世界の中心、直枝さん(前編) ◆wYjszMXgAo
怪人は一つの目的を以って動く。
全ては黒須太一の為。
故に――――、
今だ使えるものは、何であろうと躊躇いなく使う。
切り捨てることに意味のあるものは、躊躇いなく切り捨てる。
切り捨てることに意味のあるものは、躊躇いなく切り捨てる。
……ならば。
切り捨てることに意味があるが、されどまだ使えるものはどう扱う?
簡単だ。
切り捨てるべき好機に自分自身の意思で切り捨てる、まさにその時まで。
せいぜい利用させてもらえばいい。
切り捨てるべき好機に自分自身の意思で切り捨てる、まさにその時まで。
せいぜい利用させてもらえばいい。
変電所。ライフラインの要。
……破壊すれば殺すべき対象の連携を断ち切るのは容易い。
だが反面、黒須太一が電力を要求する何某かを使用していた場合、彼に不具合を齎す怖れがある。
また、彼女自身にとっても何らかの形で有効利用可能な施設があるかもしれない。
例えば電子管制された監視装置などがあったとしよう、運用することが出来るならば彼女一人でも分散した場所にいる人間を監視できる。
首輪にカメラが付帯している以上はそれを監視する機構があるはずなのだ。
何らかの手段で介入できるなら御の字だ、と考える。
この「ゲーム」の主催陣がわざわざ用意した施設である以上、何処かにそんなシステムが構築されている可能性は充分だ。
ゲームの優勝であろうとその他の条件による脱出であろうと、そこには主催者の作為が絡んでいるのだから。
……破壊すれば殺すべき対象の連携を断ち切るのは容易い。
だが反面、黒須太一が電力を要求する何某かを使用していた場合、彼に不具合を齎す怖れがある。
また、彼女自身にとっても何らかの形で有効利用可能な施設があるかもしれない。
例えば電子管制された監視装置などがあったとしよう、運用することが出来るならば彼女一人でも分散した場所にいる人間を監視できる。
首輪にカメラが付帯している以上はそれを監視する機構があるはずなのだ。
何らかの手段で介入できるなら御の字だ、と考える。
この「ゲーム」の主催陣がわざわざ用意した施設である以上、何処かにそんなシステムが構築されている可能性は充分だ。
ゲームの優勝であろうとその他の条件による脱出であろうと、そこには主催者の作為が絡んでいるのだから。
故に怪人は選択する。
遠隔操作可能な爆破装置を作成し、任意のタイミングでこの場所を破壊できるようにする。
……それまでは他者の介入による不意の事態を防ぐため、トラップによりこの場を防護すればいい。
遠隔操作可能な爆破装置を作成し、任意のタイミングでこの場所を破壊できるようにする。
……それまでは他者の介入による不意の事態を防ぐため、トラップによりこの場を防護すればいい。
遠隔爆破装置、などといっても存外簡単に作成できる。
時限式の砂糖爆弾から携帯電話を利用した起爆装置まで、取りうる手段は様々だ。
この場には流石に材料はないが、どこかで調達すればいいだけの話である。
位置する施設から考え、候補としては、西部に存在する中世風の町よりも島の東側、リゾートエリアや中心街だ。
……爆薬や、電波管制を用いた機械を調達すれば工作は容易だ。
必要なものを入手した後、ここに帰還して作業を完了すればよい。
時限式の砂糖爆弾から携帯電話を利用した起爆装置まで、取りうる手段は様々だ。
この場には流石に材料はないが、どこかで調達すればいいだけの話である。
位置する施設から考え、候補としては、西部に存在する中世風の町よりも島の東側、リゾートエリアや中心街だ。
……爆薬や、電波管制を用いた機械を調達すれば工作は容易だ。
必要なものを入手した後、ここに帰還して作業を完了すればよい。
だからこそ、不慮の人為的介入を防ぐ為にトラップを周囲に仕掛ける。
準備は万端だ、抜かりはない。
怪人はこの場に至った場合の人間の心理を全てシミュレートし、斧や工具を以ってありふれた道具を実に適切な罠へと変えていく。
それも恐るべき正確さと速さを併せ持って。
ごくごく普遍的な落とし穴、ただし底には無数の木槍。
専用に新たに組み上げたスリングとワイヤーを連動させたオートスナイプ。
シンナーを用いた簡易地雷。
そんなものを無数に設置し、変電所の周囲を完全なるキリングフィールドへと変貌させる。
準備は万端だ、抜かりはない。
怪人はこの場に至った場合の人間の心理を全てシミュレートし、斧や工具を以ってありふれた道具を実に適切な罠へと変えていく。
それも恐るべき正確さと速さを併せ持って。
ごくごく普遍的な落とし穴、ただし底には無数の木槍。
専用に新たに組み上げたスリングとワイヤーを連動させたオートスナイプ。
シンナーを用いた簡易地雷。
そんなものを無数に設置し、変電所の周囲を完全なるキリングフィールドへと変貌させる。
