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巡る季節にひとりきり(前編)

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巡る季節にひとりきり(前編) ◆wYjszMXgAo



……ふむ、少女よ。君は欺瞞に気付いている筈だ。
長年の想い人の為に殺し合いを肯定した君はしかし、新たに自らを預けられる存在と幸か不幸か真っ先に遭遇した。
そして今も彼に心の扉を開き続けている。
それがどういう意味か、分からないはずはないだろう?
無力さという言い訳に縋ってその青年に頼りきり――――、そして、甘えることを選ぼうとしてるという事を。

くく……、では問おう。聞こえてなどいないだろうがね。
君のかの少年への想いは、三年、いや、それ以上の長きに渡って蓄積された想いは、そんなに薄っぺらいものだったのかね?
こんな鳴り物入りで出くわしただけの青年に乗り換えられるほど、君が存在意義とまで呼んだ少年は軽いものだったのかね?
まあ、それが正しいか正しくないかは君が判断すればいい。
だがそれでも言える事は一つある。

君は、あの少年の代用品として目の前の青年を扱おうとしているのだよ。
尤も――――、代用品が元の物より優れていない、などという道理は存在しないがね。
そう、あの衛宮士郎のように、本物より尊い偽物があっても、あるいはいつか本物と変わる偽者があってもおかしくはないのだから。
……しかし、いずれにせよ君が求めているのは現状、君にとってのあの少年の立ち位置に彼を据えてどうにか自らを留めてようとしているだけだ。
自分が決してあの少年に手が届かない事を思い知らされ、その現実から逃げる為に、な。

要するに。
君は結局、あの少年の代用品としてしか彼を見ていないし、また、あの少年は代用の効く消耗品でしかないと考えているのだ。
つまりは君にとって彼らの存在価値などその程度、妥協しうるものでしかない。違うかね?
違うというならば、君は彼らを二人とも侮辱していることになる。

……さあ、もっともっと、苦悩と葛藤を見せたまえ。
その果てに君が本物だけを肯定し、偽物を切り捨てるのか。
はたまた、偽物だった感情を本物と万人に認めさせるまでに磨き上げるのかは問いはしない。
その過程でいかに自らをすり減らし、想いと感情と信念と存在意義を削り合わせ、
後悔と欺瞞と慟哭と悲哀と堕落と妥協と昏迷と、その他のいかなる表情を浮かべてくれるのかのみが私の関心だ。

神よ、迷える子羊に祝福を。
Amen。


◇ ◇ ◇


「……く、う、はぁ……っ、恭介ぇ……」

「……痛いならすぐ言ってくれ。俺もこんな経験ないし、正直、不安の方が大きいんだが……」

「だい……じょうぶ。信頼してるか、ら……続けて」

「……ああ、分かった。すまないけど、もう少し脚、広げてくれるか? 女の子にこんな事させて悪いな」

「……ん、しょうがない……よね。でも、恥ずかしいからあんまり見ないで」

「善処するさ。……おっと、触ったあたり、どうだ? 何か変な感じとかは?」

「……分かんない。何か妙な感触だけど……ひゃぁっ」

「大分効いてきたみたいだな。そろそろ大丈夫か?」

「……うん、いいよ。怖いけど……頼むね」

「……OK。それじゃあ力抜いてくれ。ちょっと手荒くなるかもしれないし、痛んだら本っ当にすまん」

「……あ、くぅっ!! は、あぁぁああぁああぁああ……っ! あ、はぁ、はぁ、は……っ!
 きょ、すけぇ……、あ、が、……っ!」

「……く、すまんトルタ。こいつが中に入り込んじまってる分、どうしてもな……」

「ぐっ……、あ、あんま、り……、動かさな、あくぅ……!」

「もう少しだ、……くそ、思ったより血が……。……よし、引っかかったか?」

「あ、あ、くぅ、斬れて、痛い……、あ、づぅ……っ!」

「トルタ、耐えてくれよ……。後は出すだけだ」

「……っ、くぅぅううううぅうう……!!

