outbreak ◆WAWBD2hzCI
羽藤桂たちを爆撃した後、衛宮士郎はカジノへと退避していた。
あの三人を一撃でまとめて葬り去った自信はある。
投影魔術を利用すれば必殺を約束されなければならない。
アーチャーの宝具である『偽・螺旋剣(カラドボルク)』による爆撃を防がれたとは思えない。
あの三人を一撃でまとめて葬り去った自信はある。
投影魔術を利用すれば必殺を約束されなければならない。
アーチャーの宝具である『偽・螺旋剣(カラドボルク)』による爆撃を防がれたとは思えない。
だが、もしもの可能性を考えて狙撃を行ったビルから退去。
投影魔術を使った衝動で爆発しそうになる体を強引に押さえ込みながら、士郎は近場の建物へと転がり込む。
そこがカジノだったわけだが、今の体調では戦えない。落ち着くまで身を隠すことにした。
投影魔術を使った衝動で爆発しそうになる体を強引に押さえ込みながら、士郎は近場の建物へと転がり込む。
そこがカジノだったわけだが、今の体調では戦えない。落ち着くまで身を隠すことにした。
「ギ……ぐっ、あ……!」
爆散しそうな意識を繋ぎ止める。
身体の内側から侵食される悪寒と恐怖と違和感が、際限なく衛宮士郎の身体を貪る。
人間としての細胞が作りかえられていく。
消えそうになる自分を必死に繋ぎ止めながら、士郎は歯を食いしばって耐え続ける。
身体の内側から侵食される悪寒と恐怖と違和感が、際限なく衛宮士郎の身体を貪る。
人間としての細胞が作りかえられていく。
消えそうになる自分を必死に繋ぎ止めながら、士郎は歯を食いしばって耐え続ける。
喰われていく。
衛宮士郎という存在そのものが、内側から食い散らかされていく。
衛宮士郎という存在そのものが、内側から食い散らかされていく。
「くっ……そっ……!」
かつて、確かに言峰綺礼に警告された。
使えば時限爆弾のスイッチが入る――――使えば、確実に破滅への道を歩くことになる。
どう足掻こうと後戻りできない、容赦無用の自殺衝動(アポトーシス)。
それを承知の上で、衛宮士郎はそれを行使した。
使えば時限爆弾のスイッチが入る――――使えば、確実に破滅への道を歩くことになる。
どう足掻こうと後戻りできない、容赦無用の自殺衝動(アポトーシス)。
それを承知の上で、衛宮士郎はそれを行使した。
桜は、どうしているだろうか。
怖い目にはあっていないだろうか。
痛い目にはあっていないだろうか。
苦しい、と。助けて先輩、と泣いてなどはいないだろうか。
怖い目にはあっていないだろうか。
痛い目にはあっていないだろうか。
苦しい、と。助けて先輩、と泣いてなどはいないだろうか。
「くそっ……うぐっ、うあぁああああ……!!」
彼女の涙を止めると決めた。
どれだけ憎まれようと構わない、どれだけ罵られようと構わない。
どれだけ憎まれようと構わない、どれだけ罵られようと構わない。
「っ……桜ぁあッ……!」
護りたいと思った。
いつも自分の前では笑っていて。
だけど自分がいないところで泣いていて。
そんな彼女の絶望に気づけなかった自分にも、彼女に冷たい世界にも腹が立つ。
いつも自分の前では笑っていて。
だけど自分がいないところで泣いていて。
そんな彼女の絶望に気づけなかった自分にも、彼女に冷たい世界にも腹が立つ。
正義の味方は死んだ。
味方と信じたリセルシア・チェザリーニの背中にゴルフクラブを叩きつけたときから。
もしくはトドメとして刃をその胸に突き立て、一人の少女の命を自分の勝手な理屈で奪い去ったときから。
誰かを護りたいと願った少女の夢ごと、投影魔術によって撃ち殺したときから。
味方と信じたリセルシア・チェザリーニの背中にゴルフクラブを叩きつけたときから。
もしくはトドメとして刃をその胸に突き立て、一人の少女の命を自分の勝手な理屈で奪い去ったときから。
誰かを護りたいと願った少女の夢ごと、投影魔術によって撃ち殺したときから。
「待ってろ……桜……っ……!」
道化と笑うなら笑え。