準備は万端、はてさて後は遠隔爆破装置の材料を入手する為に東へ向かうのみ。
……そんな折だった。
怪人が、『彼女』を見つけたのは。
怪人が、『彼女』を見つけたのは。
◇ ◇ ◇
(……まだ尾けてくんのか、フザけろよ)
最強の暗殺者、ファントム。
……そう呼ばれる自分を完全に追跡しつづける姿なき存在に舌打ちをしながらある種の感嘆も含んだ感情を抱くのは、金の髪持つ一人の女性。
ドライ。
彼女は人気のない歓楽街の中を縦横無尽に巡りつつ、その先へ向かおうと駆け抜けていた。
地下通路から出た折から自分の背後で息を潜め続ける何某かの存在を撒く為に。
……そう呼ばれる自分を完全に追跡しつづける姿なき存在に舌打ちをしながらある種の感嘆も含んだ感情を抱くのは、金の髪持つ一人の女性。
ドライ。
彼女は人気のない歓楽街の中を縦横無尽に巡りつつ、その先へ向かおうと駆け抜けていた。
地下通路から出た折から自分の背後で息を潜め続ける何某かの存在を撒く為に。
……だが、彼女がそれを振り切ろうとしても気配はぴったりと付いて来る。しかも殺気つきで、だ。
足を止めれば今にも頭を撃ち抜かれかねないその意思に、ドライは痛む足を止めることも出来ていない。
同業者として、その呼吸があたかも自分の者のように読み取れるからこそ、発砲のベストのタイミングを微妙な挙動の変化で避け続けているのである。
その力量に惜しみない賞賛を送りたいところだが、殺し合いという場においてはそんな悠長な事はしていられない。
排除しようにも先手を打たれて向こうだけがこちらを認識している以上、相手の力量を鑑みれば場所の特定に要する一瞬が命取りになりかねないのだ。
足を止めれば今にも頭を撃ち抜かれかねないその意思に、ドライは痛む足を止めることも出来ていない。
同業者として、その呼吸があたかも自分の者のように読み取れるからこそ、発砲のベストのタイミングを微妙な挙動の変化で避け続けているのである。
その力量に惜しみない賞賛を送りたいところだが、殺し合いという場においてはそんな悠長な事はしていられない。
排除しようにも先手を打たれて向こうだけがこちらを認識している以上、相手の力量を鑑みれば場所の特定に要する一瞬が命取りになりかねないのだ。
これが万全の状態ならファントムたるドライは後手に回ることなどなかったろう。
だが、放送によりアインの死を知ることで、ツヴァイへの感情を掻き立てられて生じた僅かな動揺。
ファントムといえども人間、ドライにさえ毛先程もないとはいえ隙が生まれ出でてしまったのだ。
だが、放送によりアインの死を知ることで、ツヴァイへの感情を掻き立てられて生じた僅かな動揺。
ファントムといえども人間、ドライにさえ毛先程もないとはいえ隙が生まれ出でてしまったのだ。
こうなっては見敵必殺と言う訳にはいかないだろう。
あくまで主導権は向こうが握っている以上、どうにかして切り抜ける方策を。
あくまで主導権は向こうが握っている以上、どうにかして切り抜ける方策を。
……そう、起きたことを悔やんでも仕方ない。
ならば、今は目の前にある事実に対してどう対処すべきかを考えるべきだ。
ならば、今は目の前にある事実に対してどう対処すべきかを考えるべきだ。
どうすれば命を握られているこの状況を打開できるか、ドライこと天才・キャルは思考する。
姿なき追跡者は何故今のところ自分を襲撃しない? いや、出来ない?
理由は単純、自分にそれだけの力量があるからこそ、死を放つベストタイミングから僅かな挙動の変化で逃れられている。
どうあっても避けられない最適の状況下でなければ、狙撃であろうと回避する事は不可能ではない。
そして、初撃さえ避ければ場所の特定も出来るのだ。
そうなれば、相手の装填の時間も考え条件は互角になるだろう。おそらくは相手はそれを警戒している。
暗殺者として慣らした時間、インフェルノやサイスに感謝すべきかもしれない。
理由は単純、自分にそれだけの力量があるからこそ、死を放つベストタイミングから僅かな挙動の変化で逃れられている。
どうあっても避けられない最適の状況下でなければ、狙撃であろうと回避する事は不可能ではない。
そして、初撃さえ避ければ場所の特定も出来るのだ。
そうなれば、相手の装填の時間も考え条件は互角になるだろう。おそらくは相手はそれを警戒している。
暗殺者として慣らした時間、インフェルノやサイスに感謝すべきかもしれない。
……ならば、その力量を以って利用価値を示せばいい。
いずれにせよこのままではジリ貧だ。ならば命は握られたままでもいい、生存の可能性を作り出す。
ツヴァイをこの手で仕留めるその時まで自分は死ぬわけには行かないのだ。
では、その価値とは何か? 会話すら不可能な今の自分から何を見出させる?