「無理だと分かってるが、動かないでくれ。……余計広がって痛んじまうぞ」

「平……気っ、気にしなくていい……から……、い、ああああぁあああぁああ!!」

「……よし、見つけたぞ。ここか……!」

「くぅ、あ、ああぁぁああぁあああぁああああぁああぁああ……っ!」



「…………、ミッションコンプリート。終わったぞ、トルタ。良く頑張ったな」

「あ……、は、……きょう、すけ。……うん、がんばった。ありがと……」



◇ ◇ ◇



トルタの叫びが止んで十数分。
時折体を震わせてるとはいえ、未だ寝転んだままの彼女の呼吸も大分落ち着き始めている。
声が外に聞こえていないかと冷や冷やしたが、どうやら周囲に目立った動きはないようで一安心といった所だろう。
ここが何の変哲もない一軒家である以上、目立つ場所ではないのだが……、それでも不安要素が大きすぎるのは事実だ。
一応如月が周囲を偵察しているとはいえ、念を入れるに越したことはない。
まあ、よもや裏切るとは思えないお人好しではあるのは分かってはいる。
が、あいつの力量を超える事態が起きればどうしようもないわけだ。

「……まあ、何にせよこんな所にあまり留まるのは得策とは言えないよな」

現在位置はおおよそG-5の西といったところか。
先ほどの戦場からさほど離れている訳ではない以上、絶対の安全を保障するわけではない。

……そう、脅威は去っていない。
掌をゆっくりと開き、握っていた『それ』を見つめる。
何の変哲のない、金属の塊だ。
それがよもや十数分前までトルタの体内にあったとも思えないくらいに、目立ったところは何もない。

「……あの怪人が近場にいる可能性が高い以上、さっさとここを離れなきゃな……」

目星をつけている場所はある。
とは言え、とりあえずそこに向かうにしても流石に今のトルタを強行軍に参加させるわけにはいかないだろう。
……素人の生兵法とは言え、手術を施した直後なのだから。

兎にも角にもひとまず血止めだけを行なった後、真っ先に行なったのはトルタの脚の治療に他ならない。
……銃弾が貫通していればまだマシだったのだが、盲菅銃創を放っておく訳にもいかないからだ。
弾丸が体内にあるだけで神経や筋組織は動くたびに傷ついていくし、雑菌が入り込んで破傷風を引き起こしたり、いずれは鉛中毒に陥る可能性もある。
彼女の今後を考えれば、俺たちが大した医療技術を持っているわけでなくとも到底見過ごせる事態ではない。

病院から持ってきたものなのか、如月があの怪人から回収したという医薬品一式にはメスなどの刃物もいくらかあった。
ひとまずそれを用いて弾丸を摘出する事は即座に決定。
一端アルコールで傷を消毒した後、止血する。
一応下準備としてモルヒネを打ったとはいえ完全に痛覚を消せたわけではなかったようで、
彼女に大分負担をかけてしまったのは失敗だった。
……申し訳ない、と思う。
それに傷口の関係上、彼女の……って、ストップ。
一体なに考えてるんだよ俺は!
状況を考えろ、棗恭介……!
……いや、見ちまったのは事実だし、一応彼女だってそれを了承していたとは言えもっともらしい正当化をするのはどうかとは思うが。
それでも確かにトルタはかなり可愛い方だと思うわけで、演技とはいえ彼女の仕草にどぎまぎしたことも認めよう。
顔立ちとかは年齢の割に童顔気味なところもポイント高い……って、誰が真性ロリだ、ロリロリハンターズだ!
別に彼女はいわゆる(21)じゃないだろ、つーか同い年だよ俺と。
待て待て、思考が変な方向に行ってるぞ、邪な考えは捨てろ。

ま、まあ、弾丸を取り出した後は軽く縫い、抗生物質を打って感染症を防ぐ。
そして輸血がひとまず終わったら、後はトルタが落ち着くのを待って移動するだけだ。

……そのつもりだったのだが。

「……ん、恭介……」

もぞもぞと、ゆっくりと、トルタの体が動き始める。

「……どうした? トルタ」

モルヒネが効いているのか動きはやや緩慢だが、それでも目にはしっかりした力がある。
……どうやら、思ったよりも調子はいいらしい。
弾丸の通った部位も骨から大分離れていた様で、後遺症も運が良ければ残らないとは素人目に思う。
尤も、すぐに跳んだり跳ねたり走ったりできる訳でもない以上、殺し合いにおいて不利というのは全く変わってはいないのだが。
内心安堵の息をついた所で、トルタは俺を手招きして呼ぶ。

「……恭介、今度はあなたの番だよ。怪我、見せて」

……と、そうだった。
トルタの心配ばかりしていたが、俺もあの場から離脱する時の応急手当しかしていない。
しっかりと傷を見なくてはいけないだろう。
だが、それにしても。

