Alteration ◆AZWNjKqIBQ
舞台の上に演者は一人もおらず、故に客席にも手を叩く者は一人としておらず、後にそれを望むこともできない。
そんな本来の役割を一切務めることができていない洒落た雰囲気の、しかし寂しい空気が漂う一軒の劇場。
そんな本来の役割を一切務めることができていない洒落た雰囲気の、しかし寂しい空気が漂う一軒の劇場。
そこで、演者でも観客でもない一つの機械が僅かな駆動音だけを発し黙々と仕事をこなしていた。
劇場の奥にあるオフィスの一室。こじんまりとしたそこには不釣合いな真新しい一台のタワー型PC。
この島で行われている儀式。
その参加者の一人である蒼髪の少女が興味を示したが、その時点ではただそれだけに終わった意味不明のオブジェ。
この島で行われている儀式。
その参加者の一人である蒼髪の少女が興味を示したが、その時点ではただそれだけに終わった意味不明のオブジェ。
それが、演者も観客もいない空白地帯でただ黙々と、ひっそりと、誰に気付かれることもなく仕事をこなしている――
◆ ◆ ◆
忙しない打鍵の音。激務を強いられ吐く息を熱くするPC。そこに単調な伴奏を加える働き詰めのプリンター。
あれほど空虚でうら寂しかった九条むつみの私室が、今はただ必死の形相を部屋全体に浮かべている。
あれほど空虚でうら寂しかった九条むつみの私室が、今はただ必死の形相を部屋全体に浮かべている。
事の始まりは半日ほど前。
九条むつみは言峰綺礼と面会し、そして無理難題へと直面させられることとなった。
自らが持つ儀式を破綻させる文字通りの鍵。それと引き換えに誰をこの世界より解き放つのか?
儀式の参加者に加えられている娘か、それとも自分自身か。
一見単純な二択に見えてしかしその実、選択の向こう側に無限の可能性を内包する究極の選択。
九条むつみは言峰綺礼と面会し、そして無理難題へと直面させられることとなった。
自らが持つ儀式を破綻させる文字通りの鍵。それと引き換えに誰をこの世界より解き放つのか?
儀式の参加者に加えられている娘か、それとも自分自身か。
一見単純な二択に見えてしかしその実、選択の向こう側に無限の可能性を内包する究極の選択。
どうするべきか? ――彼女は情報を欲した。
不明な部分が多すぎる故に選べないと言うなら、その不明を少しずつでも取り除いてゆくしかない。
儀式は依然として進行中である為に、与えられる時間は不明の量と比べれば限りなく無に等しく思えたが、
九条むつみは運否天賦に賭けるという逃げ道の誘惑を退け、今もそれをただひたすらに続けていた。
儀式は依然として進行中である為に、与えられる時間は不明の量と比べれば限りなく無に等しく思えたが、
九条むつみは運否天賦に賭けるという逃げ道の誘惑を退け、今もそれをただひたすらに続けていた。
明かしてしまえば、劇場に置かれていた謎のPCは九条むつみが予め用意しておいたものである。
今、彼女が見るモニターには劇場に置かれているハッキング用のPCから送られてきているデータが映し出されている。
それはシアーズ財団の一部の研究員が神埼に隠れて行っている計画の一部であったり、
通常の監視モニターの情報からは得られないこの主催本拠地内部の監視データだったり、極秘中の極秘と言えるものばかりだ。
それはシアーズ財団の一部の研究員が神埼に隠れて行っている計画の一部であったり、
通常の監視モニターの情報からは得られないこの主催本拠地内部の監視データだったり、極秘中の極秘と言えるものばかりだ。
何故こんな用意が彼女にはあったのかと言うと、元々儀式への反逆を企てていたからに他ならない。
この島に連れられて来てより儀式が始まるまでの二週間。
彼女は娘を救うための手立てとして、誰に気付かれることもなく(露見していないだけかも知れないが)それを設置した。
一番地やシアーズ財団の動きを察知し、データベースに進入しそこより情報をコピーする。
覗き見というハッキングとしては比較的無難な方法。そして、今まで逃げ続けていた彼女にとっては手馴れた方法。
彼女は娘を救うための手立てとして、誰に気付かれることもなく(露見していないだけかも知れないが)それを設置した。