壊れた道筋であろうとも、衛宮士郎はもうこの道しか進めない。
罪のない少女たちの命を奪った業は彼を燃やし尽くす。
それすらも許容して、そんなことは一人を殺すと決めた時点で十二分に承知していて。
壊れた道筋であろうとも、衛宮士郎はもうこの道しか進めない。
罪のない少女たちの命を奪った業は彼を燃やし尽くす。
それすらも許容して、そんなことは一人を殺すと決めた時点で十二分に承知していて。
それでも桜の味方を張り通すと決めたのだ。
正義の味方ではなく、ただ一人の味方に。
心の底から護りたいと思えた少女のために、命を張り続けようと決めたんだから。
途中下車などできない。燃え尽きるだけしかない未来で結構だ。
身体は剣で出来ている。故に、折れて使えなくなったのならば切り捨ててくれて構わない。
心の底から護りたいと思えた少女のために、命を張り続けようと決めたんだから。
途中下車などできない。燃え尽きるだけしかない未来で結構だ。
身体は剣で出来ている。故に、折れて使えなくなったのならば切り捨ててくれて構わない。
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ……はあーっ……はっ……はっ……」
自分が壊れていく感覚が消えていく。
どうやら沈静化してくれたらしい。たった一度、絶望の風を受けただけでこの様だ。
今にして思えば失敗した、と思わざるを得ない。
命のカウントダウンの切っ掛けとなった、桂と呼ばれた少女に対する投影魔術……あれは失敗だったと言わざるを得ない。
確かにあの窮地を挽回できたという意味では必要だったかも知れないが、その一撃で眼帯の男も含めて殺すべきだった。
どうやら沈静化してくれたらしい。たった一度、絶望の風を受けただけでこの様だ。
今にして思えば失敗した、と思わざるを得ない。
命のカウントダウンの切っ掛けとなった、桂と呼ばれた少女に対する投影魔術……あれは失敗だったと言わざるを得ない。
確かにあの窮地を挽回できたという意味では必要だったかも知れないが、その一撃で眼帯の男も含めて殺すべきだった。
(……っ、たく……昼行灯も、大概に、しないと……)
聖骸布もろくに外さない状態での投影なら、問題ないのではないか。
そんな甘ったれた楽観のツケが、現状の自分を苦しめている。
中途半端な状態による一度目の投影、使用したのはアーチャーの短剣の一本である『莫耶』だ。
夫婦剣である片割れの『干将』が投影できなかったのは、聖骸布が不完全な状態での投影だからだろうか。
そんな甘ったれた楽観のツケが、現状の自分を苦しめている。
中途半端な状態による一度目の投影、使用したのはアーチャーの短剣の一本である『莫耶』だ。
夫婦剣である片割れの『干将』が投影できなかったのは、聖骸布が不完全な状態での投影だからだろうか。
少なくとも砲撃に利用した『偽・螺旋剣』は壊れた幻想も含めて使用可能だった。
二回目の投影は成功例だ。切り札ではあるが、あのように有効活用していきたい。
現状把握、主な武装である名刀・維斗には皹が入っている。
弓のようにして電車の連結部分を破壊したり、人外であるサクヤの全力を受けたりなどが要因に挙げられる。
接近戦は不利。よって弓による狙撃を主とするのが効率がいい。
二回目の投影は成功例だ。切り札ではあるが、あのように有効活用していきたい。
現状把握、主な武装である名刀・維斗には皹が入っている。
弓のようにして電車の連結部分を破壊したり、人外であるサクヤの全力を受けたりなどが要因に挙げられる。
接近戦は不利。よって弓による狙撃を主とするのが効率がいい。
ならば、残る問題はふたつだ。
せっかくカジノに訪れたというのなら、やらなければならないことがある。
協力者だった支倉曜子との物々交換により手に入れた、カジノで利用するゲーム用のメダルの利用価値。
士郎自身にも興味はないのだが、可能性があるのなら一考もしなければならない。
せっかくカジノに訪れたというのなら、やらなければならないことがある。