「いや……、お前はゆっくり横になっててくれ。俺一人で何とかするさ」

……あまり、トルタを動かさせたくはない。
確かに見づらいが、俺自身でどうにかした方がいいだろう。

「駄目よ、傷の位置考えると恭介自身に負担がかかると思う。
 ……こっちはもう平気だから、私にもせめてこのくらいはさせてくれないかな」

……一理はある。
脇腹を診ようとすれば、変に力を込めなくてはならない。
傷を悪化させてしまう可能性は充分だ。
何より、トルタの目が真摯にやらせて欲しいと語っているのを断るのは非常に難度の高いミッションと言える。

……さっきの戦いや、食事を作って化物を呼び寄せてしまったことを気に病んでいるのかもしれない。
彼女はそういうことを抱え込む性質だというのは分かってきている。
……気にするな、といってもむしろ追い込むだけだろう。
ここは素直に甘えておくべきかもしれない。

「……OK。それじゃあ頼んだ、トルタ」

「……うん」

患部を出し、薬箱を持ってトルタに近づく。
おずおずと手を出す彼女にそれを渡して、俺もベッドに座り込むことにする。

……彼女の息遣いがすぐ近くに。
何となくむず痒く思うも、とりあえず俺は手当てに身を任せることしかできはしない。

――――ただ。

「あ……」

ポンと軽く、トルタの頭に手を載せる。
彼女の俺への負い目を少しでも減らすことが出来るのなら。
その為に、彼女が何かを俺にしてくれるというのなら。

「……さっきの料理の時、歌を歌ってたろ?
 治療の間、あれを歌ってくれないか? なんか気に入っちまったみたいでな」

あの歌は素直にいいな、と思えたのだ。
……激戦を越え、一息吐く。それを噛み締める意味で彼女の歌声をもう一度聞いてみたい。
そんな事を伝えてみれば、トルタの顔は照れくさそうに僅かに微笑を湛え始める。

「……あの歌、私が作ったんだよ? これでも音楽学院の生徒だしね、私」

……報われない想い。何故かそのフレーズが心に残る。
色々。
……本当に色々な感情が込められたその曲を、俺はもう一度聞きたくなっていた。
それが彼女自身が作ったものだと言うのなら、彼女はそんな想いを抱えているのだろうか。

「え、そうなのか!? 道理で上手いと思ったが……、成程な。いい曲だと思うぞ、俺は
 あれを聞いてれば、痛みも大分紛れそうな気がするんだよ」

やっぱり、歌うことが好きなのだろう。
そこにどんな想いが込められているのかは俺には分からない。
分からないが、彼女の顔は確かに嬉しさと気恥ずかしさ、そしてそれ以外の幾つもの感情で彩られていた。
――――俺は、その表情の理由を知りたいのかもしれない。
歌を聴きたいのは、それを通して彼女がどんな生き方をしてきたのかを知りたいと言うことなのだろうか。

「……ふふ、ありがと。それじゃ、失礼して……」



――――見つめていることさえ、罪に思える――――


◇ ◇ ◇


彼女の歌声に浸りながら、彼女の手の織り成す暖かい手当てに身を委ねながら。
俺は脳のどこか冷静な部分でこの殺し合いに関する考えを纏め始めていた。
……いや、彼女の歌声がむしろ心を落ち着けて考えを促進しているのかもしれない。
とにかく頭が大分冴えている。
トルタに感謝、だな。

歌だけじゃない。
……あのティトゥスという男を倒せたのは彼女あってのものだし、引いては……首輪を手に入れることも出来たのだから。
勿論あれは、清浦や如月たちがいてこその勝利なのは分かっている。
それでも俺が立ち上がれたのは、……トルタを護ろうと奮起できたからだ。

――――あの後、とりあえずティトゥスとかいう侍から俺と如月は首輪を回収した。
清浦からは、……出来なかった。
甘い、とは思うがそれでも一時なりとも彼女はともに戦った仲間だった。
……彼女の遺体は、先に手当てを終えた如月が偵察ついでに埋葬してくるらしい。
俺もトルタも、特に反対はしなかった。
……せめて、安らかに。
殺し合いに乗っていることを隠し続ける俺たちは彼女を騙していたとも言える。
それでも。
たとえそうだとしても。
偽善でしかないかもしれないが、彼女を弔い、涙する気持ちは俺たちにも確かにあるのだ。
如月だけでなく、トルタも俺も……泣いちまったんだから。