一番地やシアーズ財団の動きを察知し、データベースに進入しそこより情報をコピーする。
覗き見というハッキングとしては比較的無難な方法。そして、今まで逃げ続けていた彼女にとっては手馴れた方法。
与えられた部屋にも十分な機能を備えたPCは置かれているが、わざわざ別個に用意し迂回路を使っているのには訳がある。
単純に、それがばれた場合に自分が疑われないため。
現在は私室のPCへと接続されているが、それまでは情報は収集させていても一切アクセスはしていなかった。
故に以前の段階であれば覗き見がばれても、存在理由が不明なPCが一台現れるだけである。
彼女の意図はあったが、実際に設置したのは一番地の人間。そしてその情報すらも改竄済み。九条むつみに疑いの目は届かない。
単純に、それがばれた場合に自分が疑われないため。
現在は私室のPCへと接続されているが、それまでは情報は収集させていても一切アクセスはしていなかった。
故に以前の段階であれば覗き見がばれても、存在理由が不明なPCが一台現れるだけである。
彼女の意図はあったが、実際に設置したのは一番地の人間。そしてその情報すらも改竄済み。九条むつみに疑いの目は届かない。
ともかくとして、今現在彼女は儀式の裏に蠢くいくつかの機密を知り、そして選択の幅を急速に狭めていっていた。
当初は藁をも掴む心持ちであったが、予想に反し得られた情報は強い意味を持ち、収束したそれは選択の余地を彼女より奪う。
当初は藁をも掴む心持ちであったが、予想に反し得られた情報は強い意味を持ち、収束したそれは選択の余地を彼女より奪う。
九条むつみが与えられた問題に答えを出したちょうどその時、それを計ってなのか扉を叩くかたい音が部屋の中へと響いた。
◆ ◆ ◆
九条むつみは扉に鍵がかかっていないことを告げると、それが開くのを静かな面持ちでただ待った。
もしかすればジョセフの様に反逆の徒として処分される――そんな可能性があるはずなのに、彼女の顔に恐れはない。
むしろ予定調和。オチを知っている物語をまた読み返すような、そんな印象。
もしかすればジョセフの様に反逆の徒として処分される――そんな可能性があるはずなのに、彼女の顔に恐れはない。
むしろ予定調和。オチを知っている物語をまた読み返すような、そんな印象。
「どうやら、よいタイミングだったようだ。返答を受け取ろうか――シスターむつみ」
そこに現れたのは、牢獄へと閉じ込められたままのはずの言峰綺礼であった。
しかしその不自然を言峰綺礼は九条むつみに語ろうとせず、逆に彼女も彼に問おうとはしなかった。
そして、そんな一瞬の交錯が、それぞれに予定のままだと確信させることになる。
しかしその不自然を言峰綺礼は九条むつみに語ろうとせず、逆に彼女も彼に問おうとはしなかった。
そして、そんな一瞬の交錯が、それぞれに予定のままだと確信させることになる。
「ええ。もう答えは決まっているわ。初めから、選択の余地なんてものは存在しなかった――」
言って、九条むつみは”権利”との交換条件である”鍵”を投げる。
一瞬の滞空の後、それが言峰綺礼の手の中に納まるのを確認すると、彼女は答えを――その名前を口にした。
一瞬の滞空の後、それが言峰綺礼の手の中に納まるのを確認すると、彼女は答えを――その名前を口にした。
「あなたが言う幸運の女神――ナイアに対して”権利”を施行します」
互いに沈黙。そして場は静寂に包まれ、またあっけなく破られる。
喝采か、賞賛か、ただ可笑しいのか、笑い声と拍手を伴い、3人目が部屋の中へと入ってくる。
喝采か、賞賛か、ただ可笑しいのか、笑い声と拍手を伴い、3人目が部屋の中へと入ってくる。
あまねく世界を舞台とし、運命を脚本と書く、今回の儀式のトータルプロデューサー ――ナイアの姿がそこに現れていた。
◆ ◆ ◆
「こうして顔を合わせるのは初めてだね。……はじめまして、九条むつみ。私が、ナイアだ」
現れたナイアはいつも通りに飄々とした態度で、彼女を呼んだ九条むつみへと言葉をかける。
対して、九条むつみは緊張と畏怖に身体を強張らせていたが、しかしこれも予定通り。それは最低限のものだった。