協力者だった支倉曜子との物々交換により手に入れた、カジノで利用するゲーム用のメダルの利用価値。
士郎自身にも興味はないのだが、可能性があるのなら一考もしなければならない。
(………………)
脱出の可能性。
誰もがこの地獄から逃げ延びることができる最善の策。
桜も、リセも、桂も、誰もが笑って生きられる世界があればいいのに。
誰もがこの地獄から逃げ延びることができる最善の策。
桜も、リセも、桂も、誰もが笑って生きられる世界があればいいのに。
「……莫迦か、俺は」
その可能性を自分の手で打ち砕いてきた。
誰もが幸せになれる道、正義の味方なら必ず選ばなければならない道を捨てた。
そんな自分が誰もが幸せになれればいいのに、など……考えるだけで、罪深い。
誰もが幸せになれる道、正義の味方なら必ず選ばなければならない道を捨てた。
そんな自分が誰もが幸せになれればいいのに、など……考えるだけで、罪深い。
それでも一考だけはしてみよう、とカジノを回りながら考えた。
時限爆弾のスイッチが入った自分はもう二度と戻れないけど、それでも桜が無事に帰れるなら考察する価値はあるから。
正直に告白すると、優勝者は日常に帰してもらえる、などと主催者側が言っていないことは憶えていた。
それでも1%でも可能性があるのなら、確実な選択肢を選んだつもりだ。
時限爆弾のスイッチが入った自分はもう二度と戻れないけど、それでも桜が無事に帰れるなら考察する価値はあるから。
正直に告白すると、優勝者は日常に帰してもらえる、などと主催者側が言っていないことは憶えていた。
それでも1%でも可能性があるのなら、確実な選択肢を選んだつもりだ。
言峰綺礼、彼とは天敵の間柄であると同時に。
衛宮士郎にとって彼は恩人でもある。死に掛けた自分にアーチャーの腕を移植したのも、桜を手術によって救ったのも彼だ。
だから、なのだろうか。
こんなふざけた殺し合いを積極的に運営していたとしても、優勝者は律儀に日常へと送り届けてくれるのではという幻想を抱いたのだ。
衛宮士郎にとって彼は恩人でもある。死に掛けた自分にアーチャーの腕を移植したのも、桜を手術によって救ったのも彼だ。
だから、なのだろうか。
こんなふざけた殺し合いを積極的に運営していたとしても、優勝者は律儀に日常へと送り届けてくれるのではという幻想を抱いたのだ。
(まあ、あいつを知る奴がいたら……莫迦らしいって、言うんだろうけどな)
遠坂凛ならば、全力で自分を引っぱたくかも知れないな、と。
ほんの一瞬だけ少年の笑みを士郎は浮かべた。
自分は二度と戻ることの出来ない日常に、ほんの少しだけ思いを寄せて。
ほんの一瞬だけ少年の笑みを士郎は浮かべた。
自分は二度と戻ることの出来ない日常に、ほんの少しだけ思いを寄せて。
―――――そして、次の瞬間には感情のない殺人鬼の顔へと戻る。
過去への追憶も、希望的観測も終わりだ。
現状、この首輪を解除する方法も、主催者たちを打倒する方法も、島から逃げ出す方法もない。
士郎の得意な魔術に解析がある。
無駄な才能だ、と養父である正義の味方に嘆かれたこの力を使えば、少しは構造を把握することができるかも知れない。
現状、この首輪を解除する方法も、主催者たちを打倒する方法も、島から逃げ出す方法もない。
士郎の得意な魔術に解析がある。
無駄な才能だ、と養父である正義の味方に嘆かれたこの力を使えば、少しは構造を把握することができるかも知れない。
だが、そんなことに意味はないのだろう。
解析できたからといって、首輪を解除する技術はない。
殺すべき参加者の誰かがそんな技術を持っているかどうかなど、わざわざ尋ねて殺すような悠長は真似は出来ない。
脱出、という淡い夢に別れを告げて士郎は立ち上がった。
解析できたからといって、首輪を解除する技術はない。
殺すべき参加者の誰かがそんな技術を持っているかどうかなど、わざわざ尋ねて殺すような悠長は真似は出来ない。
脱出、という淡い夢に別れを告げて士郎は立ち上がった。
「……だいぶ、疲れも取れてきたかな」
