち主に返すのが筋である!!
 おのれ、警察!! 何故何時もはしつこい位いるのにこんな時に限っていないのであるか!!
 かくなるうえは我輩自らの手で持って取り返すしか無いであるか!?
 いやしかし破壊ロボ無しで『我、埋葬にあたわず』と戦うのは…………
 ……!
 ふっ! ふはははははははははははははははゲフッゲフッ!! ハアハア…ふ!
 墓穴を掘ったであるな!!
 そもそも『我、埋葬にあたわず』は魔道の心得が無くては使えないのである!!
 取り返した所で我輩自身にも使えないのであるがそれはそれ!!
 兎に角大馬鹿者にはそれは使えぬ!
 さあ、さっさと我輩に返すついでに謝るのであー「使えます」る?」

何やら意味不明に叫び続けるウエストを、烏月の声が遮る。

「私はコレが使えます。
 確かに説明書にあった『魔力』というものは所持していませんが、私の用いる『霊力』であっても使用可能なようです」
「な…なんであると?」
「…加えて、私にはこの刀もあります。
 貴方には私をどうにかすることは「何であるかその『霊力』というものは!!??」
説明とともに、自身の優位を伝え、同時に質問したいことを尋ねようとした烏月を、今度はウエストが遮る。

「『霊力』!?
 この世紀の大天才である我輩の知らん力が存在するというのか!?
 否! 断じて否!!
 むう、三回目であるが二度ある事は三度あるので問題ないのである。
 うむ、知らぬのであればこれから知ればよいだけの事!!
 まず『我、埋葬にあたわず』を使用可能という事は魔力に近似した力であると推測されるのである!!
 加えて大馬鹿者が力と自覚している以上それなりの技術体系が存在しているということになるのである!!
 むむむむむむ!! おい大馬鹿者!!
 いや霊力女! お前は何と言う名前で何人であるか!?」
「…千羽烏月、日本人だが…」

ぶしつけな質問ではあったが、烏月は答えた。
いい加減、大馬鹿者呼ばわりは我慢出来なかったのであろう。

「……日本人!!
 また日本人であるか!!
 おのれ大十字九郎といいどこまでも我輩に立ちふさがるか!!
 兎に角! 日本には!!
 ……む、待つのである、我輩の世界の日本とは限らぬのであるが……
 いや! どっちにしろ日本には変わらないのである!!
 千羽烏月の世界の日本には我輩の知らない技術があるとそういうことである!!」
「…私の…世界?」

いい加減鬱陶しい気もするウエストの叫びを普通に聞きながら、烏月は気になった事を問う。
世界…とはどういう意味なのか。

「む…千羽烏月よ、お前はアーカムシティを知っておるか?」
「…生憎と、知らないな」
「覇道財閥は? ブラックロッジは知らんのであるか?」
「…知らない」
「ふん、やはりであるか」

納得したようにウエストは僅かに嘆息する。
そして、疑問を浮かべたままの烏月に告げた。


「…そんな、事は」
「ある筈無いとでも言うであるか?
 凡骨リボン辺りとは違いお前はある程度理解納得できるのではないか?」
「……」

無い…とは言い切れない。
荒唐無稽であることは確かなのだが、それでも逆の意味で納得出来る。
あの双子の鬼は、蘇ったのでは無く死んでいなかった。
少なくとも、死んでいない場所からやって来た。
そういう事だとしたら、あの時の双子の言葉の不可思議さが、理解出来る。
だが、そうだとするならば…

「ふむ、さて千羽烏月よ、我輩は興味を持ったのであるからして……!!」

振るった太刀は、空を切った。
ウエストが、退きながら尻餅を付く。
気が抜けながら振るった為か、かわされたようだ。

「なっ!何をするのであるか!?」
「気が変わった。
 ここで死んでもらう」
少しだけ考えていた事は、どうやら最悪の悪手であったようだ。
「どういう事であるか!?」
「…お前は天才と言っていたが…ならこの首輪を外せるのか?」
「当たり前である!! この程度のオモチャを解体するなどこの世紀の天才ドクターウエストにとっては朝飯前のおやつ前である!!」
「……なら、何故まだ外していない?」
「決まっているのである! 構造が判らないもの解体など出来る筈が無いのである!!」
「…そうか」