対して、九条むつみは緊張と畏怖に身体を強張らせていたが、しかしこれも予定通り。それは最低限のものだった。
「……はじめまして。権利の施行は受けていただけるかしら?」
ふぅむと、それを聞いて考え込むようにナイアは手を顎へと当てる。
だがしかし、決して悩んでなどいないことは彼女の薄笑いを浮かべた顔を見れば一目瞭然だった。
だがしかし、決して悩んでなどいないことは彼女の薄笑いを浮かべた顔を見れば一目瞭然だった。
「”権利”の対象は儀式の参加者。となれば、”プレイヤー”もその対象であることには違いない」
ナイアの隣でフフと言峰綺礼が笑みを漏らす。
まさにこれは茶番だと九条むつみは思ったが、それを引っくり返す様な真似はせずただ淡々と言葉を重ねた。
まさにこれは茶番だと九条むつみは思ったが、それを引っくり返す様な真似はせずただ淡々と言葉を重ねた。
「”権利”の施行には同意がいるという話だったけれども、それでどうなのかしら?」
冷ややかな目で見つめる九条に一つ息を吐くと、ナイアはわざとらしく畏まった様子で彼女と相対する。
そして、速やかに同意することと、その場合には……と、一つの条件を出した。
そして、速やかに同意することと、その場合には……と、一つの条件を出した。
「あくまで席を立つのは”プレイヤーである私”のみだ。
私自身がこの場よりいなくなると儀式に不具合が発生しかねないし、それは君も望んではいないだろう?」
私自身がこの場よりいなくなると儀式に不具合が発生しかねないし、それは君も望んではいないだろう?」
それに対し、九条むつみはナイアと違いもったいぶることなく首を縦に振った。
彼女の目的は未だ強固に変わることなく、娘である玖我なつきを救うこと一点のみである。
ナイアがプレイヤーの席から立つ。それだけが彼女にとって必要な条件だった。
彼女の目的は未だ強固に変わることなく、娘である玖我なつきを救うこと一点のみである。
ナイアがプレイヤーの席から立つ。それだけが彼女にとって必要な条件だった。
「さて、では一つ問題が生じるな。席を空けたままでは勝負は成り立たない――」
君がそこに座るのかね? などと言峰綺礼は九条むつみにいやらしい笑みを浮かべて問いかける。
だが彼女は変わらず静かな表情で首を横に振った。
それを見て、どうにもノってはくれないようだと判断したのか、戯言を捨ててナイアは話を進める。
だが彼女は変わらず静かな表情で首を横に振った。
それを見て、どうにもノってはくれないようだと判断したのか、戯言を捨ててナイアは話を進める。
「じゃあ、元プレイヤーである私が交代のプレイヤーを決めよう。炎凪――いや、今は那岐だったね。彼が新しいプレイヤーだ」
至極あっさりと決めてしまうと、ナイアは九条むつみに近寄り2つのサイコロを彼女へと手渡した。
金色をした大きめの八面体のダイス。片方にはAからHまでのアルファベットが、もう片方には1から8の数字が刻まれている。
金色をした大きめの八面体のダイス。片方にはAからHまでのアルファベットが、もう片方には1から8の数字が刻まれている。
「それは、今まで禁止エリアを決めるために使っていたサイコロさ。
もう一対は神崎黎人が持っている。一応はそれがプレイヤーの証なので、那岐には君から届けてくれたまえ」
もう一対は神崎黎人が持っている。一応はそれがプレイヤーの証なので、那岐には君から届けてくれたまえ」
尤も神崎黎人の選択次第ではもう使うこともないかもね――と、最後にクスリと漏らすとナイアはゆらりと部屋を去った。
続けて言峰綺礼もいつも通りに悪意を潜ませた言葉を挨拶として部屋を去り、
そして九条むつみもが部屋を後にすると、その部屋からは誰もいなくなった。
続けて言峰綺礼もいつも通りに悪意を潜ませた言葉を挨拶として部屋を去り、
そして九条むつみもが部屋を後にすると、その部屋からは誰もいなくなった。
こうして儀式の端。舞台袖の暗がりの中。観客の誰も目が届かないそこで、その決定は、ひっそりと、あっさりと、下される。
◆ ◆ ◆
コツコツと――ただの真っ暗な通路に先を急ぐ九条むつみの足音が響く。