……清浦。
自分勝手すぎる言い分だが、それでもこう言わせてくれ。
お前の死は無駄にはしない。
……少なくとも、この首輪については一歩前進したのは間違いないんだ。


――――この首輪。
ちょっと見ただけでは銀色の起伏のない輪のように見えるし、触ったとしても特に凸凹している箇所がある訳ではない。
だが、目を近づけて良く見ると所々に違和感が存在するのが判明する。
ご丁寧にも持ち主の名前が書いてあったりと悪趣味全開だが、一番目立つのは首輪の前面、要するに顎の真下辺りに存在する小さな穴だ。
その穴はガラスやアクリルの様な透明な物質で隙間なく塞がれており、触れただけでは周囲と区別がつかないようになっている。
……ただ、透明と言っても内部には暗闇が充満しており、ろくに中を見通せない。
まあ、当然と言えば当然なんだが。
中がどうなっているかは解体しなければ分からないようになっているのだろう。
他の違和感も似たり寄ったりだ。
やはりガラスやアクリルのような物で継ぎ目なく塞がれている穴や、、
あるいは同じ銀色でも僅かに青みが強く見える四角形の部位などが所々に存在しているのだが……、
やはり、それがどんな機能を果たしているかは外観だけでは分からない。

だが。
その穴の中にはたった一つだけ、外部からでも見える構造物がある。

レンズだ。

こんなものが首輪の、それも前面に着けられている理由なんて一つしかない。
要するに、だ。
主催の連中は、これを使ってそれぞれの参加者の真ん前にいる相手を監視していると言う訳だ。

体軸の前面というのは、敢えて首を横に曲げない限りその参加者の視界とほぼ一致している。
つまり、普通の会話であろうが戦闘であろうが、俺が見たものは全部連中に筒抜けだったのだろう。
……おそらく筆談の内容も、だ。


そして、これを裏付けるものが一つある。
――――俺に支給されたデジカメにあらかじめ入っていたデータだ。

幾つか入っている画像データ。
その中の一つに、あからさまに怪しい代物が紛れ込んでいたのだ。
ラベル曰く、

『首輪の設計図―A』

とかいう、あまりにもふざけたデータだったため、目だけ通して後は放っておいたもの。
だってそうだろう、主催連中が支給品にそんな物を紛れ込ませる意図が分からない。
殺し合いを強制する為の首輪を解除させるメリットなんて、殺し合いの遂行においては全くない。
良くて偽物、最悪自爆を誘発するトラップと言った所だろう。

――――そんな風に考えていたのだが、いざ本物を入手してみると重要性が俄然増した。
実際のカメラのある位置と、その設計図とやらに記された『監視カメラ』の位置が全く一致している。

……これだけで判断はつきはしない。
しかし、少なくとも推理の補強にはなるのは間違いないだろう。
そこでもっと詳しく首輪の設計図を見ようとしたのだが、それ以上の情報を得ることはできなかった。
各部の説明がそれぞれ書かれているらしいのにもかかわらず、だ。

『らしい』とつく理由は単純で、デジカメ本体で閲覧しようとすると画像が縮小されて細部の文字が読み取れないのだ。
監視カメラという文字もカメラの3文字がカタカナだったのでどうにかそうだろうと当たりをつけられただけで、監視カメラと本当に書かれているかどうかはわからないのが事実。
……細部を見るためにはパソコンのようなものを入手する必要がある、というわけだ。


更に言うなら、『A』とつく以上、BやC、D。少なくともこれを含めて2枚以上が存在することもほぼ確実だろう。
……撹乱でない限りは。
――――この設計図Aは、首輪の外見から分かるパーツを解説しているに過ぎない。
内部構造については全く触れられていないため、たとえ細部を解読できてもこれ単体では首輪の解除には繋がらないのだ。
……おそらく、内部構造や回路それぞれについて解説したものがBやCなのだと考えられる。
つまり、それら全部を集めなければ、首輪の解体に着手出来ないのだろう。
全部で何枚とも判別できないそれは、おそらく様々な形でこの島に隠されている。
このデジカメの様に画像データで支給品に入っていたり、施設に紙媒体で保存されていたり、だ。