ウエストの鼻先に、切っ先を突きつける。
つまり、首輪の現物さえあれば、この男は首輪を解体出来るということだ。
それはつまり、まだ出来ないという事だ。
なら
「僥倖というべきか…桂さんの身に危険が及ぶ前に、憂いを絶つことが出来る」
今切っておけば、少なくともこの男によって首輪が解体される事はなくなる。
つまり…『首輪が爆破される可能性も減るということだ』
少し前までは、万が一の時の為に桂さんの首輪を外してもらう事も考えた。
だが、主催者がそこまで強力だというのなら、それはこれ以上無いくらい危険な行為だということだ。
最悪の場合、ウエスト達が首輪を外したとして、その時に未だ首輪の付いた者は皆、首輪を爆破される可能性があるということだ。
そんな事態を、未然に防げた。

「ええい千羽烏月!!
 憂いとはどういう事であるか!?
 ついでにその計算とはだれであるか!?」
「答える必要は無い」

そう、答える必要なんて無い。
意味も無い上に、もし、彼が桂さんと出合っていたとしたら、決心が鈍りかねないから。
だから、切っ先を突き出そうとして、

「優勝したとしても帰れないのであるぞ!!」

咄嗟に、切っ先を逸らした。

何本か、ウエストの髪が宙を舞う。

「…やはりであるか。
 一体何人こんな大馬鹿者がいるのであるか。
 よいか千羽烏月よ。
 思い出してみるのだ、あの時あの二人は帰すなどとは一言も言っておらぬのだぞ」
何…
「具体的にどうなるのかなど我輩にはわからんが、それでも碌な事にはならないのである。
 お前がその計算とやらを優勝させたところで殆ど何の意味も無いのである」
そんな…事
「だから優勝狙いなど意味ナッシーーーーーング!!
 ふはははは! 判ったのなら大人しくこの刀を退けてこの我輩の頭脳に頼るがいい!!
 今なら霊力に関して知っていることと、ついでに実験に協力すれば許してやらんでもない!!」
だが、
「…だからと言って! どうしろと言うんだ!!
 他に桂さんを生き延びさせる道があるとでも言うのか!?」
「だから我輩が首輪を外してやるのだ!!
 そしてその後に皆で主催者とか言う奴らをミックミクにしてやるのだ!!」
「そんなこと!」
「出来ないとでも言うのであるか!?」
「お前は! お前たちは出来るとでもいうのか!?」
「出来ないのでは無いのである!!
 そもそもこの大天才に不可能のなどナッシーーーーング!!
 やるのである!!」
「……!!」

ああ、そうできたらどんなに良いのだろう。
サクヤさんに謝り、共に桂さんを守り、生きて帰る。
それが出来たら、どんなに素晴らしいのだろう。
だけど、そんな事、出来るのか?
こんな事をできる様な相手に、そんな奇跡みたいな事が出来るのか?

「それでも!!
 生きて帰れる可能性があるのなら!!」
「こんな事を始めるような相手を信じるであるか!?」
「……!!」

ああ、そうだ。
そもそも、最初から最も信じられない相手を信じなければ、桂さんを生かして帰す事が出来ない。
それでも、約束したんだ。
桂さんを守るって。
サクヤさん言われたって退かなかった。
今更、こんな見ず知らずの相手に言われたからといって何だというのだ。
どんなことがあっても、桂さんを殺させる訳には行かない。
だから…
「小娘! 一つだけ聞いておく事があるのであるのでさっさと答えるのだ!」
思考を、遮られる。

「その、計算とやらが死んだとしたら貴様はどうするのだ!?
 さっさと答えい!!」
「……お前に答える理由は無い…」
「そんな答えは必要ナッシーーーーング!!
 さっさと答えるのだ! お前「ご・と・き」とてその程度の事が起きるかも知れないという予想ぐらいは出来るであろう!!」
「……その、時は…」
「次にお前は優勝して生き返らせるというのである!!」
「………………違う…」
「…何であると?」
「その…時は…」