プリントアウトしたものやディスクに書き込んだもの。そして手書きのメモなどなど。
得られた情報を一つの書類袋にまとめ、それを抱えて彼女は那岐と娘が待つ教会へと向かっていた。
プリントアウトしたものやディスクに書き込んだもの。そして手書きのメモなどなど。
得られた情報を一つの書類袋にまとめ、それを抱えて彼女は那岐と娘が待つ教会へと向かっていた。
一本の道はまるで自由のないレールの様だと、彼女はそんな印象を心の中に浮かべる。
前へと進む足を動かしているのは自らの意思に他ならないが、しかしそのレールは最初から用意されていたものだったのだから。
前へと進む足を動かしているのは自らの意思に他ならないが、しかしそのレールは最初から用意されていたものだったのだから。
牢屋の前で言峰綺礼より話を聞かされた後、九条むつみはそこに一つの疑問を浮かべていた。
幸運の女神を自称するナイアの目的が自らの手によらない媛星の落下だとするならば、何故彼女が”プレイヤー”なのか。
それは極めて不自然な矛盾だ。
行動にいくらかの制限を設けていたとしても、自身がゲームの中にいる以上一切の影響が無いはずがない。
幸運の女神を自称するナイアの目的が自らの手によらない媛星の落下だとするならば、何故彼女が”プレイヤー”なのか。
それは極めて不自然な矛盾だ。
行動にいくらかの制限を設けていたとしても、自身がゲームの中にいる以上一切の影響が無いはずがない。
この矛盾を解消する答えはどこにあるのか?
元々が全て嘘なのかもしれない。裏に隠した別の目的があるのかもしれない。疑いだせばきりがない……。
しかし、全てが嘘ではなく、真実が存在するとしたならば、何が”真実”で何が”嘘”なのか。
元々が全て嘘なのかもしれない。裏に隠した別の目的があるのかもしれない。疑いだせばきりがない……。
しかし、全てが嘘ではなく、真実が存在するとしたならば、何が”真実”で何が”嘘”なのか。
彼女が掻き集めた――いや、掻き集めさせられた情報の中にそれは存在した。
◆ ◆ ◆
《解答編》
ナイアが自らの手によらない媛星の落下を目的としているのは事実である。
尤も、それを成して彼女が何を得るのかは未だ不明であるが、これは前提として決して覆りはしない。
そして、それを前提とした上で彼女とその手駒である言峰綺礼の動向を追えばその狙いが明らかなものとなるのだ。
尤も、それを成して彼女が何を得るのかは未だ不明であるが、これは前提として決して覆りはしない。
そして、それを前提とした上で彼女とその手駒である言峰綺礼の動向を追えばその狙いが明らかなものとなるのだ。
九条むつみがそうした様に、またここでそれを追い、真実を明らかにしよう。
人の身には想像することすら許されない時の果てに、ナイアは媛星という可能性を見出し何かを目論んだ。
重ねて言うがその目論見は不明。ともかくとしてナイアはその目的の為に”儀式”を作り上げる。
重ねて言うがその目論見は不明。ともかくとしてナイアはその目的の為に”儀式”を作り上げる。
どこかとも定かでは無い場所に儀式の為の世界を用意し、必要な人員を幾多の世界よりそこに集めた。
そして彼女は儀式をゲームとして争う二人のプレイヤーの一人としてその席に座る。
そして彼女は儀式をゲームとして争う二人のプレイヤーの一人としてその席に座る。
ゲームの内部よりゲームと、神崎を含めた何人かの参加者達へと干渉し、言峰をも使ってそこに”調整”を加えた。
それこそが九条むつみが疑心を持った部分。知れば知るほどにナイアは”プレイヤー”の範疇を逸脱しているように思えた。
やはり前提が間違っていたのだろうか?
それこそが九条むつみが疑心を持った部分。知れば知るほどにナイアは”プレイヤー”の範疇を逸脱しているように思えた。
やはり前提が間違っていたのだろうか?
しかし、前提が間違っていないとしたら?
ナイアが前提の通りに計画しそれを実行していたのだとしたら。全てが”計画通り”なのだとしたら……?
ナイアが前提の通りに計画しそれを実行していたのだとしたら。全てが”計画通り”なのだとしたら……?
