Happy-go-lucky (幸運) 6 ◆Live4Uyua6
・◆・◆・◆・
灰色のコンクリートで組み立てられた静謐な地下の領域。
白線で区切られたスペースには、エンジンやギアなどの欠落した鉄塊が点在していた。
天地は十分な隔たりを持っており、大型バスやダンプカー、果ては機関車すらオブジェの一員になりえる。
高さゆえの脆さを補うため、何本もの柱が天蓋を支えていた。
白線で区切られたスペースには、エンジンやギアなどの欠落した鉄塊が点在していた。
天地は十分な隔たりを持っており、大型バスやダンプカー、果ては機関車すらオブジェの一員になりえる。
高さゆえの脆さを補うため、何本もの柱が天蓋を支えていた。
ここは駐車場、時に射撃訓練場、そして、今はチャイルド召喚の試験会場。
教官は最も年長でありHiMEの全てを知る那岐。その助手はこれもまたHiMEをよく知りかつてその力の片鱗を持っていた九条むつみ。
試験を受けるのは、玖我なつき。杉浦碧。深優・グリーアらの三人で、那岐は現役のHiMEである彼女たちにいつもの口調で話しかけた。
教官は最も年長でありHiMEの全てを知る那岐。その助手はこれもまたHiMEをよく知りかつてその力の片鱗を持っていた九条むつみ。
試験を受けるのは、玖我なつき。杉浦碧。深優・グリーアらの三人で、那岐は現役のHiMEである彼女たちにいつもの口調で話しかけた。
「それじゃ、さっそく、チャイルドを召喚してもらおうかな。まずはなつきちゃん」
「わざわざ試す必要もないとは思うが……デュラン!」
「わざわざ試す必要もないとは思うが……デュラン!」
なつきの呼びかけと共に、硬質の狼が実体化する。体躯こそ大型犬レベルだが、漂う威厳はこれを一回りも二回りも大きく見せていた。
那岐はなつきのチャイルドをしばらく凝視し、そして静かにうなずく。
那岐はなつきのチャイルドをしばらく凝視し、そして静かにうなずく。
「特に問題なさそうだね。じゃあ、次は碧ちゃん」
「ちょっと危ないから、みんな少し後ろに下がってねー」
「ちょっと危ないから、みんな少し後ろに下がってねー」
碧はハルバードをバトンのように頭上で回転させ、
ガク テン オー
「出ませいッ、鋼の牙、愕・天・王」
「出ませいッ、鋼の牙、愕・天・王」
愛し子の名と共に、真正面へと振り下ろす。彼女の何倍もの空間は姫星の力に塗り込められ、有角の巨獣がそこに実体化した。
大きさに加えて、城門のごとき堅牢な表皮、山岳を思わせる隆々たる筋肉。これほど『威風堂々』と言葉の似合うチャイルドは他にはいまい。
大きさに加えて、城門のごとき堅牢な表皮、山岳を思わせる隆々たる筋肉。これほど『威風堂々』と言葉の似合うチャイルドは他にはいまい。
「空前絶後の力を備えた、才色兼備な美少女の、縦横無尽獅子奮迅のチャイルドが、オーファンどもを屍山血河の地獄へ落とす!」
なつきは碧の芝居がかった演技を冷めた目で見ながら、
「碧、その口上、年甲斐もなく恥かしくないのか」
「んー、空前絶後の力ってのは、他の超人たちを目にした後だと、ちょっと浮いてるかな」
「いや、そっちの方ではなくて……」
「んー、空前絶後の力ってのは、他の超人たちを目にした後だと、ちょっと浮いてるかな」
「いや、そっちの方ではなくて……」
「ちっちっちっ、那岐くんは千ウン百さいで中学生、深優ちゃんは凄く若いのに高校生なんだよね?」
「はい、私はアリッサ様誕生よりも後に、養父、ジョセフ・グリーアによって製造されました」
「そうそう、なつきちゃんも、深優ちゃんも、じゅーななさいも那岐くんも美少女で決まり。世の中、可愛けりゃ正義なの。アンダンスタン?」
「はい、私はアリッサ様誕生よりも後に、養父、ジョセフ・グリーアによって製造されました」
「そうそう、なつきちゃんも、深優ちゃんも、じゅーななさいも那岐くんも美少女で決まり。世の中、可愛けりゃ正義なの。アンダンスタン?」
碧はなつきに顔を近づけ、人差し指を立てて問い詰める。
「あー、はいはい、分かった。次いこう、次」
「僕は男なんですけど……」
「僕は男なんですけど……」
なつきは半ば投げやりに話を打ち切る。すると、深優は一歩前に出て那岐に視線を合わせる。
「最後は私の番ですか」
「深優ちゃんのチャイルドって、大きいんだよね。呼び出した途端に天井突き破ったりしないかちょっと心配かも」
「ここの天井の高さは5.3mです。カマエルの体長は4.9mですので、呼ぶだけなら可能と思われます。
仮に召喚できれば、の話ですが」
「深優ちゃんのチャイルドって、大きいんだよね。呼び出した途端に天井突き破ったりしないかちょっと心配かも」
「ここの天井の高さは5.3mです。カマエルの体長は4.9mですので、呼ぶだけなら可能と思われます。
仮に召喚できれば、の話ですが」
彼女のチャイルド召喚はこれまでに一回。九鬼死亡直後に橋を倒壊させた時だけだ。
「じゃあ、駄目元でやってみてくれないかな」
「……我が前に、カマエル」
「……我が前に、カマエル」
彼女は指で魔法陣を描く。すると、彼女のHiMEの刻印がうっすらと輝く。だが、切れ掛けた電球のように明滅し、すぐに光を失った。
なつきは始終を観察し、腰に手を当てたまま落ち着いた声で語る。
なつきは始終を観察し、腰に手を当てたまま落ち着いた声で語る。
「どうやら、召喚は無理のようだな」
「那岐、どのような原因は考えられるのでしょう?」
「んー、そうだねぇ。他の人のケースに手掛かりがあるかもね。たとえば、碧ちゃんは、どんな状況で愕天王を呼び出したのかな」
「えっと……確か、唯ちゃんの銃弾をギリギリで躱して、どうしてそんなことするか聞いたんだっけ。
そうしたら、あの子は殺されるために殺したいとか、ふざけた事ほざいてたワケよ。あたしはそれにプッツンと切れて」
「那岐、どのような原因は考えられるのでしょう?」
「んー、そうだねぇ。他の人のケースに手掛かりがあるかもね。たとえば、碧ちゃんは、どんな状況で愕天王を呼び出したのかな」
「えっと……確か、唯ちゃんの銃弾をギリギリで躱して、どうしてそんなことするか聞いたんだっけ。
そうしたら、あの子は殺されるために殺したいとか、ふざけた事ほざいてたワケよ。あたしはそれにプッツンと切れて」
暫くの中断。額に手を当てて過去の記憶を引き出している。そして、咳払い。大きく息を吸い込んで、
「死んでいった人の分まで強く生き延びてみせる! そして、もう誰も死なせない!