そう、その時は…

「私も、桂さんの後を追う…」

それが、私に出来る唯一の事だ。
桂さんを生き返らせるなんて事は出来ない。
何故なら、それは人から外れるという事。
桂さんを『鬼』にするということだ。
そんな事は…出来ない。
人から外れた存在として歩ませる事は、…出来ない。

「……お…」

「大馬鹿者である!」

…そんな事、いまさら言われなくても解ってる。

「とりあえずその計算式とやらに一発ブン殴られてくるのである!!
 少しは見所があるかと思ったのであるがお前ごとき大馬鹿者で充分である!!
 いや、むしろ『超』大馬鹿者の名が相応しい位の大馬鹿者である!!」

…そうなのかもしれない。
だけど、それだから何だって言うんだ?

「…いや……青い…で、あるな」

(…?)
変わった?
ウエストの表現が?



「…一つだけ教えておくのである。
 大天才として…………いや、かつての大馬鹿者の先達として…」

そう、我輩は大馬鹿者だったのである。
天才であろうと、間違いは犯すのである…。

「一人になるのはイカンのである」

……理論は、完璧だった筈なのである。
…いーーーーや!! そもそも完璧でない筈など無い!
この世紀の大天才ドクターウエスト!によりによって計算間違いなど存在しないのである!
だが、それでも、

「人生二足歩行ということわざはお前の国のものなのであろう?
 片方の足しかない二人が一人の人間として歩いていくという…
 一人では道を間違えても誰も教えてくれないのである…」

恐らく…あの時エルザが居たのならあれは成功していた筈なのである。
そもそもエルザを蘇らせる為の行動であったのだからエルザが居る筈は無いのであるが…
それでも…あの時、エルザが必要だったのである。

「別に同胞でも恋人でも僕でも好敵手でも構わんのである。
 一人で居ては、……いずれ間違えるのである…」

我輩には…エルザが必要だったのである。
エルザが居なくなってから…我輩は死者の蘇生を諦めたのだから。
天才に挫折はあり得ないのなら…エルザの居ない我輩は、天才ではなかったのであろう…

「千羽烏月よ…お前はまだ一人ではないのであろう?
 ならば…まずはその計算とやらに会っておくのだ…会って…そして…
 共に行くのである…」

我輩のような…大馬鹿者にならずに、済むかもしれないのだから……




「…………それを言うなら人生二人三脚だ。
 それに後の内容は比翼の鳥のものだ…」
(…いや)

違う…な。
そんなことを言うべきでは無い。
(道を間違えた…か…)
千羽党の鬼切り部として…無辜の人を切るのは間違っている。
そんな事は……
(……違うな)
そう、違う。
鬼切り部は関係無い。
私という、千羽烏月の道が、間違っている。
それは、理解している。

「今更言われなくても…解っている……」
そう、…理解している。
正しい道が何なのか。
私のするべき事は何か。

…だけど、
「それでも…私は…桂さんに死んで欲しくないんだ…」
桂さんの側にいては、私は桂さんを優勝させれられない。
優勝したとしても帰れないとしても、それでも、生きてはいられる。
だから、私は桂さんに会うわけにはいかない。

「何一つ解っておらんであるな」

ああ、
「そうかも、しれないな…」
結局、私は何をしたいのだろう。

「死んで欲しく無いであると!?
 そう思うのであるならとっととその計算とやらを見つけだして命に代えても守るのである!!
 優勝させるなどという甘い事を言っている場合かこの大馬鹿者!!」
「甘い…か」

そう…だな。
桂さんに死んで欲しくないなら…こんなふざけた催しなどに参加させてはいけなかったのだ。
そもそも、桂さんを守るのなら、桂さんの側から離れてはいけないのだ。
その事を、あの時イヤというほどに思い知らされたというのに。
私は、ただ彷徨っていただけだ。
いや、違う。