儀式は進み、その中で言峰綺礼は過ぎた行動を取ったと牢へと放り込まれる。
この行動は勿論九条むつみの知るところとなり、迷える彼女をそこに誘うこととなった。
そして彼女は選択を迫られ、不明であるが故に”真実”を知る方向へと進み始めた――いや、そう誘導された。
この行動は勿論九条むつみの知るところとなり、迷える彼女をそこに誘うこととなった。
そして彼女は選択を迫られ、不明であるが故に”真実”を知る方向へと進み始めた――いや、そう誘導された。
そして彼女は知る。この世界より脱出する可能性の存在について。
そして彼女は気付いてしまう。自らが誘導されていたことと、そしてもうそれ以外の道が閉ざされていたことに。
そして彼女は気付いてしまう。自らが誘導されていたことと、そしてもうそれ以外の道が閉ざされていたことに。
脱出の方法。その前提として必要なのが脱出先の情報だ。
元々、資料に当たっていたのはここにいる自分と娘が”どの世界”から来たのかを調べるため。
その為にここに集められた者達の元いた世界を調べようとし、彼女はそこに”媛星が失われた世界”を見つけ出した。
元々、資料に当たっていたのはここにいる自分と娘が”どの世界”から来たのかを調べるため。
その為にここに集められた者達の元いた世界を調べようとし、彼女はそこに”媛星が失われた世界”を見つけ出した。
それはここに連れてこられたシアーズ財団の人間達が元いた世界。
自分の世界と限りなく近い、もしくは等しいと推測されるそこに九条むつみは強く興味を持ち、同時に当たり前のことに気付く。
そもそも媛星そのものがナイアの作り出したものでないのだとしたら、それが奪われた世界があるのだということに。
ともかくとして、九条むつみはその”媛星の無い自分の知る世界”を脱出先の候補として定めた。
この時点では事のカラクリに気付いていなかった故に、”権利”の対象は娘か自分かのままであったが。
そもそも媛星そのものがナイアの作り出したものでないのだとしたら、それが奪われた世界があるのだということに。
ともかくとして、九条むつみはその”媛星の無い自分の知る世界”を脱出先の候補として定めた。
この時点では事のカラクリに気付いていなかった故に、”権利”の対象は娘か自分かのままであったが。
次いで、か細いながらも脱出方法を見出す。それはとある研究者が目をつけていた”門”と”ロケット”の理論であった。
常時であるならば一笑に付すような荒唐無稽なものであるが、彼女はその時ある物の存在に気付いた。
言峰綺礼が刑務所の中に置き、現在はアル・アジフという名の参加者が持つ一冊の業務日誌。その中のとある1頁。
どちらもそれだけでは冗談か悪戯にしか思えない……が、もしここに繋がりが、意図が隠されているのだとしたら?
常時であるならば一笑に付すような荒唐無稽なものであるが、彼女はその時ある物の存在に気付いた。
言峰綺礼が刑務所の中に置き、現在はアル・アジフという名の参加者が持つ一冊の業務日誌。その中のとある1頁。
どちらもそれだけでは冗談か悪戯にしか思えない……が、もしここに繋がりが、意図が隠されているのだとしたら?
九条むつみの元に、炎凪が神埼黎人の下より離反したと知らせが届いたのはその時だった。
あまりにも唐突で不自然。少なくとも彼女には炎凪の行動がそう見えた。
脱出の可能性はひとまず置き、そして得られた本拠地内の監視データを調べ彼女はその場面をそこに目撃する。
脱出の可能性はひとまず置き、そして得られた本拠地内の監視データを調べ彼女はその場面をそこに目撃する。
”……何故僕にこんな事を教える?”