いずれにせよこのままではジリ貧だ。ならば命は握られたままでもいい、生存の可能性を作り出す。
ツヴァイをこの手で仕留めるその時まで自分は死ぬわけには行かないのだ。
では、その価値とは何か? 会話すら不可能な今の自分から何を見出させる?
……先述の通り、初撃さえ回避できるならば直接戦闘に持ち込む事は可能だろう。
ならば、その時に自分の力量を示す事は可能だ。
身に染みこんだ暗殺者としての立ち振る舞い。
同業者あるいはそれに近しい者なら歩き方一つからその技術は窺うことができるだろう。
そもそも相手を倒してしまえばいい。
ならば、その時に自分の力量を示す事は可能だ。
身に染みこんだ暗殺者としての立ち振る舞い。
同業者あるいはそれに近しい者なら歩き方一つからその技術は窺うことができるだろう。
そもそも相手を倒してしまえばいい。
……だが、それは望ましい方法ではない。
基本的に自分は直接戦闘よりも影から狙い撃つのが本分である。
追跡者は同類だ。故に、不要な消耗を回避する意味でも正面からの戦闘は望ましくない。
それは向こうにとっても同じだ。
基本的に自分は直接戦闘よりも影から狙い撃つのが本分である。
追跡者は同類だ。故に、不要な消耗を回避する意味でも正面からの戦闘は望ましくない。
それは向こうにとっても同じだ。
……だからこそ、今も見えざる相手は自分を追跡し続けているのかもしれない。
銃器を使うならば弾丸にも限りがある以上、無駄撃ちは避けたいところだ。
そして、殺害のタイミングを外し続ける自分。ならば、そんな相手を一撃で確実に倒すには?
……自分ならば、第三者との戦闘に割り込む形で介入するだろう。
あわよくば交戦相手を狙って共倒れ、そんなところか。
銃器を使うならば弾丸にも限りがある以上、無駄撃ちは避けたいところだ。
そして、殺害のタイミングを外し続ける自分。ならば、そんな相手を一撃で確実に倒すには?
……自分ならば、第三者との戦闘に割り込む形で介入するだろう。
あわよくば交戦相手を狙って共倒れ、そんなところか。
少し手間のかかる鴨兼餌。
要するに自分への認識はそんなところだ。
クソッタレと心の中で毒づくも、意味がないので表に出すことはない。
要するに自分への認識はそんなところだ。
クソッタレと心の中で毒づくも、意味がないので表に出すことはない。
……だが逆に言えば、利用価値を示し、かつ殺しづらい相手と認識させることができれば、結果的に追跡者は自分の援護をすることになると言うことだ。
自分は現状、単独行動。
この時点で徒党を組んでいないならば、よほどの運の悪さが無い限り殺し合いに乗っている可能性は高い。
そんな自分を敢えて追ってきて殺害しようとするなら、追跡者もまた殺し合いに乗った者。
少なくとも義憤に駆られて誰かを守るようなお人よしではない。
……そんな相手にとっては、今の自分ほど利用しやすい相手もいないだろう。
何せ放っておけば殺すべき対象を勝手に消してくれる上に単騎だ、複数の『殺し合いに乗っていない』連中を相手取るよりも監視しやすく対処も容易。
それを、意識させる。
自分は現状、単独行動。
この時点で徒党を組んでいないならば、よほどの運の悪さが無い限り殺し合いに乗っている可能性は高い。
そんな自分を敢えて追ってきて殺害しようとするなら、追跡者もまた殺し合いに乗った者。
少なくとも義憤に駆られて誰かを守るようなお人よしではない。
……そんな相手にとっては、今の自分ほど利用しやすい相手もいないだろう。
何せ放っておけば殺すべき対象を勝手に消してくれる上に単騎だ、複数の『殺し合いに乗っていない』連中を相手取るよりも監視しやすく対処も容易。
それを、意識させる。
自分が都合のいい道具ならば、余程の窮地に陥らない限り使い絞ろうとするはずだ。
何度でも、何度でも。
何度でも、何度でも。
……それでも敢えて自分を狙うなら?