皆で生き延びてみせる! 正義の味方として! 杉浦碧として!」
皆で生き延びてみせる! 正義の味方として! 杉浦碧として!」
碧の啖呵が地下全体に響き渡る。ちょっとドン引きしているなつき。
「あー、みんな、ノリが悪いぞー」
少し拗ねる碧。そこでにこやかに拍手する那岐。
「うんうん、あのときの碧ちゃんは格好良かったよ。で、その時に一番大切な人を思い浮かべていたわけじゃないよね」
「そうなるかな。あたしには別に尊敬してる人がいるしね」
「そうなるかな。あたしには別に尊敬してる人がいるしね」
「そう、この世界でチャイルド召喚に必要なのは、命に賭けても誰かを守りたいと言う想いだけ。
つまり、具体的な触媒を必要としないんだ。その代わり、心の揺らぎが強くなると、召喚不能になってしまう。
もちろん、想い人一筋で覚醒した人いるみたいだけど」
「……な、なぜ、みな私を見る。要するにチャイルドが消えても、誰に死ないんだな?」
つまり、具体的な触媒を必要としないんだ。その代わり、心の揺らぎが強くなると、召喚不能になってしまう。
もちろん、想い人一筋で覚醒した人いるみたいだけど」
「……な、なぜ、みな私を見る。要するにチャイルドが消えても、誰に死ないんだな?」
クールななつきの顔は数瞬で紅色に染まる。
特に碧は先の復讐と思っているかは知らないが、にやけ顔でこれでもかというほど彼女を眺めている。那岐は楽しそうに口を開く。
特に碧は先の復讐と思っているかは知らないが、にやけ顔でこれでもかというほど彼女を眺めている。那岐は楽しそうに口を開く。
「うん、失うのはチャイルドだけだよ。元マスターは初め、懐疑的だったみたいだけどね。
まあ、ミコトちゃんの想い人は彼だから慎重になるのは当たり前かな。
それで、HiMEが死んだらチャイルドはオーファンになるけど、想い人を執拗に追いかけはしない。
ただ、手当たり次第、周りの人間を襲って食らうんだけどね」
まあ、ミコトちゃんの想い人は彼だから慎重になるのは当たり前かな。
それで、HiMEが死んだらチャイルドはオーファンになるけど、想い人を執拗に追いかけはしない。
ただ、手当たり次第、周りの人間を襲って食らうんだけどね」
「そ、そうか。そっちはちょっと厄介かもしれないな。それに触媒とは関係なしに、私はチャイルドも失いたくはない」
なつきはデュランの背を愛しげに撫でる。チャイルドは柔らかな咆哮で彼女の思いに応じる。
そして、碧もこれを首肯する。そう、HiMEにチャイルドは重要なパートナーである。
元の世界でどうなるかは分からないにせよ、出来れば一緒に帰還したい。
そして、碧もこれを首肯する。そう、HiMEにチャイルドは重要なパートナーである。
元の世界でどうなるかは分からないにせよ、出来れば一緒に帰還したい。
深優は冷静な口調で那岐に問いかける。
「それで新たなチャイルドの構築のために、既存のチャイルドは一旦リセットされたということでしょうか」
「そーゆーことだね。ちなみに説明会場で神崎が説明していた
『使用さえ出来なくなっていて、時間の制限と共に解除される能力』ってのは、チャイルドのことだよ」
「そーゆーことだね。ちなみに説明会場で神崎が説明していた
『使用さえ出来なくなっていて、時間の制限と共に解除される能力』ってのは、チャイルドのことだよ」
那岐はなつきをちらりと見る。彼はリセットの救済措置として、この箱庭世界では恋愛感情が促進されることは伏せることにした。
たとえ、舞台の力はあったとしても、彼らの選んだ想い人には違いない。帰還後、ふたりが熱愛を続けられるかは、本人次第だ。
たとえ、舞台の力はあったとしても、彼らの選んだ想い人には違いない。帰還後、ふたりが熱愛を続けられるかは、本人次第だ。
碧は那岐の説明を聞くと、頬に指を当て、ちょっと不思議そうな表情をする。
「あれ、りのちゃんのテレパシーは違うの?」
りのは島全体に自分の思いを届けるという大技を披露している。彼女は会場で初めからこの能力使えたとも思えない。
もし使えていたら、彼女の性格からしてすぐに回りに呼びかけていたはずだ。
もし使えていたら、彼女の性格からしてすぐに回りに呼びかけていたはずだ。
「そっちは良くわかんないや。あれは僕らにとっても想定外だったからね。
たぶん、りのちゃんは強い想いで、制限を突き破るほどの覚醒を果たしたんだと思う。
もしくは、自分がそんな能力を持っていることすら知らなかったとか。ホント、神宮司の力は恐ろしいや」
たぶん、りのちゃんは強い想いで、制限を突き破るほどの覚醒を果たしたんだと思う。
もしくは、自分がそんな能力を持っていることすら知らなかったとか。ホント、神宮司の力は恐ろしいや」
と、那岐は適当に笑って誤魔化した。他にも鬼や悪鬼とも違う、予想外のパワーアップをした人間は若干名存在した。
もしかすると、この会場には自分達も知らない、隠しシステムが存在するのかもしれない。
もしかすると、この会場には自分達も知らない、隠しシステムが存在するのかもしれない。
「そんじゃ、本題に入ろうか。深優はHiMEに覚醒したとき、チャイルドを呼べなかった。
確かに君はアリッサちゃんを全てを賭しても守りたいと思っていた。
でも、心の奥底で本当に生きているか強い不安があったんじゃないかな。いわば自分の心を欺いていた」
「那岐くん、それはちょっと言いすぎなんじゃ……」
確かに君はアリッサちゃんを全てを賭しても守りたいと思っていた。
でも、心の奥底で本当に生きているか強い不安があったんじゃないかな。いわば自分の心を欺いていた」
「那岐くん、それはちょっと言いすぎなんじゃ……」
彼女は那岐の問いに、拒絶することも戸惑うこともなく、冷静に、そして力強く答えた。
「いえ、確かに、そうなのかもしれません。そして、実際にあのアリッサは偽者でした。
ですが、アリッサ様の死に恥じない生き方をしたいという気持ちは本物です」
ですが、アリッサ様の死に恥じない生き方をしたいという気持ちは本物です」
那岐は彼女の態度に感心しながら、じっと目を見て落ち着いた調子で語る。
「ただ、それだけではチャイルドを呼ぶのには不足みたいだね。あれは『生きている』誰かを守るための力だからかな。
深優ちゃんはカマエルを呼んだとき、どんなことを感じていた?」
深優ちゃんはカマエルを呼んだとき、どんなことを感じていた?」
深優は軽く目を瞑る。灰色の空間にファンの音だけが響いている。
「よく分かりません。あのときの感情は既存のカテゴリには当てはまらないような気がします」
「なるほど。そういうのも人の気持ちのひとつだよ。それを大切にすれば何かが開かれるかもね。
……もっとも、僕としては、恋人を見つけるなんてのを薦めるけどね」
「そうそう、深優ちゃんも女の子なんだから、青春を謳歌しなきゃ駄目よ」
「なるほど。そういうのも人の気持ちのひとつだよ。それを大切にすれば何かが開かれるかもね。
……もっとも、僕としては、恋人を見つけるなんてのを薦めるけどね」
「そうそう、深優ちゃんも女の子なんだから、青春を謳歌しなきゃ駄目よ」
碧は深優の背中を軽く3回叩いた。なつきは眉を顰めながら、那岐に言う。
「那岐、お前はさっきから上から目線でからかってばかりいるが、当の自分の実力はどうなんだ?