炎凪を惑わせ、離反の道へと誘導したのはナイアであると。
監視カメラの映像の中にナイアの声はなかったが、炎凪の言葉だけでもそこでどんな言葉が交わされたかを想像するのは、
事情を知っていた九条むつきにとっては難しいことではない。
監視カメラの映像の中にナイアの声はなかったが、炎凪の言葉だけでもそこでどんな言葉が交わされたかを想像するのは、
事情を知っていた九条むつきにとっては難しいことではない。
そして、御あつらえ向きに用意されていたルールブレイカーという宝具。
それが主催本拠地の出入り口の一つがある教会に滞在していた参加者の手にあったというのも出来すぎ。
遡ってデータを調べてみればなんのことはない。”教会に参加者達を足止めしていた”のはナイア本人だったのだ。
それが主催本拠地の出入り口の一つがある教会に滞在していた参加者の手にあったというのも出来すぎ。
遡ってデータを調べてみればなんのことはない。”教会に参加者達を足止めしていた”のはナイア本人だったのだ。
九条むつみがそうしたように、ナイアはひっそりと博物館に置かれた物の中にルールブレイカーを混ぜ、
その後、それを持つ者達のところへと度々干渉しては遂に教会へと居座らせた。
そして炎凪を炊きつけ、彼を神崎の下より離反させ参加者の側へとつける。
その後、それを持つ者達のところへと度々干渉しては遂に教会へと居座らせた。
そして炎凪を炊きつけ、彼を神崎の下より離反させ参加者の側へとつける。
これが何を意味するのか。
ただ、ナイアは儀式の失敗を目論んでいるだけというなら話は早いが、そこには矛盾が存在する。
ただ、ナイアは儀式の失敗を目論んでいるだけというなら話は早いが、そこには矛盾が存在する。
その矛盾を解消する鍵は九条むつみの存在そのものだ。
首輪を解除する”鍵”を持たされた彼女ではあったが、実際にナイアに取っては彼女こそが計画の”鍵”だったのである。
九条むつみは言峰に誘導され、情報を求め、そして知ってしまった。気付いてしまった。故に、そのレールに乗らざるを得なくなった。
首輪を解除する”鍵”を持たされた彼女ではあったが、実際にナイアに取っては彼女こそが計画の”鍵”だったのである。
九条むつみは言峰に誘導され、情報を求め、そして知ってしまった。気付いてしまった。故に、そのレールに乗らざるを得なくなった。
ナイアの計画とは何か?
それは、”九条むつみが媛星の落下を自ら望むこと”に他ならない。
◆ ◆ ◆
そして、ナイアの当初の目的はこれより達成されることになる。
儀式を用意したナイアではあるが、そのゲームには足りない人員が存在した。
ナイアがプレイヤーとして座っていた席にいるべき者――媛星の落下を心より望む人間である。
それもそのはず、媛星の落下は人類の絶滅を意味するのだからそれを望む人間など存在するはずもない。
一番地やシアーズ財団にしても非人道な組織ではあるが、そんなことは望んでいなかった。
ナイアがプレイヤーとして座っていた席にいるべき者――媛星の落下を心より望む人間である。
それもそのはず、媛星の落下は人類の絶滅を意味するのだからそれを望む人間など存在するはずもない。
一番地やシアーズ財団にしても非人道な組織ではあるが、そんなことは望んでいなかった。
かといってただ破滅的な人間を置けばいいという訳でもなく、結果その席にはナイア自身が座ることとなる。
そのままでは、ただナイアが神埼に勝って終わる。その可能性しか存在しえなかっただろう。
なので、ナイアは自分と席を代わる者を作り出すために一計を案じたのだ。
なので、ナイアは自分と席を代わる者を作り出すために一計を案じたのだ。
対象は炎凪。これを開放し、那岐をプレイヤーの席へと座らせる。
そして彼を説得し誘導する役目として、九条むつみに全ての裏側を知るように仕向けた。
そして彼を説得し誘導する役目として、九条むつみに全ての裏側を知るように仕向けた。
結果として、九条むつみは自身と娘を合わせて救う為に、媛星落下のエネルギーを利用した脱出案にすがり
プレイヤーの席から倒しえないナイアの退場を選択することとなった。
彼女が教会へと到着し、そこに集った参加者と那岐に事情を話せば、彼らもそれに同意することだろう。
プレイヤーの席から倒しえないナイアの退場を選択することとなった。
彼女が教会へと到着し、そこに集った参加者と那岐に事情を話せば、彼らもそれに同意することだろう。
こうして、ゲームよりナイアの手は離れ、遂に彼女の望む”星を落としたい者”と”星を落としたくない者”の勝負が成立する。