気づけば一時間近くもカジノでのた打ち回っていたらしい。
それだけ休めば体力も回復するというものだ。もともと致命的な外傷はない。まだ、彼は戦える。
それだけ休めば体力も回復するというものだ。もともと致命的な外傷はない。まだ、彼は戦える。
「……カジノ、か。来たことはなかったけど……動いてるんだな」
周囲は無人、誰一人として存在しない。
ただ自立機械が音を立てて稼動したまま、そこに放置されているだけらしい。
ゲーム用のメダルの感触を右手に確かめながら、士郎はゲームをひとつひとつ確認していく。
ただ自立機械が音を立てて稼動したまま、そこに放置されているだけらしい。
ゲーム用のメダルの感触を右手に確かめながら、士郎はゲームをひとつひとつ確認していく。
ポーカー、使用不可――――ディーラーがいない状態では不可能。ブラックジャックも同様。
ルーレット、使用不可――――こちらも客が一人で挑戦することはできない。
スロット、使用可――――唯一、ディーラーのいらないものと言えば、これしか有り得ないだろう、と拙い知識で士郎は思う。
ルーレット、使用不可――――こちらも客が一人で挑戦することはできない。
スロット、使用可――――唯一、ディーラーのいらないものと言えば、これしか有り得ないだろう、と拙い知識で士郎は思う。
「………………」
ロビーに綴られた文字は自分たちへのメッセージだろうか。
メダルを集めて強力な武器や便利な物を手に入れよう、などの謳い文句が踊っている。
思わず士郎は口を歪めて苦笑いした。
こんなところでも、主催者たちは自分たちに殺し合いを加速させてほしいのか、とつまらない感想を抱いた。
メダルを集めて強力な武器や便利な物を手に入れよう、などの謳い文句が踊っている。
思わず士郎は口を歪めて苦笑いした。
こんなところでも、主催者たちは自分たちに殺し合いを加速させてほしいのか、とつまらない感想を抱いた。
「……ダメだな」
強力な武器は魅力的だ、それは認めよう。
士郎としても維斗の代わりとなる剣か刀も欲しいところだし、銃や魔術品なども貰えるならば貰っておきたい。
だが、時間が士郎にはない。絶望的なまでにない。
桜の情報はほとんどない。彼女と合流し、その無事を確実なものとするまでは時間が惜しいのだ。
士郎としても維斗の代わりとなる剣か刀も欲しいところだし、銃や魔術品なども貰えるならば貰っておきたい。
だが、時間が士郎にはない。絶望的なまでにない。
桜の情報はほとんどない。彼女と合流し、その無事を確実なものとするまでは時間が惜しいのだ。
こうしている間にも桜が襲われていると思うと、ゾッとする。
桜が命を狙われている間、自分はギャンブルに興じていたなど笑い話にもならないだろう。
よっと却下、このメダルを士郎は有効に活用できない。
桜が命を狙われている間、自分はギャンブルに興じていたなど笑い話にもならないだろう。
よっと却下、このメダルを士郎は有効に活用できない。
「……これは、いらないか」
メダルをロビーに袋ごと放置することにした。
持ってて意味がないとはいえ、ここに放置する必要もないと言えばない。
それでも気まぐれに近い形で士郎はメダル500枚すべてを破棄することにした。
他の参加者が有効活用するかも知れないと考えて……こんな殺し合いの舞台で、ギャンブルに興じる奴もいないだろうと捨て置くことにした。
持ってて意味がないとはいえ、ここに放置する必要もないと言えばない。
それでも気まぐれに近い形で士郎はメダル500枚すべてを破棄することにした。
他の参加者が有効活用するかも知れないと考えて……こんな殺し合いの舞台で、ギャンブルに興じる奴もいないだろうと捨て置くことにした。
武装は維斗と弓。
状況に応じて火炎瓶を利用する方法はこれまでと変わらない。
それに加えて、残る問題は最後の支給品だ。
自分のではなく、リセルシア・チェザリーニに支給された最後の支給品。
状況に応じて火炎瓶を利用する方法はこれまでと変わらない。
それに加えて、残る問題は最後の支給品だ。