尤も、当初の見積もりどおり、こんなものはトラップや撹乱の為に蒔かれた真っ赤な偽物と言う可能性も充分にある。
そもそも主催の意図と反する代物なのだから。
……だが現状、完全に偽物と断定できる訳でもない。本物と言う可能性も0ではないのだ。

――――これこそ主催連中の目論見に乗せられて、一縷の希望に縋っている状況なのだろう。
しかし、それを置いておいても、これに従えば解除できる可能性は存外高いと俺は見る。
その論拠は主催連中の目的に関する事になるため、一旦ここで保留しよう。
今はとりあえず首輪と、そこから分かる監視方法についてを先に纏めるべきなのだ。



そう、今考えるべきは首輪の監視カメラの存在だ。



こんなものがある以上は、勿論カメラより更に小型化できる盗聴器もくっついていると見ていいだろう。
……俺たちがどう足掻こうが、首輪を身に着けている限り体の前方にあるものと言動全ては筒抜けだ。
……普通の筆談でも、体の前方で字を書いたのならカメラの視界に充分納まってしまうに違いない。

俺たちの見聞きしたもの全てが、主催連中に伝わるようになっている。
俺の手持ちのカードからはそういう監視方法だと推測できる。
戦闘であろうと作戦会議であろうと食事であろうと虐殺であろうと、何でも、何でもだ。

――――だから。
逆に言うなら、そこが主催連中の監視の限界だ。
ニヤリと口が歪むのが分かる。

俺とトルタの仮説、主催連中の裏には神にも等しい存在がいる。
それを前提とするならば、万能の力で俺たちの一挙一動を監視できる可能性すらある。
なのに監視カメラと言う『人間の持っている技術』ものでしか、俺たちの挙動を確認できていない。
少なくとも、五感のうちの視覚においてはカメラで監視を行なっている。
これはどういう意味か。

つまり、この殺し合いの進行では、それこそ神なんかじゃなくて矢面に見えている主催連中が実際に俺たちを監視していると言うことだ。
……そして。
人間である以上、必ず監視のどこかに穴がある。完全な存在なんて人間とは呼べない。
抜け道は確かに存在するはずだ。

まあ、こんなカメラとかは全てダミーで、不思議パワーで常時監視されている可能性もあるのだが、それは置いておく。
そんな事になったら対処のしようもないし、知りようもないからな。
それ以上にダミーを用意する意味が見受けられないと言うのもある。せいぜい混乱を煽るくらいにしか意味はないだろう。

ここで、『人間が監視している』事を前提に、首輪以外の監視方法を考えてみることにする。
この首輪が俺たち参加者の視点……主観的な情報を送信しているなら、客観的な視点での監視もあると見ていいだろう。
少なくともそっちの方が監視の確実性は高いし、そもそも警戒するに越したことはないから同じことだ。

――――こんなものが個々に取り付けられている以上、島の全域を監視する余裕はない……、そう見て問題はない、はず。
あくまで参加者を実況中継することに特化した装置、逆に言えば誰もいないところを監視してもしょうがない。

つまり、だ。
首輪以外の監視装置があるとしても、人の集まる所にしか設置はされていないのではないだろうか。
地図に記載された施設。屋内で監視カメラが仕掛けられているとすれば、そこにある。

そして、上空。
高所と言うのは屋外の監視にはうってつけだ。
それこそその場から見たい場所を見下ろすだけでいい。
屋外の大抵の場所は確認できることだろう。
衛星でも飛行船でも何でもいい、俺が監視するならそういった装置を上空に置く。

故に、連中の死角はここだ。

何の変哲もない一軒家。
屋外でもなければ重要施設でもない。つまり、上空からの偵察機械も施設に仕掛けられたカメラもない。
だからこそ監視は一番甘い。
首輪が送っている情報以外に連中が手に出来るものはないって訳だ。

そして上手くすれば、今度こそダダ漏れさせずに情報のやり取りが出来る。
……例えば、体の向きを明後日の方向に向けたままに首だけを向かい合わせ、カメラの死角を利用して筆談するとか、な。
首輪が体の前方しか視界を確保できない構造上、横方向や真後ろは死角になっているはず。
死角の内部で書き物をして、こういう監視の甘い場所でお互いの意見を見せ合うだけで主催連中を出し抜くことが出来るだろう。