最早、”神のみぞ知らない”――ここからは、アドリブオンリー。真なる劇の開演の時である――……
【主催本拠地・教会への通路 / 2日目 昼】
【九条むつみ@舞-HiME 運命の系統樹】
【思考・行動】
1:那岐と参加者達を説得し、一緒に神崎とその組織を打倒。
2:媛星落下のエネルギーを利用した脱出案で、この世界を脱出する。
【思考・行動】
1:那岐と参加者達を説得し、一緒に神崎とその組織を打倒。
2:媛星落下のエネルギーを利用した脱出案で、この世界を脱出する。
※プレイヤーの証。禁止エリアを決めるためのサイコロを預かってます。
※舞台裏であった様々なことが記されたデータを持っています。
※首輪を外すために必要な”鍵”は言峰に渡しました。
※舞台裏であった様々なことが記されたデータを持っています。
※首輪を外すために必要な”鍵”は言峰に渡しました。
◆ ◆ ◆
「――どういうことでしょうか?」
再び自室へと戻ってきた神崎は、ソファに身を沈めるナイアを見て開口一番にそう言った。
「これは……君にとっても悪くない展開だとは思うんだけどね」
ナイアは悪びれることもなくそう言ってのける。
そして、その言葉通りにこれは神崎にとっても悪いことばかりではなかった。
そして、その言葉通りにこれは神崎にとっても悪いことばかりではなかった。
「確かに……あなたと比べれば凪などよっぽど組しやすい相手と言えるでしょう……」
ナイアが最初から欺いていた。
その一点に目を瞑りさえすれば、神崎側から見ればゲームの難易度はグっと下がったと言えるかもしれない。
少なくとも、目の前の超越者たる存在の干渉はこれ以降ないと確約されたのだから。
その一点に目を瞑りさえすれば、神崎側から見ればゲームの難易度はグっと下がったと言えるかもしれない。
少なくとも、目の前の超越者たる存在の干渉はこれ以降ないと確約されたのだから。
ならば不条理は最早起こりえず、冷静に参加者とこちらの戦力を見比べれば気持ちの中に余裕も沸いてくる。
問題としては、こちら側の人員では参加者を直接殺傷することができないことだが、それにもすでに手は打っている。
問題としては、こちら側の人員では参加者を直接殺傷することができないことだが、それにもすでに手は打っている。
「まぁ、私はすでに傍観者だ。
君もこんなところで油を売っていないで相応しい場所に戻ったらどうかな?」
君もこんなところで油を売っていないで相応しい場所に戻ったらどうかな?」
言われなくとも、と神埼は踵を返し入ってきた扉をまた潜る。
ナイアに対して言いたいことは際限なく存在するが、言っても意味がないことも散々に実感している。
なので――
ナイアに対して言いたいことは際限なく存在するが、言っても意味がないことも散々に実感している。
なので――
「凪ごときに席を譲ったこと――見事、後悔させてごらんにいれますよ」
――最後にそれだけを言い残し、神崎はナイアへと背を向けたまま部屋を去った。
「そういえば、次の放送だけは私がしないといけないんだね。さて何を語ろうか――?」
全ての役者が再び舞台に戻り、一人舞台袖に残ったままのナイアは相変わらずに悠々と、ただ薄く微笑む。
【主催本拠地 / 2日目 昼】
【神崎黎人@舞-HiME運命の系統樹】
※命のために擬似エレメントの製造を命令しました。弥勒は引き続き彼が装備します。
※凪が儀式の内容を話したペナルティのため、次の放送はナイアに任せます。
※命のために擬似エレメントの製造を命令しました。弥勒は引き続き彼が装備します。
※凪が儀式の内容を話したペナルティのため、次の放送はナイアに任せます。
【言峰綺礼@Fate/staynight[RealtaNua]】
※神崎によって首輪を嵌められています。(見せしめに使われた爆薬とセンサーだけの簡易ver.)
※首輪を外すための鍵を入手しました。
※ある場所でシアーズ財団と接触することになっています。
※神崎によって首輪を嵌められています。(見せしめに使われた爆薬とセンサーだけの簡易ver.)
※首輪を外すための鍵を入手しました。
※ある場所でシアーズ財団と接触することになっています。
241:忘却→覚醒/喪失(後編) | 投下順 | 243:The Perfect Sun |
時系列順 | ||
239:クロックワークエンジェル | 九条むつみ | >第二幕へ続く |
神崎黎人 | 244:Song for friends | |
言峰綺礼 | >第二幕へ続く | |
ナイア | 255:第六回放送――はじまり。 |