「私は…臆病だったのかな…」

桂さんの近くで人を切れば、間違いなく彼女は私を恐れるだろう。
……怖かったのだ。
桂さんに嫌われる事が。



「私は…桂さんを探す。
 探して……そして、守る」
「そうであるか」

(そうして…優勝を目指すかもしれない…)
下の句を、烏月は告げなかった。
守る。
桂を守るのならば、その選択肢は捨てられないのだから。

「さて、ではとっとと大聖堂に向かうである!!」
「……は?」
ウエストの答えに、烏月は思わず聞き返した。
言っている内容が、良く解らなかったが故に。

「『は?』ではないである!
 そもそもお前の所為で時間を取ったのであるぞ!!
 我輩は凡骨リボンを探さねばならぬのであるからして手を貸すのが当然であろう!!
 ついでにいえば『我 埋葬にあたわず』は我輩の持ち物であるからして勝手にしようした代金として対価を払うのが当然であろう!!」
「……二手に別れた方が、効率がよいのでは?」

「そうしたいのは山々であるが、お前が会ったティトゥスなどは我輩ではどうにもできないのである!
 そして我輩が死んではお前も困るであろう? さあ、さっさと我輩を守りつつ進むのだ!!」
「…………」
一瞬、何故こんなのを守らないといけないのかという疑問が烏月の頭を過ぎるが…
…仕方がないかと思い返す。
「どの道計算とやらが何処にいるのか知っているはずもないのであろう?
 ならば人の多い場所を目指すのだ!!」
「私はそちらから来たのですが…」
「ならば丁度良い!!
 早速進みやすい道を案内するのだ!!」
「…………」

ゴツンッ!
「あべしっ!!」
とりあえず、いい加減一発殴っておくことにしたらしい。



【D-4 湖周辺/一日目 午前】

【千羽烏月@アカイイト】
【装備:地獄蝶々@つよきす -Mighty Heart-】
【所持品:支給品一式、我 埋葬にあたわず@機神咆哮デモンベイン】
【状態:肉体的疲労小、精神的疲労中、身体の節々に打撲跡、背中に重度の打撲、右足に浅い切り傷(応急処置済み)】
【思考・行動】
 基本方針:羽藤桂に会う。
 1:桂を守り共に脱出する、不可能な場合桂を優勝させる。
 2:トルタ、恭介に対する態度保留。
 3:クリス、トルタ、恭介、鈴、理樹は襲わないようにする。
【備考】
 ※自分の身体能力が弱まっている事に気付いています
 ※烏月の登場時期は、烏月ルートのTrue end以降です
 ※クリス・ヴェルティン、棗鈴、直江理樹の細かい特徴を認識しています
 ※岡崎朋也桂言葉、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています
 ※恭介・トルタが殺し合いに乗っている事を知りません。
 ※ドクター・ウェストと情報を交換しました。


【ドクター・ウェスト@機神咆哮デモンベイン】
【装備】:無し
【所持品】支給品一式 、フカヒレのギター(破損)@つよきす -Mighty Heart-
【状態】気絶、肉体的疲労大、左脇腹に銃創、スタンガンによるダメージ
【思考・行動】
基本方針:我輩の科学力は次元一ィィィィーーーーッ!!!!
1:凡骨リボン(藤林杏)を探しに大聖堂へ
2:ついでに計算とやらも探す
3:霊力に興味
【備考】
※マスター・テリオンと主催者になんらかの関係があるのではないかと思っています。
※ティトゥス、ドライを警戒しています。
※フォルテールをある程度の魔力持ちか魔術師にしか弾けない楽器だと推測しました。
※杏とトーニャと真人と情報交換しました。参加者は異なる世界から連れてこられたと確信しました。
※クリスはなにか精神錯覚、幻覚をみてると判断。今の所危険性はないと見てます
※烏月と情報を交換しました。



110:希望の星 投下順 112:Monochrome~モノクローム~
107:光の先には? 時系列順 114:トーニャの不思議なダンジョン及びあやかし懺悔室
087:復讐者 ドクターウェスト 115:もう一人の『自分』
079:この地獄に居る彼女のために 千羽烏月 115:もう一人の『自分』

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