その時は『自分を確実に殺せる』ほど、ドライが追い詰められた時だ。
ドライが有利であり、殺せる隙が見つからないなら対峙する相手を優先して狙うはずだ。
その時は『自分を確実に殺せる』ほど、ドライが追い詰められた時だ。
ドライが有利であり、殺せる隙が見つからないなら対峙する相手を優先して狙うはずだ。
……ならば。
連携を取る事は期待できないだろうが、遠距離攻撃による『結果的な』援護はあり得るかもしれない。
また、交渉の際に姿なき第三者を示唆するだけでも効果はあるだろう。
要するに、切り札とまではいかなくとも自分にとってもいざという時のカードの一つにはなるはずである。
いつ殺されるとも知れない気を抜けない状況ではあるが、こちらもこちらで散々使い倒してボロ雑巾のように捨ててやればいい。
連携を取る事は期待できないだろうが、遠距離攻撃による『結果的な』援護はあり得るかもしれない。
また、交渉の際に姿なき第三者を示唆するだけでも効果はあるだろう。
要するに、切り札とまではいかなくとも自分にとってもいざという時のカードの一つにはなるはずである。
いつ殺されるとも知れない気を抜けない状況ではあるが、こちらもこちらで散々使い倒してボロ雑巾のように捨ててやればいい。
……では、そのためには何をすべきか。
相手を最大限に利用するために、向こうのこちらへの評価を高めてやる必要がある。
……その為に、ドライは微妙な挙動の変更をしつつデイパックに手を伸ばす。
相手を最大限に利用するために、向こうのこちらへの評価を高めてやる必要がある。
……その為に、ドライは微妙な挙動の変更をしつつデイパックに手を伸ばす。
そして、一つの物体を取り出しながらまるでそれに話しかけるように呟きを洩らした。
「噴射型離着陸単機、クドリャフカ。
1エリアを10分とかからず移動できる代物とはいえ、悪いがお前の出番はしばらく無ぇだろうな。
……何せ、急いで動く必要性は無くなったみてぇだし」
1エリアを10分とかからず移動できる代物とはいえ、悪いがお前の出番はしばらく無ぇだろうな。
……何せ、急いで動く必要性は無くなったみてぇだし」
――――言葉の効果は強烈。
不意に、背中にかかる圧力が別種のものに変化した。
今までが釣り糸を見る漁師の目線なら、今のものは猟犬を放った猟師のそれだ。
不意に、背中にかかる圧力が別種のものに変化した。
今までが釣り糸を見る漁師の目線なら、今のものは猟犬を放った猟師のそれだ。
……追跡者はドライの僅かな台詞で彼女の思考を全て理解したようだ。
それがドライ自身にも伝わってくる。
ニヤリと口を歪めながら彼女は駆け回ることを止め、ゆっくりと歩みを再会した。
それがドライ自身にも伝わってくる。
ニヤリと口を歪めながら彼女は駆け回ることを止め、ゆっくりと歩みを再会した。
一見独り言のようなドライの言葉。
相手がこちらを一瞬でも捉え損なったらクドリャフカでこの場からすぐ逃げる事もできるが、それはしない。
……追跡者を利用するつもりだからだ、と、そういう意味を込められたものだった。
実際、銃撃なり何なりで追跡者にわずかな隙を作り出すことさえ出来ればそれは可能であり、ドライ自身も狙っていたことだ。
相手がこちらを一瞬でも捉え損なったらクドリャフカでこの場からすぐ逃げる事もできるが、それはしない。
……追跡者を利用するつもりだからだ、と、そういう意味を込められたものだった。
実際、銃撃なり何なりで追跡者にわずかな隙を作り出すことさえ出来ればそれは可能であり、ドライ自身も狙っていたことだ。
つまりそれはドライが追跡者の存在に気付き、その意図を正しく理解している事。
自分もその意図に乗って利用されてやるつもりだという事。
代わりに自分に利用されて、必要な時に援護しろという事。
自分もその意図に乗って利用されてやるつもりだという事。
代わりに自分に利用されて、必要な時に援護しろという事。
それだけの内容をドライが対峙すらせずに示唆して見せた事は、追跡者にとって無視できない事実だ。
少なくとも相手にドライは多少なりとも協力的であることと、それだけの知恵が回ることをアピールする結果にはなる。
この殺し合いの場では協力者がいることには越したことはない、切れ者なら尚更だ。
殺し合いに乗った人間にとっては尚更貴重なものとなる。
少なくとも相手にドライは多少なりとも協力的であることと、それだけの知恵が回ることをアピールする結果にはなる。
この殺し合いの場では協力者がいることには越したことはない、切れ者なら尚更だ。