口先ばかりで、足手纏いにならないだろうな」
「僕は強いよ。なんなら、試してみる?」
口先ばかりで、足手纏いにならないだろうな」
「僕は強いよ。なんなら、試してみる?」
あっけらかんと即答する那岐。あまりに自然に受け流したため、HiMEたちは本気か冗談か測りかねているようだ。
「悪い提案じゃないわね」
「ママ!?」
「ママ!?」
今まで那岐の隣で成り行きを見守っていたむつみがはじめて口を開く。
「あなた達はこの世界に来てより、チャイルドを使った戦闘はほとんど行っていないわよね。
ならば調整を兼ねて模擬戦をしてみるのも悪くないわ。互いの力量を把握すれば今後の連携にも活かせる」
ならば調整を兼ねて模擬戦をしてみるのも悪くないわ。互いの力量を把握すれば今後の連携にも活かせる」
彼女の言葉を聞き、ということらしいよと、那岐は相変わらずの表情でHiME達に顔を向ける。
「ママがそう言うなら構わないけど……」
「神崎は鬼道の達人と聞きます。ならば、事前に那岐の鬼道に触れることは、極めて有用と判断します」
「んじゃ、あたしら美少女三人組で、那岐くんの秘密のベールを引ん剥いて、丸裸にしちゃおっか」
「神崎は鬼道の達人と聞きます。ならば、事前に那岐の鬼道に触れることは、極めて有用と判断します」
「んじゃ、あたしら美少女三人組で、那岐くんの秘密のベールを引ん剥いて、丸裸にしちゃおっか」
三人のHiMEはそれぞれに納得し、そして彼女達と那岐による模擬戦が行われることとなった。
・◆・◆・◆・
模擬戦は那岐の強い希望で特殊なルールで行われることになった。
それは那岐対HiME3人による変則バトル。HiME達は30分以内に一度でも那岐に攻撃を命中させれば勝ちというものであった。
ただし、深優だけは10分遅れの参加となる。また、支給品の使用は禁止。
どう考えてもHiME達の方に有利な条件だと思えたが、しかし那岐はこれでいいと言う。審判役を務めるむつみも異論は挟まなかった。
それは那岐対HiME3人による変則バトル。HiME達は30分以内に一度でも那岐に攻撃を命中させれば勝ちというものであった。
ただし、深優だけは10分遅れの参加となる。また、支給品の使用は禁止。
どう考えてもHiME達の方に有利な条件だと思えたが、しかし那岐はこれでいいと言う。審判役を務めるむつみも異論は挟まなかった。
余計な誤解を避けるために火災感知装置はオフにする。代わりに九条むつみが鎮火装置を手動で起動させる。
ちなみに、戦いの様子を録画、録音するのも彼女。戦闘終了後は、撮影記録を見ながら反省会をする予定だ。
ちなみに、戦いの様子を録画、録音するのも彼女。戦闘終了後は、撮影記録を見ながら反省会をする予定だ。
「顔だろうと胸だろうと好きに狙って構わないよ。
僕は参加者たちと違って、厳密な意味での受肉はしてないからね。人の急所を突かれても即死はしないから」
「じゃあ、愕天王の一撃を腹にズガンと受けても大丈夫かな?」
「はは、それはちょっと痛いんで、お手柔らかに」
僕は参加者たちと違って、厳密な意味での受肉はしてないからね。人の急所を突かれても即死はしないから」
「じゃあ、愕天王の一撃を腹にズガンと受けても大丈夫かな?」
「はは、それはちょっと痛いんで、お手柔らかに」
那岐は余裕たっぷりの表情で軽口を続ける。なつきはその様子を見ながら思わず眉をひそめる。
「随分と甘く見られたものだな。言っておくが、私達は10分で頭数を減らされるほど、ヤワではないぞ」
「僕も全部足しても年齢二桁のヒヨっ子に負ける気はしないんだけどね」
「僕も全部足しても年齢二桁のヒヨっ子に負ける気はしないんだけどね」
むつみは手を叩き、4人の注意を喚起する。
「はいはい、話はこれで終わり。今から模擬戦をはじめるわよ」
なつきと碧は那岐と対峙して、警戒の構えを取る。そして、むつみのカウントダウンが始まった。
「5・4・3・2・1、はじめっ!」
那岐は大きく両腕を広げる。気温が僅かに下がり、低く唸るような地響き。その瞬間、彼の両脇から実体化する双子のオーファン。
全長3mほどで、獣で喩えれば青色の大猿。だが、その形相は悪魔の禍々しさを持っていた。
全長3mほどで、獣で喩えれば青色の大猿。だが、その形相は悪魔の禍々しさを持っていた。
「オーファンを同時に2体操るだと!?」
なつきは思わず驚きの声を上げる。那岐は鼻を擦り、得意満面の笑みを浮かべる。
「僕はこれでも、1200年前の最高の術者たちを複数同時に相手にしてるからね。これくらいはお茶の子さいさいなんだよ」
左手側のオーファンはなつき、右手側のオーファンは碧目掛けて疾走する。
彼らは体躯に似合わず俊敏さでアスファルトの空間を僅かに揺らす。
だが、なつきにはまだ余裕の表情が感じられた。伊達に元の世界で大量のオーファンを狩ってきたわけではない。
彼らは体躯に似合わず俊敏さでアスファルトの空間を僅かに揺らす。
だが、なつきにはまだ余裕の表情が感じられた。伊達に元の世界で大量のオーファンを狩ってきたわけではない。
「デュラン!」
彼女の掛け声と共に、悪魔へとまっすぐに突撃するデュラン。オーファンは左の爪でこれを切り裂こうとする。
だが、それはデュランのフェイント。忠犬は進路を直角に変更し、大降りの攻撃をなんなく回避する。
今のオーファンは無防備な状態だ。なつきの二挺拳銃、ER/ELはそれを見逃さない。
即座にターゲットの全身にエレメントの弾丸が叩き込まれた。
だが、それはデュランのフェイント。忠犬は進路を直角に変更し、大降りの攻撃をなんなく回避する。
今のオーファンは無防備な状態だ。なつきの二挺拳銃、ER/ELはそれを見逃さない。
即座にターゲットの全身にエレメントの弾丸が叩き込まれた。
娘を見守るむつみは思う。このような連係プレイは一朝一夕で築けるものではない。
デュランとの絆はあの子にとっての貴重な財産だ。だが、それだけで勝てるほどこの模擬戦は甘くない。
デュランとの絆はあの子にとっての貴重な財産だ。だが、それだけで勝てるほどこの模擬戦は甘くない。
悪魔は銃弾を食らいながらも悠然と体勢を整え、なつきに向かってゆっくりと歩き始めた。
悪魔に目立った外傷はなく、細かな傷はあっという間に修復される。
悪魔に目立った外傷はなく、細かな傷はあっという間に修復される。
なつきに僅かに焦りの色が生まれる。バックステップを繰り返し、ひたすら銃弾を浴びせかける。
装甲の弱い場所を探り、狙い撃ちしたいのだろう。しかし、それには技量が足りていない。
装甲の弱い場所を探り、狙い撃ちしたいのだろう。しかし、それには技量が足りていない。