自分のではなく、リセルシア・チェザリーニに支給された最後の支給品。
「………………」
正直、利用するかどうかは迷っていた。
魔術を扱う者の一人として、この支給品はあまり手を出したくないと思えるものだった。
リセにしても、士郎にしても知らず知らずのうちに忌諱してしまっていた。
今までの士郎なら、やはり最後まで手に取るには迷いがあった―――魔導書の名は『屍食教典儀』。
魔術を扱う者の一人として、この支給品はあまり手を出したくないと思えるものだった。
リセにしても、士郎にしても知らず知らずのうちに忌諱してしまっていた。
今までの士郎なら、やはり最後まで手に取るには迷いがあった―――魔導書の名は『屍食教典儀』。
「……使わざるを得ない、だろうな」
カジノを飛び出し、周囲を警戒しながら危険物について思考した。
士郎にとって魔導書とは魔術の知識が記された書物に過ぎない、はずだった。
その常識を呆気なく打ち滅ぼしてくれたのが、この『屍食教典儀』だった。その内容は常人には理解できない。
軽く目を通した士郎は、魔導書から発せられた毒に当てられたほどなのだから。
士郎にとって魔導書とは魔術の知識が記された書物に過ぎない、はずだった。
その常識を呆気なく打ち滅ぼしてくれたのが、この『屍食教典儀』だった。その内容は常人には理解できない。
軽く目を通した士郎は、魔導書から発せられた毒に当てられたほどなのだから。
その効果がどれほどの物かも分からない。
行使したときの苦痛がどれほどのものかも分からない。
これを利用した者がどれほどの凄惨な末路を迎えるかも分からない。
行使したときの苦痛がどれほどのものかも分からない。
これを利用した者がどれほどの凄惨な末路を迎えるかも分からない。
それでも使わなければならないのなら、もう迷える段階ではない。
命を削った投影も敢行しておいて、魔導書に怖気づいていた今までがおかしいのだから。
命を削った投影も敢行しておいて、魔導書に怖気づいていた今までがおかしいのだから。
「……っ……」
魔導書を手に取り、魔力を通わせた。
イメージは投影、されど通わす魔力は微量にして極小。
本来の持ち主ではない者が行使する代償だろうか、頭の中に魔導書の毒が流れ込んでくるのを感じた。
激痛、苦痛、これは投影を活用したときの痛みに似ていた。
イメージは投影、されど通わす魔力は微量にして極小。
本来の持ち主ではない者が行使する代償だろうか、頭の中に魔導書の毒が流れ込んでくるのを感じた。
激痛、苦痛、これは投影を活用したときの痛みに似ていた。
魔導書の中身を理解していく。
頭の中の『人間としての螺子』が数本飛んでいく錯覚を覚えた。
正常な思考ではとても抑えられないほどの毒を頭の中に染み込ませていく。
内側から侵食する赤い腕の代償と、外側から制圧しようとする魔導書の毒が重なり合って夢幻へと誘う。
頭の中の『人間としての螺子』が数本飛んでいく錯覚を覚えた。
正常な思考ではとても抑えられないほどの毒を頭の中に染み込ませていく。
内側から侵食する赤い腕の代償と、外側から制圧しようとする魔導書の毒が重なり合って夢幻へと誘う。
「ぐっ……あ……」
常人なら発狂していた。
彼がそれを呑み込めたのは、彼自身がもはや人間ではなく、ただの剣となっていたからか。
士郎自身にも細かいことは分からない。
彼にとって重要なのは、魔導書が剣で出来た自分を認めたという一点においてのみだ。
彼がそれを呑み込めたのは、彼自身がもはや人間ではなく、ただの剣となっていたからか。
士郎自身にも細かいことは分からない。
彼にとって重要なのは、魔導書が剣で出来た自分を認めたという一点においてのみだ。
「……これは……投影魔術……?」
魔導書を行使。
右手から刀が生えてきた。比喩でもなく、本当に刀が生み出されたのだ。
それは投影魔術に似ているが、消費する体力や魔力量は微細なものでよく士郎の身体に馴染んだ。
代償はもはやない。魔導書は一時の主として、衛宮士郎を選んだのだから。