殺し合いに乗った人間にとっては尚更貴重なものとなる。
……反面、自分は厄介な相手だということも印象付けることにはなってしまうだろう。
だが、それでも単なる餌よりは切れる殺害対象の方が相手にとって利用価値は高くなる。
それでいい。
だが、それでも単なる餌よりは切れる殺害対象の方が相手にとって利用価値は高くなる。
それでいい。
当然の如く『クドリャフカは使わない』などというのはブラフでしかない。
相手もそれは当然理解しているだろう。
どうせ、見えざる追跡者の隙さえ作れれば、後は交戦するなり逃げるなり好きにすればいいだけの話なのだ。
ならば、その隙を作るまではせいぜい利用させてもらうまで。
相手もそれは当然理解しているだろう。
どうせ、見えざる追跡者の隙さえ作れれば、後は交戦するなり逃げるなり好きにすればいいだけの話なのだ。
ならば、その隙を作るまではせいぜい利用させてもらうまで。
使える間は使う。殺せるならば始末する。
実に明確な協定だ、それこそ間違えようのない位に。
実に明確な協定だ、それこそ間違えようのない位に。
結果――――、
たったの一言で、姿すら見ず、会話すらせずにドライは奇妙な信頼関係を会得することに成功した。
それも、言外に今までの事全てを悟り得るほどに能力の高い相手だ。
……双方共に頭も回るし技術も高い。それを互いに理解した上での薄氷の繋がり。
だがそれは利用しあうだけの関係であるが故に、いずれかが隙を見せるその時まで、互いの目的を妨げない限り続く鉄の鎖でもある。
それも、言外に今までの事全てを悟り得るほどに能力の高い相手だ。
……双方共に頭も回るし技術も高い。それを互いに理解した上での薄氷の繋がり。
だがそれは利用しあうだけの関係であるが故に、いずれかが隙を見せるその時まで、互いの目的を妨げない限り続く鉄の鎖でもある。
ツヴァイ。
黒須太一。
黒須太一。
言葉を交わすまでもなく、互いの洞察力のみで意思交換を行なえる程のスペックはしかし。
彼らという爆弾を抱えた事すら伝えることが適わない。
彼らという爆弾を抱えた事すら伝えることが適わない。
果たして彼女達の向かう先は何処か。
――――その兆しと成り得るものが、不意にそこに現れた。
――――その兆しと成り得るものが、不意にそこに現れた。
歓楽街を抜けた先に見えるのは大きな大きな観覧車。
かつてとある少女の一撃を食らったその様相など微塵も見せない佇まい。
かつてとある少女の一撃を食らったその様相など微塵も見せない佇まい。
「……は? 何だありゃ」
……その向こうに何やら場違いな代物が見える。
――――木が、飛んでいた。
「おいおい……、程があるだろ、阿呆さにもよ」
あまりに馬鹿馬鹿しいその光景に目を擦るドライだが、しかしそれでも現実は変わらない。
先端からしばらくは緑色。
所々に黄色がかった木肌。
土が引っかかったままの無数の根っこ。
……下手すれば家一軒並みかそれ以上の長さを持つ物体が、お空をゴーイングマイウェイとばかりに飛行中。
新種の飛行機かとも思ったが、それにしては高度が低すぎる。
先端からしばらくは緑色。
所々に黄色がかった木肌。
土が引っかかったままの無数の根っこ。
……下手すれば家一軒並みかそれ以上の長さを持つ物体が、お空をゴーイングマイウェイとばかりに飛行中。
新種の飛行機かとも思ったが、それにしては高度が低すぎる。
ならば、あれは一体何なのか。
呆れそうになる頭をクリーンにして、ドライは冷静に考え直す。
よもや見た目そのままの木が飛んでいると言う訳ではあるまい。
おそらくは偽装、中身はロケットかなにかだろうか。
自分の持つクドリャフカも個人に支給された飛行機械だ、支給品という可能性は高いだろう。
だが、ロケットにしては推進剤を用いている痕跡、発煙や炎色が全く見られない以上は遠隔地から発射された弾頭という可能性も考えられる。
まあ、そもそも木に偽装する意味が全く分からなくはあるのだが。
呆れそうになる頭をクリーンにして、ドライは冷静に考え直す。
よもや見た目そのままの木が飛んでいると言う訳ではあるまい。
おそらくは偽装、中身はロケットかなにかだろうか。
自分の持つクドリャフカも個人に支給された飛行機械だ、支給品という可能性は高いだろう。
だが、ロケットにしては推進剤を用いている痕跡、発煙や炎色が全く見られない以上は遠隔地から発射された弾頭という可能性も考えられる。
まあ、そもそも木に偽装する意味が全く分からなくはあるのだが。
「……考えても仕方ねぇか」
……あまりに不可思議すぎる光景に、ドライはとりあえず考えを保留することにした。