むつみは迷う。やはり、自分の手で娘に戦闘技術を指導すべきなのか。
だが、教えてよいのか、血を血で洗ってきた自分が。平和に育ってきたあの子に。
あの子には何が何でも生き抜いて欲しいと。ただ、躊躇いがないと言えば嘘になる。
だが、教えてよいのか、血を血で洗ってきた自分が。平和に育ってきたあの子に。
あの子には何が何でも生き抜いて欲しいと。ただ、躊躇いがないと言えば嘘になる。
オーファンの足取りは次第に加速していく。だが、デュランはギャロップ走法。
全身をバネにし四足を浮かせ、コンクリの大地を走り抜ける。敵より早く主人の元へと駆け戻った。
全身をバネにし四足を浮かせ、コンクリの大地を走り抜ける。敵より早く主人の元へと駆け戻った。
「チャージ・ゴールドマテリア!」
なつきの命令を聞き、肩の砲身を標的に向けるデュラン。
これは雷撃弾の発射準備、本人のエレメントよりも威力は上だ、上なのだが。
駄目、それは罠よ。むつみは娘にそう叫びたくなるのをぐっと堪える。
これは雷撃弾の発射準備、本人のエレメントよりも威力は上だ、上なのだが。
駄目、それは罠よ。むつみは娘にそう叫びたくなるのをぐっと堪える。
オーファンが左手を振りかざすと、デュランは2mほど吹き飛ばされた。
オーファンの眼前に光の障壁が現れ、雷撃をそっくりそのまま反射したのだ。
オーファンの眼前に光の障壁が現れ、雷撃をそっくりそのまま反射したのだ。
「デュランっ!」
なつきの案ずる声を聞き、チャイルドはよろけながらも何とか立ち上がる。
そして、跳躍し、間近に迫るオーファンと爪と爪とをぶつけ合う。
なつきは肉弾戦の合間を縫って必死に射撃を行っている。だが、足止めにもならず焼け石に水。
そして、跳躍し、間近に迫るオーファンと爪と爪とをぶつけ合う。
なつきは肉弾戦の合間を縫って必死に射撃を行っている。だが、足止めにもならず焼け石に水。
「実弾ならどうだ。デュラン、チャージ・クロームマテリア!」
――模擬戦の終わりまで、残り25分21秒。
・◆・◆・◆・
「反射攻撃とか結構えぐいことするねえ、悪者くん」
碧はデュランが己の機銃射撃をギリギリ回避したのを見届けると、那岐に皮肉をぶつけた。
「碧ちゃん、その言い方はちょっと傷つくなあ。今の僕は改心して君達の味方だよ」
彼女はハルバード、青天霹靂を横薙ぎ。那岐は垂直に跳躍してこれをやり過ごす。
彼女は武器を逆に持って振り回している。幾ら死なないとは言え、仲間を刃物で切りつけたくないのかもしれない。
一方、那岐と言うと、日本刀、おそらくエレメントと同質の武器を召喚しで碧の棒術を捌いていた。
確かに武器を当てさえすればHiME側の勝利だ。だが、彼女は普段と異なる武器の扱いで、
ハルバードの持つリーチのアドバンテージを相殺してしまっている。
彼女は武器を逆に持って振り回している。幾ら死なないとは言え、仲間を刃物で切りつけたくないのかもしれない。
一方、那岐と言うと、日本刀、おそらくエレメントと同質の武器を召喚しで碧の棒術を捌いていた。
確かに武器を当てさえすればHiME側の勝利だ。だが、彼女は普段と異なる武器の扱いで、
ハルバードの持つリーチのアドバンテージを相殺してしまっている。
むつみは考える。碧は表面では好戦を取り繕っているものの、
やよいと同じくらい、下手するとそれ以上に殺人を忌避しているのではないか。
もしかすると、戦場でその甘さを突かれ、取り返しのつかないことが起こるかもしれない。
ただ、この甘さこそが杉浦碧の強さでもあるのだ。ここは見守るしかないのだろう。
やよいと同じくらい、下手するとそれ以上に殺人を忌避しているのではないか。
もしかすると、戦場でその甘さを突かれ、取り返しのつかないことが起こるかもしれない。
ただ、この甘さこそが杉浦碧の強さでもあるのだ。ここは見守るしかないのだろう。
「だってさ、今の那岐くんの顔、すっごく、悪そうじゃん」
「そりゃ、君達には強くなって貰わないと困るからね。君達を30分間もコーチするには結構悪知恵がいるんだよ」
「そりゃ、君達には強くなって貰わないと困るからね。君達を30分間もコーチするには結構悪知恵がいるんだよ」
唐突に俄かに沸き起こるつむじ風。そして、彼は碧の眼前から姿を消した。
「え、え……瞬間移動?」
とっさに後ろ回し蹴りを放つ碧。されど空を切る。
「この程度の距離で30分に1回が限界か。制限ってのは厄介だねえ」
那岐の誰にも聞こえないような小声の呟き。これもむつみの集音マイクに取り込まれた。
少年の移動先は深優の待機する側の柱の影だ。その近くでは、愕天王がもう一体のオーファンを追い回していた。
柱という障害物のせいで走りがどうしてもぎこちなくなる。
かと言って、木々のように吹き飛ばすわけにも行かない。そんなことをすれば天井ごと崩れてしまう。
柱という障害物のせいで走りがどうしてもぎこちなくなる。
かと言って、木々のように吹き飛ばすわけにも行かない。そんなことをすれば天井ごと崩れてしまう。
「にゃろ~、いたいけな乙女を騙すなんて、やってくれるじゃん」
碧はやっと那岐の居場所に気づき、視線を向ける。
だがもう遅い。彼は刀を振り下ろし、愕天王の後ろ右足に衝撃波を浴びせかけた。
ただでさえ無理な体勢のチャイルドは足を挫いて豪快に転倒。轟音が駐車場全体を揺り動かす。
その刹那、逃げ腰から一転、踵を返すオーファン。跳躍し、相手の喉元を抉り取ろうとする。
だがもう遅い。彼は刀を振り下ろし、愕天王の後ろ右足に衝撃波を浴びせかけた。
ただでさえ無理な体勢のチャイルドは足を挫いて豪快に転倒。轟音が駐車場全体を揺り動かす。
その刹那、逃げ腰から一転、踵を返すオーファン。跳躍し、相手の喉元を抉り取ろうとする。
「愕天王、戻って!」
碧はすばやく愕天王を召『還』、非実体化する。これはチャイルドと離れていても可能な緊急避難。
ただし、召喚する場所はHiMEの間近に限定される。ゆえに奇襲のためにはあまり使えない。
ただし、召喚する場所はHiMEの間近に限定される。ゆえに奇襲のためにはあまり使えない。
「10分経過。模擬戦に参戦します」
深優からの救いの声だ。中央手前に控えていた彼女が走りこむ。
先ほどの獲物を失ったオーファンは、代わりにこのアンドロイドを迎え撃とうとする。
先ほどの獲物を失ったオーファンは、代わりにこのアンドロイドを迎え撃とうとする。
那岐はなつきのいる方向に走りながら、取り残された碧へと声をかける。
「で、碧ちゃんもなつきちゃんを助けに行った方がいいんじゃない?