右手から刀が生えてきた。比喩でもなく、本当に刀が生み出されたのだ。
それは投影魔術に似ているが、消費する体力や魔力量は微細なものでよく士郎の身体に馴染んだ。
代償はもはやない。魔導書は一時の主として、衛宮士郎を選んだのだから。
(刀……)
無骨な刀が一本、誰のものかは分からない一刀を振るう。
悪くない。そしてこれぐらいなら、何本も魔導書の力を借りて投影することができるだろう。
士郎にとって、この魔導書は一種の宝具とも思えた。
当初の激痛こそあったものの、アーチャーの腕を行使した投影魔術に比べれば圧倒的に消耗が少ないのだ。
悪くない。そしてこれぐらいなら、何本も魔導書の力を借りて投影することができるだろう。
士郎にとって、この魔導書は一種の宝具とも思えた。
当初の激痛こそあったものの、アーチャーの腕を行使した投影魔術に比べれば圧倒的に消耗が少ないのだ。
これなら刀に困ることはない。
折れようとも、何度でも何度でも生み出してみせよう。
電車の連結部分を破壊したように、矢として魔力を込めて撃ち出す弾丸にもなるだろう。
折れようとも、何度でも何度でも生み出してみせよう。
電車の連結部分を破壊したように、矢として魔力を込めて撃ち出す弾丸にもなるだろう。
「………………」
だが、自惚れるな。
多少の戦力強化などで油断はするな。
この島には強者が大勢いる。白髪に眼帯の男、獣となった女、まだ見ぬ強者たちが蠢いている。
それを思えば、この程度のことで慢心するなどできるはずがない。
多少の戦力強化などで油断はするな。
この島には強者が大勢いる。白髪に眼帯の男、獣となった女、まだ見ぬ強者たちが蠢いている。
それを思えば、この程度のことで慢心するなどできるはずがない。
刀は刀だ、決して魔導書で投影できるのは宝具ではない。
『偽・螺旋剣(カラドボルク)』のように真名を解放するような砲撃とまではいかない。
一撃必殺を有無とする、アーチャーの腕による投影のほうが威力も確実性も段違いなのだから。
『偽・螺旋剣(カラドボルク)』のように真名を解放するような砲撃とまではいかない。
一撃必殺を有無とする、アーチャーの腕による投影のほうが威力も確実性も段違いなのだから。
「……はっ……はっ……はっ……!」
それを心に留めつつ、衛宮士郎は走り続けた。
身体能力はサーヴァントである、アーチャーのそれと遜色はない。腕に侵食されるたび、命を削って強くなれる。
カジノはもう見えない。解放感のまま、とにかくその場を後にした。
最後に桜の情報を手に入れて、もう六時間以上が経過している。さすがにもうこの場にはいないだろう。
身体能力はサーヴァントである、アーチャーのそれと遜色はない。腕に侵食されるたび、命を削って強くなれる。
カジノはもう見えない。解放感のまま、とにかくその場を後にした。
最後に桜の情報を手に入れて、もう六時間以上が経過している。さすがにもうこの場にはいないだろう。
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「…………あ?」
気づけば、ここまで足を進めていた。
そこに至るまでの記憶が少年の中には存在してなかったが、とにかく理性を持って行動したのだろう。
ちゃんと禁止エリアを避けた上で、それでもここに戻ってきていたらしい。
そこに至るまでの記憶が少年の中には存在してなかったが、とにかく理性を持って行動したのだろう。
ちゃんと禁止エリアを避けた上で、それでもここに戻ってきていたらしい。
正義の味方が死んだ場所。
目の前にあるのは廃屋、リセルシア・チェザリーニを殺害した場所だ。
今一度、自分の罪深さを心に刻み込んだ。
感慨はそれだけだ。最低な自分を見つめなおし、それを理解したうえで更に地獄へと堕ちていこう。
今一度、自分の罪深さを心に刻み込んだ。
感慨はそれだけだ。最低な自分を見つめなおし、それを理解したうえで更に地獄へと堕ちていこう。
「………………」
ちくり、と胸が痛んだ。