とりあえず放物線の頂点に達した空の上の玩具は、あらためて見直せば緩やかに下降し始めている。
推進剤を搭載した、いわゆるロケット弾ではないらしいことを確信しながら、
ドライは次に向かう候補地にそれの予測着弾地点――――遊園地と言う選択肢を入れることにした。
何の目的かは分からないが、あれを発射した者の目的はその場所にある何がしかへの接触である可能性が高い。
行ってみる価値はあるだろう。
推進剤を搭載した、いわゆるロケット弾ではないらしいことを確信しながら、
ドライは次に向かう候補地にそれの予測着弾地点――――遊園地と言う選択肢を入れることにした。
何の目的かは分からないが、あれを発射した者の目的はその場所にある何がしかへの接触である可能性が高い。
行ってみる価値はあるだろう。
また、天才の頭脳はその軌道から発射地点の逆算も完了している。
地図上で言えば温泉旅館の辺りだろうか。
大分離れる場所とはいえ、後々調べる価値はあるかもしれない。
地図上で言えば温泉旅館の辺りだろうか。
大分離れる場所とはいえ、後々調べる価値はあるかもしれない。
「さて、どうしたものかね」
そしてドライは考える。
後ろの怪人、前方の奇景。
後ろの怪人、前方の奇景。
この2つをどう扱っていいものかと、最も適切であろうその処置を。
◇ ◇ ◇
怪人もその光景を目にしながら、やはり思索を止める事はしない。
否、それは確認だ。これまでの、そしてこれからの。
否、それは確認だ。これまでの、そしてこれからの。
命を利用し、殺す。
これはいい。理性の怪物が殺すと決めた時点で目の前の金髪の女は殺される事は確定した結果だ。
既に先手を打ち、手に持つ投石器の照準はぶれる事などない。あり得ない。
いつ何時たりとも常にヘッドショットと言う事実をもたらすことだろう。
故に――――、あの女は死亡した。
棗恭介とトルティニタ・フィーネの時のように、足だけを奪って自由意志を持たせたまま、などと言う愚は犯さない。
奪うのは相手の命だ。
今度こそ完全に、完膚なきまでに。
これはいい。理性の怪物が殺すと決めた時点で目の前の金髪の女は殺される事は確定した結果だ。
既に先手を打ち、手に持つ投石器の照準はぶれる事などない。あり得ない。
いつ何時たりとも常にヘッドショットと言う事実をもたらすことだろう。
故に――――、あの女は死亡した。
棗恭介とトルティニタ・フィーネの時のように、足だけを奪って自由意志を持たせたまま、などと言う愚は犯さない。
奪うのは相手の命だ。
今度こそ完全に、完膚なきまでに。
……だがしかし、完璧を期すためにこそこれまでは殺せなかった。
同業ゆえにこちらの攻撃のタイミングは読まれている。
投石器の残弾は僅かに3つ。
故に、殺すその時は確実を期す必要がある。
だからこそ第三者の介入時を狙うつもりでいた。
また、他の要因で確実に殺せるタイミングでも殺害をするのに変わりはない。
それは今も継続している。
同業ゆえにこちらの攻撃のタイミングは読まれている。
投石器の残弾は僅かに3つ。
故に、殺すその時は確実を期す必要がある。
だからこそ第三者の介入時を狙うつもりでいた。
また、他の要因で確実に殺せるタイミングでも殺害をするのに変わりはない。
それは今も継続している。
……そう、ゆっくり歩いているような今でも、あの女はいまだに攻撃のタイミングを外す挙動をし続けている。
だがしかし、自分の代わりに矢面立って交戦する意思も見せている。
ならば選択は単純だ。
あの女も第三者への襲撃を行い、結果的に太一の敵を減らすつもりであるのなら。
劣勢に立つ等あの女を確実に殺せるタイミングが訪れるその時までは、せいぜいこちらも相手の行動を利用するとしよう。
だがしかし、自分の代わりに矢面立って交戦する意思も見せている。
ならば選択は単純だ。
あの女も第三者への襲撃を行い、結果的に太一の敵を減らすつもりであるのなら。
劣勢に立つ等あの女を確実に殺せるタイミングが訪れるその時までは、せいぜいこちらも相手の行動を利用するとしよう。
……相手が如何なる『正義の味方』であったとして、打ち倒す手段は多いに越したことはないのだから。
◇ ◇ ◇
怪人はまだ見ぬ正義の味方を思い、殺意を静かに煮詰め続ける。
無垢なる刃の執行者を。
無垢なる刃の執行者を。
◇ ◇ ◇
大十字九郎とユメイは、誰ひとり居なくなった喫茶店の中でしばし体を休めていた。
本来ならば直枝理樹達が居るはずで、ここにくれば合流できるはず。