殺すつもりはないけど、骨の一本や二本折れたくらいなら簡単に治療できるからね」
「でもねぇ、君の思い通りに振り回されてるようで、なんか気に食わないのよねー」
殺すつもりはないけど、骨の一本や二本折れたくらいなら簡単に治療できるからね」
「でもねぇ、君の思い通りに振り回されてるようで、なんか気に食わないのよねー」
碧は首を左手側に向ける。一人と一匹はオーファンに壁際まで追い詰められていた。
特にデュランは深い手傷を負ったらしく、立っているのがやっとのようだ。
特にデュランは深い手傷を負ったらしく、立っているのがやっとのようだ。
「そう言っても行くんでしょ。僕が先に着いたちゃったらどうなるかな?」
「へーんだ、後で3倍にして返しちゃうから、いいもーん」
「へーんだ、後で3倍にして返しちゃうから、いいもーん」
碧は子供じみた捨て台詞を吐き、なつきの元へ加速する。
既に悪魔の口には灼熱が吹き零れ、今にも一人と一匹を焼き尽くそうとしていた。
既に悪魔の口には灼熱が吹き零れ、今にも一人と一匹を焼き尽くそうとしていた。
「間に合え――っ!」
槍投げの要領でヘヴィ級のハルバードを投擲。エレメントは所持者にだけ軽いという性質を持つため可能な芸当である。
そして、再び進路を変えずに疾走。傍らでは先が読めたと呟くむつみ。
そして、再び進路を変えずに疾走。傍らでは先が読めたと呟くむつみ。
オーファンは気配を感知して光の障壁を形成、エレメントを反射する。
だが、碧はハルバードが迫る直前、エレメントを解除。再生成して、更に投擲!
だが、碧はハルバードが迫る直前、エレメントを解除。再生成して、更に投擲!
オーファンは咄嗟に障壁を再展開してしまった。障壁内は業火の奔流に飲み込まれる。
高熱の吐息をこれ以上、体内に押し留めることができなかったのだ。
悪魔は溜まらず、障壁を解除する。その刹那、3発目の投擲が喉元目掛けて飛来する。
咄嗟に身をかがめるも顎に刃が突き刺さる。無表情な悪魔は初めて、声なき苦痛の叫びを上げた。
高熱の吐息をこれ以上、体内に押し留めることができなかったのだ。
悪魔は溜まらず、障壁を解除する。その刹那、3発目の投擲が喉元目掛けて飛来する。
咄嗟に身をかがめるも顎に刃が突き刺さる。無表情な悪魔は初めて、声なき苦痛の叫びを上げた。
「ブルーマンキー、かまぁ~ん」
碧は手の先でくいくいっと挑発する。
――模擬戦の終わりまで、残り18分59秒。
・◆・◆・◆・
「迎撃します」
深優のエレメントはエンジェルフェザー。アリッサ・シアーズのそれと酷似している。
最大の違いは、アリッサは背中に翼を生やすのに対し、彼女は手に掛ける形であることか。
最大の違いは、アリッサは背中に翼を生やすのに対し、彼女は手に掛ける形であることか。
深優は光の翼から十数枚の羽を射出。羽はオーファンの頭上をハゲタカのように回り始める。
悪魔は炎でこれを焼こうとするも、スルリと躱されてしまう。
オーファンはついに諦め、彼女に突撃しようとする。
悪魔は炎でこれを焼こうとするも、スルリと躱されてしまう。
オーファンはついに諦め、彼女に突撃しようとする。
その時、悪魔の背後で一枚の羽が急降下する。当然のように光の障壁で反射。
だが、角度と距離の関係で深優までは届かない。コンクリに着弾し、爆音。半径8cm強の浅いクレーターが発生する。
だが、角度と距離の関係で深優までは届かない。コンクリに着弾し、爆音。半径8cm強の浅いクレーターが発生する。
エレメントの破壊力は衛宮士郎と、いや、吾妻玲二と戦った頃よりも明らかに向上している。ここ数日での精神的成長が影響しているのか。
ただ、ここまで威力があるとなると、彼女は単独行動させるのがベターかもしれない。
ただ、ここまで威力があるとなると、彼女は単独行動させるのがベターかもしれない。
天使の羽は速度とタイミングを少しずつ変えながら、次から次へと落下していく。
オーファンは障壁を張り続け、全弾を乱反射する。蛍光灯は割れ、破損したパイプから水蒸気が噴出す。
だが、光の羽は深優によって絶えず供給される。すでにオーファンは籠の中の鳥と化していた。
オーファンは障壁を張り続け、全弾を乱反射する。蛍光灯は割れ、破損したパイプから水蒸気が噴出す。
だが、光の羽は深優によって絶えず供給される。すでにオーファンは籠の中の鳥と化していた。
「障壁の解析が完了しました」
障壁で無秩序に反射される光の羽。オーファンの傍のミニバンは既に原形を留めていない。
だが、深優はその嵐の中にゆっくりと近づいていく。
彼女は羽を必要最小限の動きで回避、もしくは光の翼で切り払う。
そして障壁に接触。光の壁は遠距離攻撃専用らしく、彼女の肉体をそのまま透過する。
だが、深優はその嵐の中にゆっくりと近づいていく。
彼女は羽を必要最小限の動きで回避、もしくは光の翼で切り払う。
そして障壁に接触。光の壁は遠距離攻撃専用らしく、彼女の肉体をそのまま透過する。
彼女は障壁内部で光の翼を振り回し、身動きの取れない悪魔を切り刻んでいく。
鈍いうなり声を上げるオーファン、たまらず障壁を解除する。間を置かず、羽が一斉に襲い掛かり、小爆発を起こした。
鈍いうなり声を上げるオーファン、たまらず障壁を解除する。間を置かず、羽が一斉に襲い掛かり、小爆発を起こした。
――模擬戦の終了まで、残り14分00秒。
・◆・◆・◆・
碧のハルバード投擲はオーファンに通用しなくなってきた。悪魔は両腕を使って確実にエレメントを弾き落とす。
「くっ~、猿だけに猿知恵をつけるとは、小癪なヤツめ!」
いや、逆だ。碧自身が偽りの成功経験に欺かれていたのだ。むつみは心の中で突っ込みを入れる。
なぜ、那岐はあの三連投を阻止しなかったのか。その裏を読まなければいけない。
なぜ、那岐はあの三連投を阻止しなかったのか。その裏を読まなければいけない。
碧は右足に力を蓄えて跳躍、悪魔の首筋に驚速の突きを放つ。
オーファンはそれより一寸早く、ハルバードを掴み取った。そのまま力任せに彼女を石床に叩きつけようとする。
速やかに碧はハルバードを消去、空中で後方転回し衝撃を緩和する。
だが、着地の刹那、太股の柔肌を弾丸が掠め、突然の激痛に碧は体勢を崩した。
オーファンはそれより一寸早く、ハルバードを掴み取った。そのまま力任せに彼女を石床に叩きつけようとする。
速やかに碧はハルバードを消去、空中で後方転回し衝撃を緩和する。
だが、着地の刹那、太股の柔肌を弾丸が掠め、突然の激痛に碧は体勢を崩した。
「わ、ヤバッ」
ハルバードを地に突き立て何とかバランスを取る。だが、オーファンは手近のハーレーを高く持ち上げる。