そう。
――――ちょっと考えただけで、出し抜く方法が見つかる。
これまで大層なことを口にし、実際にやらかして来た連中にしては、あまりにも甘すぎじゃないか?
それが一番の懸念事項だ。

……だからこそ、ここからが本番だ。
果たして、主催連中は何を考えてこんな穴の多いシステムで監視をしていて何が目的なのかを、考える。

そもそも、連中の言動には色々おかしいところが多すぎる。
トルタの言った通り、連中は時折黒幕の存在を匂わせている。
それ自体は問題じゃない。
連中が使い走りでも、結果として俺たちは殺し合いを強要させられている。その事実に変わりはないのだから。

問題なのは、
『黒幕がいるとして、何故俺たちの前に姿を現さないのか』
という点だ。

黒幕の力は非常に強大なものだ。
少なくとも時代や場所を越えて人間を集めたり、言葉を通じさせる能力。
あのティトゥスとか言う化け物は俺の知っている世界では考えられないくらい強かったし、
如月の言う『人妖』が跋扈する日常なんてのにも俺は縁がないところを考えると全く別の世界から人を呼び寄せることも可能だと俺は見る。
更に、放送の言を信じるならば死者の蘇生すらも行なえるらしい。
まさしく魔法、トルタの言葉を借りて神と呼んでも過言ではないだろう。

だったら何故、そいつは俺たちに直接関わってこない?
殺し合いを強要するなら、そいつが直々にお出ましして力を見せ付けてくれた方が遥かに楽だろう。
結局、人間は圧倒的な力の前ではされるがままにしかならないのだから。
主催連中に『これこれこういう力を我々は持っていますよ』なんて匂わせさせるよりもよほど手っ取り早い。
……というか、主催連中という存在そのものに必要性があるのかすら疑問だ。

出てこない理由は確かに幾つか考えられる。
その1。
『自分の命や社会的名声が危険に曝されるのが嫌だから』
――――却下。
時代も空間も超えて人を呼べる力の持ち主なら、ここの参加者程度屁にも思っていないだろう。
その力でいつかどこかの彼方へと追放してやればいい。

その2。
『強くはあるが、力が特定の状況下でしか発揮できない』
……もっともらしくは、ある。
だが、それならば何故遊ぶ必要がある?
放送での主催連中の言動といい、何かを食っていたことといい、殺し合いに支給されたアイテムといい、監視の穴といい……、あまりにふざけた要素が多すぎる。
反抗することすら連中の意図通り、と言わんばかりの歓待ぶりだ。


その3。
『単なる趣味』
……身も蓋もないが、可能性は捨てきれない。
強者の余裕というのは前述のおふざけを許容する。
俺たちがもがき苦しむのをそれこそ鼻で笑って見ていることだろう。


……とまあ、適当に挙げてみたが……、これと言ってしっくり来る理由はない。
強大な力を持っているならば、基本的に身を隠す必要はないのだ。
逆に、僅かにでも弱点があるならば、身を隠す以外にも徹底して制限や監視をきつくするはず。

そのどちらにも該当しないこのゲームの黒幕。
……そいつは、何を考えているんだ?


さて、行き詰まりだ。
……俺達の立場から考えても、これ以上はどうしようもない。

だったら、ここでチェス盤をひっくり返してみよう。

主催連中が俺たちに対して発言したその内容、その行動の不可解さ。
奴らから見たとき、それにどんな意味があるのかを考える。

――――何故、主催連中は黒幕の代わりに俺たちを殺し合わせる?
そして何故、黒幕の存在を匂わせたり、死者蘇生や内通者の存在を示唆して混乱を煽る?


……答えは、最初に奴らが言っていたんじゃないか?


『僕達も駒の一つ、って事さ。もちろん静留さん達とは役割も勝利条件も違うけどね』
『さて、バトルロイヤル――便宜的に僕達はこれを『ゲーム』と呼ばせて貰う』
『駒とは言ったが僕達はあくまで舞台の外の人間だ。実際に殺し合うのは君達……ここに集められた68、いや65人の参加者諸君だけさ』


『ゲーム』『駒』『異なる役割と勝利条件』『舞台の外』
肝要なのは、それだけだ。

参加者:ゲームの舞台……盤上で実際に殺し合う駒。
主催者:ゲーム盤の外から、殺し合いを促進する駒。

たったそれだけの単純な構図。
混乱を煽るのはそれが連中の役割だから、ただそれだけの理由だ。

……つまり。
つまりだ……!