そう考えていた彼らにとって、一人すら姿が見当たらない、という事態は一瞬だけ嫌な予感に見舞われはしたのだが。
本来ならば直枝理樹達が居るはずで、ここにくれば合流できるはず。
そう考えていた彼らにとって、一人すら姿が見当たらない、という事態は一瞬だけ嫌な予感に見舞われはしたのだが。
「……俺達が帰ってくんのを信じてる、か」
――――九郎が今手に持つ一枚のメモ書き。
そこに記された言葉で一先ずの安息を得たため、水分補給や食事を行い僅かでも体力を回復させることにした次第だ。
そこに記された言葉で一先ずの安息を得たため、水分補給や食事を行い僅かでも体力を回復させることにした次第だ。
記された内容は至極単純。
葛木という人物達や山辺美希との合流を考えて、早めに遊園地に向かう――――という事だった。
気がつけばもうすぐ3時。
りのの足の負傷で移動速度が低下している事を考えれば、約束に間に合わせる為にはこの場で待つことは出来なかったのだろう。
そのことに対して文句を言う気は全くない。
文面からは、自分たちが帰ってくるということを信じている、という事が伝わってくる。
断腸の理樹の想いは今この場でもありありと思い浮かべることが出来た。
葛木という人物達や山辺美希との合流を考えて、早めに遊園地に向かう――――という事だった。
気がつけばもうすぐ3時。
りのの足の負傷で移動速度が低下している事を考えれば、約束に間に合わせる為にはこの場で待つことは出来なかったのだろう。
そのことに対して文句を言う気は全くない。
文面からは、自分たちが帰ってくるということを信じている、という事が伝わってくる。
断腸の理樹の想いは今この場でもありありと思い浮かべることが出来た。
幸い自分達は足には負傷していない為、移動に関しては問題ない。
少し休んで軽く手当てをしても、3時までに遊園地に辿り着き彼らに追いつく事は可能だろう。
少し休んで軽く手当てをしても、3時までに遊園地に辿り着き彼らに追いつく事は可能だろう。
……尤も、手当てといっても応急処置程度だ。
エクスカリバーの鞘、アヴァロン。
それが完璧ならば治療は問題なく行なえるのだが、如何せん感じられる魔力量が至極少なくなってしまっている。
九郎の持つ宝石を使えばもしかしたら再度治癒能力を復活させることが出来るかもしれないが、幾つ使えば復活するのかも検討がつかない以上迂闊には使えない。
……使うならば、誰かが致命傷を負ったその時だろう。
九郎もユメイも消耗しているとはいえ、とりあえず普通の手当てで動き回ることが出来るレベルだ。
宝石の魔力は攻撃にも使えるために今使うべきではないだろう。
エクスカリバーの鞘、アヴァロン。
それが完璧ならば治療は問題なく行なえるのだが、如何せん感じられる魔力量が至極少なくなってしまっている。
九郎の持つ宝石を使えばもしかしたら再度治癒能力を復活させることが出来るかもしれないが、幾つ使えば復活するのかも検討がつかない以上迂闊には使えない。
……使うならば、誰かが致命傷を負ったその時だろう。
九郎もユメイも消耗しているとはいえ、とりあえず普通の手当てで動き回ることが出来るレベルだ。
宝石の魔力は攻撃にも使えるために今使うべきではないだろう。
九郎はこれからどうするか、を考える。
勿論遊園地に3時に間に合うように向かうのは確定、問題はその後だ。
情報と支給品の交換を目的とした会議、そこでどれだけの情報を得られるか。
……不慮の事態が起こらない限り、得られた情報で決まる事は多いだろう。
神宮寺奏、彼女が予定時間に来なかった事も気にかかる。
放送後に死亡していない限りはまだ生きているはずだが、何か不慮の事態があったのだろうか。
勿論遊園地に3時に間に合うように向かうのは確定、問題はその後だ。
情報と支給品の交換を目的とした会議、そこでどれだけの情報を得られるか。
……不慮の事態が起こらない限り、得られた情報で決まる事は多いだろう。
神宮寺奏、彼女が予定時間に来なかった事も気にかかる。
放送後に死亡していない限りはまだ生きているはずだが、何か不慮の事態があったのだろうか。
……死なせたく、ない。
だからこそ彼女の情報を得られるかもしれない会議には出なければならないだろう。
だからこそ彼女の情報を得られるかもしれない会議には出なければならないだろう。
そして、その場では自分も加藤虎太郎の死を伝えねばなるまい。
「……おっちゃん」
瞳から熱い物が零れそうになり、机の上の握った手はカタカタと震えを隠しきれない。
何かが堪えきれなくなりそうだったが、不意に小さな手が自分の拳に重ねられる。