彼女は愕天王の時のように、自分自身を召還して避けることはできまい。このままでは避けられない。
確かに、このバイクはエンジンなどの内部部品が存在せず、見た目よりは軽いかもしれない。
それでも、これを食らってしまえば、あばら骨の粉砕は確定コースだ。
彼女は愕天王の時のように、自分自身を召還して避けることはできまい。このままでは避けられない。
確かに、このバイクはエンジンなどの内部部品が存在せず、見た目よりは軽いかもしれない。
それでも、これを食らってしまえば、あばら骨の粉砕は確定コースだ。
オーファンが鉄塊を投げつける。碧はハルバードを軸に遠心力で左に飛ぶ。コンクリを直撃するハーレー。辛うじて惨事を免れた。
むつみは安堵の息をつく。那岐はこれも計算済みということか。彼は風華学園の頃からHiMEの戦いを飽きるほど見ている。
対して、三人は那岐の力について殆ど知らない。情報のアドバンテージはなつき達が考えるよりも大きい。
むつみは安堵の息をつく。那岐はこれも計算済みということか。彼は風華学園の頃からHiMEの戦いを飽きるほど見ている。
対して、三人は那岐の力について殆ど知らない。情報のアドバンテージはなつき達が考えるよりも大きい。
フレンドリーファイアーの元凶であるなつきは、碧から左25mほど離れた場所で、沈んだ声で詫びを入れる。
「碧、すまない」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。でも、これからは気をつけてよ」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。でも、これからは気をつけてよ」
碧は明るく答える。ただ、目はあまり笑っていない。
「なつきちゃん、自分の心配をした方がよいんじゃないかな」
那岐が指をはじく、なつきの右手に刻まれる浅い裂傷。彼女は思わず左手で抑える。少年は容赦なく、真空の刃、第二波を飛ばしてくる。
その時、彼女の視界を巨大な尻尾が覆い、高い音と共に鎌鼬をはじき返す。愕天王だ。
現在、デュランは満身創痍で、回復のために召還、実体化を解かれている。代わりに彼女を守っているのが碧のチャイルドだ。
もし、巨獣の守りがなければ、なつきは集中砲火を浴びて戦線離脱していただろう。
その時、彼女の視界を巨大な尻尾が覆い、高い音と共に鎌鼬をはじき返す。愕天王だ。
現在、デュランは満身創痍で、回復のために召還、実体化を解かれている。代わりに彼女を守っているのが碧のチャイルドだ。
もし、巨獣の守りがなければ、なつきは集中砲火を浴びて戦線離脱していただろう。
愕天王はそのまま勢いをつけて鋼鉄の尾を振り回す。副産物の風圧だけでなつきの髪は激しくなびく。
那岐は垂直に飛び越える。だが、行ったものは必ず戻ってくる。チャイルドは彼の着地の瞬間を狙い、尻尾を命中させようとするも――
那岐は垂直に飛び越える。だが、行ったものは必ず戻ってくる。チャイルドは彼の着地の瞬間を狙い、尻尾を命中させようとするも――
――しかし、那岐は落ちてこない。彼は重力法則を無視して、空中に止まっていた。印を結んで僅かに唇を動かす。
なつきは銃で彼を狙おうとする。だが、チャイルドが死角となって照準を絞れない。
那岐もまた、愕天王を利用しているわけだ。なつきと愕天王、即興コンビではこうなるのも仕方がない。
なつきは銃で彼を狙おうとする。だが、チャイルドが死角となって照準を絞れない。
那岐もまた、愕天王を利用しているわけだ。なつきと愕天王、即興コンビではこうなるのも仕方がない。
那岐の掌に集まる赤・緑・白・黒の四色のエネルギー。これを凝縮し、球体のかたちで愕天王に投げつける。
超重量の巨漢は激しく振動し、僅かに後退。一時的に身体の自由を奪う。
超重量の巨漢は激しく振動し、僅かに後退。一時的に身体の自由を奪う。
「こいつは技のバラエティーストアか。幾つ奥の手を隠し持っている!?」
那岐は自然落下しながら、にやけ顔でなつきの呟きを聞いている。なつきは愕天王の盾から飛び出して、二挺拳銃を連射。
彼は文字通り、滑るように後退、あっさりと攻撃を避ける。
彼は文字通り、滑るように後退、あっさりと攻撃を避ける。
「お前はいい加減、そのふざけた態度を止めろ」
「はは、そりゃ、無理だよ。だって、僕は君たちが全力を出せないように戦っているんだから」
「それじゃ、トレーニングにはならないだろう」
「はは、そりゃ、無理だよ。だって、僕は君たちが全力を出せないように戦っているんだから」
「それじゃ、トレーニングにはならないだろう」
那岐はこれまでにない邪悪な笑みで答える。
「あれ、トレーニングなんて言ったっけ。これは模擬戦なんだよ。まさか、あの一番地の連中が気持ちよく戦わせてくれると思ってるのかい?」
彼の言葉にひとつ付け加えれば、敵は自分に有利な環境を作ってくると言うことか。
むつみは盗聴のジャミングを準備をしている時に、那岐からちょっとした話を小耳に挟んでいた。
むつみは盗聴のジャミングを準備をしている時に、那岐からちょっとした話を小耳に挟んでいた。
彼は箱庭世界の制限せいで、オーファンの使役と鬼道の両立は困難らしい。
素では1~2体のオーファンと刀を駆使するか、鬼道に神経を集中するかを選ぶしかない。
そこで、那岐は一番地の盗撮阻害の術と一緒に自己強化の式を組み込むことにした。
これにより、これでホテルの中では比較的自由にオーファンを扱うことができるとのこと。
ただ、それでも霊力の消耗は避けられないわけで。30分制限バトルにしたのもそのためである。
素では1~2体のオーファンと刀を駆使するか、鬼道に神経を集中するかを選ぶしかない。
そこで、那岐は一番地の盗撮阻害の術と一緒に自己強化の式を組み込むことにした。
これにより、これでホテルの中では比較的自由にオーファンを扱うことができるとのこと。
ただ、それでも霊力の消耗は避けられないわけで。30分制限バトルにしたのもそのためである。
那岐となつき達の距離がどんどん開いていく。なつきの足では追いつけない。愕天王はまだ動けない。
「待て、逃げ回るつもりか」
「いやあ、深優ちゃんの相手は僕じゃなきゃ、役者不足みたいだから」
「いやあ、深優ちゃんの相手は僕じゃなきゃ、役者不足みたいだから」
那岐が右手を前に出し、俄かに放たれる半透明の衝撃波。彼の背丈ほどの長方形が猛スピードでなつきに迫ってくる。
「この技も神崎黎人は使えるからね。これ、テストに出るよ」
なつきは迎撃するも壁の勢いは止まらない。かと言って、下手に避ければ更なる追撃を食らって戦線離脱だ。
娘はこの瞬間、何を想い、何を感じているのだろうか。むつみがそう思った刹那、眼前に突然現れる鋼鉄の狼。