正義の味方だった衛宮士郎の心が、己の引き起こした地獄に苦しんでいる。
無視した。そんなこと、思うことすら許されないのだから。
もう日常には戻れない、もう人間にも戻れない。迫りくる破滅をも肯定して、士郎は再び歩き出した。
正義の味方だった衛宮士郎の心が、己の引き起こした地獄に苦しんでいる。
無視した。そんなこと、思うことすら許されないのだから。
もう日常には戻れない、もう人間にも戻れない。迫りくる破滅をも肯定して、士郎は再び歩き出した。
己が定めた道はひとつ。
まだそのゴールは見えない。その背中さえも掴めない。
まだそのゴールは見えない。その背中さえも掴めない。
【E-5 廃屋の外/1日目 昼】
【衛宮士郎@Fate/stay night[Realta Nua]】
【装備】:ティトゥスの刀@機神咆哮デモンベイン、木製の弓(魔術による強化済み)、赤い聖骸布
【所持品】:支給品一式×2、維斗@アカイイト、火炎瓶×6、木製の矢(魔術による強化済み)×20、屍食教典儀@機神咆哮デモンベイン
【状態】:強い決意(サクラノミカタ)、良心の呵責、肉体&精神疲労(小)。魔力消費小。身体の剣化が内部進行。脇腹に痛み。
【装備】:ティトゥスの刀@機神咆哮デモンベイン、木製の弓(魔術による強化済み)、赤い聖骸布
【所持品】:支給品一式×2、維斗@アカイイト、火炎瓶×6、木製の矢(魔術による強化済み)×20、屍食教典儀@機神咆哮デモンベイン
【状態】:強い決意(サクラノミカタ)、良心の呵責、肉体&精神疲労(小)。魔力消費小。身体の剣化が内部進行。脇腹に痛み。
【思考・行動】
基本方針:サクラノミカタとして行動し、桜を優勝(生存)させる
1:参加者を撃破する
2:桜を捜索し、発見すれば保護。安全な場所へと避難させる
3:桜以外の全員を殺害し終えたら、自害して彼女を優勝させる
4:また機会があれば、支倉曜子の『同行者』として行動する事も考える
基本方針:サクラノミカタとして行動し、桜を優勝(生存)させる
1:参加者を撃破する
2:桜を捜索し、発見すれば保護。安全な場所へと避難させる
3:桜以外の全員を殺害し終えたら、自害して彼女を優勝させる
4:また機会があれば、支倉曜子の『同行者』として行動する事も考える
【備考】
※登場時期は、桜ルートの途中。アーチャーの腕を移植した時から、桜が影とイコールであると告げられる前までの間。
※左腕にアーチャーの腕移植。赤い聖骸布は外れています。
※士郎は投影を使用したため、命のカウントダウンが始まっています。
※士郎はアーチャーの持つ戦闘技術や経験を手に入れたため、実力が大幅にアップしています。
※第一回放送を聞き逃しています。
※維斗の刀身には罅が入っています
※現在までで、投影を計二度使用しています
※リセの不明支給品(0~1)は『屍食教典儀@機神咆哮デモンベイン』でした
※ゲーム用のメダル(500枚)はカジノのロビーに放置されています
※登場時期は、桜ルートの途中。アーチャーの腕を移植した時から、桜が影とイコールであると告げられる前までの間。
※左腕にアーチャーの腕移植。赤い聖骸布は外れています。
※士郎は投影を使用したため、命のカウントダウンが始まっています。
※士郎はアーチャーの持つ戦闘技術や経験を手に入れたため、実力が大幅にアップしています。
※第一回放送を聞き逃しています。
※維斗の刀身には罅が入っています
※現在までで、投影を計二度使用しています
※リセの不明支給品(0~1)は『屍食教典儀@機神咆哮デモンベイン』でした
※ゲーム用のメダル(500枚)はカジノのロビーに放置されています
123:ただ深い森の物語/そして終わる物語 | 投下順 | 125:オペラ座の怪人 |
122:決意 ~誇りと思い出を胸に | 時系列順 | 125:オペラ座の怪人 |
098:Steelis my body, and fireis my blood/絡み合うイト(後編) | 衛宮士郎 | 146:崩壊/純化 |