見れば、ユメイがこちらを見つめたまま無言でこくりと頷いた。
何かが堪えきれなくなりそうだったが、不意に小さな手が自分の拳に重ねられる。
見れば、ユメイがこちらを見つめたまま無言でこくりと頷いた。
……そうだ、自分たちは立ち止まっている暇はない。
各々の目的を果たし、この巫山戯たゲームを壊す。
ポケットの上から虎太郎の眼鏡に触れ、決意と共に先程と同じ言葉を紡ぎだす。
各々の目的を果たし、この巫山戯たゲームを壊す。
ポケットの上から虎太郎の眼鏡に触れ、決意と共に先程と同じ言葉を紡ぎだす。
「俺達は未だ止まれない。行こう――お互いの目的を果たしに」
一息で目の前の紅茶を飲み干して、ユメイの同意を確認。
立ち上がり、ベルの音と共に店を後にする。
立ち上がり、ベルの音と共に店を後にする。
……尤も、懸念は0ではない。
先刻交戦した鬼の少女、そして。
先刻交戦した鬼の少女、そして。
「……あの仮面の人とかが、襲ってこなければ良いのだけど……」
何を考えているのか分からない正体不明存在。
虎太郎はもしかしたら危険ではないかもしれないと言っていたが、動向次第……、例えば奇襲などされれば敵に回るだろう。
勿論皆が集まる場では対処はよりしやすいかもしれない。
だが、逆に言えば皆を危険に曝す事にもなり、混乱を煽る可能性も充分だ。
……果たして。
虎太郎はもしかしたら危険ではないかもしれないと言っていたが、動向次第……、例えば奇襲などされれば敵に回るだろう。
勿論皆が集まる場では対処はよりしやすいかもしれない。
だが、逆に言えば皆を危険に曝す事にもなり、混乱を煽る可能性も充分だ。
……果たして。
できれば、何事もなく会議が終わればいいと願いながら、小走りで九郎に追いつき肩を並べる。
と、それを果たした瞬間九郎は不意に口を開いた。
と、それを果たした瞬間九郎は不意に口を開いた。
「……また、あの鬼が襲い掛かってきやがったら。
今度こそ俺が倒す。倒してみせる。……おっちゃんに託された、この手で」
今度こそ俺が倒す。倒してみせる。……おっちゃんに託された、この手で」
自分の掌を見つめ、ぎゅっと握りこむ九郎。
そうか、とユメイは悟る。
鬼の少女。
対象は違うとはいえ、九郎も会議が襲撃される怖れを抱いているのだ。
対象は違うとはいえ、九郎も会議が襲撃される怖れを抱いているのだ。
……ならばどうするか。それを九郎は示してみせている。
決まっている。
この手で皆を守り、倒すのだ。
例え相手がどれだけ強大な相手であろうとも。
決まっている。
この手で皆を守り、倒すのだ。
例え相手がどれだけ強大な相手であろうとも。
答えは簡単、しかしそれを成す為には何かが必要だ。
大十字九郎にその何かを見てユメイは苦笑する。
……彼のような人をこそ、正義の味方と呼ぶのだろうと。
大十字九郎にその何かを見てユメイは苦笑する。
……彼のような人をこそ、正義の味方と呼ぶのだろうと。
自分もそんな存在になれるだろうかと僅かな憧れを抱きながら、ユメイは無言で歩みを進める。
九郎の目線を追えば、その先にあるのはここからでも分かる大観覧車。
かつて自分と仮面の男が一戦相見えたその場所だ。
九郎の目線を追えば、その先にあるのはここからでも分かる大観覧車。
かつて自分と仮面の男が一戦相見えたその場所だ。
そこに待つのは果たして何か、いまだ彼女は知ることはない。
◇ ◇ ◇
勇者と蝶は決意する。
見据えた鬼神と奇怪な漢、そして大切な人たちを脅かすあらゆる者を守りきってみせると。
見据えた鬼神と奇怪な漢、そして大切な人たちを脅かすあらゆる者を守りきってみせると。
◇ ◇ ◇
159:I have created over athousand blades | 投下順 | 160:世界の中心、直枝さん(後編) |
159:I have created over athousand blades | 時系列順 | |
156:赤より紅い鬼神/無様を晒せ (後編) | 直枝理樹 | |
156:赤より紅い鬼神/無様を晒せ (後編) | 源千華留 | |
156:赤より紅い鬼神/無様を晒せ (後編) | 蘭堂りの | |
156:赤より紅い鬼神/無様を晒せ (後編) | 大十字九郎 | |
156:赤より紅い鬼神/無様を晒せ (後編) | ユメイ | |
158:キャル・ディヴェンス | ドライ | |
157:Anti-Mission | 支倉曜子 | |
148:sola (後編) | 橘平蔵 | |
148:sola (後編) | 杉浦碧 |