娘はこの瞬間、何を想い、何を感じているのだろうか。むつみがそう思った刹那、眼前に突然現れる鋼鉄の狼。
――チャージ・シルバーマテリア。
なつきの愛しい子は自身の意思で氷の弾丸を放ち、衝撃波を相殺。爆発と共に巻き上がる白煙と氷片。
そう、デュランはなつきの召喚プロセス無しで実体化できるのだ。
そう、デュランはなつきの召喚プロセス無しで実体化できるのだ。
「デュラン、もう大丈夫なのか?」
忠犬の本調子とはいえないが覇気のある鳴き声が聞こえる。
両者は一蓮托生。HiMEの想いの力が強ければ、チャイルドの再生力も高くなる。
ただ、代わりになつきに多少疲れの色が見られる。ちっぽけな代価、この会場の制約か。
両者は一蓮托生。HiMEの想いの力が強ければ、チャイルドの再生力も高くなる。
ただ、代わりになつきに多少疲れの色が見られる。ちっぽけな代価、この会場の制約か。
白煙が収まり、視界が晴れた時、なつきとデュランの眼前に裂傷だらけで、肉が剥き出しの青い悪魔が立ちはだかっていた。
でも、これは好機。さあ、反撃開始よ。
――模擬戦の終了まで、残り10分30秒。
・◆・◆・◆・
那岐はバスの陰から少しだけ身を乗り出す。光の羽は彼に一斉に照準を向けてくる。
慌てて頭を引っ込めると、バンパーの数箇所に細い穴が開いた。深優は余裕ある表情で警告する。
慌てて頭を引っ込めると、バンパーの数箇所に細い穴が開いた。深優は余裕ある表情で警告する。
「逃げてばかりの防戦一方では先が続きませんよ」
「んー、じゃあ、そろそろ覚悟を決めますか」
「んー、じゃあ、そろそろ覚悟を決めますか」
那岐は左手に四色のエネルギー球を握り締め、身を低くして深優に向かって走り始めた。
疾走は疾風と共にあり、そこから弾け飛ぶ風の刃。間断なく光の羽を叩き落していく。
疾走は疾風と共にあり、そこから弾け飛ぶ風の刃。間断なく光の羽を叩き落していく。
羽は残り9、8、7、6――
那岐は羽から放たれるレーザーをジグザグに動きながら巧みに避けていく。
だが、彼女の砲台はそれだけではない。エンジェルフェザー本体から4本の光の帯が発射される。那岐は左手を前に出し、エネルギー弾を蜘蛛の巣のようなバリアとして展開。
四色の光はレーザーを分解する。これで保険は尽き果てた。
だが、彼女の砲台はそれだけではない。エンジェルフェザー本体から4本の光の帯が発射される。那岐は左手を前に出し、エネルギー弾を蜘蛛の巣のようなバリアとして展開。
四色の光はレーザーを分解する。これで保険は尽き果てた。
5、4、3、4、3、4――
深優による羽の創造は那岐による破壊と拮抗する。膠着状態になり、ついに前進を止める那岐。
そして、翼から更なるレーザー。今度は8本。続けて羽からも光線が一斉掃射される。
そして、翼から更なるレーザー。今度は8本。続けて羽からも光線が一斉掃射される。
しかし、深優の攻撃は一発も当たらなかった。彼はそこにはいなかったから。
那岐は深優の後方、20mの位置に出現していた。つまりはテレポート。
連続で30分間は使えないという呟きは、彼女を欺くための嘘だった訳だ。
とは言え、連発できないのは真実だろう。おそらくは10分間隔か。
那岐は深優の後方、20mの位置に出現していた。つまりはテレポート。
連続で30分間は使えないという呟きは、彼女を欺くための嘘だった訳だ。
とは言え、連発できないのは真実だろう。おそらくは10分間隔か。
予想外の事態に一瞬、対応の遅れる深優。那岐は複雑な印を高速で結び始める。
那岐の全身から肉眼でも認識できるほどの霊力が放射される。ただならぬ予感、これは今までの術とは違う。
那岐の全身から肉眼でも認識できるほどの霊力が放射される。ただならぬ予感、これは今までの術とは違う。
「そうそう、君に良いことを教えてあげようか。君の父親、ジョセフ・グリーアに手を下したのは僕さ。背中に刃をぐいっと押し込んで……」
深優は首を俯き怪訝に下げる。その表情は曇り、はっきりと見えなくなる。
彼女は射出中の羽を全て消去した。光の翼本体にHiMEの力が集中し、輝きが一層増す。
彼女は射出中の羽を全て消去した。光の翼本体にHiMEの力が集中し、輝きが一層増す。
那岐は両手から、紅の灼熱の突風が解き放たれる。それはまるでカグツチの高熱の吐息のようだった。
深優は両翼を重ね合わせ1本のレーザーを放つ。眩き光は那岐の業火と正面衝突する。
火勢はますます強まり、コンクリートの表面は溶解する。この熱気は遠く離れたむつみにまで伝わってくる。
むつみは鎮火スイッチに指をわずかに触れ、そしてすぐに離す。
深優は両翼を重ね合わせ1本のレーザーを放つ。眩き光は那岐の業火と正面衝突する。
火勢はますます強まり、コンクリートの表面は溶解する。この熱気は遠く離れたむつみにまで伝わってくる。
むつみは鎮火スイッチに指をわずかに触れ、そしてすぐに離す。
深優の力はそれ以上だった。業火は光線を押し切ることが出来ず、徐々に後退し始めた。にも関わらず、不敵な笑みを浮かべる那岐。
「君の攻撃、そのまま利用させてもらうよ」
実は那岐は碧側で暴れていたオーファンを召還し、印を結ぶ直前に傍に召喚していた。
彼は灼熱の印を解き、それと同時にオーファンはレーザーに向けて手を翳す。
光の障壁は展開され、深優の攻撃を反射する。
彼は灼熱の印を解き、それと同時にオーファンはレーザーに向けて手を翳す。
光の障壁は展開され、深優の攻撃を反射する。
普段の深優なら、この時点で攻撃を回避しに掛かっただろう。無論、それでも余波で相当なダメージを食らう。
そして、弱ったところを攻撃して、気絶させればよい。那岐もそう踏んでいただろう。
そして、弱ったところを攻撃して、気絶させればよい。那岐もそう踏んでいただろう。
だが、深優はそれを選ばなかった。一歩も動かず、反射するレーザーを更なる出力で圧倒するという暴挙に出た。
ただのレーザーではなく、エレメントからの光線だからこそ出来る芸当。しかしそれでも無謀だ。
ただのレーザーではなく、エレメントからの光線だからこそ出来る芸当。しかしそれでも無謀だ。
直前に、瞬間移動のことで嘘をつかれたことの不信感から、あくまで正面突破を選んだのか
事の真偽はともかくジョセフ・グリーアを挑発材料に使ったことへの怒りか
怒りから湧き上がる力を前に、その感情の溢れるままにしているのか
光の翼から注がれる光線は輝きを増す。帯の幅も太くなっていく。那岐はオーファンに力を注ぎ込むのだが、
「ははは、これ、ヤバイかも」
慌てて、レーザーの射線から逃れる那岐。その刹那、オーファンの左腕は左わき腹ごと吹き飛んだ。