その4。
『このゲームの本当の参加者:プレイヤーは、俺たちや主催者ではない何者かである』


――――こういう事なんじゃないのか!?
黒幕と言っても一人とは限らない。
そして、そいつらが一枚岩だとも限らない。
……誰とも分からない様な神様気取りのヤツらのゲーム。
俺たちはその駒として集められたってのか?

主催連中の役割は混乱を煽って殺し合いを促進させる。
……つまり、それが勝利条件に繋がるって訳か。
恐らくは、『誰かの優勝』。
それが主催連中、ひいてはそいつら側のプレイヤーが勝利する条件だ。

その逆の勝利条件は、正直現状では特定は不可能だ。
『優勝以外の何か』。
……あまりに幅が広すぎる。
どうなれば終わりなのかも見えはしないが、もう一方のプレイヤーの目的が何かあるはずだ。
だからこそ、制限が甘かったり首輪の解除法なんかが散りばめられたりしているんじゃないか?
その可能性は充分ある。

――――神々の遊戯盤ってか。

……くそ、ふざけやがって。
この殺し合いは単なるゲーム、娯楽。
俺たちは単なる駒で、……何もかも踊らされてるだけだって事かよ?

ゲームだと考えれば、色々納得できることも多い。
例えば、この殺し合いの会場についてだ。
地図を一度でも見ればすぐに分かる。
――――あまりにも、歪すぎる。

その土地の成り立ちとか、文化とか、立地条件とか。
ありとあらゆる要素が不自然だ。
この会場はまさしく、このゲームの為だけに作られたゲーム盤に他ならないんだろう。
そう、まるで俺達の作り出した永遠の一学期――――あの世界のように。
……あの世界と同じ原理で出来ている可能性は0ではない。
ここは、誰かの意思によって事実が簡単に捻じ曲げられる世界なんだろうか?

……腸が煮えくり返りそうだが、ゲームだと言うなら少しは希望がある。
少なくとも、ルールは遵守されてこそゲームは成り立つからだ。

だとしたら、優勝者が決定さえすれば少なくとも今回のゲームは終わる。
……その後優勝者がどうなるにしても、だ。
そこに理樹や鈴を生きて返せる可能性がある以上、俺のやるべき事は変わらない。
……その筈だ。

……ただ。
『優勝以外の何か』という勝利条件も探ってみる必要はあるだろう。
どんなに先行きが不透明でも、そこに理樹や鈴、……トルタとクリス、全員を生きて帰すことができるのなら。
俺はそっちに切り替えることに躊躇いはない。
……いや、そうであって欲しいのかもしれないな。
――――くそ、俺は甘いな、本当に……。


まだまだ足りない。情報が足りなさ過ぎる。
……黒幕はどんな力を持っているのか、どんな存在なのか。
ゲーム終了後に優勝者はどうなるのか。権利は一体何か。
また、『優勝以外の何か』はどういうもので、それを満たしたとしても本当に帰れるのかどうか。
この会場が俺達の作り出した世界と同じ原理で出来ているなら、どんな奴の意思が生み出したものなのか。
それ以外の理屈で出来ているなら、一体どんな代物なのか。
カメラの監視はフェイクか否か、不思議パワーで監視されているのか。
首輪の解除は本当に出来るのか、単に混乱を煽っているだけなのか。
果たして本当に俺の推測は正しいのか、単なる妄想じゃないのか。



――――『優勝』でも『優勝以外の何か』でもない、黒幕のどっちの陣営にも一泡吹かせられる様な『俺たち自身の勝利条件』は存在しないのか。



……まあ、与太話でしかなくはあるんだが、な。

こんな誇大妄想が事実でないことを、俺は祈る。
少なくとも、まだ誰かに話せる段階じゃない。
信じてもらえるような内容じゃない。
あまりに荒唐無稽が過ぎて穴だらけ。
こんなのは思考遊戯の範疇だ。


……なあ、トルタ。
お前はこんな馬鹿げた世迷言でも――――信じてくれるか?


……何故か俺はそんな事を思った。
出会って間もないはずの目の前の少女に対して、願うように。


132:蠢動の刻へ 投下順 133:巡る季節にひとりきり(後編)
131:それでも君を想い出すから 時系列順
113:Second Battle/少年少女たちの流儀(後編) 棗恭介
トルティニタ・フィーネ

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