おまけに、その先にあった外壁を貫き、数十メートル先まで大きな丸い穴が開いている。
おまけに、その先にあった外壁を貫き、数十メートル先まで大きな丸い穴が開いている。
「ふぅ、危ない、危ない、激情の力ってのはやっぱり強烈だねえ。ご苦労様、暫く休んでいてくれ」
那岐はオーファンをそっと撫で、今後こそ本当に、戦場から送還した。
もしも、オーファンが万全の状態なら、それでも反射できたかもしれない。
だが、悪魔を消耗させたのもHiME。それもまた連係プレーだ。彼は深優の方を向き、申し訳なさそうな表情で語る。
もしも、オーファンが万全の状態なら、それでも反射できたかもしれない。
だが、悪魔を消耗させたのもHiME。それもまた連係プレーだ。彼は深優の方を向き、申し訳なさそうな表情で語る。
「ごめん、さっきのは嘘だよ。一番地ならそれ位の挑発はやるってことで、敢えて君を怒らせたんだ」
「いえ、こちらも冷静さに欠けていました。もし、あれが真実だとしたら、
ここでわざわざ不信を煽るようなことを暴露するのは、合理的な判断とは思えませんから」
「いえ、こちらも冷静さに欠けていました。もし、あれが真実だとしたら、
ここでわざわざ不信を煽るようなことを暴露するのは、合理的な判断とは思えませんから」
深優は構えを解きながら、冷めた声で返答する。那岐はちょっと怯えた様子を見せながら、
「おお、怖いねえ。でも、だからこそ、君には吾妻玲二に近づける可能性があるんだよね」
「玲二に、近づく……?」
「玲二に、近づく……?」
彼女は表情を一転、那岐に好奇の目を輝かせる。那岐はゆっくり歩きながら言葉を続ける。
「強い憎しみや窮地での生存本能、そして、愛する人を守ろうとする気持ちは強い力を与える。
深優ちゃんもこの戦いで、そういうのをたくさん見てきたでしょ。
でも、それに囚われすぎて力を持て余すケースが多いんだよね。
技が大降りになったり、攻撃がワンパターンになったり。それから、君のようになったりする」
深優ちゃんもこの戦いで、そういうのをたくさん見てきたでしょ。
でも、それに囚われすぎて力を持て余すケースが多いんだよね。
技が大降りになったり、攻撃がワンパターンになったり。それから、君のようになったりする」
深優はその場に膝をつく。先ほどの攻撃で、全身のエネルギーを使い果たしてしまったようだ。
那岐は再びあの刀を実体化し、彼女を見下ろしながら話す。
那岐は再びあの刀を実体化し、彼女を見下ろしながら話す。
「確かに、如月双七は本来の肉体スペック以上の力を発揮していたように思えます」
「僕なんかは全然駄目なんだけどね。特別な才能みたいなものが必要らしいんだ。
でも、機械から人の心を手に入れた君には、その資質はあるんじゃないかと思う。まっ、何回もHiME同士の戦いを見てきた僕の直感さ」
でも、機械から人の心を手に入れた君には、その資質はあるんじゃないかと思う。まっ、何回もHiME同士の戦いを見てきた僕の直感さ」
那岐は刀から衝撃波を放ち、深優を気絶させる。その直後、彼は僅かによろめき、慌ててバランスを取る。
「そういう僕も結構、力を使っちゃったかな。制限時間までもつかちょっと不安かも」
――模擬戦の終了まで、残り4分23秒。
・◆・◆・◆・
「あー、びっくらこいたー。下手すりゃ、カジノ倒壊してたねー」
「オーファンはまだ残っている、ボケっとしていると痛い目を見るぞ」
「オーファンはまだ残っている、ボケっとしていると痛い目を見るぞ」
いち早く我に帰ったなつきは、深優たちの戦いに魅入った碧を軽く諌める。
「んじゃ、あたしらもサクッといこうか、サクッと」
那岐がオーファンを盾代わりに消耗した今、残りは傷だらけのオーファン一体。片付けるのは今がチャンスだ。
勝負を長引かせて、また再生されたら堪らない。
勝負を長引かせて、また再生されたら堪らない。
愕天王はオーファンをコーナー隅まで追い詰めることに成功していた。閉所での爆走にも多少慣れてきたようだ。
青い悪魔は切羽詰り、軽自動車を樽転がしの要領で投げ飛ばす。鋼の凶器は狂ったように弾み、跳ねてくる。
愕天王は鉄塊を角で貫通、そのまましゃくり上げて防御。オーファンは巨獣の角が封印されたのを見て、喉元を引き裂こうとする。
青い悪魔は切羽詰り、軽自動車を樽転がしの要領で投げ飛ばす。鋼の凶器は狂ったように弾み、跳ねてくる。
愕天王は鉄塊を角で貫通、そのまましゃくり上げて防御。オーファンは巨獣の角が封印されたのを見て、喉元を引き裂こうとする。
「今だ、デュラン。チャージ・フラッシュマテリア!」
デュランの砲身が火を噴く。だが、弾丸はオーファン自身ではなく、愕天王の背中に命中する。
実はこれは閃光弾。オーファンは強烈な光に身悶えし、チャイルドから離れて闇雲に腕を振り回す。
愕天王は突き刺さった鉄板をふるい落とし、オーファンに突撃。
実はこれは閃光弾。オーファンは強烈な光に身悶えし、チャイルドから離れて闇雲に腕を振り回す。
愕天王は突き刺さった鉄板をふるい落とし、オーファンに突撃。
「いざ、いざいざいざいざ~~とっ、かぁーん」
碧はいつの間にか愕天王の上で、威勢よく声を張り上げる。
オーファンを角と壁で挟み込む。衝撃で空間が震え、コンクリに細かい亀裂が入る。
オーファンを角と壁で挟み込む。衝撃で空間が震え、コンクリに細かい亀裂が入る。
「チャージ・クリムゾンマテリア!」
デュランは身じろぎできないオーファンに灼熱弾を食らわす。この至近距離では障壁を張ることすら出来ない。
悪魔の断末魔の咆哮。刹那、オーファンは雲散霧消する。那岐が消滅する前に慌てて召還したようだ。
悪魔の断末魔の咆哮。刹那、オーファンは雲散霧消する。那岐が消滅する前に慌てて召還したようだ。
「よっしゃーッ!」
碧はタメのあるガッツポーズを取る。なつきは額の汗をぬぐって深く息を吐く。
だが、これで勝敗が決まったわけではない。肝心の那岐に攻撃を当てなければいけない。
だが、これで勝敗が決まったわけではない。肝心の那岐に攻撃を当てなければいけない。
――模擬戦の終了まで、残り2分43秒。
召喚した二体のオーファンを失い、また自身も消耗している那岐。
対するHiME達はと言うと、力を使い果たした深優が脱落し、二人残っているとは言え満身創痍に近い碧となつき。
果たしてこの模擬戦の決着の行方は――……。
対するHiME達はと言うと、力を使い果たした深優が脱落し、二人残っているとは言え満身創痍に近い碧となつき。
果たしてこの模擬戦の決着の行方は――……。
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